8803 平和不 2019-12-12 15:00:00
社内調査委員会の調査報告書受領等に関するお知らせ [pdf]

                                            2019 年 12 月 12 日
各       位
                               東京都中央区日本橋兜町1番10号
                               平 和 不 動 産 株 式 会 社
                               代 表 取 締 役        土 本 清 幸
                               (コード番号 8803)東京・名古屋市場第一部・福岡・札幌
                               問合せ先 取締役常務執行役員 岩崎範郎
                               TEL    03-3666-0182




            社内調査委員会の調査報告書受領等に関するお知らせ




    当社は、2019 年 10 月 30 日付で公表いたしました「当社従業員による会社資産の不正流
用の疑義の調査による 2020 年3月期第2四半期決算発表の延期のお知らせ」に記載のと
おり、当社従業員による会社資産の不正流用の疑義(以下「本件」といいます。)を認識
したことを受け、本件に関する事実関係(類似事象の存否を含む)の調査、本件による連
結財務諸表及び個別財務諸表への影響の検討、本件が生じた原因究明と再発防止策の提言
を行うため、外部専門家を加えた社内調査委員会を設置して調査を進めてまいりました。
    このたび、社内調査委員会から調査報告書を受領いたしましたので、下記のとおりお知
らせいたします。


                          記


1. 社内調査委員会の調査結果
 社内調査委員会の調査結果につきましては、別添の「調査報告書(要約版)」をご覧く
ださい。なお、社内調査員会より受領した当該調査報告書の全文につきましては、個人の
プライバシー及び営業秘密保護の観点、守秘義務を負う事項、今後想定される法的係争へ
の影響等を考慮し、部分的な非開示措置を施した開示版を作成中であり、こちらにつきま
しては、2019 年 12 月 13 日に公表する予定であります。
2. 今後の対応方針
 (1) 再発防止に向けた対応策
   当社は、社内調査委員会が認定した事実と原因分析に基づいた再発防止策の提言を
  真摯に受け止め、具体的な再発防止策を策定のうえ実行してまいります。なお、具体
  的な再発防止策は、確定次第、速やかに公表いたします。


 (2) 関係者の処分について
   当社は、本調査結果の内容を厳粛かつ真摯に受け止め、本件の関係者に対し厳正な
  処分を行います。なお、具体的な処分の内容は、確定次第、速やかに公表いたします。


 (3) 2020 年3月期第2四半期決算短信の公表及び 2020 年3月期第2四半期報告書の
   提出について
   当社会計監査人による四半期レビュー手続は現時点で終了しておりませんが、2019
  年 11 月 14 日付「2020 年3月期第2四半期報告書の提出期限延長に係る承認のお知
  らせ」にて公表いたしましたとおり、延長承認された提出期限である 2019 年 12 月 13
  日に、2020 年3月期第2四半期決算短信の公表及び 2020 年3月期第2四半期報告書
  の提出を行う予定であります。


 (4) 業績への影響について
   当社は、2020 年3月期第2四半期決算において、本調査結果において認定された本
  件に伴う純資産影響額 159 百万円に、2020 年3月期第2四半期に発生した手数料過大
  支払額(調査報告書(要約版)4頁参照)18 百万円を加えた 177 百万円を不正関連損
  失として特別損失に計上する予定です。また、純資産影響額の算出において税務計算
  による影響は対象としておりません。
   なお、本件による過年度の財務諸表に与える影響を検証した結果、限定的かつ軽微
  であるため、過年度の財務諸表の訂正を行う予定はございません。


 株主・投資家の皆様をはじめ取引先及び関係者の皆様には、多大なるご迷惑とご心配を
おかけしておりますことを深くお詫び申し上げます。今後は、早期に再発防止策を策定・
実行し、平和不動産グループ役職員が一丸となり信頼の回復に努めてまいりますので、何
卒ご理解とご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。
                                             以上
調   査     報      告     書

    (要 約        版)




    2019 年 12 月 12 日




    平和不動産株式会社

     社内調査委員会
                                     2019 年 12 月 12 日



平和不動産株式会社 取締役会 御中



                        平和不動産株式会社 社内調査委員会




                             委 員 長    土本 清幸

                             委   員    山田 和雄

                             委   員    岩崎 範郎

                             委   員    加藤 尚人

                             委   員    藤津 康彦

                             委   員    中島 祐輔




社内調査委員会の調査の結果(要約版)を、以下のとおりご報告いたします。




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1.   社内調査委員会による調査の概要
     (1) 社内調査委員会設置の経緯
      当社は、2019 年8月から実施されている税務調査の過程において、当社がその不動産取引
     において仲介手数料を支払った仲介業者等から、当社不動産ソリューション部に属する当社
     従業員又は当社従業員が実質的に経営する会社が金銭を受領している旨のキックバック(以
     下「本件キックバック」という。
                   )に関する疑義を認識した。
      また、当社は、2019 年 10 月上旬、本件キックバックの情報に加えて、当社の不動産ソ
     リューション部に属する従業員が、その実質的に経営する会社で運営する店舗の内装工事を、
     当社の保有する不動産の修繕工事に係る費用の一部で賄っている旨の工事費流用(以下「本
     件工事費流用」という。また、本件キックバック及び本件工事費流用を併せて「本件不正行
     為」という。
          )に関する匿名による通報を受けた。
      これを受けて、当社は、本件不正行為に関して徹底した調査を実施することを目的として、
     2019 年 10 月 11 日、社内調査委員会(以下「当委員会」という。
                                         )を設置し、社内リソースの
     みならず外部専門家も起用して、類似事案の有無も含め、本件に関する事実関係の調査を行
     うこととした。また、同月 29 日には、調査の客観性及び専門性を高めるため、不正調査につ
     いて豊富な実績を有する外部専門家(弁護士・公認会計士)も当委員会の委員として選任し
     た。


     (2) 社内調査委員会の目的
      当委員会による調査(以下「本調査」という。
                          )の目的は、以下のとおりである。


      ①    本件不正行為に関する事実関係(類似事案の存否を含む。
                                    )の調査
      ②    上記①による当社連結財務諸表・個別財務諸表への影響の検討
      ③    本件不正行為が生じた原因究明と再発防止策の提言


     (3) 社内調査委員会の構成
      当委員会の構成は以下のとおりである。


          委 員 長   土本 清幸 当社 代表取締役
          委   員   山田 和雄 当社 取締役常務執行役員
          委   員   岩崎 範郎 当社 取締役常務執行役員
          委   員   加藤 尚人 当社 常勤監査役
          委   員   藤津 康彦 森・濱田松本法律事務所(弁護士)
          委   員   中島 祐輔 デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
                  (公認会計士)


      なお、当社は、調査体制の決定に際しては、初期的な社内調査(当委員会委員長による当
     社経営陣へのインタビュー及び当社経営陣より不正に関与していない旨の確約書の受領)の
     結果、本件不正行為に当社経営陣が組織的に関与していた疑いは生じていないことを踏まえ


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て、時間的制約の中で効率的に調査を実施するために社内調査の枠組みを選択した。他方で、
調査の客観性・専門性を担保するため、不正調査において豊富な経験を有する社外専門家で
ある藤津康彦弁護士及び中島祐輔公認会計士を、それぞれ社外委員として任命した。
 さらには、当委員会は、その調査を補助させるため、当社企画総務部、法務室、財務部、
監査役室及び内部監査部の担当者に加えて、不正調査において豊富な経験を有する森・濱田
松本法律事務所及びデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社に所属す
る外部専門家を補助者として起用することで、透明性の高い深度ある調査を行うこととした。


(4) 調査の概要
 ①   調査期間
  2019 年 10 月 11 日から同年 12 月9日まで


 ② 調査対象期間
  本調査の対象期間については、必要性と実効性を勘案して、2008 年4月から 2019 年9月ま
 でとし、必要に応じてそれより前にも遡ることとした。


 ③   調査対象範囲
  当委員会は、当社における本件不正行為及びその類似事案に関する事実認定を行い、そ
 の財務諸表への影響を検討するとともに、本件不正行為の発生原因の究明及び再発防止策
 の検討を行った。


 ④   調査方法
  本調査の具体的な内容は、(i)関連資料等の閲覧及び検討、(ii)社内外の関係者合計 40 名
 に対するインタビュー、(iii)デジタル・フォレンジック、(iv)不動産取引の相手方、仲介
 業者及び工事業者に対する確認状の送付と回収(合計 88 件中 84 件の回答を受領)
                                          、(v)退職
 者及び休職者を除いた当社の職員合計 121 名(執行役員を含む。
                                )を対象にした社内アン
 ケート調査(全員から回答を受領)である。


 ⑤   調査の前提・留保
  本調査は、前記①記載の時間的制約の中で、前記④記載の調査方法に基づき実施された
 ものである。また、本調査は、法的強制力のない調査であることに加えて、本件不正行為
 のような類型の不正は、社内資料やデータ分析等の手法により疑義を発見することは困難
 であるところ、必ずしも調査への十分な協力が得られなかった社外関係者も存在している。
 したがって、本調査には一定の限界があったことは否めず、調査結果が完全であることを
 保証することはできない。また、本調査は、本件不正行為や類似事案を調査することを目
 的としており、本調査の過程で判明した他の事実の調査や解決を目的とするものではない。
  なお、本調査は当社のために行われたものであり、当委員会は当社以外の第三者に対し
 て責任を負うものではない。




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2.   調査により判明した事実
     本調査の結果、判明した事実の概要は、以下のとおりである。なお、以下で記載する金額表
 示は、別段の記載のない限り、税抜表示である。


     (1) 本件不正行為に関する事実関係(類似事案の存否を含む。
                                  )
      ①   本件キックバックについて
       当社不動産ソリューション部に属する部長(以下「不動産ソリューション部長」という。
                                              )
      を含む従業員3名(以下「当該従業員3名」という。
                             )は、当社の就業規則上、無許可での
      二重就業が禁止されているにもかかわらず、当社の事前の許可を得ることなく、自らが全
      部又は一部を出資する会社(以下「個人会社」と総称する。
                                )を実質的に経営し、又は、自
      らが代表取締役に就任するなどして、不動産に関する事業を営んでいた。
       本調査の結果、当該従業員3名の個人会社が、2014 年9月から 2019 年7月までの間に、
      当社が関係する不動産取引に関して、仲介業者等から報酬を受領していた案件は合計で 23
      件に上ることが判明した。また、これらの案件の一部について、当該従業員3名以外の当
      社不動産ソリューション部に属する従業員1名(以下「当該幇助者」という。
                                        )が、不動産
      ソリューション部長による個人会社での報酬を得る行為を幇助していたことが判明した。
       当委員会では、これら合計 23 件のうち 22 件については、当該従業員3名が当社に対する
      誠実義務に違反してその個人会社で報酬を得たことにより、その全部又は一部が当社の損
      害(過大支払又は逸失利益)となったと評価し得るものと判断した。
       本件キックバックにおいては、当該従業員3名の個人会社に報酬を支払った仲介業者等
      が仲介に入らなければならない必要性には疑問がある取引も認められたが、売主・買主間
      の相対取引で成約する可能性がある場合であっても、仲介業者等を介在させることは必ず
      しも不合理とも言い切れず、実態として全く仲介業務等を行っていない架空取引と認める
      べき案件は発見されなかった。
       本件キックバックは、基本的に、以下の2類型に分類される。


     疑義の類型                      概要
               当社が当事者となる不動産の売買取引において、当該従業員3名の個人会社が当
               社が仲介手数料等を支払った仲介業者等から、アドバイザリー報酬等の名目で報
     手数料過大支払
               酬を受領することで、当社において当該報酬相当額の仲介手数料等の過大支払が
               生じていたことが疑われるもの
               本来は当社が仲介業務等を提供する機会のあった不動産の売買取引において、当
     収益機会盗用    該従業員3名の個人会社が仲介業者等からアドバイザリー報酬等の名目で報酬を
               受領することで、当社が仲介手数料等を得る機会を盗用したことが疑われるもの




      ②   本件工事費流用について
          本調査の結果、当社不動産ソリューション部長が、その個人会社において負担すべき店
      舗の内装工事費を実際よりも安くするために、当社の保有する不動産の修繕工事1件につ
      いて、当社の負担する本件工事費を本来あるべき工事費用よりも過大なものとすることで


                           4
 両工事を受注した工事業者(以下「当該工事業者」という。
                           )に利益を落とさせ、帳尻を合
 わせた疑いが強いことが判明した。
     不動産ソリューション部長が否定し、当該工事業者からは十分な調査協力が得られな
 かったため、正確な事実関係が判明していない点も存在するが、当委員会は、不動産ソ
 リューション部長による当該行為は、当社の利益を犠牲にしたものであり、当該過大計上
 分は本来当社が負担すべきものではなかったものと評価した。


 ③       類似事例について
     本調査における件外調査の結果、本件キックバック及び本件工事費流用以外のそれらに
 類似する不正行為の存在が疑われる事情は確認されなかった。


(2) 上記(1)による当社連結財務諸表・個別財務諸表への影響
 ①       本件キックバックによる影響額
  本件キックバックの手数料過大支払類型の案件のうち、当社が仲介業者等に支払った仲
 介手数料等が当該従業員3名の個人会社に還流した金額は 377 百万円(十万円以下は省略。
 以下同じ。
     )と認定された。
  そのうち、117 百万円が 2020 年3月期の第 1 四半期末に棚卸資産及び固定資産に計上さ
 れており、減額修正すべきである。その結果、2020 年3月期の第2四半期決算に及ぼす純
 資産影響額は、117 百万円である。また、2020 年3月期の第2四半期決算期間においても
 18 百万円の過大支払が発生している。
  なお、収益機会盗用類型については、当社にとっては逸失利益であるが、実現した収
 益・費用を反映する決算書で逸失利益を収益計上することは認められないため、本類型の
 キックバックによる財務諸表への影響はない。


 ②       本件工事費流用による影響額
  本件工事費流用額は 50 百万円と推認される。そのうち、42 百万円が 2020 年3月期第 1
 四半期末に棚卸資産に計上されているので減額修正すべきである。その結果、2020 年3月
 期の第2四半期決算に及ぼす純資産影響額は、42 百万円である。

 なお、前記①②共に純資産影響額の算出において税務計算による影響は対象としていない。


(3) 本件不正行為が生じた原因分析
 ①       不正の動機
         個人的な経済的利得目的
         当該従業員3名については、それぞれ個人的な経済的利得目的で本件不正行為を行っ
     ていた。
         すなわち、当該従業員3名のうち1名については、独立のための資金や個人会社で運
     営する飲食店のための資金を得ることが、また、当該従業員3名のうち2名については、
     自らの個人会社が本件キックバックにより得た資金を個人会社の経費として使用するこ
     とで、自らの遊興費に充てることが、本件キックバックや本件工事費流用の主要な動機

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    であった。
        また、当該従業員3名は、当社の就業規則上、無許可での二重就業が禁止されている
    にもかかわらず、当社の事前の許可を得ることなく、個人会社を実質的に経営し、又は、
    自らが代表取締役に就任するなどして、不動産に関する事業を営んでいたところ、当社
    は、当社の従業員に対する二重就業の状況について確認を行ってこなかったために、か
    かる動機への牽制が働かなかったものと考えられる。


        上長への追従
        当該幇助者については、不動産ソリューション部長が同部の取り扱っている物件の担
    当を選任する権限を有していること等により、同部長の指示には従わざるを得ないと感
    じていた。
        他方で、当該幇助者は、同部において取引金額が高額な物件の売買の主担当に選任さ
    れる等、同部長からの信頼は厚く、同部長から目をかけられていたという側面もあった。
        このような状況から、当該幇助者は、不動産ソリューション部でうまく仕事をやって
    いくためには、同部長に追従することが最善の方法であると考えるに至り、このことが
    当該幇助者が本件キックバックの幇助を実行・継続するようになった最大の動機であっ
    たと考えられる。


②       不正を行う機会の存在
        業務のたこつぼ化
        不動産ソリューション部の業務の実態としては、同部に所属する従業員が個人ごとに
    築いた人脈を活かして不動産の売買・仲介を行う業務が主であった。そのため、同部の
    業務は、いわゆる「業務のたこつぼ化」が生じており、業務が属人化し、同一部署内の
    他の従業員又は他の部署から業務に対する監視が困難な状況であった。
        かかる事情が、同部の当該従業員3名及び当該幇助者による本件不正行為の実行を容
    易にさせ、発覚を遅らせる原因となった。


        情報の抱え込み等による不透明さの増大
        不動産取引には、案件の個別性、価格の不明確性、情報ネットワークの属人性等から、
    不正が生じる余地があるところ、当社においては、性善説に立った運用が行われ、不動
    産の持込物件の情報を一覧化した「持込物件管理表」や売主・買主・仲介業者等・ア
    セット・マネジメント業者等の各取引先とその担当者を登録する「取引先リスト」につ
    いて明確なルール化をして厳格に管理しておらず、従業員個人による情報の抱え込みが
    できる状態にあった。
        このような従業員個人による情報の抱え込みが、各案件の内容の不透明さを増大させ、
    同部内の他の役職員や他の部署からの監視が行き届かない状況を醸成し、本件不正行為
    を容易にさせていたものと考えられる。


        仲介業者等の起用・監視に関する明確なルール・基準の不存在


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    不動産ソリューション部においては、仲介業者等の起用・監視に関する明確なルー
ル・基準が存在しておらず、執行役員会などの会議体においても物件の収益性や出口戦
略については活発に議論されているものの、仲介業者等の選定やその業務内容について
は議論の中心ではなかった。そのため、実質的には、反社チェック等の手続きを経れば、
不動産ソリューション部長がほぼ自由に仲介業者等を選定することが可能な状況であっ
た。また、仲介業者等の具体的な提供業務の内容の検討や提供を受けた業務内容を記録
する習慣もなかったことから、仲介業者等に関する問題発生の有無を事後的に検証する
こともできない状況であり、仲介業者等の信用力に対する関心も低い状況であった
    また、不動産取引の仲介手数料については、宅地建物取引業法上、その上限額が決め
られているため、当社においては、
               (一部の取引では業務内容に応じて減額交渉をする
ことはあったものの)仲介手数料の多寡に対する意識は必ずしも高くはなく、担当者が
提案する仲介手数料について、ルール・基準を設けて手数料水準の適切性を検証する体
制とはなっていなかった。


    再委託先の管理の欠如
    当社は、仲介業者等や委託先からの再委託先の情報を確認しておらず、再委託先以降
の商流については管理していなかった。
    当社が再委託先まで管理する姿勢を示していれば、不正行為への委縮効果はあったも
のと思われる。そのため、このような管理を行ってこなかったことから、本件キック
バックを容易にする原因の 1 つとなっていたものと考えられる。


    工事発注に関する明確なルール・基準の不存在
    不動産ソリューション部においては、現在は仕入れた不動産を1~2年で売却するビ
ジネスモデルが主体であり、大規模な工事はあまり想定されていないこともあり、REIT
向け賃貸住宅開発における新築工事や解体工事は相見積りを取得しているものの、工事
発注に関する明確なルール・基準が存在していなかった。そのため、本件工事費流用が
発生した物件の工事に際しては、その工事業者から提出された見積りの検証を同部に在
籍する建築士資格保有者が行っていたものの、コンストラクション・マネジメント業者
等による見積りの第三者査定等は行われておらず、また、相見積り取得による見積りの
妥当性の確認は行っていなかった。
    このように、本件工事費流用が行われた物件の取引に際しては、工事費を適正に抑え
るための実効的な牽制が働いていなかった。


    不動産ソリューション部の管理体制に係る機能不全
    本件においては、不動産ソリューション部を統括する部長自身が不正を働いており、
その部下にも関与させていたため、同部内において個人的利得目的の不正発生を抑止す
るための管理体制は部分的に有効に機能していなかった。
    また、執行役員会などの会議体への上程前に、不動産ソリューション部を含む事業部
門と管理部門の部長によって構成される投資リスク等検討ワーキングを開催し、本件不


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正行為が行われた不動産取引を含む投資案件に関する投資リスク等の検討がなされてい
た。しかしながら、当該ワーキングにおいては、物件の収益性や出口戦略についての議
論が中心であり、本件不正行為を検出するまでには至らなかった。


    上長からの監視・監督の実効性不足、社内決裁プロセスの形骸化
    本件不正行為に関与した当該従業員3名及び当該幇助者は、不動産売買による利益さ
え一定水準を確保していればよい、仲介業者等又は工事業者の選定については、実質的
には不動産ソリューション部長が了解すれば問題となることもない、社内決裁は形式的
に所定のプロセスを履践すればよいといった意識を有していた。
    このように、不動産ソリューション部における上長からの監視・監督の実効性は十分
とは言えず、仲介業者の選定や仲介手数料等の決定に関しては、社内決裁プロセスも形
骸化していた。
    かかる事情から、同部長に実質的な権限が集中し、同部の従業員にとって同部長の意
向に従うことの重要性が増す結果となり、本件不正行為全般の原因となった上に、前記
の業務のたこつぼ化や、情報の抱え込みを助長する原因にもなっていたものと考えられ
る。


    他部署と協働する際の引継ぎ・役割分担の不明確さ
    本件キックバックが行われた不動産取引の一部においては、不動産ソリューション部
がビルディング事業部と協働して不動産の売買を行ったものが存在した。
    本来であれば、このように他の部署が関与する案件においては、他の部署からの牽制
が働くため、不正行為を行うことが難しくなるものであるが、当社においては、基本的
に性善説の観点から案件を管理していたことから、横の部署間での牽制機能はあまり意
識しておらず、引継ぎに際してのルールや協働時の役割分担について、明確に決まって
いるものがあったわけではなく、案件ごとに対応しているという状況であった。
    そのため、ビルディング事業部から不動産ソリューション部に対する牽制は、働いて
いない状況であった。


    内部通報制度の不浸透
    当社は、内部通報制度として、コンプライアンス・ホットラインを設け、社内窓口と
法律事務所に所属する外部の弁護士に委託した外部窓口を設けている。しかし、本件で
は、当社の内部通報制度は利用されず、本件不正行為の発覚には至らなかった。
    調査で実施した社内アンケート調査等により、不動産ソリューション部長が就業規則
違反を行っている可能性を認識していた従業員も存在していたことが判明している。ま
た、本件不正行為を行っていた当該従業員3名及び幇助者の中には、本件不正行為への
関与を止めたいと思ったことはあったが、内部通報制度を利用して通報したとしても、
同部長に通報したことが伝われば、自らが通報したことが発覚してしまう可能性がある
ことを恐れ、通報することはできなかったと供述する者も存在した。
    かかる事情は、当社の内部通報制度に対する従業員の信頼性が低く、内部通報制度が


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          当社の従業員に浸透しているとは言い難い状況であったことの証左である。
              当社は、内部通報制度の利用頻度が極めて少ない状況にもかかわらず、何ら対策を
          採ってこなかったことは、十分に反省すべきことである。


      ③       自己正当化の事由
              収益獲得の自負と待遇への不満等による当社に対するロイヤリティーの低下
              本件不正行為を主導していた不動産ソリューション部長は、当社に入社してからの間、
          収益を上げて当社に貢献してきたという自負があった。それにもかかわらず、このよう
          な貢献を続けても、待遇への反映には限界があることから、不満を抱くようになった。
              かかる事情は、同部長が、本件不正行為を行うに際して、自己を正当化する事由と
          なっており、本件不正行為に対する心理的なハードルを下げる原因となっていたものと
          考えられるが、このような認識は誤っており、許されるべきではない。


              仲介手数料の業界慣行を楯にとった当社の「損害」がないという思い込みの醸成
              不動産ソリューション部長は、当社が支払う不動産取引の仲介手数料が上限額である
          3%の範囲内であれば、仲介業者からキックバックをもらったとしても、当社には「損
          害」を与えていない旨供述している。
              確かに、当社においても、基本的には3%の仲介手数料を払うことに違和感はなく、
          これは不動産業界一般にも言えるものと考えられる。しかし、特に自身の個人的利得と
          当社の利益とが相反する場合において、このような認識は誤っている。本件キックバッ
          クを行っていた対象者は、このような仲介手数料の業界慣行を楯にとり、当社の「損害」
          はないものと、本件キックバックを行うことを正当化していたが、許されるべきではな
          い。


              直属の上長が主導している行為であるという意識
              不動産ソリューション部長からの指示を受けて本件キックバックを実行又は幇助して
          いた当該幇助者においては、直属の上長が主導している行為であるから、自身が行って
          も許されるという意識や、同部内で業務を継続するには部長に従うしかないという意識
          を有しており、これにより、自己の行為を正当化していたものと考えられるが、このよ
          うな認識は誤っており、許されるべきではない。




3.   再発防止策の提言
     (1) 役職員の意識改革
      ①       トップメッセージの発信
       本調査において、特に不動産ソリューション部の従業員の間では、コンプライアンス意
      識やモラルが低下していたことが認められる。
       このような意識が全社に蔓延すれば取り返しのつかない事態を招くおそれがあるため、
      早急に、経営トップから、当社においてはいかなる不正も許されないこと、不正を行う者


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 はいかに業績に貢献しようとも許されないということを強く打ち出したメッセージを発出
 すべきである。
  そして、このようなメッセージは、継続的に発出されること、また、階層ごとにより具
 体化されて伝達されることにより、従業員全員に浸透していくものであるから、一度メッ
 セージを発出するだけではなく、その後のフォローも十分に行う必要がある。


 ②    コンプライアンスの意識向上及び徹底
  従業員によって、不正に対する自己正当化を生じさせないよう、再発防止策としては、
 従業員の意識改革のために必要な施策を執ることが急務である。
  そこで、当社は、当社において現状行われている定期コンプライアンス研修に加えて、
 全ての従業員を対象として、不正に焦点を当てた企業倫理・コンプライアンス研修を早急
 に行い、企業倫理・コンプライアンスに対する意識を高めつつ、今後も継続的に各種のコ
 ンプライアンス研修を実施していくべきである。
  また、当該従業員3名が不動産に関する事業を営み、就業規則上禁止されている二重就
 業を行っていたことを踏まえ、当社として、本件を機に当社の従業員から二重就業を行っ
 ていないことの確約書を取得する等により、定期的に二重就業の禁止規定に違反していな
 いことを確認し、改めて就業規則の遵守を確認させ、その意識を向上させるべきである。


 ③    風通しの良い職場環境の整備
  不動産ソリューション部長以外の本件不正行為を行っていた対象者は、同部長に同調し
 て本件不正行為に加担していた側面もあったものと考えられる。このような場合、本来で
 あれば、同部の従業員が、部長の上長である担当執行役員等に対して相談することができ
 る職場環境が整っていれば、本件不正行為を未然に防止することができた可能性がある。
  そのため、職場におけるコミュニケーションを改善し、同部の従業員が問題に直面した
 際に、部長や担当執行役員などの上長に相談し易く、上長が正しい解決方法を指導できる
 ような風通しの良い職場環境を整えることが、本件の再発防止のために有用と思われる。


(2) 管理体制の強化・充実等
 ①    取引先の担当等の見直し
     不動産ソリューション部では、上記のとおり、業務のたこつぼ化や情報の抱え込みが行
 われたために、不正を行う機会が増大した。
  かかる状況を踏まえ、当社は、複数担当化の徹底等により、特定の従業員による取引先
 との関係や情報の抱え込みを防止することが必要と考える。
  また、人事ローテーションを実施してメンバーの固定化・業務の属人化を防止すること
 や、同部内における取引先の担当を定期的に変更する方法も、業務のたこつぼ化や情報の
 抱え込みの防止に有用と思われる。


 ②    情報の登録・管理の徹底
     不動産ソリューション部では、営業活動先とその範囲のリスク把握のため、不動産ソ


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リューション部員全員の「持込物件管理表」や「取引先リスト」を作成し、情報共有を
図っていたが、必ずしも徹底がされていなかったことから、特定の従業員による情報の抱
え込みが可能となっていた。
 そこで、当社としては、同部内における情報の登録・管理を徹底する必要があると考え
る。


③ 仲介業者等の選定時及び工事発注時におけるルール・基準の明確化
 仲介業者等の起用・監視や工事発注に関する明確なルール・基準が存在しておらず、実
質的に不動産ソリューション部長の意向を踏まえた同部の担当者による裁量で決められて
いた。
 かかる事態を防止するため、仲介業者等の起用・監視や工事発注に関するルール・基準
の明確化が必要であると考える。
 また、工事発注に際しても、工事発注前において取引内容を適切に精査する体制を整え
るべきである。


④    再委託先の管理方法の見直し
 不動産ソリューション部においては、再委託先以降の商流については管理していなかっ
たことから、当社から仲介業者等や委託先に対する牽制力が弱かったものと考えられる。
 そのため、仲介業者等や委託先に対して、再委託先の管理を徹底するという当社の姿勢
を示すことで、仲介業者等や委託先への牽制力を高めるべきである。


⑤    不動産ソリューション部に対する管理体制の改善
 不動産ソリューション部においては、部長に過度に権限が集中していたために、監視さ
れるべき部門と監視機能を実行すべき役職者が兼任・固定化され、ブラックボックス化し
ていった経緯が認められる。
 本件不正行為は、個人的利得目的で外部者も関与する不正類型のため、社内の管理体制
のみではその防止には限界がある面は否めないが、類似の不正が再発する可能性を可能な
限り低減させていくためには、過度の権限集中・固定化をせず、相互牽制・監視システム
が実効性を保つ人材配置を徹底することが極めて重要であると考える。
 また、投資リスク等検討ワーキングにおいて、仲介業者等の選定等を重要な検討項目と
位置付けることも、権限集中に対する牽制機能を働かせる手段の一つとして検討に値する
と考えられる。


⑥    上長による監視・監督及び社内決裁プロセスの改善・強化
 不動産ソリューション部では、上長による監視・監督機能が働いておらず、社内決裁プ
ロセスが形骸化していた。
 かかる状況を踏まえ、当社としては、不動産ソリューション部内における実効性のある
管理体制の運用を行うよう、社内決裁プロセスの確認から不正の牽制・防止体制を整える
必要がある。


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  また、かかる施策が日々の業務運営等に着実・確実に反映され定着していくよう、管理
 体制システムの整備運用の責任を負う経営陣が継続的に検証していく必要があると考える。


 ⑦    他部署との協働に際しての引継ぎ・役割分担の明確化
  不動産ソリューション部と他部署との協働による案件において、その引継ぎ・役割分担
 が不明確であったことから、横の部間の相互牽制が効いていない状況であった。
  今後はこのような事態を防止するため、組織変更、事務分掌の見直し等により、不動産
 売買の体制を明確にする必要があると考える。


(3) 内部通報制度の充実
 当社は、内部通報窓口として、コンプライアンス・ホットラインを設け、社内の窓口と法
律事務所に所属する外部の弁護士に委託した外部の窓口を設けているが、ほとんど利用され
ていない状況であったことは、当社の内部通報制度が従業員に浸透しておらず、制度が信頼
されていないことを示している可能性がある。
 内部通報制度は、不正に関して通常のレポーティングラインが機能しない場合に、それを
バイパスするものとして、経営陣が社内の不正に関する情報を入手するためのツールとして
重要である。当社は、内部通報制度の実効性を確保するための措置として、当社の内部通報
制度を従業員に対して周知するとともに、より従業員からの信頼を得るために採り得る施策
はあるかという観点から検証を行い、より実効性の高い内部通報制度となるように継続的に
改善していくべきである。


(4) 本件不正行為に対する厳格な対応
 ①    本件不正行為の対象者に対する対応
  本件不正行為を行った対象者は、当社に損害を与え、一部の者を除いて個人会社を通じ
 て不当な個人的利益を得たものである。当社としては、このような不正を行う者は決して
 許されないということを内外に明確に示す必要がある。そのため、当社としては、これら
 の不正行為を行った者に対して、社内規律保持のための措置をとることと併せて、厳しい
 法的責任追及についても検討する必要がある。


 ②    経営陣の責任
  どのような管理体制を整備しようとも、個人的利得目的の不正行為を完全に防止するこ
 とは困難であるが、当社では、本件不正行為を防止するための管理体制が十分実効的に整
 備運用できていたとは言い難く、そのことによって、本件不正行為の実行が容易になって
 いた面は否めない。また、それにより、決算発表及び四半期報告書の開示が遅れるなどし
 た。
  したがって、当社の経営陣は、これらに対する経営責任を明確にする必要がある。




                                          以上


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