8604 野村 2019-05-24 15:00:00
不適切な情報伝達事案にかかる調査結果と改善策の公表について [pdf]

              News Release

                                                  2019年5月24日
関 係各 位
                                         野村ホールディングス株式会社
                                                コード番号8604
                                               東証・名証第一部



       不適切な情報伝達事案にかかる調査結果と改善策の公表について


 先般、東京証券取引所で議論されている上位市場の指定基準および退出基準に関する情報につい
て、野村證券株式会社における情報伝達の過程で、市場の公正性・公平性確保の観点から不適切な
情報の取扱いがありました。
 お客様をはじめ、関係する皆様にご迷惑とご心配をおかけしましたことを、深くお詫び申し上げます。

 当社は本件を大変重く受け止め、事案解明に向けて内部調査を行うとともに、より客観的で深度ある
調査を実施するため、社外取締役が中核を担う監査委員会の傘下に、外部有識者による特別調査
チームを設置して調査を行ってまいりました。特別調査チームでは、関係者に対するインタビュー、各種
関連資料等の閲覧、検討および分析、関係部署を対象にした匿名アンケートなどの調査を行い、その
結果を報告書にとりまとめて監査委員会に報告しており(報告書の要旨は別紙1)、監査委員会では調
査結果を受けて本件の問題点について審議を重ねました。

 今般、取締役会において、監査委員会より特別調査チームの調査結果が報告され、報告書で提示さ
れた問題点について経営陣に迅速な対処が要請されました。これに対して経営陣は、報告書で提言さ
れた再発防止策をふまえ、以下の3点を柱とする改善策(別紙2)を取締役会に報告し、本日承認されま
した。
 I.    金融機関として社会が期待する役割に応える行動規範(「コード・オブ・コンダクト」)の考え方を
       浸透させ、自ら規律を維持・向上させる態勢の構築
 II.   健全な資本市場の発展に資する動機づけを組み込んだホールセール部門のエクイティ・ビジネ
       スにおける組織体制の見直し
 III. 法人関係情報に加え、投資判断に重大な影響を及ぼし得る非公知の情報を厳格に管理する態
       勢の整備

 今後は、改善策を着実に実行することにより、より一層の内部管理態勢の強化を図るとともに、お客
様をはじめ、関係する皆様からの信頼回復に全社をあげて努めてまいります。



                                                         以上


<お問合わせ先> グループ広報部       西脇、山下、江本、大津、辻内、小林、新玉 TEL:03-3278-0591
(別紙1)
                                                        2019年5月10日


                                                       特 別調査 チーム
                                                       弁護士 難波孝一
                                                       弁護士 菊地 伸
                                                       弁護士 熊谷真和
                                                       弁護士 髙橋 悠
                                                       弁護士 片山和紀



                特別調査チームによる報告書(要旨)


1.    事案の概要
    2019 年 3 月 5 日、東京証券取引所(以下「東証」)が設置した「市場構造の在り方等に関する懇談
会」1(以下「懇談会」)の委員を務める、野村総合研究所(以下「NRI」)の研究員(以下「NRI研究員」)か
ら、野村證券のリサーチ部門に所属するチーフストラテジスト(以下「ストラテジスト」)に対し、東証で議
論されている市場区分の見直しについて、上位市場の指定基準及び退出基準が時価総額 250 億円以
上とされる可能性が高くなっている旨の情報が伝達された。当該情報は、同日及び翌 6 日に、ストラテ
ジストから、野村證券及びNomura International (Hong Kong) Limited(以下「NIHK」)の日本株営業
担当の社員等に伝達され、さらに、情報を受領した一部の社員から顧客である一部の機関投資家に提
供された。


2.    調査の概要
(1)    調査の契機
       上記 1 の事案が一部報道機関に報じられ、2019 年 3 月 29 日の取締役会において本件につい
      て報告がなされた。監査委員会は、本件の重要性に鑑み、厳格な調査の実施が必要と判断し、傘
      下に外部有識者(森・濱田松本法律事務所 難波孝一 弁護士、菊地伸 弁護士、熊谷真和 弁護士
      ほか 2 名)による特別調査チームを設置し、調査を実施することとした。


(2)    調査の目的、方法及び期間
      ① 目的



1
    「市場構造の在り方等に関する懇談会」とは、東証が市場構造や関連する上場制度を巡る諸問
題やそれを踏まえた今後の在り方等を検討するため、2018 年 10 月 29 日に設置した有識者によ
る懇談会。
                                 2
       (ア) 関係者への事情聴取及び証拠の収集と分析
       (イ) 管理態勢の実態と問題点の分析
       (ウ) 本件における法的論点の有無の検討及び評価
       (エ) セールス活動において不適切な情報伝達が生じる根本原因の分析
       (オ) 再発防止に向けて改善を要する点の摘示
       (カ) その他本件対応に係る事項
     ② 調査の方法
       関係者に対するインタビュー、電子メールや通話録音の反訳(書き起こし)の分析、関連資料
       等の閲覧、検討及び分析、関係部署担当者を対象にした匿名アンケート結果の検証。
     ③ 調査実施期間
      2019 年 4 月 1 日から 28 日


3.   調査によって判明した事実等
 ① 野村證券と NRI の業務委託契約に基づき、NRI 研究員は野村證券からのセミナー講師等の依
     頼に対応していた。本件における NRI 研究員は、東証より懇談会の委員を委嘱されたものであ
     るが、東証の担当者による懇談会についてのブリーフィングの中で、指定基準と退出基準を同一
     とするとの考えを聞き、自らの認識と併せ考え、「上位市場の指定基準及び退出基準が時価総額
     250 億円以上とされる可能性が高くなっている」と判断し、2019 年 3 月 5 日、ストラテジストに市
     場構造の在り方に関するセミナー資料を送付する際、従前のセミナー資料の記載の変更部分の
     変更理由を説明する趣旨で、「ちなみに、東証とやり取りしていますと(中略)250 億円(現在の一
     部直接上場基準)に落ち着く可能性が高くなっているように感じます。(以下略)」と記載したメー
     ルを送付した。
 ② 上記メールを受信したストラテジストは、同日、従来から市場区分の見直しの議論に関心を示し
     ていた野村證券及び NIHK の社員 6 名と外部のファンド・マネージャー1 名の計 7 名に対して、
     「現時点の東証の意向は、上位市場の指定基準及び退出基準を 500 億円ではなく(現在の一部
     直接上場である)250 億円としたい模様。念のためですが、ご存じの通り、当方の情報源は非常
     に偏っています。単なる印象論に過ぎないという点、ご留意ください。」といった内容のメールを送
     付した。
 ③ ストラテジストは、翌 6 日には、「閾値 250 億円という目線が急浮上」という一行コメントを掲載し
     た、ストラテジストによる日次の情報提供メール(以下「ストラテジストのコメントメール」、メーリン
     グリストは国内機関投資家約 3000 件、海外機関投資家約 2000 件)を送付した。なお、ストラテ
     ジストは、②③のメールを発信することについて、NRI 研究員に伝えていなかった。
 ④ 3 月 5 日のメールを受信した NIHK 日本株営業チームの社員 1 名は、同日、ストラテジストに情
     報源を確認した上で、当該メールの内容から印象論に過ぎないという記載を削除し、更に情報源
     を追記して顧客 3 社にチャットで提供した。翌日、前日の 3 社も含む顧客 21 社にメールを送付し
     た。メールでの当該情報提供にあたり、時価総額 250 億円-500 億円の東証一部銘柄のリスト
     を添付し、「既に 500 億円という目線で売られているとしたら、買い戻される可能性があるかもし
     れません。」という文言を加えている。
                              3
 ⑤ 3 月 5 日のメールを受信した野村證券グローバル・マーケッツ営業二部(以下「GM 営業二部」)
     の社員 1 名は、同日、このメールを顧客に送付してよいかをストラテジストにメールで照会し、判
     断できないという回答を受けたにもかかわらず、追加的な確認をせずに、同内容を顧客 1 社に
     メール送付し、翌日別の 2 社に電話で伝えた。
 ⑥ 3 月 6 日のストラテジストのコメントを受信した別の GM 営業二部の社員 1 名は、同日、「ストラテ
     ジストコメント 市場構造改革 update。閾値 250 億円の目線が急浮上」、「250 億円から 500 億
     円までの時価総額のものは買い戻されるかもしれませんので、単純ではありますが、フィルタしま
     した」と記載、時価総額 250 億円-500 億円の東証一部銘柄のリストを添付して、担当顧客 7 社
     にチャットで共有した。また、別の顧客 2 社にも電話で同内容を伝えた。
 ⑦ 3 月 6 日以降、上場維持の時価総額基準について現行の 20 億円から 250 億円に引き上げを
     検討という日経新聞の報道があった 3 月 15 日までの期間において、市場区分変更の話題を顧
     客に伝え、250 億円に言及した社員は、前述の 3 名の社員のほか、4 名確認された。
 ⑧ なお、調査で実施した無記名の意識調査アンケート(以下「匿名アンケート」)では、本件の各関
     係者の行動に対して何らかの問題点を指摘し、容認できないとする意見が大半であったが、「(重
     要事実または法人関係情報に該当しないから)問題ない」と評価する意見が一部に見られた。
 ⑨ 以上のほか、3 月 5 日のメールを受信した GM 営業二部の社員 1 名は、同日、250 億円以下の
     銘柄のカスタムバスケット指数を作成するようにエクイティ・トレーディング部に依頼した。翌日の
     夕方に ticker が登録され、当該社員から GM 営業二部の営業社員に対してその商品について
     通知された(1 月 24 日に、同様の 1000 億円以下、500 億円以下の銘柄のカスタムバスケット指
     数が作成されている)。なお、250 億円以下の商品は、3 月 15 日に市場区分基準として 250 億
     円を軸に検討中との一部報道機関による電子報道がなされた直後から顧客の関心が示されるよ
     うになり、同日中に 1 件成約している。


4.   本件の問題点
 ① NRI 研究員は、東証と明文の守秘義務契約を締結していないとしても、懇談会の委員委嘱契約
     の内容として一定の守秘義務を負っているものと考えられる。NRI 研究員からストラテジストへの
     情報提供は、東証に対する守秘義務違反と評価しうるところであり、ストラテジストはこうした情報
     の提供を受けたものである。
 ② ストラテジストによる 2 回にわたるメール発信は、日本証券業協会のルールに基づき厳格な審査
     が必要なアナリスト・レポートには該当せず、社内の広告審査の対象からも外れており、両者に
     係る管理態勢の枠外に置かれていた。他方、本件で NRI 研究員から入手した情報は、アナリス
     トに関する社内規程に基づき上長への報告が必要な「重要情報」に該当する情報であったと考え
     られ、上長への報告及びその内容を他部署に伝達するに当たっては上長の承認を要するもので
     あったが、ストラテジストにはその認識がなく、上長への報告はなされていない。
 ③ ストラテジストによる 2 回のメール発信は、NRI 研究員の東証に対する守秘義務を全く考慮しな
     い行為である。また、ストラテジストは、懇談会委員である NRI 研究員がもたらす制度改正に関
     する未公表情報を含む情報を伝達したものであり、マーケット・プレイヤーとしての基本的なコー
     ド・オブ・コンダクト(以下「コンダクト」)が欠如している。
                              4
 ④ 2012 年増資インサイダー事案を契機に、セールスのコミュニケーション・ガイドラインが制定され、
     ファイナンスなどのコーポレート・アクションについては、自身の憶測や推測は話さないことなど、
     法人関係情報の提供と誤解されないための前広な禁止規定が定められており、これは営業社員
     によって厳格なルールとして受け止められ、遵守されている。他方、本件のようにこれに該当しな
     い重要な情報については何ら規定がなく、それゆえに、本事案の情報の伝達は問題ないと考え
     る者もいた。
 ⑤ 前述のコミュニケーション・ガイドラインに照らして考えれば、本件における顧客への情報伝達は、
     当該ガイドラインの趣旨に反するものであり、NRI 研究員からの情報であると認識できた営業社
     員は懇談会委員がもたらす制度改正に関する未公表情報を含む情報を営業に用いることの妥
     当性(公正さ)を考えるべきであるところ、こうしたことを自身で考えることなく、また、上長あるいは
     コンプライアンス担当者に相談することなく行動しており、マーケット・プレイヤーとしての基本的な
     コンダクトに対する意識が欠如している。
 ⑥ 前述のとおり、NRI 研究員からの情報取得、ストラテジストによるメール発信、セールスから顧客
     への情報発信やセールスによる情報の利用の各段階において、リサーチ部門やコンプライアン
     ス部門における管理体制の不備が認められることに加え、セールス部門における上長等による
     監督が不十分であった。特にストラテジストについては、2018 年 12 月に、自身が執筆したレ
     ポートに対する発行前の内容確認手続きに関する不満を、コメントメールに記載し、上長から厳し
     く注意を受けているが、その後のストラテジストの行動に対し、特別のモニタリングをしていなかっ
     た。
 ⑦ また、ストラテジストのメールを受信した社員の誰からも問題提起がなく、前述の通り、匿名アン
     ケートでは、コンプライアンスを単なる法令遵守に限定して捉え本件を「問題ない」と評価する意
     見も一部にあり、コンプライアンスが社会常識あるいは社会の期待に応えることを含めた概念で
     あることを看過し、市場のゲートキーパーとして証券会社の役割を果たすという意識が未だ全社
     員に徹底されていないといえる。


5.   原因の分析
 ① 本件の情報伝達に関与したストラテジストおよび営業社員において、法令違反に該当する行為は
     認められないものの、一連の情報伝達が市場関係者を含む世間一般からどう評価されるか(公
     正であるか否か)ということを考えず、また、「コンプライアンス」を狭く法令遵守に限定して考えて
     いたことは、真の意味でのコンプライアンスの徹底が不十分であったことが原因と考えられる。
 ② NRI 研究員からストラテジストへ、ストラテジストから営業社員及び外部の機関投資家への情報
     伝達、営業社員から顧客への情報伝達、GM 営業二部においてストラテジストから受領した情報
     に基づきただちにカスタムバスケット指数を用意し営業を行うことが抑制されなかったのは、各行
     為を適切に規律する詳細な社内規程が必ずしも存在しなかったことが大きな原因となっている。
 ③ また、NRI 研究員から入手した情報について、ストラテジストが「重要情報」として上長へ報告せ
     ず、ストラテジストによる市場区分のテーマへの取組み姿勢を上長が把握することが遅れたのは、
     上記 4.②に記載の通り、「重要情報」を取得した場合に上長への報告を義務付ける社内規程が
     リサーチ部門において十分に周知され運用されていなかったことが原因となっている。
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 ④ 以下に掲げる問題が認められたことは、実効性のある監督体制が十分に整備されていなかった
     ことが原因と考えられる。
      ・ ストラテジストのコメントメールが相当数の社内関係者に送信されており、市場構造に関する
       記載が必ずしも適切でないとの印象を持った者もいたが、社内関係者からこの点について問
       題提起されなかった。
      ・ 本件において情報伝達を行った営業社員の上長において日常的に監督するという意識が希
       薄であった。
      ・ 注意処分を受けたストラテジストの動向を個別にモニタリングしていなかった。
 ⑤ GM 営業二部及び NIHK 日本株営業チームにおいて先輩・後輩間、同僚間で営業活動について
     親身に助言・注意することが見受けられなかったのは、組織全体でコンプライアンスを追求しよう
     とする意識が醸成されていなかったことが原因と考えられる。


6.   再発防止に向けて改善を要する点
 前項に記載した原因分析を踏まえ、同種事案の再発防止策を講じる必要がある。具体的には、コンプ
ライアンス意識向上のための諸施策(証券会社のミッションの再確認、コンプライアンス教育、上長によ
る監督、従業員間の相互の問題提起、コンプライアンス軽視の萌芽の有無のチェック等)、規程の整備
と遵守の徹底、外部に対して送信される情報の審査体制の拡充、モニタリング態勢の再点検、人事評
価におけるコンプライアンス評価の再点検等が考えられる。




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(別紙 2)


          野村證券が今後実施する改善策等の概要について

1.   改善策の策定に当たっての当社の問題意識
     2019年3月5日、野村證券の業務委託先である野村総合研究所の研究員であり、日本取引所グ
ループ「市場構造の在り方等に関する懇談会」の委員でもある者から、野村證券のリサーチ部門に所
属するストラテジストに対し、日本取引所グループにて議論されている東京証券取引所での市場区分
の見直しについて、上位市場の指定基準が時価総額250億円以上とされる可能性が高くなっている旨
の情報が伝達されました。当該情報は、同日及び翌6日に、同ストラテジストから、直接、もしくは野村
證券およびNomura International (Hong Kong) Limitedの日本株営業担当者経由で一部の機関投資
家に提供されるに至りました。
     野村総合研究所の当該研究員は公的な役割を担う上記懇談会の委員であり、一定の守秘義務が期
待されていたものと考えられます。にも拘わらず、野村證券においては、市場区分に関する情報が資本
市場に与える影響を十分に考慮することなく、社内や顧客との間において安易な情報伝達が行われた
ことは重大な問題であり、また、情報の受領・伝達を管理する態勢にも不備があったものと、深く反省し
ております。
     市場区分の見直しは、株式運用の観点等で区分対象となり得る複数の上場企業の株価形成に大き
な影響を与える可能性があり、一部の投資家のみを対象として、同懇談会での議論内容または日本取
引所グループ内部の方針とも受け取れる情報を提供する行為は、市場のゲートキーパーとして公正
性・公平性の確保を図る証券会社の行為としてはきわめて不適切な行為であったと捉えております。
     当社は、2012年の増資インサイダー事案の教訓を踏まえ、ルールベースの行動規範を法令諸規則
さえ遵守していれば良しとする誤解とそうした誤解に基づく行動を完全に否定してまいりました。しかし
ながら、本件の関係者においては、一連の情報伝達が市場関係者を含む世間一般からどう評価される
かということに考えが及んでおらず、社会常識あるいは社会が期待する役割に応えることが「コンプライ
アンス」であるという考えを有していなかった点、さらには、より有益な情報源を有していると示すことに
より自らの評価を高めたいとの動機を優先し、市場の公正性・公平性の確保という証券会社にとって重
要な役割に対する意識が不十分であったという点については、極めて重く受け止めております。
     さらに、グローバル・マーケッツ部門およびリサーチ部門において、今回の問題行動に気づき得た社
員がいたにも関わらず、疑問や是正の声が上がらなかったことは、一線管理の観点でプリンシプル・
ベースでの業務意識の全社員への徹底が未だ道半ばであることを示しているものであり、極めて由々
しき問題であると考えております。第二線の管理においても、さらに経営陣としての監督の観点でも、こ
のような状況を認識できずにいた事実は重大なことと受け止めております。




                               7
2.        改善策の概要
     当社では、監査委員会がその傘下に外部有識者による特別調査チームを設置し、事実関係の究明
や問題点および原因の分析並びに改善すべき点の摘示をしております。
     以下において、監査委員会及び特別調査チームの提言に基づく、野村證券が今後実施する改善策
の概要について説明いたします。


     <改善策の項目>


 Ⅰ.金融機関として社会が期待する役割に応える「コンダクト」の考え方を浸透させ、自ら規律を維持・
          向上させる態勢の構築


     1.    「コンダクト」の考え方を浸透・定着させるための取組み
           ① コンダクトの定義付け
           ② コンダクト・リスクの概念についての理解を浸透させるための研修の実施
           ③ コンダクト・リスク低減に取り組む意識の啓発を継続的に行う


     2.   評価制度の見直し
           ① コンプライアンスを促進する行為を適正に評価することによる動機づけ
           ② 新たに設けるルールに反する不適切な情報の取扱いについてのコンプライアンス評価の
             明確化
           ③ コンプライアンス評価のフィードバックの義務付け


     3.    コンプライアンス・ホットラインの認知度・信頼度の更なる向上への取組み



 Ⅱ.健全な資本市場の発展に資する動機づけを組み込んだホールセール部門のエクイティ・ビジネス
          における組織体制の見直し


     4.    組織の見直しと新たな評価軸の設定
           ① リサーチ情報提供と取引の受託・執行の分離とGM営業二部の廃止を含む組織再編
           ② 新組織において適切なコンダクトを促す新たな評価軸の設定


     5.    情報の保護と適正な管理のための体制の整備
           ① リサーチ部門と「GM注文執行部署」の間の情報のやりとりへの制約と外部情報配信先の
             管理
           ② 新たな情報管理体制下でのモニタリング



                               8
Ⅲ.法人関係情報に加え、投資判断に重大な影響を及ぼし得る非公知の情報を厳格に管理する態
     勢の整備


6.   公的機関等から得た非公知の重要な情報の管理の厳格化と既存のルールの再徹底
     ① 公的機関等から得た非公知の重要な情報の管理に関するルールの新設
     ② 既存の「重要情報」を含めた情報管理のあり方の整理とルールの明確化
     ③ リサーチ部門における「重要情報」の取扱いの再徹底


7.   その他の社内外の有識者による情報発信の取扱い
     ① 外部委員を兼任する役職員に関する各部門におけるルールの明確化
     ② 「社外有識者等」へのアプローチ方法に関する規律の整備


8.   調査・情報提供に係る業務委託契約の見直し



<改善策の完遂に向けた取組み、責任の所在の明確化>


9.   トップマネジメントが自ら進める改善策の完遂に向けた取組み
     ① 経営会議等のガバナンスの仕組みを通じた改善策の実施状況のモニタリング
     ② トップマネジメント自身による改善策の浸透度合いの把握と更なる推進


10. 役職員の責任の所在の明確化
     本事案に関する役職員の処分を行い責任の明確化を図る




                        9
                       改善策(要旨)


Ⅰ.金融機関として社会が期待する役割に応える「コンダクト」の考え方を浸透させ、自ら規律を維持・
  向上させる態勢の構築


 1.   「コンダクト」の考え方を浸透・定着させるための取組み
      ① コンダクトの定義付け
        野村グループにおいては、リスク・アペタイト・ステートメントにおいて、「コンダクト・リスク」
        を重要テーマと位置付けた上で、金融機関が求められる社会規範・倫理を逸脱し、結果、
        顧客保護や市場の健全性に悪影響を及ぼすリスクを、コンプライアンス・リスクとして管理
        下に置く旨が記載されている。
        プリンシプル・ベースのコンプライアンスないしは職業倫理に沿った行動を徹底するため
        には、「コンダクト」の考え方は重要である。そのため、野村證券の社内規程に、上記の趣
        旨を踏まえた「コンダクト」に関する行動規範を定めた規定を新設する。
      ② コンダクト・リスクの概念についての理解を浸透させるための研修の実施
        上記で文書化された「コンダクト・リスク」の概念を解説する研修を行うとともに、ケースス
        タディの題材として本件を取り上げ、ディスカッションを行う研修を実施することで、一人一
        人への浸透を図る。その際、メッセージとして、「コンダクト」の考え方の浸透には、一線で
        の上長による日常的な指導・監督を充実させることが不可欠であることを盛り込む。
      ③ コンダクト・リスク低減に取り組む意識の啓発を継続的に行う
        市場のゲートキーパーとしての証券会社のミッションあるいは責務の自覚を促すよう、毎
        年8月3日に行っている「野村『創業理念と企業倫理の日』」の取組みのほか、研修等の機
        会を通じて本件の教訓を取り上げ、継続的に意識の啓発を行う。


 2.   評価制度の見直し
      ① コンプライアンスを促進する行為を適正に評価することによる動機づけ
        GM部門、リサーチ部門では、従来、コンプライアンスについて高い評価を付与する対象
        を、違法行為の指摘をした場合に限定しているが、これを見直し、改善提案等を含めるよ
        うに拡大し、「声を上げられる」環境の構築を図る。
      ② 新たに設けるルールに反する不適切な情報の取扱いについてのコンプライアンス評価の
        明確化
        今回新設するコンダクトに関する規定や公的機関等から得た非公知の重要な情報に関
        するルールに違反した場合、コンプライアンス評価に影響が及ぶことを明確化する。
      ③ コンプライアンス評価のフィードバックの義務付け
        業績評定時のコミュニケーションにおいて、コンプライアンスのレベルについての評価を、
        しっかりと上司が部下にフィードバックすることとする。
        その際、コンプライアンスの社会的な重要性と共に、「低いレベルでのコンプライアンス評
        価は他の業績では埋め合わされない」という考え方を、明確に伝えることを義務付ける。
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 3.   コンプライアンス・ホットラインの認知度・信頼度の更なる向上への取組み
        本件のような法令違反もしくは職業倫理に関する事案について、進んで利用しようという
        意識を高めるため、通報受領者によるトップメッセージの発信を行う。また、制度の品質
        への信頼向上のため、内部通報制度に関する認証制度の利用に取り組む。


Ⅱ.健全な資本市場の発展に資する動機づけを組み込んだホールセール部門のエクイティ・ビジネス
  における組織体制の見直し


 4.   組織の見直しと新たな評価軸の設定
      ① リサーチ情報提供と取引の受託・執行の分離とGM営業二部の廃止を含む組織再編
        GM営業二部を廃止し、リサーチ部門からの情報提供と、GM部門内における受託及び執
        行やソリューション提供という二つの機能を分離させ、顧客に対し各部が役割を明確に分
        担して対応する態勢を構築する。前者の組織が、市場での適正な価格形成を促進するた
        めの情報提供に特化する一方、後者の機能を担う組織は、最良執行のための技術開発・
        ソリューション提供に特化し、顧客の運用成績向上のみならず、市場の価格発見機能の
        向上や、適切な流動性の供給を通じて、資本市場の発展に貢献することを目指す。
      ② 新組織において適切なコンダクトを促す新たな評価軸の設定
        リサーチ部門及びGM部門において、市場の公正性・公平性を高め、健全な資本市場の
        発展に資する行動を促すため、どのようなビジネス上のコンダクトが望ましいかを検討し、
        それを促す正しい動機付けをするための新たな人事評価の基準を設定し、結果として、
        市場の公正性・公平性を高め、健全な資本市場の発展に資する。


 5.   情報の保護と適正な管理のための体制の整備
      ① リサーチ部門と「GM注文執行部署」の間の情報のやりとりへの新たな制約と外部情報配
        信先の管理
        リサーチ部門からお客様や「GM注文執行部署」(上記4①で新設されるGM部門において
        取引の受託・執行等を担う組織及び海外拠点の日本株セールスをいう。以下同じ。)への
        情報発信は、すべて査読の対象とし、リサーチ情報のコミュニケーションの手段は、「リ
        サーチ・ポータル」等からの情報提供・取得に限定し、個別の質疑応答は、上席の許可制
        とする。また、定型の情報発信の宛先管理を厳格化する。
      ② 新たな情報管理体制下でのモニタリング
        リサーチ部門と「GM注文執行部署」との間の個別の情報交換は、全て、フロントの双方
        の上席者がモニタリングを行うこととする。各部門において、上席者によるチェックを確認
        する態勢を構築するとともに、更に、コンプライアンス部門では、モニタリングが確実に行
        われているかを検証する。



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Ⅲ.法人関係情報に加え、投資判断に重大な影響を及ぼし得る非公知の情報を厳格に管理する態勢
  の整備


 6.   公的機関等から得た非公知の重要な情報の管理の厳格化と既存のルールの再徹底
      ① 公的機関等から得た非公知の重要な情報の管理に関するルールの新設
        法人関係情報に加え、公的機関等から得た非公知の重要な情報で株価形成に重大な影
        響を与える可能性があるものの管理に関して、新たなルールを設け、情報管理体制の拡
        充を図る。
      ② 既存の「重要情報」を含めた情報管理のあり方の整理とルールの明確化
        既存の「アナリスト・レポートの取扱い及びアナリストの独立性の確保等に関する規程」に
        定める「法人関係情報以外の未公表の情報であって投資者の投資判断に重大な影響を
        及ぼす」もの (以下、「重要情報」)を含め、情報管理の全体像を整理し、ルールの明確化
        を図る。
      ③ リサーチ部門における「重要情報」の取扱いの再徹底
        本件においては、市場区分に関する情報を受領したストラテジストにおいて、上記の「重
        要情報」への該当性と当該「重要情報」の取扱いについて認識が希薄であったことから、
        この点について再徹底するため、リサーチ部門の各部署で、特別研修を行う。


 7.   その他の社内外の有識者による情報発信の取扱い
      ① 外部委員を兼任する役職員に関する各部門におけるルールの明確化
        外部委員を兼任する役職員(以下、「兼任者」)を通じて取得される情報の取扱いにおい
        て、業務運営ルールを各部門において定め、特に情報管理を徹底させる態勢を構築す
        る。
      ② 「社外有識者等」へのアプローチ方法に関する規律の整備
        役職員が、情報を得ることを目的として行う、社外の有識者や、外部の委員を兼任する役
        職員へのアプローチに関して、上長の許可や報告、情報の提供可能範囲の明確化等を
        内容とするルールを定め、全社に徹底を行う。


 8.   調査・情報提供に係る業務委託契約の見直し
        今回の事案を踏まえ、NRIとの間の調査・情報提供に係る業務委託契約(システムの保
        守・開発等に係る契約を除く)について、今後同様のことが起こらないように、双方におい
        て授受される情報を精査し、管理する態勢について協議し、合意する。


<改善策の完遂に向けた取組み、責任の所在の明確化>
 9.   トップマネジメントが自ら進める改善策の完遂に向けた取組み
      ① 経営会議等のガバナンスの仕組みを通じた改善策の実施状況のモニタリング



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    本件の改善策の実施状況については、事務局及び関連部署から定期的に経営会議等
    に報告させて、トップマネジメントが自ら進捗状況を確認するとともに、実効性について議
    論し、必要な場合は適宜見直しを行う。
    併せて、取締役会に対しても定期的に報告を行い、フィードバックを受けた場合はその内
    容も反映して、再発の防止に努める。
  ② トップマネジメント自身による改善策の浸透度合いの把握と更なる推進
    アンケート等を活用し、改善策の浸透度合いの把握に努める。
    一方で、本件についてトップマネジメント自身が現場の社員と対話する機会を持つこと
    で、改善策の浸透度合いやそれによる変化を直接理解すべく、従来営業店で行ってき
    た、社員との少人数での密度ある交流の取り組みを、本社各部署にも広げる。


10. 役職員の責任の所在の明確化
  今回の事案についての役職員の責任を厳粛に受け止め、以下の通り処分を行った。
  ① 関係役員の役員報酬の一部返上
    ・野村ホールディングスの経営責任
      グループCEO               月例報酬の30%を3か月間
      代表執行役副社長              月例報酬の20%を3か月間
      グループCo-COO            月例報酬の20%を3か月間
      (野村證券代表取締役社長)
      グループCo-COO            月例報酬の10%を3か月間
      (野村ホールディングス執行役副社長)
    ・野村證券関係役員の管理責任
      専務 グローバル・マーケッツ担当      月例報酬の10%を2か月間
      経営役 グローバル・リサーチ担当      月例報酬の10%を2か月間
      専務 内部管理統括責任者          月例報酬の10%を2か月間
  ② 社員の処分
     関係した社員及びその監督者は、社内規程に基づき厳正に処分を行った。


                                            以上




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