9503 関西電力 2020-08-17 15:00:00
役員退任後の嘱託等の報酬に関するコンプライアンス委員会の調査結果について [pdf]

                                         2020 年 8 月 17 日


各   位
                              会 社 名 関西電力株式会社
                              代 表 者 名 代表執行役社長 森本 孝
                              (コード:9503 東証第一部)
                              問 合 せ 先 経理部長 坂田 道哉
                              T E L 06-6441-8821



        役員退任後の嘱託等の報酬に関するコンプライアンス委員会の調査結果について

当社は、本年3月14日、役員退任後の嘱託等の報酬について、第三者委員会から「金品受取り
問題に関する修正申告時の追加納税分」 「過去の経営不振時の役員報酬削減分」
                  や、                 を補填する趣旨
が含まれていると指摘されました。
その後、社内で速やかに事実関係を確認し、支給済みの嘱託等報酬の全額回収を図るとともに、
コンプライアンス委員会において外部の客観的な視点から検証することとしました。
                             [2020年3月30日お知らせ済み]


当社は、本日、コンプライアンス委員会から役員退任後の嘱託等の報酬に関する調査報告書を受
領しました。同委員会による客観的な調査の結果、判明した事実関係等は、別添の調査報告書のと
おりです。


本件により、お客さまや社会の皆さまに、多大なご迷惑をおかけしたことについて、改めて心か
らお詫び申し上げます。


当社は、本年3月に策定した業務改善計画に基づき、経営の執行と監督を明確に分離した指名委
員会等設置会社へ移行し、取締役会の監督機能を強化するとともに、コンプライアンス機能の強化
等に向けた改革を推進することで、信頼回復に努めているところです。


今回の報告書における再発防止に向けた提言等を真摯に受け止め、今後の取組みに活かすことで、
各種施策の実効性を高めるとともに、コンプライアンスを重視する組織風土の醸成を図ることで、
社会の皆さまからの信頼を再び賜ることができるよう全力を尽くしてまいります。


                                              以 上
添付資料1:調査報告書(概要)
添付資料2:調査報告書
                        調査報告書(概要)1

        調査の概要

    1 本調査の目的

     関西電力株式会社(以下「関西電力」という。)は、同社の役員等が社外の関係者か
    ら金品等を受け取っていた問題(以下「金品受取問題」という。)について、2019 年 10
    月 9 日に第三者委員会を設置し、同委員会から 2020 年 3 月 14 日付の調査報告書(以
    下「第三者委員会報告書」という。)を受領したが、その中で、一部の役員について、
    その退任後に嘱託等の業務を委嘱する際の報酬に「金品受取り問題に関する修正申
    告時の追加納税分」及び「過去の経営不振時の役員報酬削減分」を補填する趣旨が
    含まれていると指摘された。
     これを受けて、関西電力は、社内において事実関係を確認したところ、①金品受
    取問題に関する修正申告時の追加納税考慮分として、2019 年 7 月から 10 月まで、1
    名の退任役員に、嘱託等報酬(支給総額:120 万円)が支払われていること、➁過
    去の経営不振時の役員報酬削減考慮分として、2016 年 7 月から 2019 年 10 月まで、
    合計 18 名(上記 1 名を含む。)の退任役員に、嘱託等報酬(支給総額:約 2.6 億
    円)が支払われていること、が確認された。
     関西電力は、上記①及び②の事実(以下「本件補填問題」という。)について、
    外部の客観的な視点から検証を行う必要があると判断し、コンプライアンス委員会
    (以下「当委員会」という。)において調査を行うことを決定した。


    2 調査事項

     当委員会における調査事項は、以下のとおりである。
     ① 第三者委員会報告書において摘示された下記の点に係る事実関係(当事者の
       認識を含む。)の調査及び関係者の法的責任の検討
       (i) 過去の経営不振時の役員報酬削減分の補填の趣旨
       (ii) 金品受取問題に関する修正申告時の追加納税分の補填の趣旨
     ② 回収の意思決定に至るプロセスの検証
     ③ 過去の類似事例の調査


    3 本調査の方法

     当委員会は、①関西電力の取締役会等の会議体の議事録、各種社内規程類、稟議
    書・方針書・委嘱状等の文書、手控え等の資料、➁関西電力のメールサーバー等に

1
    略語については、この概要版に記載しているもののほか、調査報告書本文における略語を用いている。




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保存されていた関西電力の役職員 13 名の電子メールデータ及び秘書室に在籍してい
た 2 名が貸与を受けていた業務用のパソコンのデータ(キーワードを用いた検索に
よって抽出されたもの)、③総務室にて保存されていた CD-ROM に保存されていた
データ、を収集し、精査・検討した。
 また、当委員会は、関西電力の役職員及び元役員等合計 25 名に対し、合計 28 回
ヒアリング調査を実施した(ただし、一部のヒアリング対象者については、再度の
ヒアリングを要請したものの、自身を被告とする訴訟が提起されたことを理由とし
て、再度のヒアリングに応じられないとの回答を受けた。)。
 当委員会は、2020 年 5 月 18 日及び 6 月 12 日開催の委員会において、本調査の対
処方針の審議及び進捗状況の共有を行い、8 月 17 日開催の同委員会にて、本報告書
について審議を行い、承認した。


   当委員会における検討

1 関係者の法的責任について

  役員報酬減額分の補填について

   役員報酬規制違反

  ① はじめに

   本調査により判明した事実経緯によれば、関西電力では、2016 年 6 月以降、
  退任役員に対して相談役・エグゼクティブ・フェロー(以下「EF」という。)・
  嘱託の業務を委嘱したが、委嘱対象となった退任役員のうち、相談役及び EF に
  ついては相談役報酬・EF 報酬に上乗せする形で、それ以外の元役員については
  嘱託報酬として、各役員の 2013 年 4 月以降における役員報酬減額分のうち役員
  報酬削減率が 40%であった場合の減額分を上回る部分を一定の支給月数で割り
  戻して計算された金額が支払われていた(以下、これらの業務委嘱を「本件嘱
  託」といい、このような計算式で算出されて各退任役員に支払われた金額を
  「本件嘱託報酬」という。)。
   本件嘱託報酬は、形式的には各退任役員との間の委嘱契約に基づき支払われ
  たものであるが、その実質は在任時に自主返上した役員報酬減額分を退任後に
  補填する趣旨で支払われたものとも考えられる。
   仮に本件嘱託報酬が「役員報酬の後払い」に該当する場合には、株主総会で
  決議した取締役の報酬上限の範囲内において取締役会の決議(又は取締役会に
  よる代表取締役への一任決議に基づく代表取締役の決定)又は監査役の協議に
  基づき個別の支給金額を決定しなければならず、所定のプロセスを経ずに支給




                      - 2 -
した場合には法令違反に該当することになる。そこで、以下では、本件嘱託報
酬が「役員報酬の後払い」に該当するかどうかについて検討する。


② 「役員報酬の後払い」であると評価されるべき事情

(a) 本件嘱託を検討し始めた経緯・目的
  関西電力では、2 度の電気料金値上げ申請に際し、役員報酬の大幅な減額を
 強いられており、2015 年 10 月ころ、当時の会長(森氏)の「▲50%超過分を
 退任後カバーできないか」という指示を受けて本件嘱託の検討が開始され、
 「現役の間は役員報酬となるため、退任後に処遇する」という対応方針の下、
 具体化された。このような経緯からわかるとおり、関西電力において本件嘱託
 を検討し始めた目的は過去の報酬減額分を補填することにあり、当社嘱託を委
 嘱したのはそのための方策に過ぎなかった。


(b) 本件嘱託報酬の金額を決定した経緯
  秘書室では、前記の会長(森氏)の指示を受けて、報酬削減率が 40%だっ
 た場合を上回る減額部分を支払う方針を決め、各人別に一定月数(委嘱期間)
 に応じて 12・24 などの数字で割り戻して嘱託報酬金額を決定している。


(c) 嘱託対象者を決定した経緯
  2013 年 4 月以降の報酬減額措置の対象となった役員 22 名のうち、嘱託対象
 とならなかったのは、支給金額が僅少な場合(報酬削減率が 40%を超える部
 分を 12 で割り戻した金額が 10 万円未満となる場合)又は転出先の関係会社報
 酬が高額のため補填の必要性がないと判断される場合のいずれかの事情が認め
 られる4名のみであった。


(d) 委嘱時の説明内容
  秘書室で準備した委嘱説明時の読み上げ原稿には「今般の委嘱は、在任中に
 役員報酬を返上いただいた額を補填するというものではないが、世間的には誤
 解をうむおそれもあるため、嘱託委嘱については、ご本人限りということでお
 願いする」と記載されており、委嘱説明を行った会長(森氏・八木氏)及び秘
 書室が、本件嘱託の事実が明らかとなった場合には報酬の補填と批難されるこ
 とを強く意識していたことがうかがわれる。


③ 本件嘱託報酬を「役員報酬の後払い」と評価し難い事情

 本件嘱託報酬を受領した退任役員 18 名のうち、報酬金額の中に過去の報酬減




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額分の補填が含まれていることを明確に認識していたのは、本件方針稟議を決
裁した森氏のみであり、その他の役員は、嘱託契約の目的が過去の報酬減額分
の補填であるということを明確に認識していたとは認められない。
 一般に、会社と退任役員の間で相談役・顧問・嘱託などの名目で委嘱契約が
締結される場合、一方当事者(会社)が、その内心においては過去の役員報酬
減額分の補填の趣旨で嘱託を委嘱する意図であったとしても、相手方当事者
(退任役員)に対して、一定の業務を委嘱し、それに対して報酬を支払う旨を
表明し、相手方当事者(退任役員)が一方当事者(会社)の内心の意図に気づ
かずにそれに応じて委嘱契約が成立した場合には、当該委嘱契約は有償の委任
契約として有効に成立するはずである。
 したがって、委嘱を受けた退任役員 18 名の大半については、支払われた本件
嘱託報酬は、有効に成立した委嘱契約に基づく報酬と評価されることになる。


④ 検討

 本件嘱託報酬については、その実質は「役員報酬の後払い」であると認める
べき客観的な事情が認められる一方で、多くの委嘱対象者はこれが「役員報酬
の後払い」であるという認識を有しておらず、それらの委嘱対象者との間では
有償の委嘱契約が有効に成立していたものと認められる。
 このような場合に本件嘱託報酬が「役員報酬の後払い」であるとして役員報
酬規制に服するのかどうかについては、意見が分かれるところである。
 本件嘱託報酬は「役員報酬の後払い」に該当すると解する立場に立つと、そ
の支給について役員報酬規制を遵守する必要があることになり、本件方針稟議
及び 2016 年の委嘱稟議を決裁した取締役会長の森氏、取締役社長の八木氏及び
秘書室担当取締役常務執行役員の八嶋氏には法令違反(会社法 361 条 1 項・387
条 2 項違反)が認められる。一方、2017~2018 年にかけて委嘱稟議等を決裁し
た取締役社長の岩根氏については、2016 年 6 月当時には本件方針稟議の内容を
認識しておらず、翌年以降の委嘱稟議に際しても正確に認識していたのかどう
かは定かではないため、本件嘱託報酬が「役員報酬の後払い」であることを明
確に認識した上で委嘱等の稟議を決裁したとまでは認められない(ただし、
2019 年 6 月に豊松氏に EF 委嘱した際の認識については後述する。)。
 それ以外の取締役及び委嘱を受けた退任役員ら(森氏を除く。)について
も、法令違反・監督義務違反は認められない。


善管注意義務違反

① はじめに




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 本件嘱託報酬は役員報酬規制に服さないとする立場に立った場合には、本件
方針稟議及びそれに基づく委嘱を決定した取締役(森氏・八木氏・八嶋氏)に
ついて法令違反(会社法 361 条 1 項・387 条 2 項違反)は認められないものの、
取締役としての善管注意義務に違反するのではないかが問題となる。


② 本件嘱託が役員の個人的利害に関わるものであるかどうか

 相談役・顧問契約とは、あくまでも退任した後の個人と会社の間の委任契約
として一般に行われているものであるが、本件嘱託は、役員在任中に減額措置
の対象とされた報酬を退任後に支払うために設計された仕組みであり、その実
質に照らし、役員の個人的利害に関わるものと認められる可能性が高い。
 実際、仮に金品受取問題が発覚せずに本件嘱託もそのまま実行されていた場
合、最も高額の補填を受けるのは、2013 年 4 月以降の報酬減額期間において会
長を務めていた森氏及び社長を務めていた八木氏であり、秘書室担当取締役常
務執行役員の八嶋氏も、相応の金額を嘱託報酬として受け取ることとされてい
た(この 3 氏は何れも本件方針稟議を決裁している。)。それに加えて、本件
方針稟議を最終決裁権限者として決裁した森氏は、当該決裁後間もなくして自
分自身が本件嘱託の対象となる立場であった。
 このような事情を総合勘案するならば、本件嘱託は役員(特に森氏)の個人
的利害に関わるものであると認められ、少なくとも本件方針稟議を自ら決裁し
た森氏には忠実義務違反が認められるというべきである。


③ 前提事実の認識過程に不注意な誤り・不合理さがあるかどうか

 本件嘱託の検討過程の事実経緯を見ると、本件嘱託を実施することによる以
下のリスクの検証を十分に行っておらず、経営判断の前提となるべき事実の認
識過程において適切な注意が払われていなかった。


(a) 本件嘱託報酬が「役員報酬の後払い」に該当するリスク
  本件嘱託報酬が「役員報酬の後払い」に該当する場合には、役員報酬規制
 (会社法 361 条 1 項・387 条 2 項)を遵守せずに支給した場合には法令違反と
 しての責めを負うことになる以上、本件嘱託報酬が「役員報酬の後払い」に該
 当するかどうかについては慎重に検討し、場合によっては法律専門家に相談し
 てリーガル・オピニオンを取得しておくなどの情報収集・分析を行う必要が
 あった。それにもかかわらず、そのような法的検討を一切行うことなく、本件
 嘱託の実施を決定している。




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(b) 利益相反規制の趣旨に違反するリスク
  本件嘱託は、過去の役員報酬減額分を補填する目的で検討・実施されたもの
 である以上、役員在任時に会社が返上を受けた報酬を退任役員らに返還する契
 約として利益相反取引に該当する可能性も否定できない。仮に利益相反取引に
 該当しないとしても、森氏が最終決裁権限者として本件方針稟議及び本件嘱託
 を決定していることは、利益相反取引規制の趣旨に照らして問題があったと言
 わざるを得ない。
  実質的に見て「役員報酬の後払い」とみなされるリスクが高い以上、人事・
 報酬等諮問委員会に付議して独立社外取締役の意見を聴取するという客観性・
 透明性の高いプロセスを経るべきであったが、かかるプロセスを経ていない。


(c) 消費者・株主・従業員に対する虚偽説明に該当するリスク
  本件嘱託は、電気料金値上げ申請に伴う役員報酬減額措置の対象役員に対
 し、電気料金の値下げ・復配・従業員賞与復活等を実施する前に、対外公表し
 ないまま退任後の嘱託報酬という名目で補填しようとしたものであり、仮に発
 覚した場合には、消費者・株主・従業員に対する虚偽説明として関西電力の信
 用毀損につながるリスクが高いことを容易に想像できたはずである。そうであ
 るとすれば、かかるリスクを負ってまで 2016 年 6 月株主総会以降に実施する
 べきなのか、高浜原発の再稼働とそれに伴う電気料金の値下げ・復配を待って
 から対外説明を行った上で実施するべきなのかについて、慎重に検証するべき
 であった。にもかかわらず、かかるリスクについて適切な検証を行わないま
 ま、2016 年 6 月株主総会以降に本件嘱託を実施することを決定している。


④ 意思決定の推論過程及び内容に著しい不合理さがあるかどうか

 前記のとおり、本件嘱託は消費者・株主・従業員らの信頼を裏切る行為であ
るが、検討を開始した当初には、高浜原発再稼働とそれに伴う電気料金の値下
げ・復配や従業員の賞与復活とセットで実施する予定であったことがうかがえ
る。しかし、実際には高浜原発再稼働禁止仮処分決定により電気料金の値下
げ・復配・従業員賞与復活のいずれも実施することができなかった。これを受
けて、現役役員の報酬削減率の縮小については内容を見直す一方で、本件嘱託
については、補填の範囲(▲40%超の部分)を見直すことなく、本件方針稟議
を決裁している。現役役員の報酬ですら削減率を縮小することがためらわれる
中、インセンティブ報酬としての意義も全く認められない退任役員への過去の
報酬減額分の補填を強行したことについては、およそ合理性が認められない。


⑤ 検討




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  本件嘱託報酬については、仮に「役員報酬の後払い」に該当しないとして
 も、①本件嘱託が役員(特に森氏)の個人的利害に関わるものであり、忠実義
 務違反に該当すると認められること、②本件嘱託を実施した場合に想定される
 各種リスクに関する情報収集・分析が不十分であり、前提事実の認識過程に不
 注意・不合理さが認められること、③本件方針稟議の内容についても、2016 年
 4 月当時の関西電力を取り巻く環境に照らし、極めて不合理であると言わざるを
 得ず、意思決定の推論過程及び内容に著しい不合理さが認められることから、
 本件方針稟議及びそれに基づく委嘱・委嘱期間延長の稟議を決裁した取締役会
 長の森氏、取締役社長の八木氏及び秘書室担当取締役常務執行役員の八嶋氏に
 は善管注意義務違反が認められる。一方、本件方針稟議には関与しておらず、
 2017 年以降に既定の方針に従って委嘱・委嘱期間延長の稟議を決裁した取締役
 社長の岩根氏については、善管注意義務違反までは認められないものと思料す
 る(ただし、豊松氏に対する EF 委嘱時の認識については、後述する。)。


 追加納税分の補填について

 本調査により判明した事実経緯によれば、関西電力では、2019 年 6 月に退任し
た豊松氏に対して EF を委嘱するに当たり、基本となる EF 報酬金額を算定した上、
そこに過去の報酬減額分及び修正申告を行った際の追加納税分の補填の趣旨で計
算した金額を加算して、トータルで副社長待遇と同程度の報酬金額(月額 490 万
円)を支払うこととし、EF 委嘱契約を締結し、報酬を支払った(以下、追加納税
分の補填の趣旨で支払われた金額を「本件追加報酬」という。)。
 本件追加報酬は、豊松氏が原子力事業本部の業務を担当する過程で森山氏から
預かった金品について、金沢国税局の調査を受け、修正申告を行って追加納税し
た金額を補填する趣旨で算定されたものである。森山氏から儀礼の範囲を遙かに
超える多額の金品を預かり、その一部を費消していた役員らの行為が重大なコン
プライアンス違反に該当することは明らかであり、かかるコンプライアンス違反
の行為に対して修正申告を行った役員に対し、各自が負担した追加納税額を退任
後に補填するという判断は著しく不合理であったと言わざるを得ない。
 仮に百歩譲って、森山氏から金品を受領した役員らの行為は会社のために行っ
たものであるから、会社が追加納税額を補填したいというのであれば、人事・報
酬等諮問委員会に上程し、独立社外取締役の意見も聴取した上、取締役会で決定
するという客観性・透明性の高いプロセスを経るべきであった。にもかかわら
ず、社長・会長・相談役の間で相談して内々に本件追加報酬の支給方針を決定し
ており、意思決定プロセスについても合理性が認められない。
 したがって、豊松氏に対して本件追加報酬を支払うことを決定した取締役会長
の八木氏及び取締役社長の岩根氏には善管注意義務違反が認められる。




                   - 7 -
 なお、豊松氏に対する EF 報酬金額については、EF としての基本報酬、本件嘱託
報酬及び本件追加報酬を合算して金額が決定されており、岩根氏はその検討過程
において本件嘱託報酬の算定方法を認識していた可能性がある。前述したとお
り、岩根氏は、2016 年 6 月の社長就任時においては、本件嘱託の目的や本件嘱託
報酬の算定方法を認識していなかったものと考えられるが、社長就任後どこかの
タイミングで認識した可能性があり、仮にこれらの目的・算定方法を明確に認識
していたとすれば、本件嘱託報酬のリスクを検証して委嘱を止めるべき責務が
あったと認められる可能性も否定できない。


 損害について

 前記のとおり、役員報酬減額分の補填については、取締役の法令違反又は善管
注意義務違反が認められ、追加納税分の補填については、取締役の善管注意義務
違反が認められる。
 しかし、関西電力は、委嘱対象者らから、本件嘱託報酬及び本件追加報酬とし
て支払った全額(源泉徴収された委嘱対象者らの税金分も含む。)の回収を受け
ているため、その限りで上記取締役の任務懈怠に基づく損害は認められない。
 そのほか、関西電力では、①当委員会に本調査を依頼したことによる調査費用
を負担しているほか、➁金品受取問題に続けて本件補填問題が報道されたことに
より、一定の信用毀損が生じていると考えられるが、このような調査費用及び信
用毀損が取締役の任務懈怠に基づく損害に該当するかどうかについては、過去の
裁判例においても判断が分かれており、当委員会としても、現時点において明確
な判断を示すことは難しいと考えている。


  調査費用について

  本件補填問題は、消費者・株主・従業員の信頼を裏切る行為として大きな社
 会的非難を浴び、徹底した調査と再発防止策の検討を求められることは必然で
 あったから、当委員会が本調査を実施したことは相当であると認められる。
  その一方で、当委員会は、本件補填問題の調査のために設置されたものでは
 なく、金品受取問題を受けてコンプライアンス体制を強化するべく関西電力が
 新たに設置した恒常的な委員会であるため、本件補填問題が取締役の任務懈怠
 に該当するかどうかにかかわらず、本調査を行うことは当委員会が本来的に行
 うべき職務であるという側面も否定できない。これは相当因果関係を否定する
 べき事情とも考えられる。


   信用毀損について




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   本件補填問題は、金品受取問題とは全く性質の異なる新たな不祥事であると
  いうことができ、これによって関西電力の信用を大きく毀損したことは間違い
  なく、取締役の任務懈怠に基づく損害であると認められる。
   しかし、この損害を金銭的に評価することは困難である。特に、今般の関西
  電力の信用毀損という結果は、本件補填問題だけでなく金品受取問題によって
  もたらされているため、本件補填問題に基づく信用毀損による損害がどの程度
  のものであったのかを客観的に判断することは非常に難しい。過去の裁判例で
  は、民事訴訟法 248 条に基づく損害認定がされているケースも認められるもの
  の、本件における損害認定について現時点で判断することは極めて難しいと言
  わざるを得ない。


2 回収の意思決定に至るプロセスについて

 関西電力は、役員報酬カット分の補填及び追加納税額の補填のいずれも正当性を
欠いており、その決定プロセスもガバナンスの観点から不適切であったとの認識に
基づいて、会社の信頼回復のために支払済みの全額につき自主返還を要請すること
により回収を図るという対応方針を決定している。かかる回収の意思決定に至るプ
ロセスは妥当であり、違法又は不当な点は見当たらない。


3 過去の類似事例の有無について

 当委員会では、役員退任後に顧問や嘱託等の職務を委嘱して当該職務の報酬を支
給することにより役員在任中に返上された報酬を実質的に補填するという過去の類
似事例の有無を検討するため、過去 20 年間における役員の報酬返上(業績悪化及び
不祥事を理由とするもの)の実績資料を確認するとともに、過去 20 年間の顧問及び
嘱託等への報酬支払実績資料の検討を行った。
 しかし、報酬返上分を実質的に補填することを目的として顧問等の委嘱又は報酬
額の増額が行われたことをうかがわせる事実や根拠資料等は認められておらず、本
件に類似する事案が他に存在したとは認められない。


   再発防止に向けた提言

1 本件補填問題を生じさせるに至った要因と問題点

  コーポレートガバナンスの認識の欠如

   本件補填問題を生じさせるに至った要因

 ① 退任役員の処遇は会長の専権という暗黙の了解




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 まず指摘すべきは、退任役員の処遇は会長の専権という暗黙の了解が存した
ことである。本件嘱託報酬にしても本件追加報酬にしても、その当時の会長・
社長など限られたメンバーしか検討に関与しておらず、特に本件嘱託報酬の検
討過程を見ると、会長(森氏)の意向が極めて強く反映され、会長の意向を秘
書室が汲み取って立案し、決定された様子が認められる。
 この「会長の専権」という暗黙の了解が、会長を不当な行為に走らせるとと
もに、他の役員達がそれを体を張って止めようとまではしなかったことの要因
となったと認められる。


② 秘書室の体制及びそこから醸成される経営陣の意識

 次に、会長の命を受けて退任役員の処遇に係る立案を行う秘書室の体制も、
極めて閉鎖的かつ密室的であった。金品受取問題にしても本件補填問題にして
も、「秘密にしようと思えば秘密にできる」という認識がすべての前提にあ
る。そして、かかる経営陣の認識を裏打ちしているのが、退任役員の処遇も含
め役員まわりの事務を担当する秘書室の閉鎖性・密室性である。
 関西電力では、退任役員の処遇は会長の専権であると同時に、担当部署であ
る秘書室が閉鎖的・密室的であるがゆえ、社外は当然として社内にすら秘密に
したまま実行できる構造になっていた。そのため、会長・社長・秘書室担当常
務(取締役又は執行役員)などの経営陣の主観においても「発覚するはずがな
い」という意識が醸成される。かかる経営陣の意識も本件補填問題を生じさせ
た要因である。


③ チェック体制・意識の欠如

 関西電力における退任役員の処遇に係る決定プロセスは、会長の意向に対し
て批判的な視点でこれを検証する体制にはもはやなく、関係する部署において
も検証しようという意識が欠如していた。
 関西電力は、上場企業として、法務・コンプライアンスといった管理部門を
備えており、日常の業務においては適切な管理体制が取られていたはずである
が、会長の専権とされる退任役員の処遇については、リーガル・コンプライア
ンス上のチェックもされず、内部監査部門や監査役からのチェックもされてい
なかったと推察される。唯一関与していた秘書室においても、様々なリスクに
気づいていながら会長の意向を優先し、それらのリスクを検証することもなけ
れば会長に意見を述べることもなかったのであり、およそチェックしようとす
る意識が欠如していたといわざるを得ない。




                 - 10 -
  コーポレートガバナンスの認識の欠如

① 人事・報酬等諮問委員会の軽視

 関西電力は、CG コード(補充原則 4-10①)の適用を受けて、2015 年 11 月に
人事・報酬等諮問委員会を設置し、コーポレートガバナンス報告書の中で、
「経営陣幹部の選解任ならびに経営陣の報酬制度の設計及び報酬額の決定」
「相談役・顧問の委嘱及び報酬」については、人事・報酬等諮問委員会の審議
を経ていると記載している。しかし、実際には、本件嘱託報酬及び本件追加報
酬とも人事・報酬等諮問委員会には一切報告されておらず、独立社外取締役が
全く関知していないところでこれらの報酬補填は実行されていた。
 本件嘱託報酬は、過去の役員報酬減額分を退任後にカバーしたいという森氏
の意向を受けて検討が開始されたものであり、2016 年 6 月の定時株主総会以
降、現行役員の報酬削減率の縮小とセットで実施することとされていたが、役
員退任後の報酬減額分の補填方針については人事・報酬等諮問委員会へ一切報
告されていない。現行役員の報酬削減率の縮小についても、検討過程の議論や
反対意見などは報告されず、電力小売自由化に伴う業績連動報酬の導入という
聞こえの良い理由に差し替えて人事・報酬等諮問委員会に上程されている。
 以上のとおり、関西電力では、CG コードに従って人事・報酬等諮問委員会を
設置していたものの、都合の悪い情報は報告・付議せず、聞こえの良い「きれ
いな情報」だけを報告・付議し、同委員会を軽視していた。


② 会長・相談役が影響力を行使することの弊害

 関西電力では退任役員の処遇については会長の専権という暗黙の了解が存在
していたが、会長がこうした形で人事の実権を保持することには、社長のリー
ダーシップを阻害するという懸念が存する(CGS ガイドライン 51~52 頁)。
 また、関西電力では、金沢国税局への対応やその後の追加納税額の補填方針
の決定などの重要な局面において、会長・社長だけでなく相談役も協議に参加
しており、相談役の意見が経営の方向性に大きな影響を与えていた可能性が高
い。このように経営の現場を退いた元経営トップが相談役として経営に影響力
を及ぼすこともまた、社長のリーダーシップを阻害する要素になり得るもので
ある(CGS ガイドライン 48 頁参照)。


 コンプライアンスの意識の欠如

本件嘱託報酬については、法令違反が疑われるにもかかわらず、その点を検証
することなく支給方針を決定しており、本件追加報酬に至っては、会社自身が重




                   - 11 -
大なコンプライアンス違反の行為を容認したとみなされてもやむを得ない。これ
らの方針を主導したのは当時の会長と社長であり、これは経営トップによる重大
なコンプライアンス違反に他ならない。
 経営トップによるコンプライアンス違反は、内部統制を無力化させる極めて重
大な問題である。そのため、経営トップの不正行為を是正する役割を担うべきな
のは独立した立場の社外取締役であるが、社外取締役は情報が提供されなければ
監督機能を果たせない。
 経営トップによるコンプライアンス違反行為は、ガバナンス・コンプライアン
スという観点からさまざまな形で内部統制システムを工夫したとしても是正が難
しく、非常に罪が重いと言わざるを得ない。


  公共事業を担う者としての自覚の欠如

 関西電力は、「経営陣・従業員も身を切る覚悟である」ことを対外表明して電
気料金を値上げしたにもかかわらず、電気料金の値下げ・復配・従業員の処遇改
善の何れも実現されないまま、過去の役員報酬減額分を補填するための本件嘱託
報酬の支給だけを先に開始したものであり、公共事業を担う者としての自覚が欠
如していたと評価せざるを得ない。
 関西電力は、公共的な事業を行う企業としての社会的な責任を負っている。電
気事業法の改正により電力自由化が進んだとしても、単なる営利企業という位置
づけではなく、極めて重要な公共インフラである電力事業を担う公共性の高い企
業であり、社会からも高いレベルの社会的な役割・責務が求められている。その
ことを役職員全体が意識し、広く社会全般に求められているコンプライアンスの
レベルを超えて、企業としての価値観(企業の理念やフィロソフィー)や行動の
基準を誠実に確立していくことが必要である。


2 再発防止に向けた改善策

  コーポレートガバナンス体制の整備・運用

  経営陣の意識改革

  経営を担う経営陣において、コーポレートガバナンスの意識を高めることが
 急務である。関西電力において、如何にガバナンスの理解や意識が欠如してい
 たかを自省し、ガバナンスの意義を理解するための研修を徹底的に行う必要が
 ある(たとえば、一年間、経営幹部を対象に、総稼働見込み時間の 5%程度をこ
 うした研修に当ててみるなど)。
  そして、経営に当たって透明性を確保するという認識を醸成する。本件の本




                   - 12 -
質的な問題の一つは、密行的かつ内向きに決定されたことと対外的な説明の欺
瞞性であり、このような企業風土を払拭し、外部に情報を開示して正々堂々と
するという意識を定着させる必要がある。


 役員等の人事・報酬の透明性確保等

関西電力は、2020 年 6 月に指名委員会等設置会社へ移行し、少なくとも形式
的には、人事・報酬等のガバナンスに係る権限を指名委員会及び報酬委員会が
掌握することとなる。もっとも、実効的なガバナンスを機能させるためには、
これらの委員会を実質的に機能させる仕組み、工夫が必要である。
在任時の役員報酬や退任役員の処遇についてはどうしてもお手盛りの危険が
否定できないため、今後は現役役員の報酬だけでなく役員を退任した後の嘱
託・顧問の報酬についても報酬委員会に諮り、委嘱する業務の内容や対価の相
当性について検証するプロセスを経るべきである。また、本件補填問題で失墜
した信頼を早期に回復するためにも、委員会の問題意識を広く公開するなど、
より積極的な情報開示を心掛けるべきである。
そのほか、会長・相談役の発言力が強いという企業風土をコーポレートガバ
ナンスの観点から見直すため、社長を業務執行のトップとして明確に位置づけ
るとともに、社長のサクセッションについては指名委員会で議論し、会長・相
談役が不当な影響力を及ぼすことのない仕組みを確立することが重要である。


  社外取締役の職務を支える体制整備

指名委員会等設置会社へ移行し、独立社外取締役によって構成される委員会
に実効的な監督を担ってもらい、取締役会長も独立社外取締役が務めることに
なる以上、社外取締役の職務を支える体制整備が必須である。具体的には、監
督のために必要な情報を提供する仕組みを整え、社外取締役の指示に基づいて
行動するスタッフ・組織を設けることが必要となる。
今般、関西電力では取締役会及び取締役の職務執行を支える組織として、取
締役会室を設置しているが、この取締役会室は単なる取締役会事務局ではな
く、取締役会長を初めとする独立社外取締役の職務執行を支えるという意識で
働くことが重要である。
さらに、社外取締役による監督機能というものは、適切な情報がなければ発
揮されないということも意識してもらう必要がある。社外取締役による監督機
能は、情報を遮断してしまえば簡単に形骸化させることができる。そのような
形骸化を防ぐためには、社外取締役を支える体制をしっかりと構築し、その体
制を支える職員が社外取締役に適切な情報を報告することの重要性をきちんと




                - 13 -
認識して職務を遂行することが極めて重要である。


 執行側経営陣の権限の適切な設定

 指名委員会等設置会社に移行したことに伴い、業務執行の決定については、
広範に執行役への委任が可能となるが、どこまでの範囲でかかる委任を行うか
は、取締役会が自ら決定する必要がある。
 金品受取問題や本件補填問題が生じたからといって、徒に執行側への委任範
囲を保守的に捉えすぎると、経営の効率性が阻害され、萎縮効果も生じてしま
う。社外取締役が主役となる取締役会において決定すべき業務執行の範囲がど
こまでであるべきか(どこまでを執行役の判断に委ねるか)という点につい
て、取締役会において適切に議論し、決定する必要がある。


コンプライアンス体制の整備・運用

 情報の作成・保存の体制整備

 役職員の職務の執行に際し、情報を作成・保存する体制を改めて整備すべき
である。
 本件嘱託に関しては、秘書室のごく限られた役職員のみが会長の意向を受け
て検討を進めたため、残存していた資料が断片的であり、データはサーバー等
ではなく、個人の判断で作成した CD-R に保存されるなど、事後の検証に十分と
は言い難い状況にあった。取締役会、執行役会議、各種委員会のような公式な
会議体のみならず、役員の意思決定の判断プロセス、打合せ、上席者からの指
示等に関しても、適切に記録が残るようにし、職務上作成した資料の保存場所
等を含め、明確に執務ルール化すべきである。


 内部監査等の実効化

 実効的な内部監査の体制構築も重要であり、経営トップを含む全ての業務を
内部監査の対象とし、コンプライアンスの徹底を図るためには、経営監査室と
監査委員会の連携をより一層深めていく必要がある。経営トップによるコンプ
ライアンス違反については、経営監査部による監査といったいわゆる内部統制
システムだけでは対処できず、独立社外取締役を中心とした監査委員会による
監督機能は必須である。そのための情報提供という重要な役割の一環を担うの
が経営監査室であることを十分に意識して職務に当たることが求められる。
 なお、監査委員会においても、そのような問題意識を踏まえた監査が行われ
ることを期待したい。




                 - 14 -
  公共事業を担う者としての認識の整理と再自覚

 現在の電気事業法の下における電気事業者としての「公共性」についても、認
識を整理する必要がある。電力自由化の状況も踏まえつつ、様々なレベルの「公
共性」の意味について考え、議論し、整理した上で、それを担う企業としての責
任を再自覚する必要がある。それが関西電力にとってのコンプライアンスの意味
を考える契機となる。


  定期的モニタリング

 改善状況について、定期的なモニタリングを継続することが必要である。ま
た、取締役会、及び各委員会の実効性は、外部専門家の意見も聴取の上、実施す
ることが望ましい。常に、外部からの評価に晒されているということは、内向き
思考を改めることにもつながるし、取締役会が主体的に改善を促進する姿を示す
ことは企業風土に好影響をもたらす。


   結語

本件補填問題に関しては、既に第三者委員会報告書に記載されている上、監査役
会が独自に設置した「取締役責任調査委員会」からも報告書が提出されているが、
当委員会としても、この問題は関西電力にとって非常に重要な問題であると認識
し、独自に徹底的に調査し、問題点を追究することとした。その意図は、①本件補
填問題というユーザー・株主・従業員に対する裏切り行為を前にして、関西電力が
一から出直して企業改革を果たすためには、事実関係を徹底的に調査し、全てのス
テークホルダーに開示する必要があること、➁金品受取問題に続く本件補填問題に
ついて、その真の原因を究明し、新しい価値観の構築の基礎とすべきであると考え
たことである。
本報告書は、関西電力の問題をさらけ出してしまうものであり、当面は関西電力
に対する更なる批判を招くことになるが、それらの批判を正面から真摯に受け止
め、批判の中から自分達に足りなかったこと、間違っていたことを学び、とことん
深くまで考えることで、社会からの信頼を取り戻し、役職員の方々の仕事、そして
会社への誇りを取り戻す第一歩としたいと思っている。それが新しい「コンプライ
アンス憲章」の中核をなすはずである。
当委員会はその一助をなすことがミッションであり、そのために本報告書を作成
したものである。
                                   以上




                 - 15 -
関西電力株式会社取締役会    御中




       調 査 報 告 書



         2020 年 8 月 17 日
       コンプライアンス委員会




             - 1 -
                              目次

    調査の概要 ························································ 5

1   本調査の目的 ······················································ 5

2   調査事項 ·························································· 6

3   調査体制 ·························································· 6
    調査の責任者 ······················································      6
    調査体制 ··························································    6
    事務局 ····························································   6
    本調査の期間及び当委員会における審議 ······························                  6

4   本調査の方法 ······················································ 7
    関係資料の精査 ···················································· 7
    関係者が保有するメールデータ等のデジタル・フォレンジック調査 ······ 7
    関係者に対するヒアリング調査 ······································ 7

5   本調査の前提条件・限界 ············································ 7

    本調査により判明した事実経緯 ······································ 9

1   関西電力の概要 ···················································· 9
    沿革等 ···························································· 9
    役員報酬について ·················································· 9
    相談役・顧問制度について ········································· 10

2   東日本大震災後の経営状況の悪化と役員報酬の減額···················· 11
    役員報酬の減額 ··················································· 11
    2012 年 6 月の定時株主総会 ········································· 11

3   電気料金の値上げ申請と役員報酬の減額······························ 12
    電気料金の値上げ申請に向けた役員報酬の減額 ·······················                   12
    電気料金の値上げ申請 ·············································        12
    査定方針案に従った役員報酬の減額 ·································              13
    相談役・顧問制度の見直し ·········································          13
    従業員の処遇 ·····················································    14
    2013 年 6 月の定時株主総会 ·········································     14

4   原子力発電所再稼働の遅延 ········································· 14
    原子力発電所再稼働の遅延 ········································· 14
    従業員の処遇 ····················································· 14
    2014 年 6 月の定時株主総会 ········································· 14

5   電気料金の再値上げ申請と役員報酬の減額···························· 15




                             - 2 -
     電気料金の再値上げ申請に向けた役員報酬の減額 ·····················                    15
     従業員の処遇 ·····················································    15
     電気料金の再値上げ申請 ···········································         15
     査定方針に従った役員報酬の減額 ···································             16
     従業員の処遇 ·····················································    17
     2015 年 6 月の定時株主総会 ·········································     17

6    2015 年秋における役員報酬・退任後の取扱いの検討 ··················· 17
     コーポレートガバナンス・コードへの対応 ··························· 17
     2015 年 10 月の検討指示 ············································ 18
     報酬減額部分をカバーする方策の検討 ······························· 18

7    2016 年 2 月以降の役員報酬・退任後の取扱いに係る方針決定 ··········· 20
     2016 年 2 月当時の方針 ·············································   20
     高浜原発再稼働禁止仮処分決定 ·····································            20
     従業員の処遇 ·····················································    21
     「役員報酬の見直し」に係る決定 ···································             21
     役員退任後の取扱いに係る方針決定 ·································              22
     対象者への委嘱内示の際の伝達事項の検討 ···························                 22
     役員報酬の見直しに係る決議 ·······································           22
     2016 年 6 月の定時株主総会 ·········································     23

8    2016 年秋以降の役員報酬の削減率の見直し ··························· 23
     従業員の処遇・高浜原発再稼働禁止仮処分命令の取消決定 ·············                        23
     2017 年 6 月取締役会における役員報酬の見直し ·······················              24
     2017 年 6 月の定時株主総会・復配 ···································        24
     原発の再稼働・電気料金の値下げ・従業員の処遇 ·····················                    24
     2018 年 6 月取締役会における役員報酬の見直し ·······················              24

9    嘱託者への委嘱 ··················································· 25
     委嘱の決定 ······················································· 25
     委嘱時の説明 ····················································· 25
     委嘱対象者らの認識及び委嘱期間中の状況 ··························· 26

10   秘書室の組織改編、秘書室業務担当役員等の交代······················ 27

11   EF 委嘱にあたっての追加納税額相当分の補填方針 ····················· 27
     金沢国税局による調査 ············································· 27
     修正申告に至る経緯 ··············································· 28
     修正申告後の補填方針の決定及び伝達時期 ··························· 29
     EF の委嘱及び修正申告対象役員らへの追加納税額相当分の補填方針の決定 30

12   金品受取問題発覚後の経緯 ········································· 31
     金品受取問題の発覚 ··············································· 31
     嘱託者の解嘱に至る経緯 ··········································· 31
     報酬返還要請に至る経緯 ··········································· 32




                             - 3 -
    当委員会における検討 ············································· 34

1   関係者の法的責任について ········································· 34
    役員報酬減額分の補填について ····································· 34
    追加納税分の補填について ········································· 48
    損害について ····················································· 50

2   回収の意思決定に至るプロセスについて······························ 52

3   過去の類似事例の有無について ····································· 53

    再発防止に向けた提言 ············································· 54

1   本件補填問題を生じさせるに至った要因と問題点······················ 54
    コーポレートガバナンスの認識の欠如 ······························· 54
    コンプライアンスの意識の欠如 ····································· 63
    公共事業を担う者としての自覚の欠如 ······························· 64

2   再発防止に向けた改善策 ··········································· 66
    コーポレートガバナンス体制の整備・運用 ···························                  66
    コンプライアンス体制の整備・運用 ·································               69
    公共事業を担う者としての認識の整理と再自覚 ·······················                    70
    定期的モニタリング ···············································        70

    結語 ····························································· 71




                              - 4 -
   調査の概要

1 本調査の目的

 関西電力株式会社(以下「関西電力」という。)は、同社の役員等が社外の関係者か
ら金品等を受け取っていた問題(以下「金品受取問題」という。)について、2019 年 10
月 9 日に第三者委員会を設置し、①森山氏関係調査、②類似事案調査、③当時から
これまでの関西電力の対応、④上記①~③についての背景・根本原因の究明並びに
再発防止策の提言を委嘱した。
 第三者委員会は、上記委嘱を受けて調査を実施し、関西電力に対し、2020 年 3 月
14 日付の調査報告書(以下「第三者委員会報告書」という。)を提出したが、その中
で、一部の役員について、その退任後に嘱託等の業務を委嘱する際の報酬に「金品
受取り問題に関する修正申告時の追加納税分」及び「過去の経営不振時の役員報酬
削減分」を補填する趣旨が含まれていると指摘された。
 これを受けて、関西電力は、社内において事実関係を確認したところ、下記①及
び②の事実が確認された。


① 金品受取問題に関する修正申告時の追加納税考慮分
 2018 年秋ごろ、金品受取問題に関し修正申告及びそれに伴う追加納税を行うこ
 ととなった役員に対し、役員を退任後、嘱託等報酬額を決定する際に、修正申告
 時の追加負担額を考慮する旨の方針を決定していること。
 また、この方針に基づき、2019 年 7 月から 10 月まで、1名の退任役員に、嘱託
 等報酬(支給総額:120 万円)が支払われていること。


② 過去の経営不振時の役員報酬削減考慮分
 2016 年 4 月、大幅な報酬返上を行っている役員に対し、その労苦を踏まえ、役員
 を退任後、嘱託等報酬額を決定する際に、役員報酬のカット分を一定程度考慮す
 る旨の方針を決定していること。
 また、この方針に基づき、2016 年 7 月から 2019 年 10 月まで、合計 18 名(上記
 1 名を含む。)の退任役員に、嘱託等報酬(支給総額:約 2.6 億円)が支払われ
 ていること。


 関西電力は、上記①及び②の事実(以下「本件補填問題」という。)について、
外部の客観的な視点から検証を行う必要があると判断し、2020 年 4 月 28 日に設置さ
れたコンプライアンス委員会(以下「当委員会」という。)において調査を行うことを
決定した(以下、当委員会が行った調査を「本調査」という。)。




                      - 5 -
2 調査事項

当委員会における調査事項は、以下のとおりである。


 ① 第三者委員会報告書において摘示された下記の点に係る事実関係(当事者の
  認識を含む。)の調査及び関係者の法的責任の検討
  (i) 過去の経営不振時の役員報酬削減分の補填の趣旨
  (ii) 金品受取問題に関する修正申告時の追加納税分の補填の趣旨
 ② 回収の意思決定に至るプロセスの検証
 ③ 過去の類似事例の調査


3 調査体制

  調査の責任者

 当委員会委員長 中村直人          (中村・角田・松本法律事務所 弁護士)


  調査体制

 委員長の指揮の下、当委員会委員並びに中村・角田・松本法律事務所及び日比
谷パーク法律事務所の所属弁護士により、社内資料調査及び関係者ヒアリング等
の必要な調査を行った。
 当委員会委員 松山         遙   (日比谷パーク法律事務所   弁護士)
  調 査 補 助 者 山田 和彦      (中村・角田・松本法律事務所 弁護士)
  調 査 補 助 者   小川 尚史    (日比谷パーク法律事務所   弁護士)
  調 査 補 助 者   川本   拓   (日比谷パーク法律事務所   弁護士)


 また、当委員会は、フォレンジック調査を行うため、専門機関である株式会社
KPMG FAS(以下「KPMG」という。)を調査補助者として起用し、調査の補助を受け
た。


  事務局

 当委員会は、コンプライアンス推進室の従業員を当委員会の事務局とし、関西
電力内の資料等の収集、インタビューの日程調整その他の事務を行わせた。


  本調査の期間及び当委員会における審議

 当委員会は、2020 年 4 月 27 日から同年 8 月 17 日までの間、本調査を実施した。




                         - 6 -
その間、前記(2)記載の調査担当者より調査結果の報告を受け、メール等で意見交
換を行い、2020 年 5 月 18 日及び 6 月 12 日開催のコンプライアンス委員会におい
て、本調査の対処方針の審議及び進捗状況の共有を行った。その後、8 月 17 日開
催の同委員会にて、本報告書について審議を行い、承認した。


4 本調査の方法

本調査の方法は以下のとおりである。


  関係資料の精査

 当委員会は、関西電力の取締役会等の会議体の議事録、各種社内規程類、稟議
書・方針書・委嘱状等の文書、手控え等の資料を収集し、その内容を精査・検証
した。


  関係者が保有するメールデータ等のデジタル・フォレンジック調査

 当委員会は、関西電力の役職員合計 13 名を対象として、関西電力のメールサー
バー等に保存されていたこれらの役職員の電子メールデータを保全するととも
に、秘書室に在籍していた 2 名が貸与を受けていた業務用のパソコンのデータを
保全した(別紙 1-1:フォレンジック一覧表)。その上で、当委員会は、キーワー
ドを用いた検索によってデータを抽出し、抽出されたデータを精査した。
 また、当委員会では、総務室にて保存されていた CD-ROM を保全し、その中に保
存されていたデータを精査した。


  関係者に対するヒアリング調査

 当委員会は、関西電力の役職員及び元役員等合計 25 名に対し、合計 28 回ヒアリ
ング調査を実施した(別紙 1-2:ヒアリング一覧表)。なお、一部のヒアリング対
象者については、再度のヒアリングを要請したものの、自身を被告とする訴訟が
提起されたことを理由として、再度のヒアリングに応じられないとの回答を受け
た。


5 本調査の前提条件・限界

本報告書は、与えられた時間及び条件の下において、必要な調査を行った結果を
まとめたものである。
ただし、本調査の対象は現役・退任後における役員の処遇であり、関西電力内部




                     - 7 -
においても秘書室の限定されたメンバーのみで検討が進められていた上、打合せの
内容も正式な議事録等として記録されておらず、残されていた資料・データが実際
に打合せに用いられたものなのかどうか不明である。
また、前記 4(3)のとおり、一部のヒアリング対象者について、当委員会が必要と
認めた再度のヒアリングが実施できなかったため、本報告書における事実認定の一
部は、当該対象者の認識を確認することなく行っている。
そのため、今後の調査において新たな事実等が判明した場合には、本報告書の結
論等が変わる可能性がある点には留意が必要である。また、本報告書は、裁判所や
関係当局等の判断を保証するものではない。




                 - 8 -
     本調査により判明した事実経緯

1 関西電力の概要

  沿革等

 関西電力は、電気事業再編政令により、関西配電株式会社及び日本発送電株式
会社からの設備の出資及び譲渡を受けて、1951 年 5 月に設置された株式会社であ
る。
 2020 年 6 月に指名委員会等設置会社へ移行する前の関西電力は、監査役会設置
会社であり、その役員構成は、2015~2016 年(本調査の対象である事実関係のう
ち、役員報酬削減分の補填の趣旨に基づく支払が検討・実施された当時)には、
取締役 16 名のうち社外取締役 3 名、監査役 7 名のうち社外監査役 4 名、2018~
2019 年(追加納税分の補填の趣旨に基づく支払が検討・実施された当時)には、
取締役 14 名のうち社外取締役 3 名、監査役 7 名のうち社外監査役 4 名であった。
 また、後述するとおり、関西電力では、2015 年 11 月に人事・報酬等諮問委員会
を設置している。人事・報酬等諮問委員会は、社内取締役(会長・社長)及び全
社外取締役(3~4 名)で構成されており、取締役会から諮問を受けて、①役員人
事に関する事項、②取締役報酬に関する事項、③その他委員が必要に応じて求め
る事項について審議を行い、取締役会の決議に資することを目的としている。


  役員報酬について

     役員報酬の構成

  関西電力における取締役、監査役及び執行役員の報酬の構成は、以下のとお
 りである(ただし、監査役は業績連動報酬及び株式報酬の対象外である。)。


                報酬の構成
  ~2006 年 6 月   ・月額報酬(総会決議の上限以内)
                ・賞与(別途総会決議)
                ・退職慰労金
  2006 年 7 月    ・月額報酬(総会決議の上限以内)
  ~2016 年 6 月   ・賞与(別途総会決議)
  2016 年 7 月    ・月額報酬+業績連動報酬(総会決議の上限以内)
  ~2018 年 6 月
  2018 年 7 月~   ・月額報酬+業績連動報酬(総会決議の上限以内)
                ・株式報酬(別途総会決議)




                        - 9 -
 月額報酬については、株主総会決議に基づく上限金額(取締役:7500 万円、
監査役:1800 万円)の範囲内で役職別に金額が定められており、2006 年 6 月に
退職慰労金制度を廃止したことに伴い、2006 年 7 月以降、月額報酬が引き上げ
られた。
 賞与については、毎年株主総会に賞与支給議案を上程し、承認決議を得て支
給していたが、2011 年度より業績悪化等の事情を勘案して不支給となってい
た。
 その後、2016 年 7 月より賞与を廃止し、株主総会決議に基づく上限金額の範
囲内で、月額報酬及び業績連動報酬を支給する制度を導入した。
 さらに、2018 年 7 月より、月額報酬及び業績連動報酬に加えて、新たに株式
報酬制度を導入した。


  役員報酬の決定プロセス

 関西電力では、株主総会において取締役及び監査役の報酬上限額を決議し、
個別の支給金額については取締役会の決議及び監査役の協議に一任されてい
る。
 取締役会では、各取締役の個別報酬金額の決定について会長に一任する旨を
決議し、会長が各取締役の役職位及び会社業績への貢献度等を総合勘案して決
定する。
 また、常勤監査役の報酬については、その処遇位に応じて監査役の協議で決
定されている。
 関西電力では、役員報酬については秘書室(2018 年の組織改編後は総務室。
以下同じ。)が所管しており、役員報酬体系の見直しを行う際には、秘書室が
中心となって会長・社長の指示を受けながら原案を作成し、秘書室担当常務
(取締役又は執行役員)、社長及び会長の決裁を受けた後、必要に応じて取締
役会へ上程(決議・報告)している。また、後述するとおり、関西電力におい
ては、東日本大震災発生後の収支の悪化及び電気料金の値上げなどの事情を勘
案して複数回にわたり役員報酬の自主返上が行われているが、自主返上案の作
成、各取締役への説明及び個別の同意取得についても、秘書室が中心となって
行われている。
 なお、関西電力においては、2015 年 11 月より人事・報酬等諮問委員会が設置
されており、業績連動報酬制度の導入やその後の役員報酬の自主返上割合の見
直しについては、人事・報酬等諮問委員会に諮問されている。


相談役・顧問制度について




                  - 10 -
 関西電力においては、従前より、①会長・社長経験者については退任後に相談
役・顧問・社友として処遇する、②副社長以下の役員経験者については退任後に
関係会社常勤役員あるいは顧問として処遇する、という取扱いがされていた。
 しかし、後述するとおり、2012 年 11 月の電気料金の値上げ申請に際し、2013 年
3 月に相談役・顧問への報酬及びこれに関連する人件費等の費用を原価算入すべき
でないとする査定方針案が示されたため、2013 年 7 月より、相談役・顧問の員数
を削減するとともに処遇を見直した。さらに、2014 年 12 月の電気料金の再値上げ
申請の際、依然として相談役・顧問への報酬支払いが継続していることについて
指摘を受けたため、2015 年 3 月、「委嘱内容を吟味し、さらなる削減に努める」
ことを表明し、2015 年 6 月より相談役・顧問については無報酬とする一方、新た
にエグゼクティブ・フェロー(以下「EF」という。)という役職を設け、副社長
以下の役員のうち特に専門的知見の高い者について役員退任後も関西電力に勤務
するポスト(常勤)を創設した。
 関西電力では、退任役員に対する処遇内容の決定等については、秘書室又は人
材活性化室が中心となって会長・社長の指示を受けながら原案を作成し、秘書室
又は人材活性化室担当常務、社長及び会長の決裁を受けて決定している。
 また、各退任者に対する委嘱については、会長が各退任者に内示・説明を行っ
ている。


2 東日本大震災後の経営状況の悪化と役員報酬の減額

 役員報酬の減額

 関西電力では、東日本大震災後の原子力発電所の稼働率の低下や燃料価格の上
昇の影響により、火力燃料費や他社からの購入電力料が大幅に増加したことか
ら、2011 年度(2012 年 3 月期)の決算において多額の経常損失・当期純損失を計
上するに至った。
 2012 年 2 月時点で、2011 年度の収支見通しが非常に厳しく、また、原子力発電
所の再稼働の見通しも不透明な状況となっていたことをふまえ、関西電力では、
2012 年 2 月 27 日開催の取締役会において、①2011 年度の賞与を不支給とするこ
と、②2012 年 3 月より当面の間、取締役(社外取締役を除く。)の月例報酬の一
部を返上することにより 15%の年間報酬額の減額を実施することの報告がなさ
れ、取締役全員がこれを了承した。
 また、監査役からも、取締役と同様、2012 年 3 月より当面の間、それぞれの処
遇位に応じて月例報酬の一部を返上することとした旨の報告がされた。


 2012 年 6 月の定時株主総会




                     - 11 -
 関西電力では、2012 年 6 月 27 日開催の第 88 回定時株主総会において、2011 年
度の決算として 3020 億円の経常損失・2576 億円の当期純損失(単体)を計上した
ことを報告しつつも、剰余金処分議案として株主への配当(前年度と同額の 1 株
30 円)を上程し、承認決議を得て配当を実施した。
 しかし、役員賞与支給議案については上程せず、役員賞与の支給を見送った。


3 電気料金の値上げ申請と役員報酬の減額

 電気料金の値上げ申請に向けた役員報酬の減額

 関西電力では、東日本大震災以降、定期点検を迎えた原子力発電所で順次発電
が停止され、2012 年 2 月 20 日をもって 11 基全ての原子力発電所が発電を停止す
ることとなった。その結果、2012 年度においても引き続き収支見通しが厳しく、
中間配当を無配とせざるを得なくなったことを踏まえ、2012 年 9 月 20 日開催の取
締役会において、同年 10 月より当面の間、会長・社長については 30%、副社長に
ついては 25%、常務取締役・取締役については 20%、社外取締役については引き
続き 10%(賞与不支給による。)の割合による年間報酬額の減額を実施すること
の報告がなされ、取締役全員がこれを了承した。
 また、監査役からも、取締役と同様、2012 年 10 月より当面の間、それぞれの処
遇位に応じて月例報酬の一部を返上することとした旨の報告がされた。


 電気料金の値上げ申請

 関西電力は、2012 年 11 月 26 日、電気料金の値上げに係る供給約款変更認可申
請を行った。当該申請における営業費総括表では、役員給与として 2012 年 10 月か
ら役職位に応じて 20~30%の減額を実施した後の水準(平均 4100 万円)で原価算
入を行ったほか、顧問 14 名に対する報酬についても雑給として原価算入を行っ
た。
 これに対し、経済産業省総合資源エネルギー調査会総合部会の電気料金審査専
門委員会(以下「専門委員会」という。)の審議において複数の委員から厳しい
意見が出され、専門委員会の平成 25 年(2013 年)3 月 6 日付「関西電力株式会社
及び九州電力株式会社の供給約款変更認可申請に係る査定方針案」では、①役員
報酬の水準について、人事院による「民間企業における役員報酬(給与)調査」
における調査結果を勘案して、国家公務員のトップである事務次官の給与水準が
設定されていることを踏まえると、電力会社の役員報酬についても国家公務員の
指定職の給与水準と同レベルとすることが適当である、②関西電力の顧問 14 名及
び九州電力の相談役・顧問 3 名については、業務内容が明確にされておらず、会
社を代表する権限や責任を有していないことから、相談役・顧問への報酬及びこ




                     - 12 -
れに関連する人件費等の費用については原価に算入することを認めるべきでな
い、とする検討結果が示された。
 関西電力は、かかる査定方針案等の検討を経た 2013 年 3 月 29 日の経済産業省に
よる修正指示を踏まえ、役員報酬については国家公務員の指定職の給与水準と同
レベル(平均 1800 万円)を原価算入し、相談役・顧問報酬については原価算入し
ないこととする供給約款変更認可申請補正書を 2013 年 4 月 2 日に提出し、同日、
電気料金の値上げについて認可を得た。


 査定方針案に従った役員報酬の減額

 関西電力では、前記の査定方針案を受けて、役員報酬の減額について検討を開
始した。検討に当たっては、秘書室が中心となって、会長(森氏)、社長(八木
氏)及び秘書室担当常務取締役(八嶋氏)などの意見を確認しながら、役職位に
応じて削減率に傾斜をつけた役員報酬減額案を作成し、2013 年 3 月 28 日から 4 月
1 日にかけて社内決裁を受けた。
 その上で、電気料金の値上げや今後の厳しい経営環境等を踏まえ、2013 年 4 月
2 日開催の取締役会において、同年 4 月より当面の間、会長・社長については 70%
程度、副社長については 60%程度、常務取締役・取締役については 55%程度、社
外取締役については引き続き 10%(賞与不支給による。)の割合による年間報酬
額の減額を実施することとし、2012 年度の取締役賞与は不支給とする旨の報告が
なされ、取締役全員がこれを了承した。
 また、監査役からも、取締役と同様、2013 年 4 月より当面の間、それぞれの処
遇位に応じて月例報酬の一部を返上することとした旨の報告がされた。
 なお、このような減額を実施した結果、関西電力における役員報酬の支給額
は、平均して約 2100 万円というレベルとなった。


 相談役・顧問制度の見直し

 関西電力では、前記の査定方針を受けて、相談役・顧問制度の見直しについて
も検討を開始した。
 会長・社長経験者の退任後の処遇については、秘書室が中心となって、会長、
社長及び秘書室担当常務取締役などの意見を確認しながら取扱いを見直し、2013
年 5 月 20 日、社内決裁を受けた。
 また、副社長以下の役員経験者の退任後の処遇については、秘書室又は人材活
性化室が中心となって、会長、社長及び人材活性化室担当副社長などの意見を確
認しながら取扱いを見直し、2013 年 6 月 17 日から 6 月 20 日にかけて社内決裁を
受けた。




                       - 13 -
 さらに、関西電力では、2012 年 11 月の電気料金値上げ申請時に委嘱していた顧
問 14 名を削減することとし、2013 年 5 月 20 日、14 名中 7 名の顧問を同年 6 月に
解嘱し、それ以外の 7 名については委嘱期間を延長することとした。


  従業員の処遇

 関西電力は、2013 年 3 月 7 日、関西電力労働組合との間で、給与・福利厚生等
の取扱いとして、①2013 年 4 月以降、基準賃金の 5%程度を減額すること、②2013
年夏季賞与の支給を見送ることなどを合意した。


  2013 年 6 月の定時株主総会

 関西電力は、2013 年 6 月 26 日開催の第 89 回定時株主総会において、2012 年度
の決算として 2 期連続で経常損失・当期純損失を計上したことを報告し、剰余金
処分議案において株主への配当を見送った(無配)。
 また、役員賞与支給議案についても上程せず、役員賞与の支給を見送った。


4 原子力発電所再稼働の遅延

  原子力発電所再稼働の遅延

 関西電力は、第一次値上げ申請において、高浜発電所 3・4 号機の再稼働時期を
2013 年 7 月とする原子力運転計画を策定し、原価計算を行っていたが、高浜発電
所の再稼働は想定よりも大幅に遅れていた。
 また、大飯発電所 3・4 号機についても、上記原子力運転計画においては 2013 年
11 月・12 月の再稼働を前提としていたが、運転差止請求等を受けて再稼働が遅れ
ていた。


  従業員の処遇

 関西電力は、2013 年 11 月 7 日、関西電力労働組合との間で、2013 年冬季賞与の
支給を見送ることなどを合意した。また、電気料金値上げ申請時の想定どおりに
原子力発電所の再稼働を実施できず、依然として厳しい事業収支であったこと等
の事情を踏まえ、2014 年 3 月 31 日、関西電力労働組合との間で、2014 年夏季賞与
の支給を見送ることなどを合意した。


  2014 年 6 月の定時株主総会

 関西電力は、2014 年 6 月 26 日開催の第 90 回定時株主総会において、2013 年度




                       - 14 -
の決算として 3 期連続で経常損失・当期純損失を計上したことを報告し、株主へ
の配当を見送った(無配)。
 また、役員賞与支給議案についても上程せず、役員賞与の支給を見送った。


5 電気料金の再値上げ申請と役員報酬の減額

 電気料金の再値上げ申請に向けた役員報酬の減額

 関西電力は、前回の電気料金値上げ申請において、高浜発電所 3・4 号機及び大
飯発電所 3・4 号機の再稼働を前提とした計画を策定していたが、2014 年 12 月 17
日になっても再稼働時期の目処が立たず、2014 年度の決算も過去 3 期に引き続き
赤字になることが見込まれるなど厳しい事業収支が続いていることから、再び電
気料金の値上げを実施する準備を進めることとした。
 秘書室では、電気料金の再値上げを申請するに当たり、役員報酬を更に減額す
ることを検討し、2014 年 10~11 月にかけて、会長、社長及び秘書室担当取締役常
務執行役員(八嶋氏)などの意見を確認しながら、減額案を作成した。
 そして、再度の値上げや今後の厳しい経営状況等を踏まえ、2014 年 12 月 24 日
開催の取締役会において、2015 年 1 月より当面の間、取締役の報酬については 5%
程度削減率を拡大し、社内取締役平均で 65%、社内取締役一人当たりの平均で約
1800 万円まで年間報酬を減額すること及び社外取締役については引き続き 10%
(賞与不支給による。)の割合による年間報酬額の減額を実施することの報告が
なされ、取締役全員がこれを了承した。
 また、監査役からも、取締役と同様、2015 年 1 月より当面の間、月例報酬の一
部を返上することとした旨の報告がされた。


 従業員の処遇

 関西電力は、厳しい事業収支等の事情を踏まえ、2014 年 11 月 10 日、関西電力
労働組合との間で、2014 年冬季賞与の支給を見送ることなどを合意した。


 電気料金の再値上げ申請

 関西電力は、2014 年 12 月 24 日、電気料金の値上げに係る供給約款変更認可申
請を行った。当該申請は、電源構成変分認可制度による燃料費等のみの改定のた
め、役員報酬に係る原価は見直していないが、経営効率化に向けた取組みとし
て、実際に支払う役員報酬については、2013 年 4 月から社内役員平均で 60%減額
(一人当たり平均で 2100 万円)としていたところ、2015 年 1 月から社内役員平均
で 65%減額(一人当たり平均で約 1800 万円)を実施した。また、原価として算入




                    - 15 -
していない顧問 7 名に対する報酬の支出は経営全般の効率化で吸収する方向で考
えるものとした。
 これに対し、経済産業省総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会の電気
料金審査専門小委員会(以下「専門小委員会」といい、専門委員会と合わせて
「専門委員会等」という。)では、複数の委員から、前回の電気料金値上げ申請
時には 2013~2015 年までの 3 ヶ年の効率化計画において一人当たりの役員報酬を
平均 1800 万円として原価算入していたにもかかわらず、実際にはそれを上回る報
酬金額(平均 2100 万円)を支給していたことや役員退任後に顧問に就任した者に
対する報酬等が依然として支払われていたことなどについて厳しい意見が出され
た。これらの意見を踏まえ、関西電力は、平成 27 年(2015 年)2 月 25 日付「第
21 回のご質問への回答等について」や、同年 3 月 24 日付「第 22 回のご質問への
回答等について」において、役員報酬の 2013~2014 年度における平均 1800 万円と
の差額分については、2015 年度の効率化に織り込んで経営全般で達成すること、
また、顧問については「委嘱内容を吟味し、さらなる削減に努める」ことを表明
した。
 これを受けて、専門小委員会の平成 27 年(2015 年)4 月 21 日付「関西電力株式
会社の供給約款変更認可申請に係る査定方針案」において、①経営効率化につい
て、一部コスト削減等において未達となっている費目があり、原価を超える支出
が見られたこと、②当該支出は原価上は織り込まれていないため、料金には反映
されておらず、それに見合うべく他の費目で効率化の深掘りを行っていると考え
られること、しかし、③財務基盤の毀損等を背景として再値上げを行う局面に当
たっては、原価に織り込まれていない支出をしている限り、その分純資産が削ら
れ要資金調達額が増えていく等の観点から、効率化の深掘りによって生み出され
る原資は需要家への還元や財務基盤強化に充てられるべきである、とする検討結
果が示された。
 関西電力は、かかる査定方針案が 2015 年 5 月 15 日に「物価問題に関する関係閣
僚会議」において了承され、同日経済産業省から修正指示を受けたことを踏ま
え、2015 年 5 月 18 日、効率化額を原資とした電気料金負担軽減措置として役員及
び顧問報酬の更なる削減を含め徹底した経営効率化に取り組むとして、供給約款
変更認可申請補正書を提出し、同日、電気料金の値上げについて認可を得た。
 関西電力はこれを受け、規制分野についての 2015 年 6 月1日から平均 8.36%の
値上げを実施した(なお、同年 4 月 1 日から値上げを実施していた自由化分野に
ついては、値上げ率に認可内容を反映して平均 11.50%とした。)。


 査定方針に従った役員報酬の減額

 関西電力は、前記の査定方針案を受けて、役員報酬の更なる減額について検討




                    - 16 -
を開始した。検討に当たっては、秘書室が中心となって、会長、社長及び秘書室
担当取締役常務執行役員などの意見を確認しながら減額案を作成し、2015 年 4 月
28 日から 5 月 1 日にかけて社内決裁を受けた。
 かかる検討と並行して、再値上げ申請に対する社会からの厳しい声を受け止
め、2015 年 4 月 30 日開催の取締役会において、社内取締役の報酬を同年 6 月から
更に減額することとし、具体的な削減額については今後詳細を詰めた上で個別に
同意を得る旨の報告がなされ、取締役全員がこれを了承した。また、監査役から
も、取締役と同様、2015 年 6 月より当面の間、それぞれの処遇位に応じて月例報
酬の一部を返上することとした旨の報告がされた。
 その後、2015 年 5 月 18 日開催の取締役会において、社内役員の報酬を現在の平
均 65%の削減から更に 5%引き下げ、平均 70%削減することとした旨の報告がさ
れた。
 さらに、相談役・顧問の報酬についても、6 月末に退任する一部の者を除き、
2015 年 6 月より無報酬とした。


  従業員の処遇

 関西電力は、2015 年 3 月 25 日、関西電力労働組合との間で、①2015 年夏季賞与
の支給を見送ること、②2015 年度以降当面の間、住宅関連手当の一部の支給を停
止すること、③現在実施している月例賃金の減額を継続することなどを合意し
た。


  2015 年 6 月の定時株主総会

 関西電力は、2015 年 6 月 25 日開催の第 91 回定時株主総会において、2014 年度
の決算として 4 期連続で経常損失・当期純損失を計上し、株主への配当を見送っ
た(無配)。
 また、役員賞与支給議案についても上程せず、役員賞与の支給を見送った。


6 2015 年秋における役員報酬・退任後の取扱いの検討

  コーポレートガバナンス・コードへの対応

 関西電力の秘書室では、改正会社法の施行(2015 年 5 月)及びコーポレートガ
バナンス・コード(以下「CG コード」という。)の適用開始(2015 年 6 月)を踏
まえて、2015 年 4 月頃より取締役会運営の今後の方向性について検討を開始し、
内部統制システム強化ワーキンググループを立ち上げ、主に CG コードへの対応に
ついて協議を重ねていた。




                      - 17 -
 一 連 の 協 議 を 踏 ま え 、 関 西 電 力 で は 、 原 則 と し て CG コ ー ド の 各 項 目 に
「Comply」(従う)する方針を採用し、2015 年 11 月に人事・報酬諮問委員会を設
置した。その一方で、中長期の業績に連動し、株式報酬等の導入については慎重
に検討することとした。


 2015 年 10 月の検討指示

 秘書室では、東日本大震災以降、特に電気料金の値上げ申請時の査定方針に
従って 2013 年 4 月から大幅な役員報酬の減額(自主返上)が継続していたことか
ら、どのような状況になれば報酬水準を元に戻すことができるのかを検討するた
めの参考として、他の電力会社の報酬水準の推移などを確認していた。
 そうしたところ、2015 年 10 月頃、会長から秘書室長に対し、これまで自主返上
してきている役員報酬のうち、削減率が 50%だった場合の報酬水準と比べて、超
過して減額されている部分を退任後にカバーすることはできないかという旨の指
示が出された。同じ頃、人材活性化室に対しても、同様の意向が示された。
 さらに、現行の役員報酬についても、同じく 10 月頃に行われた秘書室長及び担
当マネジャーと会長との打合せの中で、原子力発電所の再稼働、従業員賞与、復
配、電気料金の値下げなどとセットにして 2016 年 6 月定時株主総会終了後に見直
したいとする会長の意向が示された。


 報酬減額部分をカバーする方策の検討

   2015 年秋の検討状況

  秘書室では、会長からの上記指示を受けて、大幅な役員報酬減額について補
 填するための対応(案)の検討に着手した。
  具体的には、「現役時、当社・関係会社での是正は難しい」ため、退任後に
 行うことを基本方針とし、実施時期を 2016 年 6 月定時株主総会以降とした上、
 補填方法について、①会長・社長については、相談役・顧問の報酬に積み上げ
 して是正する、②副社長以下については、(A)当社嘱託(秘書扱)を委嘱して是
 正する、(B)関係会社役員時の報酬を増額して是正、(C)関係会社役員退任後、
 顧問を委嘱して是正するなどの案を作成し、秘書室担当取締役常務執行役員、
 人材活性化室担当常務及び会長の意見を確認した。
  秘書室では、これらの意見を踏まえて、減額 50%水準だけでなく、減額
 40%・30%水準を超過する部分まで補填するケースについても試算し、それら
 を比較しながら補填の方法や範囲について検討を進め、説明資料を改訂し、
 2015 年 10 月末ころ、会長へ報告した。その際、会長より、①会長・社長につい
 ては相談役・顧問の報酬に積み上げし、副社長以下については当社嘱託(秘書




                           - 18 -
扱)を委嘱して是正すること、②是正するのは減額 40%水準を超えた部分とす
ること、③新規退任者だけでなく、既退任者も対象とすること、④実施時期は
役員報酬を戻す時期を考慮して決定すること(現行の役員報酬の水準も 2016 年
6 月に「かなり戻したら良い」こと)という意向が示された。
 その後、2015 年 11 月中旬にかけて、秘書室から社長に対して検討結果を報告
し、会長の方針について了解を得た。また、実施時期については、状況を見て
別途相談することとされた。
 なお、上記の一連の検討過程において秘書室が作成した資料には、「現役
時、当社・関係会社での是正は難しく、退任後に行うこととしたい」「補填方
法」「現役の間は役員報酬となるため、退任後に行うこととしたい」といった
記載があるほか、副社長以下の対応方法として複数の案が検討され、各案につ
き「関係者が少なく漏洩リスクは小さい」「漏洩した場合、実質的な顧問制度
であり、報酬の補填と批難される」等のメリット・デメリットが検討されてい
た。また、対応措置を実施した場合の支給対象者、総支給額、支給月額、期間
等も具体的に記載され、それに基づいて基準となる減額水準等の検討も行われ
ていた。


 2016 年 2 月の方針決定

 その後、秘書室では、2015 年秋に会長・社長の了承を得た前記方針に従って
具体的な対応方針に係る説明資料を作成し、2016 年 2 月、改めて会長に相談し
た。
 当該資料では、「現役の間は役員報酬となるため、退任後に処遇する」とい
う方針の下、支給方法については、大要以下のとおり記載されていた。


会長・社長   顧問時の報酬に上積みする         ・相談役報酬を上限として支給する。
                             ・報酬減額期間中は、減額後の相談役報酬
                             を上限とする。
                             ・上記措置を講じた後、残金額が発生した
                             場合も、顧問期間を延長しない。
副社長以下   (1) 関係会社等に転出しない場合    ・規定報酬に上積み支給する。ただし、報
          当社業務を委嘱する          酬減額期間中は減額後の報酬に上積み支
          (呼称:個別決定)          給する(上積み額によっては、現役当該
                             役位の報酬を上回る場合がある)。
        (2) 関係会社等に転出した場合     ・転出先報酬によっては、取扱いを実施し
          当社業務を委嘱            ない(例:きんでん役員に就任など)
          (呼称:嘱託(秘書扱))




                    - 19 -
   また、措置の対象者の範囲については、減額 40%水準を超える減額部分のあ
 る役員・執行役員について、「対象金額を 12、24 などの支給月数で除し、支給
 月額を設定(10 万円未満切捨て)する」とした上で複数の案が記載されていた
 ほか、実施時期については 2016 年 6 月の株主総会実施日以降とされていた。
   秘書室は、会長に対し、上記対応方針の内容を説明し、意向を確認した。


7 2016 年 2 月以降の役員報酬・退任後の取扱いに係る方針決定

  2016 年 2 月当時の方針

 秘書室では、2016 年 2 月下旬から 3 月初旬にかけて、前年秋より検討を進めて
きた 3 点(①役員報酬の見直し、②相談役・顧問報酬の見直し、③役員退任後の
取扱い)について方針を取りまとめ、社長及び会長に対して説明を行った。
 2016 年 2 月時点では、高浜発電所 3 号機の発電が 2 月 1 日に開始され、2 月 26
日には本格運転が再開しており、同 4 号機もまもなく再稼働できる見通しとなっ
ており、それを踏まえて電気料金の値下げ及び復配も予定されていた。実際、社
長は、2016 年 2 月 26 日の定例社長会見において、高浜発電所 4 号機の本格運転が
再開されることを前提に、同年 5 月 1 日から電気料金を値下げすることを予定し
ている旨発言していた。
 そのため、2016 年 2 月下旬から 3 月初旬の時点では、①値下げ・復配を理由と
して、2016 年 7 月より、役員報酬削減率を会長・社長は約 40%、社内役員平均で
30%に変更すること、②役員と同じタイミングで相談役・顧問報酬についても見
直すこと、③退任後に役員報酬削減率 40%を超える部分を補填すること、④支給
対象者を絞り込むことなく、全員支給対象とすることという方針で、会長及び社
長の了解を得た。
 また、2016 年 3 月上旬頃、秘書室は、役員報酬返上に関する対応措置内容をま
とめた「役員の報酬返上にかかる対応措置の取扱いについて」と題する資料の案
文を作成するとともに、当該対応措置の内示の方法、内示の際の対象者へのコメ
ントの案文等の資料を作成している。当該資料には、「役員報酬を返上いただい
た額を補填するというものではないが、世間的には誤解をうむおそれもあるた
め、嘱託委嘱(報酬加算)については、ご本人限りにお願いする。」と記載され
ている。


  高浜原発再稼働禁止仮処分決定

 しかしながら、2016 年 3 月 9 日、2015 年 1 月 30 日の原発再稼働禁止仮処分の申
立て以来、審理の行われてきた大津地方裁判所にて、高浜発電所 3・4 号機の再稼




                      - 20 -
働を禁止する旨の仮処分決定が出された。
 関西電力では、上記仮処分決定を不服として不服申立の手続を行う一方で、当
面の間原子力発電所の再稼働ができない状況となったことから、2016 年 3 月 11
日、①同年 2 月 26 日の定例社長会見において社長が言及した電気料金の値下げを
見送ること、②2016 年(平成 28 年)3 月期の期末配当予想を無配とすることを公
表した。


 従業員の処遇

 関西電力では、2016 年 3 月 31 日、関西電力労働組合との間で、①2016 年夏季賞
与の支給を見送ること、②現在実施している月例賃金の減額を継続するものの、
2013 年 4 月以降 5%程度とされてきた削減率を 2.5%程度とすることなどを合意し
た。


 「役員報酬の見直し」に係る決定

 秘書室では、前記のとおり、高浜発電所 3・4 号機の再稼働禁止仮処分が出さ
れ、予定していた電気料金の値下げ・復配も見送ることとなったため、2016 年 3
月下旬から 4 月中旬にかけて、会長・社長の了解を得ていた役員報酬の見直し方
針を再検討した。
 具体的には、2 月時点で予定されていた役員報酬削減率(会長・社長:約
40%、社内役員平均:30%)を変更し、A 案(会長・社長:50%、社内役員平均:
40%程度)、B 案(会長・社長:58%、社内役員平均:50%程度)、C 案(会長・
社長:73%、社内役員平均:1800 万円程度)という 3 つの案を作成し、会長、社
長のほか、副社長(岩根氏)らにも意見も聞きながら、検討を進めた。その際、
一部の役員からは、「A 案では組合に説明できない。組合も騙されたと思うだろ
う」「A 案は役員目線で作成した案であり、従業員からすれば掛け離れた内容」
「もう 1 年我慢できないのか」「少し冷却期間をおいて会長説明した方がよい」
「会長の思いはありがたいが、素直に実施すればもたない」などとして、A 案に対
する反対意見も出された。また、電気料金の値下げ・復配が見送られた中、単に
「削減率を減らす」という説明では対外的な理解が得られにくいという意見も
あったため、秘書室ではこれらの意見を踏まえて再検討を行った。
 その結果、役員報酬については、単に「削減率を減らす」のではなく、「報酬
制度を見直し、その結果として報酬額も変える」という方針に切り替え、2016 年
4 月の電力小売全面自由化を理由として従前の役員報酬制度(固定報酬+賞与)を
見直し、役員賞与を廃止し、月例報酬に基礎部分と業績連動部分を設定すること
とした。そして、最終的な役員報酬削減率については、基礎部分の削減率 40%、




                    - 21 -
業績連動部分をゼロとする方針となった。


 役員退任後の取扱いに係る方針決定

 その一方で、役員退任後の取扱いについては、特に再検討されることはなく、
社長及び秘書室担当取締役常務執行役員から従前どおりの方針を了承する旨が伝
えられるとともに、会長から「40%超の部分についてはこれまでの考え方に則り
同様の措置をとること」との意向が示された。
 秘書室は、前記検討を踏まえ、役員退任後の取扱いに関し、「役員の報酬返上
に係る対応措置の取扱いについて」と題する方針稟議(以下「本件方針稟議」と
いう。)を起案した。
 本件方針稟議では、その趣旨について「従業員給与の削減率と比較しても大幅
な返上を行っている役員に対し、その労苦に報いるため、本措置を執るものであ
る」とした上、措置の内容として、①会長・社長閲歴者及び他社等に転出しない
役員に対し、当社の相談役・顧問・EF 等の報酬額に一定の加算をすること、②他
社等に転出する役員に対し、当社嘱託として業務を委嘱し報酬を支払うこと、③
常務執行役員について報酬に一定の加算を行うこと、と記載されている。
 また、措置の基準となる金額は、2013 年(平成 25 年)4 月以降の支払報酬総額
と、その間報酬返上が 4 割であった場合の報酬総額との差額とすると記載されて
いる。具体的な措置金額は、当該金額及び措置期間並びに転出先の報酬を勘案の
うえ、個別に決定することとされた。
 措置期間については、会長・社長閲歴者については原則として相談役及び顧問
委嘱期間、その他退任者については原則として「役員等の退任後の人事任免に関
する取扱い」で定める就任期間とされた。
 本件方針稟議については、秘書室担当取締役常務執行役員、社長及び会長の順
に決裁され、2016 年 4 月 20 日、上記内容の補填方針が決定された。


 対象者への委嘱内示の際の伝達事項の検討

 秘書室は、2016 年 5 月下旬、嘱託委嘱の対象者への内示の際のコメント内容案
として、「役員報酬返上にかかる対応措置の内示コメント(案)」を作成し、社
長及び会長への説明を行った。当該資料には「今般の委嘱(または加算)は、在
任中に役員報酬を返上いただいた額を補填するというものではないが、世間的に
は誤解をうむおそれもあるため、嘱託委嘱(加算)については、ご本人限りとい
うことでお願いする。」と記載されていた。


 役員報酬の見直しに係る決議




                    - 22 -
 関西電力では、2016 年 5 月 26 日開催の人事・報酬等諮問委員会において、役員
報酬の見直しについて審議を行った。
 具体的には、委員長(会長)より、電力の小売全面自由化に向けて役員報酬に
ついて業績への連動性を高めるべく、報酬体系の見直しを実施する等と説明した
上、①役員報酬体系の見直し、②業績連動報酬の具体的な仕組み、③2016 年 7 月
以降の報酬水準について付議し、委員全員より、提案どおりの内容で取締役会に
諮ることの了承を得た。
 そして、2016 年 6 月 28 日開催の取締役会において、同年 7 月以降の社内取締役
の報酬について業績連動報酬をゼロとした上、基本報酬を平均 40%の減額とする
旨の報告がされ、取締役全員がこれを了承した。また、監査役からも、取締役と
同様、2016 年 7 月より、それぞれの処遇位に応じて月例報酬の一部を返上するこ
ととした旨の報告がされた。


  2016 年 6 月の定時株主総会

 関西電力では、2016 年 6 月 28 日開催の第 92 回定時株主総会において、2015 年
度の決算として燃料価格の下落等により経常利益(2416 億円)・当期純利益
(1408 億円)ともに黒字となったことを報告したものの、仮処分決定により高浜
発電所 3・4 号機の再稼働が見通せず、依然として収支状況の見通しが立たないこ
とから、株主への配当を見送った(無配)。
 また、それまで取締役会長を務めていた森氏は、第 92 回定時株主総会の終結を
もって取締役を退任し、同日付で相談役に就任した。
 さらに、第 92 回定時株主総会の後に開催された取締役会において、新たに取締
役会長として八木氏が、取締役社長として岩根氏が選定された。


8 2016 年秋以降の役員報酬の削減率の見直し

  従業員の処遇・高浜原発再稼働禁止仮処分命令の取消決定

 関西電力は、2016 年 11 月 15 日、従業員に対し冬季賞与を 4 年ぶりに支給する
こととし、関西電力労働組合との間で、その平均額を 59 万 1000 円とすることを妥
結した。月例賃金の 2.5%程度の減額は継続することとした。
 その後、2017 年 3 月 28 日、大阪高等裁判所において、高浜発電所 3・4 号機の
再稼動禁止の仮処分命令を取り消す決定が出された。これを受けて、関西電力は
同日、2017 年(平成 29 年)3 月期の期末配当予想を 1 株あたり 25 円とすることを
公表した。
 そのうえで、2017 年 4 月 27 日、従業員に対し夏季賞与を 5 年ぶりに支給するこ
ととし、関西電力労働組合との間で、①賞与の年間総額を平均 141 万 8000 円(う




                      - 23 -
ち夏季分は 70 万 7000 円)とすること、②月例賃金の減額(2.5%程度)は継続す
るが、電気料金の値下げを実現できれば、削減率を見直すことが合意された。


 2017 年 6 月取締役会における役員報酬の見直し

 関西電力は、2017 年 6 月 28 日開催の取締役会において、同年 7 月以降の社内取
締役の報酬について、基本報酬の削減率を縮小するとともに業績連動報酬を支給
することにより、平均 30%の減額とする旨の報告がなされ、取締役全員がこれを
了承した。
 また、監査役からも、取締役と同様、2017 年 7 月より、それぞれの処遇位に応
じて月例報酬の一部を返上することとした旨の報告がされた。


 2017 年 6 月の定時株主総会・復配

 関西電力では、2017 年 6 月 28 日開催の第 93 回定時株主総会において、2016 年
度の決算として 2 期連続の黒字となり、毀損した財務体質が改善しつつあること
を報告し、剰余金処分議案として株主への配当(1 株 25 円)を上程し、承認決議
を得て配当を実施した。配当は 2012 年 6 月以来であり、5 期ぶりの復配となった。


 原発の再稼働・電気料金の値下げ・従業員の処遇

 関西電力は、高浜発電所 4 号機の本格運転再開(2017 年 6 月 16 日)及び高浜 3
号機の本格運転再開(同年 7 月 4 日)を受け、2017 年 7 月 6 日、経済産業大臣に
電気特定小売供給約款等の変更届出を行い、同年 8 月 1 日から平均で 4.29%の値
下げが行われた。
 これを受けて、関西電力は、2017 年 9 月 1 日、関西電力労働組合との間で、月
例賃金の減額を継続するが、その削減率を 1.25%程度とすることを合意した。
 その後、2018 年 5 月 28 日、大飯発電所 3 号機の本格運転再開(同年 4 月 10 日)
に加え、大飯発電所 4 号機が同年 6 月上旬に本格運転を再開する予定となったこ
とから、さらなる値下げを行うため、経済産業大臣に電気特定小売供給約款等の
変更届出を行った。同年 6 月 5 日に大飯発電所 4 号機の本格運転が再開され、同年
7 月 1 日から平均で 5.36%の値下げが行われた。
 最終的に、関西電力は、2018 年 8 月 6 日、関西電力労働組合との間で、従業員
の月例賃金の減額を取りやめ、(2015 年度以降行われていた)住宅関連手当の一
部支給停止を解除することを合意した。


 2018 年 6 月取締役会における役員報酬の見直し




                      - 24 -
 関西電力は、2018 年 6 月 27 日開催の取締役会において、同年 7 月以降の社内取
締役の報酬について、基本報酬の削減率を縮小するとともに株式報酬を支給する
ことにより、平均 10%の減額とする旨の報告がなされ、取締役全員がこれを了承
した。
 また、監査役からも、取締役と同様、2018 年 7 月より、それぞれの処遇位に応
じて月例報酬の一部を返上することとした旨の報告がされた。


9 嘱託者への委嘱

  委嘱の決定

 関西電力では、従前より、相談役・顧問への委嘱については会長が決定する慣
行となっており、本件方針稟議に従った個別の委嘱内容・報酬金額についても、
秘書室が作成した対象者ごとの金額(報酬減額削減率が 40%だった場合の報酬総
額と実際の支給額の差額)及び転出先の報酬等を勘案しながら、会長が委嘱対象
者及び報酬金額を決定していた。
 具体的には、毎年 5 月から 6 月にかけて、秘書室が会長と相談して委嘱対象者
及び報酬金額を記載した稟議書を起案し、秘書室担当常務(取締役又は執行役
員)、社長及び会長が決裁の上、委嘱することを決定した。各稟議書には、委嘱
対象者の氏名、名義(相談役、EF、嘱託)、委嘱業務、委嘱期間及び報酬金額が
記載されていた。なお、2016 年 7 月以降の委嘱対象者には、同年 6 月をもって退
任予定であった会長の森氏自身も含まれており、森氏自身が 2016 年 5 月 27 日に自
らへの委嘱に係る稟議書を決裁している。
 また、本件方針稟議に基づく委嘱期間が満了した者に対しては、毎年 5 月から 6
月にかけて解嘱する旨の稟議書を起案し、秘書室担当常務(取締役又は執行役
員)、社長及び会長が決裁の上、解嘱することを決定していた。
 委嘱期間が複数年にわたる者については、毎年 5 月から 6 月にかけて、委嘱を
延長する旨の稟議書を起案し、秘書室担当常務(取締役又は執行役員)、社長及
び会長が決裁の上、委嘱の延長を決定していた。この場合、委嘱の延長に関して
会長から直接に説明がなされることはなく、嘱託委嘱を延長する旨を通知する文
書が郵送等により委嘱対象者に交付されていた。


  委嘱時の説明

 本件方針稟議に基づく委嘱については、毎年 4~6 月の間にかけて、会長が委嘱
対象者を個別に呼び、委嘱の趣旨等について説明を行っていた。
 具体的には、森氏(2016 年)及び八木氏(2017 年以降)が会長として委嘱対象
者に委嘱の趣旨等を説明しており、概ね、①当社役員在任中に大幅な報酬返上な




                    - 25 -
ど大変な苦労をかけたこと、②在任中の苦労に多少なりとも報いるため、7 月から
嘱託(非常勤嘱託又は常勤の EF)を委嘱すること、③委嘱業務、委嘱報酬及び委
嘱期間、などを説明していた。
 内示の際に委嘱対象者に伝えるべき事項については委嘱対象者ごとに読み上げ
原稿が作成されており、委嘱業務の内容や嘱託報酬月額が記載されているほか、
委嘱期間に関しても、期間が 1 年の者については「期間は、1 年間の限定であ
る」、期間が複数年にわたる者については「1 年ごとに更新する。期間は、最長 2
年間である」と記載されていた。また、「今般の委嘱は、在任中に役員報酬を返
上いただいた額を補填するというものではないが、世間的には誤解をうむおそれ
もあるため、嘱託委嘱については、ご本人限りということでお願いする」との記
載も含まれていた。
 これを受けて、委嘱対象者全員ではないものの、一部の委嘱対象者に対して
は、今般の委嘱について過去の報酬減額部分を補う趣旨であることを説明し、ま
た、「世間の誤解を生むおそれもあるため、嘱託委嘱については本人限りとして
ほしい」旨を伝えていた。


 委嘱対象者らの認識及び委嘱期間中の状況

 委嘱対象者らの嘱託及びその報酬に関する認識は、委嘱時に受けた説明の内容
や委嘱以前からの嘱託に関する認識内容等の事情に応じて相違しており、必ずし
も一様のものではない。委嘱対象者らへのヒアリングによれば、委嘱時の説明内
容に関しては、①過去の役員在任中の報酬減額部分を補う趣旨であると伝えられ
た者もいれば、伝えられていない者もおり、②嘱託の委嘱について口外しないよ
う伝えられた者もいれば、伝えられていない者もいるとのことである。そのほ
か、委嘱対象者の中には、退任前の業務において役員報酬減額分の補填方法の検
討に関与しており、自らに対する嘱託の委嘱においても補填の趣旨が含まれてい
るであろうことを認識し得る状況にあったのではないかと考えられる者も認めら
れる。
 ただし、委嘱対象者らへのヒアリングによれば、多くの委嘱対象者は、自らの
役員在任中の担当業務や専門分野等に関わる業務を委嘱されており