8848 レオパレス21 2019-05-29 15:00:00
外部調査委員会による調査状況の最終報告に関するお知らせ [pdf]
2019 年 5 月 29 日
各位
会 社 名 株 式 会 社 レ オ パ レ ス 21
代表者名 代表取締役社長 深 山 英 世
(コード番号 8 8 4 8 東証第一部)
問合せ先 取締役常務執行役員 宮 尾 文 也
( T E L 0 5 0 - 2 0 1 6 - 2 9 0 7 )
外部調査委員会による調査状況の最終報告に関するお知らせ
株式会社レオパレス21(本社:東京都中野区 社長:深山 英世、(以下、「当社」といいま
す。)は、2018 年 4 月 27 日付、2018 年 5 月 29 日付及び 2019 年 2 月 7 日付のニュースリリースにて公
表しましたとおり、一部の当社施工物件において、界壁の施工不備、界壁内部充填剤の相違、外壁構成
における大臣認定との不適合及び天井部施工不備(以下、各施工不備を総称して「界壁等の施工不備」
といいます。)が発見されたことから、かかる界壁等の施工不備に関して、その原因の解明等を行うた
め、2019 年 2 月 27 日に伊藤鉄男弁護士(西村あさひ法律事務所)を委員長とする外部調査委員会(以
下、「本調査委員会」といいます。)を設置し、調査を進めてまいりました。
かかる調査を受けて、当社は、本調査委員会より 2019 年 5 月 29 日に「施工不備問題に関する調査報
告書」(以下、「最終報告書」といいます。)を受領致しましたので、別添のとおりお知らせいたしま
す。最終報告書の概要は、下記のとおりです。
このたびは、界壁等の施工不備につきまして、当社施工物件の所有者様、入居者様をはじめとする関
係者の皆様及び各ステークホルダーの皆様には多大なるご心配及びご迷惑をおかけしましたことを深く
お詫び申し上げます。
界壁等の施工不備について、共同住宅という商品を扱う建設業者としてあるまじき問題であることを
重く受けとめ、全社一丸となって引続き調査及び補修の速やかな実施を行うとともに、再発防止に全力
で取り組んでまいります。
<本件に関するお問い合わせ>
オーナー様 フリーコール 0120-082-991 (受付:10:00-19:00) ※水曜日 10:00-18:00)
入居者様 フリーコール 0120-911-165 (受付:10:00-19:00)
行政関係者様 専用ダイヤル 03-5350-0134 (受付:9:00-18:00 定休日:土日祝)
株主様 IR推進室 050-2016-2907(受付:9:00-18:00 定休日 土日祝)
報道機関様 広報部 03-5350-0445 (受付:9:00-18:00 定休日 土日祝)
2019年(令和元年)5月29日
施工不備問題に関する調査報告書
(概要版)
外部調査委員会
第1編 本調査の概要
第 1 本調査の経緯
2019 年(平成 31 年)2 月 21 日、株式会社レオパレス 21(以下「レオパレス 21」という。)から、同社と
利害関係を有しない西村あさひ法律事務所に対し、同社が過去に施工した共同住宅において発覚した不
備について、原因究明等のための調査の依頼があった。その後、同月 27 日、レオパレス 21 の取締役会
において、外部調査委員会(以下「当委員会」といい、当委員会が実施した調査を「本調査」という。)の設
置が正式に決議され、同日、当委員会が設置された。
第 2 当委員会の体制
当委員会は、下記 3 名の委員で構成されている。
委員長 伊藤 鉄男 (西村あさひ法律事務所 弁護士)
委員 木目田 裕 (同)
委員 山本 憲光 (同)
なお、いずれの委員も、本調査以前にレオパレス 21 から法律事務の委任を受けたことはなく、同社
との間に利害関係はない。また、委員らが所属する西村あさひ法律事務所とレオパレス 21 との間に
も、本調査の受任時点において、利害関係はない。
当委員会は、本調査を実施するに当たり、西村あさひ法律事務所に所属する、いずれもレオパレス 21
と利害関係を有しない弁護士 20 名を調査補助者として任命した。
さらに、当委員会は、本調査に際し、レオパレス 21 と利害関係がなく、建築分野において専門的知
見を有する日本建築検査協会株式会社(JCIA)及び佐藤宏也一級建築士から助言を得た。
なお、当委員会は、本調査の独立性・客観性を確保するため、日本弁護士連合会「企業等不祥事にお
ける第三者委員会ガイドライン」に準拠し、また、日本取引所自主規制法人「上場会社における不祥事対
応のプリンシプル」の「②第三者委員会を設置する場合における独立性・中立性・専門性の確保」を踏ま
えて調査を行った。
第 3 本調査の目的及び対象範囲
本調査の目的は、レオパレス 21 が 2018 年(平成 30 年)4 月 27 日、同年 5 月 29 日及び 2019 年(平成
31 年)2 月 7 日に公表した、同社施工物件における、①ゴールドネイル及びニューゴールドネイル(以
下、両シリーズを併せて「ネイルシリーズ」という。)並びにゴールドレジデンス、ニューシルバーレジ
デンス、ニューゴールドレジデンス、スペシャルスチールレジデンス、ベタースチールレジデンス及び
コングラツィア(以下、これらのシリーズを併せて「6 シリーズ」という。)で発覚した、小屋裏等におい
て界壁を施工していない不備(以下、かかる不備に関する問題を「小屋裏等界壁問題」という。)、②ゴー
ルドレジデンス及びニューゴールドレジデンスで発覚した、界壁の断熱材に、設計図書に記載されたグ
ラスウール又はロックウールではなく、硬質ポリウレタンフォーム(以下「発泡ウレタン」という。)が使
用されていた不備(以下、かかる不備に関する問題を「界壁発泡ウレタン問題」という。)、③ゴールドレ
ジデンス、ニューゴールドレジデンス及びヴィラアルタで発覚した、外壁が設計図書に記載された国土
交通大臣認定1(以下「大臣認定」という。)の仕様に適合していなかった不備(以下、かかる不備に関する
問題を「外壁仕様問題」という。)、④ゴールドレジデンスで発覚した、天井部の施工仕上げが設計図書
に記載された国土交通省告示2(以下「告示」という。)の仕様に適合していなかった不備(以下、かかる不
備に関する問題を「天井部問題」という。)について、事実の確認及び原因の究明を行うとともに、関係
者の責任3について検討し、併せて再発防止策の提言を行うことである。
なお、レオパレス 21 では、上記①ないし④の施工不備(以下、これらの不備を併せて「本件不備」とい
うことがある。)の存否について、上記公表後も引き続き同社施工の全物件を対象とした調査(以下「全
棟調査」という。)を実施中であるところ、本調査においては、その調査結果が正確であることを前提と
している。一方、その過程で、上記①ないし④以外の不備が発見されているほか、今後更に不備の件数
が増加したり、新たな不備が発見されたりすることもあり得なくはない。さらに、レオパレス 21 が公
表した以外の不備を、オーナーらが個別に問題とする事例も散見されるところであるが、本調査におい
ては、それらを直接の調査対象とするものではない。限られた時間や条件の中で、レオパレス 21 の施
工に関する全体的な問題点や、その原因、関係者の責任、さらに、再発防止策等を明らかにするために
は、上記①ないし④を本調査の対象範囲とすることで足りると考えるからである。
第 4 本調査の方法
当委員会は、①レオパレス 21 に現存する各種図面(一般図、確認申請図、施工図、施工マニュアル
等)、取締役会議事録、各種会議資料、稟議書、各シリーズの開発関係資料等の収集・精査、②レオパ
レス 21 の役職員についてのデジタル・フォレンジック調査、③関係者に対するヒアリング(延べ 110
名、合計 169 回)、④社員アンケート(レオパレス 21 の一部退職者を含む役職員等の対象者 6,173 名中
3,519 名が回答)、⑤施工業者アンケート(レオパレス 21 の販売した物件 10 棟以上を施工した施工業者
236 社中 84 社が回答)等を行った。
1
2001 年(平成 13 年)1 月以前に建築された物件の仕様には、建設大臣認定が適用される。
2
2001 年(平成 13 年)1 月以前に建築された物件の仕様には、建設省告示が適用される。
3
本報告書は、関係者の法的責任の有無について判断するものではない。
- 2 -
第2編 本調査の結果判明した事実
第 1 本件不備が発生した頃のレオパレス 21 の状況
1 レオパレス 21 の事業の沿革
レオパレス 21 は、1973 年(昭和 48 年)8 月、深山祐助氏により設立(資本金 300 万円)され、不動産仲
介事業を営んでいた。その後、1981 年(昭和 56 年)から一戸建て住宅の分譲販売を開始し、1985 年(昭
和 60 年)には都市型アパート「レオパレス 21」の分譲販売(建売)を本格的にスタートさせた。その一方
で、1986 年(昭和 61 年)から自社が販売した物件等を対象とする不動産賃貸事業を本格的に開始し、
1988 年(昭和 63 年)頃から、土地所有者から注文を受けて共同住宅を建築する請負建築事業を開始し
た。
レオパレス 21 の経営成績は、1990 年(平成 2 年)3 月期が、単体で営業収益約 1,918 億円、営業利益
312 億円、当期純利益 65 億円であったが、バブル崩壊後の 1993 年(平成 5 年)3 月期から 1995 年(平成 7
年)3 月期までは、連結での売上高が 700 億円前後、営業利益は数億円から 22 億円程度の赤字、純利益
に至っては、1992 年(平成 4 年)3 月期から 1998 年(平成 10 年)3 月期まで 7 期連続で数十億円から 200
億円程度の赤字となり、3,000 億円を超える有利子負債を抱えて、資金繰りや利払いもままならないほ
どの、極めて深刻な経営状況に陥った。
しかしながら、その後は、ゴールドネイル、ゴールドレジデンス、コングラツィア等のヒット商品に
よる増収増益が続き、2004 年(平成 16 年)3 月には、東京証券取引所一部上場(上場時の資本金は約 375
億円)を果たした。上場後の 2005 年(平成 17 年)3 月期には、売上高 4,763 億円、営業利益 547 億円、当
期純利益 333 億円となり、2008 年(平成 20 年)9 月のリーマンショックの影響等により、一時赤字化し
たこともあったが、2015 年(平成 27 年)以降は売上高 5,000 億円台、営業利益 210 億円から 230 億円、
当期純利益 150 億円から 200 億円と安定した状態が続いていた。
2 ビジネスモデルの変遷
レオパレス 21 の不動産販売事業、請負建築事業及び不動産賃貸事業の 3 事業の営業収益に占める割
合は、1990 年(平成 2 年)3 月期 1,918 億円のうち、不動産販売が 85.1%、請負建築が 2.3%、不動産賃
貸が 9.4%で、翌年度もほぼ同様の割合であった。レオパレス 21 が販売していた商品は、従来は専ら
「在来工法」であったが、1989 年(平成元年)には、部屋の大部分を工場で完成させ、現場で組み立てる
「規格化鉄骨ユニット工法」によるキュービクル等を販売するようになった。ところが、バブルの崩壊に
より分譲アパートの売上が不振を極め、上記のような経営状況の悪化から脱却するため、レオパレス 21
では、アパート建売(分譲)から、アパート請負建築(注文建築)事業とアパート一括借上による賃貸事業
の 2 本柱への業態転換を強力に推進することとした。この請負建築事業におけるコンセプトは、徹底し
たコストカットと工期短縮にあり、そのためには、工場で規格材を用いてパネルを製造した上、高い技
術力を有しない作業員によって、現場で比較的簡単に組み立てることのできる、まさに深山祐助氏の言
う「プラモデルのような建物」を造ることであった。そして、レオパレス 21 は、当時、資金難などによ
り国内における資材の仕入れが困難であったことから、アメリカで製造し、船便で本邦に搬送した大型
- 3 -
パネル等を使った木造ツーバイフォー工法(枠組壁工法)による新商品ゴールドネイルを開発し、1994 年
(平成 6 年)に販売を開始した。続いて、その後継のニューゴールドネイルや、ゴールドレジデンス、コ
ングラツィア等の新商品を毎年のように開発して販売し、その結果、1994 年(平成 6 年)3 月期以降は、
営業収益・売上高に占める不動産販売事業の割合は数%となり、代わって請負建築事業が 1994 年(平成
6 年)3 月期 22%、1995 年(平成 7 年)3 月期 32%、さらに 1996 年(平成 8 年)3 月期には 52%となり、そ
れまで 50%を超えていた不動産賃貸事業を上回るまでになった。
その後も、請負建築事業と不動産賃貸事業がレオパレス 21 の両輪としてその業績向上に寄与してき
たが、リーマンショック後の 2009 年度(平成 21 年度)以降、請負建築事業は大幅な業績不振となり、
2015 年度(平成 27 年度)以降では、上記割合がわずか 15%程度までに低下し、近時は不動産賃貸事業が
同社の中心的事業となっている。
3 深山祐助氏の退任
レオパレス 21 の創業以来、同社の代表取締役社長であった深山祐助氏は、同社が一括借り上げして
賃貸している共同住宅の入居者向けに入居者共済会を発足させることを検討し、その発足に先駆けて入
居者から徴収した手数料の一部を共済会の共同基金とする目的で留保していたところ、その資金のうち
17 億円を自らに貸し付け、29 億円以上を同社の取引先でもある知人の企業に貸し付けるなどした(いず
れも発覚後返済)(同社が東京証券取引所に提出した改善報告書による。)ことの責任を問われ、2006 年
(平成 18 年)6 月、代表取締役社長を辞任し、取締役も退任した。
その原因等に関し、上記改善報告書には、「問題は、入居者共済会の発足が深山祐助氏の独断で進め
られ、その発足の可否及び是非等を検討し判断することが期待されている取締役会の監督機能が全くな
いがしろにされ、結果として会社の統制が及ばない資金が作出されたことである。レオパレス 21 は東
京証券取引所一部上場企業でありながら、オーナー企業の残滓から、ややもすると深山祐助氏の独断専
行から物事が進められ、それを誰も糺すことができない状態にあったことは全く否定できない」旨記載
されている。
深山祐助氏の辞任後、大場富夫副社長がレオパレス 21 の代表取締役社長に就任したが、間もなく健
康上の理由から退任し、2006 年(平成 18 年)12 月に北川芳輝専務取締役が代表取締役社長に就任した。
しかし、リーマンショックによる経営悪化(2010 年(平成 22 年)3 月期は過去最高の 790 億円超の当期純
損失を計上)の責任をとって退任し、2010 年(平成 22 年)2 月、深山祐助氏の甥に当たる深山英世副社長
が代表取締役社長に就任した。
4 各商品(シリーズ)の特徴及び販売件数等
本調査と関係の深い各シリーズの特徴や販売件数等は以下のとおりである。
(1) ネイルシリーズ
ネイルシリーズは、1994 年(平成 6 年)から 1997 年(平成 9 年)まで販売され、シリーズ累計で 913 棟
が現存している。
- 4 -
ゴールドネイルは、レオパレス 21 がツーバイフォー工法を採用した最初の商品であり、それまでの
柱と梁の軸組によって建物を組み立てるという在来工法とは異なり、パネルという面で建物を組み立て
ることに特徴がある。また、規格材を用いて工場でパネルを製造し、建築に当たってもシステム化が進
んでいることから、在来工法に比べて、職人の技量に左右される余地が尐なく、さらに、短期間で建築
することが可能であるといわれている。ゴールドネイルは、その屋根の構造によって、トラス、スイン
グ旧、スイング新及びトリトンの 4 バージョンに分かれる。このうち、トラスは、屋根の構造が、木造
トラスフレームであり、最上階には天井パネルが設置されない構造となっている。スイング旧、スイン
グ新及びトリトンは、ツーバイフォー工法特有の天井パネルを採用しており、パネルによる 6 面体構造
となっている。
ニューゴールドネイルは、ゴールドネイルの後継シリーズである。やはり、屋根の構造により、スイ
ング旧、スイング新及びトリトンの 3 バージョンに分かれている。
(2) ゴールドレジデンス
ゴールドレジデンスは、1996 年(平成 8 年)から 2001 年(平成 13 年)まで販売され、1,660 棟が現存し
ている。レオパレス 21 がパネル等の仕入れを国産に切り替えた最初の商品で、重量鉄骨で梁を造り、
ブレースパネルで柱と壁を構成する。
(3) ニューシルバーレジデンス
ニューシルバーレジデンスは、1997 年(平成 9 年)から 2001 年(平成 13 年)まで販売され、1,747 棟が
現存している。
レオパレス 21 が 1996 年(平成 8 年)頃から販売していたシルバーレジデンスの改良シリーズであり、
ロフトを備え、かつ、デザイン性が重視されていた。元シリーズであるシルバーレジデンスは、ゴール
ドレジデンスの木造版として開発されたものである。
(4) ニューゴールドレジデンス
ニューゴールドレジデンスは、1998 年(平成 10 年)から 2002 年(平成 14 年)まで販売され、679 棟が
現存している。ロフト付きのニューシルバーレジデンスの構造体を鉄骨系とした商品である。
(5) スペシャルスチールレジデンス
スペシャルスチールレジデンスは、1999 年(平成 11 年)から 2001 年(平成 13 年)まで販売され、208
棟が現存している。施工期間の短縮を目的とし、機能性を高めるために開発された商品である。
(6) ベタースチールレジデンス
ベタースチールレジデンスは、2000 年(平成 12 年)から 2001 年(平成 13 年)まで販売され、65 棟が現
- 5 -
存している。スペシャルスチールレジデンスを元に、建築資材の小型化を図り、一層の施工期間の短縮
を企図した商品である。
(7) コングラツィア
コングラツィアは、鉄骨造、木造、北海道仕様及び沖縄仕様の 4 バージョンに分かれており、2000 年
(平成 12 年)頃から 2014 年(平成 26 年)まで販売され、10,011 棟が現存している。コングラツィアは、
レオパレス 21 が 1999 年(平成 11 年)10 月から販売を開始した家具付き月極レンタルルーム「マンスリー
レオパレス」に対応するために開発された商品である。
(8) ヴィラアルタ
ヴィラアルタは、1999 年(平成 11 年)から 2001 年(平成 13 年)まで販売され、153 棟が現存してい
る。軽量鉄骨を用いたブレースパネル工法で、ニューゴールドレジデンスの 3 階建てバージョンとして
開発された。
第 2 レオパレス 21 におけるシリーズの開発から物件の引渡しまでの一般的な工程
1 新シリーズの企画・開発
レオパレス 21 には、ネイルシリーズの開発が始まった 1993 年(平成 5 年)当時には、商品の企画・開
発を専門とする部署が存在していた。この商品開発担当部署(時期により名称は異なるが、主に「商品開
発課」であった。)は、建築事業本部に属し、担当役員である専務取締役、建築事業部長である取締役ら
の管轄下に置かれていたが、実質的には深山祐助氏の直轄組織と位置付けられており、その現場を統括
する立場にあったのは、1994 年(平成 6 年)5 月に建築事業部商品開発課の課長となり、1995 年(平成 7
年)5 月には建築事業部の次長に昇進した一級建築士の資格を持つ A 氏であった。
深山祐助氏は優れた発想力を持つアイデアマンであり、A 氏らに対し、「こういう商品を作れない
か」、「こういう工法でやれないか」などと次々に提案し、A 氏ら商品開発担当部署のメンバーらはそのア
イデアを自らの技術的・専門的な知見に基づいて、何とかして商品化しようと励んだ。例えば、キュー
ビクルをはじめ、その後のゴールドネイル、ゴールドレジデンス等の一連のシリーズは、深山祐助氏の
「プラモデルのように建物を建てられないか」という発想が出発点であった。
商品開発担当部署では、新シリーズの開発が始まると、営業担当部署や工事担当部署、資材担当部署
とも協議しながら、構想の具体化に向けて検討を行う。資材は外部の資材メーカーに依存するところが
大きく、独自に性能試験を行うようなことは稀であった。また、商品開発担当部署には数名の一級建築
士資格保有者が在籍していたものの、新シリーズの開発に当たって法令適合性の検討を担当する部署は
存在しなかった。
- 6 -
2 積算図・一般図・施工マニュアルの作成
商品開発担当部署では、新シリーズの大まかな仕様を決定した上で、積算の根拠となる積算図を作成
し、これと並行して一般図(矩計図、展開図、構造リスト、仕様仕上表等)を作成する。
一般図の完成後又は一般図の作成と並行して、商品開発担当部署において、施工業者が実際に工事を
進める上で参照すべき資材の取付方法等の作業手順書、細部を拡大した詳細図、必要な資材リスト等が
一まとめにされた施工マニュアルを作成する。施工マニュアルは、各支店に配付されるとともに、施工
業者にも有償で支給される。さらに、商品開発担当部署では、新シリーズがリリースされるたびに、施
工マニュアルを用いながら、支店の工事担当部署のために、シリーズの概要や施工上の留意点に関する
商品説明会を開催する。
3 土地所有者に対する営業活動・契約締結
支店の営業担当部署は、土地所有者に対し、商品開発担当部署の作成したパンフレット、支店の設計
担当部署が作成するプラン図等を用いて土地所有者に対する営業活動を行う一方、契約締結に向けて本
店の CAD 設計担当部署に立面図及び平面図の作成を依頼する。
その後、支店の営業担当部署は、土地所有者との間で、建物・外構の仕様、価格等について交渉し、
最終的な合意に至れば、建物請負契約書を作成し、契約締結に至る。
4 建築確認申請、施工図作成、工期設定
支店の設計担当部署は、土地所有者との契約締結後、建築確認申請に向けて、本店の CAD 設計担当部
署に対し、登録された一般図のデータを基にして想定世帯数に合わせた CAD 図の作成を依頼する。支店
の設計担当部署は、CAD 図の送付を受けると、自らあるいは外部の設計事務所に依頼し、CAD 図に、土
地所有者の本体建物・外構の仕様に関する意向、現地の建築規制の内容、建築主事4との事前協議の結果
等を踏まえた加筆・修正を行い、確認申請図を作成する。
確認申請図の作成及び建築主事に対する建築確認申請は、支店の設計担当部署の役割であるが、施工
物件数の増加等に伴い、支店によっては、支店の設計担当部署のみでは対応できなくなったことから、
外部の設計事務所に対し、確認申請図の作成や建築確認申請を委託することも増加していた。建築確認
申請に際して、当初は全ての物件について本店の管理建築士5の名義が使用されていたが、1996 年(平成
8 年)頃からは支店に所属する建築士の名義が使用されるようになった。
建築確認申請の準備と並行して、支店の設計担当部署は、本店の CAD 設計担当部署に作成してもらっ
た CAD 図に、確認申請図作成の際と同様、個別物件の事情を踏まえて加筆・修正を行った上で、確認申
請図として提出した平面図・立面図・断面図等と合わせて、施工図として完成させる。一方で、施工図
4
1999 年(平成 11 年)5 月の指定確認検査機関による建築確認制度の創設後は、指定確認検査機関を含む。以下同じ。
5
レオパレス 21 は、「株式会社レオパレス 21 一級建築士事務所」との名称で一級建築士事務所として登録している。
同事務所は、国内各拠点に支店を有しており、各支店には、支店を管理する一級建築士が配置されている。レオパ
レス 21 及び同事務所は実質的に一体として運営されているため、本報告書では、両者を区別することなく記載して
いる。
- 7 -
に含まれる矩計図については、通常、支店の設計担当部署が、CAD システムに登録されている一般図の
データを取得して、そのまま施工図の一部としていた。なお、この当時、確認申請図と施工図との間に
齟齬がないかどうかをチェックする部署や担当者は存在しなかった。
土地所有者との請負契約締結後、通常 1 週間以内には、支店の工事担当部署、設計担当部署、営業担
当部署等の担当者が集まって日程会議が開催され、契約締結から竣工までのスケジュールが策定され
る。
5 資材の製作・発注
レオパレス 21 の各シリーズに使用される資材は、大きく、①無償支給材、②有償支給材、③現地調
達材の 3 種類に分けられる。このうち、①は、レオパレス 21 において資材メーカー等に一括発注した
資材であって、レオパレス 21 から施工業者に対し、無償で支給される。②は、レオパレス 21 から施工
業者に支給される資材ではあるが、施工業者はレオパレス 21 にその対価を支払う必要がある。③は、
施工業者がその判断で、関連業者に対し独自に発注して調達する資材である。
本店の発注管理担当部署は、完成した施工図を基に、実際の工事費、資材費、設備費等を改めて積算
し、実行予算の確定作業を進めるとともに、各物件に必要となる工事や資材等をリストアップし、発注
検討書としてまとめる。そのうち、無償支給材については、本店の資材担当部署が資材メーカーや商社
等を通じて手配し、施工現場に納品させる。また、支店の発注管理担当部署は、発注検討書を基に、有
償支給材及び現地調達材のリストを作成し、施工業者に提供する。施工業者は、このリストを基にし
て、有償支給材や現地調達材の調達を進める。
6 施工の流れ
建築確認申請が認められると、建築主事から確認済証が交付される。これを受けて、支店の営業担当
部署は、竣工までのスケジュールや、施工図の内容等について土地所有者に説明し、土地所有者が着工
を承認すると、施工が開始される。
レオパレス 21 にはもともと施工のための従業員は存在せず、専ら外部の施工業者(工務店)に委託し
ており、支店の工事担当部署が施工業者を選定していた。支店の工事担当部署は、施工業者が決まる
と、施工業者に、確認申請図、施工図、その他の必要書類等を交付する。施工マニュアルは、発注の都
度施工業者に交付されるものではなく、シリーズの最初の受注時等に有償で支給される。なお、シリー
ズの初期の段階では、着工直前になっても支店の工事担当部署を経由して施工図を入手することができ
ず、契約書に添付された図面に基づいて着工することも尐なくなかったようである。
7 一時的なフレーマー班の存在
ネイルシリーズについては、上記 6 とは異なり、まず外部の施工業者が基礎工事を行い、その基礎部
分の上にパネルを組み立て、屋根材を乗せるなどの建方工事は、レオパレス 21 が雇用したフレーマー
班に実施させる態勢となっていた。フレーマー班は、大宮・横浜・名古屋・大阪の各拠点に、2~3 班ず
つ配置され、各班は、日本人の班長・副班長が各 1 名、中国人の班員 5~6 名で構成されていた。フ
- 8 -
レーマー班は、もともと建築についての技術を有していない者の集まりであり、その作業は専ら建方工
事に限定され、小屋裏等界壁の施工を期待することはできなかった。
その後、6 シリーズのニューシルバーレジデンスについても、一部の物件について、フレーマー班が
建方工事を担当した。しかし、施工件数の増加等に伴い、フレーマー班は解消されるに至った。
8 施工状況に対するチェック
施工状況に対するチェックは、①スケジュール管理の観点からなされる工程管理、②品質管理の観点
からなされる施工管理、③設計図書と工事の照合及び確認の観点からなされる工事監理に大別される。
このうち、①及び②については、レオパレス 21 では、主に支店の工事担当者が主任技術者等としてこ
れを担当することになっていた。しかし、当時は施工物件数に比して、支店の工事担当者の数が不足し
ており、1 人で数十件の物件を担当させられるなどしたため、実際にはほとんど機能していなかった。
また、③については、建築士法に定められた建築士の義務であり、また、権限でもあるが、レオパレス
21 では、工事監理者となるべき建築士の人数が取り扱う物件数に比して極めて尐なく、この工事監理に
ついても特定の建築士に集中していたという状況であり、形式的に運用されただけで、機能していな
かった。
9 完了検査・引渡し
建築基準法上は、確認済証の交付を受けた建築物の工事が終了した際には、建築主事に対して完了検
査の申請を行い、検査済証の交付を受けることになっていた。もっとも、国土交通省が公表するデータ
によれば、1994 年(平成 6 年)頃から 2009 年(平成 21 年)頃にかけては、検査済証を取得しないまま不動
産取引を行う不動産業者も一定数存在したことが推測され、特に、1994 年(平成 6 年)から 1998 年(平成
10 年)にかけては完了検査率が 30%台に留まるところ、レオパレス 21 においても完了検査の申請を行
わず、検査済証の交付を受けない物件が尐なからずあった。
その後、国土交通省が、検査済証のない建築物への住宅ローンの貸付を控えるように金融機関に要請
した 2003 年(平成 15 年)に前後して、レオパレス 21 では、建物の工事が完了した時点で、完了検査の
申請を行い、検査済証の交付を受けることを徹底するようになり、さらに、2006 年(平成 18 年)以降、
レオパレス 21 における検査済証の取得率は 100%で推移している。
第 3 小屋裏等界壁問題に係る事実関係
1 ネイルシリーズ及び 6 シリーズにおける小屋裏等界壁問題の概要等
(1) 小屋裏等界壁問題の概要
小屋裏等界壁問題とは、ネイルシリーズ及び 6 シリーズの物件において、小屋裏部分等の界壁の施工
に不備があるという問題である。
レオパレス 21 が実施した全棟調査の結果、小屋裏等界壁問題には、界壁が施工されていないもの(A
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類型)と界壁が施工されているが不備のあるもの(B 類型)が判明しているところ、本調査において、当委
員会は、限られた時間内で小屋裏等界壁問題の傾向を把握し、その原因・背景を分析するためには、A
類型を重視して検討を行うのが適切であると判断した。
レオパレス 21 による 2019 年(平成 31 年)4 月 30 日時点の全棟調査の結果から A 類型を抜き出したも
のが下表である。
表 シリーズごとの界壁未施工が判明した棟数
調査対象 未施工の
A-1 A-2 A-3 合計
物件総数 比率
ゴールドネイル(トラス) 48 13 0 0 13 27.1%
ゴールドネイル(トラスを除く) 281 255 0 0 255 90.7%
ニューゴールドネイル 584 554 0 0 554 94.9%
ゴールドレジデンス 1660 128 40 274 442 26.6%
ニューシルバーレジデンス 1747 57 18 36 111 6.4%
ニューゴールドレジデンス 679 3 28 15 46 6.8%
スペシャルスチールレジデンス 208 47 1 22 70 33.7%
ベタースチールレジデンス 65 4 0 7 11 16.9%
コングラツィア 10011 170 371 96 637 6.4%
A-1:小屋裏全体に界壁が施工されていない物件
A-2:バルコニー・軒裏部分の界壁がない物件
A-3:中間階の天井裏部分の界壁がない物件
なお、物件によっては A-1、A-2 及び A-3 の複数の類型に該当する物件も存在するが、そのような物件に関して
は、A-1、A-3、A-2 の順番で重要度が高いものと判断し、該当する類型のうち最も重要度が高い類型に分類されて
いる。
(2) 適用される法令
界壁に関しては、本件で最も古いシリーズであるゴールドネイルの着工が始まった 1994 年(平成 6
年)の時点においても、現行法令(建築基準法 30 条、同法施行令 114 条 1 項)とほぼ同様に、「長屋又は
共同住宅の各戸の界壁は、小屋裏又は天井裏に達するものとする」旨が定められていた。法令の定める
「達するものとする」とは、「界壁は、小屋梁又は天井面で中断せず、小屋裏までを隙間なく区画しなけ
ればならない」という意味に解されている。
したがって、小屋裏部分の界壁が施工されていない点は、建築基準法 30 条及び同法施行令 114 条 1
項の違反となる。なお、この点に関しては、レオパレス 21 が本件不備の発覚後に建築主事と折衝を
行ったところ、折衝を行った全ての建築主事から、違法である旨の指摘を受けている。
2 ゴールドネイルの開発経緯について
前述のとおり、レオパレス 21 は、深山祐助氏の指揮の下、従来の不動産販売事業から請負建築事業
へとビジネスモデルを転換すべく、その柱を担う新シリーズとしてゴールドネイルを投入した。1994 年
(平成 6 年)3 月開催の取締役会では、深山祐助氏は、ゴールドネイルに関して、工期短縮のために施工
マニュアルを作成し、これにより一層のコストダウンを図る旨説明している。また、同年 8 月の全国支
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店長会議において配付された「深山社長指示-ゴールドネイル折衝時においての留意点」には、「入居者
にとって家賃は安い方がいいに決まっている。家賃を下げるために、とにかく『建築費のコストダウ
ン』を考えた。」、「部材を海外から調達することにより材料費を通常の 3~4 割に押さえ、更に独自の
工法から極端な工期短縮を可能にし、工事にかかる人件費を大幅に削減できた。」などと記載されてい
る。
深山祐助氏は、建築関係法令や建築技術の専門家ではないが、優れた発想力を持つアイデアマンであ
り、商品開発担当部署に対して、「○○のような商品が作れないか」、「○○の工法を利用することはで
きないか」などと、商品に関する様々なアイデアを提案していた。深山祐助氏は、新商品のアイデアを
思いつくと、しばしば、当時の商品開発を担当していた商品開発課の課長であった A 氏、課長代理で
あった B 氏ほかの課員を会議室に集めて、思いついたアイデアに関して議論をしていた。商品開発課の
課員は、深山祐助氏から提示されたアイデアを、自らの技術的・専門的な知見に基づいて、現実的に実
現可能な内容へと落とし込む作業を行っていた。また、深山祐助氏は、商品開発課の課長であった A 氏
らのいる部屋にやって来たり、又は、A 氏らを呼び寄せたりして、「○○ができないか検討してみてく
れ。」などと述べ、部長や次長など、社長にとって直接の部下に当たる者がいるにもかかわらず、それ
らの者を介さずに、A 氏らに直接指示を出すことがあった。
このような深山祐助氏のアイデアの 1 つが、ゴールドネイルの建方工事で活用されていたフレーマー
班であった。アメリカのツーバイフォー工法の施工現場では、パネルや屋根のトラスフレームを作って
組み上げる技能を有する者がフレーマーとして活動していた。フレーマー班は、深山祐助氏がこれに着
目してレオパレス 21 でも導入することになったものであるが、コストを重視するあまり、外国人労働
者を中心に採用され、その多くは、建築に関する技能をあまり有していない者であった。
3 ゴールドネイル(トラス)について
(1) 開発経緯
レオパレス 21 は、1989 年(平成元年)頃に販売を開始したキュービクルについて、陸屋根が敬遠さ
れ、切妻屋根が選好されるという調査結果を踏まえ、本来の陸屋根の上に、見栄えのため、三角形や台
形の飾りを置き屋根として設置した。この当時から、耐火構造の建築物については、「耐火構造の屋根
の上に修景等を目的として設ける置き屋根等は、不燃材料で造られ、置き屋根の小屋組内部に可燃物が
なく、屋内的に使用されない場合には、外部からの延焼や内部火災による影響はないと考えられるの
で、置き屋根と屋根スラブは一体と考え、置き屋根部分の耐火被覆は必要ないこととする。」という解
釈があったことから、レオパレス 21 は、重量鉄骨造の耐火構造の建築物であるキュービクルの置き屋
根につき、この解釈を適用して、小屋裏等界壁を施工しなかった。
ゴールドネイル(トラス)においては、アメリカでのツーバイフォー工法に倣い、最上階に天井パネル
を設置せず、切妻型の木造のトラスフレームを組み上げ、それを壁パネルの上に置いて屋根の構造とし
た。したがって、屋根は飾りではなく、軸組工法の場合と同様、建築物の主要構造部になっていた。商
品開発担当部署は、この点を理解しており、ゴールドネイル(トラス)では小屋裏等界壁の施工が必要で
あると認識していた。
ゴールドネイル(トラス)について、商品開発担当部署が、施工マニュアルや商品説明会等を通じて、
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支店に対して、小屋裏等界壁の施工が必要であると指示した。
(2) 小屋裏等界壁が施工されなかった理由
ゴールドネイル(トラス)では、レオパレス 21 社内でも小屋裏等界壁を施工すると考えられていたも
のの、未施工の比率は 27.1%となっている。
これは、ネイルシリーズにおいて、建方工事がレオパレス 21 の雇用者で組織したフレーマー班に
よって行われていたことに一因があると考えられる。建方工事には、壁パネル、床パネル及び天井パネ
ルを組み立て、屋根フレームを乗せる作業が含まれるが、小屋裏等界壁を施工する作業は含まれておら
ず、フレーマー班も小屋裏等界壁の施工は自分たちの作業範囲ではないと認識していた。他方、建方工
事以後の内装等の施工は施工業者に発注されていたが、内装等の施工が始まる段階では既に屋根が組み
上げられていたこともあり、施工業者においては、屋根部分の施工はフレーマー班の作業分担であると
の認識が生じやすく、小屋裏等界壁の施工が見落とされやすくなっていたと考えられる。また、施工業
者の中には、レオパレス 21 が一戸建て住宅の建売販売を主に行っていた時期から施工を受注していた
業者もあったところ、そのような業者は、そもそも共同住宅に要求される界壁のことを十分に認識して
おらず、これも小屋裏等界壁が施工されない結果につながったと考えられる。もっとも、ゴールドネイ
ル(トラス)については、レオパレス 21 社内でも小屋裏等界壁を施工すると考えられていたところ、物
件の施工に当たっては、レオパレス 21 の支店の工事担当部署と意思疎通を図りながら施工を進める施
工業者が多かったことから、それ以降のネイルシリーズに比べ、未施工の比率が相対的に低くとどまっ
た。
4 ゴールドネイル(スイング旧)からニューゴールドネイル(トリトン)までについて
(1) 開発経緯
レオパレス 21 は、商品開発担当部署である商品開発課において、施工の効率化の観点から、ゴール
ドネイル(トラス)につき、屋根の施工方法の改良検討を行った。検討の結果、最上階に天井パネルを用
いることとしたが、その場合には、天井パネルの設置をもって建築物の構造としては完成し、天井パネ
ルが陸屋根を構成することとなるため、引き続き、切妻屋根の形状にするための検討が行われた。その
際に、深山祐助氏から、切妻型の置き屋根を用いるというアイデアが示された。置き屋根に関しては、
レオパレス 21 はキュービクルで採用した実績があったが、キュービクルが重量鉄骨造の耐火構造の建
築物であったのに対し、ゴールドネイルは木造の防火構造の建築物であるという違いがあり、耐火構造
の建築物に関する置き屋根の考え方をゴールドネイルにも持ち込むことができるかという点が問題と
なった。
この問題に関し、レオパレス 21 の商品開発担当部署は、ゴールドネイルを耐火構造の建築物と同等
のものと捉えた上で、置き屋根が不燃材料で造られ、置き屋根の小屋組内部に可燃物がなく、屋内的に
使用されないことから、置き屋根部分の耐火被覆は必要なく、置き屋根内部に界壁を施工する必要もな
いとの解釈を採用した。しかし、耐火構造の建築物に関する置き屋根の理屈を木造建築物であるゴール
ドネイル(トラス)に持ち込むというレオパレス 21 の考え方は、誤った解釈であった。
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レオパレス 21 において、小屋裏部分の界壁を不要とするという解釈が建築基準法に適合するもので
あることを建築主事に確認する措置が採られたことを示す証拠は一切見当たらなかった。この点に関
し、A 氏らは、開発の際に外部の設計事務所や設計コンサルタントに相談した旨述べるが、その裏付け
となる資料は得られていない。さらに、法が界壁の施工を要求している趣旨が防火・延焼防止という居
住者の生命・身体の安全を確保するものであることに照らせば、建築事業者の役職員、特に建築士の資
格を有する者は、界壁を施工しないという解釈を採ることの適法性・妥当性を慎重に考えて然るべきで
あった。結局、レオパレス 21 の商品開発担当部署は、十分な根拠もなく自分たちに都合よく法令を解
釈していたにすぎず、かつ、建築主事への照会を含め、その解釈の正当性を確認する作業を怠ってい
た。
以上に述べたことは、ゴールドネイル(スイング旧)以降、ニューゴールドネイル(トリトン)までのネ
イルシリーズ(以下「ネイルシリーズ(トラス以外)」という。)についても、同様に当てはまる。
ネイルシリーズ(トラス以外)について小屋裏等界壁を施工する必要はないとの解釈を採用することに
関しては、深山祐助氏の指示又は同氏への相談があった旨述べる者は存在しない。しかし、商品開発等
における深山祐助氏の関与の実態等に照らすと、課長にすぎなかった A 氏が深山祐助氏に報告ないし相
談をしていたと考えるのが自然である。もっとも、ネイルシリーズの開発に関する当時の資料が残され
ていない上、深山祐助氏も否定しているため、疑いは残るが、同氏が小屋裏等界壁を施工しないことを
指示・了承したとまでは認めることができない。
ネイルシリーズ(トラス以外)に関して、商品開発担当部署は、施工マニュアル・商品説明会等を通じ
て、支店に対し、天井パネルがファイアストップとなることから、界壁は水平区画にまで達していれば
足り、小屋裏部分に界壁を施工する必要はないという趣旨の指示を行った。
(2) 小屋裏等界壁が施工されなかった理由
ネイルシリーズ(トラス以外)では、小屋裏等界壁の未施工の比率は、ゴールドネイル(トラス以外)で
90.7%、ニューゴールドネイルで 94.9%に達しており、ネイルシリーズ(トラス以外)全体では 93.5%
である。ここまでの高い比率となったのは、上記(1)のとおり、商品開発担当部署において、小屋裏等
界壁を施工する必要はないとの解釈が採られたためである。
他方、それにもかかわらず、6.5%の物件で小屋裏等界壁が施工されているが、これは、建築確認の
際に建築主事から小屋裏等界壁を施工するよう厳しく指導を受け、支店及び施工業者がその指導に従っ
たこと、施工マニュアル・商品説明会における指示が徹底されず、支店の一部の者が、ネイルシリーズ
(トラス以外)についても小屋裏等界壁の施工をする必要があると認識していたことが理由であると考え
られる。
(3) 建築確認申請図面の記載
ネイルシリーズ(トラス以外)においては、レオパレス 21 は、小屋裏等界壁を施工する必要がないと
考えていた。それにもかかわらず、図面検証を行った範囲では、全ての物件について、確認申請図に含
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まれる X-X 断面図6には、小屋裏等界壁を示すハッチング(斜線)が屋根面に達する状態で記載されてい
た。これらの X-X 断面図は、CAD 設計担当部署が作成し、支店の設計担当部署が確認申請図の一部とし
て使用していたものである。レオパレス 21 では、建築主事から確認済証を取得しやすくするために、
多くの場合、このような界壁の記載のある X-X 断面図を用いて確認申請を行っていたと考えられる。か
かる措置に関しては、「便宜的な措置」などと述べる者もいるが、その意図は施工する意思のない界壁を
確認申請図に記載して、建築主事から確認済証を取得することにあったとみるほかなく、レオパレス 21
が、全社的に確認済証を言わば騙し取っていたということになる。
そのような措置を採るべきとの指示が特定の者によってなされたとまで認めることのできる証拠は得
られず、また、A 氏その他の商品開発に関わっていた関係者は、商品説明会等では小屋裏等界壁を施工
する必要はない旨説明していたことは認めるものの、確認申請図に小屋裏等界壁の施工を示す記載をす
るよう指示を出したことは否定している。また、深山祐助氏は、細かいことは分からないが不正はない
と思っていた旨述べている。しかし、ニューゴールドネイルの施工マニュアルには、小屋裏部分に界壁
を施工することを示す断面図が含まれているだけでなく、「※地域仕様として、トラスにボード 2 枚張
り」と記載して小屋裏等界壁を施工することを示す屋根工事の組立説明図が含まれていることからする
と、尐なくとも、商品開発担当部署は、ネイルシリーズの開発が行われていた段階のいずれかの時点で
は、小屋裏等界壁を施工しないにもかかわらず小屋裏等界壁を施工する内容の確認申請図が建築主事に
提出されていることを認識していたはずである。そして、図面検証をした範囲では、ネイルシリーズ
(トラス以外)の全ての物件において、小屋裏等界壁を実際には施工しないにもかかわらず、小屋裏等界
壁を施工する内容の確認申請図が使用されていることも考えると、かかる行為は全社的かつ組織的に行
われていたものと認められる。
このようなことが行われた背景には、レオパレス 21 では建築確認を軽視していたという事情があっ
た。レオパレス 21 の役職員は、当委員会に対し、「当時の建築確認の運用は、現在とは異なり、緩いも
のであった。レオパレス 21 では迅速な着工が重視されていたことから、とりあえずの確認申請図を作
成して建築主事に提出し、確認済証を取得した後に随時設計内容を変更することでよいという意識だっ
た。そのため、支店の設計担当部署では、早く着工するために、実際の施工内容と合致していなくて
も、後で修正すれば構わないと考えて、確認申請図を建築主事に提出し、そのまま修正しないで放置す
ることもあった。」と述べている。建築基準法は、2005 年(平成 17 年)11 月のいわゆる姉歯事件が社会
問題化したことを契機に、2007 年(平成 19 年)6 月、建築確認の厳格化等の改正が行われたが、レオパ
レス 21 の役職員によれば、「それ以前の、ゴールドネイルの販売当初の時期は、建築基準法の内容自体
も同法の取締りも、現在と比べてそれほど厳しいものではなかった」とのことである。かかる説明内容
は、その内容の当否はともあれ、レオパレス 21 における建築確認の軽視を如実に示している。
(4) 施工マニュアルの記載
ニューゴールドネイルの施工マニュアルに含まれている組立説明図の屋根工事のページには、屋根を
構成するスチール製のパネルのところに、「※地域仕様として、トラスにボード 2 枚張り」と印字されて
いる。このような記載を行った担当者が誰であったかは判明しなかったものの、ヒアリングの結果によ
6
建物を界壁と垂直方向に切った断面図のことである。
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れば、ニューゴールドネイルの屋根を置き屋根と評価してその内部の界壁を不要とするか否かは、建築
主事によって判断が分かれ得るものであったところ、実際に、いくつかの建築主事から小屋裏に界壁を
施工するよう指示を受けた旨の報告が支店から上がってきたことから、そのような指示を受けた地域で
は小屋裏に界壁を施工すべきであることを示すため、施工マニュアルにこのような記載を加えることに
なったためであると考えられる。
このような支店からの報告は、商品開発担当部署において、ネイルシリーズ(トラス以外)の小屋裏等
界壁の施工を必要ないとする考え方の当否につき再検討を行う契機となったものと考えられるが、その
ような再検討は行われなかった。
5 6 シリーズについて
(1) 開発経緯
ツーバイフォー工法については、深山祐助氏が遮音性能に難点があると考えていたことなどから、レ
オパレス 21 では、ネイルシリーズでのみ採用され、以降のシリーズでは採用されることがなかった。6
シリーズのうち、鉄骨系のゴールドレジデンス、ニューゴールドネイル、スペシャルスチールレジデン
ス及びベタースチールレジデンスではいずれもブレースパネル工法が採用され、木質系のニューシル
バーレジデンスでは木造軸組パネル工法が採用された。コングラツィアでは、いくつかのバージョンが
あるが、ツーバイフォー工法が採用されたものはない。
商品開発担当部署は、6 シリーズにおいては、いずれのシリーズでも小屋裏等界壁の施工が必要であ
ると認識し、施工マニュアル・商品説明会等を通じて、支店に対し、小屋裏等界壁の施工が必要である
ことを指示していた。なお、建築確認に関しても、6 シリーズについては、小屋裏等界壁の記載のある
X-X 断面図等を用いて確認申請が行われていた。
(2) 小屋裏等界壁が施工されなかった理由
6 シリーズでは、レオパレス 21 社内でも小屋裏等界壁を施工すると考えられていたものの、一部の物
件で小屋裏等界壁の未施工が生じている。未施工の比率が 10%を超えているシリーズは、スペシャルス
チールレジデンス(33.7%)、ゴールドレジデンス(26.6%)及びベタースチールレジデンス(16.9%)であ
り、残りの 3 つのシリーズはいずれも 6%台にとどまっている。
かかる 6 シリーズにおける小屋裏等界壁の未施工の要因としては、複数の事情が考えられる。
まず、当時の商品開発担当部署の業務量は多く、いわゆるサービス残業が頻繁に行われていた。深山
祐助氏のアイデアを受けて、新たなシリーズの開発や既存シリーズの仕様変更等が頻繁に行われ、商品
開発担当部署が施工マニュアルを作成するよりも前に商品の販売が始まることもあった。そのため、商
品開発担当部署が小屋裏等界壁の施工が必要であると考えながらも、本店から支店に送る CAD 図の中で
小屋裏等界壁の要否が明確になっていないということや、そもそも小屋裏等界壁の施工が必要という施
工マニュアルが支店や施工業者に配付されていない状態で、支店における設計や施工が先行するという
事象が発生した。また、6 シリーズでは、小屋裏等界壁の施工が必要であるのに、個別の施工図や確認
申請図では界壁の要否が不明確になっているものや、施工現場で小屋裏等界壁が施工されないという事
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態が生じた。なお、本店の CAD 設計担当部署が支店の設計担当部署に送る図面は、もともと 70%位の完
成度のものであり、支店の設計担当部署で、現場ごとの事情や特定行政庁ごとの取扱い(地域要因)を加
えて、施工図を仕上げていた。6 シリーズでは、前述のように、商品開発担当部署は業務に追われて、
施工マニュアルが商品の販売後になったり、CAD 図も不十分なものとなっていて、支店から「界壁を作ら
なくていいのか。」といった問合せも多数あったとされる。そうした場合、本店の方で CAD 図を修正し
て支店の設計担当部署に再送することもあれば、支店の設計担当部署に任せて「支店で手書きで修正し
て施工図や確認申請図を作成してくれ。」と指示することもあった。このような状況であったことか
ら、小屋裏等界壁を施工する必要があるとの指示は、支店に徹底されなかった。
また、ゴールドレジデンスの未施工の比率が高くなっているのは、小屋裏等界壁の施工が不要と考え
られていたネイルシリーズ(トラス以外)の直後に販売が開始されたことから、施工業者において小屋裏
等界壁の施工が見落とされやすかったためであると考えられる。
さらに、スペシャルスチールレジデンス及びベタースチールレジデンスの未施工の比率が高くなって
いるのは、この 2 つのシリーズにおいては、梁の構造に特徴があり、他のシリーズに比べて界壁の施工
がしにくいという事情があったため、施工業者による施工懈怠を招き、これが小屋裏等界壁の未施工に
つながった可能性がある。かかる施工業者による施工懈怠の可能性は、残りのニューシルバーレジデン
ス、ニューゴールドレジデンス及びコングラツィアにも共通する。これに関しては、レオパレス 21 が
強く打ち出していた工期短縮及びコストダウンの方針を背景として、施工業者が的確な技能を持つ職人
を十分に確保することができず、また、施工業者ないし職人が工期に追われることになり、手間がかか
り、かつ、天井によって見えなくなる小屋裏等界壁の施工を行わなかったためであった可能性がある。
いずれにせよ、たとえ施工業者による施工懈怠があったにせよ、レオパレス 21 の支店の工事担当部署
による不十分な施工管理と、非常に不十分なものにとどまっていた工事監理に問題の本質がある。
当時の支店の工事担当部署は、着工後の物件に対する管理だけでなく、着工前の物件や成約前の営業
案件に関する見積りや資料作成等の業務も行っていたため、人員が乏しい反面、業務過多となってお
り、主任技術者だけでなく、担当者でさえも、物件の施工現場に行く十分な機会をとることができてい
なかった。実際、支店の工事担当部署役職員は当時、1 人で数十件の現場を持っていて、施工状況の
チェックに手が回っていなかった。
また、ネイルシリーズ及び 6 シリーズの施工が行われていた時期においては、法令の定める工事監理
者が選任されていたものの、工事監理者となった建築士は、自らが施工状況を現認する代わりに、対象
物件を担当する支店の工事担当部署役職員から、口頭又は報告書形式にて、施工状況等について報告を
受けたり、撮影された施工状況等の写真を確認するなどの方法によって、監理業務を行おうとしてい
た。しかし、支店の工事担当部署も多忙であったことから、施工現場の管理が不十分であったため、そ
れに伴い工事監理も不十分なものとなっていた。また、工事監理者となる建築士が尐数の特定者に偏っ
ており、工事監理者として抱えている物件数が非常に多かったため、工事監理者が支店の工事担当部署
からの報告を満足に受けることすらできていなかった。このようなことから、工事監理業務は非常に不
十分なものにとどまっていた。
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第 4 販売終了後のレオパレス 21 の対応
1 姫路訴訟について
姫路訴訟は、ゴールドネイルの物件のオーナーである原告が、レオパレス 21 から建物賃貸借契約を
解除されたことに対し、2011 年(平成 23 年)10 月、解除の無効を主張し、建物賃貸借契約の存続を求め
て提起したものである。2012 年(平成 24 年)11 月、原告は、姫路訴訟において、自らが所有するゴール
ドネイルの物件に関し、建築基準法に違反する小屋裏等界壁の未施工などの瑕疵があると主張した。姫
路訴訟は、2013 年(平成 25 年)7 月、レオパレス 21 と原告との間で、建物賃貸借契約の終了と解決金の
支払いを内容とする和解が成立し、終結した。
原告による小屋裏等界壁未施工の主張を受けて、レオパレス 21 は、一定の時期に建てられたゴール
ドネイルの物件を調査して必要な補修を行うかどうか等を検討したが、前述のとおり、建築基準法上、
ネイルシリーズ(トラス以外)では小屋裏等界壁の施工は不要であるとの理解であったため、特段の対応
をとらなかった。
2 小屋裏等界壁の修繕稟議について
レオパレス 21 においては、遅くとも 2006 年(平成 18 年)以降、ネイルシリーズ及び 6 シリーズの小
屋裏等界壁の修繕工事が複数件行われている。これらの修繕工事は、いずれもレオパレス 21 が施工し
た物件の保全管理の一環としてなされているものであるが、修繕工事においては、経年务化や施工不備
による瑕疵の補修だけでなく、未施工であった小屋裏等界壁の施工がなされている場合がある。
これらの小屋裏等界壁の設置工事に関する稟議の中には、小屋裏等界壁未施工が建築基準法違反に当
たることを指摘するものや、レオパレス 21 の図面の不備等が未施工を招いたことを指摘するものも
あった。しかしながら、その稟議に関与した役職員の多くが、個別物件において小屋裏等界壁の施工不
備があったために小屋裏等界壁の施工が必要になったものと認識しており、シリーズ全体に同様の不備
があるとまでは思っていなかった旨述べている。
3 販売終了後に適切な対応が取られなかった理由
レオパレス 21 が、姫路訴訟や小屋裏等界壁設置工事の稟議の過程において、小屋裏等界壁問題を認
識し得る場面が複数あったにもかかわらず、そのような機会を逸してしまったのは、請負建築事業に
とって重要であるはずの品質問題に関するリスク情報が関連部署等に水平展開されるリスク感知体制の
不備及び役職員のリスク感度の欠如が原因である。加えて、この問題をシリーズ全体にわたる法令違反
や設計不備の問題として捉えてしまうと、請負建築事業に対する負のインパクトが大きくなり過ぎるた
めに、個別の物件レベルでの施工不備の問題へと矮小化してしまおうとする事なかれ意識もあったと思
われる。
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第 5 界壁発泡ウレタン問題及び外壁仕様問題に係る事実関係
1 界壁発泡ウレタン問題及び外壁仕様問題の概要
界壁発泡ウレタン問題とは、界壁に、設計図書に記載されたグラスウール又はロックウールではな
く、発泡ウレタンを断熱材として使用した壁パネル(以下「発泡パネル」という。)を使っていたという不
備であり、レオパレス 21 の調査によれば、ゴールドレジデンス及びニューゴールドレジデンスで生じ
ている。告示によって界壁の断熱材については使用素材がグラスウール又はロックウールと定められて
いたため、発泡パネルを界壁として使用したことは建築基準法違反となる。
外壁仕様問題とは、外壁に、設計図書に記載された大臣認定の仕様に適合していない発泡パネルを
使っていたという不備であり、レオパレス 21 の調査によれば、ゴールドレジデンス、ニューゴールド
レジデンス及びヴィラアルタで生じている。レオパレス 21 が外壁に使っていた発泡パネルは大臣認定
で定められた下地間隔及び固定方法と異なる仕様で製造されているため、かかる発泡パネルを外壁とし
て使用したことは建築基準法違反となる。
レオパレス 21 の調査によれば、界壁発泡ウレタン問題については、ゴールドレジデンス 1,660 棟中
563 棟、ニューゴールドレジデンス 679 棟中 225 棟に不備が認められた。また外壁仕様問題について
は、ゴールドレジデンス 1,660 棟中 563 棟、ニューゴールドレジデンス 679 棟中 326 棟、ヴィラアルタ
153 棟中 52 棟に不備が認められた。
なお、ゴールドレジデンス、ニューゴールドレジデンス及びヴィラアルタに使われる壁パネルには、
発泡パネルとグラスウールを断熱材とする壁パネルの双方の仕様があり、発泡パネルの製造工場は千葉
県木更津市にあったため、当該工場からの運送コストとの兼ね合いで、発泡パネルは原則として関東及
びその周辺地域の物件でのみ使われた。
2 発泡パネルの開発経緯
1995 年(平成 7 年)6 月頃、深山祐助氏は、発泡ウレタンで成型した他社の壁パネルの商品見本を見学
し、発泡ウレタンにより面材を一体成型することで断熱性が高い壁を製造できるのではないかとの着想
を得て、商品開発担当部署役職員に対し、発泡ウレタンを使用した商品の開発を指示した。
この指示を受けて、商品開発担当部署では、発泡パネルをゴールドレジデンスの界壁及び外壁として
用いることにし、1996 年(平成 8 年)に発泡パネルを使用した物件の販売を開始した。
発泡パネルの建築基準法適合性について、商品開発担当部署は、発泡パネルが大臣認定及び告示の仕
様に適合しないことを認識していた。法令上、界壁及び外壁は単に性能を満たすだけでなく告示又は大
臣認定の仕様に従う必要があるにもかかわらず、一般的にグラスウールよりも高位素材と考えられてい
る発泡ウレタンを断熱材として使用した発泡パネルであれば性能面で実質的には問題ないであろうとの
誤った考えに基づき、見切り発車で発泡パネルを使い始めた。
深山祐助氏が大臣認定及び告示の仕様に適合しないことを認識しつつ発泡パネルの使用を指示したか
否かという点については、同氏は自分の指示ではないと述べ、A 氏も深山祐助氏に報告はしていないと
述べる。しかし、発泡パネルの開発自体は深山祐助氏の指示によるものであったことを考えると、商品
開発担当部署の責任者であるとはいえ当時次長に過ぎない A 氏が、ワンマン社長の深山祐助氏に報告又
- 18 -
は相談することもなく独断で行ったとは信じがたい。もっとも、上記のとおり深山祐助氏も A 氏も否定
しており、客観的証拠も得られなかったことから、疑いは残るが、深山祐助氏が発泡パネルの大臣認定
及び告示への不適合を認識しつつ発泡パネルの使用を指示したとまでは認定できなかった。
3 耐火性能・遮音性能試験
商品開発担当部署は、発泡パネルを使用した物件の販売開始後である 1998 年(平成 10 年)12 月に、発
泡パネルについて準耐火構造の外壁の耐力壁の 1 時間耐火性能試験に準ずる予備試験を行ったところ、
加熱から 60 分後も非加熱側への火炎貫通は確認されないという試験結果を得た。ただし、この試験に
使用された試験体は面材を鉄骨躯体にビス留めしている点で、レオパレス 21 が外壁に使用していた発
泡パネルとは異なる仕様のものだった。また、大臣認定を取得するための本試験は実施されなかった。
商品開発担当部署は、1999 年(平成 11 年)5 月、発泡パネルについて遮音性能試験を行ったところ、
特定の周波数が基準を大きく下回るため不合格という試験結果を得た。商品開発担当部署は、同年 6 月
に界壁及び外壁に使用される発泡パネルの耐火性能試験を予定していたが、遮音性能試験の結果を受け
て、耐火性能試験は実施されなかった。
商品開発担当部署は、1999 年(平成 11 年)9 月、発泡パネルについて準耐火構造の外壁の耐力壁の 1
時間耐火性能試験を行ったところ、加熱によって裏面最高温度が規定値を超えたため 51 分で加熱中止
という試験結果を得た。
このように、発泡パネルが界壁及び外壁に求められる耐火性能を満たすという試験結果は得られな
かった。また、1999 年(平成 11 年)5 月に行った遮音性能試験の結果、発泡パネルは界壁に求められる
遮音性能を有さない可能性が高いことが判明した。なお、これらの試験の位置付けに関し、商品開発担
当部署役職員は、界壁及び外壁として使用していた発泡パネルとは別の仕様の発泡パネルを試験するた
めに行われたものであったと述べるが、いずれにせよ、発泡パネルについて、建築基準法に定める性能
を満たすという試験結果が得られておらず、大臣認定が取得されていないという状況に変わりはなかっ
た。ともあれ、発泡パネルの性能試験を行い、大臣認定を取得するのは、本来、ゴールドレジデンスの
発売前であるべきであったことは言うまでもないところである。
以上のように、レオパレス 21 は、発泡パネルが告示又は大臣認定の仕様に適合したものではないに
もかかわらず、同社の商品に使い続けていた。
レオパレス 21 は、1999 年(平成 11 年)6 月頃に発泡パネルを界壁に使うことを中止した。その理由に
ついて、コストが主な理由である旨説明する者が存在するが、関係者に対するヒアリングの結果を総合
すると、1999 年(平成 11 年)6 月の時点で、レオパレス 21 において、遮音性能や耐火性能に関する疑義
が高まったことを踏まえて、発泡パネルを界壁に使うことを中止した可能性が高い。さらに、レオパレ
ス 21 では、ゴールドレジデンス、ニューゴールドレジデンス及びヴィラアルタの販売終了に伴って、
2001 年(平成 13 年)頃に発泡パネルを外壁に使うことも中止した。この理由についても同様に考えられ
る。
なお、発泡パネルの界壁及び外壁での使用を中止するに際して、A 氏は、発泡パネルの遮音性能及び
耐火性能並びに法令適合性に関する疑義について深山祐助氏には報告していなかったと述べ、同氏もか
かる報告は受けていないと述べている。上記同様、A 氏が深山祐助氏に報告又は相談することもなく独
断で使用中止を決定したとは信じがたいが、深山祐助氏も A 氏も否定しており、客観的証拠が得られて
- 19 -
いないことから、疑いは残るが、深山祐助氏がかかる疑義を認識して発泡パネルの使用中止を指示した
とまでは認定できなかった。
4 確認申請図面の記載
ゴールドレジデンス、ニューゴールドレジデンス及びヴィラアルタの確認申請図の構造リストでは、
発泡パネルが使用された物件合計 941 棟のうち、2000 年(平成 12 年)から 2001 年(平成 13 年)に着工さ
れた 11 棟を除く 930 棟で、実際には発泡パネルが使われているにもかかわらず、図面上は、法令適合
性を有するグラスウールを断熱材とする壁パネルが使われているかのような記載となっている。その結
果、レオパレス 21 は、全社的・組織的に、確認申請図の構造リストに事実に反する断熱材の記載を
行って、確認済証を言わば騙し取った。
すなわち、商品開発担当部署は、ゴールドレジデンスの確認申請図の基となる一般図に含まれる構造
リストを作成する際に、発泡パネルを使う場合があるにもかかわらず、界壁及び外壁の断熱材としては
グラスウールを使用する旨のみを記載していた。
その理由について、A 氏は、ゴールドレジデンスの開発時に発泡パネルを使わない仕様を最初に開発
し、発泡パネルを使うようになってからも一般図に含まれる構造リストの記載の変更を怠ったためで
あって、意図的ではない旨を述べている。しかし、ゴールドレジデンスはともあれ、その後のニュー
ゴールドレジデンス及びヴィラアルタは当初から発泡パネルの使用があり得ることを前提に開発されて
いるのだから、かかる説明内容には疑義がある。前述の小屋裏等界壁問題とほぼ同一時期のことであ
り、レオパレス 21 では、確認申請図に正しい記載をしなければならないという意識が鈍磨し、速やか
に確認済証を得ることを優先した結果と考えるのが自然である。
個別の物件に使われる壁パネルが発泡パネルかグラスウールを断熱材とする壁パネルのいずれである
かは、施工図の一部である壁パネル割付図に品番によって示されていた。そして、当該品番は施工マ
ニュアルに編綴されているパネル品番リストに記載されていた。そのため、確認申請図及び施工図を共
に確認する機会がある支店の設計担当部署及び工事担当部署は、両図面で示されている壁パネルの仕様
の齟齬を指摘することが可能であったが、当時のレオパレス 21 において建築関係法令の定める工事監
理業務は非常に不十分であったため、確認申請図と施工図の整合性確認及び使用される資材の確認が行
われることもなかった(上記第 3 の 5(2))。
第 6 天井部問題に係る事実関係
1 天井部問題の概要
天井部問題とは、ゴールドレジデンスの天井部の施工が、設計図書上は、告示の仕様に適合した強化
石膏ボード 12.5mm の上にロックウール吸音板 9mm を張るというものになっているにもかかわらず、告
示の仕様に適合しない仕上げになっているという不備である7。
7
天井部問題は、ゴールドレジデンスの施工マニュアル及び施工図における記載の不備に起因するものであるが、レ
オパレス 21 が全てのシリーズの設計図書を調査した結果によれば、ゴールドレジデンスを除く他のシリーズにおい
ては、同種の記載の不備は見当たらなかった。
- 20 -
レオパレス 21 の調査によれば、天井部問題は、3 階建て準耐火構造のゴールドレジデンスの物件での
み生じている。天井部問題の実際の発生件数に関しては、現在もレオパレス 21 において調査が行われ
ているところであるが、その数は(ゴールドレジデンス 1,660 棟中)最大 641 棟となる見込みである。
2 天井部問題の原因・背景
ゴールドレジデンスの 3 階建て物件の施工マニュアルに含まれる内部仕上表等において、「ロック
ウール吸音板、又は化粧石膏ボード○9.5」などと、複数の仕上材が選択的に記載されており、そのいず
ア
れを用いても問題ないとの誤解を招く記載となっていた。このことが天井部問題の原因である。
商品開発担当部署において、かかる誤解を招く施工マニュアル等が作成されたのは、ゴールドレジデ
ンスでは他のシリーズに比べてプランの数が多く、施工マニュアル等の作成過程でのチェックが杜撰で
あったためである。そして、支店においても、本店の CAD 設計担当部署から送られてくる図面は正しい
と考え、法令適合性の観点から確認申請図や施工図を照合・精査しなかった。また、工事監理が適切に
行われていれば、実際の施工状況と設計図書との照合により、施工不備を是正することは可能であった
と考えられるが、当時は、工事監理業務は非常に不十分なものにとどまっていた(上記第 3 の 5(2))。
第3編 全体的・本質的な原因・背景
小屋裏等界壁問題、界壁発泡ウレタン問題、外壁仕様問題及び天井部問題の各問題の直接的な発生原
因は、請負建築事業の急成長に求められるはずの商品開発体制、施工体制、品質管理体制及び工事監理
体制における不備、並びに建築確認等の軽視である。かかる不備・軽視は、本調査の対象であるシリー
ズが施工されていた 1994 年(平成 6 年)頃から 2009 年(平成 21 年)頃にかけて 10 年以上の長期間にわ
たって生じていた。以下では、かかる長期間にわたる不備・軽視に関し、本件全体に当てはまる本質的
な原因・背景を検討した。
第 1 当時の厳しい経営環境の中で、「走りながら考える」との状況の下、経営危機からの脱却と請負建築
事業の拡大が最優先されてしまったこと
前述のとおり、レオパレス 21 は、バブル崩壊後の不動産不況によって経営危機に陥り、この経営危
機から脱却するために、1990 年代初めから請負建築事業へと大きく舵を切り、ゴールドネイルを開発し
て市場に投入した。ゴールドネイルでは「プラモデル」のようにパーツを規格化して建築現場で組み立て
ることで、コスト削減や工期短縮を実現した。レオパレス 21 は、ゴールドネイルを皮切りに、同様に
規格化したシリーズを矢継ぎ早に開発して市場に投入することによって、請負建築事業及び建築した共
同住宅の一括借上による賃貸事業へとビジネスモデルの転換を進め、業績の急速な回復に成功した。こ
のように、レオパレス 21 は、矢継ぎ早に新シリーズを次々に開発・投入して業績を回復・拡大するこ
とに性急なあまり、建築基準法などの法令適合性や品質の検証がおろそかになった。当時のレオパレス
21 の状況を指して、ある役職員は、「当時は施工物件数の拡大が目標として掲げられ、社内のどの部署
も『走りながら考える』状況であった。」と述べている。これは、本来であれば走り始める前に考える
べき問題を置き去りにして、ただ単に走り始めたにすぎず、途中で問題点に気付いても目をつぶって放
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置するという意味でしかなかった。レオパレス 21 は、このような「走りながら考える」との状況に追い
込まれて、経営危機からの脱却と請負建築事業の拡大が最優先されてしまった。例えば、ネイルシリー
ズ(トラス以外)に関して言えば、小屋裏等界壁の施工の要否をめぐって、当時のレオパレス 21 の見解
と矛盾する建築主事の指摘があったにもかかわらず、その法令適合性について検討する時間的余裕も人
的資源も足りず、確認申請図に小屋裏等界壁を施工するかのような虚偽の記載をすることでやり過ごそ
うとした。また、界壁発泡ウレタン問題や外壁仕様問題においても、法令適合性の検証や性能試験に十
分な時間や人材を割くことができないまま、新シリーズの開発・販売に至ってしまった。
レオパレス 21 の「30 年一括借上方式」も、「走りながら考える」との状況の下で業績の回復・拡大を最
優先とした背景事情の1つである。レオパレス 21 の複数の役職員は、「レオパレス 21 のビジネスモデ
ルでは『30 年一括借上方式』を採用しており、必然的に、長期にわたってオーナーとの直接的な交流・
関係を継続することになる。将来的に、レオパレス 21 が建築を請け負った建物に何らかの不備が発覚
しても、その都度しっかりと面倒を見ればよい。したがって、(個別の物件の品質確保よりも)まずは、
物件数を早期に拡大することが重要であると考えていた。」という趣旨の説明をしている。これは、見
方を変えれば、「請負建築事業者としての責任を放棄していない。単に後回しにするだけだ。あくまで
も経営危機からの脱却を図るまでの一時的な措置にとどまる。」といった正当化にすぎず、かかる正当
化も、物件の品質問題には多尐目をつぶってでも、物件数の早期拡大を優先するという姿勢につながっ
たと思われる。
第 2 経営トップの意向ばかりが強く推し進められるワンマン体制に陥っていたこと
ネイルシリーズ等の商品開発や発泡パネルの使用は、深山祐助氏の強いリーダーシップによるもので
あるが、同氏が建築関係法令や建築技術に関する専門知識に通暁していたとまでは思われない。一方
で、レオパレス 21 の役職員の中には、深山祐助氏をして、優れた発想力を持つ「アイデアマン」であ
り、高い実行力を伴った人物であると評する者が多く、商品開発担当部署は、同氏から提示されたアイ
デアを、自らの専門知識に基づいて、実現可能な内容へと落とし込むことが通例になっていたと思われ
る。レオパレス 21 の役職員の中には、深山祐助氏が、建築士の資格を有していないながらも、次々と
新たなアイデアを着想する点を捉えて、「特級建築士」と自称していたなどと述べる者もいる。
確かに、請負建築事業を営む会社の経営者が建築に関する専門知識を有していないこと自体は直ちに
問題とされるべきものではない。しかし、経営トップが建築に関する専門知識を有していないのであれ
ば、組織としては、経営者が建築の専門家でないことに起因するリスクを低減させる体制を構築すべき
であったが、かかる体制はないに等しかった。建築士資格を有する商品開発担当部署役職員も、ひたす
ら深山祐助氏のアイデアを実現した商品開発を行うことに精力を傾注し、チェック機能は全くなおざり
にされていた。
本調査を通じて、深山祐助氏が違法性を認識した上で、何らかの違法な指示をしていた事実を裏付け
る客観的な資料等は発見されていない。しかし、多くの役職員がヒアリングや社内アンケートにおい
て、「周囲の役職員が深山祐助氏に対して進言しにくい雰囲気であった」旨を述べている。役職員の中に
は、「当時のレオパレス 21 には、深山元社長と、それ以外の社員という区別しかなかった。」などと説
明する者もおり、当時のレオパレス 21 のワンマン体質ぶりが垣間見える。また、「レオパレス 21 で
は、深山元社長に気に入られた営業部門の役職員ばかりが登用された。その結果、営業部門の中でも深
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山元社長のイエスマンのような役職員らに対しても意見を言えるような雰囲気ではなかった。」という
声も広く聞かれる。当時のレオパレス 21 では、常に、深山祐助氏の意向ばかりを気にするような企業
風土に陥っていたことがうかがわれる。深山祐助氏が、商品開発において法令適合性が確保されること
を期待していたとしても、周囲の人間が、同氏の意向に沿うことばかりに汲々とする結果、「早期の商
品化のためには、法令適合性が二の次になってもやむを得ない」などという意識を持ってしまったので
はないかと考えられる。
第 3 建築関係法令に対する遵法意識・リスク感度が低く、品質問題に対する当事者意識も欠如していた
こと
レオパレス 21 としては、ネイルシリーズ(トラス以外)に関しては、小屋裏等界壁の施工は不要と考
えていたにもかかわらず、確認申請図の X-X 断面図において、「便宜的に」界壁を施工するかのような記
載としていたものであるが、かかる行為は、会社として、建築主事から確認済証を言わば騙し取る行為
であった。また、ネイルシリーズ(トラス以外)に関して、レオパレス 21 としては、複数の建築主事か
ら小屋裏等界壁を施工するよう指導を受けていたのに、むしろ、施工マニュアルに「※地域仕様とし
て、トラスにボード 2 枚張り」などと記載するなど、「本店は小屋裏等界壁の不施工を指示していたわけ
ではない」との言い逃れとも受け止められかねないような対応をするにとどまった。これらの点は、同
社の建築関係法令に対する遵法意識の低さを端的に示す事象である。さらに、レオパレス 21 の役職員
からは、深山祐助氏の建築関係法令に対する遵法意識の低さを指摘する声も多く挙がった。例えば、役
職員の中には、「本来は、労働安全衛生法上、施工現場では足場を組んで作業をしなければならないに
もかかわらず、足場がパネル搬入の邪魔になることを理由に、深山元社長が足場を組まずに作業をする
よう指示した。」と述べる者が複数名存在した。本調査の結果、深山祐助氏がこのような違法な指示を
出したことを裏付ける客観的な資料等は発見されておらず、深山祐助氏自身も、怪我をした作業員も、
そのような違法な指示の存在を否定していることから、こうした違法な指示の存在を認定することはで
きない。ただ、仮に事実ではないとしても、このようなエピソードが複数の役職員からいまだに語られ
ていること自体、深山祐助氏が法令遵守を軽視する人物であったというイメージが社内で強固に形成さ
れていたことを示すものであり、役職員が建築関係法令などの法令軽視をする際の正当化にもつながっ
たものと思われる。
また、深山祐助氏は、当委員会によるヒアリングにおいて、「“我々”は建築の素人であり、開発は
“彼ら”に任せきりであった。」といった説明を繰り返した。深山祐助氏によると、「我々」というのは
「営業部門」を指し、「彼ら」というのは「開発・設計・工事部門」を指すとのことであった。こうした深山
祐助氏の言葉は一例であるが、役職員において、請負建築事業を営む組織の一翼を担う者としての品質
問題に対する当事者意識が乏しかったものと思われる。かかる当事者意識の欠如も、建築基準法などの
法令適合性や品質の検証がおろそかになった要因の1つである。
さらに、レオパレス 21 では、遅くとも 2006 年(平成 18 年)以降、本来は小屋裏界壁の施工が不要と
の設計思想であったシリーズの物件であっても、オーナーからのクレーム等を受けて小屋裏界壁を施工
する修繕工事が実施された例が尐なからず存在するところ、その修繕工事の決裁過程において、レオパ
レス 21 の役職員は、小屋裏界壁の施工の要否に関する本質的な問題意識が持たれないまま、目先のク
レームを穏便に処理する場当たり的な対応に終始した。また、オーナーとの訴訟についても、オーナー
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側から、係争建物に存在するいくつかの建築基準法違反の 1 つとして、小屋裏等界壁の未施工が指摘さ
れている。このように、「法令違反」を指摘する情報が尐なからず社長や担当取締役に上げられていたに
もかかわらず、いずれの決裁者も単なる個別物件の施工不良との理解のもとに素通りさせてしまってい
る。このことは、レオパレス 21 の役職員において、請負建築事業を遂行する上での事業リスクを感知
する能力が鈍麻していたことを示す。
第4編 関係者の責任
第 1 深山祐助氏及び当時の経営陣
深山祐助氏が、小屋裏等界壁問題について、法令に違反して小屋裏等界壁を施工しなくてよい旨指
示・命令した事実までは認められない。しかし、同氏は、レオパレス 21 において請負建築事業という
新規ビジネスモデルを構築し、不動産販売事業から請負建築事業及び不動産賃貸事業への業態転換を推
し進めていった中心人物であり、そのような新規ビジネスモデルを開始するに当たっては、当然に人材
も知識も社内体制も不十分となるはずであるから、会社の現況を客観的に把握し、適法かつ適切な業務
遂行を行うことができるよう十分な人的リソースの確保や体制の整備を行うべきであった。それにもか
かわらず、同氏は、厳しい経営環境から脱却すべく収益の確保を重視し、物件数の早期拡大に重点を置
き、十分な商品開発体制、施工管理体制及び工事監理体制を整備すること等を怠った。以上の点は、天
井部問題についても同様である。
また、界壁発泡ウレタン問題及び外壁仕様問題についても、深山祐助氏が、疑いは残るが、発泡パネ
ルの建築関係法令との適合性に疑義がありながら、発泡パネルを使用するよう指示・命令したとまでは
認定できない。しかし、発泡パネルを使用した商品の開発は、同氏の発案・指示により行われたもので
あり、小屋裏等界壁問題について述べたのと同様に、商品開発に当たっては、法令適合性や性能につい
て十分な検証をさせるべきであった。まして、発泡パネルを使用した商品は深山祐助氏の肝いりの商品
であったのだから、他の役職員らが問題点を指摘しにくくなることも当然に予想された以上、同氏は、
他の役職員が意見を言いやすいよう配慮すべきであった。
なお、深山祐助氏は、当委員会に対し、小屋裏等界壁問題について界壁が施工されていないことは
「知らなかった」、界壁発泡ウレタン問題及び外壁仕様問題については商品開発担当部署の責任者が大丈
夫と言ったため「問題ないものと思っていた」、天井部問題については不備のことを「まったく知らな
かった」などと述べる。しかし、商品開発担当部署は同氏の直轄組織であって、同氏の発案でプロジェ
クトを組んでツーバイフォー工法による商品や発泡パネルを使用した商品の開発が行われたものであ
る。仮に、深山祐助氏が、「知らなかった」、「問題ないものと思っていた」とすれば、それ自体が経営者
として問題であって、同氏の、片や他の役職員らに指示して商品の開発を推し進めつつ、片や法令適合
性や品質については知らないという姿勢こそが、本件の各問題の根本的な発生原因の 1 つである。
深山祐助氏を除く当時の経営陣については、深山祐助氏と同様、これらの問題について違法行為を指
示・命令した事実までは認められないが、同氏をサポートし、必要な検証や配慮について進言をし、適
切な対応が講じられるよう促したり、同氏と共に対応に努めるべきであった。
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第 2 商品開発担当部署役職員等
小屋裏等界壁問題については、建築士資格者を始めとする、レオパレス 21 の商品開発担当部署役職
員は、小屋裏等界壁を施工しないとの解釈につき建築関係法令との適合性を十分に確認する作業を怠っ
た。また、ネイルシリーズ(トラス以外)に関しては、商品開発担当部署役職員は、小屋裏等界壁を施工
する必要がないと考えており、実際にも 90%を超える物件で小屋裏等界壁が施工されていなかったにも
かかわらず、全社的に、事実に反する建築確認申請を行わせ、レオパレス 21 として、確認済証を言わ
ば騙し取った。他方、ゴールドネイルトラス及び 6 シリーズに関しては、商品開発担当部署役職員は、
小屋裏等界壁の施工を必要とする考え方を採っていたが、施工マニュアルの作成の遅延などに見られる
ように、支店に対する適切な指示をしたとは認められない。
界壁発泡ウレタン問題及び外壁仕様問題についても、同様に、商品開発担当部署役職員は、発泡パネ
ルの建築関係法令適合性を十分に検証しないまま、言わば見切り発車で発泡パネルの使用を開始し、発
泡パネルが告示又は大臣認定の仕様に適合していないのに使用を継続した。また、商品開発担当部署役
職員は、一般図の作成・配布を通じて全社的に事実に反する建築確認申請を行わせ、レオパレス 21 と
して、確認済証を言わば騙し取った。
天井部問題も、施工マニュアルに含まれる内部仕上表の誤解を招く記載など商品開発担当部署役職員
に落ち度がある。
また、レオパレス 21 の社員で一級建築士の資格を有していた者が、工事監理者として、工事監理に
関する業務に従事していたが、自らが施工状況を現認することなく、また、支店の工事担当部署役職員
を通じた工事監理も非常に不十分であった。
なお、いずれも、深山祐助氏及び当時の経営陣並びに商品開発担当部署役職員の落ち度が主たる要因
であるが、支店の設計担当部署役職員や工事担当部署役職員の中にも、事実でない建築確認申請を行っ
た者、確認申請図と施工図の内容の齟齬を放置した者、工程検査を十分に行わず、施工業者による施工
不備を看過した者などがいたことを付言する。
第 3 早期発見ができなかったことについての落ち度
小屋裏等界壁問題については、姫路訴訟や小屋裏等界壁の施工に関する稟議等を通じて、小屋裏等界
壁問題の早期発見・対応が可能であったにもかかわらず、歴代の経営陣及び設計・商品開発担当部署の
役職員らは、「事なかれ意識」が故に、リスク感知能力が足りず、問題を矮小化し、早期発見・対応を
怠った。このことは、界壁発泡ウレタン問題及び外壁仕様問題についても同様であった。
なお、天井部問題については、施工後は施工不備に気付くことが難しく、今般の全棟調査までの間に
問題の発見が可能だったことを示す事情も見当たらないため、早期発見・対応できなかったのもやむを
得なかった。
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第5編 再発防止策の提言
第 1 レオパレス 21 における再発防止策の検討状況
当委員会は、本調査の過程において、レオパレス 21 から、同社自身による再発防止策の検討状況に
ついて報告を受けている。現在、同社が検討を進めている再発防止策の概要は以下のとおりである。
1 法令遵守意識の抜本的改革(コンプライアンスファーストの徹底)
(1) コンプライアンスファーストの理念の定着
(2) 従業員との「対話」による組織風土改革の実現
(3) 内部通報制度の周知及び徹底
2 コンプライアンス・リスク管理体制の再構築
(1) コンプライアンス統括本部の設置
(2) コンプライアンス統括部内への建築法務部の設置
(3) コンプライアンス委員会の運営方法の見直し
(4) リスク管理委員会の運営方法の見直し
(5) リスク管理方法の見直し
(6) 新規事業等に関する法令適合性等の確認
3 請負建築事業体制の見直し
(1) 新商品の開発プロセスの改善
(2) 工事監理体制の見直しによる適切な工事監理の実施
(3) 適切な施工管理の実施による施工品質の確保
(4) 検査体制の強化による施工品質の確保(建築法務部による検査の実施)
(5) 設計・工事・検査等担当部署及び施工業者に対する建築法務部による研修
第 2 当委員会による再発防止策の提言
レオパレス 21 が再発防止策の要として位置付けているのは、①法令遵守意識の抜本的改革(コンプラ
イアンスファーストの徹底)、②コンプライアンス・リスク管理体制の再構築、③請負建築事業体制の
見直しである。当委員会としても、これらの施策は、再発防止策の中心に据えられるべきであると考え
る。以下では、より一層の実効性・感銘力を伴った再発防止策を講じるという観点から、レオパレス 21
の企業特性等を踏まえて、再発防止策を提言する。
1 まずは経営陣こそが、「コンプライアンスファースト」の強い姿勢を社内外に示すこと
本件の原因は第一に、当時の厳しい経営環境の中で、「走りながら考える」との状況下で、経営危機か
らの脱却と請負建築事業の拡大が最優先された点にある。この「走りながら考える」ことにより、長期に
わたって、リスク情報の早期発見・早期対応の遅れを招き、建築関係法令に対する遵法意識やリスク感
知能力を鈍麻させてきたことを考えると、かかる企業風土を改革するのは並大抵の努力では成し遂げ得
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ない。
こうした過去の企業風土を刷新し、真に、レオパレス 21 に「コンプライアンスファースト」の企業風
土を根付かせるためには、まずは、経営陣こそが、「コンプライアンスファースト」の強い姿勢を社内外
に示すことが重要である。組織におけるコンプライアンス意識は、経営トップから周囲の役員、役員か
ら幹部社員、幹部社員から現場の社員へと、水が滴り落ちるがごとく浸透していくものである。下位者
のコンプライアンス意識は、上位者の日頃の振る舞いに大きく左右される。経営陣が本音では「コンプ
ライアンスなんて邪魔くさい」などと考えていると、どれだけ表面を取り繕ったとしても、そうした本
音は、経営陣の日頃の言動から下位者に透けて見えてしまう。
新経営陣は、あらゆる機会を通じて売上・利益よりもコンプライアンスと品質を重視すべきとする明
確なメッセージを、社内と顧客・取引先等のステークホルダーに向けて発信すべきである。また、企業
風土の改革のためには、社内教育が極めて重要である。こうした社内教育は、通常階層別で実施される
ことが多いところ、あえて、経営陣とそれ以外の従業員への研修を合同で実施したり、経営陣を現場の
社員に対する研修に同席させ講評してもらうなど、経営陣の「コンプライアンスファースト」への強い決
意を社内に示すための方策も検討すべきである。
2 その場しのぎの再発防止策に終わることのないように、役職員らに対して、再発防止策の趣旨・意
義にまで立ち返った説明を尽くすこと
当委員会は、過去にレオパレス 21 が様々な問題に直面する度に、その場しのぎの対応に終始してき
たケースを尐なからず見てきたところ、今回の再発防止策に関しても、世間からの批判をかわすため、
あるいは業績を回復するための一時的な方策で終わることがないように、強く求める。レオパレス 21
に限らず、企業不祥事が起きた場合には、コンプライアンス強化に向けた数々の再発防止策が講じられ
ることが通常であり、その結果、尐なくとも一時的には、当該企業のコンプライアンス意識の向上が図
られるが、同時に、再発防止策の一環として新設・変更されたルール・制度等によって、役職員らの
日々の業務負担が増すことにもつながることが多い。そのため、役職員らが再発防止策の趣旨・意義に
ついてまで正しく理解しないと、役職員らは、再発防止策に対して、「面倒な決まりごとばかりが増え
た。」といった否定的な評価しか抱かずに終わる。結果として、しばらくの間は、新設・変更された
ルール・制度等が遵守されるものの、時の流れとともに不祥事が風化するにつれて、ルール・制度等の
遵守が形骸化することにもなりかねない。
そこで、レオパレス 21 としても、単なる再発防止策の周知・徹底にとどまるのではなく、役職員ら
に対して、再発防止策の趣旨・意義にまで立ち返った説明を尽くすことが必要である。例えば、再発防
止策の柱の 1 つである「請負建築事業体制の見直し」に関しても、現場の社員の納得感を得るためには、
請負建築事業の急成長に求められるはずの商品開発体制、施工体制、品質管理体制及び工事監理体制に
おける不備が本件各問題につながったという点を、具体的なケーススタディーや本報告書を教材とした
コンプライアンス研修等を通じて、役職員らに深く理解させるなどの方策が考えられる。また、再発防
止策として設けられたルール・制度等が遵守されているかどうかを定期的にチェックし続ける仕組みづ
...
くりも有益である。コンプライアンスの本質は、「当たり前のことを、当たり前にやり続ける」点にある
ところ、継続性を担保できる制度作りが重要である。
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3 役職員らに対して、オーナーや入居者などの顧客の目線に立って、顧客から感謝される価値を提供
することの重要性を自覚させ、品質問題への当事者意識を高めること
レオパレス 21 の役職員らの品質問題への当事者意識を高めるためには、請負建築事業においては、
オーナーや入居者など顧客目線に立った商品やサービスの提供を通じて、顧客から感謝される価値の創
造が重要であることや、請負建築事業の社会的意義について同社の役職員らに自覚させ、それに見合っ
た責任感を抱かせることが有効である。レオパレス 21 が供給する共同住宅が全国各地に点在している
からこそ、多くの企業等が、全国各地において、(特に単身の)就労者に生活の基盤となる住居を用意し
た上で事業活動等を営むことができている。その意味では、同社は、就労者の短期滞在に対するニーズ
への解決策を社会に提供することを通じて、企業活動を支える公器として存在している。
レオパレス 21 の請負建築事業は既に社会インフラの一部となっているからこそ、本件発覚後、レオ
パレス 21 の共同住宅を活用していた企業の事業活動や、新生活を始めたばかりの社会人や学生の日常
生活に甚大な影響が生じ、大きな社会問題となった。レオパレス 21 の役職員らは、こうした実体験を
通じて、同社が供給する共同住宅への品質や安全性が蔑ろにされることによって生じる問題の大きさを
痛感したはずである。レオパレス 21 の役職員は、「自分自身が住みたいと思える品質を確保できている
か。」、「家族や友人を住ませても安心な安全性を確保できているか。」という身近な問いかけを通じ
て、オーナーや入居者などの顧客の目線に立って、顧客から感謝される価値を提供することの重要性を
意識すべきである。
顧客のために感謝される価値を提供するために仕事をしているという意識が役職員に根付けば、品質
問題への当事者意識が高まり、また、再発防止策に対する負担感や「やらされている感」もなくなるはず
である。再発防止策は、「不祥事があったから、やらなければならなくなったもの」ではなく、顧客のた
めに感謝される仕事をするための仕組みである。
第6編 結語
今般の施工不備問題は、レオパレス 21 の全てのステークホルダーに大きな衝撃を与えた。とりわ
け、レオパレス 21 が請負建築した現存する 3 万 9,000 棟余の共同住宅の所有者、そして、同社が管理
(約 57 万戸)・賃貸(約 47 万戸)する共同住宅の居住者らの財産的損害や精神的苦痛、あるいは不安等が
いかに深刻なものであるかは想像に難くないところであり、まさに重大な社会問題と言っても過言では
ないだろう。当委員会としては、まずもって、レオパレス 21 に対し、施工不備に関し、これまで公約
したとおり、全棟調査と不備物件の修繕、あるいは、転居についての補償等を確実に実行するよう要望
する。さらに、それ以外にも施工に関する種々の申告等があり、今後更に増加するかもしれないが、こ
れに対しては、誠実に交渉を重ね、場合によっては、法的解決を図るなどの適切な措置をとるよう期待
する。
当委員会は、今回の施工不備問題に対し、全てのステークホルダーの正当な利益を守るという観点か
ら、冷静かつ客観的に調査を進め、これまで述べたような事実を明らかに対し、その原因を検討し、再
発防止策を提示するなどした。レオパレス 21 が、これを真摯に受け止めて今後の改革に活かし、社是
にもあるように「全て社会の為に」貢献する企業に生まれ変わることを切望する。
今回の調査に当たり、当委員会では一部元役職員を含む 6,173 名の役職員に対する「社員アンケート」
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を実施したが、6 割近い 3,519 名から、真面目な回答や建設的な意見を頂いた。その内容からは、従業
員の多くが同社の再建に対し大きな期待と強い決意を持っていることがうかがわれる。当委員会として
は、同社が新体制のもとで、これら従業員を含めた全役職員一丸となって改革に取り組み、共同住宅の
所有者や入居者をはじめ全ての関係者ひいては社会全体から信頼される会社となることを願うものであ
る。
以 上
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