2918 わらべや 2021-03-15 15:00:00
社内調査委員会の調査報告書受領等に関するお知らせ [pdf]
2021 年 3 月 15 日
各 位
会 社 名 わらべや日洋ホールディングス株式会社
代表者名 代 表 取 締 役 社 長 大友 啓行
(コー ド番号 2 918 東証第一部 )
問合せ先 取締役常務執行役員 浅野 直
(TEL.03-5363-7010)
社内調査委員会の調査報告書受領等に関するお知らせ
当社は、2021年1月18日付「社内調査委員会設置に関するお知らせ」にて公表いたしましたとおり、当社
の連結子会社である株式会社ソシアリンク(以下、ソシアリンク)が、2020年12月28日に、出入国管理及び難
民認定法(以下、入管法)違反容疑により、千葉地方検察庁から起訴処分を受けた件について、社内調査
委員会による調査を進めてまいりました。
このたび、社内調査委員会から調査報告書を受領いたしましたので、下記のとおりお知らせいたします。
なお、ソシアリンクは、本件に関し、2021年2月2日に千葉地方裁判所にて、入管法違反(同法第73条の2
第1項第1号、不法就労助長罪)により罰金2百万円の有罪判決を受けましたので併せてお知らせいたしま
す。
記
1.社内調査委員会の調査結果
社内調査委員会の調査結果につきましては、添付の「入管法違反事件に関する調査報告書(開示版)」をご覧く
ださい。なお、個人のプライバシー保護や機密情報保護の観点から、社内調査委員会の判断により調査報告書の
一部に非開示措置を実施しております。
2.原因の究明と再発防止策について
社内調査委員会の調査報告書には、事実関係の調査結果と原因と考えられる事象、再発防止に係わる提言が記
載されております。当社グループは、この調査結果および提言を真摯に受け止め、速やかに実効性のある具体的
な再発防止策を策定し、取り組んでまいります。
なお、具体的な再発防止策およびグループガバナンス体制の強化策については、決定次第、速やかにお知ら
せいたします。
3.関係者の処分について
ソシアリンクは、本調査結果の内容および裁判所での有罪判決を厳粛かつ真摯に受け止め、本件の関係者に対
し、懲戒解雇を含む厳正な処分を行いました。
なお、グループ持株会社である当社の経営陣の経営責任につきましては、本日付「役員報酬の減額に関するお
知らせ」をご参照下さい。
4.業績に与える影響
2021年1月18日に公表いたしました「当社子会社の事業撤退および一部事業譲渡に関するお知らせ」
のとおり、2021年3月1日に一部事業譲渡を行いました。また、残りの事業についても、2021年6月1日に事業
撤退を予定しております。
なお、事業撤退にかかる費用を一部2021年2月期に計上しておりますが、業績に与える影響は軽微で
す。
株主、投資家、取引先をはじめ関係者の皆様には、多大なご心配とご迷惑をおかけする事態となりました
ことについて、改めて深くお詫び申し上げます。
以上
わらべや日洋ホールディングス株式会社 御中
「入管法違反事件に関する調査報告書」
(開示版)
2021年3月15日
社内調査委員会
2021年3月15日
わらべや日洋ホールディングス株式会社 御中
社内調査委員会
委員長 齊 藤 誠 ㊞
委員 谷 村 正 人 ㊞
委員 井 村 幹 男 ㊞
本調査報告書は、 らべや日洋ホールディングス株式会社が設置した社
わ
内調査委員会が実施した調査について、その報告を行うものである。
目次
第1 当委員会及び本調査の概要 ........................................... 1
1 当委員会の設置経緯 ................................................. 1
2 当委員会の目的及び調査事項 ......................................... 1
3 当委員会の構成 ...................................................... 1
4 当委員会による本調査の方法・内容 .................................. 2
5 本調査の前提 ........................................................ 2
6 本調査の概要と本報告書の構成 ...................................... 2
7 開示版の作成 ........................................................ 3
第2 本 件 の 背 景 ......................................................... 3
1 本 件 は 外 国 人 労 働 者 の 派 遣 事 業 .................................... 3
2 在 留 カ ー ド の 偽 造 問 題 ............................................. 4
第3 事実調査結果 ........................................................ 4
1 対象企業(ソシアリンク)の概要 .................................... 4
2 入管法違反被疑・被告事件の経過及び該当企業の対応 ................. 6
3 本件に係る経過事実 ................................................. 7
4 事実調査結果(補足) ................................................ 12
第4 原因分析 ........................................................... 13
Ⅰ 原因分析にあたっての序論 ............................................ 13
Ⅱ 通常期のリスク管理についての原因分析 ............................... 13
1 原因の発端に関する事実の適示 ..................................... 13
2 問題発生後の処理上の問題 .......................................... 14
3 在留カードチェック表による千葉営業所の外国人派遣事業の状況 ..... 16
4 他の事業所においても同様の事態が発生していたか .................. 17
5 ソシアリンクにおけるリスク管理 ................................... 17
6 原因分析結果 ....................................................... 19
Ⅲ 危急時のクライシス管理 .............................................. 22
1 原因の発端に関する事実適示 ........................................ 22
2 入管法違反刑事事件 ................................................ 24
3 原因分析結果 ....................................................... 24
Ⅳ HDにおける子会社リスク管理の問題 ................................. 25
1 本件に関するHDの関与は不存在 ................................... 26
2 HDはなぜこの問題の発生を防止できなかったのか .................. 26
第5 再発防止策の提言 .................................................. 28
1 再発防止策の目的 ................................................... 28
2 通常期におけるリスク管理システム ................................. 29
3 子 会 社 危 急 時 の 危 機 管 理 体 制 の 強 化 .............................. 31
第6 結語 ............................................................... 31
1 本 報 告 書 の 趣 旨 ................................................... 31
2 本 件 調 査 か ら 明 ら か に な っ た こ と ................................ 32
3 法 的 リ ス ク の 重 要 性 ............................................... 32
4 会 社 の 法 務 機 能 の 強 化 ............................................ 33
5 リ ス ク の 前 の 兆 候 の 重 要 性 ........................................ 33
6 事 業 部 門 と 管 理 部 門 の 連 携 ........................................ 34
7 法 務 機 能 ・ コ ン プ ラ イ ア ン ス 機 能 の 強 化 の 必 要 性 ................ 34
第1 当委員会及び本調査の概要
1 当委員会の設置経緯
わらべや日洋ホールディングス株式会社(以下「HD」という。)の子会社
である株式会社ソシアリンク(以下「ソシアリンク」という。)の千葉営業所
に対して、2020年10月13日に家宅捜索が入った。さらに同年11月
18日には、ソシアリンク本社に家宅捜索が入り、同日ソシアリンク千葉営
業所の所長以下社員5名が逮捕された。
そして、同年12月8日、ソシアリンク千葉営業所の所長以下社員4名が
出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。) 違反の容疑で千葉地方
検察庁により起訴され、同月28日にはソシアリンク自体が入管法違反の容
疑で同検察庁により起訴された。
これらの結果を受け、2021年1月18日 にHDにおいて、第三者を委
員長とする社内調査委員会の設置が決定された。
その後、2021年2月2日付で千葉地方裁判所において、ソシアリンク
千葉営業所の社員4名とソシアリンクに有罪判決がなされた。
2 当委員会の目的及び調査事項
当委員会の目的及び調査事項は、外国人労働者派遣という極めてリスクを
伴う事業において通常時のリスク管理システムが機能せず、また危急時にも
かかわらず危機管理システムが機能しなかった事案の事実調査とその原因分
析およびそれに応じた再発防止策の提言である。
3 当委員会の構成
(1)調査委員
ア 当調査委員会は以下の委員により構成されている。
委員長 弁護士 齊藤誠
委 員 社外取締役 監査等委員 弁護士 谷村正人
委 員 取締役 常勤監査等委員 井村幹男
イ 委員長は第三者に依頼した。
委員長である弁護士齊藤誠は、HDともソシアリンクとも、一切の利
害関係を有さない者である
(2)会社側事務局
当調査委員会は、社内調査委員会として発足し、短い期間の中で本調査
を適切に遂行するため、関係する資料及びデータの収集・整理、ヒアリン
グ対象者への連絡・調整のため、社内関係者の補助を得る必要があると判
断し、調査業務を実施する上で必要かつ十分な会社事務局を設置すること
を要請し、総務部 法務・コンプライアンス室長、内部統制室長他合計4
名が会社事務局の構成メンバーとして選定され、本調査の調査期間にわた
り、当委員会の指示に基づき各業務を行った。
1
4 当委員会による本調査の方法・内容
当委員会は、調査期間中、以下の調査を継続的に実施すると共に、計 9回
の委員会を開催し、調査方針、事実認定等について、議論・検討を行った。
(1)関係資料の精査
当委員会は、刑事事件となったことを踏まえ、刑事事件記録とともに、
ソシアリンクに関しては、会社の履歴、組織図、諸規程、外国人労働者の
事業に携わる経緯(稟議書を含む)、千葉営業所の設立経緯、関係社員の
職歴、取締役会議事録、経営会議議事録、派遣登録表、関連するメールに
関する開示等、HDに関しては、会社の履歴、諸規程、組織図等、その他
関連資料について必要と認める範囲での検討を行った。
(2)関係者へのヒアリング
当委員会は、ソシアリンクならびにHDの役員及び従業員等、合計22
名に対して、ヒアリングを実施するとともに、適宜、電話及びメールでの
質問を実施した。
5 本調査の前提
本調査が行った調査の実施期間は、2021年1月18日から同年 3月1
日までである。
本調査は、当委員会に開示された書類または電磁記録の写しについて、す
べて原本と同一であり、かつ、その原本は、すべて真正に成立し、その後の
改ざん等のなされていないものであること、並びにそれらに重大な欠落がな
いことを前提としている。
本調査は、法違反のうち、本調査の上記の方法によって明らかになった事
実について、限られた時間の中で行われたものであり、それ以外の法違反の
調査についての網羅性を保証することはできない。
6 本調査の概要と本報告書の構成
(1)本調査の対象事項
ソシアリンクにおいて入管法違反の刑事事件を発生させたという事実に
関する調査の対象事項は以下の通りである。
第1に、通常期のリスク管理において、ソシアリンクの一営業所におい
て外国人労働者の派遣を行っていたことに関して、なぜ杜撰な外国人労働
者の採用が行われたのかという点である。
第2に、危急時のクライシス管理において、ソシアリンクの経営会議に
おいてその事実が明らかになったにもかかわらず、なぜその後約1年にわ
たってHDに報告されないまま解決せずに、結果的に派遣していた外国人
労働者5人が逮捕され、さらには入管法違反事件として千葉営業所長以下
4名とソシアリンク自体が起訴され、有罪判決を受けるに至ったのかとい
う点である。
2
(2)事実調査結果
以上の点に関する事実調査の結果は、第3 事実調査結果に記載の通り
である。
(3)原因分析
事実調査の結果、その原因の分析結果は、第4 原因分析に記載の通り
である。
(4)再発防止策の提言
以上を前提に、当委員会として、現在の段階で考えられる再発防止策の
提言を行った。その内容は、第5 再発防止策の提言に記載の通りである。
7 開示版の作成
当委員会では、本報告書の開示版を作成し、これを公表の対象とする。開
示版では、個人名については、日本人については本文で登場する順に大文字
のアルファベット表記(A~Z)とし、外国人については小文字のアルファ
ベット表記(a~z)とした(但し、特定の箇所においてのみ記載がある者や、
引用資料に記載のある者については、基本的に、氏名部分を黒塗りとする対
応をとった。)。HDの関係子会社以外の会社を「会社甲」「会社乙」と表記
した。
第2 本件の背景
1 本件は外国人労働者の派遣事業
(1)外国人労働者の派遣事業
外国人技能実習生の事業とは異なり、本件は、日本在住の外国人を雇用
して事業所に派遣する事業に関して発生した刑事事件である。
日本在住の外国人で会社において雇用できる在留資格は極めて限られて
いる。今回、不法滞在者となった外国人はベトナム人労働者であるが、そ
の在留資格のほとんどは、「定住者」「特定活動」となっていた。しかし、
実際には、日本在住のベトナム人において当該在留資格を有する者は極め
てわずかであった。
(2)不法滞在者の外国人の就労は入管法違反
入管法においては、事業活動に関し、不法滞在の外国人に就労活動をさ
せた者については刑事処罰規定があり、刑事犯罪となるものである (入管法
73条の2 1項)。
しかも、不法滞在の外国人労働者に就労活動をさせた者は、不法滞在者
であったことについての認識に過失がなかったことを証明しない限り、罪
を免れないとされている(入管法73条の2 2項)。
従業員がこの罪を犯した際にはその従業員の所属する法人に対しても両
罰規定が定められている(入管法73条の2)。
3
そして、労働者派遣事業等法においては、この罪を犯した事業者は、派
遣の許可が取り消されるのである(法6条)。
(3)外国人技能実習生の失踪問題
外国人が技能実習生で来日した際、技能実習先から失踪するという問題
が存在している。その人数は、8,000人以上(2019年)と言われて
いる。
出入国管理庁は2019年12月24日付けで、「技能実習生制度にお
ける失踪問題への対応について」と題する通知を行っ た。この中では、失
踪防止に向けた施策と同時に、失踪した技能実習生の不法就労を防止する
施策があげられている。
2 在留カードの偽造問題
( 1 )外 国 人 は 、日 本 在 住 し て い る 際 に は 、在 留 カ ー ド の 携 帯 が 義 務 づ け
られている(入管法23条2項)。
この在留カードには、 度のセキュリティ機能を有するICチップ
高
が 内 蔵 さ れ て い る ほ か ,券 面 に は ,ホ ロ グ ラ ム や 光 学 的 変 化 イ ン キ な
どの偽変造防止対策が施されているが、 造在留カードが出回ってお 偽
り、見分けることが非常に難しい状況が存在している。
(2)出入国管理庁では、2020年12月25日からは、在留カードのIC
チップを読み取って、在留カードが偽造かどうかを判断できる「在留カー
ド等読取アプリケーション」の無料配布をしているが、2019年11月
当時はまだこのような情報はなかった。
(3)2019年11月、ソシアリンク千葉営業所において、多数の外国人労
働者が派遣されている事実が明らかになった当時、出入国管理庁に、「不
法滞在者かどうかをどのようにして判断したらいいか」を問い合わせした
ところ、住民票の取得を要請し、その取得ができないのであれば、不法滞
在者であると判断できるというものであった。
なお、当時、千葉営業所では社会保険に加入していれば、不法滞在者で
はないと判断できるのではないかとの認識が一部あったが、これも不法滞
在者であっても社会保険には加入が可能であった。
第3 事実調査結果
1 対象企業(ソシアリンク)の概要
(1)業務内容(本事案関連)
一般労働者派遣事業/有料職業紹介事業/各種業務請負事業/外国人
技能実習生等に対する教育研修等事業 その他
(2)会社概要
ア 資本金 5 ,0 0 0 万 円
4
わらべや日洋ホールディングス株式会社〈東証1部〉の100%子会社
イ 事業実績等(直近3年間)
売上高 経常利益 純利益
2019年2月期 13,284 百万円 269 百万円 167 百万円
2020年2月期 12,746 百万円 133 百万円 76 百万円
2021年2月期
7,392 百万円 △159 百万円 △263 百万円
(3月~11月)
ウ 従業員数 159名
派遣労働者数
(ア)「内販」といって、HDのグループ企業であるわらべや日洋(株)へ
の労働者派遣事業 約2,500名
(イ)「外販」といって、HDのグループ企業以外の企業への労働者派遣
事業 約1,500名
(3)略史
2002年 9月10日 設立(設立時の商号:(株)ニチヨーテック)
12月 一般労働者派遣事業及び有料職業紹介事業開始
2003年 9月 1日 関連会社である(株)ヒューマンテック(1997年3月
設立)を吸収合併
2003年12月15日 本店移転(千代田区神田小川町から新宿区西新宿)
2008年 3月 1日 商号変更:(株)ソシアリンク
2009年 4月 会社甲から製造派遣業務の営業譲渡
2009年12月 法務管理規程制定
2016年 3月 外国人研修事業開始
第一事業部に外国人管理課を設置
2017年 3月 1日 外国人管理課を業務企画部に移行
法務部に法務課を設置
2018年 2月14日 臨時取締役会において千葉営業所の新設並びに北関東営
業所の閉鎖及び千葉営業所への業務移管を決議
2018年 3月 1日 千葉営業所 開設
2018年 4月 1日 千葉営業所 開業
所長 A、課長 B
C(総務等)、D(営業)
内販 取引先 わらべや日洋(株)
外販 取引先 会社乙(首都圏営業所より引継。現商
号:会社乙)
2018年 6月 1日 法務課が管理部に移行
2019年 4月15日 本店移転(新宿区西新宿から新宿区富久町)
2019年12月16日 (株)キャストリンクを100%子会社として設立。
5
同社に外国人技能実習生等に対する教育研修等事業を移
管(同社は今回の事件とは無関係)
2 入管法違反被疑・被告事件の経過及び該当企業の対応
(1)発生事態
2020年10月13日 千葉営業所 家宅捜索
2020年11月18日 本社事務所 家宅捜索
同日 千葉営業所従業員5名逮捕
2020年12月 8日 千葉営業所従業員4名について、千葉地方検察庁が入管
法違反の容疑により起訴(1名不起訴)
2020年12月28日 対象企業について、千葉検察庁が入管法違反の容疑によ
り起訴
2021年 2月 2日 公判期日・同日判決言渡
2021年 2月16日 判決確定(2月16日の経過をもって)
(2)起訴事実
ア ソシアリンク
ソシアリンクは新宿区に本店を置き、労働者派遣事業等を営むもので
あるが、被告会社の従業員として労働者の採用、管理等の業務に従事す
るものらが共謀して、業務に関し、在留期間を経過して不法に本邦に残
留する外国人を被告会社の派遣従業員として、派遣先に派遣して従業員
として稼働させて報酬を受ける活動に従事させ、 もって事業活動に関し、
外国人に不法就労活動をさせたもの。
出入国管理及び難民認定法違反 73条の2第1項1号、76条の2
イ 従業員ら4名
被告人は、労働者派遣事業等を営むソシアリンクの従業員として、在
留期間を経過して不法に本邦に残留する外国人を被告会社の派遣従業員
として、派遣先に派遣して従業員として稼働させて報酬を受ける活動に
従事させ、もって事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせたもの。
出入国管理及び難民認定法違反 73条の2第1項1号
<参考>
第73条の2 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役若しく
は3百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
1 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
第76条の2 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の
従業者が、その法人又は人の業務に関して、第73条の2の
罪を犯したときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に
対しても、各本条の罰金刑を科する。
(3)判決内容
ソシアリンク 罰金200万円
6
A 懲役1年 執行猶予3年
罰金100万円
B 懲役10月 執行猶予3年
罰金100万円
E 懲役10月 執行猶予3年
罰金100万円
D 懲役10月 執行猶予3年
罰金100万円
(4)ソシアリンク 事業撤退
2021年1月18日 ソシアリンクの全事業撤退及び一部事業譲渡に
関し、HD取締役会で決定の上、東証適時開示。
この刑事事件により、ソシアリンクは、労働者派遣事業 等法により派遣
事業そのものを運営できなくなり、毎年100億円以上を売り上げていた
会社そのものを閉鎖せざるを得なくなった。
<参 考 >
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
第6 条 ( 第 1 号 )
次の各号のいずれかに該当する者は、前条第 1項の許可を受けることがで
きない。
出入国管理及び難民認定法第73条の2第1項の罪を犯したことによ
り、罰金の刑に処せられたもの(刑の執行が終わった日から5年間)。
3 本件に係る経過事実
(1)千葉営業所の開業(2018年4月)
千葉営業所は2018年3月1日に開設され、同年4月から開業した。
2018年2月の臨時取締役会で千葉営業所の新設が決定されたが、その
稟議書には収支・人員体制等の事業計画が添付されておらず、設置後にも
計画進捗状況の報告はなされていなかった。
開業にあたり、外販業務としては、首都圏営業所から 会社乙に関する事
業の移管を受けている。
同営業所社員Dは、異動前の首都圏営業所勤務当時から業務を通じ、ベ
トナム人男性aと面識があったが、千葉営業所開業の当初より、 aから他
のベトナム人派遣労働希望者の紹介を受けていた。
なお、B課長もD社員から引き合わされ、以後、aからの紹介を受ける
ようになる。
(2)派遣先外国人労働者逮捕(2018年7月11日)
首都圏営業所において採用され、会社乙に派遣していたベトナム人労働
者bが逮捕される(同人の採用担当者はD社員)。逮捕にあたっては、事
前に船橋警察署から本社(F法務課長が対応)に連絡があり、本社から千葉
営業所(A所長及び同社担当のB課長)にも情報が伝達されていた。
7
なお、A所長及びB課長に対する事情聴取の結果、両名が G第三事業部
長及びH次長に対して事件の報告及び他の「怖い」「送迎して欲しい」と
要望のあったベトナム人派遣労働者、すなわち不法滞在者の疑いがある 会
社乙へ派遣している他の外国人の派遣労働者の対応について相談をした。
しかしながら、当時のG部長とH次長は、不法滞在者の疑いがあっても、
「書類が整っていれば大丈夫じゃないか」との判断で、千葉営業所におい
ては、そのまま、不法滞在の疑いのある外国人労働者の雇用が継続される
こととなった。A所長らは、この回答の趣旨を「実際はオーバーステイな
どだったとしても、書類上明らかでなければ採用して派遣しても構わない
という意味だと理解した」旨述べている。かかる相談及び回答の事実につ
いては、H次長が既に退職済みのため事情聴取ができなかったことから未
確定であるが、そのままこの不法滞在者の疑いのある者の雇用が継続され
ていることからG部長らとの間においてこのような報告、回答がなされて
いたことが推認される。
さらに、bが逮捕されたことを知った他のベトナム人派遣労働者から、
B課長に対して「送迎して欲しい」などといった要望が出された。 A所長
らによれば、当該事実についてもG部長らに対して報告、相談が行われた
とされるが、確認が出来なかったことからこの点については未確定である。
(3)経営会議(2018年10月29日)
2018年10月29日の経営会議において、「第三事業部」報告とし
て、「警察から調査の入った従業員から10/29退職希望が出た。警察に
相談し、通常通りの退職処理を行うことになった。」旨の報告がなされて
いる。
(4)ハローワーク(公共職業安定所)による確認・指導等(2018年)
前記ベトナム人労働者逮捕後においても、ハローワークによる千葉営業
所の業務に関する確認と外国人派遣労働者雇用に際しての確認事項等に関
する指導が行われたが、特段、業務及び雇用に関して違法等の指摘は受け
ることはなかった。
また、これとは別途に、入管から複数のベトナム人労働者(その時点で退
職済み)に関する問い合わせがあったが、問い合わせの目的や具体的事実内
容については知らされなかった。
(5)I本部長が兼任にて第三事業部長に就任(前任者: G部長)(2019
年3月1日)
I本部長が第三事業部部長に就任した後の 2018年4月頃、千葉営業
所A所長及びB課長が、千葉営業所における収支会議の場で、I本部長に
在留資格や在留カードに不審なケースが多く見られる事情を報告し相談 し
た事実がある。
A所長は、この収支会議の場でこの問題を取り上げた理由を、「そうい
った状況の中で自分自身不安になり苦しくなったことで、これで大丈夫か
と思ったこと」をあげている。その原因として、採用した外国人労働者か
8
ら在留カードがなかなか出てこないとか、法的な書類に誤字脱字があった
り、偽造を疑う事例があったこともあり、これらの事実を包み隠さず話し
たとする。
これに対してI本部長は、「そのような相談は受けていない」と否定
する。
しかしながら、怪しい在留カードの外国人労働者が続出して、 A所長と
してはどのようにしたらいいのか、大きく悩み、千葉営業所における収支
会議の場で、このような事態をどのようにしたらいいのかの相談を行った
こと自体が全く存在しなかったとの認定はあり得ないと判断する。
このとき、I本部長からは「書類が揃っていれば問題ない」旨の回答を
したとされる(なおI本部長の発言のニュアンスないし意味内容について
は、認識に齟齬があった可能性がある。)。
(6)Eが千葉営業所に着任(2019年6月)
B課長から会社丙等を、D社員から会社丁の担当を引き継いだ。
また、引継ぎにあたり、B課長からaを紹介され、D社員からも「(人が)
足りなければ(相談してくれれば)探してくる」と言われていた。
(7)Jが千葉営業所に着任(2019年7月)
着任当初は専らB課長、D社員らの補助的業務を担当していたが、その
後B課長から会社戊の担当を引き継いだ。
aについては、B課長から紹介された。
(8)前記入管法違反被疑・被告事件に係わるベトナム人労働者を 会社丁に派
遣した(2019年7月~2020年10月)。
(9)ハローワーク職員による千葉営業所来訪(2019年10月)
ハローワーク職員が千葉営業所を来訪し、法務省データーベースと厚生
労働省データーベースとを付け合わせることができるようになった旨の説
明を受けるとともに、同営業所に登録がある(退職者含む)ベトナム人派遣
労働者に関して、在留カードの番号が重複している者が約 40名存在する
旨の指摘を受ける。
上記事実に関しては、千葉営業所から本社法務課(F課長)に対して報告
がなされたが、これに対して、法務課からも、同課から報告を受けた管理
部からも、千葉営業所に対する指示、指導が行われた事実は確認出来なか
った。
(10)派遣先外国人労働者逮捕(2019年10月)
会社丙に派遣していたベトナム人労働者(***********) が逮
捕される。
会社丙からの要請に基づいて、同社に派遣中の労働者の在留資格、期間
及び在留カードの番号重複等の再確認が行われることとなった。また、こ
のことを契機として、他の派遣先を含めたベトナム人労働者について同様
の確認が行われることとなった。
(11)「在留資格・在留カードチェック表」の作成(2019年11月20日)
9
会社丙分はE社員が確認及び作表を行い、その他の派遣先企業の分はA
所長の指示によってJ社員が確認及び作表を行った。最終的にJ社員が千
葉営業所保管の基本書類から前記チェック表を完成させている。
(12)経営会議(2019年11月25日)
経営会議において、前記チェック表の内容が報告された。
同会議の議事録には「ベトナム定住者: 100名稼働中60名の在留番号
に問題あり。」、「11/25会社戊、11/26会社丁と会社丙に訪問し
説明を実施。」、「[社長]①在留資格の問題、住民票を貰うようにし、提
出できないと在留資格なしと判断する。」との記載がある。
社長の指示にある「住民票の提出」については、 I本部長が事前に入管
に相談した結果に基づいて方針決定されたものと思われる。
同会議の結果、I本部長から千葉営業所(A所長)に対して、在留資格が
失効している者は直ちに解雇し、在留番号が重複している者については住
民票の提出を求めるよう指示がなされるとともに、提出しない者について
は順次に「入替」(他の派遣労働者を手配して番号重複者を退職させる)を
行うよう指示があったものと推認される。
(13)経営会議(2020年2月3日)
同日の経営会議の議事録には、「会社戊、22名要請中入替12名で残
10名。会社丙、17名要請中入替4名で残10名、その他20名の要請
に特定技能枠。会社丁、18名の要請に対して入替に至らず、内日勤7名
は2月には入替が必至。22名要請中」との記載がある。
本調査委員会に提出された記録及びソシアリンクの役職員に対する事情
聴取の結果、2019年11月25日の経営会議以後に在留番号が重複し
ていたベトナム人派遣労働者に対して住民票の提出を求めた事実も受けた
事実も確認されなかった。加えて、本社の鎌瀬社長、 I本部長らからも、
千葉営業所に対して住民票の提出状況及び未提出者に対する対応について
確認や指示がなされた事実も確認されなかった。
他方、議事録の前記記載のとおり「入替」(番号重複者の退職)について
順次進められている事実及び依然として完了しておらず相当数が残ったま
まである事実等が確認されている。
なお、A所長からの事情聴取結果によると、当時、「入替」については、
会社丙及び会社戊に関して先行して処理を行っていたため、結果として会
社丁の「入替」が遅くなっていたと思われる。
(14)aの逮捕(2020年8月29日)
千葉営業所に対して多くのベトナム人を紹介してきた aは、2020年
8月29日に自身の「オーバーステイ」の容疑で逮捕された。
同人は、この逮捕の時点で、千葉営業所から 会社己に対して労働者とし
て派遣されていた。千葉営業所では、A所長及びB課長が、aの在留期限
が2020年8月27日(なお、aの供述調書によると実際の在留期限は2
017年6月1日)であるという認識を有していたにもかかわらず、同人の
10
要望を受けて、契約期間を2020年9月4日までとする雇用契約を締結
したうえで、派遣を実行していた。
(15)aが逮捕された事実に関する報告(2020年9月3日)
千葉営業所(A所長)は、2020年9月3日に船橋警察署からの連絡を
受けて、遅くともこの時点でaが逮捕された事実を認識し、その事実につ
いては、F法務課長に報告された後、さらに同課長から鎌瀬社長、 I本部
長、K管理部長らに報告されている。
さらに、後述する2020年9月8日付のA所長及びB課長の「始末書」
の記載からは、千葉営業所では、上記同日に aの弁護人から電話連絡を受
けており、その際にaについては「オーバーステイ以外にも別件があるよ
うだが。詳細は言えない」との説明を受けていたことが確認できる。
なお、F法務課長から鎌瀬社長らへの報告に際し、「今回のような出頭
申告後の就労は通常問題ですが、コロナによる特例があるのかは A所長が
入管に確認予定」などとの記載があることに加え、後述するとおり aが逮
捕された後も会社丁に対する「番号重複者」の派遣を継続していた事実か
らすると、ソシアリンク本社でも千葉営業所でも、aが逮捕された事案が
重く評価されていなかったものと推認される。
(16)A所長及びB課長は、aの在留期限越えの雇用契約を締結したことに関
する「始末書」を鎌瀬社長宛に提出した(2020年9月8日)。
(17)会社丁に関する「入替」の進捗状況(2020年9月末~10月初)
「入替」に関しては、I本部長の指示に基づき、当初は2020年2月
末までに完了することを目指していたが、実際にはそのとおりには進んで
おらず、同年9月の時点でも会社丁の17名について「入替」が完了して
ない状況にあった。このような進捗状況については、定期的に実施される
ソシアリンクの「経営会議」(週1回)又は千葉営業所の「収支会議」(月1
回)においても、随時報告されていた。
2020年9月末に上記17名中12名を退職させたため、同年10月
初めの時点で会社丁に関して「入替」が完了してないベトナム人派遣労働
者は5名となった。
会社丁に5名のベトナム人労働者の派遣が継続されている事実について
は、A所長からI本部長に対して報告がなされていたが、 I本部長の、こ
の5名が前述した「番号重複者」であることに関する認識については、 A
所長とI本部長との供述に齟齬が存在する。すなわち、I本部長の供述で
は、A所長から5名のベトナム人労働者に関する派遣継続の報告を受けた
際、これらの者が「番号重複者」ではないことを確認する趣旨で A所長に
「大丈夫か」と尋ね、それに対して同所長は「大丈夫です」と回答したと
される。他方で、A所長の供述では、そのような趣旨の質問を受けたこと
はなく、むしろ収支会議その他の機会での報告により、I本部長もこれら
5名が「番号重複者」である事実を認識して いたはずであるとされている。
本調査委員会の目的に鑑みて、両名に対する事情聴取に関しては上記のよ
11
うな齟齬が存在している事実を確認するにとどめた。
(18)千葉営業所に対する家宅捜索(2020年10月13日)
以下の事実経過については、第2項「入管法違反被疑・被告事件の経過
及び該当企業の対応」に記載したとおりである。
4 事実調査結果(補足)
(1)aが紹介した就業希望者にかかる在留カードが偽造されたものであった
ことに関する認識
在留カードについては、偽造されたカードが広まっている。そして偽造
の在留カードについて、それ自体を見抜くのは極めて難しい状況がある。
但し、千葉営業所においては、A所長、B課長、E社員、J社員らは、いず
れもaが紹介した就業希望者にかかる在留カードについて、偽造されたも
のが存在していた事実を知っていたと思われ、あるいは少なくとも確信に
近い程度で推知していた。
本社においては、I本部長及びG部長は、A所長らから、千葉営業所が
雇用するベトナム人派遣労働者の在留カードについて偽造のものが存在し
ている可能性について報告を受け、認識していた。他方、就業希望者が提
出した在留カードの中で、偽造を疑うに足る著しい不審点が見られる具体
例などについても報告を受けていたが、これら著しく不審な具体例にかか
る就業希望者が実際に雇用されている事実に関してまでは確知していなか
ったようである(但し、この点に関してI本部長らが、積極的に具体的な確
認等をした事実は認められない)。
(2)aに対するクオカードの交付状況等
ソシアリンクでは、同社が雇用している労働者が他の就業希望者を紹介
した場合、「クオカード等現金同等物取扱いマニュアル」に基づき、謝礼
として一定額のクオカードを交付することができる制度が設けられてい
た。
千葉営業所では、aからベトナム人の就業希望者の紹介を受けていたた
め、同人に対して、2018年12月から2019年12 月の期間、合計
183枚91万5,000円相当のクオカードを交付していた(K管理部長
作成 2020年11月5日付)。
クオカードの交付は原則としてソシアリンクが雇用している者に対して
のみ支給するという運用になっていたが、aは上記交付期間中、ソシアリ
ンクに雇用されていなかった。
クオカードの交付にあたっては、本社に対して稟議を上げて決裁を得る
ものとされていた。上記「千葉営業所 不法滞在者へのクオカード支給につ
いてのご報告」によると、aに対する交付に関する稟議の大多数について
は、所定事項の記載や添付資料に不備が認められるが、これらの点が指摘
された事実は確認できず、前記不備が是正されないまま承認の決裁がなさ
れていた。なお、決裁権限者である第三事業部長は、上記交付期間中の内
12
2018年12月から2019年2月までの期間がG部長、2019年3
月から12月までの期間がI本部長であった。
また、全期間を通じて管理部長はKであった。
(3)千葉営業所におけるベトナム人派遣労働者に関する役職員らの認識
千葉営業所が雇用するベトナム人派遣労働者が多数人であった事実に関
しては、千葉営業所の職員のみならず、本社の鎌瀬社長、第三事業部部長
のI本部長及び元第三事業部部長のG部長らも認識していた。
他方で我が国に滞在するベトナム人の内、在留資格が「定住者」とされ
る者の人数が5,000人程度である事実に関しては、ほとんどの者がまっ
たく認識していない、あるいは上記のような統計を意識していなかったよ
うである。
また、千葉営業所においてベトナム人派遣労働者を雇用するにあたり、
紹介者が介在している事情については、上記の本社役職員らも認識ないし
推認していたが、実際の紹介がほとんど aによって行われていた事実に関
する認識は千葉営業所の従業員らにとどまり、本社役職員は認識していな
かったようである(但し、上記クオカードの交付稟議に対する決裁が適切に
行われて入れば認識することが可能であったと考えられる )。
第4 原因分析
Ⅰ 原因分析にあたっての序論
わらべや日洋ホールディングス株式会社(HD)の子会社であるソシアリ
ンクにおいて入管法違反の刑事事件を発生させたという事実についての原因
分析をするにあたっては、以下の視点で分析することが必要である。
第1に、通常期のリスク管理において、ソシアリンクの一営業所において
外国人労働者の派遣を行っていたことに関して、なぜ杜撰な外国人労働者の
採用がおこなわれたのかの点についての原因分析を行う必要がある。
第2に、危急時のクライシス管理において、ソシアリンクの経営会議にお
いてその事実が明らかになったにもかかわらず、なぜその後約1年にわたっ
てHDに報告されないまま解決せずに、結果的に派遣していた外国人労働者
5人が逮捕され、さらには入管法違反事件として千葉営業所の所長以下4名
とソシアリンク自体が起訴され、有罪判決を受けるに至ったのかという点に
ついての原因分析を行う必要がある。
Ⅱ 通常期のリスク管理についての原因分析
(なぜ千葉営業所で杜撰な外国人労働者の採用がおこなわれたのか)
1 原因の発端に関する事実の適示
(1)2018年2月の臨時取締役会の決議において、北関東営業所を閉鎖し
13
て、その業務を新設する千葉営業所に移管し、東関東地区の外販拠点の事
業所として千葉営業所を発足させた。
この千葉営業所は、わらべや日洋株式会社の千葉工場ならびに首都圏営
業所の外販取引先であった会社乙への派遣事業を引き継ぐ形で、2018
年3月1日付で中部営業所長であったA所長が、4月1日付で中部営業所
課長であったB課長、首都圏営業所勤務のD社員、南東北営業所勤務のC
社員の4人が異動し発足をした営業所であった。
(2)千葉営業所は、2018年4月1日から営業を開始した。
(3)首都圏営業所から引き継いだ外国人労働者の派遣を行っていた 会社乙に
おいては、首都圏営業所から千葉営業所に異動したD社員が、aというベ
トナム人の口利きブローカーに大きく依存していた。その後、 会社乙をD
社員から引き継いだB課長は、引継から1か月程度、aに派遣先の外国人
労働者のシフト作成までをも依頼する関係となっていた。そして引き継い
だ会社乙においては、D社員が雇い入れに関与した不法滞在のベトナム人
が数人在籍していた。
(4)その結果、2018年7月に、この会社乙に派遣していた外国人労働者
が逮捕されるという事件が発生した。
2 問題発生後の処理上の問題
(1)この外国人労働者の逮捕をきっかけに、同じく 会社乙に派遣されていた
外国人労働者においても、自分も逮捕されるのではないかということで動
揺が広がった。これはすなわち、逮捕された外国人労働者と同様の不法滞
在の疑いがあるということであった。
(2)当時の千葉営業所のA所長とB課長は、上長である、第三事業部のG部
長とH次長に、「怖い」「送迎して欲しい」と要望のあったベトナム人派
遣労働者、すなわち不法滞在者の疑いがある 会社乙へ派遣している他の外
国人の派遣労働者の扱いについて相談した。
(3)しかしながら、当時のG部長とH次長は、不法滞在者の疑いがあっても、
「書類が整っていれば、大丈夫じゃないか」との判断で、千葉営業所にお
いては、そのまま、不法滞在の疑いのある外国人労働者の雇用が継続され
ることとなった。
(4)2019年3月、第三事業部の部長が、G部長からI本部長の兼務にな
ったことから、A所長とB課長は、千葉営業所の収支会議の場で、この不
法滞在者の疑いのある派遣外国人労働者の問題を取り上げた。
A所長は、この収支会議の場でこの問題を取り上げた理由を、「そうい
った状況の中で自分自身不安になり苦しくなったことで、これで大丈夫か
と思ったこと」をあげている。その原因として、採用した外国人労働者か
ら在留カードがなかなか出てこないとか、法的な書類に誤字脱字があった
り、偽造を疑う事例があったこともあり、これらの事実を包み隠さず話し
たとする。
14
これに対してI本部長は、「そのような相談は受けていない」と否定す
る。しかしながら、怪しい在留カードの外国人労働者が続出して、 A所長
としてはどのようにしたらいいのか、大きく悩み、千葉営業所における収
支会議の場で、このような事態をどのようにしたらいいのかの相談を行っ
たこと自体が全く存在しなかったとの認定はあり得ないと判断する。
(5)この収支会議におけるA所長からの問題に対するI本部長の態度は、 「書
面上みてわからない者であれば仕方ないよね」との回答であった。
これで、A所長の判断は、「わからないものであっても採用していいん
だな、雇用継続してもいいんだという形で、判断がつかないものは全てオ
ッケーということになった」と述べている。またこの回答を聞いた B課長
は「ショックを受けて、もうこれはだめだと思った」と証言している。
I本部長は、在留資格に問題あるとか、パスポートに問題あるとか を相
談された事実はないと否定するが、A所長からの相談に対して「辞めさせ
ろ」と指示していないことは認めている。
(6)派遣労働者のほとんどが外国人である千葉営業所において、採用は基本
的に採用担当者任せとなっており、採用にあたっての面接では、千葉営業
所の面接室は一切使用されず、紹介があった場合には、派遣先の工場の近
くの駅においてその人物と待ち合わせ、そこで会社車両の車内で会って、
在留カードの現物が提示できなくても、後に画像で送ればいいということ
で担当者がその場で採用を決定していた。
採用した際の外国人労働者のチェックシートは、採用後に、千葉営業所
の事務担当者のC社員が、採用担当者のメモから作成していた。
日本人労働者の場合には、会社指定のフォームに面接の時に本人に記 入
してもらい、個人情報を預かるのでその同意書とそれ以外のいくつかの入
社書類に記入する形となっていたにもかかわらず、外国人労働者の採用方
法は極めて杜撰なやり方となっていたのである。
採用にあたっては、ベトナム人の口利きブローカーに依頼する例が多数
にのぼった。このベトナム人ブローカーは、口利きをしたベトナム人から
紹介料を徴収していたことを知りながら使っていたものである。このベト
ナム人の口利きブローカーから紹介されたベトナム人の採用の際には、在
留カードは採用の際には現物で確認することとなっていたが、採用面接の
際は持ってこなかったなどとして、あとから画像で届けられるほどの杜撰
さであった。
提示された在留カードも、住所の表記が異なるなど、公務所で作成した
とは思えない杜撰なものであった。
(7)約90万円のクオカードが、このブローカーのベトナム人に渡っていた。
通訳料のつもりで、このベトナム人にクオカードを渡したとするが、現金
同等物であるこのクオカードの支払の稟議書には、添付書類がついていな
いものや空白なもの(すなわち誰に渡したか不明なもの)があった。実際
にこのクオカードが誰に渡されたかどうかも確認できない形で支出されて
15
いた。この稟議書は、第三事業部の部長決裁、回議先K管理部長となって
いた。
(8)2019年10月、ハローワークの担当者が千葉営業所に来訪し、法務
省データーベースと厚生労働省データーベースの突き合わせが可能となっ
たことから、千葉営業所において就業している外国人労働者で在留番号の
重複者が約40名近く存在していることが知らされ、問題ないかの報告を
求められた。この事実は、ソシアリンクのF法務課長にも報告されている。
(9)2019年10月、会社丙に派遣していた外国人労働者が逮捕されると
いう事件が発生した。そこで会社丙から、派遣されている外国人労働者の
在留資格についてチェックするよう申し入れがあった。
(10)千葉営業所においては、上記の件をきっかけとして、 A所長の指示で、
J社員が、千葉営業所において派遣していた外国人労働者についての調査
を行った。
J社員は、事務のC社員の協力を得ながら、事務所保管の基本書類から
在留資格・在留カードチェック表(退職者を含む)(以下「在留資格チェ
ック表」という。)を作成した。
(11)千葉営業所の2019年11月18日の収支会議の後、外国籍従業員に
関するミーティングがあり、上記の在留資格チェック表が配布され、今後
の対応についての協議がなされた。
(12)2019年11月25日のソシアリンクの経営会議でこの千葉営業所の
不法就労問題が報告された。
3 在留カードチェック表による千葉営業所の外国人派遣事業の状況
(1)2019年11月20日付で、千葉営業所で作成された在留資格チェッ
ク表によれば、千葉営業所において外部に派遣していた外国人労働者の状
況は以下の通りであった。
なお千葉営業所においては、この在留資格チェック表作成時点では、内
販のわらべや日洋(株)への派遣労働者はおらず、派遣労働者のほとんどが
外販の外国人労働者であり、かつベトナム人であった。
(2)在留カード重複者
129名中、82名の在留カードの番号が重複であり、明らかな在留資
格のない失効者が7名であった。
(なお実際には全員が不法滞在者であった可能性がある。)
(3)派遣していた外国人労働者の在留資格
ア 129名中、109名が「定住者」資格であった。この「定住者」資格
を有する外国人労働者は全員ベトナム人であった。
「定住者」とは、日系二世三世、ミャンマー難民などであり、ベトナム
人で日本に在住している「定住者」は5,500人しかいない。
イ 129名中14名が「特定活動」資格であった。 この「特定活動」資
格を有する外国人労働者は全員ベトナム人であった。
16
「特定活動」資格とは、外交官等の家事使用人,アマチュアスポーツ
選手及びその家族などであり、ベトナム人で日本に在住している「特定
活動」資格をもっているのは5,000名を切っている。
ウ その他には、留学生5名、日本人の配偶者が1名であった。
(4)この外国人労働者の派遣先は、会社丙に19名、会社戊に42名、会社
丁に32名、会社乙に17名、会社己に10名、その他2社に9名と、派
遣先事業所によっては極めて多数に及ぶものとなっていた。
(単位:名)
派遣先 会 社 丙 会 社 戊 会 社 丁 会 社 乙 会社己 そ の 他 計
在留資格 2社
定住者 17 38 30 13 4 7 109
特定活動 2 4 2 1 5 14
留学生 3 2 5
日本人配偶者 1 1
合計 19 42 32 17 10 9 129
4 他の事業所においても同様の事態が発生していたか。
(1)首都圏営業所における不法就労者
首都圏営業所においても外販先に外国人労働者を派遣させているが、L
所長の指示の下、入管法に関する情報共有や、仲介ブローカーは一切使わ
ない方針などを徹底しており、今回の刑事事件発生の際、調査した結果は
外国人の派遣労働者約260人中不法滞在者は9名であった。この調査結
果に基づきこれらの該当者は解雇されている。
(2)このような首都圏営業所の事業運営は、千葉営業所とは、事業所交流も
あったが共有されていない。
5 ソシアリンクにおけるリスク管理
(1)ソシアリンクにおける外国人技能実習生事業
ア ソシアリンクは、2016年3月から外国人 技能実習生事業を開始し、
第二事業部に外国人管理課を設置した。2017年3月に管理本部に法
務部を設置して法務課をおいた。2018年6月に管理本部が管理部と
なり、法務部は管理部の下に法務課として設置された。
イ ソシアリンクにおける外国人管理課による外国人 技能実習生事業は、
もっぱら、わらべや日洋(株)の製造工場が受け入れる技能実習生に対す
るものであった。
ウ ソシアリンクは、この外国人の技能実習生の研修センター2箇所を設
けて、外国人技能実習生の入国後講習を行っていた。そこでは、日本語、
日本での生活一般に関する知識、法的保護に必要な情報、日本での円滑
な技能等の修得に資する知識と配属先特有の教育も行っていた。
17
エ そしてこのノウハウを活かして外国人技能実習制度における健全な運
営、また技能実習生がより良い環境のもと技術や知識を習得できるよう、
実習実施者(企業)向けに、外国人技能実習制度及び関係法令等の遵守
状況を確認するための模擬監査サービスを実施していた。
オ なおこの外国人技能実習生の事業は、2019年12月にソシアリン
クの100%子会社として設立された(株)キャストリンクに事業移管さ
れている。
(2)ソシアリンクにおける外国人労働者の 派遣事業とその問題点
ア ソシアリンクは上記の外国人技能実習生事業とは別に、以前から外国
人労働者の派遣事業を行っていた。当初は、ブラジル人の二世三世や留
学生の外部の事業所への派遣を行っていた。
イ ソシアリンクは、外国人労働者の派遣事業を行っていたが、外国人技
能実習生に関する事業とは異なり、この事業におけるリスク認識は極め
て低かった。そのため特別な研修は全くなされていなかった。
ウ 入管法においては、事業活動に関し、不法滞在の外国人に就労活動を
させた者については刑事処罰規定があり、 刑事犯罪となるものである (入
管法73条の2 1項)。
しかも、不法滞在の外国人労働者に就労活動をさせた者は、不法 滞在
者であったことについての認識に過失がなかったことを証明しない限
り、罪を免れないとされているのである(入管法73条の2 2項)。
従業員がこの罪を犯した際にはその従業員の所属する法人に対しても
両罰規定が定められている(入管法73条の2)。
そして、労働者派遣事業等法においては、この罪を犯した事業者は、
派遣の許可が取り消されるのである(法6条)。
エ ソシアリンクにおいて、外国人労働者の派遣業務を行っていたが、入
管法について、このような認識に至っていたものはソシアリンク内では
極めて少数のものであった。
オ その結果、会社の取締役・事業本部長でさえも、在留カード番号が重
複していたものに対して、「グレー」と判定し、直ちに解雇とせずに順
次入れ替えればすむとの判断をしていたものである。
カ 千葉営業所長のAは、この入管法に関する知識については一切何の研
修も行わないまま所長職に就任させられている。また、千葉営業所に配
属される際、新入社員であったJにおいても、外国人労働者に関する十
分な予備知識のないままに配属させられている。
(3)いくつかのリスクの端緒の存在とその処理の問題点
ア 2018年7月に、千葉営業所において 会社乙に派遣していた外国人
労働者が逮捕されるという事件が発生した。
この情報は、警察署からソシアリンク本社へ逮捕についての連絡が入
ってもたらされているものである。
したがって、ソシアリンクのF法務課長、K管理部長も、この事態を
18
認識していた。
イ この情報は、ソシアリンク内においては、2018年10月29日の
経営会議において、第三事業部報告として、「警察から調査の入った従
業員から10月29日に退職希望が出たが、警察に相談し、通常通りの
退職処理を行うこととなった。」とあると記載されており、経営会議で
も共有していたが、それ以上何の動きにもなっていない。
ウ この後においても、何件かハローワークから、外国人労働者の在籍に
ついての問い合わせなどが千葉営業所にあり、その事実は、千葉営業所
のC社員からソシアリンクのF法務課長には報告がなされていたが、そ
れ以上何の動きにもなっていなかった。
エ 千葉営業所において使っていたベトナム人の口利きブローカーへは、
多額のクオカードが渡っており、この事実をソシアリンクの幹部が知っ
ていれば、外国人労働者の採用にブローカーの存在を認識することが可
能であったが、その発行を行う際の稟議書には、支払先の記入がないな
ど問題があったが、稟議は通過していた。現金同等物でありながら、事
業部長決裁、回議先管理部長の決裁プロセスは極めて杜撰であった。
6 原因分析結果
(1)ソシアリンクにおける原因分析結果
ア ソシアリンクにおける法的リスク管理の問題
ソシアリンクにおいては外国人労働者の派遣事業という、極めて危険
性の高い事業を行いながら、その法的リスクについては、会社内では全
く共有されていなかった。
入管法の犯罪行為に関する知識や労働者派遣事業等法における事業者
への影響については会社の取締役、事業部長、管理部長ならびに事業所
長においては全く共有されていなかった。
イ 事業部と管理部の連携
ソシアリンクには、管理部に法務課が存在していたが、上記の法務リ
スク管理において、自ら営んでいた派遣事業における法的リスクも、あ
るいは本件のような外国人労働者の派遣 には入管法の問題が絡んでいる
にも関わらず、全くといって機能していなかった。
また、千葉営業所が派遣していた外国人労働者が不法滞在者として逮
捕される事件がおきて、それがソシアリンク本部経由で警察から連絡が
入るという事態が発生していたし、管理部の法務課が、この通報の件に
関わっていても全くこの問題が会社内では議論された形跡が存在しな
い。
ハローワークからも、派遣していた外国人労働者について不法滞在者
に関する問い合わせがあり、その事実は、千葉営業所の事務担当の C社
員から法務課のF課長に報告されていたが、これもそのまま見過ごされ
ていた。
19
このように、会社組織内部に法務課が存在してたとしても、それが全
く機能していなかったことについては、法務課の機能を発揮させるかど
うかは幹部の責任であると言わざるを得ない。
ウ 幹部の対応の問題
千葉営業所の発足当時に派遣外国人労働者が逮捕され、さらに同じく
派遣されていた外国人労働者の間にも自分も逮捕されるのではないかと
いう不安が広がって、ソシアリンクが派遣していた外国人労働者におい
て不法滞在の疑いが生じた事実が存在している。
しかしながら、この報告を受けた事業部長が、そのまま雇用の継続を
指示したことが、千葉営業所における不法滞在者の疑いのある就労を広
げた要因になった。
さらに、事業部長が交代したのを機に、新規の事業部長に不法滞在者
の疑いが存在していることを相談したが、同様の回答であって、結果的
には派遣外国人労働者の不法滞在の問題がここでも明確にされなかっ
た。
上記の結果として、千葉営業所では、派遣していた外国人労働者につ
いて、不法滞在の疑いが生じていても、「大丈夫だろう」と言う甘い見
通しのままで雇用が継続されたのである。
この事業部長の判断の結果、新設営業所として派遣事業の拡大が追求
される中で、外国人労働者の採用が優先される結果、このようなあり得
ない事態を現出するに至っているのである。
この意味で、外国人労働者の採用におけるきちんとしたルールの徹底
を求めなかった事業部長の判断の責任は重いと言わざるを得ない。
その結果、最終的に千葉営業所の不法滞在の 疑いのある外国人労働者
の派遣が、派遣先7社129名、派遣数においても、1社で42名、3
2名、19名などと極めて多数にのぼるという最悪の事態を引き起こし
たことの責任は免れない。
エ 新任幹部研修における問題点
ソシアリンクにおいては、新任所長に対する労働者派遣事業ならびに
外国人労働者の派遣における入管法に関する知識の研修は全く行われて
いなかった。
千葉営業所には所長としてA所長が選任されたが、今回の事態が発生
しても、どのように判断をすればいいのかについての知識が全くなく、
問題が大きくなってから、インターネットでようやく知識を得るに至っ
たとしている。首都圏営業所のL所長においても、入管法の知識につい
てはインターネットなどから得た知識を所員に広げていたとされるが、
これも、独自に得た知識を伝えていたに過ぎないものである。
オ 新入社員研修における問題
ソシアリンクにおいては、新入社員に対する労働者派遣事業ならびに
外国人労働者の派遣における入管法に関する知識の研修は全く行われて
20
いなかった。
千葉営業所に新入社員としてJ社員が所属したが、J社員には労働者
派遣事業ならびに外国人労働者の派遣における入管法に関する知識の研
修は全く行われていなかったので、何が何だかわからないうちに、千葉
営業所における不法滞在の外国人労働者の派遣事業に携わらせたことと
なっているのである。
カ 現金同等物の管理の問題
外国人労働者の派遣に関わるベトナム人の口利きブローカーが存在し
たが、このようなブローカーを使うことは極めて危険性が高いこととな
るが(実際にもその通りとなった)、このブローカーには約90万円と
いう高額のクオカードが渡っていた。現金同等物であるこのクオカード
の支払の稟議書には、渡し先氏名が空白となっていたものがあり、実際
にこのクオカードが誰に渡されたかも確認できない形で支出されてい
た。
この稟議書がチェックされていれば、このブローカーの存在が明らか
になった可能性もあったが、稟議書は、第三事業部の部長決裁、回議先
管理部長となっていたが、すべて見逃されているなど、現金 同等物の扱
いが極めて杜撰となっていた。
キ 取締役会での事業所管理の問題
2018年2月の臨時取締役会で千葉営業所の新設が決定された
が、その稟議書には収支・人員体制等の事業計画が添付されておら
ず、設置後に計画進捗状況の報告はなされていなかった。
し た が っ て 、 千 葉 営 業 所 の 開 設 が 、事 業 拡 大 の た め に 本 当 に 必 要
な計画だったかの検証なしにすすめられた可能性がある。
し か も 、2 0 1 9 年 6 月 に は 千 葉 営 業 所 に は さ ら に 2 名 の 社 員 が
増員されているが、 の増員も本当に必要なものであったかの検証
こ
がなされていたとはいえないのである。
こ の よ う に 、事 業 の コ ン ト ロ ー ル が 取 締 役 会 に お い て は 十 分 に は
なされていなかった可能性が高いといわざるを得ないのである。
ク ソシアリンクの企業風土の問題
ソシアリンクの社長であった鎌瀬輝男は、ソシアリンクの会社設立の
ときからの役員であり、長年、代表取締役社長であったため、 社長に対
して他の取締役および幹部はなかなか意見を言い出せる雰囲気ではな か
った。また、コンプライアンスよりも業績重視の企業風土が 同社の中に
あったことも本件発生の原因と考えられる。
(2)HDにおける原因分析結果
ア 本件に関するHDの関与は不存在
本件に関してはHDの関与は認められなかった。通常期のリスク管理
においては、HDと子会社との関係は、HDから同社の役員等を非常勤
取締役と監査役としており、本件当時ソシアリンクにおいては、辻副社
21
長が非常勤取締役、M執行役員人事部長が監査役に就任していたが、本
件関連事実については、取締役会の議題に挙げられてはおらず認識には
至っていない。
また以下の通り、HDと子会社との関係における様々な制度が存在し
たが、いずれにも、刑事事件発生に至るまで一切どこにおいても認識す
るには至っていなかった。
イ コンプライアンス委員会
コンプライアンス委員会も開催されており、オブザーバーとしてソシ
アリンクの管理部長も出席していたが、このソシアリンクの外国人労働
者の派遣に関しては議題にもなっておらず、また議論された形跡は存在
しない。
ウ 社内通報制度およびコンプライアンスに関するアンケート
HDにはグループ内部通報制度が存在したが、この外国人労働者の派
遣に関する通報は存在していなかった。
HDは、隔年で子会社に対しコンプライアンスに関するアンケート調
査も行っていたが、このアンケートにも、ソシアリンクにおける不法滞
在の外国人労働者の申告はなされなかった。
エ HDの内部統制室
HDの内部統制室の内部監査は子会社事業所に対しても2016年7
月から開始されていたが、この監査の実施先としてソシアリンクの千葉
営業所と首都圏営業所は入っていなかった。
オ HDの法務・コンプライアンス室
HDの法務・コンプライアンス課、後に法務・コンプライアンス室も、
グループの中核である食品事業とは別の分野である派遣事業に関する法
的リスクについての検討はなされていなかった。
Ⅲ 危急時のクライシス管理
(なぜソシアリンクの経営会議においてその事実が明らかになったにもか
かわらず、それが約1年にわたって解決せずに刑事事件となったのか)
1 原因の発端に関する事実適示
(1)2019年11月25日の経営会議
ア ソシアリンクにおいて、2019年11月25日の経営会議(出席者
は、鎌瀬社長、N常務、G部長、K部長など)において、上記の千葉営業
所における不法就労問題が報告された。経営会議議事録には、千葉営業
所が、派遣していた外国人労働者の内、「ベトナム定住者、100名稼
働中60名の在留番号に問題あり」という、衝撃的な事実であった。
その結果、鎌瀬社長からの指示は、在留カードの不正を明らかにする
ために、派遣外国人労働者から、個別に「住民票を貰うようにし、提出
できないと在留資格なしと判断する」ということになった。
22
イ ソシアリンクの取締役会においてはこの問題は一切報告されていな
い。
ウ 管理部への指示も一切なかった。法務課へも何の指示も出ていなかっ
た。
(2)以後の経営会議における処理状況
2019年12月以降2月にかけて毎週開催される経営会議において
「入替」に関する報告が行われており、3月以降も時々「入替」の進捗状
況と思われる報告がなされている。
2020年2月3日の経営会議では、 千葉営業所からの報告として、 会
「
社戊、22名要請中、入替12名で残10名、会社丙、17名要請中入替
4名で残10名、その他20名の要請に特定技能枠、 会社丁、18名の要
請に対して入替に至らず、内日勤7名は2月には入替が必至」と記載され
ている。
同年2月10日の経営会議では、「I本部長 ⑨千葉 2)進捗:会社
戊22名要請中12名在籍し残10名の内3名内定し、その他フィリピン
人対応10名の面接を実施」と記載されている。
同年4月27日の経営会議では、「第三事業部 ⑤千葉【進捗】会社己、
生産調整にて7名入職でストップとなり目標10名に届かず。 期間も 6/5
まで⇒5/29へ変更。但し、東京オリンピック延期に伴い 7月~8月も稼
働する見込みへ」と記載されている。
同年5月18日の経営会議では、千葉営業所として、「 会社己10名稼
働→7名 5/29までの予定が6月も稼働する可能性有。」「会社戊 製
造は一旦5月末で終了、物流のみ8名継続と増員要請4名へ」と記載され
ている。
同年9月28日の経営会議には、千葉営業所からの報告として、「 会社
丁、9月末終了従業員9名(ベトナム人)、行先が決まらず10月末まで
入寮延長希望あり、誓約書を取り交わして対応予定」と記載されている。
(3)ベトナム人の口利きブローカーの逮捕
ア 2020年8月29日に千葉営業所から 会社己に派遣されていた、外
国人労働者の採用の口利きブローカーであったaが逮捕されている。
イ その結果、2020年9月8日に千葉営業所、A所長、B課長より、
鎌瀬社長宛に始末書「aの不法就労問題」が提出されている。
(4)千葉営業所における対処状況
ア 千葉営業所では、2019年11月25日の経営会議の前後である同
年11月18日と同年12月25日の千葉営業所における収支会議にお
いて、この外国人労働者の処理についての協議が行われている。
この協議の結果、明らかに在留資格のない者については即辞めさせる
が、番号の重複者などの「グレー」なものについては順次入れ替えると
なった可能性が高い。社長指示であった、住民票をもらって、提出でき
ない者は在留資格なしと判断するとのことについては、その後経営会議
23
でも問題とはなっていない。
イ まず期末の2月末を目標に入替と外国人労働者の派遣の終了を行っ
た。その結果、2020年6月末の時点で、 会社庚と会社丙のわずかと
会社丁の多数が全部切れずに残った。
ウ さらに、同年9月末の時点で、5名の派遣外国人労働者が、派遣先で
ある会社丁からの要請もあり、12月末日まで派遣が継続されることと
なったが、この5名が逮捕され、今回の刑事事件となった。
2 入管法違反刑事事件
(1)2020年10月13日千葉営業所に家宅捜索が入り、同年11月18
日にソシアリンク本社に家宅捜索とともに、千葉葉営業所従業員5名が逮
捕された。
(2)同年12月8日に千葉営業所従業員4名について入管法違反の容疑によ
り起訴され、12月28日にソシアリンク本体においても入管法違反の容
疑により起訴された。
(3)ソシアリンク 事業撤退
2021年1月18日 ソシアリンクの全事業撤退及び一部事業譲渡に
関する東証適時開示された。
(4)2021年2月2日判決言渡がなされた。
ソシアリンク 罰金200万円
従業員4人全員有罪
3 原因分析結果
(1)経営会議における社長指示の問題
ア 社長指示が不明確
2019年11月25日の経営会議における社長指示では、外国人労
働者については、「住民票の提出を貰うようにし、提出できないと在留
資格なしと判断する」となっていた。
しかしながら、派遣先7社129名、派遣数においても、1社で42
名、32名、19名の多数の外国人労働者が存在していたのであるから、
その派遣先との調整を含めて、在留資格の確認後は直ちにその外国人労
働者は辞めさせるとして、それをどのようにすすめるかの指示は明確に
されていなかった。
イ ソシアリンクにおける処理判断
2019年12月以降2月にかけて毎週開催される経営会議において
も「入替」に関する報告が行われており、3月以降も時々「入替」の進
捗状況と思われる報告がなされている。
これから判断すると、11月25日の経営会議における社長指示の、
「住民票を貰うようにしてもらえない者は在留資格なし」との指示がど
れだけ徹底されていたのか疑問なしと しない。
24
したがって、「住民票を貰うようにして、住民票が入手できない者に
ついては解雇する」との当初の経営会議における方針が、会社としての
売上げ重視、利益の確保や、取引先への信用などの理由で、違法な行為
は一切禁止するとの原則が無視され、 結果として当初の社長指示が「入
替」を容認した内容に変わって社内共通の方針になっていた可能性があ
る。
(2)入管法の知識とリスク認識
この危急時のクライシス管理においても、入管法違反に関する認識不足
が如実に現れている。I本部長が、住民票をとれば不法滞在者であるかど
うかがわかると判断したのは、入管に問い合わせをして認識したとされる
が、一方で、派遣した相手先もあり、多数の外国人労働者を派遣していた
のであるから一度に派遣を切ってしまえば相手先にも迷惑がかかるし、順
次入れ替えればいいと甘く判断したのは、 入管法に関する知識だけでなく、
2018年に入管法が改正され、かつ外国人の技能実習の適正な実施及び
技能実習生の保護に関する法律ができて、諸外国からの非難がある外国人
労働者に関する取り締まり強化についての認識不足があったからと判断せ
ざるを得ない。
(3)危機管理におけるダブルチェック体制の不在
2019年11月25日の経営会議において、多数の外国人労働者の違
法派遣が明らかになった事態が発生していることが、経営会議という、ソ
シアリンクの幹部の間で共通認識となった。このような事態は危急時とし
ての認識がなされるべきであったのに、ソシアリンクには管理部と管理部
には法務課があったのであるにも関わらず、この問題の解決処理は、事業
部に任され、 法務課が存在してた管理部には何の指示もなされていないし、
管理部においても、この問題を認識しながら何の行動もとろうとしなかっ
た。
外国人労働者において住民票の提出を行うという法務的な処理が要求さ
れたのであるから、当然に法務課にも指示がなされるべきであったし、法
務課としてもこの事態に関与することを積極的に動くべきであった。
(4)取締役会
ソシアリンクには取締役会があり、毎月開催されている。取締役会には、
同社の取締役、監査役にHDの役員等を非常勤役員としていたが、ソシア
リンクの常勤取締役3名はこの千葉営業所における不法滞在の外国人労働
者の問題を取締役会の議題に取り上げようとはしていなかった。
したがって、ソシアリンクの取締役会には、HDの副社長の辻と人事部
長であるMが出席していたが、この千葉営業所における不法滞在の外国人
労働者の問題については全く何の認識を持つに至っていないのである。
Ⅳ HDにおける子会社リスク管理の問題
25
1 本件に関するHDの関与は不存在
(1)ソシアリンク取締役会への報告なし
本件に関して2019年11月25日の経営会議において千葉営業所に
おける不法滞在の外国人労働者の問題が取り上げられた以降においてもH
Dの直接の関与は認められなかった。HDと子会社との関係は、HD体制
に移行した後は、HDから非常勤取締役としてHDの取締役、本件当時は、
辻副社長が就任していたが、経営会議においては取り上げられたが、これ
だけ重大な事実が発生したにも関わらず、ソシアリンクの取締役会の議題
に挙げられなかった。
また以下の通り、HDと子会社との関係における様々な制度が存在した
が、いずれにおいても、刑事事件発生に至るまで一切どこにおいても認識
するには至っていなかった。
なお、この時期2019年12月16日付で、外国人労働者の研修に関
わるキャストリンクをソシアリンクの子会社として設立をしている。時期
的には今回の刑事事件とは重なるが、このキャストリンクは、外国人実習
生事業において、研修するシステムに関わる事業について、これまで、ソ
シアリンクにおいて行ってきたが、それをソシアリンクとは独立に実施す
る会社として設立したもので、今回の刑事事件は無関係であった。
(2)コンプライアンス委員会
コンプライアンス委員会は年1回の開催であるが、2020年2月のコ
ンプライアンス委員会はコロナの影響で文書開催となっており、オブザー
バーとしてソシアリンクの管理部長も出席していたが、このソシアリンク
の外国人労働者の派遣に関しては議題にもなっておらず、また議論された
形跡は存在しない。
(3)社内通報制度およびコンプライアンス関するアンケート
HDにはグループ内部通報制度が存在したが、2019年11月25日
の経営会議以降も、この内部通報における外国人労働者の派遣に関する通
報は存在していなかった。
HDは、隔年で子会社に対しコンプライアンス アンケート調査も行って
いたが、直近2019年に実施されたこのアンケートにも、ソシアリンク
における不法滞在の外国人労働者の申告はなされなかった。
(4)HDの法務・コンプライアンス室
HDの法務・コンプライアンス課、後に法務・コンプライアンス室は、
ソシアリンクにおいては法務課があったが、そことは連携がなく、またソ
シアリンクの法務課自身も何の動きもしていなか ったのでも、2019年
11月25日の経営会議において取り上げられた以降についても何の情報
も得られていなかった。
2 HDはなぜこの問題の発生を防止できなかったのか
(1)HDと子会社のガバナンス
26
ア 子会社の取締役会
HDはグループに対するガバナンスとして、子会社の取締役、監査役
に同社の役員等を非常勤役員としていたが、経営会議において、重大事
実が報告されているのに、これらの経営会議に出席していた鎌瀬代表取
締役とN取締役とI取締役事業本部長は、その事実をソシアリンクの取
締役会に全く一切取り上げようとしなかった。
したがって、HDの副社長でありソシアリンクの非常勤取締役の辻英
男とHD人事部長である監査役のMは、ソシアリンクの取締役会には出
席していたが、この事実は全く知らされなかった。
イ 経営会議
子会社の経営会議には、重要な事実が議題として取り上げられて議論
されていたが、経営会議議事録は、子会社においてのみ共有されており、
HDは、子会社の経営会議には一切関与はしていなかった。
(2)HDにおける子会社管理体制
HDにおいては、子会社の管理については、業務分掌規程および関係会
社管理規程により、関係会社の経営に関する指導、支援および管理を行う
統括管理業務は経営企画部長となっていたが、人員不足により十分にこの
業務を遂行できる態勢にはなかった。
(3)子会社管理部との連携
ア 子会社の管理部との連携
子会社管理部門長は、コンプライアンス推進担当者だったが、コンプ
ライアンス委員会事務局でもあるHDの法務・コンプライアンス室への
報告体制が明確でなかった。
イ 法務課の連携
子会社で法務課があるのは、ソシアリンクのみであったが、HDの法
務・コンプライアンス室、ソシアリンクの法務課とは主に内部通報制度
での連携はあったが、それ以外での連携は全くなかった。したがって、
ソシアリンクの法務課には、外国人派遣事業の外国人の不法滞在者に関
する通報やハローワークからの問い合わせがあったが、HDの法務・コ
ンプライアンス室には何の報告もなされていなかった。
ウ コンプライアンス
(ア)内部通報制度及びコンプライアンスアンケート
内部通報制度は、子会社を含め整備されていたが、子会社の社員に
はこの制度の存在は十分に認識されていなかった。
また内部通報制度を補充するものとして、隔年でコンプライアンス
アンケートがとられていた。しかしながら、直近2019年のアンケ
ートにはこの問題が記入されることとはならなかった。
(イ)コンプライアンス委員会
コンプライアンス委員会があり、HDの社長も出席し、関係会社の
管理部門長の出席することになっていた。しかし、コンプライアンス
27
委員会の議題には子会社管理部門長による報告機会はなかった。
(ウ)コンプライアンス研修
コンプライアンス研修は行われていたが、一般的なコンプライアン
スに関する研修内容となっており、子会社の事業に合わせた研修内容
は実施されていなかった。したがってソシアリンクに関連する入管法
に関するリスクについての研修も実施されていなかった。
(エ)内部統制室
内部監査を行う内部統制室は、現在3名で、2016年7月より子
会社営業所の監査も行うようになっていたが拠点数の多い子会社もあ
り、ソシアリンクの千葉営業所および首都圏営業所の内部監査につい
て監査はなされていなかった。
(4)子会社危機管理体制
ア 子会社のリスク情報のHDへの報告者・報告先
子会社でリスクが発生した場合、そのリスク情報の報告者と報告先は
定められていたがその周知徹底が不十分であった。
イ 子会社にリスクが発生した危急時のリスク管理体制
子会社でリスクが発生した場合、HDのリスクの処理を行うのがどの
部署になるのか定められいたが、その周知徹底が不十分であった。
(5)HDの本件リスクにおける責任
ア HDは、子会社の管理を行い、リスク管理の責任を負っている。
イ 今回においては、子会社において法的リスクに関する問題を発生させ、
その結果、刑事事件を発生させ、かつその結果、子会社の事業継続を不
可能にさせて消滅させた。
ウ 今回の問題においては、法的リスクに対する子会社における認識の欠
如、ひいては、親会社であるHDにおける子会社における法的リスク認
識を持たせるための仕組みが構築されていなかったことが原因であると
言わざるを得ない。
エ リスクの発生の原因となったのも、HDにおける子会社における法的
リスク管理に関する構築不足(すなわち、外国人労働者の派遣事業にお
ける入管法における法的リスク認識不足)が原因と指摘せざるを得ない。
オ ソシアリンクの経営会議におけるリスクが顕在されても、その後の危
急時のクライシス管理が動かなかったのも、 子会社のガバナンスの機能
の構築不足が原因と指摘せざるを得ない。
カ よって、HDの経営陣は、上記の責任を認識する必要がある。
第5 再発防止策の提言
1 再発防止策の目的
外国人労働者派遣という極めてリスクを伴う事業において通常時の危機管理
28
システムが機能せず、また危急時が発生したにもかかわらず危機管理システム
が機能しなかった事案の事実調査と分析、 それに応じた再発防止策 を提言する。
H D は 、2 0 2 1 年 6 月 1 日( 予 定 )ま で に ソ シ ア リ ン ク が 営 む 全 事 業
から撤退することを決定し、 の内容を2021年1月18日に東証開示
そ
済 で あ り 、 し た が っ て 、本 件 再 発 防 止 策 は H D の 子 会 社 不 祥 事 発 生 予 防 ・
早期発見のための提言となる。
2 通常期におけるリスク管理システム
(1)外国人労働者受入に関する手続・管理方法の確立
ア 外国人労働者の在留資格・在留期限に関 しては、現在2020年12
月25日からは、出入国管理庁より在留カードのICチップを読み取っ
て、瞬時に在留カードが偽造かどうかを判断できる「在留カード等読取
アプリケーション」の無料配布がなされており、また在留カードチェッ
カーなどの機械により簡易に在留カードの偽造を見破られる こととなっ
ている。
外国人労働者を採用して派遣する事業を行う際には、採用にあたって
の基本書類については、採用希望者による申込書の作成と在留カードチ
ェッカーの使用の義務付ならびに確認方法と、採用決裁と本社報告およ
び各種届出に関する手続、及び在留期限更新時を含めた管理方法を定め
たマニュアルを常備し、そのマニュアルに則った運用を徹底 する。
イ 外国人労働者採用にあたっては、 ブローカーなどの仲介者に関しては、
原則使用することを禁止し、例外的に、知り合い等を利用する際にもそ
れを利用したことについての受入・管理の責任者への報告義務を課す。
ウ 在留資格等の不正に気がついた際の報告・相談先と手続もマニュアル
等に明記する。
エ 各事業所における外国人労働者の受入・管理の責任者および担当者を
定め本社管理部門に届出を行い、変更時も都度報告義務を課す。
オ 外国人労働者採用にあたってはクオカード等現金同等物については厳
格管理を徹底する。
カ 管理部門の各事業所巡回においては上記のマニュアルの運用状況の確
認を徹底する。
(2)子会社自身のリスク管理体制
ア 報告・確認体制の複線化
( ア )子 会 社 社 長 が コ ン プ ラ イ ア ン ス 経 営 へ の コ ミ ッ ト メ ン ト を 明 確
にしたメッセージをHDの役職員へ向けて発信する。
( イ ) 各事業所の経営会議への業務報告には、コンプライアンスを含むリ
スク情報も合わせて行うこととし、そのリスク情報は管理部門長にも
報告する。
( ウ ) 社員の入社時、事業所長昇格時等にはコンプライアンス研修を含む
教育・研修を実施し、コンプライアンス研修では「わらべや日洋グル
29
ープコンプライアンスマニュアル」を活用する。
(エ)社内通報制度の周知徹底を管理部門長が継続的に実施する。
イ 経営会議および取締役会での管理強化
( ア )管 理 部門長が各事業所の外国人労働者受入およびマニュアルの遵守
状況等を定期的に経営会議に報告をする。
( イ )H D 役 員 等 が 非 常 勤 役 員 と し て 出 席 す る 子 会 社 取 締 役 会 で 、コ
ンプライアンスを含めたリスク情報を定期的に報告する。
( ウ )事 業 所 を 新 規 に 設 置 す る 場 合 の 稟 議 書 に は 収 支 ・ 人 員 体 制 等 の
事 業 計 画 を 添 付 し 、設 置 後 3 期 ま で 毎 期 そ の 計 画 の 進 捗 状 況 を 経
営会議および取締役会に報告し、計画の変更要否を検討する。
(エ)経営会議議事録は、全取締役に報告・共有する。
(3)HDにおける子会社管理体制
ア 子会社経営陣の人事と研修
子会社経営陣の定期的人事見直しと新任の子会社役員に対する研修 強
化を行う。
イ 子会社経営管理
子会社の統括管理部門である経営企画部の人員増強または子会社 経
営管理を専門に担当する部署を設置する。
ウ 内部統制室の人員増強
子会社(事業所を含む)監査を行う内部統制室の人員増強する(偶数
配置)。
(4)HDにおけるリスク管理体制の強化
ア グループコンプライアンス経営へのコミットメント
HD社長がコンプライアンス経営へのコミットメントを明確にしたメ
ッセージを全グループ役職員へ向けて発信する。
イ コンプライアンス委員会
コンプライアンス委員会においては、子会社コンプライアンス推進担
当者を委員とし、委員会において活動報告を実施する。
ウ コンプラアンス人事評価
コンプライアンス重視の姿勢を明確にした人事評価(人事評価シート
等)関連規程の見直しを実施する。
(5)法務リスクコンプライアンス
ア 法務・コンプライアンス室の役割強化
法務・コンプライアンス室の役割を、法務リスクコンプライアンス担
当業務を含めたHDならびに関係子会社の法務関連業務へと拡大し、そ
のための人員を増強する。
イ コンプライアンス研修
子会社を含めた各種コンプライアンス研修を一元管理することにより
社内通報制度およびコンプライアンス意識を浸透 させる。
コンプライアンス研修には、業務部門に対応したコンプライアンス研
30
修マニュアルを整備し、それによる、新人コンプライアンス研修ならび
に新任管理職コンプライアンス研修を実施する。
ウ 法務リスクに関するリスクアセスメント
各子会社の法務リスク(子会社が営む事業の関連法規等)についてリ
スクマネジメント委員会でのリスク分析と対応策の策定実施を行う。H
Dにおいては、関係子会社を含めた法務リスクに関するリスクアセスメ
ントを実施し、それにより明確となった法務リスクに応じたコンプライ
アンスマニュアルの整備を行う。
エ 子会社におけるコンプライアンス推進担当者の役割強化
子会社のコンプライアンス推進担当者には、子会社において違法な行
為や違法が疑われる行為が発生した場合などのコンプライアンスに関わ
る状況についての把握義務を課す。
オ H D 法 務・コ ン プ ラ イ ア ン ス 室 と 子 会 社 の コ ン プ ラ イ ア ン ス 推 進
担当者との連携強化
HDの法務・コンプライアンス室と子会社のコンプライアンス推進担
当者との連携を強化し、子会社のコンプライアンス推進担当者が把握し
た状況については、HDの法務・コンプライアンス室への早期の報告義
務を課して共有する。
3 子 会 社 危急時の危機管理体制の強化
(1)危機管理規程における報告ルートの複線化・経営危機情報の定義見直し
HDおよび子会社の経営危機対応規程では子会社からHDへの報告者は
管理部門長、報告先は総務部長のみとなっているが、報告者に社長、報告
先には総務部管掌取締役及び子会社監査役も追加し報告ルートを複線化す
る。
また、子会社からHDに報告する経営危機情報の定義見直しを実施す
る。
(2)危機対応における子会社とHD管理部門との連携
子会社で危機情報を踏まえ緊急対策本部の設置要否を含めた危機対応を
行う場合は、HDの管理部門である総務部と協議することを子会社の経営
危機対応規程に明記する。
第6 結語
1 本報告書の趣旨
本 件 は 、労 働 者 派 遣 事 業 を 行 っ て い る 子 会 社 に お い て 、外 国 人 労 働 者 を
外 部 事 業 所 へ 派 遣 し て い た が 、こ の 外 国 人 労 働 者 の 中 に 、不 法 滞 在 者 す な
わちオーバーステイのものが存在していた。 の不法滞在の疑いのある者 こ
を 派 遣 先 に 派 遣 し た こ と か ら 、こ の 派 遣 先 の 不 法 滞 在 者 が 逮 捕 さ れ 、そ れ
31
に応じて、 遣していた子会社の従業員並びに子会社自身も入管法違反事
派
件 で 起 訴 さ れ て 有 罪 判 決 を 受 け た と い う 事 件 で あ る 。そ の 結 果 、年 間 1 0
0億円以上を売り上げていた会社が消滅することとなった。
本 調 査 報 告 書 で は 、な ぜ 、子 会 社 に お い て 、一 時 期 に は 百 数 十 人 も の 不
法滞在者の疑いのある外国人労働者を派遣先に派遣するような事態とな
っ た の か 、ま た 、こ の 事 態 が 、子 会 社 の 経 営 会 議 と い う 場 で 明 ら か に さ れ
な が ら 、そ の 後 約 1 年 に も わ た っ て 、完 全 に 解 消 さ れ る こ と が な く 、そ の
結果、 述のような事態に立ち至ったのかについての事実調査の結果とそ
前
の原因の分析並びにその分析に基づく再発防止策を提言する報告書であ
る。
2 本件調査から明らかになったこと
ソ シ ア リ ン ク に お い て は 、新 た に 千 葉 営 業 所 が 開 設 さ れ た が 、そ の 開 設
の事業上の計画も十分には検討されずに発足させられている。その結果、
外 国 人 労 働 者 を 外 部 へ 派 遣 す る 事 業 の 拡 大 に 突 き 進 ん だ 。そ の 実 態 は 、不
法滞在の疑いのある外国人労働者を派遣する結果となった。 遣先で外国 派
人労働者が逮捕される事態が発生したが、 業部の上司がこれにきちんと 事
対処しなかった結果、 数の不法滞在の疑いのある外国人労働者の派遣事
多
業となった。
さらにこの結果が経営会議という会社の重要な会議の場で明らかにな
っ て も 、そ の 是 正 は 、売 上 げ 重 視 や 取 引 先 へ の 信 用 な ど の 理 由 で 先 延 ば し
にされたあげくに本件の刑事事件となり、 果的にこの会社は派遣事業が 結
できなくなって消滅せざるを得なくなった。
こ れ ら の 原 因 を 調 査 し て 浮 か び 上 が っ て き た こ と は 、一 つ に は 、法 的 リ
スクに関する意識の薄さとそれによって引き起こされる考えの甘さであ
っ た 。法 的 リ ス ク は 重 要 で は あ る が 、そ れ を 認 識 す る こ と は 非 常 に 難 し い
状 況 が あ る 。し か し な が ら 、そ の 認 識 を 怠 る と 、事 業 を 閉 鎖 せ ざ る を 得 な
くなる危険を有しているのである。
今 回 の 事 案 は 、外 国 人 労 働 者 を 派 遣 す る と い う こ と が 、ど れ だ け 法 的 に
重大なリスクを生じさせるということについて、 のリスクを正確に理解 こ
す る こ と は 非 常 に 難 し い が 、子 会 社 自 身 に お い て も 、こ の 子 会 社 を 管 理 す
るHDにおいても、 のリスクを十分に認識しようという努力が全く払わ
こ
れていない結果、このような事態を招いているのである。
そ の 結 果 、重 大 な 危 機 が 発 生 し た と い う 認 識 も 持 て ず に い た た め 、事 業
の利益重視、 引先への信用などの理由でリスク回避の動きが鈍ったあげ
取
くに、重大な結果を招いているのである。
3 法的リスクの重要性
HDにおいてはコンプライアンス委員会があり、 ンプライアンスマニ コ
ュ ア ル を 作 成 し 、そ の 研 修 も 行 っ て い た 。し か し 、H D 傘 下 の 主 要 事 業 は
32
食 品 の 製 造 で あ り 、こ の 事 件 を 引 き 起 こ し た 子 会 社 は 、そ れ と は 異 な る 労
働者派遣事業を行っていたということから、 会社任せになっていたこと 子
は否めないのである。
そうであるとは言っても、 Dにおいては子会社の行っている事業につ
H
い て は 、H D に は 、そ の 法 的 リ ス ク に つ い て の 関 心 を 持 ち 、そ の 管 理 を 行
うべき義務が存在しているのである。
会社においては、 計不正リスクや事業上の物理的なリスクについては
会
関心をもち、かつそのリスクへの対応は検討されているのが普通である。
し か し 、法 的 リ ス ク に 対 す る 危 機 感 は 、そ の 問 題 の 難 し さ も 相 ま っ て 意 識
はまだまだ不十分であることを感じざるを得ないのである。
特 に 、事 業 の や り 方 で 一 歩 間 違 え ば 犯 罪 に な る と い う 場 合 に は 、会 社 と
し て 万 全 の 注 意 で 臨 む べ き で あ る の に 、得 て し て 、そ れ を 見 逃 し て し ま う
こ と が あ る の は 、や は り 、企 業 が 法 的 リ ス ク へ の 関 心 が 薄 い か ら で あ ろ う
か。
4 会社の法務機能の強化
現 在 、会 社 の 法 務 機 能 に つ い て は 時 代 の 要 請 に よ り 、リ ス ク を チ ャ ン ス
に変える発想により、 々な社会課題等を解決できるとの指摘がある 「国
様 (
際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」 経済
産業省 2018年」)。
現 在 、新 た な 法 律 が 次 々 に で き て き て お り 、ま た 運 用 も 時 代 に よ り 急 速
に 変 化 し て き て お り 、法 的 リ ス ク の 分 野 は ま す ま す 複 雑 化 、多 様 化 し て い
る の で あ る 。本 件 に お い て 問 題 と な っ た 、入 管 法 も 同 様 で あ る 。日 本 に お
ける外国人労働者の扱いについては、 外国からの非難がなされている中諸
で 、2 0 1 8 年 に 入 管 法 が 改 正 さ れ て 特 定 技 能 制 度 が 発 足 し 、問 題 の あ っ
た外国人の技能実習生に関しては、 国人の技能実習の適正な実施及び技
外
能 実 習 生 の 保 護 に 関 す る 法 律 が で き る な ど し て 、法 律 が 整 備 さ れ 、そ れ に
応じて外国人労働者に関する取り締まり強化がなされているのである。 こ
のような変化に企業も対応する必要性があり、 の意味でも法務機能の強 そ
化が求められているのである。
5 リスクの前の兆候の重要性
本件においては、 務リスクについてHD経営陣の認識不足があったこ
法
と が 否 め な い し 、か つ そ の 認 識 不 足 が リ ス ク 情 報 の 評 価 を 誤 り 、結 果 的 に
致命的な事態を招く結果となっている。
た だ し 、重 大 な 問 題 が 発 生 す る 以 前 に は 、必 ず そ れ に 関 す る 兆 候 は 必 ず
存 在 し て い る の で あ る 。本 件 で も 、子 会 社 が 派 遣 し て い た 外 国 人 労 働 者 の
不法滞在者の疑いがある者に関しては、 察からの問い合わせとかハロー 警
ワークからの問い合わせとかいくつかの兆候が存在していたのである。 し
かも、この情報は、子会社の法務課には共有されていたのである。もし、
33
こ の リ ス ク 情 報 が 、子 会 社 の 法 務 課 か ら H D の 法 務・コ ン プ ラ イ ア ン ス 室
にも共有されていたのであれば、 た異なった対応の可能性もあったかも
ま
しれないのである。
6 事業部門と管理部門の連携
大量の不法滞在者の疑いのある者を派遣するに至った経緯においても、
ま た 、経 営 会 議 に お い て 現 状 が 明 ら か に さ れ た 後 に お い て も 、処 理 は 、当
該事業所とそれを統轄する事業本部長らにおいてのみで行われる結果と
な っ て い る 。ソ シ ア リ ン ク に は 法 務 課 が 存 在 し た が 、こ の 問 題 は 全 く 何 の
機能もせずに最悪の事態を招いている。
これが通常期のリスク管理においても、 急時のクライシス管理におい 危
て も 、法 務 課 を 有 し て い た 管 理 部 門 も 一 緒 に 対 処 に あ た っ て お り 、さ ら に
HDにおいてもこの事実が共有されていれば、 た異なった対応の可能性 ま
もあったかもしれないのである。
そ の 意 味 で も 、問 題 が 発 生 し た と き に は 、ど ん な 小 さ な こ と で も 、そ れ
が 、会 社 内 で は 、事 業 部 門 だ け で な く 管 理 部 門 に お い て も 必 ず 問 題 を 共 有
されることが必須なのである。
不祥事発生においては、 の担当個人の能力の問題に帰しては判断を誤
そ
る 。会 社 は 組 織 で あ り 、個 人 の 能 力 で は な く 、組 織 の シ ス テ ム の 運 用 の 結
果 と し て 、リ ス ク が 克 服 さ れ な け れ ば な ら な い の で あ る 。そ の 意 味 で 、事
業 を 進 め る の は 事 業 部 で あ る が 、会 計 、人 事 、法 務 の 機 能 を 有 す る 管 理 部
の事業への牽制があってはじめて健全な持続可能な経営が達成されるの
である。
7 法務機能・コンプライアンス機能の強化の必要性
会 社 の 法 務 機 能 の 強 化 は 、会 社 に と っ て は 、マ イ ナ ス の リ ス ク を な く す
と い う 消 極 的 な 面 だ け で は な い 。上 記 の 研 究 会 報 告 書 も 、リ ス ク に 対 す る
発想の転換が述べられているのである。
現 在 、企 業 は 、持 続 的 可 能 な 開 発( S D G s )の 時 代 の 要 請 に よ り 、新
た な ビ ジ ネ ス へ の チ ャ レ ン ジ を 求 め ら れ て い る 。そ こ に は 、現 行 の 法 令 が
想 定 し な い 分 野 へ の チ ャ レ ン ジ な ど 、複 雑 化・多 様 化 す る 法 的 な 分 野 へ の
対応の必要性が増大している。企業はこのような事態に即応できるよう、
社内の法務体制を整備する必要は急務となっていると言わざるを得ない
のである。
その意味で、 回の事件を契機にして、 Dがその関係子会社を含めて、
今 H
法 務 機 能・コ ン プ ラ イ ア ン ス 機 能 が 強 化 さ れ 、リ ス ク 管 理 に つ い て の き ち
んとした対処ができ、 らには新たなビジネスへのチャレンジを行う会社
さ
となることを願ってやまないのである。
以上
34