6706 電気興 2019-06-07 19:45:00
不適切な会計処理に関する調査結果について [pdf]

                                              2019 年6月7日
各 位
                         会 社 名 電気興業株式会社
                         代表者名 代表取締役社長 松澤 幹夫
                          (コード番号 6706 東証第一部)
                         問合せ先 取締役専務執行役員 伊藤 一浩
                              (TEL. 03 - 3216 - 1671 )


                不適切な会計処理に関する調査結果について


 当社は、2019 年5月 10 日付「不適切な会計処理の判明と 2019 年3月期決算発表の延期に関
するお知らせ」で公表いたしましたとおり、当社の複数の拠点で、2019 年3月期において不適
切な会計処理が行われていたことが判明したため、2019 年3月期の決算発表を延期するととも
に、当社と利害関係を有しない外部の弁護士である AI-EI 法律事務所森倫洋弁護士及び会計・デ
ジタルフォレンジックに関する専門調査会社である株式会社 KPMG FAS を含む調査チームを設
置し、当該事案に関する事実関係の調査、当該事案以外の不適切な会計処理に関する事実関係の
調査、不適切な会計処理に関する原因分析、再発防止策の検討を行ってまいりました。


 その結果、当社取締役会は、2019 年6月5日付の調査チーム内の専門家調査の結果及び調査
チーム全体の調査結果の報告を受け、本日、当社としても調査結果のとりまとめをし、2019 年
3月期の決算短信を開示いたしましたので、調査結果につき、下記のとおりお知らせいたします。


 なお、当社は、調査チームの調査結果を受け、過年度の財務諸表に対する影響は軽微であると
判断し、過年度の有価証券報告書、四半期報告書、内部統制報告書及び決算短信の訂正は行わな
い予定です。


 株主の皆様をはじめ、お取引先及び関係者の皆様には、多大なご迷惑とご心配をお掛けいたし
ますことを、深くお詫び申し上げます。


                         記


第1.   調査に至る経緯


 2018年12月に東京国税局により行われた税務調査の過程で、当社の一営業所(甲支店a出張所)
において、原価の付替えによる不適切な会計処理が行われた疑いがあることが判明いたしました




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(以下「A事案」といいます。)。その後、当該支店及び出張所の関係者に対して調査を行った
結果、当社は、当該出張所の工事において原価の付替えが行われたことを確認いたしました。こ
のため、当社は、当社会計監査人と協議を行い、当社の支店その他の工事施工部門を中心として、
横断的な調査票の配布・回収を行い、さらに内部統制管理部を中心に複数のサンプル調査(以下
「自主点検」といいます。)を行ったところ、乙支店、丙支店及び丁支店においても原価の付替
えによる不適切な会計処理が行われていたことを発見いたしました。
 これを受けて、当社は、当社と利害関係を有しない外部の弁護士である AI-EI 法律事務所森倫
洋弁護士及び会計及びデジタル・フォレンジックに関する専門調査会社である株式会社 KPMG
FAS を含む調査チーム(以下「当調査チーム」といいます。)を設置し、事実関係及びその内容
について調査(以下「本専門家調査」といいます。)を行わせることといたしました。
 なお、本専門家調査は、AI-EI 法律事務所代表弁護士森倫洋及び株式会社 KPMG FAS 執行役
員パートナー髙岡俊文の統括の下、AI-EI 法律事務所弁護士木村寛則、西村あさひ法律事務所弁
護士志村直子、佐々木秀、坂元正嗣、前澤友規、吉原博紀及び池田将樹並びに株式会社 KPMG
FAS の 12 名の調査担当者により実施されました。また、上記専門家の統括・指示の下、当社経
理部及び内部統制管理部が事務局として調査の補助を行いました。


 今般の調査においては、まず、当社による調査票の回収及び自主点検が行われ、その後、本専
門家調査が行われました。本専門家調査は、2019年4月25日から同年6月5日までの間実施さ
れ、①A事案に関する事実関係の調査、②A事案以外の類似の不適切な会計処理に関する事実関
係の調査(以下「件外調査」といいます。)、並びに③これらの調査結果を踏まえた原因分析及
び再発防止策の検討・提言等を目的として、当社による調査票の回収結果及び自主点検の結果の
検討、デジタル・フォレンジック調査、当社経理部とともに行った見積書・注文書・請書・請求
書・作業日報等の資料の検討(以下「取引分析」といいます。)、及び、当社の役職員に対する
ヒアリング等の調査を実施いたしました。


第2.   本調査により判明した事項


1.    前提:当社内における予算管理等


 当社の事業は、主として、電気通信部門と高周波部門の2つの部門により構成されております。
当社の調査の結果、原価の付替えは、電気通信部門において発見されましたが、電気通信事業部
門は、通信事業者様、放送事業者様、官公庁等を最終顧客とし、移動通信設備、固定無線設備、
放送設備に係るアンテナ、鉄塔、局舎等の製作、建設、メンテナンス等を行っています。


 このうち、電気通信事業部門においては、正式な受注がされると、個々に契約番号(以下「本
契番」又は単に「契番」といいます。)が割り当てられることとなります。また、正式受注前に
発生した原価は、振替依頼申請書を用いて、支店であれば、技術課長、支店長の順に決裁を経た
後、業務課により、また、施設エンジニアリング統括部、及び機器統括部であれば、各技術部門




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の所定の決裁ラインによる決裁を経た後、担当経理課により、本契番の原価として計上され直さ
れます。
 また、受注後、各関連部門毎(支店又は施設エンジニアリング統括部技術部(施工部門)、鉄
構部門(鉄塔等の製作)、機器部門(アンテナ等の製作))に予算が配賦され、配賦された予算
額(「配分額」)の範囲で、予定される材料費、稼働時間等を算出した、実行計画書を作成し、
上長(各支店の技術課長、支店長等)の承認を得ます。その後、設計・施工等を実施いたします
が、各予算配賦先部門において、当社内で設定された一定の利益水準を割り込むこととなった場
合には、当該予算配賦先部門(「現業部門」)が、低利益率上申書又は赤字上申書を作成し、支
店長又は部長の決裁及び関係統括部長の決裁を経て、経理部に提出し、最終的には代表取締役社
長の承認を得ることが必要とされています。


2.     本調査の結果判明した工事原価の付替え


    本調査の結果、2019年6月5日までに判明した原価の付替え(直近3期分。なお、過誤によ
るものも含みます。)の全体像・影響額は添付一覧表のとおりであります。また、本専門家調査
の結果認められた、故意による原価の付替えの動機・手口等は、以下のとおりです。なお、本文
の工事名は、添付表に対応しております。


(1) 甲支店a出張所(A事案)


 2017年11月に、A工事の担当者が、約1997万5000円の赤字が想定されると試算し、当時のa出
張所長に相談したところ、同所長から、赤字上申書の提出を回避するために、利益に余裕のある
契番への原価付替えを示唆されました。そして、同所長の指示の下、a出張所の複数の従業員が
関与して、実際にはA工事に係る作業を実施した協力業者10社に、BA、BB、BC、BD、BEの5
つの工事(以下「A付替先工事」といいます。)に係る作業を行ったものとして見積書、請求書
等の書面の内容を書き換えさせる手法により、A工事に係る協力業者への外注費合計2097万4280
円をA付替先工事に係る原価として計上いたしました。


(2) 乙支店


①    2017年3月期(第91期)から引き続き2018年3月期第(92期)にも行われることとなった
     AJ工事について、一の協力業者への外注費について、作業が完了していなかったにもか
     かわらず、第91期中に全額を支払ったことから、その一部について2期に振り分ける必要
     が生じました。その際に、乙支店技術課長は、第91期の利益目標達成のために削減すべき
     原価の不足額と同額を振り替えることとし、その旨を当時の乙支店支店長に上申の上、客
     先との交渉の結果、事実と異なる理由を記載した費用振替申請書を作成の上、乙支店支店
     長及び業務課課長らの承認を受けて、同一工事の翌期契番に振り替えました。
②    乙支店技術課長は、2017年9月期(上半期)の利益目標達成のために原価の削減も企図




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     し、2017年9月期中に行われたI工事の協力業者に係る費用を、費用振替申請書を用いて、
     同年下半期に行われたBK工事へと振替えましたが(自主点検で判明・自主報告。以下「I
     工事-BK工事振替」といいます。)、同協力業者が2017年9月期中に行われたAH工事の際
     に建屋設備の一部を壊したことから本来当社が同協力業者に負担を求めるべき20万円につ
     いて、AH工事での補償ないし外注費用の減額を求めるのではなく、CN工事(I工事と同
     一の工事)での本来の費用から同額を減額し、I工事-BK工事振替と併せてI工事において
     50万円を減額した金額で発注を行うことにより、付替えを行いました。
③    乙支店課長は、低利益率上申書又は赤字上申書を作成・提出を避けるべく、いずれも第92
     期中の工事であったH工事とBJ工事との間で、H工事の協力業者に係る費用をBJ工事に振
     替えました。また、その際に、別個の工事間で同額の費用減額及び追加発注を行うことで
     原価付替えが露見することを防ぐ目的で、付替先のBJ工事で協力業者からの過剰な請求
     (8万3000円)を許容しました。そして、当該超過許容額分の回収のために、第92期中
     にその後に行われたCO工事において、同協力業者に本来の工事内容から当該超過許容額
     相当の人工数等を削減させた見積書を提出させ、本来の工事内容から減額した金額で同協
     力業者に対する発注し、当該減額後の額を原価として計上しました。


(3) 丁支店


①    丁支店では、付替元の工事が低利益率となることを回避する目的で、2013年以降、16件
     の原価の付替え(1件については、適正な振替と不適切な付替えが混在しており、当社と
     して精査を行った結果、合計約42百万円と考えております。)が行われていました。これ
     らの原価の付替えは、丁支店長代理の指示の下、又は他の従業員が丁支店長代理に報告し
     た上で、虚偽の理由を記載した経費・原価振替依頼書を提出したり、協力業者に見積書等
     を書き換えさせたりすることによって行われました。
②    丁支店では、経理処理の手続を省略する目的で、2015年以降、3件の原価の付替え(合
     計73万600円)が行われていました。これらの原価の付替えは、技術一課の従業員2名及
     び丁支店傘下のb営業所の従業員の指示のもと、工事の精算が完了し契番が閉じた後で
     あっても、新たに費用が生じた場合には、閉じた契番に対して原価を追加計上する理由を
     説明した上で、原価処理を行う手続が存在するにもかかわらず、その方法を正しく理解し
     ていない又は上記の手続を省略するために行われました。


3.    その他の支店等における事案について


(1) 丙支店


 いずれも、第91期に行われたG工事からBI工事への付替え並びにC工事及びD工事からBG工事
への付替えが自主点検において判明しましたが、これに加えて、本専門家調査により、第91期中
に、当時の丙支店支店長及び同支店次長等が作成した書類により、AB工事における協力事業者




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に対する設備撤去費用等110万円が、AB工事における赤字発生回避を目的として、CH工事にお
ける原価として計上されていました。


(2) 戊支店


 自主点検の際に、第92期に行われた工事間で7万円の原価の付替えが発見され、また、当調査
チームによる調査により、過誤による計上間違いが2件発見されましたが、故意の原価付替えは
発見されませんでした。


(3) 己支店


 己支店では、2014年3月期(第87期)に、XX工事(直近3期分には含まれないため、添付資料
には記載されておりません。)における赤字発生回避を目的として、当時の己支店技術課課長の
提案を受けて、当時の支店統括部製作部門の次長による実行計画の改版を通じて、YY工事(同
上です。)に対する直接経費及び外注費合計144万6000円の原価付替えが行われていました。な
お、当該己支店では、過去にも同期における原価振替が発見され、社内にて調査・処分が行われ
ております。


(4) 当社施工部門庚


 自主検査の結果、第93期において、E工事及びF工事の費用について、後日、施工工事に対し
て予算配賦が行われると考えたため、それまでの一時的な処理としてBH工事に合計35万7491円
を付け替えたものの、その後も施工工事に対して予算配賦が行われることがないまま、当該一時
的な処理を失念し、適切な振替処理を行わなかったために生じたものが報告されていました。こ
れに加えて、本専門家調査の結果、以下の事案が判明いたしました。


① 第92期において、当社施工部門庚の技術二課長の指示により、赤字を縮小し、AL工事にお
  ける協力業者に対する発注費用の捻出を目的として、工事の実行計画書上、上記材料費の計
  上先を移し、AL工事の付帯設備工事であるCR工事に係る材料費として発注する方法により、
  AL工事に係る材料費約26万円全額を、CR工事に係る原価として計上しました。
② 同じく、第92期において、当時の技術部次長が、技術一課課長代理と協議の上、AM工事及
  びAN工事を主管していた技術二課の従業員に指示をして、同課長代理にAM工事及びAN工
  事の、同課員に対してCT工事の各実行計画書の改版を行わせて、AM工事における協力業者
  に対する費用70万円(以下「本付替費用」といいます。)を捻出するため、同一の協力業者
  が工事を行っていたCS工事(AN工事と同一の工事)での支払いを計画し、当該付替えによ
  る付替先のCS工事(AN工事と同一の工事)での原価の上昇を抑えるために、更にAN工事
  の外注労務費全額をCT工事に付け替え、これによりAN工事に生じた余剰分を利用して、本
  付替費用をAM工事からAN工事(一覧表ではCS工事と表記されていますが、同一の工事で




                       5
     す。)に付け替えていました。


4.    従業員の労務費(稼働時間)の集計について


     甲支店、甲支店a出張所その他の多くの支店において、従業員の稼働時間の集計について、
 明確なルールが策定されておらず、個々の支店長及び技術課長並びに各従業員の裁量的な判断
 が介在し、各受注案件について、実態に合った稼働時間が計上されていない事案が複数発見さ
 れました。
     特に、甲支店及び甲支店a出張所においては、技術課長及び所長の指示の下、複数の案件の
 稼働時間を減らし、案件毎の利益率の減少を防ぐため、実際は特定の案件の事務処理のために
 作業した時間を、一般稼働(特定の案件に紐付かない支店内の事務作業等)に付け替えること
 が日常的に行われていました。


第3.   原因分析


 本専門家調査の結果、指摘された原因の概要は以下のとおりです。なお、本専門家調査の報告
では、表現の一部につき、社内用語を用いていることから改訂したほかは、内容には手を加えて
おりません。


1.    コンプライアンス意識の鈍麻・欠如


     一連の調査により発覚した原価の付替えは、その多くが技術課長又は出張所/営業所長等の
 上長が自ら、又は技術課の施工担当者と共謀し、協力業者からの見積書、発注書等を改ざんし、
 又は、虚偽の内容の振替申請書を作成することによって行われていました。これらの者が当該
 行為に及んだ直接的な動機は、各工事毎の見かけ上の利益率を向上させることにあり、低利益
 率上申書又は赤字上申書をすることによる作業の繁雑さや社内的な批判を避けるために、原価
 の付替えを行っても構わないという意識が強く存在していました。
     このような当事者のコンプライアンス意識の鈍麻・欠如が、本件各種事案が発生した最も直
 接的な原因であり、地域的に付替えが偏在しているのも、主として各個人のコンプライアンス
 意識の程度差が大きく影響していると考えられます。


2.    原価計上ルールの不徹底


     当社においては、稼働時間を原価として計上するに際して、特に、施工を担当する技術課員
 の事業所における稼働について、複数案件を同一日に処理した場合に、事務の煩雑さから、す
 べて「一般稼働」として特定の案件に計上しない等の行為が行われていましたが、これらにつ
 いて、明確なルールが示されていたとはいえません。また、稼働時間の計上の報告が一ヶ月に
 一度であったと認められ、このようにまとめて計上の報告をすることで報告内容の正確性が損




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 なわれ、出来上がりを操作し易くなってしまっていたと考えられます。その結果、稼働時間
 (に単価を掛けた労務費)の原価への計上において、複数の支店において発見されたような、
 本来個別の工事原価として計上すべきものを一般稼働へ付け替える事例のような恣意的な操作
 を許す素地が形成されていたと考えられます。
     また、原価の積算に関するルールは徹底されておらず、特に当社従業員の労務費等について
 は、上記のような実態があったことと相まって、個別工事毎の粗利の確保の際のバッファーと
 して使われてしまっていたと考えられます。


3.     教育の不十分さ


 ①     当社においては、既に、己支店が2014年に受注した案件において、低利益率上申書の
       提出を免れるために原価の付替えが行われた事実が存在しており、当該事案については、
       同年中に内部統制部門による調査も行われ、各従業員に対してメール等で周知等もなさ
       れていました。もっとも、再発防止策が十分であったとはいえず、特に当該事案の当事
       者である己支店以外の拠点においては、原価の付替えを行うことについての問題意識の
       浸透が十分にあったとはいえません。このような過去の類似事案を教訓とした各従業員
       の教育が不十分だったことも、今回複数の拠点で原価の付替えが行われ続けていた原因
       の一つであったものと考えられます。
 ②     また、原価の付替えに直接的には関わっていなかった支店長や、各支店を統轄する支店
       統括部長その他の管理職の管理スキルの不足も原因として挙げられるものと考えられま
       す。すなわち、労務費の付替えについては、支店内あるいはすべての支店に共通した稼
       働時間の計上に関する明確な原価計上ルールを策定していれば、少なくとも付替えを行
       うことに対する抑止力となったはずであったのに、そのような対応策を取らず、各担当
       者の裁量に任せたままとされていました。ヒアリングにおいても、複数の管理職から、
       この原価計上の曖昧さ(事務所における稼働について個別原価計上をしていないこと)
       の問題点を理解しない供述がなされました。
 ③     さらに、協力業者への外注費の付替えについても、管理職が原価の付替えに対する問題
       意識を持って、各従業員への周知徹底を図るなどの対応を取っていれば、各担当者に
       とっての抑止力となった可能性は否定できません。


     このように、管理職が各従業員に対する十分な管理スキルを有していなかったことも、今回
 複数の拠点において原価の付替えが発生した原因の一つであったと考えられます。


4.     部門間での牽制機能の欠如


     上記第2.1.(2)ア.のとおり、各支店では、業務フロー上、現業部門の担当者が作成した
 実行計画及びそれに基づく施工計画等の書面について各支店の技術課長、支店長の承認を受け、
 また、協力業者等への発注部署は支店長の下にあり、また、担当従業員は、事務職の派遣社員




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 等で、工事に関する知識が乏しいものでした。そして、本社の統括部門や管理部門による事前
 のチェック機能も存在しませんでした。
     そのため、技術課長又は出張所/営業所長が自ら、又は技術課の施工担当者と共謀し、協力
 業者からの見積書、発注書等を改ざんし原価の付替えを行った場合や、虚偽の内容の振替申請
 書を作成した場合には、支店内部で当該事象に気付くことができる者が存在しないか、存在し
 ても極めて限定的であり、そこに人事ローテーション上、一つの支店ないし統括部から転出す
 ることが少なかったこと及び実際の社会的関係に基づく影響力の強弱が複合的要因として作用
 した結果、発注部署が牽制機能を果たすことを期待することは困難でした。
     また、施工部門庚については、購買部長を技術部長(時期によっては次長等の別のポジショ
 ンであったこともあります。)が兼任しており、その他には協力業者への発注についての知識
 を有する者がおらず、牽制が効かない体制となっていたと認められます。
     このため、原価の付替えが発見された部門では、不適切な会計処理を未然に防ぐ牽制機能が
 欠如していたといわざるを得ません。


5.     低利益率上申書又は赤字上申書の制度の問題


     上記第2.1.(3)のとおり、当社においては、売上総利益の段階で300万円以上の赤字と
 なることが見込まれる案件については、赤字上申書を提出し、最終的には代表取締役社長の承
 認を得る必要があるものとされていました。
     そして、A事案をはじめとする、上記第2.2.乃至4.に記載の各案件は、その多くが赤字上
 申書又は低利益上申書を提出することを回避するために原価の付替えが行われていたと認めら
 れます。また、複数のヒアリング対象者は、上申書の提出準備自体の手間を惜しんだ旨供述し
 ているほか、提出することで自ら又は支店長その他上長の評価に対する悪影響を懸念した旨の
 供述もあり、これらの上申書提出には相当のプレッシャーがあったことが伺われます。


     もちろん、当社も営利企業である以上、赤字又は低利益率となる案件が発生することについ
 て抑止力を働かせるために一定の施策を講じること自体は、不合理なこととはいえません。
     他方で、当社の電気通信事業においては、アンテナや鉄塔の建設のため、屋外、特に山間部
 での作業が必要となることが多いものです。また、既に使用されている放送・通信用の鉄塔の
 場合には、工事の実施可能時間が夜間の限られた時間となり、工期の振れ幅が大きくなり易い
 ものです。さらに、甲支店、乙支店、丙支店、丁支店の所在する積雪や台風等の影響を受け易
 い地域においては、実行計画に基づき施行を行う際に、天候状況次第で当社従業員及び協力業
 者の人工代が大きく上振れし、当初計画との間に乖離が生じることがしばしばありました。今
 回、原価の付替えが発見された事案の多くが、山間部や離島部といった天候等の環境の影響を
 強く受ける地域での案件であったことは、上記の事情が背景にあります。
     また、今回発覚した事案をみると、長期的且つ全社的な営業政策等への配慮・忖度、支店を
 超えた営業政策等の観点から、受注実績を維持・向上させるため、当社の基準上の低利益率上
 申等の対象となることも覚悟して、入札しているものが複数見受けられます。




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     以上のような状況を踏まえると、原価の付替えの直接的な原因は各担当者のコンプライアン
 ス意識の欠如にあったことを踏まえても、低利益率上申書及び赤字上申書の提出に伴うプレッ
 シャーが、状況によっては過度なプレッシャーとなっていたことは否定できず、一律に上申書
 の提出を求める硬直的なルール自体も原価の付替えにつながる要素の一つであったという面は
 否定できません。


第4.   再発防止策


 本専門家調査の結果、以下の再発防止策の提言を受けました。当社としては、今後類似の不適
切な会計処理が二度と発生しないよう、下記の提言に沿って、具体的な再発防止策を策定し、実
行してまいる所存です。


1.    各担当者の責任に応じた処分とその周知及び各従業員への教育の徹底


① 己支店の過去の事案があったにもかかわらず、その後も、複数の拠点において原価の付替え
     による不適切な会計処理が行われたことに鑑み、また、他の従業員に対する抑止力を発揮す
     る意味でも、各監督責任者及び実行行為者に対して、それぞれの責任に応じた処分を行い、
     そのように付替え行為が処分対象になることの社内周知を行うこと。但し、処分に当たって
     は、後記のルールの再検討と併せて、却って自主的な申告の妨げとなったり、現場での隠蔽
     の動機となることのないよう、処分の程度や自主申告に応じた処分の減免に配慮すること。
② 今後同種の事案が発生することのないよう、当該処分について全従業員に周知するだけでは
     なく、従来のような贈収賄・下請法・建設業法のような法令に加えて、会計上のルールを含
     めた、広義のコンプライアンス意識を醸成するための教育を徹底すること。


2.    原価計上ルールの明確化・再検討


① 今回発覚した事案のうち、特に労務費の一般稼働への付替えについては、原価計上ルールの
     統一が不徹底であったことが原因の一つであると考えられることから、上記のような事案に
     ついて再発を防止するため、当社従業員の行う作業について一定の類型化を行った上で、当
     該類型が特定の案件の稼働とすべきか一般稼働として計算すべきかのガイドラインを策定す
     るなど、原価計上ルールの明確化を図ること。
② 稼働時間の計上の報告のタイミングについても、頻度を変えることを検討すること。
③ 設計の担当者である設計課員及び施工の担当者である技術課員のみが稼働時間を計上するこ
     とが求められ、営業課員については、例え人手不足で施工管理の応援を行っても稼働時間の
     計上は求められない制度となっていたこと、並びに、(残業時間は別として)定時勤務であ
     れば、いずれにせよ人件費が発生することに鑑み、個別の工事の利益率について一定の管理
     をするとしても、制度の実施の負担にも考慮しながら、個別の工事の原価に稼働時間をその
     まま紐づけて粗利を管理することが合理的であるのかという点から再検討すること。




                        9
3.    牽制機能の強化


① 今回発見された事案の多くが、各支店内部で完結する形で行われており、現業部門の担当者
     及び当該部門の責任者(及び出張所長・支店長)の判断によって行われており、支店内部で
     の非現業部門による牽制が効いていなかったことに鑑み、そのチェック機能の充実を図るこ
     と。
② 現行の職制及び構成、すなわち、業務課が支店長の配下にある等の状況では、当該牽制機能
     は期待できないことから、牽制機能の強化に当たっては、現在の組織構成を改め(全社的な
     人事ローテーションの見直しを含めて)、本社の牽制機能を有効に支店に及ぼすことが可能
     となるような指揮命令系統を確立するための検討を行うこと。


4.    内部統制の強化


① 今回発見された事案の多くにおいて、当該事案の関係者は、取引分析の結果を示されたり、
     重点的なヒアリングが行われるまで申告しなかったことを踏まえると、通常行う内部統制部
     門による内部監査では自ずから限界があることもやむを得ないものの、今回発見された事案
     の多くが、本専門家調査に至るまでに判明しなかったことを踏まえ、内部統制部門による事
     後的なチェック機能についても改善すること。
② 事後的なチェックの強化策としては、本専門家調査で行ったような、原価の付替元と付替先
     となり得る案件を適宜抽出し、当該案件について集中的な分析・確認を行うことを検討する
     こと。その際には、今回発覚した事案の特徴を踏まえ、原価積算の段階又は実行計画策定の
     段階から、最終的な利益率の結果が大きく下落している案件を付替先候補として当該案件の
     証憑を確認することなどを検討すること。
③ 自主申告を求めたにもかかわらず、隠蔽を行った場合には処分をすることを事前に周知し、
     隠蔽の防止に努めることを検討すること。
④ 丙支店の事案では、技術課員が現場に出張している場合に備えて、代理使用が可能であるよ
     うに保管されていた印章を、当該印章の名義人には無断で使用していたことから、工事現場
     の地域的な広がりに鑑みればやむを得ない側面はあるものの、そのような保管を許容するの
     であれば、管理ルールを明確化するとともに、管理記録をつけることを求めること。


5.    低利益率上申書及び赤字上申書の提出ルールの見直し


① 今回発見された事案の多くが、低利益率上申書又は赤字上申書の提出を避けるために行われ
     たものであること、一方で、このような低利益又は赤字の発生が相応に発生しかねないこと
     に鑑みると、これらの上申書をすべて代表取締役社長や専務の決裁に係らせる現行のルール
     は、過剰な側面もあったと考えられるため、営利企業として、利益の確保は重要なものであ
     り、いたずらに低利益・赤字案件を獲得することを避ける必要があるものの、内容に応じて




                           10
  決裁者を変える等、合理的なものに見直すこと。
② 具体的には、特に競争入札案件では利益率が低くなる傾向があることから、これらの案件と
  他の案件とでは金額の基準を変更することや、承認ではなく事後報告とすることなどを検討
  し、当社における業務の特性も踏まえ、適度な牽制は維持しつつ、現場に過度なプレッ
  シャーを与えない仕組みを構築するための検討を行うこと。


 この度は当社の不適切な経理処理を未然に防止することができず、2019 年3月期決算につい
て発表期限を延長する等、株主、投資家の皆様をはじめ取引先その他関係者の皆様に多大なご迷
惑とご心配をおかけしましたことを、深くお詫び申し上げます。
今後は、全社一丸となり再発防止策を真摯に検討・実施し、信頼の回復に努めてまいります。何
卒ご理解をいただき、倍旧のご支援を賜りますようお願い申し上げます。
                                         以   上




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【添付資料】                                                     2019年6月5日現在
                原 価 付 替 明 細(第91期~第93期)
                                                                 (単位:円)
          振替元                                振替先

          件名                      件名          原価付替計上日           原価付替金額

                       BA工事                        2017/11/30     2,600,000

                       BB工事                        2017/11/30     1,600,000

A工事                →   BC工事                        2017/12/28     1,938,780

                       BD工事                         2018/3/31    12,885,500

                       BE工事                        2017/12/28     1,950,000

B工事                →   BF工事                         2018/1/31       70,000

C工事                                                 2018/6/30       45,000
                   →   BG工事
D工事                                                 2018/7/31       79,550

E工事                                                 2018/9/30       12,343
                   →   BH工事
F工事                                                2018/11/24      345,148

                   →
G工事                    BI工事                         2017/3/31     2,500,200


H工事(※1)            →   BJ工事(※8)                     2017/9/30      783,000

                       BK工事                        2017/10/31      300,000
I工事(※2)            →
                       BL工事                         2017/9/30      180,000

J工事                →   BM工事                         2017/9/30      220,000

K工事                →   BN工事                         2017/9/30       55,000

                       BO工事                         2018/9/28      151,102

                       BP工事(※10)                    2018/9/28      350,000
L工事(※3)            →
                       BQ工事(※11)                    2018/9/28      400,000

                       BR工事                         2018/9/28      526,000

M工事                →   一般稼働等                        2018/9/30       92,000

N工事(※3)                BT工事                        2018/10/31     3,200,000

O工事(※3)                BU工事(※10)                    2018/9/30      245,242

P工事(※3)            →   BV工事(※11)                    2018/9/30      876,122

Q工事(※3)                BW工事                         2018/9/30       75,000

R工事(※3)                BX工事                         2018/9/28       30,000

S工事(※4)                BY工事(※12)                    2018/8/31      620,000
                   →
T工事(※4)                BZ工事(※12)                    2018/8/31      670,000

U工事(※5)                CA工事(※6)                     2019/2/28     3,800,000
                   →
V工事(※5)                CB工事(※6)                     2019/1/31     7,500,000

W工事(※6)                CC工事                         2019/3/31     1,200,000
                   →
X工事(※6)                CD工事                         2019/4/30     2,800,000

Y工事(※7)                CE工事(※3)                     2018/7/31     2,650,000

Z工事(※7)            →   CF工事                         2018/3/31     3,000,000

AA工事(※7)               CG工事                         2018/7/31      198,000




                                       1/2
【添付資料】                                                     2019年6月5日現在
                原 価 付 替 明 細(第91期~第93期)
                                                                 (単位:円)
         振替元                                 振替先

           件名                     件名          原価付替計上日           原価付替金額

AB工事               →   CH工事                         2017/3/31     1,100,000

                                                   2017/11/30       56,800

                                                   2017/12/31       56,800
AC工事               →   一般稼働等
                                                    2018/6/30       60,000

                                                    2018/9/30      120,000

AD工事               →   CJ工事                         2018/3/31     3,311,632

                                                    2018/3/31      102,400

                                                    2018/5/31      143,519
AE工事(※4)           →   一般稼働等
                                                    2018/6/15       52,083

                                                    2018/4/30      304,520

AF工事               →   CL工事                        2018/12/31      590,000

AG工事               →   CM工事                         2019/3/29       83,000

AH工事(※1)           →   CN工事(※2)                     2017/9/30     -200,000

AI工事(※8)           →   CO工事                         2018/3/31      -83,000

AJ工事               →   CP工事                         2017/3/31     -400,000

AK工事               →   CQ工事                         2019/3/31     5,944,939

AL工事               →   CR工事                         2017/7/31      259,134

                       CS工事(※9)                     2017/2/28      700,000
AM工事               →
                       CT工事                        2016/12/31      152,500

AN工事(※9)           →   CU工事                        2016/12/31       61,000

AO工事               →   CV工事                         2018/9/30     1,600,000
                                                    2018/9/30    12,500,000
AP工事               →   CW工事
                                                    2018/9/30     3,000,000
                                               取引額ベース            83,463,314
(注)※の横の数字が同じ工事は同一の工事です。


          【分析結果:計上し直すべき原価】
           A:第91期(2017年3月期)から第92期(2018年3月期)へ繰越されていた原価             3,172,250
           B:第92期(2018年3月期)から第93期(2019年3月期)へ繰越されていた原価            10,588,382
           C:第93期(2019年3月期)から第94期(2020年3月期)へ繰越されていた原価            27,134,939

第93期(2019年3月期)に原価計上せず、第94期(2020年3月期)へ繰越されていた費用(上記分析結果:C)に
ついては、第93期(2019年3月期)の原価として修正しております。




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