7610 J-テイツー 2019-09-11 16:00:00
分配可能額を超えた自己株式取得に関する調査結果のお知らせ [pdf]

                                                 2019 年 9 月 11 日
各 位
                       会 社 名      株 式 会 社 テ イ ツ ー
                       代 表 者 名    代 表 取 締 役 社 長 藤原 克治
                                  (JASDAQコード:7610)
                       問い合せ先      取 締 役 管 理 部 長 青野 友弘
                       電 話 番 号    048-933-3070


         分配可能額を超えた自己株式取得に関する調査結果のお知らせ


 当社は、2019 年 8 月 2 日付「分配可能額を超えた自己株式取得に関する調査委員会設置
完了のお知らせ」で公表いたしましたとおり、2019 年 4 月 23 日の取締役会において会社法
及び会社計算規則により算定される分配可能額を超える自己株式の取得を決議し、翌日こ
れを実施したことに関し、原因の解明等のため、社外の弁護士等外部委員のみで構成する
調査委員会を設置し、本件の調査を委嘱しておりましたが、このたび調査報告書を受領し、
本日開催の取締役会において関係者に対する処分について決議しましたので、調査報告書、
処分内容及び再発防止策を、下記のとおりお知らせいたします。


                           記


1.本件の経緯
  当社は、2019 年 4 月 23 日付「自己株式の取得及び自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)
 による自己株式の買付けに関するお知らせ」により、同日付取締役会において、同日の
 当社株価終値 42 円で、2019 年 4 月 24 日午前 8 時 45 分の東京証券取引所の自己株式立会
 外買付取引 ToSTNeT-3 において 50 万株の買付けの委託を行う決議をしたことをお知ら
 せし、2019 年 4 月 24 日に 50 万株、総額 2,100 万円を取得しました。
  しかしながら、今般第 1 四半期決算公表後の再確認の過程において、会社法および会
 社計算規則により算定した分配可能額を超えて自己株式を取得していたことが判明いた
 しました。
  本件について、その原因の解明と今後の対応並びに再発防止に向けた方針を調査・検
 討するため、2019 年 7 月 26 日開催の取締役会において、社外の弁護士等外部委員のみで
 構成する調査委員会を設置して本件の調査を委嘱する方針のもと調査準備を早急に進め
 ることを決議し、2019 年 8 月 2 日付で社外の弁護士等外部委員のみで構成する 3 名から
 なる調査委員会を設置して本件の調査を進めてまいりました。


2.調査の方法
  次の 3 名で構成される調査委員会は、本調査において関係者に対してヒアリングを実


                            1
 施するとともに、公開されている当社の過去の決算書により分配可能額の変遷を確認し、
 当社及びヒアリング対象者から各種関係資料を入手して、その内容の精査と検討により、
 原因究明を進め、関係者の責任を明確化し、再発防止策の提言を実施いたしました。
   委員長 原田 芳衣(弁護士法人キャスト 弁護士)
   委 員 河田 好平(弁護士法人キャスト 弁護士・公認不正検査士)
   委 員 川手 典子(キャストコンサルティング株式会社 公認会計士・税理士)


3.調査報告書の概要
  調査報告書の概要は次のとおりです。なお、調査報告書については、別添「2019 年
 9 月 6 日付 調査報告書」をご参照ください。
 (1) 当社の基礎的な状況の確認及び本件の背景事情
   組織・人員体制の移り変わり、現在の規程の整備状況、業務プロセス等当社の過
  年度の変遷と現況の確認が行われ、業容縮小に伴う体制面の脆弱さが見受けられる
  こと、業務の一部にプロセスが明確化されていない事項があり規定化されていない
  ことなどが本件事案の背景事情にあることが指摘されました。
 (2) 分配可能額の推移と近年の自己株式取得状況
   本件の核心である分配可能額の推移の概要と本件より前の自己株式の取得状況を
  時系列でたどったところ、本件と本件より前に自己株式を取得した時期との間に時
  間的な開きがあり、実務の蓄積がなされなかったことが指摘されました。
 (3) 本件自己株式取得の経緯と各役員の認識
   本件自己株式取得に至った経緯の詳細とその実務手続きにおいてどういった点に
  漏れがあったのかが明らかにされ、各役員が本件と本件に係る法的理解をどのよう
  にしていたのかを調査したところ、各役員に法律の知識及び理解が不足しているこ
  とが指摘されました。
 (4) 原因の分析
   原因としてまず各役員の知識不足があげられ、また手続き面でも各プロセスにあ
  いまいさがあり明確に規定されていなかったことなどが記述され、背景事情として
  の体制面の不備や外部専門家等のリソースが有効に活用されなかったことが指摘さ
  れています。
 (5) 関係者の責任
   本件に関与した取締役及び当時の監査役については、全員任務を怠らなかったと
  は言えないとして、本件関係者の責任について言及されております。
 (6) 再発防止策
   再発防止策については、知識面、手続き整備面、組織・人員体制面、外部専門家
  の活用面から提言をいただいております。




                       2
4.本件に関する処分
  本件に関する責任の所在を明らかにするため、本件自己株式取得議案を提案した取締
 役及び代表取締役社長について、2019 年 9 月の報酬を 20%減額する処分を実施します。
 それ以外の本件決議に賛成した取締役について、2019 年 9 月の報酬を 10%減額する処分
 を実施します。
  また、本件決議に当たって異議を述べなかった監査等委員である取締役(当時の監査
 役)からは、2019 年 9 月の報酬を 10%減額する処分を実施します。
  なお、
    2019 年 5 月 30 日をもってすでに退任している本件決議に賛成した取締役からは、
 上記報酬の 10%減額処分に相当する金額を自主返還するとの申し出を受けております。


5.再発防止策
  調査報告書の提言に沿って、主として次の点を整備し、再発防止に努めます。
  ・役員あるいは役員候補者が会社法をはじめとする経営上必要となる知識の獲得と
   その更新を行えるように、社外の研修会へ参加させたり社内での勉強会を開催し
   たり、知識レベルの向上を図ります
  ・本件調査で明らかになった社内手続きが明確に規定されていない事項については、
   各種規程の見直しをかけて整備し、手続きを明確化します。
  ・管理部門の体制強化を意図して、法務に関する専門性を有した人材の育成に努め
   ます。
  ・外部ブレーンを適宜有効に活用するために、相談の基準を設けて明確にする等判
   断が属人化しないように手続きを整備します。


6.今後の見通し
  当社は本件を重く受け止め、上記再発防止策の具体化を実施するとともに、適切な管
 理体制の構築に努めてまいりますので、ご理解の程よろしくお願い申し上げます。
  なお、2020 年 2 月期の業績予想に与える影響はありません。


                                         以   上




                        3
                                  2019 年 9 月 6 日

株式会社テイツー   御中




       調        査   報    告    書
                (公表版)




                    調査委員会

                    弁   護    士    原 田 芳 衣



                    弁護士・公認不正検査士   河 田 好 平



                    公認会計士・税理士     川 手 典 子


                    0
第1章   本調査の概要

第1 調査委員会設置の経緯と概要
  株式会社テイツー(以下「テイツー社」という。      )は、2019 年 4 月 23 日開
催の取締役会において、当日の株価終値で、同月 24 日午前 8 時 45 分の東京証
券取引所の自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)において自己株式 50 万株
の買い付け委託を行うことを決議し、同月 24 日に自己株式 50 万株を総額
2100 万円で取得した(以下、当該取締役会を「本件取締役会」       、当該自己株式
取得の議案を「本件自己株式取得議案」       、当該自己株式の取得を「本件自己株
式取得」という。。その後、2020 年 2 月期第 1 四半期の決算短信を公表した
          )
日の翌日である 2019 年 7 月 17 日、テイツー社の会計監査人である甲監査法人
からの指摘により、テイツー社は会社法及び会社計算規則の定めに基づいて算
定される分配可能額がないにもかかわらず本件自己株式取得を行っていたこと
が判明した。
  これを受けて、テイツー社は、2019 年 8 月 2 日、分配可能額を超過した本
件自己株式取得が発生した原因の究明及び再発防止策の策定のため、下記の外
部委員のみから構成される調査委員会を設置した(以下、当該調査委員会を
「当委員会」といい、当委員会による調査を「本調査」という。。         )
    委員長 原田 芳衣 (弁護士法人キャスト 弁護士)
    委員   河田 好平 (弁護士法人キャスト 弁護士・公認不正検査士)
    委員   川手 典子 (キャストコンサルティング株式会社 公認会計士・税理士)

 当委員会は、宮武 篤司(弁護士法人キャスト 弁護士)を調査補助者とし
て選任し、本調査の補佐をさせた。

 当委員会の委員長は、2010 年 6 月まで、旧所属事務所とテイツー社との間
で締結されていた法律顧問契約に基づき、テイツー社に対し業務の提供を行っ
ていたことはあるものの、2010 年 7 月以降、本調査の受嘱までの間、テイツ
ー社との間で契約の締結をしたこと、又は業務の依頼を受けたことはなく、テ
イツー社から客観的かつ実質的に独立しており、本調査の受嘱にあたり、テイ
ツー社との間で利害関係を有しない。また、他の委員及び調査補助者は、いず
れもテイツー社との間で利害関係を有しない。

第2 本調査の目的
 テイツー社による当委員会の委嘱事項は、次のとおりである。
①分配可能額を超過した本件自己株式取得が行われた原因の究明

                        1
②本調査結果を踏まえた再発防止策の提言
③本件自己株式取得の意思決定に関与した役員の責任の検討

第3 本調査の期間
 当委員会は、2019 年 8 月 2 日から同年 9 月 6 日までの期間、本調査を実施
した。

第4 本調査の方法
 当委員会は、本調査において以下の者に対してヒアリングを実施した。な
お、役職は、本件取締役会当時のものである。

      氏名                   所属・役職等
 A氏        テイツー社 代表取締役社長
 B氏        同社 取締役 管理部長兼チーフ・コンプライアンス・オフィサー
 C氏        同社 取締役 店舗運営部長
 D氏        同社 取締役
 E氏        同社 取締役
 F氏        同社 常勤監査役
 G氏        同社 監査役
 H氏        同社 監査役
 I氏        同社 管理部経理グループ長
 J氏        テイツー社 会計監査人 甲監査法人パートナー
 K氏        甲監査法人 マネージャー
 L氏        テイツー社 主幹事証券会社 乙証券会社 元担当者
 M氏        乙証券会社 担当者
 N氏        テイツー社 取引先兼株主     丙社 従業員


 また、当委員会は、公開されているテイツー社の過去の決算書により同社の
分配可能額の変遷を確認するとともに、当委員会が必要と認める範囲でテイツ
ー社から次の資料を含む各種関係資料を入手し、また、ヒアリング対象者から
も関係資料を個別に入手し、その内容を検討した。
・ 本件自己株式取得及び 2007 年以降にテイツー社が実施した自己株式の取得
  に係る取締役会議事録
・ 本件取締役会の決議前 3 ヶ月間に開催された取締役会及び監査役会の議事
  録
・ 職務分掌規程を含む社内規程類
                       2
第2章      本調査の結果の概要

第1      組織の概要・変遷

    1   役員の構成・変遷

    ⑴ 本件自己株式取得時の役員構成
     本件取締役会当時のテイツー社は監査役会設置会社1であり、社外取締役を
    含む取締役会、社外監査役を含む監査役会、常勤取締役及び常勤監査役が参
    加する経営会議からなる企業統治体制を採用していた。取締役会は毎月 1 回
    定例で開催されていたほか、必要に応じて臨時取締役会が開催されており、
    取締役及び監査役が出席していた。経営会議は原則として毎月 2 回開催され
    ており、常勤取締役及び部長らが出席していたほか、常勤監査役がオブザー
    バーとして出席していた。監査役会は、毎月 1 回定例で開催されていたほ
    か、必要に応じて臨時監査役会が開催されていた。
     本件自己株式取得時の役員構成は以下のとおりである。

        役職    氏名             職名・経歴等
    代表取締役    A氏    社長
    取締役      B氏    管理部長兼チーフ・コンプライアンス・オフィサー
    取締役      C氏    店舗運営部長
    取締役      D氏
    取締役      E氏    社外取締役。会社経営者、大学学長等を歴任
    監査役      F氏    常勤監査役。テイツー社元執行役員
    監査役      G氏    社外監査役。税理士法人出身
    監査役      H氏    社外監査役。銀行出身。銀行元監査役等を歴任


     なお、本件取締役会後、2019 年 5 月 30 日付けで D 氏及び E 氏が取締役
    を退任し、O 氏が取締役に就任した。また、監査等委員会設置会社への移行
    に伴い、同日付で F 氏、G 氏及び H 氏がそれぞれ監査役を退任し、取締役・
    監査等委員に就任した。




12019 年 5 月 30 日開催の定時株主総会決議に基づき、現在は監査等委員会設置会社に移
行している。
                           3
⑵  役員の変遷
 テイツー社の役員の変遷は別紙のとおりである。なお、後記のとおりテイ
ツー社は直近では 2012 年 10 月及び 2013 年 7 月に自己株式の取得を実施し
ていることから、別紙には概ね 2012 年 5 月以降の変遷を示すこととしたも
のであるが、その当時から本件自己株式取得時に至るまでは、前述の企業統
治体制を採用していたことは同様である。
 2012 年 5 月の時点から本件取締役会の時点まで引き続き役員であったのは
社外取締役の E 氏と社外監査役の G 氏のみである。

2   組織・人員の変遷

⑴ 本件自己株式取得時の組織構成及び人員
 本件自己株式取得時の組織構成は以下の通りである。




 なお、2012 年 3 月 1 日から本件取締役会に至るまでの間、確認できる限
りで 10 回の組織変更がなされている。

⑵ 従業員数の変遷
 テイツー社の従業員数の変遷は以下の通りである。


                     4
             時期        社員2       全従業員      管理部門従業員
        2012 年 2 月末    400        1621    41(本部)
        2013 年 2 月末    372        1775    44(管理本部)
        2014 年 2 月末    337        1548    43(管理本部)
        2015 年 2 月末    325        1577    38(管理部)
        2016 年 2 月末    287        1675    39(間接部門)
        2017 年 2 月末    282        1861    36(管理部)
        2018 年 2 月末    245        1630    30(管理部)
        2019 年 2 月末    238        1483    27(管理部)


     上記のとおり、テイツー社においては近年社員の人数が減少傾向にある。
    管理部門(営業部門等を除くバックオフィス部門)に関しては、前述のとお
    り組織変更が繰り返されているため単純な比較は困難であるものの、全体的
    には従業員数が減少傾向にあるといえる3。

    3    組織運営・業務プロセスについて

    ⑴ 社内規程の状況
     テイツー社においては、定款以下の社内規程が整備されており、各部門の
    所管業務、決定権限及び稟議の要否は「職務分掌・権限規程」に規定されて
    いた。
     なお、稟議は、ワークフローシステムを用いて行われており、決定権限が
    社長以上にあるものについては、常勤監査役が閲覧してチェックを行なって
    いた。

    ⑵ コンプライアンスに関して
     コンプライアンスに関しては、統括責任者としてチーフ・コンプライアン
    ス・オフィサーが設けられ、総務部門を管掌する取締役が任命されている。
    本件自己株式取得当時は、総務部門(管理部)のトップである B 氏が任命さ
    れていた。また、総務部門(管理部)がコンプライアンス統括部門とされて
    いた。
     チーフ・コンプライアンス・オフィサーであり、総務部門(管理部)を統


2
    有期雇用の契約社員を含む。
3
    例えば総務部門や経理部門に絞ると、前者は 2012 年 2 月末時点で 9 名から 2019 年 2 月
末時点で 6 名に、後者は 2012 年 2 月末時点で 14 名から 9 名に減少している。
                             5
    括する B 氏は、総務部門の法律問題や他の部門から相談を受けた法律問題に
    関して、自ら必要であると判断した場合に法律顧問契約を締結している法律
    事務所に相談を行っていた。もっとも、いかなる場合に当該法律事務所に相
    談するか否かについて、明確な社内基準等は設けられていなかった。

    ⑶  自己株式の取得に関する社内規程等
     自己株式の取得に関しては、定款に取締役会決議事項と規定されている一
    方、
     「職務分掌・権限規程」においては明確な定めは見当たらない。すなわ
    ち、自己株式の取得については、会社法及び定款の規定に基づき、取締役会
    が決定権限を有していることは明確であったものの、どの部門の所管業務で
    あるのか、稟議を要するのかは曖昧であった。また、自己株式の取得に関
    し、確認すべき事項に関するチェックシート等もなかった。

第3 分配可能額の推移
 テイツー社の 2013 年 2 月期決算時点における分配可能額は約 31 億 7304 万
円に達していた。
 ところが、2014 年 2 月期から 2018 年 2 月期まで 5 期連続で赤字決算となっ
たため、テイツー社の 2018 年 2 月期決算時点における分配可能額はマイナス
約 5 億 1285 万円となっていた。その後、2019 年 2 月期には黒字化したもの
の、同期決算時点における分配可能額は依然としてマイナス約 3 億 9486 万円
の状態であった。

第4 近年の自己株式の取得状況
 近年におけるテイツー社の自己株式の取得状況は以下の通りである4。

      取締役会決議日      取得期間又は取得日             取得株式数(株)     取得総額(円)
    2007/5/28    2007/5/29 ~ 2008/2/29        5,241    51,559,050
    2008/3/19    2008/3/21 ~ 2008/4/10        1,104     8,013,520
    2008/5/29    2008/6/2 ~ 2008/8/14         2,782    22,007,740
    2010/1/27    2010/1/28 ~ 2010/4/10        3,000    19,159,680
    2012/10/15   2012/10/18                   2,000     9,590,000
    2013/7/24    2013/7/25                   12,483    87,381,000




4
 テイツー社は、2013 年 9 月 1 日付で、普通株式を 1 株につき 100 株の割合で株式分割
を行っている。
                           6
  上記の自己株式の取得に関して、本調査においては、各承認決議を行った際
の各取締役会議事録その他の資料を参照したが、得られた資料中には分配可能
額の計算等がなされたことを示す内容のものはなく、その他財源規制について
検討された形跡はうかがえなかった。これらの自己株式の取得の実務を担当し
た役員又は従業員はテイツー社に残っておらず、詳細な事情は明らかにはなら
なかった。
  なお、自己株式に関して、テイツー社は 2018 年 2 月 28 日時点で 21 万
9700 株保有していたが、2018 年 5 月 30 日開催の株主総会決議に基づき譲渡
制限付株式報酬制度を導入し、同年 7 月 13 日当該報酬として常勤取締役 4 名
に対し合計 20 万株の自己株式の処分がなされた。その結果、テイツー社の保
有する自己株式は大きく減少し 2019 年 2 月 28 日時点での自己株式数は 1 万
9700 株であった。

第5   本件自己株式取得に至る経緯

 1 本件自己株式取得を実施することとなった契機
   本件自己株式取得の契機は、2018 年 11 月頃に丙社から、その保有する
  テイツー社株を手放したい旨の意向を示されたことである。
   当初、丙社は市場での売却を想定していたが、B 氏は、A 氏と協議の
  上、市場で放出させるよりも、テイツー社がこれを買い受けるのが望まし
  いと考えるに至った。その理由は、株価の下落の防止と、丙社がテイツー
  社の重要な取引先であり、もともとテイツー社側の依頼によって株を取得
  してもらった経緯があったことから、その株をテイツー社が一括して買い
  受けることにより、丙社の市場での売却に伴う負担やリスクを軽減させよ
  うとしたこと、そして本件自己株式の市場価格が 2000 万円程度の金額で
  あったことから、丙社にその程度の株式を買い取ることもできないと思わ
  れることで、同社との取引与信枠の設定に悪影響を与えたくないという意
  図もあった。また、B 氏においては、新たに取得した自己株式は、今後実
  施する譲渡制限付株式報酬にこれを充てることもできるので、無駄にはな
  らないであろうという考えもあった。
   テイツー社が買い受ける旨の意向は B 氏から丙社に伝えられ、丙社社内
  の検討や手続を経て、2019 年 2 月頃に了承が得られた。
   以後、テイツー社社内で本件自己株式取得に向けた準備が進められた
  が、担当者が明確に決められることはなく、B 氏がほぼ 1 人で準備を行う
  こととなった。B 氏以外の関与としては、後記のとおり、B 氏から情報の
  共有を受けた経理グループの I 氏が甲監査法人に質問を行ったことがあっ

                     7
     たほか、総務グループが開示文書の作成や着金確認や東京証券取引所に対
     する報告書を作成した程度であった。
       B 氏は、A 氏に対しては、業務日報に本件自己株式取得のための準備の
     進捗状況を記載し、これを提出することで報告を行っていた。
       なお、本件自己株式取得の時期については、インサイダー取引に該当し
     ないよう 2019 年 2 月期の決算発表から 1 週間程度経過した時期である
     2019 年 4 月下旬ころとされ、方法については後記のとおり乙証券会社のア
     ドバイスにしたがって、自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)によるこ
     ととされた。

    2 証券会社及び監査法人との連絡・相談状況
      B 氏は、2018 年 11 月の段階から、主幹事証券会社である乙証券会社の L
    氏に相談して自己株式の取得の方法等に関するアドバイスを受けており、
    2019 年 2 月には L 氏から自己株式の取得と処分に関する紙媒体の資料を受
    領しつつ、自己株式の取得の方法について説明を受けた5。
      同資料には、ToSTNeT-3 による自己株式の取得方法について詳細な説明が
    記載されていたほか、自己株式の取得に財源規制があり分配可能額が上限と
    なることや、分配可能額の計算方法、財源規制に反して取得した場合の取締
    役の責任等が 2 頁にわたって記載されていた。もっとも、L 氏は、テイツー
    社の 2019 年 2 月期の分配可能額がマイナスとなる見込みであることを認識
    しておらず、B 氏に対して、当該資料の財源規制の部分に関して口頭で逐一
    説明することはなかった。また、B 氏も、同資料中の財源規制に関する記載
    については意識をしていなかった。
      同年 3 月下旬、乙証券会社の担当者が L 氏から M 氏に変更し、以後、B
    氏や総務グループの P 氏は、M 氏から自己株式の取得の手順や適時開示の方
    法等に関するアドバイスを受けることとなった。もっとも、M 氏は、テイツ
    ー社の分配可能額がマイナスとなることを認識しておらず、この点について
    B 氏らに指摘することはなかった。
      他方、同年 3 月初旬から甲監査法人による監査が開始されていたところ、
    遅くともその前後には、経理担当者である I 氏6が、甲監査法人の K 氏に対
    し、本件自己株式取得を予定していることについての情報を伝達した。その


5 B 氏は L 氏から 2018 年 11 月時点でも自己株式の取得に関する資料を受領しているが、
当該資料は ToSTNeT-3 等の取得方法についての記述が主であり、財源規制については記
されていない。
6
  I 氏は、本件取締役会時点においては、自己株式取得における財源規制について認識して
いなかった。
                              8
    際、I 氏が K 氏に対して「何かしら問題とかありますかね。たとえば後発と
    かどうですかね」などと質問を行い、本件自己株式取得が後発事象となるか
    否かについての助言は受けられたものの、自己株式取得の財源規制やその他
    会社法上の論点については明確なやりとりがなされず、それらに関する助言
    は得られなかった。J 氏及び K 氏ら甲監査法人の関係者は、本件自己株式取
    得時より前に、テイツー社の 2019 年 2 月期における分配可能額がマイナス
    となることは認識しており、他方でテイツー社が本件自己株式取得を実施す
    る予定があることも認識していたが、両者の関連について意識しておらず、
    B 氏その他のテイツー社関係者に対して、本件自己株式取得が財源規制違反
    となることを指摘することはなかった。
      なお、B 氏らは、そもそも本件自己株式取得に重大な法的問題があること
    を認識しておらず、かつ、別件相談で既に相当額の弁護士費用が発生してい
    る中、追加のコストが発生することを懸念していたことなどから、法律顧問
    契約を締結している法律事務所に相談することを想起しなかった。B 氏ら
    が、当該法律事務所に本件自己株式取得について相談をしたのは、本件自己
    株式取得の問題が発覚した後のことであった。
      また、2019 年 3 月 1 日付けで、監査役会は、各取締役に対し、「取締役職
    務執行確認書」の提出を求めた。       「取締役職務執行確認書」には「自己株式及
    び配当等の処分の手続について」の確認項目があり、また、       「取締役職務執行
    確認書」と同時に配布された説明文書(       「取締役職務執行確認書(項目注))
                                             」
    には、 「自己株式及び配当等の処分の手続について」の項目に関する説明に
    「分配可能額を超えて配当又は自己株式の有償取得などを行ってはいけな
    い。 」との記載がなされ、かつ、関係する会社法の条文7が記載されていた。
    しかしながら、当該部分は非常に細かな文字で記載されていたこともあり、
    各取締役がこれを意識することはなかった。また、これらの文書を作成した
    のは F 氏であったが、もともと何らかの手段で入手した定型書式を流用した
    ものであり、F 氏本人も当該記載について意識をすることはなかった。

    3   取締役会決議の状況

    ⑴ 取締役会の状況
     前述のとおり B 氏がほぼ1人で準備を進めた結果、本件自己株式取得を実
    施する運びとなり、定例取締役会である本件取締役会に、本件自己株式取得


7
 条文の内容は記載されておらず、「461-1・2」などと会社法の条項の数字が記載されて
いたのみである。
                      9
    議案が上程されることとなった。B 氏は、本件自己株式取得については、取
    締役である自身と代表取締役である A 氏との間で方針を決めていたことか
    ら、稟議や経営会議の決議は不要であると考え、本件取締役会以前にこれら
    を実施することはなかった。
      本件自己株式取得議案を含む招集通知は、本件取締役会の 4 日前である
    2019 年 4 月 19 日に電子メールで各取締役及び各監査役に送付された8。
      本件取締役会はテイツー社関東支社会議室において同月 23 日午前 10 時
    10 分から開催され、E 氏を除く取締役と全監査役が出席した(B 氏、C 氏、
    G 氏は Web 会議で参加)   。本件自己株式取得議案は、議長である A 氏により
    提案された。なお、本件取締役会に提案された決議事項議案は本件自己株式
    取得議案のみであり、これについては、H 氏から丙社が株を放出した背景に
    ついての質問がなされ、B 氏及び A 氏が回答を行った9。その他、本件自己
    株式取得議案についての質疑や、財源規制その他法的問題に関しての議論は
    なく、また、監査役から異議が唱えられることもなく、出席取締役全員の賛
    成によって議案は承認可決された。
      このほか、本件取締役会においては月次決算報告等の報告がなされてい
    る。この月次決算報告では 2019 年 3 月度の貸借対照表が添付されており、
    そこには利益剰余金の当月残高がマイナス 314 百万円である旨の記載がなさ
    れていた。

    ⑵ 各取締役及び各監査役の認識
     各取締役及び各監査役が本件自己株式取得を認識した時点及び本件取締役
    会の決議の時点における認識は以下のとおりである。

     ア A氏
      A 氏は、前述のとおり、2018 年 11 月頃に B 氏から相談を受けた段階で
     本件自己株式取得の方針を認識し、以後、業務日報等を通じて B 氏から進
     捗状況の報告を受けてこれを把握していた。



8
    なお、その後、本件自己株式取得議案を含む修正がなされており、その修正案は本件取
締役会前日の同月 4 月 22 日に電子メールで各取締役及び各監査役に送付された。
9
    H 氏の質問は、丙社がテイツー株を売却した背景を問うものであり、B 氏が丙社の親会
社の意向である旨回答し、また、A 氏が当該テイツー株はもともと丙社が吸収した問屋会
社が保有していたものである旨回答している。なお、H 氏はこのような背景事情につい
て、2019 年 4 月 15 日の段階で聞いていたものの、取締役会の場で明確に説明させること
で、他の役員にもこれを共有する目的でこのような質問をしたとのことである。
                           10
 A 氏は、本件取締役会の時点において、分配可能額がマイナスであるこ
とは認識していた。
 しかし、A 氏は、過去の自己株式取得においてもその手続に直接関与し
たことはなく、 「取締役職務執行確認書」の説明文書の記載も意識すること
もなく、自己株式の取得に関する法的な論点についての十分な知識を持っ
ていなかったため、分配可能額がなければ自己株式の取得ができないこと
を認識していなかった。

イ B氏
 B 氏は、前述のとおり本件自己株式取得の準備をほぼ1人で行い、これ
に深く関与していた。
 B 氏は、本件取締役会の時点において、分配可能額がマイナスであるこ
とは認識していた。
 しかしながら、B 氏は、チーフ・コンプライアンス・オフィサーの職位
にはあるものの、特段法務に詳しい経歴を有してはいない。10 年以上前の
自己株式の取得に関わったことはあったものの、その際の記憶は薄れてお
り、前記した乙証券会社から手渡された資料中の財源規制の記載も、 「取締
役職務執行確認書」の説明文書の記載も意識することはなく、分配可能額
がなければ自己株式の取得ができないことを認識していなかった。

ウ C氏
 C 氏は、その記憶によれば、2019 年 4 月 15 日の臨時取締役会の前後
に、本件自己株式取得についての会話がなされてはじめて、本件自己株式
取得の具体的内容を明確に認識した。
 C 氏は、本件取締役会の時点において、分配可能額の計算方法を知ら
ず、分配可能額がマイナスとなることについて認識していなかった。
 また、C 氏は、主に店舗運営を担当してきた経歴を有し、会社法の規定
には精通しておらず、過去の自己株式の取得にも関わってこなかったこと
や、「取締役職務執行確認書」の説明文書の記載を意識することもなかった
ことから、分配可能額がなければ自己株式の取得ができないことも認識し
ていなかった。

エ D氏
 D 氏は、2018 年 11 月の時点で丙社がテイツー社株を放出しようとして
いることや、これをテイツー社が一括買い受けしようとしていることを認
識した。もっとも、D 氏はその後の進捗状況については把握しておらず、

                  11
本件自己株式取得の具体的な実施の時期や方法については本件取締役会の
直前の時期に知った。
 D 氏は、本件取締役会の時点において、分配可能額の計算方法を知ら
ず、分配可能額がマイナスとなることを認識していなかった。
 また、D 氏は、主に商品の売買や管理等を担当してきた経歴を有し、会
社法の規定には精通しておらず、過去の自己株式取得に関与したことはな
く、「取締役職務執行確認書」の説明文書の記載を意識することもなかった
ことから、分配可能額がなければ自己株式の取得ができないことも認識し
ていなかった。

オ E氏
 E 氏は、本件取締役会当時はフィリピンに滞在しており、しかも、本件
取締役会前日である 2019 年 4 月 22 日に現地で発生した大地震とその後の
停電に巻き込まれ、本件取締役会に出席できなかった(Web 会議システム
による参加もできなかった)   。
 E 氏は、その記憶によれば、本件取締役会時点までに本件自己株式取得
議案を確認したかどうかは曖昧であり、本件自己株式取得を明確に認識し
たのは当委員会の設置に関するプレスリリースを見てからであったとい
う。
 なお、E 氏は、本件取締役会の時点において、分配可能額がないことは
認識していた。しかしながら、E 氏は、取締役として決議に参加した 2012
年と 2013 年の自己株式取得の際にも、自己株式取得における財源規制に
ついて検討をした記憶はなく、    「取締役職務執行確認書」の説明文書の記載
も意識することもなかったことから、分配可能額がなければ自己株式取得
ができないことについて認識していなかった。

カ F氏
 F 氏は、その記憶によれば、2019 年 4 月 17 日頃に B 氏から本件取締役
会の議案を見せられたことで、本件自己株式取得の方針を知った。
 F 氏は、本件取締役会の時点においては、分配可能額の計算方法を知ら
ず、これがマイナスであることを認識していなかった。
 また、F 氏は、過去の自己株式取得に深く関与したことはなく、前述の
とおり「取締役職務執行確認書」の説明文書の記載も意識しておらず、分
配可能額がなければ自己株式の取得ができないことも認識していなかっ
た。


                    12
 キ G氏
  G 氏は、その記憶によれば、本件取締役会の議案が送付された段階で本
 件自己株式取得の方針を知った。
  G 氏は、本件取締役会の時点においては、分配可能額の計算方法を知ら
 ず、テイツー社の分配可能額がマイナスであることを認識していなかっ
 た。
  また、G 氏は、2007 年 5 月以降の自己株式取得の際に、いずれも監査役
 として決議をした取締役会に出席するなどしていたが、過去の自己株式の
 取得の際に財源規制に違反していないことについて検討を行ったかどうか
 は記憶しておらず、 「取締役職務執行確認書」の説明文書の記載も意識する
 こともなく、自己株式取得において何らかの財源規制があることは認識し
 ていたものの、その内容(分配可能額がなければ自己株式取得が不可能で
 あること)は正確に認識していなかった。

 ク H氏
  H 氏は、その記憶によれば、2019 年 4 月 15 日の臨時取締役会やそれに
 引き続いて行われた甲監査法人とのミーティングの前後に、A 氏から説明
 を受けて本件自己株式取得について知った。
  H 氏は、本件取締役会の時点において、テイツー社の分配可能額がマイ
 ナスであることは認識していたものの、意識を欠いていた。また、自己株
 式取得に財源規制があることは知っていたものの、       「取締役職務執行確認
 書」の説明文書の記載も意識せず、分配可能額の正確な計算方法について
 の知識はなく、本件取締役会の時点においてはこれを意識することがなか
 った。

4   本件自己株式取得の実施及びその後の状況

⑴ 開示及び実施
 本件取締役会の決議を受け、2019 年 4 月 23 日、本件自己株式取得につい
ての適時開示がなされた(同日付け「自己株式の取得及び自己株式立会外買
付取引(ToSTNeT-3)による 自己株式の買付けに関するお知らせ」。 )
 翌 24 日、ToSTNeT-3 によって、本件自己株式取得が実行された(取得し
た株式の総数 50 万株、取得価額 2100 万円) 。

⑵ 自己株式の処分
 2019 年 5 月 30 日開催の定時株主総会の決議及び同年 6 月 18 日開催の取

                     13
締役会決議に基づき、同年 7 月 12 日付けで譲渡制限付株式報酬制度として
常勤取締役 4 名(A 氏、B 氏、C 氏及び O 氏)に対し合計 20 万株の自己株
式の処分がなされた。

⑶  発覚の経緯
 会計監査人である甲監査法人は、2020 年 2 月期第1四半期のレビューを実
施しており、2019 年 7 月 12 日付けで「四半期レビュー概要のご報告」をテ
イツー社に提出しているが、そこにおいても本件自己株式取得についての指
摘や不正・違法行為に関する指摘事項はなかった。同月 16 日には、A 氏や
取締役・監査等委員らと監査法人とのミーティングが行われたが、その席に
おいても J 氏らから本件自己株式取得についての指摘はなされなかった。
 J 氏は、この頃、他社において分配可能額を超えて自己株式を取得した事
案に関わっていたことをきっかけに、テイツー社においても見直しをしたと
ころ、テイツー社は分配可能額がないにもかかわらず本件自己株式取得を行
ったことを認識した。そして、J 氏は、同月 17 日午前に B 氏らにその事実
を伝達し、本件が発覚した。

第3章   原因分析

第1 取締役及び監査役の会社法に関する知識の不足
 分配可能額が存在しないにもかかわらず、本件自己株式取得が行われること
となった一次的な原因は、本件取締役会時点の取締役及び監査役の全員におい
て、会社法における自己株式取得に係る財源規制に関する知識を欠いていた、
又はこれが不足していたことにある。
 この点、取締役らは、そもそも自己株式取得に財源規制が存在すること自体
を知らず、また、財源規制の存在自体を知っていた監査役も、その詳細につい
ての知識がなかったため、本件自己株式取得の取得予定金額が 2000 万円程度
と比較的僅少であったことや、前期の事業年度が黒字であったことにより、当
該論点を想起しなかったとのことである。しかしながら、直近 2 月の決算にお
いて、テイツー社の分配可能額はマイナスの状態であり、自己株式の取得金額
が分配可能額の範囲に限られるとの制限についての基本的な知識が存在すれ
ば、法令違反の可能性について指摘することは可能であったと思われる。
 さらに、今事業年度の期初である 3 月に、監査役会が作成し、各取締役が署
名した、
   「取締役職務執行確認書」の説明文書にも、自己株式取得に係る財源
規制の説明の記載があったことにも鑑みれば、取締役・監査役の全員におい
て、会社が行う取引にあたり適用される法令を遵守すべきことについて、慎重

                    14
さを欠いていたと言わざるを得ない。
 もっとも、上記にもかかわらず、本件取締役会決議が行われる以前に、議案
上程前の社内手続によるチェックや、外部専門家への相談により、本件自己株
式取得が会社法上の財源規制に違反していることについて気付く契機はあった
といえる。しかしながら、後述する原因により、本件に関してはこうした手段
が採られることがなかったか、又はその手段が不十分であったため、本件自己
株式取得の違法性が看過されることとなった。

第2 社内意思決定手続の不備
 本件自己株式取得の違法性が看過された原因の一つとして、本件自己株式取
得に係るテイツー社の意思決定において、以下の要因により、適切なチェック
機能がはたらかなかったことが挙げられる。

1 自己株式取得に関する所管部門が不明確であったこと
 テイツー社の「職務分掌・権限規程」には、自己株式取得に関する所管部
門は明確に記載されていない。この点、管理部門担当の取締役である B 氏に
も、代表者である A 氏にも、自己株式の取得の所管部門がどこであるのかに
ついて、統一的な認識がなかった。

2 本件自己株式取得の担当者となる従業員が割り当てられていなかったこ
 と
 このように、本件自己株式取得については、その本来の所管部門が曖昧で
あったこともあり、取締役である B 氏が、当初より丙社との交渉の窓口とな
るとともに、株式取得の具体的な方法や開示規制に関する乙証券会社に対す
る相談などについても自身が直接行っており、一次担当者となる従業員を指
名していなかった。このため、B 氏単独による検討の内容が、業務日報や口
頭での報告を通じて A 氏に適宜共有される中で、本件取締役会の直前まで、
他の従業員や役員らによる二次的な検討の機会を経ることなく、漫然と本件
自己株式取得議案が取締役会に上程される結果となった。
 この点、B 氏が、管理部門担当取締役として、単独で複数の部門を監督す
る立場として多忙を極めていたことなどにも鑑みると、所管部門における担
当者を指名して、本件自己株式取得に対する法的論点の一次的な検証をさせ
た上で正式の社内決裁手続に上げるという手続をとらなかったことにより、
本件自己株式取得の違法性に気付く機会が失われたことは否めない。例え
ば、B 氏が乙証券会社担当者の L 氏より自己株式取得に関する財源規制につ
いての説明が記載された資料を受領した際も、これを一次担当者となる従業

                 15
員に、精査・分析させるなどの作業が行わせることができていれば、本件自
己株式取得の違法性に気付くことが可能であったものと思われる。

3 稟議手続の不備
 そして、このように本件自己株式取得が適当な所管部門の従業員に割り当
てられなかった結果、本件自己株式取得議案はテイツー社の稟議規程で定め
る稟議手続を経ることなく、直接本件取締役会に上程されている。この点、
テイツー社の「職務分掌・権限規程」及び「稟議規程」には、自己株式取得
の手続は明示されていないが、「有価証券の取得」に関しては、その金額にか
かわらず稟議に付すべき事項とされているし、自己株式の取得が取締役会決
議事項であることに鑑みても、本件自己株式取得は、本来稟議に付すべき事
案であったといえる。
 このように、稟議に関する規定が存在していながら、その手続の遂行が徹
底されていなかったことも、社内手続において複数の従業員及び役員による
適法性の検討の機会を失わせることとなり、本件発生の一因となったものと
認められる。

第3 管理部門の体制の不備
 上記のような手続上の不備が生じた背景には、近年の業績の悪化に伴う人員
の削減で、特に管理部門の人数自体の減少、そして専門的な知識・ノウハウを
持った人材の不足があった事実も否定できない。また、ここ数年の間には、単
なる従業員の数の減少のみならず、部門内での従業員の入れ替わりも頻繁に生
じており、新旧の従業員の間で、過去のノウハウが適切に承継されていないこ
とも指摘される。
 この点、テイツー社においては、店舗などの事業部門における人員は充実し
ており、相当のノウハウの蓄積やマニュアルの整備が行われていることが認め
られるが、これと比較すると、総務などの管理部門の人材の育成・充実やノウ
ハウの集積が後回しになっていた事実が伺える。

第4 外部専門家の適切な活用ができなかったこと
 テイツー社には法律顧問契約を締結している法律事務所が存在していたが、
テイツー社から、本件自己株式取得に関する法律上の問題点に関する相談がな
されたことはなかった。B 氏によれば、その理由は管理部門における経費節約
の趣旨と、既に乙証券会社への相談や、監査法人への情報共有を行っていたこ
とから、これ以上の専門家の関与は不要であると判断したためであるという。
しかし、これら専門家への相談内容は、もっぱら自己株式取得の手法と開示に

                 16
係る論点に限定されており、自己株式取得の手続に関する会社法上の論点に質
問が及ぶことはなかった。I 氏が甲監査法人 K 氏に本件自己株式取得が後発事
象に該当するか否か等を確認した際にも、その他の会社法上の論点についての
やりとりを行った形跡はなく、自己株式取得の財源規制に関する助言は得られ
なかった。
 また、B 氏が乙証券会社 L 氏から受領した資料には、自己株式取得に関する
財源規制を含む、法令上の注意事項が記載されていたが、この資料がテイツー
社において適切に活用されることはなかったことは、前述のとおりである。
 このように、本件自己株式取得に関し助言を行い、これが会社法上の財源規
制に違反していることについて、テイツー社に指摘しえた外部専門家に対し、
適切な相談をすることができなかったこと、そうでありながらただ外部専門家
と情報を共有しているというだけで、本件自己株式取得の適法性について疑問
を抱かなかったことが、テイツー社が、本件自己株式取得が法令に違反してい
ることに気づかなかった一つの要因である。

第4章   関係者の責任

第1    取締役の責任

1  A氏
 A 氏は、本件自己株式取得時点において、自己株式取得が分配可能額の範
囲に限られるとする会社法の規定を知らなかったことから、B 氏から丙社の
株式売却意向について報告を受けた際に、主に取引先である同社との関係性
を考慮して、特段の葛藤もなく、直ちに本件自己株式取得の方針を決定した
ものと認められる。このように、A 氏が、あえて法令に違反することを知り
ながら、本件自己株式取得の方針を決定し、本件取締役会決議を行ったとは
認められない。
 しかしながら、本件取締役会のわずか 1 ヶ月半前に監査役会宛に提出した
「取締役職務執行確認書」の説明文書に、自己株式取得に係る財源規制の内
容やそれに関する会社法の条文の記載があったことなどからすれば、同規制
に関する知識がなかったことについて責任がないとはいえない。また、A 氏
の説明によっても、自己株式取得の方針を決定してから本件取締役会におい
て最終的に本件自己株式取得が決議されるまでの間に、4 ヶ月以上の期間が
あったのであり、自己株式の取得に機関決定が必要であることや、事実上特
定株主からの株式取得であることに鑑みても、顧問法律事務所に対し、本件
自己株式取得に何らかの法的問題点がないか否かを、従業員を通じて確認さ

                  17
せるなどの慎重な手段をとるべきであったといえ、A 氏が取締役としての任
務を怠らなかったということはできない。

2  B氏
 B 氏もまた、本件自己株式取得時点において、自己株式取得が分配可能額
の範囲に限られるとする会社法の規定を知らなかったのであり、あえて法令
に違反することを知りながら、本件自己株式取得に係る本件取締役会決議を
行ったとは認められない。
 しかし、A 氏と同様に期初に「取締役職務執行確認書」の説明文書を受領
していること、また B 氏のチーフ・コンプライアンス・オフィサーとしての
立場にも鑑みれば、上記規定に関する知識がなかったことについてなおさら
その責任がないとはいえない。ましてや、乙証券会社 L 氏から資料を受領し
た際、I 氏に監査法人への意見照会を指示した際など、本件自己株式取得が
法令に違反している事実に気付くことのできた機会は存在しており、B 氏が
取締役としての任務を怠らなかったということはできない。

3 C 氏及び D 氏
 本件取締役会決議に参加した C 氏及び D 氏もまた、本件自己株式取得時
点において、自己株式取得が分配可能額の範囲に限られるとする会社法の規
定を知らず、また分配可能額の計算についての知識もないことから、本件自
己株式取得時点でテイツー社に分配可能額が存在していたかどうかの認識も
なかったのであるから、両氏があえて法令に違反することを知りながら、本
件自己株式取得に係る本件取締役会決議を行ったとは認められない。
 しかし、A 氏・B 氏と同様、期初において「取締役職務執行確認書」の説
明文書を受領していることなどに鑑みれば、分配可能額がないことを認識し
ておらず、また、自己株式取得の財源規制を知らなかったからといって、両
氏が取締役としての任務を怠らなかったということはできない。

4  E氏
 E 氏は、本件取締役会決議には参加しておらず、滞在地であったフィリピ
ンにおいて、本件取締役会の前日に発生した地震の影響で、本件自己株式取
得議案の内容について、いつ確認したかについての記憶も曖昧である。
 この点、本件自己株式取得議案を含む、本件取締役会の招集通知は、電子
メールで 2019 年 4 月 19 日の日本時間 13 時 33 分に送付されており、本件自
己株式取得が本件取締役会で決議されることを、E 氏は事前に知ることがで
きたことに鑑みれば、他の決議に参加した取締役とは責任の程度は異なるも

                      18
     のの、通信が可能となった後も、E 氏が本件取締役会議事録を確認したこと
     や、本件自己株式取得に係るプレスリリースを確認したこともないことに鑑
     みても、E 氏が取締役としての任務を全く怠らなかったとはいうことはでき
     ない。
      なお、E 氏においても、自己株式取得に係る財源規制に関する知識はなか
     ったとのことであるが、この点が同氏の責任を軽減する事情とはならないこ
     とは、他の取締役と同様である。

      会社法 462 条 1 項は、財源規制に違反して自己株式の取得が行われた場
     合、株式の取得による金銭等の交付に関する職務を行った取締役10、及び取
     締役会において株式の取得に賛成した取締役11は、   「その職務を行うについて
     注意を怠らなかったこと」を証明しない限り、連帯して、自己株式の取得に
     係る金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金
     銭を支払う義務を負うとしており、また、会社法 423 条 1 項は、取締役がそ
     の任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償す
     る責任を負う旨定めている。
      上記のとおり、E 氏以外の取締役が本件自己株式取得議案に賛成し、かつ
     全ての取締役が、程度の差こそあれ、いずれも取締役としての任務を怠らな
     かったとはいい難いことに鑑みれば、取締役らにこれらの会社法上の責任が
     認められないとはいえない。

第2 監査役の責任
 監査役 3 名についても、知識の程度に違いはあれ、いずれも本件自己株式取
得の当時、本件自己株式取得が法令に違反するとの認識がなかった。
 しかし、監査役の監査の対象が業務執行の適法性12であることに鑑みても、
また、監査役会自身が各取締役に署名・提出させた、    「取締役職務執行確認
書」の説明文書に、自己株式取得に係る財源規制の会社法の条文の記載があっ
たことなどにも鑑みれば、本件取締役会に出席した監査役らが、本件自己株式
取得の違法性について指摘することができなかったことについて、監査役とし
ての任務を怠らなかったということはできない。
 そして、会社法 423 条 1 項が、監査役がその任務を怠ったときは、株式会社
に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う旨定めているところ、


10
     会社法 462 条 1 項 1 号ロ、会社法施行規則 116 条 15 号、会社計算規則 159 条 2 号イ
11
     会社法施行規則 116 条 15 号、会社計算規則 159 条 2 号ハ
12
     会社法 381 条 1 項
                               19
上記のとおり、各監査役がいずれもその任務を怠らなかったということはでき
ないことに鑑みれば、監査役らに同条に基づく責任がないとはいえない。

第5章   再発防止策

第1 取締役の意識の改革と知識の向上
 まず、本件のような、法令に違反する取引の再発を防止するためには、取締
役らに会社経営上必要となる知識と情報を、取得・維持させるとともに、常に
最新の内容にアップデートしておく必要がある。それにはまず、何よりも個々
の取締役の意識の改革が重要であるが、テイツー社としても、取締役を対象と
する社内研修を実施することや、外部セミナーの受講を義務付けるなどの方法
で、会社法をはじめとする法令に関する取締役の知識レベルの向上を図ること
が必要である。
 また、期初に作成する取締役の職務執行確認書についても、その説明文書を
作成するにあたっては、単に元となる日本監査役協会などのテンプレートを複
製するのみでなく、その内容を自ら確認するとともに、他の取締役との間で、
取締役会開催の機会などに、その理解を共有し、相互に確認しあうことが有効
である。

第2 社内意思決定手続の整備と遵守
 テイツー社は、職務の分掌や稟議、各会議体に関する社内規程を整備してい
るものの、自己株式の取得など、その所管部門や決裁手続が明確に規定されて
いない事項が存在する。そこで、各規程の内容を再検討し、特に法令の規制に
係る取引や手続については、その所管部門を定めた上で、当該所管部門から稟
議にかけることを各種規程において明確化しておくべきである。
 また、テイツー社の稟議手続にかかるワークフローシステムの書式をみる
と、稟議事項について記載する欄はあるものの、確認すべきポイントなどにつ
いての項目がないために、担当者・決裁者の知識や経験の程度によっては、当
該稟議事項についてどのようなポイントに注意して検討をすべきかがわから
ず、稟議手続を経たとしても適切なチェック機能がはたらかないおそれもあ
る。このため、少なくとも法令違反が生じる可能性のある取引・手続に関して
はこれを類型化し、確認すべきポイントをチェックリストのような形で列挙
し、これを確認しながら稟議を行うことのできるような書式を作成することが
必要である。

第3    管理部門の体制の強化

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 加えて、法令違反が生じるおそれのある取引や手続を担当する管理部門の体
制を強化するために、従業員教育を充実させるとともに、特に法務に関わる部
門においては、長期雇用を見据えた採用をし、専門性をもった従業員を育成し
ていくことが重要である。
 また、事業部門と同様に、管理部門においても、過去に検討し、処理した事
案について、その際使用した書式や相談内容を記録として整理した上で、積極
的にマニュアル化し、類似案件が生じた場合に、潜在的な論点を容易に検索し
うるような工夫をすることも望ましい。

第4 外部専門家の適切な活用
 上記のような再発防止策の構築にあたって、そしてその後の業務遂行におい
ても、必要に応じて、適宜外部専門家の適切な助力を得るべきである。
 しかしながら、相談をする従業員・役員が、事案に内在する論点に気付かな
かったり、質問を適切に定義できなかったりする場合には、外部専門家を有効
に活用することができない。したがって、やはり重要性の高い、又は法令違反
が生じる可能性があることから慎重に検討すべき取引や手続については、予め
これを類型化した上で、事前に確認すべきポイント、外部専門家に相談すべき
場合、相談すべき内容などを、マニュアル化しておくことが望ましい。
                                 以 上




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別紙  役員変遷表
           2012/5   2013/5   2014/5    2015/5   2016/5   2017/5   2018/5       2019/5

     a氏


     b氏                                                                    本
                                                                           件
     c氏                                                                    取
                                                                           締
     d氏
                                                                           役
                                                                           会
     e氏


     E氏


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     A氏


     i氏


     j氏


     B氏


     C氏


     D氏


     O氏


     G氏


     k氏


     l氏


監    m氏
 
査    n氏
 
役    o氏


     d氏


     F氏


     H氏



    凡例        代表取締役                   取締役                社外取締役


              常勤監査役                   社外監査役     ※監査役は2019/5/30以降は取締役・監査等委員




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