7729 東精密 2021-03-15 09:00:00
特別調査委員会の調査報告書公表に関するお知らせ [pdf]
2021年3月15日
各 位
会社名 株式会社東京精密
代表者名 代表取締役社長CEO 吉田 均
(コード番号 7729 東証第一部)
問合せ先 代表取締役CFO 川村 浩一
TEL 042―642―1701(代表)
特別調査委員会の調査報告書公表に関するお知らせ
当社は、2021年3月12日付「特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」に記載のとおり、同日、
特別調査委員会より当社の連結子会社である株式会社東精エンジニアリングにおける前社長の着服行為、
不適切な取引に関する調査報告書を受領し、個人情報、機密情報保護等の観点から部分的な非開示措置を
施しておりましたが、非開示措置が完了いたしましたので、別添のとおり、調査報告書(開示版)を公表
いたします。
記
1.特別調査委員会の調査結果
特別調査委員会の調査結果につきましては、添付の「調査報告書(開示版)」をご覧ください。
2.当社連結財務諸表に与える影響
不適切な会計処理に伴う連結財務諸表への影響額につきまして、当社は、特別調査委員会の調査結果
を受け、調査により判明した不正が過年度の財務諸表に与える影響は軽微であると判断し、過年度の有
価証券報告書、四半期報告書及び決算短信の訂正は行わず、2021年3月期第3四半期決算において一括処
理する予定です。修正内容につきましては、本日開示予定の「(訂正・数値データ訂正)「2021年3月期
第3四半期決算短信[日本基準](連結)」の一部訂正について」をご参照ください。なお、2021年2月2日に
開示いたしました2021年3月期連結業績予想の本件に伴う修正は行わない予定です。
3.特別調査委員会の調査結果を受けた今後の対応方針
当社は、今回の調査結果を真摯に受け止め、再発防止のための提言に沿って再発防止策を策定の上、
実行してまいります。
具体的な再発防止策等については、本日開示予定の「再発防止策の公表及び関係者の処分について」
をご参照ください。
4.今後の予定
当社は、2021年2月15日付「2021年3月期第3四半期報告書の提出期限の延長申請に係る承認に関するお
知らせ」においてお知らせしましたとおり、2021年3月期第3四半期報告書(自 2020年10月1日 至 2020
年12月31日)にかかる四半期報告書について、延長後の提出期限であります本日中に、監査法人による
四半期レビュー報告書を受領し提出する予定です。
当社の株主、投資家、市場関係者の皆様ならびにお取引先その他すべてのステークホルダーの皆様に
多大なご心配とご迷惑をおかけしますことを深くお詫び申し上げます。
以 上
株式会社東京精密 御中
調査報告書
【開示版】
2021 年 3 月 12 日
株式会社東京精密特別調査委員会
1
目次
第1 特別調査委員会の概要................................................... 4
1 特別調査委員会設置の経緯................................................. 4
2 調査の目的・範囲......................................................... 4
3 調査体制等 .............................................................. 5
(1) 当委員会の構成....................................................... 5
(2) 当委員会の開催状況................................................... 5
4 調査方法 ................................................................ 5
(1) 関連資料の精査....................................................... 5
(2) ヒアリング .......................................................... 6
(3) フォレンジック調査................................................... 6
5 本調査の期間 ............................................................ 6
第2 東京精密及び TSE の概要................................................. 6
1 東京精密について......................................................... 6
(1) 会社概要 ............................................................ 6
(2) 子会社管理体制....................................................... 7
2 TSE について ............................................................. 8
(1) 会社概要 ............................................................ 8
(2) 主な事業分野(専用機事業、自動計測事業及び計測サービス事業) ........... 9
(3) 売上計上フロー及び仕入・支払事務フロー ............................... 9
第3 本調査の結果判明した事実.............................................. 11
1 本件の会計処理の概要.................................................... 11
2 装置 P について ......................................................... 12
(1) 開発経緯 ........................................................... 12
(2) 装置 P の販売実績.................................................... 12
3 架空発注によるキックバック案件.......................................... 12
(1) 架空発注に至る経緯.................................................. 12
(2) 具体的手法 ......................................................... 13
(3) 架空発注の終了...................................................... 14
(4) 期間 ............................................................... 16
(5) A 氏の動機・関係者の認識 ............................................ 16
(6) 修正処理の概要...................................................... 17
4 売掛金回収偽装案件...................................................... 18
(1) 売掛金回収偽装に至る経緯............................................ 18
(2) 具体的手法 ......................................................... 20
2
(3) 装置 P の売上計上時期について........................................ 22
(4) A 氏の動機・関係者の認識 ............................................ 23
(5) 修正処理の概要...................................................... 24
5 経費付け替え案件........................................................ 27
(1) b 社への業務委託 .................................................... 27
(2) 関係者の認識........................................................ 28
(3) 修正処理の概要...................................................... 28
6 類似案件(件外調査)...................................................... 29
(1) 件外調査の概要...................................................... 29
(2) A 氏銀行預金等口座取引履歴の検証 .................................... 29
(3) 外注先アンケート.................................................... 30
(4) TSE 社内アンケート .................................................. 30
(5) 東京精密子会社アンケート............................................ 31
第4 財務報告に与えた影響.................................................. 31
第5 原因背景 ............................................................. 31
1 TSE 内における牽制機能の欠如 ............................................ 32
(1) 装置 P という特別案件によるブラックボックス化 ........................ 32
(2) 強すぎるリーダーシップと暴走........................................ 32
(3) 事業部門責任者による行為を誰も検証しようとしない態勢 ................ 33
2 東京精密における子会社管理の不十分さ .................................... 34
3 TSE 及び TSE 子会社役職員のコンプライアンス意識の乏しさ .................. 34
第6 再発防止策の提言...................................................... 35
1 TSE 内における牽制機能の強化 ............................................ 35
(1) 事業部門の垣根を越えた意見交換等 .................................... 35
(2) 間接部門の拡充...................................................... 36
2 東京精密による子会社管理の強化.......................................... 36
3 TSE 及び TSE 子会社役職員に対するコンプライアンス教育 .................... 37
3
第 1 特別調査委員会の概要
1 特別調査委員会設置の経緯
2021 年 1 月下旬頃、株式会社東京精密(以下「東京精密」という。)は、国税当局による、
同社の連結子会社である株式会社東精エンジニアリング(以下「TSE」という。)に対する税
務調査に対応する過程で、TSE の前社長である A 氏が、複数年にわたり、TSE の取引先で
ある a 社に対して、実際には業務を委託していないにもかかわらず、業務を委託したかの
ように装い、設計委託費名目で TSE から金員を支払わせ、かつ、a 社に指示をして、TSE
から a 社に対して支払われた設計委託費の大半を、A 氏名義の銀行口座に振り込ませ着服
していた可能性があることを認識し、社内調査を開始した。
東京精密は、上記着服案件が同社の業績に与える影響は軽微だと判断し、2021 年 2 月 2
日、2021 年 3 月期第 3 四半期決算短信を発表した。しかし、その後も社内調査を進める中
で、A 氏が、TSE における装置 P の売掛金の長期滞留を解消するため、TSE の中国子会社で
ある東精計量儀有限公司(以下「東精計量儀」という。)を利用して売掛金の回収を偽装して
いた可能性があること等も判明し、東京精密は、徹底した調査を行うため、同月 8 日開催
の取締役会において、特別調査委員会(以下「当委員会」という。)の設置を決議し、当委員
会に調査を委嘱した。
2 調査の目的・範囲
当委員会は、以下の目的で設置され、以下の目的のために合理的に必要な範囲で調査を
行った(以下、当委員会が実施した調査を「本調査」という。)。
(1) TSE における A 氏による次の 3 つの不正取引に係る事実関係の解明及び会計処理
の適切性の検証(以下、3 つの不正取引を総称して「本件」という。)
① a 社に対する架空発注を利用した着服案件
② 装置 P の売掛金の回収偽装案件
③ TSE が b 社に委託した装置 P に関する業務経費の付け替え案件
(2) TSE における上記(1)と類似する案件の有無の確認(以下「件外調査」という。)
(3) 上記(1)又は(2)において問題が発見された場合には、その原因究明及び再発防止
策の提言
(4) その他、当委員会が必要と認めた事項
4
3 調査体制等
(1) 当委員会の構成
当委員会の構成は以下のとおりである。
委員長 平尾 覚 弁護士 西村あさひ法律事務所
委 員 岩田 知孝 公認会計士・弁護士 株式会社 KPMG FAS
委 員 勝部 純 弁護士 西村あさひ法律事務所
委 員 相良由里子 弁護士・弁理士 中村合同特許法律事務所 東京精密社外取締
役監査等委員
当委員会は、西村あさひ法律事務所の弁護士 3 名、株式会社 KPMG FAS の公認会計士 1
名を調査補助者として選任した。さらに、デジタル・フォレンジック調査等に際し、株式
会社 KPMG FAS の補助を受けた。
当委員会の委員並びに調査補助者及び株式会社 KPMG FAS は、いずれも東京精密と顧問
契約を締結しておらず、東京精密及び東京精密関係会社(以下「東京精密グループ」とい
う。)と利害関係も有していない。
(2) 当委員会の開催状況
当委員会は、本調査の期間中、合計 5 回の委員会を開催し、さらに適宜委員間で協議し
て問題点や調査結果等の検討を行った。
4 調査方法
当委員会は、本調査において、下記(1)から(3)の調査を実施した。なお、件外調査の範
囲・方法は、下記第 3 の 6 に詳述する。
(1) 関連資料の精査
当委員会は、本件に関係する可能性のある資料(各種議事録、各案件に関する契約書
類・証憑書類・帳簿類、A 氏名義の銀行口座取引明細、総勘定元帳等の決算資料等)を収集
し、その内容を精査・検証した。
5
(2) ヒアリング
当委員会は、2021 年 2 月 10 日から同年 3 月 4 日にかけて、本件に関与した可能性のあ
る TSE の役職員及びその他の関係者合計 12 名に対し、ヒアリングを実施した。なお、一
部のヒアリング対象者については、複数回のヒアリングを実施した。
(3) フォレンジック調査
当委員会は、TSE のメールサーバ等に保存されていた A 氏の電子メールデータを保全し
た。その上で、当委員会は、キーワードを用いた検索によってデータを抽出し、抽出され
たデータを精査した。
5 本調査の期間
当委員会は、2021 年 2 月 8 日から 2021 年 3 月 12 日までの期間にわたり本調査を行っ
た。
第 2 東京精密及び TSE の概要
1 東京精密について
(1) 会社概要
東京精密は、1949 年 3 月に、ミシン加工用切削工具、各種精密部品及び治具類の製作販
売を行うことを目的として設立された、東京精密工具株式会社を前身とする会社である。
東京精密の沿革は以下のとおりである。
年月 概要
1949 年 3 月 東京精密工具株式会社 設立
1962 年 4 月 商号を「株式会社東京精密」に変更
1962 年 8 月 東京証券取引所市場第二部に株式上場
1969 年 4 月 アフターサービスを担当する会社として、株式会社東精エンジニアリン
グサービス(現在の TSE)を設立
1971 年 1 月 八王子工場本館完成
1981 年 8 月 土浦座標測定機工場完成
1986 年 9 月 東京証券取引所市場第一部銘柄に指定
6
2010 年 6 月 本店所在地を東京都三鷹市より東京都八王子市へ変更
東京精密グループは、東京精密並びにその子会社 33 社及び関連会社 1 社で構成され、
半導体製造装置及び計測機器の製造販売を主な内容とした事業活動を行っている。東京精
密の事業内容及び当該事業への東京精密グループ各社の関わりは以下のとおりである。
半導体製造 ウェーハプロービングマシン、ウェーハダイシングマシン等半導体製
装置 造工程で使用される加工・検査装置を扱う半導体製造装置事業において
は、東京精密が生産の大部分を担当し、TSE が一部関連製品の生産を行
い、ACCRETECH ADAMAS (THAILAND) CO., LTD が一部消耗品の生産を行っ
ている。販売及びアフターサービスについては、東京精密が中心となっ
て行い、ソフトウェアについては、株式会社トーセーシステムズが主に
供給を担当している。
海外への販売については東京精密による輸出の他、米州地域で
ACCRETECH AMERICA INC が 、 欧 州 地 域 で は ACCRETECH (EUROPE) GmbH
が、アジア地域では ACCRETECH KOREA CO., LTD、東精精密設備(上海)有
限公司、ACCRETECH TAIWAN CO., LTD 等がそれぞれ行っている。
計測機器 三次元座標測定機、表面粗さ・輪郭形状測定機等の精密測定機器類を
扱う計測機器事業においては、東京精密及び TSE が生産と販売の大部分
を担当し、ソフトウェアについては、株式会社トーセーシステムズが主
に供給を担当している。なお、一部の製品については、東精計量儀や
TOSEI (THAILAND) CO., LTD による海外現地生産も行われている。
海外への販売については東京精密及び TSE による輸出の他、米州地域
では ACCRETECH SBS INC が、欧州地域では ACCRETECH (EUROPE) GmbH
が、アジア地域では ACCRETECH KOREA CO., LTD、東精精密設備(上海)有
限公司等がそれぞれ行っている。
(2) 子会社管理体制
東京精密は、監査等委員会設置会社であり、本調査開始時点の役員は、取締役(監査等
委員であるものを除く。)9 名(うち 2 名は社外取締役)、監査等委員である取締役 4 名(う
ち 3 名は社外取締役)で構成されている。東京精密は、下図のとおり、取締役会が実効性
ある内部統制システムの構築及び法令・定款遵守の体制を確立し、監査等委員会が内部統
制システムの有効性と機能を監査している。監査室は、取締役会に承認された年間計画に
基づいて、東京精密グループ各社の業務執行に対し、法令・定款及び社内規程等への準拠
性、管理の妥当性の検証を目的とした内部監査を実施し、監査結果を、代表取締役、取締
7
役会及び監査等委員会に報告している。
東京精密では、上記のとおり、監査室が、東京精密グループ各社に対する内部監査を実
施するとともに、代表取締役社長直轄の組織として設置している経営支援室が、東京精密
グループ各社の管理及び経営支援を行っている。また、東京精密グループ各社における重
要な業務執行に当たっては、社内規程により、東京精密の取締役会又は東京精密の代表取
締役社長による承認を受けなければならないとしている。
2 TSE について
(1) 会社概要
TSE は、1969 年 4 月に、東京精密製品のアフターサービス業務、同社製品に関連するシ
ステム製品の販売及びコンサルティング業務を行うことを目的として設立された、株式会
社東精エンジニアリングサービスを前身とする会社である。TSE の沿革は以下のとおりで
ある。
年月 概要
1969 年 4 月 東京精密の子会社として株式会社東精エンジニアリングサービス(現在
の TSE)を設立
1972 年 本社東京工場完成
8
電子部品自動選別装置の設計、製作、販売を開始
1977 年 自動車部品の自動測定選別機の設計、製作、販売を開始
1979 年 商号を「株式会社東精エンジニアリング」に変更
1985 年 名古屋新工場建設(第 1 期)
1991 年 名古屋工場増築完成(第 2 期)
1992 年 日本フィジテック機器株式会社と合併
1997 年 名古屋工場増築完成(第 3 期)
1999 年 4 月 土浦本社・工場が完成し、同所に完全移転
ウェーハ事業開始
2001 年 6 月 東京証券取引所市場第二部に株式を上場
2002 年 東京精密より自動計測機器部門を営業譲受け
2004 年 中国現地法人東精計量儀設立
ISO 9001 取得
2005 年 10 月 株式交換により東京精密の完全子会社となり上場廃止
2007 年 本社・名古屋工場増築
2008 年 神立工場(半導体工場)建設
2012 年 神立工場増築(第 2 期)
2014 年 神立工場増築(第 3 期)
(2) 主な事業分野(専用機事業、自動計測事業及び計測サービス事業)
TSE の主要な事業は、各種材料ウェーハの端面(エッジ部)の加工(面取り)を行う面取り
機を中心とする顧客専用機を取り扱う事業(以下「EDGE 事業」という。)、各種の自動計測機
器等を取り扱う事業(以下「自動計測事業」という。)及び計測機器の保守サービス等を行う
事業(以下「計測サービス事業」という。)の 3 つである。
EDGE 事業としては、主要製品として、各種材料ウェーハ対応の面取り機、各種ガラス及
び各種パーツの外周加工・穴あけ装置、ウェーハ剥離洗浄機、専用加工装置、測定装置並
びに組み立て装置の製造・販売を行っているほか、各種材料の受託加工も行っている。
自動計測事業としては、自動車部品計測用アプリケーションやベアリング部品用アプリ
ケーション、インライン計測システムの製造・販売を行っている。
計測サービス事業としては、顧客に対する計測機器の保守サービスや定期点検、顧客の
測定支援業務等を行っている。
(3) 売上計上フロー及び仕入・支払事務フロー
TSE における売上計上及び仕入・支払事務に係る業務フローの概要は以下のとおりであ
9
る。
(売上計上フロー)
業務 担当 概要
受注 営業技術グルー 顧客から引き合いを受けると「販売管理システム」に
プ(以下、本項 入力し「見積書」を作成する。
において「G」と 正式に受注すると、顧客から「注文書」を入手し「販
いう。) 売管理システム」の販売情報を更新する。
技術 G
生産 生産管理 G 受注を受けて「販売管理システム」から「在庫出庫指
製造 G 示書」「製作指示一覧表」を出力し、製造する。
品質保証 G
出荷 製造 G 製品ごとに定められている売上計上基準に従って生
売上計上 生産管理 G 産管理 G にて「販売ファイル」に売上入力を行う。
TSE における売上計上基準は以下のとおりである。
計上基準 対象
出荷基準 測定機器等
船積基準 輸出測定機器等
作業終了基準 保守サービス等
設置完了基準 半導体製造装置等
作業終了基準、設置完了基準の場合、顧客の署名が
ある「作業報告書」や「設置完了報告書」等の検収証憑
を入手し、当該証憑に基づいて売上を入力する。
(仕入・支払事務フロー)
業務 担当 概要
発注 生産管理 G 原材料、役務等の発注の際、生産管理 G が「出金
ファイル」を更新し、発注処理を行う。
「出金ファイル」から、「発注書兼納品書(控)」、
「請求書兼納品書」、「受領書」及び「現品票」を出力
し、全て購入先、外注先に送付する。
「発注書兼納品書(控)」は購入先、外注先にて控え
として保管される。
検収 生産管理 G 購入先、外注先から、物品、成果物、報告書等発
仕入計上 注対象品(以下「発注対象品」という。)とともに
「請求書兼納品書」、「受領書」及び「現品票」が生産
10
業務 担当 概要
管理 G に送付される。
生産管理 G、又は発注部門において、発注対象品
と「請求書兼納品書」とを照合し、検収を行う。検
収終了後、生産管理 G が入庫処理を行って、仕入
計上を行う。
生産管理 G 担当者は、検収後、「請求書兼納品
書」、「受領書」及び「現品票」に、「検収済み」を意
味する押印をし、「受領書」を購入先、外注先に返
送する。
「現品票」は生産管理 G に保管されるが、「請求書
兼納品書」はコントロール G にて保管される。
支払 コントロール G コントロール G では、「出金ファイル」から転送さ
れた「買掛残ファイル」から出力される各種支払情
報に基づき支払処理を行う。
第 3 本調査の結果判明した事実
1 本件の会計処理の概要
A 氏は、装置 P について、中国や台湾の潜在顧客に対する営業活動費用等を捻出するた
め、2010 年 9 月から 2017 年末までの間、実際には業務を委託していないにもかかわら
ず、TSE から a 社に対して業務を委託したかのように装い、TSE から a 社に対して業務委
託費を支払った上で、a 社に指示し、TSE から a 社に支払われた代金の大半を、自らの銀
行口座に環流させていた(以下「架空発注によるキックバック案件」という。)。
また、2013 年 12 月から 2017 年 10 月にかけて、TSE は、その台湾子会社である TOSEI
TAIWAN CO. LTD(以下「東精台湾」という。)を通じて、台湾企業である c 社に対して、装置
P を合計 71 台販売したが、2019 年 1 月末の時点で、18 台分の約 3 億 6,000 万円の売掛金
が未回収となっていた。A 氏は、TSE が上記売掛金を回収したように装うため、2019 年 3
月及び同年 9 月、c 社が保有する装置 P 合計 10 台を、自身が董事長を務める東精計量儀を
して、c 社から紹介を受けた d 社を介して、合計約 4 億 1,000 万円で買い取らせ、c 社を
して、かかる代金を原資として TSE に対する未払代金を支払わせた(以下「売掛金回収偽装
案件」という。)。
さらに、2018 年 11 月以降、A 氏は、東精計量儀を通じて装置 P を中国市場で販売した
いと考え、東精計量儀による装置 P の販売のため、b 社に対して中国市場におけるマーケ
ティング等の業務を委託していたが、かかる費用について、面取り機のマーケティング費
11
用であるかのように装っていた(以下「経費付け替え案件」という。)。
以上のとおり、本件における不正な会計処理はいずれも、装置 P に関して、A 氏が主導
したものである。
2 装置 P について
(1) 開発経緯
2010 年 4 月頃、東京精密は、半導体に用いられるサファイア基板を研削するための製品
である装置 Q の初期設計開発のためのプロジェクト(以下「Q プロジェクト」という。)を進
めており、当時、TSE の取締役兼 EDGE 事業責任者であった A 氏に対して、Q プロジェクト
への協力を求めた。A 氏は、東京精密からの依頼を受け、外部の設計事務所とともに上記
装置 Q の初期設計開発に取り組んだ。
A 氏は、上記初期設計開発の結果を東京精密に提出するとともに、当該開発製品を簡易
化し、低価格な装置 P とすれば、TSE の EDGE 事業において、端面を加工する面取り機に加
え、新たな事業展開が可能となると考えた。そこで、A 氏は Q プロジェクトの開発結果
を、TSE 用製品として見直し、装置 P を開発した。
なお、A 氏は、東京精密に TSE として新製品を開発することを伝えた場合には、開発承
認を得ることなどに時間を要すると考え、東京精密に装置 P を開発していることを伝える
ことなく、TSE の面取り機の製品名を使って、「装置 P」との名称で装置 P の製造・販売を
開始した。
(2) 装置 P の販売実績
TSE は、2013 年 12 月から 2017 年 10 月にかけて、c 社に対して装置 P を合計 71 台販売
した。c 社以外に対する装置 P の販売実績はなかった。
3 架空発注によるキックバック案件
(1) 架空発注に至る経緯
a 社は、A 氏が TSE の八王子分室に勤務していた当時、派遣技術者として同じ八王子分
室に勤務していた B 氏が設立した B 氏の一人会社である。TSE は、2004 年 7 月以降、a 社
に対して継続的に業務を委託していた。
A 氏は、Q プロジェクトに協力した際、外部の設計事務所への支払を、TSE 名義にて行う
12
ことを避けるため 1、a 社を介して外部の設計事務所への委託を行うこととし、TSE から a
社に業務委託費を支払った上で、支払金額から約 10%の手数料を除いた金額を、a 社から
外部の設計事務所に振り込むよう依頼していた。
A 氏は、a 社に対して、2010 年 8 月から、上記の外部の設計事務所への振込みを指示し
ていたが、2010 年 11 月以降は、TSE から支払った金額から約 10%の手数料を除いた金額
を、外部の設計事務所と A 氏名義の銀行口座に分けて振り込むよう指示し、上記金額の一
部を A 氏名義の銀行口座に入金させていた。その後、Q プロジェクトの終了とともに、外
部の設計事務所への振込みは 2011 年 5 月には終了したが、A 氏は、a 社に対して、上記金
額を全て A 氏名義の銀行口座に振り込むよう指示し、入金させていた。
このように a 社から A 氏名義の銀行口座への振込原資となった業務委託費については、
いずれも a 社が業務を行った実態はなく、TSE として業務委託費を支払う理由はない。
また、外部の設計事務所及び A 氏名義の銀行口座への振込みのために、a 社に対して支
払われた業務委託費は、いずれも原則として a 社の作業者 1 人の 1 か月当たりの単価を
103 万 9,500 円として金額が設定されており、2010 年 6 月に、TSE において、上記単価に
よる a 社への発注が開始されていた。そして、TSE から a 社に対する当該業務委託費の支
払については、検収が行われた月の翌月末に行われることとされており、また、後述する
とおり、架空発注によるキックバック案件においては、TSE から a 社への発注と同時に検
収処理が行われていた。したがって、2010 年 11 月に行われた a 社から A 氏名義の銀行口
座への初回の振込みは、2010 年 9 月に行われた TSE から a 社への発注により、翌 10 月末
に支払われた業務委託費を環流させたものであると考えられる。
以上によれば、A 氏は、2010 年 9 月から、a 社に対して、実態のない業務を委託したか
のように装い、TSE が a 社に支払った業務委託費用の一部をキックバックとして受け取る
ようになったものと考えられる。
なお、A 氏は、a 社に架空発注を行い、同社からキックバックを受けるようになった理
由として、中国や台湾に出張した際に、装置 P の潜在顧客に対する接待等を行うための営
業活動費用を捻出する必要があったためであると述べている。ただし、A 氏名義の銀行口
座の取引明細を精査した結果、a 社からの入金があった A 氏名義の銀行口座が、給与振込
先口座になって以降、同口座から、A 氏の生活口座等に資金が送金されていた事実も認め
られており、次第に営業活動費用と私的な支出の区別が曖昧になっていたと考えられる。
(2) 具体的手法
TSE の EDGE 事業部門では、購買・外注について生産管理グループが個々の発注処理を
行っていた。
1
A 氏によれば、外部の設計事務所が、TSE との直接契約に難色を示したためとのことである。
13
そのため、A 氏は、月末頃に、当時、生産管理グループの責任者であった C 氏に対し
て、「八王子、不具合対応で、外注設計」、「3 人月」、「費用処理をします。」、「30 日、伝
票発行、検収処理してください。」などと記載したメールを送信し、発注理由や発注金額
等を伝え、伝票の発行と検収処理の実施を指示していた。A 氏は、装置 P の営業活動のた
めに中国や台湾への出張を計画した際に、その際の接待等として要する営業活動費用を概
算で算出した上で、それに基づいて架空の発注数量(月当たり何人分)を決め、C 氏に対し
て、a 社への発注処理を指示していたと述べている。
C 氏は、a 社への発注処理を繰り返す中で、a 社の作業者 1 人の 1 か月当たりの単価が、
103 万 9,500 円となっていることを理解しており 2、例えば、A 氏から「3 人月」という指示
を受けた場合には、発注金額を「311 万 8,500 円(103 万 9,500×3)」と算出していた。
C 氏は、A 氏から、a 社への発注処理を指示されると、TSE の 4 枚綴りの発注伝票(発注
書兼納品書(控)、請求書兼納品書、受領書及び現品票)を用い、発注処理を行っていた。
ただし、A 氏からの指示は、月末頃に、検収処理を行うことまで含んだ内容となっていた
ため、検収の根拠書類となる請求書兼納品書には、TSE が検収処理を行ったことを意味す
る押印も行った上で、a 社に対して発注伝票を郵送するとともに、TSE の社内システム上
で、発注処理と同時に検収処理も完了した旨を入力していた。また、TSE の社内規程上、
一般材料費、外注加工費及び社内加工依頼については、発注金額又は検収金額が、1,000
万円以上は代表取締役社長、1,000 万円未満は担当取締役、500 万円未満は部門長、100 万
円未満は課長、50 万円未満は主任、10 万円未満はチーフにそれぞれ決裁権限があると定
められている。C 氏は、部門長ではなかったことから、100 万円以上の a 社への発注につ
いての検収処理を自らの権限で行うことはできず、A 氏の了承の下、A 氏の印鑑を使って
請求書兼納品書に押印していた。なお、2017 年には、C 氏は、当時、EDGE 事業部門の技術
グループの責任者を務めていた D 氏に対して、a 社への発注について請求書兼納品書への
押印を依頼したこともあった。ただし、上記のとおり a 社への発注指示は、A 氏から C 氏
に対して行われていたので、D 氏が a 社への発注処理そのものに関与したことはなかっ
た。
上記 a 社への架空発注は、全て、A 氏の指示により、面取り機の経費として計上されて
いた。面取り機は製品単価が高額であったため、a 社への架空発注にかかる数百万円の費
用が加わったとしても、社内で疑義を抱かれることはなかった。
(3) 架空発注の終了
2016 年 9 月頃、TSE の常勤監査役を務めていた E 氏が、TSE の請求書兼納品書の抜き取
2
ただし、C 氏は、a 社の作業者 1 人の 1 か月当たりの単価が 103 万 9,500 円とされていた根拠は把握
しておらず、A 氏の指示どおり処理していただけであると述べている。
14
り監査を実施したところ、a 社への発注に関して、TSE が保管しているはずの請求書兼納
品書が存在しないものがあることを発見した 3。E 氏が、C 氏に対して説明を求めたとこ
ろ、C 氏から、書類の受領が遅れているとの説明を受けたため、後日、a 社から送られて
きた請求書兼納品書を確認し監査を終えた。
その後、2018 年 1 月頃、E 氏が、TSE の請求書兼納品書の抜き取り監査を実施したとこ
ろ、再び a 社への発注に関して、TSE が保管しているはずの請求書兼納品書が存在しない
ものがあることを発見した。E 氏は、同じく TSE の常勤監査役を務めていた F 氏に対し
て、a 社への発注に関する請求書兼納品書が不足している事実を共有した。E 氏によれ
ば、これを受けて、F 氏が、当時 TSE の代表取締役会長を務めていた G 氏に対して、a 社
との取引内容について質問したところ、G 氏は取引内容を把握していない旨述べたとのこ
とである。
その後、G 氏は、2018 年 2 月 2 日、A 氏にメールを送信し、a 社への支払が監査対象と
なっているが、支払の根拠が分からず不可解であること、G 氏自身が、代表取締役会長と
して、支払根拠や A 氏へのキックバックの有無を調査する義務があると考えていることを
伝えた。
G 氏からのメールを受けて、A 氏は、D 氏及び C 氏を TSE に呼び出すとともに、メールも
送信し、A 氏から G 氏への事情説明について、口裏を合わせるように指示をした。その
後、A 氏は、G 氏に対して、a 社への発注が、D 氏も成果物を確認した上で支払手続を行っ
ている実態のある取引であると説明した。
また、上記 G 氏への説明と同時期に、A 氏は、D 氏及び C 氏にメールを送信し、a 社から
個人印を借りてきたことを伝えるとともに、過去に遡って、発注伝票の内容に即した内容
の a 社の見積書を作成するよう指示した。本調査において、TSE と a 社との間の業務委託
に関する覚書及び a 社作成の TSE 宛ての見積書が確認されたが、見積書における a 社の印
影はいずれも、社印ではなく B 氏の個人印であり、上記の A 氏のメールの記載内容と符合
していた。また、覚書については、本来であれば作成時期が異なるはずの、契約年月日の
異なる複数の覚書にまたがって割印がなされているものがあることから、これらは 2018
年 2 月頃に、後付けで作成されたものであることが窺われた。A 氏自身、G 氏からの指摘
を受けて、a 社との取引実態が存在するとの外形を作出するために、上記覚書及び見積書
を作成したと述べている。なお、上記見積書には、D 氏及び C 氏の印影も存在するが、C
氏は押印の経緯を覚えておらず、D 氏は、A 氏から、印鑑を貸すように言われて貸した
か、押印するよう指示を受けて自ら見積書に押印したと思うなどと述べている。
TSE の社内システム上、a 社に対して最後に発注をしたのは、2017 年 12 月 27 日となっ
3
上記(2)記載のとおり、C 氏は、a 社に対して発注伝票を郵送するのと同時に検収処理も行っていた
ところ、a 社からの請求書兼納品書の郵送が遅れるなどして、請求書兼納品書が保管されていない
ケースが生じたと考えられる。
15
ており、その後の発注の事実は認められておらず、A 氏は、上記 G 氏の指摘を受け、a 社
に対する架空発注を終了したものと考えられる。
なお、A 氏は、a 社に対する架空発注を終了した理由について、2017 年に TSE の代表取
締役社長に就任し、2018 年 3 月には G 氏が代表取締役会長を退任することも決まってお
り、A 氏自身は TSE 全体を統括しなければならず、自ら装置 P の営業活動をするために中
国や台湾に出張することができなくなったため、営業活動費用を捻出する必要がなくな
り、a 社に対する架空発注を行う必要もなくなったからであると説明している 4。
(4) 期間
上記(1)及び(3)によれば、A 氏が、a 社に対して、実態のない業務を委託したように
装っていた期間は、2010 年 9 月から 2017 年 12 月 27 日まであったと認められる。
(5) A 氏の動機・関係者の認識
上記(1)記載のとおり、A 氏は、a 社に実態のない業務を委託したように装い、a 社から
キックバックを受けるようになったのは、中国や台湾に出張した際に、装置 P の潜在顧客
に対する接待等を行うための営業活動費用を捻出する必要があったためと述べている。営
業活動費用ならば、TSE に対して経費申請を行えば足りるはずであるが、A 氏は、経費申
請を行わなかった理由につき、経費申請手続を煩わしく感じ、2010 年当時、TSE が a 社を
介して外部の設計事務所への委託を行っていたことを奇貨として、振込先を A 氏自身に変
更させることにより、A 氏が必要とする時に、必要な資金を得るために、キックバックを
行わせるようになった旨述べている。ただし、上記(1)記載のとおり、キックバックを受
けていた銀行口座が、給与振込先口座にもなり、次第に営業活動費用と私的な費用の区別
が曖昧になっていたと考えられる。
A 氏は、上記キックバックについて、自ら発案したものであり、D 氏及び C 氏に対して
も、「製品を広げるための営業を、a 社を通じて TSE 外部の者に頼んでいる」などと説明し
ており、TSE が a 社に支払った委託代金の大部分が A 氏に環流しているという事実は TSE
関係者に伝えていないと述べている。
C 氏は、上記(2)記載のとおり、a 社に対して、発注処理の段階で、検収の押印を行った
請求書兼納品書を送付したり、発注処理と同時に検収処理を行ったりすることは、通常の
取引とは異なる処理であったことは認識していたが、EDGE 事業の責任者であった A 氏の指
4
ただし、TSE における A 氏の海外出張の記録上、2016 年度は 8 件、2017 年度は 11 件、2018 年度は
13 件となっており、A 氏が TSE の代表取締役社長に就任し、海外出張の件数が減少したとの事実ま
では認められなかった。
16
示には従わざるを得ないと思っており、疑問を抱くこともなく、A 氏の指示の理由や背景
までは把握しようとは考えなかったと述べている。
また、D 氏も、上記(3)記載のとおり、A 氏から口頭又はメールにて、G 氏への口裏合わ
せを指示されたことについて、自身が内容を全く把握していないにもかかわらず、見積書
を作成することや、G 氏への説明について口裏を合わせることには抵抗感があったもの
の、A 氏からは、a 社への発注は実態を伴うと説明を受けており、A 氏が a 社からキック
バックを受けていたとは思いもしなかったと述べている。
TSE のコントロールグループ 5の責任者である H 氏は、TSE では、月 10 万円を超える発
注は原則手形支払となっていた中で、100 万円を超える a 社に対する発注が現金支払と
なっていたことや、発注処理と検収処理が同時に行われることについて不自然に思い、C
氏にその理由を確認したものの、C 氏から、A 氏の指示であるとの回答を受け、EDGE 事業
の責任者である A 氏の判断で行われた処理について、その理由や背景まで把握しようと考
えなかったと述べている。なお、H 氏は、TSE の内部監査も行っていたが、内部監査手続
では、個々の発注について、発注金額と承認者の承認権限の範囲が合致しているか、ま
た、請求書兼納品書と社内システム上のデータの処理日付が合致しているかを確認し、問
題ないと判断していたと述べている。
また、当時、G 氏及び A 氏以外の取締役は、それぞれ EDGE 事業以外の事業を所管してお
り、業務上、A 氏が所管する EDGE 事業に関与する状況になかった。そして、上記(3)記載
のとおり、常勤監査役の E 氏が監査手続において a 社への発注に関する請求書兼納品書が
不足していることに気付き、同じく常勤監査役の F 氏に共有した後、F 氏が G 氏に確認
し、G 氏が A 氏に問い合わせている状況に照らせば、常勤監査役らも A 氏が a 社からキッ
クバックを受けていたことを認識していなかったと考えられる。このように、TSE の役員
らにおいて、A 氏が a 社に対する架空発注を行い、同社からキックバックを受けていたこ
とを認識していたとは認められなかった。
(6) 修正処理の概要
A 氏が、2010 年 9 月以降、a 社に対して実態のない業務を委託したかのように装い、TSE
から a 社に支払わせた業務委託費(外注加工費)は、TSE にとって何ら支払根拠を有さない
支出である。そのため、a 社から A 氏名義の銀行口座への振込原資となった外注費につい
ては、その金額を A 氏に対する貸付金として振替処理を行う必要があると考えられる。
また、当該貸付金については、A 氏の支払能力、財産状況等を勘案して、回収不能見込
額について貸倒引当金繰入額を計上する必要があると考えられる。これらの処理に係る修
5
コントロールグループは、TSE の経営企画、システム、経理、人事総務、内部監査を所管する部門
である。
17
正仕訳は以下のとおりである。
(外注費の貸付金への振替処理に係る修正仕訳)
貸付金 外注加工費
(貸付金の回収可能性に係る修正仕訳)
貸倒引当金繰入額 貸倒引当金
当委員会が算定した当該修正処理に係る損益影響金額は、以下のとおりである。
なお、A 氏に対する貸付金の回収可能性に関しては、A 氏から開示された銀行預金残高
状況等を勘案して、保守的に、貸付金全額につき回収不能と見積もることとした。
単位:百万円
項目 14/3 15/3 16/3 17/3 18/3 19/3 20/3 20/12 累計
以前※
外注加工費
61 6 3 26 16 - - - 112
貸倒引当金
繰入額 △ 61 △ 6 △ 3 △ 26 △ 16 - - - △ 112
計 - - - - - - - - -
※ 14/3 以前の修正額内訳
単位:百万円
項目 09/3 10/3 11/3 12/3 13/3 14/3 計
外注加工費
- - 10 22 16 14 61
貸倒引当金
繰入額 - - △ 10 △ 22 △ 16 △ 14 △ 61
計 - - - - - - -
4 売掛金回収偽装案件
(1) 売掛金回収偽装に至る経緯
2013 年から 2017 年 10 月にかけて、TSE は、東精台湾を通じて、c 社に対して、装置 P
を継続的に販売し、合計 71 台を販売したが、c 社からの支払は度々遅延しており、2018
年 10 月の時点で、2017 年 8 月から同年 10 月に販売した 23 台分の売掛金合計 4 億 6,000
18
万円が未回収となっていた 6。
2018 年 9 月、東京精密の会計監査人は、東京精密とともに、東精台湾に対する往査を行
い、c 社に対する売掛金が滞留していることを指摘した。
これを受けて、A 氏は、東京精密から、c 社に対する売掛金が 1 年以上滞留しているこ
とについて指摘を受け、東京精密の取締役会において状況を報告することとなった。
A 氏は、2018 年 10 月 10 日に行われた東京精密の取締役会において、c 社に対して販売
した装置 P 23 台分の売掛金 4 億 6,000 万円が滞留しており、2019 年 2 月までに 1 億
8,000 万円を、同年 8 月までに 2 億 8,000 万円を回収する見込みであることを報告し、承
認された。なお、A 氏は、同内容を、2018 年 10 月 11 日に行われた TSE の取締役会でも報
告し、承認された。
A 氏は、c 社に対して繰り返し未払代金の支払を求め、2019 年 1 月 30 日、c 社から東精
台湾に対して、装置 P 5 台分に相当する 1 億円が支払われたものの、回収を予定していた
1 億 8,000 万円のうち 8,000 万円については支払われなかった。A 氏は、c 社に対して繰り
返し支払を求める中で、c 社の代表者である I 氏から、上記 1 億円の支払が最後であり、
これ以上は支払うことができない旨を告げられ、これ以上は売掛金を回収することができ
ないと考えた。
また、A 氏は、I 氏に対して、未払代金を支払うことができないならば、代金未払分の
装置 P 18 台について TSE に返還するよう求めたが、I 氏から、18 台中 8 台については、
所在が不明であると告げられた。
そこで、A 氏は、I 氏と相談し、c 社が保有する装置 P の在庫 10 台を、I 氏が紹介した d
社を介して東精計量儀に売却し、その代金から、未払となっている装置 P 18 台分の 3 億
6,000 万円の代金を支払わせることとした。
6
売上計上後 1 年超の未回収の 5000 万円以上の売掛金については、長期滞留売掛金として東京精密取
締役会に付議することとされている。
19
(2) 具体的手法
ア 売掛金回収の概要
主な商流は下図のとおりである。
TSE
2019.2.27 1億円 (c社自己資金)
2018.10 2019.3.27 8,000万円
売掛金残高 2019.9.27 2億2,000万円
4億6,000万円(*) 計 4億円
A氏による
*2018.3に東精台湾がTSEに自己資金で6,000万円を支払済み(c社からは未回収)
購入・支払指示
東精台湾 東精計量儀
2019.3.18 9,000万円
2019.1.30 1億円 (c社自己資金) 2019.8.7 1,115万5,000円
2019.3.26 8,399万8,200円 2019.8.22 3,588万円
2019.9.10 2億7,999万8,270円 2019.8.28 2億7,498万円
計 4億6,399万6,470円 計 4億1,201万5,000円
c社(台湾) 装置P 10台 d社
イ 売掛金回収のための指示
2019 年 2 月、A 氏は、東精計量儀の総経理である J 氏、同社管理部長 7である K 氏、東
精台湾の董事兼専用機事業部マネージャーである L 氏及び A 氏による WeChat のチャット
グループを作成し、当該チャットグループにおけるチャット(以下「本件チャット」とい
う。)において、J 氏及び K 氏に対して、L 氏が d 社の窓口となるので、L 氏の指示に従っ
て、東精計量儀が d 社から装置 S 4 台を購入するよう指示をした。その後、本件チャット
において、A 氏は、K 氏及び L 氏に対して、「出金、入金を 3/25 までに実行が必要で
す。」、「装置 P 以外の型番で出荷し、問題が出たら、対策して」といったメッセージを送
信し、東精計量儀が 2019 年 3 月 25 日までに支払処理を行うこと、及び契約書や輸出関係
書類において「装置 P」以外の型番を用いること等を指示していた。
K 氏は、東精計量儀の董事長である A 氏からの上記指示を受け、L 氏から d 社作成の売
買契約書の送付を受けると、その内容を何ら変更することなく東精計量儀の押印を行い、
東精計量儀と d 社との間の売買契約を締結した。
東精計量儀と d 社との間の上記装置 S 4 台の売買契約の主な内容は以下のとおりである
7
東精計量儀の管理部は、人事、経理、通関業務等を所管している。
20
(品名) 装置 S
(単価) 2,250 万円
(数量) 4台
(合計) 9,000 万円
上記契約に基づき、2019 年 3 月 18 日、東精計量儀は、d 社に対して 9,000 万円を支払
い、同月 26 日、c 社から東精台湾に対して 8,399 万 8,200 円が支払われた。これを受け
て、同月 27 日、東精台湾は、TSE に対して 8,000 万円を支払った。
東精計量儀では、上記契約に記載の「装置 S」4 台を、2 台については展示機(固定資産)と
して計上し、残る 2 台を在庫として計上した。
その後、A 氏は、2019 年 8 月頃、TSE において経理事務を担当していた H 氏に対して、
装置 P であることを秘して、東精計量儀において「装置 R」6 台を d 社から仕入れて販売す
ると伝え、K 氏及び L 氏と連絡を取るように指示し、かかる指示を受け、H 氏は、K 氏及び
L 氏と連絡を取り、K 氏に対して、東精計量儀において「装置 R」6 台を d 社から購入する旨
の A 氏の指示を伝えた。
また、A 氏は、同時期に、本件チャットにおいて、装置 R 6 台に付随するものとして、
東精計量儀と d 社との間では、装置 R に関するソフトウェア等の購入を指示した。
K 氏は、2019 年 3 月の際と同様に、東精計量儀の董事長である A 氏からの上記指示を受
け、d 社から d 社作成の売買契約書の送付を受けると、その内容を何ら変更することなく
東精計量儀の押印を行い、東精計量儀と d 社との間の売買契約を締結した。
東精計量儀と d 社との間の上記装置 R 6 台の売買契約の主な内容は以下のとおりであ
る。
(内容) 装置 R
(単価) 4,583 万円
(数量) 6台
(合計) 2 億 7,498 万円
また、東精計量儀と d 社との間の上記装置 R に関するソフトウェア等の売買契約の主な
内容は以下のとおりである。
① 2019 年 8 月 1 日付け契約書
(内容) 装置 R 設計費
(価格) 1,115 万 5,000 円(1 セット)
② 2019 年 8 月 5 日付け契約書
(内容) CONTROL SOFTWARE FOR 装置 R
(価格) 1,564 万円(単価 782 万円 2 セット)
(内容) ANALYSIS SOFTWARE FOR 装置 R
(価格) 2,024 万円(単価 1,012 万円 2 セット)
(上記合計価格:3,588 万円)
21
上記各契約に基づき、東精計量儀は、d 社に対して、2019 年 8 月 7 日に 1,115 万 5,000
円、同月 22 日に 3,588 万円、同月 28 日に 2 億 7,498 万円の合計 3 億 2,201 万 5,000 円を
支払った。そして、2019 年 9 月 10 日、c 社から東精台湾に対して 2 億 7,999 万 8,270 円
が支払われた。これを受けて、同月 27 日、東精台湾から TSE に対して 2 億 2,000 万円が
支払われた。
なお、上記のとおり、上記の装置 S 4 台の売買契約による c 社に対する 8,000 万円の売
掛金の回収後、c 社に対する売掛金の滞留額は 2 億 8,000 万円となっていたが、2018 年 3
月の時点で、東精台湾が TSE に対して、自己資金を用いて 6,000 万円の支払を行っていた
ため、2019 年 9 月 27 日の東精台湾から TSE への支払額は 2 億 2,000 万円となった。
東精計量儀では、上記契約に記載の「装置 R」6 台を在庫として計上するとともに、「装置
R 設計費」、「CONTROL SOFTWARE FOR 装置 R」、「ANALYSIS SOFTWARE FOR 装置 R」をそれぞれ
無形固定資産として計上した。
ウ 売掛金回収スキームの策定経緯等
上記イ記載の売掛金回収のために締結した各契約の内容は、A 氏が、c 社に対する売掛
金を回収するため、売掛金残高 3 億 6,000 万円に、c 社と東精計量儀の間に入った d 社へ
の手数料(契約金額の約 10%)を加味して金額を決定したものであった。
また、上記イ記載のとおり、A 氏は、K 氏や L 氏に対して、「装置 P 以外の型番」を用い
るよう指示しており、各契約書上も装置 P とは異なる商品名が用いられている。この点に
ついて、A 氏は、装置 P という名称を用いることは避けたいと考えていたと述べており、
東精台湾を通じて c 社に販売した装置 P が、c 社から TSE の子会社である東精計量儀に販
売されたという事実が明らかになることを避けるために、「装置 S」や「装置 R」といった名
称を用いていたものと考えられる。
(3) 装置 P の売上計上時期について
本調査において売掛金回収偽装案件について関連資料の精査を進める中で、以下のとお
り、装置 P の売上計上時期に関する問題も発覚した。
TSE では、売上の計上は原則として出荷基準が採用されているが、納入作業が必要とな
る装置については、設置基準が採用されており、面取り機や装置 P のように、納入作業が
必要となる装置は、設置が完了した時点で売上を計上することとなっている。
本調査の過程で、2015 年 6 月に売上が計上された装置 P 1 台について、2015 年 6 月 29
日付けの設置完了報告書に基づいて売上が計上されていたが、輸出記録上は、2015 年 7 月
2 日に台湾に向けて船積みされていたことが確認された。
本調査の結果、2015 年 6 月 29 日付けの設置完了報告書は、装置 P 5 台分について作成
22
されていたが、2015 年 6 月に売上が計上された装置 P は 1 台のみであり、残る 4 台はいず
れも 2015 年 7 月に売上が計上されていたことが確認された。輸出書類上は、これら 5 台
全てが 2015 年 7 月 2 日に台湾に向けて船積みされており、4 台については、売上の計上時
期と輸出書類との齟齬は認められなかった。
上記 2015 年 6 月 29 日付けの設置完了報告書(装置 P 5 台分)については、装置 P の納品
や設置を担当していた M 氏は、2015 年 6 月における売上が伸び悩んでいたため、同月の売
上に計上するために設置完了報告書が必要であるとの理由で、C 氏から要望を受けたた
め、c 社に依頼して、設置完了前の時点で、設置完了報告書に I 氏の署名をもらったと記
憶している旨述べている。
なお、上記のとおり、2015 年 6 月に売上が計上されたのは 1 台分のみであり、残る 4 台
分について、2015 年 6 月の設置完了報告書が作成されながら、同年 7 月に売上が計上され
た理由については、客観資料上明らかではなく、TSE 関係者はいずれも記憶にないと述べ
ている。
上記 5 台以外には、設置完了報告書と輸出記録との齟齬や、設置完了報告書と売上計上
時期の齟齬は確認されていない。
(4) A 氏の動機・関係者の認識
A 氏は、東精計量儀に装置 P を買い取らせることにより、c 社に対する売掛金回収を
装ったことについて、c 社からの回収が見込まれなくなった段階で、東京精密や TSE に対
して、回収できなくなったことを報告すれば良かったが、冷静さを欠いており、自身の体
面を考え、正直に報告することができなかったと述べている。そして、売掛金回収偽装の
スキームそのものは、上記(2)ウ記載のとおり、A 氏が、c 社に対する売掛金残高をもとに
決定したものの、個別の手続や契約内容については、L 氏や K 氏に任せていた旨述べてい
る。
東精台湾の L 氏は、A 氏から、TSE が東精台湾を通じて c 社に売却した装置 P を、d 社を
介して、東精計量儀が購入することについて、d 社と東精計量儀の間に入って調整するよ
う指示されていたため、このスキームが、TSE 及び東精台湾において未回収となっている
c 社に対する売掛金を回収したかのように偽装するためのものであることは認識していた
旨述べ、TSE の代表者である A 氏の指示に従った旨述べている。
東精計量儀の J 氏は、2019 年 3 月の装置 P 4 台の購入については、装置 S を購入するも
のと認識しており、A 氏から購入の提案を受け、東精計量儀として新たな製品の技術研究
や販売用として購入しても良いと考えたものの、具体的な購入手続は K 氏に任せており、
契約書上の製品名等までは把握していなかったと述べている。また、2019 年 8 月の装置 P
6 台の購入については、装置 R を購入するものと認識しており、東精計量儀の董事長であ
る A 氏の指示のとおりに購入したものであり、購入理由等は把握していなかったと述べて
23
いる。
東精計量儀の K 氏は、同社の董事長である A 氏からの指示を受けて売買契約の締結のた
めの事務手続や代金支払を行ったものであり、会社の戦略として特別に行うものであると
いう程度の認識しか有しておらず、購入理由等は把握していなかったと述べている。
一方、TSE において、c 社に対する売掛金が長期滞留していたことを認識していた C 氏
や D 氏は、回収に時間を要したものの、c 社から回収することができたと認識しており、
売掛金の回収を装うために東精計量儀に装置 P を買い取らせていた事実は把握していな
かったと述べており、かかる供述に反する客観証拠は確認されなかった。
TSE の経理責任者であった H 氏は、子会社から月次の売上資料等の報告を受ける中で、
2019 年 3 月に、東精計量儀が 4 台の「装置 S」を購入し、在庫残高が増加したことは認識し
ていたものの、装置 P であるとは認識していなかったと述べ、また、2019 年 8 月の装置 P
6 台の売却についても、A 氏から「装置 R を d 社から東精計量儀が購入する」と連絡を受け
ており、装置 P であるとは認識していなかったと述べており、かかる供述に反する客観証
拠は確認されなかった。
常勤監査役の E 氏は、c 社に対する売掛金については、回収に時間を要したものの、結
果的に c 社から回収することができたと認識していたと述べ、また、東精計量儀へ往査し
たのも 2015 年 4 月であり、不審に思うようなきっかけも特段なかったと述べている。
(5) 修正処理の概要
ア 売却金回収偽装案件の修正処理の概要
売却金回収偽装案件においては、TSE から東精台湾を通じた c 社に対する装置 P の販売
に関する会計処理、及び最終的に装置 P を購入した東精計量儀における当該購入に関する
会計処理等が問題となり得る。具体的には以下の処理が対象となる。
① 東精計量儀による装置 P の購入に伴う TSE における売上取消処理(返品処理)及び
それに伴う棚卸資産関連損失処理
② 東精計量儀において固定資産計上された装置 P 等の取消処理
③ 売却金回収偽装案件に伴って東京精密グループ外に流出した資金の取消・損失処
理
イ 売上取消処理(返品処理)及び棚卸資産関連損失処理
上記(2)記載のとおり、A 氏は、c 社から装置 P についての売掛金を回収できなくなった
ために、東精計量儀をして、c 社に販売した装置 P を購入させ、売掛金の回収を装ったも
のであり、その経済的実態は、TSE が c 社から装置 P の返品を受けたに等しいと考えられ
24
る。そのため、TSE において、売上高の取消処理(返品処理)を行う必要があると考えられ
る。上記返品処理に係る修正仕訳は以下のとおりである。
(売上高取消に係る修正仕訳)
売上高 売掛金
(売上原価取消に係る修正仕訳)
棚卸資産 売上原価
上記返品処理の対象となった装置 P については、2018 年 2 月時点において、c 社以外へ
の販路拡大が困難な状況が継続しており、販売見込みが立たない在庫の廃棄を開始してい
たことから、上記返品処理が行われた 2019 年時点において、既に他社への転売が困難な
状況にあったと考えられる。そのため、上記返品処理時点において正味売却価額をゼロと
して評価損を計上する必要があると考えられる。
また、上記(1)記載のとおり、売掛金が未回収となっていた 18 台の装置 P のうち、所在
不明とされた 8 台についても、上記返品処理が行われた 2018 年 3 月期に、棚卸資産減耗
として損失計上する必要があると考えられる。これらの処理に係る修正仕訳は以下のとお
りである。
(棚卸資産評価減に係る修正仕訳)
棚卸資産評価損 棚卸資産
(棚卸資産減耗に係る修正仕訳)
棚卸資産減耗損 棚卸資産
以上に加え、TSE では、2019 年 3 月期及び 2020 年 3 月期に、装置 P の在庫について廃
棄処理を実施し、廃棄損を計上しているが、上記のとおり、上記返品処理時点において、
簿価全額について評価損を計上すべきことに照らせば、2019 年 3 月期以降の廃棄損の取消
処理を行った上で、2018 年 3 月期に前倒しで評価損を計上する必要があると考えられる。
当該処理に係る修正仕訳は下記のとおりである。
(棚卸資産廃棄損に係る修正仕訳)
棚卸資産 棚卸資産廃棄損
(棚卸資産評価減に係る修正仕訳)
棚卸資産評価損 棚卸資産
当委員会が算定した当該修正処理に係る損益影響金額は、以下のとおりである。
25
単位:百万円
項目 14/3 15/3 16/3 17/3 18/3 19/3 20/3 20/12 累計
以前
売上高取消
- - - - △ 360 - - - △ 360
売上原価取消
- - - - 254 - - - 254
棚卸資産評価損
(売上原価) - - - - △ 239 - - - △ 239
棚卸資産減耗損
(売上原価) - - - - △ 108 - - - △ 108
棚卸資産廃棄損
(売上原価) - - - - - 82 12 - 94
計 - - - - △ 454 82 12 - △ 360
ウ 東精計量儀において固定資産として計上された装置 P 等の取消処理等
上記(2)イ記載のとおり、東精計量儀は、d 社から購入した 10 台の装置 P のうち 2 台
を、展示機として固定資産(機械装置)に計上し、減価償却を行っていた。
また、上記(2)イ記載のとおり、東精計量儀から d 社に対して支払われた金額の一部
(4,900 万円)が、ソフトウェア等の対価とされていたため、東精計量儀は、当該金額を無
形固定資産(ソフトウェア)として処理し、展示機同様、減価償却を実施していた。
これらの装置 P 等の固定資産計上処理及び減価償却処理について取消修正を行う必要が
あると考えられる。修正仕訳は以下のとおりである。
(固定資産振替計上に係る修正仕訳)
棚卸資産 機械装置
ソフトウェア
(減価償却に係る修正仕訳)
機械装置 減価償却費
ソフトウェア
当委員会が算定した当該修正処理に係る損益影響金額は、以下のとおりである。
単位:百万円
項目 14/3 15/3 16/3 17/3 18/3 19/3 20/3 20/12 累計
以前
減価償却費
- - - - - - 8 15 23
26
エ 売却金回収偽装案件に伴って東京精密グループ外に流出した資金の取消・損失処理
上記イ記載のとおり、東精計量儀による 10 台の装置 P の購入の経済的実態は、TSE が c
社から装置 P の返品を受けたに等しいものであり、かかる返品に関して行われた資金取引
についても実態に応じて修正する必要がある。具体的には、東精計量儀から d 社に対して
支払われた装置 P の購入代金全額について仮払金への振替処理を行うとともに、TSE にお
いて c 社から支払を受けたとして処理された装置 P 18 台分の代金全額について仮受金へ
の振替処理を行う必要があると考えられる。
東京精密の連結財務諸表上、これらの仮払金及び仮受金は相殺消去されることになる
が、両者の差額、すなわち d 社が受領した取引マージンについては、返品処理時の棚卸資
産の取得価額に含め、上記イ記載の売上取消処理(返品処理)及び棚卸資産関連損失処理同
様に、全額評価損を計上する必要があると考えられる。
これらの処理に係る修正仕訳は以下のとおりとなる。
(支払金額の振替処理に係る修正仕訳)
仮払金 棚卸資産
(売上原価取消に係る修正仕訳)
売掛金 仮受金
(仮払金・仮受金の相殺消去に係る修正仕訳)
仮受金 仮払金
棚卸資産評価損
当委員会が算定した当該修正処理に係る損益影響金額は、以下のとおりである。
単位:百万円
項目 14/3 15/3 16/3 17/3 18/3 19/3 20/3 20/12 累計
以前
棚卸資産評価損
(売上原価) - - - - - △ 8 △ 60 ※4 △ 64
※ 2020 年 12 月期の影響金額は為替換算差額によるもの
5 経費付け替え案件
(1) b 社への業務委託
TSE は、2018 年 11 月から 2021 年 1 月にかけて、b 社に対して、技術委託料等を毎月支
払っていた。
27
これらの b 社への支払は、中国において装置 P を販売するために、A 氏が b 社の代表者
である N 氏に対して、中国市場のマーケティングや翻訳業務等を委託したことによるもの
であった。現に N 氏は、A 氏からの指示を受け、東精計量儀を訪問し、上記 4 の売掛金回
収偽装案件において東精計量儀が 2019 年 3 月に購入した装置 P を確認していた。
A 氏としては、中国における装置 P の販売は、TSE 自身ではなく、東精計量儀にて行う
ことを予定していたが、TSE のための業務と東精計量儀のための業務を区別することな
く、TSE から b 社に対して発注した業務であるとして、TSE から b 社に対して技術委託料
等を支払っていた。ただし、A 氏は、b 社への業務委託について、TSE においても、装置 P
の売上工番ではなく、売上金額が大きい面取り機の売上工番において処理させていた。
(2) 関係者の認識
b 社に対して業務を委託していた A 氏は、東精計量儀において装置 P を販売していくこ
とを検討していたものの、装置 P のメーカーが TSE であることから、東精計量儀が経費を
負担すべきであるとの認識に至っていなかったと述べている。
TSE の役職員は、b 社への業務指示は、A 氏が行っており、具体的な業務内容を把握して
おらず、東精計量儀のための業務だと認識していなかったと述べている。
また、東精計量儀の J 氏及び K 氏においても、A 氏による b 社への業務委託の内容を把
握しておらず、東精計量儀として経費の負担が必要であることを認識していなかったと述
べている。
(3) 修正処理の概要
上記(1)記載のとおり、中国における装置 P の販売は、TSE 自身ではなく、東精計量儀に
おいて行うことを予定していたことに照らせば、装置 P に関して b 社に対して支払われた
業務委託料(外注加工費)については、TSE から東精計量儀に費用の帰属主体を変更する必
要があると考えられる。
また、b 社から提供された役務の内容は、装置 P の販路開拓に係るものであり、外注加
工費から販売費に振替処理を行う必要があるものもある。これらの処理に係る修正仕訳は
以下のとおりである。
(外注費振替処理にかかる修正仕訳)
販売費(東精計量儀) 外注加工費(TSE)
当委員会が算定した当該修正処理に係る損益影響金額は、以下のとおりである。
28
単位:百万円
項目 14/3 15/3 16/3 17/3 18/3 19/3 20/3 20/12 累計
以前
外注加工費
(TSE) - - - - - 6 15 14 36
販売費
(東精計量儀) - - - - - △ 6 △ 15 △ 14 △ 36
計 - - - - - - - - -
6 類似案件(件外調査)
(1) 件外調査の概要
当委員会は、TSE 及び東京精密グループにおける本件と類似の事象の有無を確認するた
め、A 氏のメールデータについてのフォレンジック調査に加え、以下の調査を実施した。
① A 氏銀行預金等口座取引履歴の検証
② 外注先アンケート
③ TSE 社内アンケート
④ 東京精密子会社アンケート
(2) A 氏銀行預金等口座取引履歴の検証
ア 調査の範囲・方法
上記 3 記載の架空発注によるキックバック案件は、A 氏が、TSE の外注先に指示して、
TSE が外注先に支払った代金の大部分を A 氏自らの銀行口座に環流させていた案件であっ
たため、当委員会は、A 氏名義の銀行預金等の口座取引履歴を入手し、下記の分析・調査
を実施した。
① 給与及び a 社以外の、理由のない多額の入金についての確認
② 口座間の振替取引を突合することにより、A 氏から提出された銀行預金等の口座
情報の網羅性を検証
③ 主たる出金先情報から、資金使途推定のための基礎情報を整理・分析
イ 調査の結果
上記調査の結果、A 氏から提出された銀行預金等の口座情報は、A 氏が入出金に用いて
いたと考えられる口座を網羅していた。そして、これらの口座の履歴を見ても、給与、a
29
社以外に、理由のない多額の入金は認められなかった。また、資金使途についても、A 氏
の説明との齟齬は確認されなかった。
(3) 外注先アンケート
ア 調査の範囲・方法
上記 3 記載の架空発注によるキックバック案件は、A 氏が、TSE の外注先に対して、実
態のない業務を委託したかのように装って、TSE が外注先に対して現金支払の方法で支
払った代金の大部分を A 氏自らの銀行口座に環流させていた案件であったため、当委員会
は、TSE が、2011 年 3 月期から 2020 年 3 月期の間に、外注加工費として現金支払を行っ
た取引を抽出した上で、東京精密グループ等以外で、1,000 万円以上の現金支払が行われ
たことがあった外注先 49 社に対し、キックバック取引、架空取引その他の不適切な取引
に関するアンケート調査を実施した。
イ 調査の結果
外注先 49 社中、36 社からの回答を入手したが、キックバック取引等、本件に類似した
不適切な取引についての申告はなかった。
(4) TSE 社内アンケート
ア 調査の範囲・方法
当委員会は、本件と類似する不正行為の有無を広く確認するため、A 氏及び東京精密兼
務役員を除く TSE の課長以上の役職員 43 名に対し、キックバック取引、売掛金回収偽装
その他の不正な取引に関するアンケート調査を実施した。
イ 調査の結果
対象者全員から回答を入手したが、本件に関する申告以外に、本件に類似した不正な取
引についての申告はなかった。
30
(5) 東京精密子会社アンケート
ア 調査の範囲・方法
当委員会は、本件以外に、子会社による、又は子会社を利用した、本件と類似する不正
な行為の有無を広く確認するため、TSE、東精計量儀を除く東京精密子会社 30 社の代表
者、経理担当者合計 60 名(のべ人数)に対し、キックバック取引、売掛金回収偽装その他
の不正な取引に関するアンケート調査を実施した。
イ 調査の結果
対象者全員から回答を入手したが、本件に類似した不正な取引についての申告はなかっ
た。
第 4 財務報告に与えた影響
当委員会の調査によって判明した東京精密の連結財務諸表に与える影響総額は、以下の
とおりである。
単位:百万円
項目 14/3 15/3 16/3 17/3 18/3 19/3 20/3 20/12 累計
以前
売上高
- - - - △ 360 - - - △ 360
売上総利益
61 6 3 26 △ 438 80 △ 33 17 △ 276
営業利益
61 6 3 26 △ 438 74 △ 40 19 △ 288
経常利益
- - - - △ 454 74 △ 40 19 △ 401
税金等調整前当
期純利益 - - - - △ 454 74 △ 40 19 △ 401
純資産
- - - - △ 454 △ 380 △ 419 △ 401
第 5 原因背景
本件はいずれも、TSE において、長年 EDGE 事業部門の責任者を務めていた A 氏 1 人が発
案・実行した不正行為であり、A 氏のコンプライアンス意識の欠如が直接的な原因となっ
て発生した事案であることはいうまでもない。
もっとも、TSE においても、また親会社である東京精密においても、これらの不正行為
31
を発見・是正することができていなかったことにも問題があったと考えられる。本調査の
結果、その原因背景には、以下の点があると考えられる。
1 TSE 内における牽制機能の欠如
(1) 装置 P という特別案件によるブラックボックス化
上記第 3 記載のとおり、本件の不正行為はいずれも、「装置 P」という、EDGE 事業部門の
責任者であった A 氏が発案・主導した特別案件に関して行われたものであった。
TSE では、EDGE 事業部門の責任者であった A 氏発案の下、親会社にも詳細を説明するこ
となく、TSE 内の限られた関係者の中で装置 P の開発・製造・販売が進められ、EDGE 事業
部門の責任者である A 氏自らが、顧客に対する営業活動を行い、受注を獲得し、外注先へ
の発注も決定していた。その結果、装置 P については、A 氏が a 社や b 社といった外注先
に対して業務を発注するよう指示したことに関して、その具体的な業務内容を A 氏以外の
誰も把握しておらず、また、売掛金の回収のための c 社との交渉に関して、A 氏以外の誰
も、その正確な交渉内容を把握していなかった。このように、装置 P について、上場会社
の子会社であり、従業員数 580 名、売上高 154 億 1,300 万円(2020 年 3 月期)という規模の
会社としては、考え難いブラックボックスが生じていた。
(2) 強すぎるリーダーシップと暴走
上記(1)のようなブラックボックスが生じた背景として、TSE において、事業部門責任者
が発揮するリーダーシップが強くなりすぎた結果、A 氏の暴走を招いたことが窺われる。
A 氏は、TSE の EDGE 事業部門の責任者として、EDGE 事業部門の新たな事業展開のために
装置 P を開発した。A 氏が、EDGE 事業部門の責任者として、新たな事業展開を模索するた
めにリーダーシップを発揮することは、何ら否定されることではない。
しかし、A 氏は、親会社である東京精密に、新規製品の開発に関する申請を行うことも
なく、面取り機の一製品として、装置 P の開発・製造・販売を開始していた。一方で、
TSE の役職員の中には、親会社である東京精密に相談することもなく装置 P の開発・製
造・販売を進めることについて、A 氏に反対意見を伝えたところ、装置 P の業務から事実
上外されたと述べる者もいる。
このように、EDGE 事業部門における A 氏のリーダーシップは、親会社の関与も TSE 社内
からの意見も許さない、独りよがりなものとなってしまい、装置 P という A 氏の特別案件
がブラックボックス化してしまったと考えられる。またその裏返しとして、A 氏は、売掛
金が回収できないという窮地に陥っても、その実状を TSE にも東京精密にも打ち明けるこ
ともできなくなり、売掛金の回収を偽装するという不正に至ったと思われる。
32
(3) 事業部門責任者による行為を誰も検証しようとしない態勢
ア 役員らによる検証態勢の不足
上記第 3 の 3(3)記載のとおり、2018 年 1 月頃、TSE の常勤監査役の間で、a 社への発注
に関する請求書兼納品書が不足している事実が共有され、当時の代表取締役会長であった
G 氏にもかかる事実が共有されていた。そして、2018 年 2 月に、G 氏が A 氏に、a 社への
発注の不自然さを指摘し、結果的に、a 社に対する架空発注は終了し、状況は改善された。
しかし、常勤監査役及び G 氏のいずれにおいても、結局、a 社に対する発注の実態が何で
あったか、A 氏が何を行っていたかを検証するまでには至っていない。当時、TSE の代表
取締役社長であった A 氏による発注手続に関して、疑義を抱きながら、その疑義を検証し
なかったという点では、代表取締役社長に対する牽制機能が不十分であったと言わざるを
得ない。
また、TSE では、各取締役が、それぞれ事業部門や間接部門を所管しており、EDGE 事業
部門は A 氏が所管していた。そのため、A 氏以外の取締役は、EDGE 事業部門に関して A 氏
が行っていた個々の発注内容まで知るべき立場にはなかったといえるが、「所管する事業
部門以外の事項については担当外」という無関心さがあり、本件に繋がった可能性もある
と思われる。
イ 間接部門による検証態勢の不足
上記第 3 の 3(5)記載のとおり、TSE の経理・内部監査を担うコントロールグループは、
a 社への発注について、発注処理と同時に検収処理を行うという、通常の取引とは異なる
処理であったことを認識しながら、「事業部門責任者の指示である」との理由だけで、それ
以上の発注実態について何ら検証しようとしていなかった。コントロールグループのよう
な間接部門は、通常案件そのものに関与する立場にはないが、だからこそ、通常の取引と
異なる処理が行われる等、異常事態を察知した場合には、第三者としての立場から、その
内容を検証したり、他の役職員に相談・報告する等の対応が求められる。それにもかかわ
らず、EDGE 事業部門の責任者であった A 氏の指示であるというだけで、その内容を検証し
ようとしていなかった。
このように、TSE の間接部門において、「事業部門責任者の行為」について、独自の立場
で検証を行うという意識が不足していたことは否めない。
33
2 東京精密における子会社管理の不十分さ
TSE は、東京精密グループの中で格段に大きな子会社であり 8、2001 年から 2005 年にか
けては、東京証券取引所市場第二部に上場していた実績もあり、また、2014 年以降、東京
精密グループの中で唯一、異なるメールサーバを導入し、グループ内でも独自のシステム
を用いるなど、他の子会社と比較して、その独立性が高い子会社であった。
上記第 2 の 1(2)記載のとおり、東京精密では、TSE についても他の子会社と同様に、監
査室による内部監査、及び経営支援室による管理等が行われていたことは認められるもの
の、TSE の独立性が高かったことや、現に、TSE 内において上記 1 記載のブラックボック
スが生じていたことを何ら把握していなかったことに照らせば、その深度が不十分であっ
たことは否めない。
例えば、上記 1(3)記載のとおり、過去、TSE の常勤監査役やコントロールグループは、
A 氏による a 社への発注が不自然であることを認識していたが、東京精密の監査役や監査
室において TSE から相談・情報共有を受ける体制があれば、その当時に A 氏による架空発
注・キックバックの事実を認識することができた可能性がある。
また、東京精密では、TSE の子会社の監査は TSE に委ねており、東精台湾に対する監査
を直接行っていなかった。そのため、上記第 3 の 4(1)記載のとおり、2018 年 9 月の東京
精密の会計監査人による東精台湾に対する往査をきっかけとして 9、c 社に対する売掛金の
滞留が認識されるに至ったものの、それ以前においては、c 社に対する売掛金が度々滞留
していたことや、東精台湾の事業規模に照らすと売掛金の滞留額が非常に大きくなってい
ることを把握するに至っていなかった。
これらに照らすと、東京精密では、TSE という独立性の強い子会社に対して、一歩踏み
込んだ形での子会社管理を行うことができていなかったと言わざるを得ない。
3 TSE 及び TSE 子会社役職員のコンプライアンス意識の乏しさ
上記第 3 の 3(5)記載のとおり、a 社への発注について、生産管理グループの C 氏は、発
注処理と同時に検収処理を行うことは、通常の取引とは異なる処理であったことは認識し
ながらも、EDGE 事業部門の責任者であった A 氏の指示に盲目的に従っている。また、EDGE
事業部門の技術グループの D 氏も、2018 年 2 月当時、a 社への発注について、G 氏への説
8
TSE の 2020 年 3 月期の売上高は 154 億円、経常利益 34 億円、純利益 23 億円と、東京精密単体の 2
割を超える経営成績を有している。
9
当時、東京精密の会計監査人が、東京精密の子会社である ACCRETECH TAIWAN CO., LTD への往査を
行う際に、同じく台湾に所在する東精台湾に対する往査も行ったものであった。
34
明に際して口裏合わせを指示されたことについて、抵抗感があったと述べながらも、誰か
に相談したりすることまではしていない。
また、上記第 3 の 4(4)記載のとおり、東精台湾の L 氏は、装置 P を東精計量儀に買い取
らせることが、TSE 及び東精台湾において未回収となっている c 社に対する売掛金を回収
したかのように偽装するためのスキームであると認識しながら、TSE の代表者である A 氏
の指示に従っている。東精計量儀の J 氏及び K 氏は、そのスキームまで認識していたとは
認められなかったものの、東精計量儀として、合計約 4 億円以上の支払となるにもかかわ
らず、東精計量儀の董事長である A 氏の指示を受けて、その理由を確認することもなく、
購入手続を行っている。
この点、TSE 独自の内部通報制度は設けられていないが、東京精密が、東京精密グルー
プ全体に対する内部通報制度を設けているところ、上記のような点や本件について内部通
報がなされた事実は確認されなかった。
これら TSE 及び TSE 子会社の役職員のヒアリング結果によれば、上記の A 氏の指示につ
いて、A 氏に対する恐怖から誰かに相談等を行うことができなかったというよりも、EDGE
事業部門の責任者の指示にただ従えばよいと考えており、誰かに相談等する必要性すら感
じていなかったことが窺われた。このように、TSE 及び TSE 子会社の役職員が、自分の関
与している行為が正しいことであるか否かを考えることなく、A 氏の指示に盲目的に従っ
ていたことは否めず、その限りにおいて、コンプライアンス意識が乏しかったと言わざる
を得ない。
第 6 再発防止策の提言
1 TSE 内における牽制機能の強化
(1) 事業部門の垣根を越えた意見交換等
上記第 5 の 1(1)及び(2)記載のとおり、TSE の EDGE 事業部門では、A 氏のリーダーシッ
プが強くなりすぎ、装置 P というブラックボックスを生み出しており、かかる状況を他の
事業部門の所管取締役や所属従業員は何ら認識していなかった。他の事業部門の所管取締
役や所属従業員において、少なくとも、「事業部門責任者による特別案件」が存在している
ということが認識されていれば、なぜそのような特別案件が存在しているのか、特別案件
において何が行われていたかということについて、TSE 内で問題提起されることもあり得
たはずであるが、TSE では、事業部門間の縦割り意識が強く、他の事業部門の状況を把握
していなかったと考えられる。
35
今後は、事業部門の垣根を越え、事業部門間での意見交換会や役員と従業員との意見交
換会を行うなどして、他の事業部門の状況にも自然と目が向けられ、問題提起が行われる
環境を構築することが望ましい。
(2) 間接部門の拡充
上記第 5 の 1(3)イ記載のとおり、TSE の間接部門において、「事業部門責任者の行為」に
ついて、独自の立場で検証を行うという意識が不足していたことは否めない。
しかし、意識以前の問題として、TSE では、コントロールグループが、経営企画、シス
テム、経理、人事総務及び内部監査という多数の業務を所管している状況の中で、2018 年
から 2019 年当時、コントロールグループの人員は、H 氏を加えて 4~6 名の TSE 社員と 4
名の契約社員のみであり、人員体制として十分であったとはいえず、かかる体制において
は、業務の過程で発見した問題全てを独自の立場で検証するよう求めることは現実的では
ない。
コントロールグループのような間接部門が、業務の過程で発見した問題について、独自
の立場で十分な検証を行うことを可能にするためにも、間接部門に対して十分な人員を配
置することが必要である。
2 東京精密による子会社管理の強化
上記第 5 の 2 記載のとおり、東京精密では、TSE 内においてブラックボックスが生じて
いたことを把握できていなかったという点で、子会社管理の深度が不十分であったことは
否めない。
この点、規模の大きな子会社については、子会社の自主性に任せた方が、事業がより良
い形となる場合も多く、全ての子会社について、親会社が逐一管理することは必ずしも現
実的ではない。もっとも、子会社の自主性に任せるという選択は、子会社における内部統
制が機能していることを前提とするものである。TSE と東京精密との人員の交流を図る等、
TSE の内部統制の実態を把握する仕組みを構築し、実態に応じた子会社管理体制をとるこ
とができるようにする必要がある。
また、TSE の子会社についても、TSE にその管理を全て委ねるのではなく、東京精密と
して内部監査を行う等、必要に応じて TSE のフィルターを経ることなく検証することが可
能な体制を構築しておくことが望ましい。
36
3 TSE 及び TSE 子会社役職員に対するコンプライアンス教育
上記第 5 の 3 記載のとおり、TSE 及び TSE 子会社の役職員は、自分の関与している行為
が正しいことであるか否かを考えることなく、A 氏の指示に盲目的に従っていたことは否
めず、その限りにおいて、コンプライアンス意識が乏しかったと言わざるを得ない。
TSE 及びその子会社の役職員が、上場会社である東京精密グループの一員として、コン
プライアンス上の疑念を抱いた場合には、上司や親会社に相談・報告する、内部通報制度
を活用するといった行為を選択するよう、役職員に対する基本的なコンプライアンス教育
を今一度行うことが必要である。
以 上
37