2397 DNAチップ研 2019-07-10 16:00:00
「EGRFリキッド薬事承認申請に関するお知らせ」 [pdf]

                                     2019 年 7 月 10 日
各位


                     東 京 都 港 区 海 岸 一 丁 目 1 5 番 1
                     株 式 会 社 D N A チ ッ プ 研 究 所
                     代 表 取 締 役 社 長       的 場      亮
                     (コード番号 :     2397   東証第2部)
                     電 話 番 号 : 03-5777-1700(代表)




       「EGFR リキッド薬事承認申請に関するお知らせ」
  血液中の肺がん遺伝子異常を調べる高感度検査法を開発、承認申請へ
      超高速の次世代遺伝子解析を使い微細な変化を検出
     ~患者に優しい遺伝子検査でがんの精密医療を推進する~

【概要】
 株式会社 DNA チップ研究所(社長 的場亮)は、血液中に存在する微量の肺がん遺
伝子の異常(変異)を検出する高感度検査法 EGFR リキッド(正式名称 EGFR リキッ
ド遺伝子解析ソフトウェア)を開発し、コンパニオン診断として、7 月 10 日に厚生労
働省への承認申請を行いました。承認されれば医療現場で使用することができます。

 ゲフィチニブやアファチニブなどの上皮成長因子受容体(EGFR)のチロシンキナー
ゼを阻害する薬剤は、進行性肺がん治療に広く使われています。しかし、その効果は
EGFR 遺伝子に特定の変異がある場合に限られるため、これらの変異の検出が、  医療現
場で薬剤を選択し、使用する際の条件になっています。日本では EGFR 変異陽性肺が
んは、非小細胞肺がん患者の約半数と多く、年間約 5 万件以上の EGFR 遺伝子検査が
行われています。

 一般にがんの遺伝子検査では生検(検査のためがん組織を採取する操作)でがん組織
を取得する必要がありますが、この方法は患者の苦痛を伴い、また人体への侵襲が問題
になるケースがあります。しかし、がん患者の血液中には肺がん細胞から放出された
EGFR 遺伝子(ctDNA)があり、これを解析すれば、患者の負担を軽減したうえで変異
を検出することが可能です。    このような血液を用いたがん遺伝子検査はリキッドバイオ
プシーとよばれ、現在世界中で盛んに研究開発が行われています。

 今回、開発した検査法は、次世代シークエンシング(強力な遺伝子解析技術で個人の
全遺伝情報の取得も可能)の手法を用いて血液中の EGFR 遺伝子を5万分子以上解析
して変異を探索します。そのため、従来技術では検出できなかった微量変異でも検出可
能です。
 こうした“精密医療”は、遺伝子異常に基づいて治療法を個別に決定する新しい医療
コンセプトとして、米国のオバマ前大統領によって一般教書演説     (注)で取り上げられ、
注目を浴びました。本技術は日本における精密医療を大幅に加速するものと考えており
ます。なおこの検査法は奈良先端科学技術大学と大阪国際がんセンターの研究成果をも
とに開発しました。今回薬事申請を行う技術は、国内研究に基づく国産技術の実用化と
して、リキッドバイオプシーとしては初めて、次世代シークエンシングを使う診断手法
としてはがん遺伝子検査「OncoGuide™ NCC オンコパネルシステム(国立がん研究セ
ンター・シスメックス)」についで 2 件目となります。

 この承認申請は、2019 年 3 月期決算説明会資料(2019 年 5 月公表)の開発予定どお
りになります。これによる当社業績への影響は、今後の承認及び保険収載の結論が出て
から生じるものと考えます。したがいまして、現時点で今期の当社業績には影響はあり
ません。
 尚、承認の場合など、本承認申請に関する経過につきましては分かり次第お知らせ致
します。


(注)下記より抜粋
https://obamawhitehouse.archives.gov/
the-press-office/2015/01/30/fact-sheet-president-obama's Precision Medicine
Initiative
【解説】


1.背景と目的
 ゲフィチニブやアファチニブ等の上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤
(EGFR-TKI)は、EGFR に活性化変異(exon 19 deletion、L858R など)がある非小
細胞肺がん(肺がん患者の 90%以上を占める)患者にのみ効果があります。そのため
EGFR 変異検査は進行肺がん治療に必須であり、医療現場で薬剤を選択し、投与するた
めに不可欠な遺伝子変異診断をコンパニオン診断と呼びます。検査のためには肺生検で
がん組織を採取しますが、肺がんは他臓器のがんに比べて腫瘍組織の採取が難しく、高
侵襲です。こうした高侵襲な検査を避けるため、血液を使ったコンパニオン診断技術の
開発は世界中で進められてきております。
 また、EGFR-TKI の投与を続けていくと、当初は薬が効いても、がんがその薬に対し
て耐性を持つようになり、最初に投与した薬が効かなくなってしまうことがあります。
その際には、薬に対する耐性を持ったがん細胞は、その約半数において EGFR の別の
変異(T790M 耐性変異)を持つようになります。しかし、薬の耐性が発生した場合、
再発巣や転移巣の生検は非常に困難を極めます。そのため、病態モニタリングを行った
り、耐性変異用 EGFR-TKI 選択のために、生検ではなく血液を用いた遺伝子変異のニ
ーズは高く、リキッドバイオプシーを用いた検査技術の研究開発は 2005 年頃から広く
行われてきました。本検査法の開発もその流れを汲んでいます。
 EGFR 検査を非侵襲性の血液検査で代替できれば、この領域の実地臨床に大きな進
歩をもたらすことになります。がん患者血液中にはがん細胞から遊離した DNA(血中
腫瘍 DNA;circulating tumor DNA;ctDNA)が極少量存在し、EGFR の変異検出が
理論的には可能です。但し ctDNA は極微量しか含まれていないため、既存の手法に基
づく遺伝子変異の検出は非常に困難で、微量変異を検出する技術の開発が必須でした。


2.研究開発と申請までの経緯
 次世代シークエンシング技術(NGS)は遺伝情報を解析する強力な技術で、個人の全
ゲノム配列(全遺伝情報)でも低コストで得ることができます。個人の全ゲノムを解析
する代わりに肺がん患者血液中の EGFR 遺伝子断片のみを多数(実際には 5 万分子以
上)解析して変異を探索すれば、変異が低頻度でも検出することが可能です。従来の検
査技術では 5%の変異がないと検出できませんが、例えば 1 万分子解析すれば 0.01%の
変異でも検出できます。加藤菊也奈良先端科学技術大学院大学特任教授―当時大阪府立
成人病センター (現大阪国際がんセンター) 研究所長―は 2013 年にこの検出技術を開
発しました。
 新しい技術を開発しても実際に使えるかどうか肺がん患者で試験を行わなければわ
かりません。加藤特任教授と今村文生大阪国際がんセンター副院長(当時大阪府立成人
病センター呼吸器内科主任部長) 288 名の肺がん患者について従来の検査法
               は                     (肺がん
組織の生検)と新しい技術(血液を使用)を比較し、「十分実地臨床で使用可能」との
成績を得ました。この試験は 2013 年から 2015 年にかけて行われました。また 2018 年
には大阪国際がんセンター呼吸器外科(岡見次郎主任部長、東山聖彦副院長)の 156 検
体による比較試験を追加しています。
 以上の研究成果を踏まえて、上記検出技術の薬事承認申請をするために厚生労働省傘
下の独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と協議を始めました。当時次世代
シークエンサーの薬事行政上の取扱が定まっておらず時間がかかりましたが、PMDA
の助言のもと開発を続け、PMDA の了解を得て、今回の承認申請に至りました。正式
な製品名称は以下のとおりです。
販売名:EGFR リキッド遺伝子解析ソフトウェア


3.今後の展開
 現在非小細胞肺がんでは EGFR 以外に ALK ROS1 BRAF の 3 つの遺伝子に対応し
た薬剤があり、EGFR-TKI 同様、それぞれの遺伝子の変異検出が薬剤選択の条件にな
っています。現在これらの遺伝子検査は個別に行われていますが、次世代シークエンサ
ーを用いれば、複数の遺伝子変異の診断を同時に行うことができます。このような検査
を一般に遺伝子検査パネルと呼び、この検査法が開発された米国では、すでに広く遺伝
子パネル検査が用いられています。しかしながら従来の遺伝子パネル検査は日本の肺が
ん医療現場での使用には問題があります。米国と異なり日本では気管支鏡による生検が
中心で、採取するがん組織の量が少ないためで、変異検出感度が重要になります。しか
し、既存の遺伝子パネル技術は検出感度が不十分であり、高感度に遺伝子変異を検出す
ることができません。高感度な検出ができなければ、肺がん患者に対する薬剤投与が遅
れることになるため、医療現場で実用化されることは難しくなります。また日本の保険
制度下では遺伝子検査は米国よりも遥かに低い価格水準に抑えられており、米国製の直
接導入の事業化には問題が多いことも事実です。
 これらの問題を解決するために弊社は奈良先端科学技術大学院大学、大阪国際がんセ
ンターと共同で、肺がんに特化した高感度の遺伝子検査パネル(仮称:肺がんコンパク
トパネル)を開発中です。従来のパネルは多数の遺伝子を一括処理して解析するために
無駄が多いのですが、コンパクトパネルは遺伝子を小グループに分け、分割処理するこ
とにより無駄を省き、低コストと高感度を実現しています。コンパクトパネルは EGFR
ALK ROS1 BRAF の 4 つのコンパニオン診断が可能な遺伝子が対象です。


今後も遺伝子解析(DNA、RNA)を中心とした診断技術を通じて、世界に貢献できる
よう、様々な病気の判定や、薬剤効果判定、さらには予防医療等のサービスの開発に努
めてまいります。
【用語解説】


① 上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤(EGFR-TKI):
  EGFR-TKI は進行性非小細胞肺がんの治療に広く使われている薬剤である。治療
 効果が EGFR 遺伝子に特定の変異(エクソン 19 欠失、L858R など)がある場合に限ら
 れるため、これらの変異の検出が薬剤選択の条件になっている。日本では EGFR 変異
 陽性の比率が 50%以上で、年間 5 万件以上の EGFR 遺伝子検査が行われている。
② 非小細胞肺がん:
  最も多い肺がんで全肺がんの 90%以上を占める。肺がんには非小細胞肺がん以外
 に小細胞肺がんや大細胞肺がんがある。
③ リキッドバイオプシー:
  がん患者の血液中にはがん細胞から放出された遊離 DNA があり、高感度な検出技術
 を用いれば、この遊離 DNA を用いて遺伝子検査をすることができる。血液を用いたが
 ん遺伝子検査はリキッドバイオプシー(体液を用いた生検)とよばれ、生検の侵襲を回
 避するほか、がんの早期発見にも役立つ可能性があるため、現在世界中で盛んに研究開
 発が行われている。
④ 次世代シークエンシング・次世代シークエンサー:
  遺伝情報を解析する強力な技術で、個人の全ゲノム配列(全遺伝情報)でも低コスト
 で得ることができる(現在一人当たり 10 万円) EGFR リキッドでは全ゲノムを一回解
                         。
 析するかわりに、EGFR 遺伝子のみを 5 万分子以上解析して変異を探索する。そのため
 目的の遺伝子変異が低頻度でも検出することが可能である。
⑤ コンパニオン診断:
  EGFR-TKI に対応する EGFR 遺伝子検査のように、特定薬剤選択の条件になっ
 ている遺伝子変異を検出する検査。
⑥ 遺伝子検査パネル:
  多数の遺伝子の異常を次世代シークエンサーで同時検出する検査。使用用途はコ
 ンパニオン診断とゲノムプロファイリングに大別される。ゲノムプロファイリング
 は標準治療の効かなくなった患者の治療方針決定の補助に用いられる。なお、国立
 がん研究センター・シスメックスの「OncoGuide™ NCC オンコパネルシステム」は
 ゲノムプロファイリング専用。
以上