7518 ネットワン 2020-03-12 17:45:00
特別調査委員会の調査結果と今後の対応に関するお知らせ [pdf]

                                           2020年3月12日

 各   位
                       会 社 名    ネットワンシステムズ株式会社
                       代表者名     代表取締役 社長執行役員 荒 井 透
                                  (コード番号:7518 東証第1部)
                       問合せ先     管理本部 広報・I R 室 山 形 昌 子
                                    (TEL. 03-6256-0615)


           特別調査委員会の調査結果と今後の対応に関するお知らせ


 当社は、2019年12月13日付「特別調査委員会設置に関するお知らせ」に記載のとおり、国税局に
よる税務調査の過程で当社の一部取引について納品の事実が確認できない疑義がある(以下「本件」といい
ます。)との指摘を受けたため、社内調査チームを組成し、社内関係者へのヒアリングを行う等、実態解明に
努めてまいりました。しかしながら、事実経緯の正確な把握には、取引先を含めたより広範かつ深度ある調
査が必要な状況にあるとの認識を持つに至り、当社社内調査チーム単独の調査ではなく、専門的な知見を有
する外部の専門家を起用し、客観的かつ公正な視点・立場から適切に調査を行い得る体制を確保しつつ、社
内調査チームがそれまでに収集した資料等を加味して、迅速、円滑かつ柔軟な調査を実施し、本件に係る事
実関係を正確に把握すべきであると判断し、当社とは利害関係を有しない外部の弁護士及び公認会計士で構
成される特別調査委員会を設置し、調査を実施してまいりました。
 2020年2月13日付「特別調査委員会の中間報告書受領及び公表に関するお知らせ」に記載のとおり、
本日特別調査委員会からの最終的な調査結果を受領いたしましたので、下記のとおりお知らせいたします。

                           記

1.特別調査委員会の調査結果
  添付「納品実体のない取引に関する調査 最終報告書(開示版)
                              」をご覧ください。
  なお、最終報告書の全文については個人のプライバシー及び機密情報保護等の観点から、部分的な非開
 示措置・匿名化を施しております。

  また、特別調査委員会からは、以下のとおり再発防止策の提言を受けております。

  特別調査委員会の提言(要旨)

  (1)経営層・幹部層による営業現場の実態把握
   ・ 経営層、幹部層による全部門における現場の実情の的確な把握と、実効性のある報告・連絡・相談態勢
     の構築
   ・ 中央省庁案件における商流取引の抜本的な見直し
  (2)リスク管理体制の見直し
   ・ CRO を中心としたリスク管理活動の推進体制の再構築と、CRO による能動的・積極的な活動の推進
  ・ 経営委員会及びリスク・コンプライアンス委員会のあり方のゼロベースでの検証・検討
  ・ リスク管理全般及び不正リスクの管理に関する責任部門及びミッションの明確化
  ・ 各部門における重要リスクの識別・評価と、他部門による当該重要リスクの検証・検討
  ・ 役職員のリスク感度の向上とルール等の実効性の確保
  ・ 内部監査室等のモニタリング部門の強化
 (3)内部統制に関する見直し
  ・ 営業担当者と仕入先・外注先との癒着防止策の検討と実行
  ・ 直送取引の業務フローの見直しと、検収確認の方策の検討と実行
  ・ 購買部門の役割再定義
  ・ 外注先調査権限の強化
 (4)コンプライアンス活動の見直し
  ・ コンプライアンスの実践に関する経営層や各部門の幹部層による能動的・積極的なコミットメント
  ・ 自らが考えるコンプライアンス活動の実践
  ・ 組織風土の検証とより良い風土作り



2.今後の対応
  (1)再発防止策
   当社は、特別調査委員会の調査結果を真摯に受け止め、以下の再発防止策に取り組んでまいります。


  ア 営業取引に関する基本方針
  ・ 当社グループの付加価値(当社独自のサービスやソリューション等)が認められる案件のみを対応しま
    す。
  イ リスク管理体制の強化
  ・ 再発防止策の実行に関する業務ルールの変更を全社統一的に推進することを目的として営業統括室を
    4月1日付で社長直轄として新設する予定です。
  ・ 各部門は、期初に自部門のリスク分析を行い、
                        「リスク調査シート」を作成しリスク管理室に提出しま
    す。リスク管理室は客観的な視点からその検証と判断を行います。
  ・ リスク管理活動の推進方針や体制を抜本的に見直します。併せてリスク コンプライアンス委員会の機
                                    ・
    能及びそのメンバーに関しても再検討を行います。
  ・ コンプライアンスに対する意識強化として、全社員(経営層、幹部層を含む)を対象とした研修を実行
    します。
  ウ 業務統制に関する見直しと強化
  ・ 営業部門の業務役割を見直し、その役割と権限を明確にします。発注権限と検収権限を営業部門から切
    り離します。
  ・ 2020年4月1日付けで購買機能を独立(現在は「グループ購買・物流部」
                                      )し、役割の強化を図り
    ます。
  ・ 仕入購買に関する契約を締結し定常的に仕入取引を行っている仕入先以外からの購入においては、相
    見積もりを必須とし、その仕入先の妥当性の確認を購買部が実施します。
  ・ 仕入先からの直送取引は原則禁止とします。納期等の事情により直送が必要な場合は、商流取引に該当
    しないことの承認を購買部から事前に得るとともに、お客様の検収確認を義務付けます。
  ・ 人事ローテーションと、部門内における担当業務の共有(属人化防止)を徹底します。
  エ コンプライアンス活動の見直し
  ・ 各部門が期初に作成する「コンプライアンスの活動計画」に対して、管掌する役員及び関係する幹部層
    は、コンプライアンス活動に関する自らのコミットメントを記載し、役職や職位に応じて取締役会又は
    経営委員会が四半期ごとにレビューを実施します。
  ・ 当社グループのゴールやミッション、行動指針をまとめた「ビジョンブック」の更新を行います。更新
    にあっては社内横断的にメンバーを選定し、新たな組織風土の形成と実現を図るとともに、社内での浸
    透を再徹底します。

 (2)関係者の責任の明確化
  ア 経営責任の明確化
    本件に係る経営責任を重く受け止め、以下のとおり、監督責任を負うべき取締役は報酬を自主返
   上することと致しました。

   代表取締役会長   吉野孝行                       10%減給 1 ケ月
   代表取締役社長 兼 社長執行役員   荒井透               10%減給 1 ケ月
   取締役 兼 常務執行役員  東日本第1事業本部長 平川慎二        10%減給 1 ケ月

  イ 関係者の処分
    本件に関係した当社社員につきましては、当社規則に則り、厳正に処分致しました。



 株主・投資家の皆様及びお取引先をはじめ関係者の皆様には、多大なるご迷惑とご心配をおかけいたしま
すことを深くお詫び申し上げます。
 当社グループは一丸となって、信頼の回復と企業価値の向上に努めてまいりますので、今後ともご支援を
賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

                                                以上
                                  2020 年 3 月 12 日


ネットワンシステムズ株式会社       御中




   納品実体のない取引に関する調査
             最終報告書
             (開示版)




    ネットワンシステムズ株式会社            特別調査委員会



         委員長     濵        邦   久


         委   員   芝        昭   彦


         委   員   岩   田    知   孝
目次

第1   特別調査委員会による本報告書の趣意等 .............................. 4

 1   特別調査委員会設置の端緒及び目的 .................................. 4
 2   当委員会の構成 .................................................... 4
 3   留意事項 .......................................................... 4

第2   調査補助者、調査期間及び調査方法 .................................. 5

 1   調査補助者 ........................................................ 5
 2   調査期間 .......................................................... 6
 3   調査対象期間 ...................................................... 6
 4   調査方法 .......................................................... 6
 (1)当委員会による関係者らに対するヒアリング ........................ 7
 (2)当委員会が貴社から開示を受けた資料 .............................. 7
 (3)会計データ及び各種証憑類等(他社提供の証憑を含む)の閲覧及び検
      討   ............................................................. 7
 (4)デジタル・フォレンジック調査 .................................... 7
 (5)社内アンケートの実施 ............................................ 8
 (6)社外アンケートの実施 ............................................ 8
 (7)ホットラインの開設 .............................................. 8

第3   調査結果 .......................................................... 8

 1   貴社に関する基本情報 .............................................. 8
 (1)貴社の概要 ...................................................... 8
 (2)貴社の組織・体制 ................................................ 9
 2   第 1 営業部の体制及び営業第 1 チームの業務等 ....................... 14
 (1)第 1 営業部の職務 ............................................... 14
 (2)第 1 営業部の体制 ............................................... 14
 (3)取引の基本的な流れ ............................................. 14
 (4)商流取引 ....................................................... 15
 (5)純額取引に係るルール ........................................... 16
 3   本不正行為 ....................................................... 16
 (1)本不正行為の内容 ............................................... 16
 (2)本不正行為の態様及び手口 ....................................... 20
 (3)本調査において発見された本不正行為以外の不適切な取引 ........... 29
 4   貴社連結財務諸表への影響 ......................................... 30
                                  1
 (1)総論 ........................................................... 30
 (2)本不正行為に関する修正仕訳及び影響額 ........................... 31
 (3)本不正行為以外の不適切な取引に関する修正仕訳及び影響額 ......... 31

第4     本不正行為発生の原因分析 ......................................... 32

 1     総論 ............................................................. 32
 2     不正リスクの管理に関する問題 ..................................... 33
 (1)ルール等の形骸化 ............................................... 33
 (2)リスク管理態勢上の問題点 ....................................... 37
 (3)内部統制に係る問題 ............................................. 42
 3     コンプライアンス活動に関する問題 ................................. 45
 (1)コンプライアンス活動の空回り ................................... 45
 (2)経営層・幹部層の取組み姿勢の問題 ............................... 46
 (3)2013 事案を踏まえた再発防止策の不徹底 .......................... 47
 (4)貴社の組織風土の問題 ........................................... 47

第5     再発防止策 ....................................................... 48

 1     経営層・幹部層による営業現場の実態把握 ........................... 48
 2     リスク管理態勢の見直し ........................................... 48
 3     内部統制に関する見直し ........................................... 49
 (1)営業担当者と仕入先・外注先との癒着防止策 ....................... 49
 (2)直送取引における検収確認の強化 ................................. 49
 (3)業務フローの見直し ............................................. 50
 (4)外注先調査権限の強化 ........................................... 50
 4     コンプライアンス活動の見直し ..................................... 50
 (1)経営層・幹部層によるコンプライアンスへのコミットメント ......... 50
 (2)自ら考えるコンプライアンス活動の実践 ........................... 50
 (3)組織風土の検証とより良い風土づくり ............................. 51

別紙 1      デジタル・フォレンジック概要.................................. 52

 1     本調査での実施事項 ............................................... 52
 (1)保全対象データ ................................................. 52
 (2)削除データの復元 ............................................... 53
 2     調査対象者と保全対象機器 ......................................... 53
 3     保全データの規模 ................................................. 54

別紙 2    案件内訳(受注ベース) .......................................... 55

                                    2
別紙 3   企業風土等の分析結果 ............................................ 56

 (1)企業風土の分析方法としての「属人的組織風土」の分析 ............. 56
 (2)組織風土の属人度の測定 ......................................... 56
 (3)貴社及び調査対象子会社の属人度 ................................. 58




                               3
第1    特別調査委員会による本報告書の趣意等
 1    特別調査委員会設置の端緒及び目的
      貴社は、2019 年 11 月、東京国税局による税務調査の過程で、一部取引につい
     て納品の事実が確認できない取引がある旨の疑義があるとの指摘を受けた。貴社
     は、社内調査チームを組成して社内関係者へのヒアリングを行うなどの調査を行
     ったところ、その事実経緯の正確な把握には、取引先を含めたより広範かつ深度
     ある調査が必要な状況にあるとの認識を持つに至り、同年 12 月 13 日、納品の事
     実が確認できない取引及びこれに類似する不正の有無・態様の確認並びに原因究
     明等、貴社連結財務諸表への影響額の算定及び判明した事実を踏まえた再発防止
     策の検討(以下「本調査」という。)のため、特別調査委員会(以下「当委員会」
     という。)を設置することを決定し、その旨を公表した。
      当委員会は、貴社からのかかる依頼を受けて本調査を実施し、本書(以下「本
     報告書」という。)をもって本調査の結果を報告するとともに、これを踏まえた
     再発防止策に関する提言を行うものである。なお、当委員会は、2020 年 2 月 13
     日付け「納品実体のない取引に関する調査中間報告書」を貴社に提出しているが、
     同中間報告書と本報告書との内容に相違がある箇所については、本報告書の内容
     に更新等されたものとして取り扱われたい。


 2    当委員会の構成
      当委員会は、以下の委員により構成される。


       委 員長:濵     邦久(濵法律事務所   弁護士   元東京高等検察庁検事長)
       委   員:芝    昭彦(芝・田中経営法律事務所     弁護士)
       委   員:岩田   知孝(株式会社KPMG FAS    弁護士    公認会計士)


 3    留意事項
      本調査及び本報告書は、以下の事項を前提とする点に留意されたい。
 (1)本調査は、後述第2の4「調査方法」に記載のとおり、当委員会が貴社から
      入手した資料及び貴社又は取引先等の関係者へのヒアリング等に基づき、後述
      第2の2記載の調査期間内で行われたものであり、本報告書作成時までに分析、
      検討等した資料から確認できた内容のうち、本調査の目的に照らして指摘する
      べきであると考えられる点について記載しているものであって、入手した資料
      等から確認できた内容の全てを網羅的に記載したものではないこと




                          4
 (2)後述のとおり、入手資料については、貴社から提供を受けたものであり、メ
     ールサーバや個々人のメールを独自に全て収集し精査したものではなく、限定
     的なものであること
 (3)本調査においては、以下の事項を前提としていること
     ① 検討対象となった書類上の署名及び押印は真正になされたものであること
     ② 写しとして開示を受けた書類は、いずれも原本の正確かつ完全な写しである
       こと
 (4)本報告書は、前述(2)及び(3)のとおりの前提において作成されたもの
      であり、本調査外の資料及び関係者の供述等により本報告書と異なる事実が認
      められることを否定するものではない。そのため、新たな事実関係が判明した
      場合には、本報告書と異なる結論に至ることもあり得ること
 (5)ヒアリングの内容については第三者に開示しないという前提で実施している
     ところ、本報告書には、性質上、ヒアリング内容を適宜記載しているので、取
     扱いに厳重な注意が必要であること
 (6)本調査及び本報告書作成は、貴社との関係において客観的立場においてなさ
     れたものであり、かかる立場確保のために、貴社その他いかなる者も本報告書
     作成者に対していかなる権利も取得せず、本報告書作成者に対していかなる請
     求も起こさず、本報告書を証拠、資料その他主張等の根拠として使用しないこ
     と及び本報告書作成者は、貴社その他いかなる者に対しても何らの義務及び責
     任を負わないこと


      なお、本報告書においては、下表のとおりの略語を用いる。役職について
     は、現在の役職にて記載することを基本とし、必要があれば、当時の役職を記
     載する。


                   正式名称/内容                     略称
     ネットワンシステムズ株式会社                      貴社
     元東日本第 1 事業本部第 1 営業部営業第 1 チームシニアマネ   A氏
     ージャーA 氏
     同第 1 営業部営業第 1 チーム従業員                B 氏乃至 E 氏
     中央省庁を総称する表記                         中央省庁


第2    調査補助者、調査期間及び調査方法
 1    調査補助者
     当委員会は、本調査の実施に当たり、以下の弁護士に対し本調査の補助を依頼
 した。



                            5
     和田法律事務所
     弁護士    西岡    環
     TMI総合法律事務所
     弁護士    菊田    行紘         同       田代   啓史郎   同   高野    大滋郎
       同    近藤    圭介         同       鈴木   弘記    同   山口    俊
       同    合田    顕宏         同       松永   耕明    同   熊澤    啓介
       同    藤井    裕季         同       中村   恵太    同   岩田    周
       同    南     悠樹         同       平    龍大    同   山田    皓介
       同    鍛治    亮太         同       川浦   翔太    同   大栢    美緒
       同    清水    一平         同       正田   琢也    同   板井    遼平


    また、当委員会は、本調査の実施に当たり、デジタル・フォレンジック等につい
て株式会社KPMG             FAS(以下「KPMG」という。)に所属する以下の専門家を
起用するとともに、本調査を効率的に行うため、先行して調査を実施していた貴
社社内調査チームからの情報提供及び補助を得て、本調査を実施した。


     株式会社KPMG          FAS
     公認会計士       見越    敬夫            山田 昂輝          他7名


2    調査期間
     本報告書は、2019 年 12 月 13 日から 2020 年 3 月 11 日まで(以下「本調査期
    間」という。)の調査に基づいているものである。


3    調査対象期間
    本調査の対象期間については、必要性と実効性を勘案して、2012 年 1 月から 2019
年 11 月 30 日(以下「本調査対象期間」という。)としたが、必要に応じてそれ
以前の期間に遡って調査を実施した。


4    調査方法
     当委員会は、以下のとおり、関係者へのヒアリング、並びに貴社及び協力を得
    られた取引先等から提供を受けた資料の分析・検討等の方法により、本調査を実
    施した。




                                 6
(1)当委員会による関係者らに対するヒアリング
   当委員会は、2019 年 12 月 16 日から 2020 年 3 月 6 日までの間、本不正行為
  の関係者(貴社役職員及び退職者並びに一部の取引先の担当者)延べ 61 名から
  ヒアリングを実施した。その合計時間は 70 時間 25 分である。
   また、当委員会は、自ら又は貴社を通じて、9 社の取引先に対して担当者へ
  のヒアリングの要請を行ったところ、本調査期間において、うち 5 社はこの要
  請に応じたことから当委員会としてヒアリングを実施し、うち 1 社からは書面
  での回答を受領したもののヒアリングは実施できておらず、それ以外の 3 社に
  対してはヒアリングを実施できていない。
   また、当委員会は、ヒアリングの実施と並行して、同種類似事案の有無に関
  する調査の目的で一定金額以上の外注取引を抽出し、当該取引の実在性を確認
  する質問票を、当委員会から営業担当者 175 名に電子媒体を通じて直接送付し、
  その回答を受けた。


(2)当委員会が貴社から開示を受けた資料
   当委員会は、貴社に対し、随時、分析・検討等が必要となると考えた資料(社
  内規程類やマニュアル等)の開示を依頼し、その開示を受けて内容を分析・検
  討した。
   当委員会は、これに加えて、貴社関係者の各ヒアリング時に各人が持参し当
  委員会に提供があった資料、並びに、各ヒアリング時等に当委員会から関係資
  料の提示を求めたことにより当委員会に各関係者から提供があった資料につい
  ても分析・検討した。


(3)会計データ及び各種証憑類等(他社提供の証憑を含む)の閲覧及び検討
   当委員会は、貴社に対し、随時、2012 年 4 月から 2019 年 11 月までの間の貴
  社の会計データ・取引データ及び証憑資料の開示を依頼し、その開示を受けて
  取引の実在性を検討した。
   また、貴社、乙社及び丙社の 3 社協同で行われた不正行為の認定作業結果及
  び他社提供の証憑についても貴社から提供を受けて、不正行為の全体像の把握
  を行うとともに、個別取引の実在性について検討を行った。


(4)デジタル・フォレンジック調査
   当委員会は、調査補助者である KPMG に指示して、関与が想定される対象役職
  員 17 名のメール、チャット、及び携帯電話等の保全を実施し、2012 年 4 月以
  降のメールデータをキーワード検索等により絞り込み、レビューを実施し、重

                        7
     要メールとして抽出されたものを証拠として活用した。その詳細は、別紙 1 記
     載のとおりである。


(5)社内アンケートの実施
      当委員会は、貴社及び貴社子会社であるネットワンパートナーズ株式会社(以
     下「調査対象子会社」という。)の事業本部所属の営業職、技術職及び企画事
     務職従業員合計 1,129 名に対し、アンケートを実施した。


(6)社外アンケートの実施
      当委員会は、第 1、1 記載の類似する不正の調査を主たる目的として、一定金
     額以上の取引高があった取引先(得意先・仕入先・外注先)に対して、アンケ
     ートを実施した。


(7)ホットラインの開設
      当委員会は、第 1、1 記載の類似する不正の調査を主たる目的として、下記の
     とおり貴社及び調査対象子会社の役職員向けのホットラインを設定した。


                                  記
      通報期間:2019 年 12 月 19 日~2020 年 1 月 10 日
      受付方法:Web 及び電話


第3   調査結果
 1   貴社に関する基本情報
(1)貴社の概要
      貴社は、1988年11月、東京都港区において、LAN(ローカルエリアネットワー
     クシステム)の販売を目的として設立され、2001年1月に東京証券取引所市場第
     一部に上場した。
      貴社及び貴社の関連会社の中心的な事業は、ICTシステムを構成するネット
     ワークやプラットフォーム等の製品(ルータ、スイッチ、光伝送、無線、仮想
     化ソフトウェア、サーバ、ストレージ、ファイアウォール、認証・検疫ビデオ
     会議、コミュニケーションソフトウェア等)の販売、主にそれらの機器を組み
     合わせたシステムに係るサポートの提供(コンサルティング、システム設計・
     構築・保守・運用、技術者教育等)である。
      2019年3月期の連結売上高は1,819億3,500万円、従業員数は連結で2,294名、
     単体で2,141名である。

                              8
(2)貴社の組織・体制
  ア    組織
       貴社は、基本的には、決裁権限規程、職務分掌規程及び職務権限基準表に
      基づいて、所管する業務や決裁権限を各部署の各役職者等に割り当てている。
       貴社のコーポレート・ガバナンス及びリスク管理・コンプライアンスに関
      する各体制は、以下のとおりである。


  イ    コーポレート・ガバナンスに関する体制
       貴社のコーポレート・ガバナンスに関する体制は以下のとおりである。な
      お、以下の記述及び図は、貴社の有価証券報告書及び訂正報告書並びに貴社
      のウェブサイト上の記載を一部引用している。


  (ア)コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方
        貴社は、「すべてのステークホルダーから信頼され支持される企業(ア
       ドマイヤード・カンパニー)になること」という経営ビジョンのもと、継
       続した成長を最大の目標とし、当該目標を達成し、中長期的な企業価値の
       向上を図るため、透明・公正かつ迅速果断な意思決定を実現するコーポレ
       ート・ガバナンスの充実・強化に継続的に取り組む旨を表明し、コーポレ
       ート・ガバナンスに関する基本的な考え方及び枠組みを定めた「コーポレ
       ートガバナンス・ガイドライン」を、貴社のウェブサイトにおいて公表し
       ている。


  (イ)企業統治の体制の概要
        貴社は、監査役会設置会社であり、取締役会の 30%以上を構成する独立
       社外取締役による経営・職務執行の監督に加え、監査役会の半数以上を構
       成する独立社外監査役による取締役の職務執行の監査、執行役員制度の導
       入による取締役会の経営管理・監督機能強化及び業務執行の効率化・迅速
       化並びに諮問委員会による取締役及び執行役員の選任、解任及び報酬等の
       公正性・客観性の確保を通して、実効性の高いコーポレート・ガバナンス
       体制の構築を図ろうとしている。




                     9
a    取締役及び取締役会
     貴社の取締役会は、独立社外取締役 4 名(全員を東京証券取引所へ独
    立役員として届出)を含む 11 名(男性 10 名、女性 1 名)で構成され、
    原則として月 1 回の開催とし、法令及び定款に定める事項のほか、経営
    ビジョンや経営方針、中期事業計画その他経営・業務執行に関する重要
    事項を決定するとともに、取締役の職務執行状況の報告等を通して、経
    営全般についての監督を行っている。


b    監査役及び監査役会
     貴社の監査役会は、独立社外監査役 3 名(全員を東京証券取引所へ独
    立役員として届出)を含む 4 名(男性 4 名、女性 0 名)で構成され、原
    則として月 1 回開催されている。詳細は後述オのとおりである。




c    各種委員会
(a)諮問委員会
      貴社においては、経営の透明性・公正性を高め、コーポレート・ガ
     バナンスを強化するため、取締役会の諮問機関として諮問委員会が設
     置されている。諮問委員会は、社外取締役が議長を務め、代表取締役、
     社外取締役、常勤監査役及び社外監査役で構成され、取締役及び執行
     役員の選任、解任及び報酬等に関する事項を審議及び答申している。

                   10
    (b)経営委員会
          貴社においては、取締役会の機能に関し、経営管理・監督機能への
         重点化を図り、経営の透明性及び公正性を確保するとともに、迅速か
         つ効率的な業務遂行体制を構築するため、代表取締役社長のもとに経
         営委員会が設置されている。経営委員会は、社内規程により取締役会
         の決議を要さない事項の決裁権限を委任されており、会社経営上基本
         的又は重要な事項につき審議・決定している。経営委員会の委員長は
         社長であり、委員は社外取締役を除く取締役及び委員長が任命した者
         とされ、オブザーバーとして社外取締役、常勤監査役、社外監査役、
         相談役及び特別顧問が参加する。


ウ   リスク管理・コンプライアンスに関する体制
(ア)リスク管理体制
    a   リスクマネジメント統括責任者(CRO)
         貴社グループのリスク管理活動を統括管理する者として、貴社にリス
        クマネジメント統括責任者(CRO)が置かれている。CRO には、取締役管
        理本部長が充てられている。


    b    リスク・コンプライアンス委員会
         リスク・コンプライアンス委員会は、貴社グループのコンプライアン
        ス強化を推進するとともに、企業価値の持続的な向上を図るため、経営
        委員会の諮問機関として設置され、貴社グループのリスク管理活動及び
        コンプライアンス活動に係る重要事項を審議及び答申している。


(イ)コンプライアンスに関する体制
        コンプライアンスの体制としては、①リスク・コンプライアンス委員会、
    ②コンプライアンス統括責任者(チーフ・コンプライアンス・オフィサー
    (CCO))(取締役管理本部長が充てられている)、③コンプライアンス統
    括部門(法務・CSR 室とされている)、④部門コンプライアンス責任者(各
    部の部長が充てられている)が設置されている。
        また、貴社は、コンプライアンスの浸透と徹底のための活動として、(a)
    各種社内研修や法令・ルール遵守チェックの実施、(b)通報・相談窓口(内
    部通報制度)の整備、(c)コンプライアンスマニュアルの配布と誓約書兼受
    領書への署名・押印の受領、(d)コンプライアンス必携カードの配布、(e)

                      11
    コンプライアンス・アンケートの実施、(f)メールマガジンや社内ポータル、
    ビデオオンデマンドによる各種情報提供、(g)反社会的勢力への対応等を
    実施している。


(ウ)内部通報制度
     貴社の内部通報制度においては、社内窓口が設置されているほか、社外
    窓口として外部の法律事務所に窓口が置かれている。また、役員のコンプ
    ライアンスに関する事項については、監査役にも通報が可能である。この
    ほか、外部の取引先等が利用できる窓口も設置されている。


エ   内部監査室による監査
(ア)内部監査室の職務
     内部監査室においては、監査役、会計監査人及び内部統制関連部門と密
    接に連携を保ちつつ、会社の業務方針が経営方針、社内規程等に沿ってい
    るか、法令等に抵触することなく行われているかという点を効率的に調査
    することにより、貴社の経営管理に資することを職務とし、会計、業務、
    制度等の会社業務全般にわたる監査計画の立案及び監査の実施、監査結果
    に基づく助言・勧告及び関連部門に対する必要な措置等の実施、金融商品
    取引法 に定 められ た内 部統制 評価 報告書 作成 に係る 評価 計画策 定 及 び 評
    価の実施等を業務として行っている。


(イ)営業部門に対する内部監査
     営業部門に対する内部監査においては、売上規模、取引件数や過去の内
    部監査の実績等を基準として対象となる案件を選定し、貴社内の販売管理
    システム内に保存された帳票類を確認・検討する。


(ウ)監査報告
     内部監査室は、内部監査の終了後、定期的(年 2 回)に社長、経営委員
    会及び取締役会に監査報告を行うとともに、内部監査の対象となった部門
    に対して、監査報告を行う。監査報告書の中に、内部監査対象部門に対す
    るアクションという項目があり、指摘事項に対する内部監査室としての改
    善要望が記載されている。




                      12
(エ)純額取引に対する内部監査
      貴社においては、2018 年度まで、A 氏が所属していた東日本第 1 事業本
     部第 1 営業部(以下「第 1 営業部」という。)営業第 1 チーム(以下「営
     業第 1 チーム」という。)が関与した純額取引(発注した商品・サービス
     が顧客指定先へ直送され、貴社が当該案件について付加価値を提供せずに
     手数料を取得する取引であって、貴社の手数料のみが売上げとして計上さ
     れるもの。詳細は後述する。)のうち、会計監査人による監査の対象とな
     ったものについては、内部監査の対象案件から除外されていた。その理由
     は、営業第 1 チームの純額取引について、会計監査人がかなり厳格に検討
     している以上、これに重ねて内部監査を実施する意味は乏しいと判断され
     たためとのことである。


オ    監査役による監査
     監査役監査については、監査役会が定めた監査の方針、計画、業務の分担
    等に従い、各監査役が、取締役会、経営委員会、諮問委員会及びリスク・コ
    ンプライアンス委員会等の重要な会議に出席し、経営、業務執行に関する重
    要事項の審議に際しては適宜意見を述べ、経営・業務執行状況の報告の聴取
    を行うとともに、貴社及び子会社の業務並びに財産の状況の調査等により、
    法令及び定款への適合性の観点から取締役の職務の執行を監査している。


カ    会計監査人による監査
     貴社の会計監査人は、1992年以降変更されていないが、その監査計画にお
    いては、売上取引の実在性の検証は重点監査項目に選定されていた。貴社会
    計監査人は、監査手続の実施に際しては、貴社の売上取引に関する内部統制
    は監査上依拠できるものと判断し、一定金額以上の取引、循環取引の可能性
    がある低粗利率の取引等、複数の基準を用いたサンプリングにより抽出され
    た売上取引を個別検証することで監査上の心証形成を行っていた。
     当該抽出基準により選定された取引には、本調査で納品実体がない取引と
    認定された取引(以下「本件監査対象取引」という。)が含まれていた。当
    該取引について、貴社会計監査人は、A氏等に対して案件の背景事情について
    ヒアリングを行うとともに、内部・外部証憑の証憑突合を実施していた。貴
    社会計監査人が入手した外部証憑には、取引発生時点で貴社が既に入手して
    いた証憑のほか、サンプリング終了後貴社会計監査人からの資料要求に対応
    してA氏が直接の売上先及び仕入先の担当者に要請し、新たに入手した証憑



                     13
     も含まれていた。こうした手続を経た結果として、貴社は、貴社会計監査人
     より本件監査対象取引の実在性に関する問題点を指摘されたことはなかった。


2   第 1 営業部の体制及び営業第 1 チームの業務等
(1)第 1 営業部の職務
     A氏が所属していた第1営業部は、首都圏、北関東、信越の公共市場及び社会
    インフラ市場を主に担当している(公共市場とは、中央省庁、地方公共団体、
    文教、ヘルスケアを指す。社会インフラ市場とは、電力、鉄道、ガスを指す。 。
                                       )
     営業部は、営業職、技術職及び企画事務職で構成されており、主管する市場・
    顧客に対する営業計画の策定、受注、売上げ、利益及び回収に関して実行責任
    を負うほか、顧客に対する事業活動全般に関する責任を負う。
     A氏が所属していた営業第1チームは、公共市場(中央省庁)を担当し、2019
    年11月1日時点で9名が所属していた。営業第1チームにおいては、基本的にエン
    ドユーザーである中央省庁ごとに担当者が決められていた。
     営業第1チームは、上記のとおり中央省庁を顧客とする案件を担当しており、
    主として入札への参加及びその落札を営業活動の目標とし、顧客である中央省
    庁に対し、様々な提案活動を継続的に行う。入札の流れは、概ね、①中央省庁
    において調達等を入札に付すことが決まり、入札公告がされると、②その内容
    に基づいて、各入札参加者が資格審査申請書や提案書等の必要書類を作成・提
    出し、③中央省庁の審査に合格すれば入札通知を受領し、④入札公告の内容に
    従って入札申請書や添付資料を作成・提出して入札し、⑤開札されて受注の可
    否が決まるというものである。入札の対象には、入札仕様書や調達仕様書の作
    成支援等のコンサルティング業務も含まれており、営業第1チームがこれを落
    札して業務提供することも多い。営業第1チームは、このように中央省庁を顧客
    とする案件を担当していることから、貴社の霞が関オフィスにて勤務している。


(2)第 1 営業部の体制
     東日本第1事業本部には、本部長、副本部長、部長、副部長、マネージャーの
    役職がある。顧客に対する見積りの提出や取引実施については、貴社社内規程
    所定の基準に従い、各役職者による決裁が必要とされている。
     マネージャーは、営業担当者が作成した顧客宛て見積書を第一次的に審理・
    承認する立場にある。


(3)取引の基本的な流れ
     第 1 営業部が行う物販取引の主な流れは、以下のとおりである。

                      14
   営業担当者は、将来的な受注を目指す案件開拓の段階で、その案件について、
  顧客名、取引の内容(物販、作業、期間対応等)、金額、受注見込み等の情報を
  販売管理システムに入力し、登録する。この案件登録により、その案件につい
  て個別の ID がシステム上で発番される。登録された案件の進捗状況について
  は、その案件を登録した営業担当者が、適宜情報を更新し、管理する。顧客に
  対する見積りの提出に当たり、承認権者の承認が必要となることは前述のとお
  りであり、顧客から当該見積りに基づいて注文を受けると、営業担当者は、そ
  の案件について受注した旨登録情報を更新する。
   物品の仕入れは、グループ購買・物流部(以下「購買部」という。)が、仕入
  先から営業担当者が取得した見積書に基づき、所定の承認手続を経て、当該仕
  入先に注文書を発行することにより行われる。購買部が当該物品の検収証跡を
  確認し、支払依頼を行った後、経理部が当該仕入先から受領した請求書の内容
  等を確認し、所定の承認手続を経た上で当該仕入先への支払を行う。
   また、貴社から顧客に対して当該物品が出荷、納入されたことを営業担当者
  が確認し、売上げが計上されると、営業支援室担当者が当該顧客に対して請求
  書を送付する。


(4)商流取引
   営業第 1 チームが担当する中央省庁をエンドユーザーとする入札案件におい
  ては、その性質上、以下の特色が見受けられる。
   中央省庁向けの入札案件は、基本的にシステム全般の大規模な構築等を伴う
  ものであることから、貴社の他部門が担当する顧客に対する営業活動とは異な
  り、貴社として、自社が得意とする製品を売り込むのではなく、入札案件にお
  けるコンサルティング業務(入札の対象とするシステムの仕様の設計や、調達
  仕様書の作成の支援等)から関与することも多い。中央省庁においてシステム
  構築を行う際のコンサルティング業務を落札した業者は、いわゆる設計施工分
  離のルールから、その後の構築請負契約の入札に参加することはできないとこ
  ろ、コンサルティングを担当した業者は、当該入札案件に関する様々な情報を
  持っていることから、落札した業者が、コンサルティングを担当した業者に対
  して、物品の調達につき当該業者を介して行う取引(以下「商流取引」という。)
  への参加を打診してくる傾向にあった。
   貴社としては、コンサルティング業務は、貴社技術部門の担当者や外注先が
  多大な労力をかけて、相当な期間にわたって実施するものであり、その利益率
  は低くならざるを得ないことから、商流取引に応じることで、一定の利益を上
  げ、当該案件全体としての収益性を高めることができる。このような商流取引

                  15
    は、貴社においては 2005 年頃から開始されており、貴社が商流取引に関与する
    場合には、一定の利益率を確保するよう営業担当者に指導されており、商流取
    引に入る業者が得る利益率の相場もこれと同程度の水準とのことである。
        貴社においては、商流取引についても一定金額以上の案件については、通常
    の案件と同様に上長による承認が必要とされており、営業担当者は上長に対し
    て、その案件に商流取引として貴社が入る理由や背景事情の合理性、具体的な
    入札案件の内容、落札業者、貴社が取り扱う製品の内容、仕入先及び納品先等
    について、説明する必要がある。


(5)純額取引に係るルール
        貴社の受注取引のうち、発注した商品・サービスが顧客指定先への直送であ
    り、貴社が当該案件について付加価値を提供せずに、手数料を取得するような
    ものについては、
           「純額取引」として扱われ、利益のみを売上げとして計上する
    ものとされている。営業担当者は、このような純額取引を行う場合には、案件
    登録時に必要事項を記入した申請書等の書面をもって、順次承認を得る必要が
    ある。この申請書は、ワークフロー上に添付するものであり、チェック事項の
    1 つに「コンプライアンス違反にあたる取引ではない」というものがあり、チ
    ェックして申請する必要がある。


3   本不正行為
(1)本不正行為の内容
        当委員会は、本調査によって得られた資料等の検討・分析により、不正行為
    の有無・態様、背景事情等を、以下のとおり認定した。当委員会では、可能な
    限りの調査を実施したものであるが、必ずしも網羅的なものではないことは留
    意されたい。


    ア    本不正行為の概要
         第 1、 記載の納品の事実が確認できない取引は、中央省庁をエンドユーザ
             1
        ーとする架空の物品販売を内容とする商流取引を順次繰り返す形で行われて
        いた(以下「本不正行為」という。)。貴社においては、本不正行為の期間
        中、営業第 1 チームのマネージャーであった A 氏が、本不正行為による取引
        の当事会社(後に定義する。)の担当者らと連絡を取り合い、A 氏の部下ら
        に対して必要書類の一部の作成を命じ、A 氏の上長に対して架空の商流取引
        である事実を秘して決裁を受け、本不正行為に係る取引を実行していた。す
        なわち、本不正行為は、貴社において組織的に実行されたものではなく、全

                        16
容を把握して架空の商流取引であることを認識していたのは A 氏のみであり、
A 氏が単独で行っていたものであった。
 営業第 1 チームは、前述のとおり、その業務の 1 つとして、中央省庁をエ
ンドユーザーとする情報システムに関するソフトウェア及びハードウェアの
販売を行っており、その形態には、中央省庁から各取引を落札して、他社か
ら情報システムに関するソフトウェア及びハードウェアを仕入れ、これを当
該省庁に納入するものの他に、他社が落札した案件につき、当該落札業者の
下請けとして、物品の仕入れ及び納品を行い、マージンを得る商流取引も行
っていた。
 中央省庁の商流取引における本来の取引の流れは、「メーカー(→仕入業
者)→貴社→落札業者→省庁」となる。
 これに対し、本不正行為の場合の取引の流れは、「仕入業者→貴社→落札
業者→仕入業者」となり、架空の物品販売であるため、製品の実際の納入は
なく、帳票類の受渡しと代金名下での金銭の授受のみが当事会社間で行われ
ていた。
 本不正行為は、貴社においては貴社のマネージャー職にあった A 氏により
差配されていた。その架空取引の外形は、貴社を含む各当事会社が、自社の
上流の会社(自社の販売先又はその先の販売先)が中央省庁から実際に落札
した案件の商流取引に入るというものである。このような外形の下で、その
商流取引の対象である製品は、自社の下流の会社(自社の仕入先)から、自
社の上流の会社(自社の販売先)が指定した場所に直接納入されることにな
っていた。例えば、貴社から見ると、取引に使われた中央省庁の案件は、実
際に中央省庁が入札を実施した案件であり、貴社の上流にいる会社(販売先)
は実際に当該案件を落札していたが、A 氏は、貴社が当該落札業者から物品
の調達・納入を受注する商流取引に入ることができたかのように装っていた
(実際には、当該落札業者は、貴社とは別の業者に発注していたものと思わ
れる。)。また、過去に落札された実在の中央省庁案件又は貴社が過去にコ
ンサルティング業務を受注して実施し、入札が行われた案件につき、当該案
件の追加発注という名目で架空の案件を作出していたものもあった。
 本不正行為により、各当事会社(後に定義する)は、下流の仕入先から仕
入れた物品に一定の利益を乗せて上流の会社(販売先)に納品していたが、
これは、当事会社間で帳票類の受渡しと代金名下での金銭の授受が繰り返さ
れる、実体のない架空取引であった。そのため、各社が代金名下の金額に利
益を加算して販売し、その次の取引では更に利益を上乗せした金額で再び仕
入れ、支払を行うことになることから、取引が繰り返される度に売上が計上

                17
    され、かつ売上代金の金額が加算されていった。また、繰り返されていた取
    引の一部は、途中で分割して複数の会社に発注され、最終の仕入業者等に代
    金名下に資金が流出していたと認められる。
     なお、A 氏の供述によれば、A 氏が本不正行為を行ったのは、第 1 営業部が
    大規模な赤字を発生させたことなどから縮小傾向にあった中で、某中央省庁
    発注の大型案件を A 氏のチームが失注したことから、これを挽回し、第 1 営
    業部のプレゼンスを上げるためであったとのことであり、その後も、予算の
    達成が第 1 営業部のプレゼンス向上の生命線であったため、本不正行為を止
    められなかったとのことである。また、A 氏の供述によれば、本不正行為に
    よって具体的な利益を得た者は自身を含めて存在しないとのことである。た
    だし、現時点において、これら A 氏の供述を裏付けるものはなく、本不正行
    為により支払われた金銭の一部が流出していることなども勘案すると、その
    供述内容の信用性には疑問がある。


イ    本不正行為に関与していた会社
(ア)本不正行為の当事会社
      本不正行為は、中央省庁をエンドユーザーとする架空の物品販売を内容
     とする取引であるが、貴社のほか、情報システムに関する機器等の販売等
     を行う甲社、乙社、丙社、丁社及び戊社の 5 社(以下、これらを併せて「当
     事会社」という。)により繰り返されていた。
      なお、当事会社の各担当者が A 氏と連絡を取り合い、本不正行為のため
     に必要な書類をやり取りしていたことは認められるが、各担当者が、本不
     正行為が架空の商流取引であることを認識していた事実や、A 氏と共謀し
     ていた事実については、これまでの本調査においては判然とせず、現時点
     で認定するには至っていない。


(イ)本不正行為による取引の代金の一部が流出した会社
      本不正行為は、前述のとおり、架空の商流取引が繰り返される度に売上
     が計上され、かつ売上代金が加算されていくが、かかる取引の途中で、案
     件を分割して戊社に架空発注し、さらに同社から前述の当事会社以外の複
     数の業者(以下「関与会社」という。)に架空発注されることがあった。
     すなわち、戊社及び同社の発注先である業者に対し、本不正行為によって
     支払われた金銭の一部が流出していると認められる。
      例えば、A 氏の供述では、将来貴社(営業第 1 チーム)が中央省庁案件
     を獲得できた場合に、その下請業務を格安で発注できる業者を用意するた

                    18
     め、アプリケーションの開発を行う SE の教育費という名目で、戊社を通
     じて A 氏の友人が経営する会社に対して、毎月数千万円規模の資金を支払
     っていたとのことである。しかしながら、かかる供述の根拠となる資料は
     現時点で発見されていない。また、A 氏によると、実在する営業第 1 チー
     ムの案件において、その利益率を維持するため、関与会社の一部に対し、
     当該案件における発注金額は本来必要な金額よりも低く抑えるように要
     請しつつ、その埋め合わせとして、本不正行為による取引の代金の一部を、
     戊社を通じて当該関与会社に支払っていたとのことである。
      なお、関与会社の各担当者が A 氏と連絡を取り合い、必要な書類をやり
     取りしていたことは認められるが、本不正行為について全容を把握して架
     空の商流取引であることを認識していた事実や、A 氏と共謀していた事実
     についてまでは、これまでの本調査においては判然とせず、現時点で認定
     するには至っていない。


ウ    本不正行為の規模等
     本調査により判明した本不正行為の発生金額の推移は、別紙 2 のとおりで
    ある。
     本不正行為は、その始期が 2015 年 2 月頃であり、これが発覚した 2019 年
    11 月まで取引規模を拡大しつつ継続した。
     貴社において本不正行為による取引と認められるものは、案件数にして 39
    件、受注総額として約 279 億円、売上額として約 276 億円と算定されている。
     本調査により判明した関係当事者間の資金移動状況は下図(資金移動イメ
    ージ図)のとおりであり、全体として複雑かつ重層的に本不正行為に係る取
    引が累積していた状況が窺える。




                      19
(資金移動イメージ図)
                      甲社             資金の流れ




          丁社          貴社        乙社           戊社




                                         その他


                      丙社



(2)本不正行為の態様及び手口
  ア       本不正行為による取引の内容
          本調査によって本不正行為による取引であると認められた案件は別紙 2 の
      とおりであるが、手法に関する A 氏の説明、指示を受けていた部下らの説明
      及び証憑類等を考察すると、その取引の態様・手口は、基本的には同じであ
      るとみられるため、その共通する手法について、A 氏が行った架空商流取引
      のうち、最も金額が大きい案件 A 及びその前段階の案件αを例にとり、以下
      のとおりその流れを説明する(A 氏による偽造注文書を利用して、案件名が
      β→α→A→B とすり替わっていく流れとなる。)。
      ⓪     まず、前提として、案件αの前の本不正行為による取引により、案件
          βとして処理しなければならない取引が発生しており、この案件βにつ
          いて甲社から貴社に発注がなされている(案件βについても貴社から丙
          社に対して正式の注文書が提出される。すなわち、貴社内では、正式に
          は案件βで丙社に発注する外観となっているが、それでは案件βで再度
          丙社が甲社に発注することとなり、再度当事会社間で同じ案件の取引が
          繰り返されてしまうので、架空取引であることが発覚してしまう。そこ
          で、発覚を避けるため、A 氏は、丙社の担当者に当該注文書(案件β)を
          使用しない又は差し替えるように依頼し、同社内では、当該発注につき、
          別途 A 氏より提出される案件αの偽造注文書により社内処理されること
          になる(下記③参照))。

                           20
①    A 氏が、甲社が中央省庁から入札によって受注したとされる案件α(先
    行する案件βに係る甲社からの発注に対処するため、本不正行為による
    取引であるのに、貴社においては、実在する某中央省庁の案件をベース
    に新たな案件(追加の物品調達)であるかのように件名が付され、案件
    登録される。)について、甲社から物品の調達について貴社が依頼を受け
    たものとして架空の商流取引を作出する。その際、A 氏は、貴社が丙社か
    ら当該物品を仕入れることとして、丙社及び甲社に対して、それぞれ案
    件αの見積りの内訳明細を交付する(なお、案件αの基礎となる案件は、
    実際に当該中央省庁作成の入札説明書、調達仕様書、要件定義書等が存
    在するなど実際に入札が行われた案件であり、甲社が現に落札したもの
    であったが、貴社が案件登録した案件αは、上記の商流取引に係る架空
    の物品調達案件であり、甲社として必要な物品の調達は、貴社とは別の
    他社に発注したものであるとみられる。 。
                      )
②    送付された内訳明細に基づき、A 氏は、丙社から貴社に案件αの見積
    書を発行させ、さらに貴社から甲社に対して案件αの見積書を交付する。
    甲社は丙社に対して案件 α の見積書を発行する。また、この際に、A 氏
    は、甲社に対して、貴社からの案件αの見積りを受けて、丙社へ自らの
    利益を乗せて案件αの見積書を交付するよう指示しているものとみられ
    る(なお、このケースでは、併せて別ルートとして、乙社及び己社に対
    しても、同様に己社から乙社へ、乙社から貴社へ、それぞれ案件αの見
    積書が交付されている。また、別途、戊社から丙社に案件αの見積書が
    交付されている。 。
            )
③    A 氏が丙社に対し、貴社の案件αに関し、本来であれば購買部から発
    行される貴社名義の注文書ではなく、貴社の東日本事業本部長(当時)
    ないし購買部名義の注文書を無断で偽造して交付する。A 氏が案件αの
    偽造注文書を発行する理由は、上記⓪において貴社が丙社から仕入れて
    甲社から発注を受ける(甲社に販売する)外観になっている案件βを、
    次の架空商流取引である案件αに換えるためであるとみられる(案件の
    内訳明細を変えることにより架空の取引が繰り返されていることが発覚
    しないようにするためである。すなわち、案件βは直前の架空商流取引
    であり、既に丙社から甲社に発注され、甲社から貴社に発注された物品
    であるため、丙社が再度同じ案件の内訳明細で甲社に発注することを避
    けるため、貴社が丙社に発注する商品名を貴社において(αに)変更す
    る必要が生じている。 。
              )
     なお、A 氏は、本不正行為による取引においては、件名を「省庁向け物

                   21
    品等一式」等、どの中央省庁の案件か外見からは不明な記載として、本
    不正行為による取引を繰り返し行っていることが発見されにくくなるよ
    うに細工していた。
④    上記③の偽造注文書を受けて、丙社は甲社に案件αの発注を出し、貴
    社は甲社から案件αの発注を受ける(これにより、案件βの商流から案
    件αの商流にすり替わって取引が続くことになる。なお、ここで、丙社
    は、別に戊社に対しても案件αの発注を出している。また、貴社は、乙
    社に対して案件αを発注し、乙社は更に己社に発注している。 。
                                )
⑤    A 氏は、丙社に対して、次の本不正行為による取引のために、案件αで
    はなく、案件αとは別の中央省庁の案件である案件 A であるかのように
    名目を変更し、貴社が丙社から当該案件 A に係る物品を仕入れる架空の
    商流取引を作出するため、丙社及び甲社に対して、それぞれ案件 A の見
    積りの内訳明細を交付する。
     なお、案件 A は、A 氏から上司らに対して、甲社が設備関連業務を某
    中央省庁との随意契約により受注したなどと説明し、貴社が当該中央省
    庁案件において甲社と協業していることを背景として、物品調達につい
    て依頼を受けて商流取引に入る旨が説明されていたが、実際には存在し
    ない全くの架空案件である。
⑥    送付された内訳明細に基づき、A 氏は、丙社から貴社に案件 A の見積
    書を発行させ、さらに貴社から甲社に対して案件 A の見積書を交付する。
    甲社は丙社に対して案件 A の見積書を発行する。また、この際に、A 氏
    は、甲社に対して、貴社からの案件 A の見積りを受けて、丙社へ自らの
    利益を乗せて案件 A の見積書を交付するよう指示しているものとみられ
    る。
⑦    ここで、A 氏は、丙社に対して、案件 A に関し、上記③と同様の偽造注
    文書を交付する。A 氏が案件 A の偽造注文書を発行する理由は、上記①
    乃至④において、貴社が丙社から仕入れて甲社から発注を受けた(甲社
    に販売した)外観となっている案件αを、次の架空商流取引である案件
    A にすり換えるためであるとみられる(すなわち、案件αは直前の架空
    商流取引であり、既に上記④のとおり丙社から甲社に発注され、甲社か
    ら貴社に発注された物品であるため、再度案件αで丙社から甲社に発注
    しなければならなくなることを避けるため、丙社に対して発注する内訳
    明細を貴社において(A に)変更する必要が生じている。 。
                               )
⑧    貴社内では上記案件 A として(偽造注文書により)発注されているこ
    とは秘匿されているため、後日貴社購買部から案件 α として別途注文書

                  22
    が丙社に(正式に)発行されるが、このような偽造注文書を送付してい
    る場合には、貴社購買部から送付される案件αの注文書が丙社内で確認
    されると本不正行為が発覚してしまうことから、A 氏によれば、A 氏は、
    丙社担当者に連絡し、あるいは案件 A の偽造注文書の差替えを行うなど
    して、丙社内で貴社購買部から送付される案件αの注文書が正式な注文
    書として取り扱われず、案件 A の偽造注文書によって案件が切り替わる
    ように画策していたとのことである。なお、別の丙社以外の仕入先の案
    件において、丙社以外の仕入先に対しては、貴社購買部から発行された
    注文書が届いたら、すでに仕入先の手元にある別の注文書(前に A 氏が
    偽造して交付した注文書である)と差し替えるよう依頼するケースもあ
    ったとみられる。
⑨     丙社は、上記⑦の案件 A の偽造注文書を受けて、甲社に案件 A の発注
    を出し、貴社は甲社から案件 A の発注を受ける。
⑩    その後は、上記⑨の甲社から貴社に対する(案件 A による)発注が、
    上記⓪(案件βによる発注)と同じ位置付けとなり、次の新たな本不正
    行為による取引案件 B(別の中央省庁案件)として、同様のことが繰り返
    されていくこととなる。つまり、後日貴社購買部から案件 A として別途
    注文書が丙社に発行されるが、上記⑧と同様、A 氏は、丙社の仕入先担当
    者に対して、購買部から発行された案件 A の注文書は使用しない、若し
    くは差し替える(案件 B の偽造注文書により社内処理する)ように依頼
    していたとみられる。


    この取引及び⓪~⑩の流れを簡単に図式化したものが、下図(本不正行為
による取引の一例)である。




                   23
           図(本不正行為による取引の一例)




     以下では、本不正行為による取引における A 氏と当事会社とのやり取り、
    営業第 1 チームの部下への指示、貴社の上長に対する説明、事後の隠蔽工作
    について、順次より詳細な手法を説明する。その中で、適宜案件 A 等を例に
    とって説明を加える。


イ    A 氏による当事会社及び関与会社担当者とのやりとり
     A 氏は、貴社の受注先(顧客)に対しては、受注先(顧客)の更に上流にあ
    る会社が獲得した中央省庁案件であり、仕入先として貴社を使用するように
    依頼した上で商流の間に入るように依頼し、貴社の仕入先に対しては、貴社
    の受注先(顧客)が獲得した中央省庁案件であり、仕入先として特定の会社
    (実際は貴社の受注先(顧客)や戊社)を使用するように依頼していた。
     A 氏は、貴社の仕入先に当たる当事会社や商流に参加する関与会社に対し
    て直接連絡を取り、案件名、見積書の送付先(受注先)、見積額、検収日を
    伝えるとともに、当該担当者らと連絡を取り合い、当該仕入先が本来作成す
    るべき貴社宛ての見積書の内訳明細を貴社において作成し、それを当該仕入
    先に交付して、後日見積書として受領していた。また、見積書の内訳明細の

                   24
作成が間に合わない時には、仕入先担当者からは当該会社名義の見積書頭紙
のみをメールで受領して、貴社において作成した見積書の内訳明細を添付し、
貴社における当該仕入先からの見積書とするなどしていた。例えば、前記案
件 A において、A 氏は、仕入先である丙社の担当者から、同社作成名義の貴
社宛て見積書の頭紙(単価、数量及び見積合計金額が記載されているが、品
名及び明細欄には概括的に「省庁向け各種プロダクト   一式」、「各種プロ
ダクト」と記載があるのみで、詳細な明細は記載されず、備考欄に「内訳は
別紙のとおりです。」と記載されているもの)の送付をメール添付の方法で
受けた。後述のとおり、A 氏は、同見積書の内訳明細を 2 種類作成するよう
部下に指示しており、貴社が発注する次の案件が、貴社社内システム上、前
に行った本不正行為による取引の案件と同一とならないように、別の内訳明
細に差し替えた上で、本来であれば購買部から発行される貴社名義の注文書
ではなく、貴社の東日本事業本部長(当時)ないし購買部名義の注文書を無
断で偽造し、仕入先の当事会社に発行するなどして、貴社内で本不正行為に
よる取引が発覚しないような措置を講じていた。なお、正式な貴社注文書は
後日貴社購買部から仕入先に発行されるが、このような偽造注文書を送付し
ている場合には、貴社購買部から送付される案件αの注文書が丙社内で確認
されると本不正行為が発覚してしまうことから、A 氏によれば、A 氏は、丙社
担当者に連絡し、あるいは案件 A の偽造注文書の差替えを行うなどして、丙
社内で貴社購買部から送付される案件αの注文書が正式な発注書として取り
扱われず、案件 A の偽造注文書によって案件が切り替わるように画策してい
たものとみられる。また、別の丙社以外の仕入先の案件においては、正式な
貴社購買部からの注文書が届いたら、別の注文書(前に A 氏が偽造して交付
していた注文書である)と差し替えるように依頼し、発覚しないよう画策し
ていたものもあったとみられる。
 また、A 氏は、貴社が直接の受注先(顧客)との間でやり取りする見積書
の内訳明細のみならず、受注先がその上位者(受注先への発注者)に対して
交付する見積書の内訳明細の作成についても関与していた。例えば、 「省
                               ある
庁向け物品一式」案件において、A 氏は、受注先(顧客)である丙社の担当者
に対し、貴社作成名義の丙社宛て見積書内訳を送付したほか、丙社作成名義
の戊社(丙社の受注先)宛て見積書の内訳明細を送付していた。このように、
A 氏が各当事会社担当者と直接連絡を取り合うことにより、本不正行為によ
る取引が実行されていた。
 さらに、A 氏の供述によれば、本不正行為により取引の代金の一部が流出
していた取引については、仕入先に戊社から仕入れるように依頼し、戊社か

               25
    ら、貴社(営業第 1 チーム)が別の実案件で使用した会社に対して、当該別
    案件で不足した人件費の補填名目で支払をさせていたとのことである。さら
    に、A 氏の供述によれば、前述のとおり、将来貴社(営業第 1 チーム)が中
    央省庁案件を獲得できた場合に、その下請業務を格安で発注できる業者を用
    意するため、アプリケーションの開発を行う SE の教育費という名目で、戊社
    を通じて A 氏の友人が経営する会社に対して、毎月数千万円規模の資金を支
    払っていたとのことであるが、かかる供述の裏付けとなる客観的資料は現時
    点までに発見されていない。


ウ    A 氏による部下への指示
     A 氏は、部下である B 氏、C 氏、D 氏又は E 氏に対し、本不正行為に関し、
    以下の指示を行っていた。


(ア)顧客向けの見積内訳明細の作成、顧客からの発注書の書換え
      A 氏は、本不正行為に係る貴社の受注取引について、前述の部下らに対
     し、顧客向けの機器の内訳明細を、A 氏が指示する総額に合うように作成
     するよう指示していた。すなわち、明細に記載する総額については、予め
     A 氏が指定しており、部下らは、これに見合う機器の構成を、A 氏から渡さ
     れた過去の案件の内訳明細を参考にし、又は自ら合理性のある内容を考案
     するなどして、内訳明細を作成していた。
      また、D 氏が担当していた案件において、受注先(顧客)から貴社に送
     付された発注書記載のエンドユーザー名、内訳及び案件名等が、貴社がそ
     の受注先に提出していた見積書の記載と異なっていることがあったが、そ
     の場合には、A 氏は、D 氏に対し、受注先が貴社に発行した発注書の PDF を
     書き換えるよう指示していた。


(イ)仕入先の見積内訳明細の作成
      A 氏は、本不正行為に係る仕入取引についても、B 氏又は D 氏に対し、本
     来丙社 等の 貴社の 仕入 先とな る当 事会社 が作 成する べき 同社名 義 の 見 積
     内訳明細を作成するように指示していた。前述のとおり、A 氏の指示によ
     り、仕入先から内訳明細がない見積書頭紙のみが貴社に送付されてきた際
     には、貴社において、B 氏又は D 氏が A 氏の指示に基づいて同案件の内訳
     明細を作成し、送付を受けた頭紙と併せて仕入先からの見積書として扱っ
     ていた。



                       26
  案件 A についても、A 氏は、丙社の担当者からの上記メールを D 氏に転
 送した上、同人に指示して、本来であれば仕入先である丙社が作成すべき
 同社作成名義の貴社宛て見積書の内訳明細を D 氏に作成させ、これを添付
 したメールを A 氏宛てに送付させていた。


(ウ)役員向け説明資料の作成
  貴社においては、見積金額が貴社社内規程所定の基準以上の案件につい
 て受注先(顧客)に見積書を提出するには事業本部長の決裁を得る必要が
 ある。A 氏は、部下らに対し、本不正行為に係る取引について、この決裁
 申請に使用する説明資料を作成するよう指示していた。その際、A 氏は、
 かかる資料の雛形を渡すとともに、受注予定時期、売上予定時期、見積金
 額、仕入金額、粗利等の記載するべき内容を部下らに指示し、これに従っ
 て資料の雛形フォーマットに入力させていた。


(エ)純額取引申請書の作成
  前述のとおり、営業担当者は、純額取引を行う場合には、案件登録時に
 必要事項を記入した申請書等の書面をもって、順次承認を得る必要がある。
 A 氏は、B 氏、C 氏又は D 氏に指示し、本不正行為に係る取引について、コ
 ンプラ イア ンス違 反の 取引で はな いもの とし て純額 取引 申請書 を 作 成 さ
 せ、自らこれを承認した上で、事業本部長及び管理本部長の決裁を受けて
 いた。
  案件 A においては、A 氏は「省庁向けライセンス等一式」、エンドユーザ
 ーは某中央省庁として純額取引申請を行い、貴社の承認権者である管理本
 部長らは、これを申請のとおりに承認した。
  なお、本不正行為における取引には、純額取引のものと総額取引のもの
 の両方が存在したが、過去に実在した案件の追加発注という名目で行う取
 引については、その過去の実案件を総額取引で行っていた場合には追加発
 注も総額取引とし、新規の入札案件の商流に入れることになったと仮装し
 ていたものについては純額取引としていたものとみられる。


(オ)支払条件変更に関する承認依頼に要する書類の作成
  貴社においては、仕入先への支払条件は、納入月末締め翌月末又は翌々
 月末に送金することが原則とされ、これを短縮する場合には、営業担当者
 が見積りの取得時に承認権者の承認を得る必要がある。A 氏は、B 氏、C 氏
 又は D 氏に指示し、本不正行為に係る取引について、実体がある取引の条

                   27
     件として上記支払期日を短縮する必要があるものと称して、支払条件変更
     に関する承認依頼に係る書面を作成させ、承認権者の承認を得ていた。
      案件 A においては、貴社の仕入先である丙社への支払が、物品の納入よ
     りも先に行われなければならない条件であったことから、通常の支払条件
     の変更について、第 1 営業部の当時の部長から管理本部に対して承認申請
     がされ、そのとおりに承認されている。


(カ)監査対応等の発覚防止工作
      A 氏は、内部監査及び会計監査人による監査の対象となった案件につき、
     監査の必要書類である受注先(顧客)発行の検収書等が不足する場合に、
     これらを取得するよう部下らに指示していた。また、A 氏は、部下らを介
     して、これらの書類の取得や、監査向けの納品確認根拠としてのメール返
     信等を、受注先である当事会社に依頼し、協力を得ることも行っていた。
      また、A 氏は、部下らに指示して、見積書の明細等を作成させた案件が
     会計監査人による監査の対象となった際、部下らに対し、会計監査人に対
     する回答案の作成を指示し、作成された内容を自らに送付させてチェック
     した上で会計監査人に提出させていた。
      さらに、A 氏は、前述の見積明細作成の指示を受けて、事前に金額が決
     まって いる ことや 顧客 と向き 合う はずの 営業 担当者 が認 識して い な い 案
     件の存在について疑問を抱く部下らに対し、事実関係を明らかにせず、あ
     るいは叱責して質問をさせないなどの対応をとっていた。例えば、 氏は、
                                   A
     B 氏に対しては、「先にお金が必要なお客様がいる。お金を先に払う代わ
     りに、利子がついて返ってくるというビジネスで、悪いことはやっていな
     い。」などと説明し、D 氏に対しては、「銀行がお金を回す必要があってこ
     のような取引があり、悪いことをやっているわけではない。」などと説明
     し、そのようなビジネスもあると思わせ、従わせていた。 氏に対しては、
                               E
     納得できる回答をせずに「とにかく急ぎの案件である。」と述べ、指示に
     従わせていた。さらに、C 氏に対しては、「お前疑っているのか。」と叱責
     し、それ以上の質問を受け付けずに指示に従わせていた。


エ    A 氏による上長らへの報告、説明
     貴社においては、見積金額が貴社社内規程所定の基準以上の案件について
    受注先(顧客)に見積書を提出するには、事業本部長の決裁を得る必要があ
    るが、それに先立ち、部下が上長らに対し、来期の案件の見通し等につき説
    明を行う場が設けられている。A 氏は、上長ら(本部長、副本部長、部長及び

                       28
      副部長)に対し、実在する案件に架空取引を織り交ぜた来期の見込みを巧み
      に説明していた。かかる上長らへの説明は、多くの案件では営業担当者が行
      うが、本不正行為に係る案件については、営業担当者でなく、マネージャー
      である A 氏が単独で行っていた。
       A 氏は、その後、具体的に架空の商流取引に係る顧客宛ての見積書を提出
      するに先立ち、営業担当者ではなく自ら、上長らに対し、順次、上記の事前
      説明に沿って、当該架空商流取引の背景事情や商流、粗利率、入出金の予定
      等を資料に基づいて説明し、上記管理職らをして実体のある商流取引である
      と信じさせ、決裁を得ていた。


(3)本調査において発見された本不正行為以外の不適切な取引
  ア    費用の付替え―追加原価の他案件・他社を介しての支払
       2019 年、案件担当者である C 氏がある中央省庁の入札案件の応札に向け
      て営業活動を行っていたところ、入札直前になり、想定していた入札予定価
      格が、当該中央省庁の予算に見合わないことを認識するに至った。
       当時、施工管理業務の委託予定先であった庚社からは 5,470 万円の見積り
      が出されていたが、 氏は、
               C   この見積額で庚社に発注することを前提として、
      貴社の利益分を積み上げた金額で入札すれば、当該中央省庁の予算を大幅に
      上回る入札金額となり落札できないことが明らかであると考えた。
       どのように対応すべきかについて C 氏から相談を受けた A 氏は、大要以下
      の方法を考案し、戊社の担当者に協力を依頼して承諾を得るとともに、C 氏
      に対して、庚社の了解を得ること及び戊社担当者と実務的な協議を進めるこ
      とを指示した。
      ①    庚社に対する発注額を見積額 5,470 万円から減額させて、貴社に利益
          が出る入札金額で入札する。
      ②    庚社の見積額 5,470 万円と減額後の金額との差額分は、貴社に代わっ
          て戊社から庚社に発注させることにより、庚社が損失を被らないように
          する。
      ③    貴社が戊社に対して、別の案件で、差額分の実体の伴わない業務を発
          注することにより、戊社が庚社に肩代わりで発注した分の補填をする。


       C 氏は、庚社に事情を説明し、戊社が発注主体になることにつき了承を得
      た。そして、C 氏が戊社担当者と協議した結果、貴社から庚社に対する発注
      額を 780 万円に減額し、戊社が庚社に差額 4,690 万円の業務を発注すること
      とした。また、戊社への 4,690 万円分の補填については、C 氏の担当案件で

                        29
        ある別の中央省庁案件で 1,500 万円分、さらに別の中央省庁案件で 3,190 万
        円分、それぞれ貴社から戊社に対して実体を伴わない発注をすることで行わ
        れた。
         なお、上記 1,500 万円については、貴社は、戊社から 2019 年 6 月 28 日付
        け作業完了報告書を受領しており、既に戊社に支払済みとのことであるが、
        上記 3,190 万円は、未だ戊社に支払っていないとのことである。


    イ    約 5,400 万円の不明金
         ある独立行政法人をエンドユーザーとする 2019 年 2 月入札の案件につい
        て、甲社が入札し、貴社が再受託する形で入る予定であった。但し、甲社か
        ら、予算の都合で、貴社の原価の一部を他の案件に付け替えるように指示が
        あったため、別の組織をエンドユーザーとする案件について、貴社が同様に
        甲社から 再 受託する 形 で入り、 甲 社から、 同 案件につ い て本来の 価 格から
        5,376 万円(税別)を上乗せして見積書を作成するように指示を受けた。
         貴社は当該指示に基づいて、本来の価格より 5,376 万円を上乗せして上記
        組織をエンドユーザーとする案件を受注したが、本来の上記独立行政法人を
        エンドユーザーとする案件を甲社が失注したことから、甲社の了承の下、上
        記 5,376 万円は上乗せされたままとなった。この余った予算について、A 氏
        と B 氏が協議し、貴社の正規の手続を経ることなく、霞が関オフィスの検証
        機器の購入に使用した。
         この機器購入の取引について、A 氏から B 氏に対し、検証機器のメーカー
        に直接依頼するのではなく、戊社を通して購入するように示唆があり、B 氏
        は、戊社担当者に連絡し、戊社を通して、検証機器のメーカーに発注した。
        上記組織の案件において貴社が甲社に交付していた見積書は役務を行うもの
        であったことから、B 氏と戊社担当者は協議して、貴社から戊社への発注内
        容は役務提供としたが、実際は、B 氏が検証機器のメーカーに直接連絡し、
        戊社を通す取引形態にして、貴社の霞が関オフィスに直接検証機器の納品を
        受けた。その取引を通じて、戊社は約 4,000 万円の利益を得ることとなった。


4   貴社連結財務諸表への影響
(1)総論
        当委員会の調査によって判明した、本不正行為及びそれ以外の不適切な取引
    が貴社連結財務諸表の損益及び純資産に与える影響総額は、以下のとおりであ
    る。



                           30
                                                                  (単位:百万円)
          28期※      29期       30期            31期        32期     33期1・2Q
  科目                                                                       累計
          2015/3   2016/3    2017/3         2018/3     2019/3    2019/9
 売上高
               -   △ 4,278   △ 4,215        △ 7,383   △ 6,555   △ 5,157   △ 27,588
売上総利益
               -    △ 404     △ 359          △ 882      △ 863   △ 1,038   △ 3,546
 営業利益
               -    △ 404     △ 359          △ 882      △ 863   △ 1,038   △ 3,546
 経常利益
               -    △ 404     △ 359          △ 882      △ 863   △ 1,038   △ 3,546
税金等調整前
 当期純利益         -    △ 404     △ 359          △ 882      △ 863   △ 1,096   △ 3,604
  純資産
               -    △ 404     △ 763         △ 1,645   △ 2,508   △ 3,604          -


       ※本不正行為は 28 期(2015 年 2 月)より開始しているが、28 期中は仕入取
        引のみが行われ支払額は未成工事支出金として処理されている。そのため、
        28 期時点での損益及び純資産影響は生じていない。


(2)本不正行為に関する修正仕訳及び影響額
       本不正行為は納品実体のない架空取引として下記仕訳による損益修正が必要
   である。当委員会が認定した本不正行為に関する要修正金額は累計で売上高△
   27,588 百万円、売上総利益△3,615 百万円となった。


         (本不正行為に関する損益修正仕訳)
                    売上高                                売掛金
                   仮受消費税
                    買掛金                               売上原価
                                                      仮払消費税


(3)本不正行為以外の不適切な取引に関する修正仕訳及び影響額
       本調査において発見された本不正行為以外の不適切な取引のうち「ア                                        費用
   の付替え」に関しては、費用の付替え元案件と付替え先案件の売上計上時期に
   差異が生じているものが含まれているため、以下の仕訳による修正を行った。
   当該修正により売上原価 15 百万円が減少し同額売上総利益が増加している。


   (本不正行為以外の不適切な取引に関する損益修正仕訳:費用の付替え)
            未成工事支出金                                       売上原価



                                       31
          上記本不正行為以外の不適切な取引のうち「イ       約 5,400 万円の不明金」に
         関しては、原価性を有しない使途不明の資金流出取引と認められることから、
         以下のとおり売上原価及び未払消費税を特別損失 58 百万円に振り替える処理
         を行った。


          (本不正行為以外の不適切な取引に関する損益修正仕訳:不明金)
                 特別損失                売上原価
                                    未払消費税




第4       本不正行為発生の原因分析
    1    総論
         前述のとおり、本不正行為は、A 氏が、その部下や当事会社及び関与会社の担
        当者らを利用しつつ、2015 年 2 月頃より繰り返し実行していたものである。その
        態様は、中央省庁をエンドユーザーとする架空の物品販売を内容とする商流取引
        を順次繰り返すというものであった。
         ところで、不正を生じさせる原因としては、いわゆる「不正のトライアングル」
        (「動機(又はプレッシャー) 、
                      」 「機会」 「正当化」の 3 要素により構成)理論が
                            、
        一般的となっている(「動機」と「正当化」は人の「意識」の問題として併せて検
        討し得ると考えられる) 当委員会は、過去の貴社における不祥事案に際して設置
                   。
        された特別調査委員会による調査報告書においても当該理論に基づく分析がな
        されていることも踏まえ 1、貴社が、本不正行為の発生を未然に防止することがで
        きず、かつその開始後 4 年半以上にわたりこれを発見するに至らなかった(以下
        「本不正行為の発生等」という。)原因につき、主として以下の観点から検討・分
        析した。
        ① 貴社は、どのようにして本不正行為を実行し得る「機会」、すなわち不正行為
          の実行を可能又は容易にする客観的な環境を作出してしまったのか。
          (不正リスクの管理に関する問題)
        ② 貴社における、コンプライアンス違反をしない・させない「意識・風土」醸成
          のための取組みには問題が無かったのか。
          (コンプライアンス活動に関する問題)




1
    2013 年 3 月 7 日付「調査報告書」ネットワンシステムズ株式会社特別調査委員会
                            32
    2   不正リスクの管理に関する問題
    (1)ルール等の形骸化
        ア       ルール等の整備状況
                貴社においては、2013 年に、貴社元社員が約 7 年間にわたり外部業者らと
            共謀して架空の外注費名目で貴社に対して不正な請求を行わせて総額約 8 億
            円の金員を騙取したという不正行為(以下「2013 事案」という。)が発覚し
            た。同事案により、貴社は監理銘柄(確認中)の指定を受けたほか、代表取
            締役社長等 4 名の役員が報酬の一部を返上するなど、多大な痛手を被った。
            同事案を調査した特別調査委員会は、貴社における内部統制上の問題、ガバ
            ナンス・コンプライアンス上の問題点を指摘して各種再発防止策を提言し 2 、
            貴社は、同事案を踏まえた再発防止策として、「見積から受注、発注、納品
            物の検収にいたる業務プロセスを全面的に見直すとともに、決裁権限者の責
            任を明確にし、内部牽制機能が有効にはたらくよう運用の徹底を」図るとと
            もに、同委員会より提言された再発防止策についても実行に移すこととした
            3
                。
                そして、貴社においては、2013 事案を踏まえ、従前のいわば性善説的な仕
            組みを抜本的に見直し、各種ルールの制定、新システムの導入、各種教育・
            研修等を実施しており、その結果として、同種事案の発生リスクは従前に比
            して相当程度軽減されていたものと認められる。
                架空取引ないし循環取引に関しても、貴社は、前述のとおり、営業部によ
            る見積提出・受注のプロセス、購買部による発注プロセス、及び純額取引に
            関する規律をもって、発見、防止する態勢を構築していた。例えば、「純額
            取引に関する業務処理標準」においては、純額取引は商流取引に含まれ、商
            流取引には、売上高・利益の過大計上に繋がるリスク、財務諸表の虚偽表示
            或いは犯罪に巻き込まれるリスク、社会的な信用問題に繋がるリスク、与信
            上のリスク、法的なリスク、社内モラルのダウンといったリスクがある旨注
            意喚起がなされており、商流取引についてはそれらのリスクがあることより
            純額取引以外は認められないこととされていた。また、純額取引の許可要件
            の一つとして、「コンプライアンス違反にあたる取引ではない」ことが挙げ
            られていた上、「循環取引は禁止されています。循環取引は商流取引に含ま
            れます。 、
                」「循環取引を利用して売上を水増しすることは粉飾決算となる。」
            との説明もなされていた。さらに、売上計上ルール「オペレーション編Ve
            r1.5」及び「売上計上基準Ver1.5」においては、純額取引の売上


2
    同上
3
    「当社元社員による不正行為に係る調査結果に関するお知らせ」(平成 25 年 3 月 8 日)
                               33
    げの要件を記載した後に、「・取引の実在性を証明できるエビデンス(納品
    事実が分かるエビデンス)を入手する(架空取引ではないことを証明する)」
    と規定されている。
     しかしながら、本不正行為は、上記取組みが開始された約 2 年後には始ま
    っており、貴社はこれを未然に防止することができなかった上、その後約 4
    年半の間これを発見することができなかった。当委員会は、貴社がこのよう
    にルール等を整備していたにも拘らず本不正行為の発生等を招いた要因とし
    て、以下のような問題が存在したと考える。


イ    中央省庁案件及び商流取引の特殊性(ビジネスモデルの問題)
     貴社においては、商流取引についても、一定金額以上の案件については通
    常案件と同様に上長による承認が必要とされており、営業担当者は上長に対
    して、その案件に商流取引として貴社が入る理由や背景事情の合理性、具体
    的な入札案件の内容、落札業者、貴社が取り扱う製品の内容、仕入先及び納
    品先等につき説明する必要がある。しかしながら、中央省庁案件の商流取引
    に関しては、その性質上高度の秘匿性が要請される案件が多いため、そのよ
    うな秘匿性を隠れ蓑にした A 氏による案件説明等に上司らは特段不審に感じ
    ることなく納得してしまっていた。
     また、中央省庁の入札案件は、様々な困難が伴う一方で利益率は低くなる
    傾向にあるため、入札参加業者やこれに関与する業者は一定程度固定化され
    ている状況にある上、各種機器及びソフトウェアの導入や設置工事等を含む
    システム構築全体を対象とすることが多いため、落札業者 1 社ですべての製
    品及び作業を行うことは困難であり、同業他社が商流に関与する傾向にあっ
    た。このため、本不正行為が仮装した当事会社等による商流は、外形上不自
    然不合理であると認めることは困難であった。
     商流取引に関しては、純額取引に関する業務処理標準において、そもそも
    ネガティブなものとして捉えられている。本不正行為との関連では、商流取
    引において物品が直送される場合には、契約関係にないエンドユーザーに対
    して直接納品の確認を行うことは実務的に困難であり、特に中央省庁案件は
    この点が顕著であるという事情が、本不正行為の実行を可能とする事情の一
    つとなった。
     以上のような中央省庁案件やそれに関連する商流取引の特殊性・不透明性
    より、貴社管理職においてもその実態や取引の実在性等の把握・確認が困難
    となってしまったことが、貴社のルール等の実効性を損なう一因となったと
    認められる。

                   34
ウ   営業第 1 チーム及び A 氏の特異性(組織マネジメントの問題)
(ア)霞が関オフィスの管理不全
     営業第 1 チームの従業員が勤務していた霞が関オフィスは、本社外のオ
    フィスの中でも自由度が高く、取り扱う業務が中央省庁案件という特殊な
    取引であることも相まって、貴社内においても独自の雰囲気を有するオフ
    ィスであると見られていた。
     2015 年 4 月 1 日には、当時中央省庁案件を取り扱っていた第 10 営業部
    が、地方自治体、病院、大学等を顧客とする案件を担当していた他の営業
    部と合併されて第 6 営業部となり、かつ、部長が交代となった。この異動
    前の部長は霞が関オフィスに常駐していたが、上記組織改編で担当業務が
    増加するなどして同オフィスが手狭になったこともあり、新任の部長は本
    社での勤務となったことから、霞が関オフィスには部長は常駐しないこと
    となった。その結果、マネージャーである A 氏ともう 1 名のマネージャー
    が霞が関オフィスの最上位の従業員という体制となった。さらに、2016 年
    4 月 1 日からはもう 1 名のマネージャーも他部署へ異動したため A 氏が霞
    が関オフィスのトップとなり、常駐の管理者・牽制者不在の状況となった。
     また、2015 年 4 月 1 日以降は、A 氏の上長たる第 1 営業部の部長や副部
    長は、総じて中央省庁案件の経験がなく、各案件についての A 氏の説明に
    おける不審点等を追及し得るだけの知識を有していなかった上、後述のよ
    うな A 氏の特異性も相まって、特に霞が関オフィスに常駐しなくなってか
    らは、その実態や本不正行為等の A 氏が関与する案件の詳細についての把
    握がますます不十分となり、霞が関オフィスの管理不全状況が生まれてし
    まった。


(イ)A 氏の特異性
     霞が関オフィスの管理不全に加え、以下のとおり A 氏がその実績や個性
    等より特別視され、A 氏が手掛ける案件がいわばブラックボックス化して
    しまったことも、ルール等の実効性を損なった一因であると考えられる。
     A 氏は、2008 年 12 月に貴社に中途採用されて以来、一貫して中央省庁案
    件を担当する部署(勤務場所は一貫して霞が関オフィス)に営業職として
    所属した。A 氏は、2013 年 1 月 1 日にエキスパート、2014 年 4 月 1 日にリ
    ーダー(2015 年 4 月 1 日にマネージャーに呼称変更された)へと昇進し、
    営業第 1 チームにおいて手掛ける中央省庁案件のマネジメントを行う立場
    となった。A 氏の貴社入社以来の営業実績は良好で、リーダー(現在のマ

                       35
 ネージャー)になる以前の A 氏の猛烈な働きぶりとその実績は周囲より高
 く評価されており、貴社において成績優秀者向けに実施される報奨旅行の
 常連でもあった。 氏は、
         A   2019 年 7 月 1 日にはシニアマネージャーとなり、
 職務等級が上位に分類されるに至った。
  そのような事も背景として、A 氏は、上司から業務に関する意見等を言
 われた場合には、その豊富な経験を背景に強くかつ能弁に反論するなどし
 ていたため、上司であっても A 氏には率直に意見を言いにくかったとのこ
 とである。
  また、A 氏は、部下に対して威圧的な態度をとる傾向にあった一方、場
 面によっては部下を守る姿勢を示したり、頻繁に部下を引き連れて飲み会
 を行い その 飲食代 を個 人で全 て負 担した りす るなど 面倒 見の良 い 親 分 肌
 を持つ一面も見せていたことから、部下らにおいて A 氏に異を唱えること
 ができる関係にはなかった。


(ウ)不正リスクに関する啓蒙・理解不足
  前述のとおり、商流取引(純額取引)には各種リスクが存在することが
 規程上も明記されていたが、本不正行為との関係においては、営業部門及
 び管理 部門 の決裁 権者 らや営 業部 の各職 員が そのよ うな リスク を 十 分 に
 理解・意識した上で業務遂行していたとは認められなかった。
  すなわち、純額取引の許可要件の一つである「コンプライアンス違反に
 あたる取引ではない」ことに関しては、「コンプライアンス違反」とは具
 体的にどのような事象が該当するのか、どのようにしてコンプライアンス
 違反ではないことを確認するのかなどにつき、踏み込んだ検討はなされて
 おらず、架空取引を含めた不正リスクについてはほぼノーケアといい得る
 ような状況であった。
  このような状況に至った背景事情としては、リスクに関する啓蒙不足と
 リスク感度の低さが存在したと考えられる。
  すなわち、そもそも業務処理標準を一読しただけでは、「許される純額
 取引」と「禁止されている商流取引」の違いを理解することは困難である
 し、これらと循環取引との関係性についても不明確であると言わざるを得
 ない。また、純額取引の業務手順においては、コンプライアンス違反にな
 るような取引に当たらないことを、営業部が、見積書、注文書(請書)、
 契約書等の内容から判断して申請することとなっているが、申請書の書式
 は、単に「コンプライアンス違反に当たらない」というチェック項目にチ
 ェックさせるのみであり、見積書、注文書(請書)、契約書等の内容から、

                   36
      何をも って コンプ ライ アンス 違反 がない と判 断する べき なのか は 明 ら か
      ではなかった。
       実際、各決裁権者らは、稟議対象の取引が一定の利益率を確保できるも
      のであるか(採算が取れない、損失をもたらし得るという意味でのリスク
      のある案件ではないか)、外形的に証憑に不備はないかといった観点から
      の検討・確認しか行っておらず、コンプライアンス違反に当たらないこと
      に関するチェックは事実上なされていないに等しかった。さらに言えば、
      本不正 行為 の中に は本 来内規 上認 められ ない はずの 純額 取引以 外 の 商 流
      取引が存在していたにもかかわらず、これらについても決裁権者らは特段
      問題視せずに容認しており、上記業務処理標準はルールとしては形骸化し
      ていた。
       以上のとおり、純額取引(商流取引)に関するルールによって貴社がい
      かなる不正をどのように防止しようとしているのかにつき、貴社役職員に
      対して必要十分に啓蒙等がなされていなかったこと、及び当該ルールや不
      正リスクについての貴社役職員の感度が低かったことが、ルール等の形骸
      化の一因となったと考えられる。
       なお、この点に関しては、2013 事案の再発防止策として各種ルールやシ
      ステム等が整備されたことをもって、不正リスクについては十分に対策が
      講じられており、もはや架空取引等の不正はなし得ないものと貴社役職員
      が油断ないし楽観してしまった面もあるものと思料される。


(2)リスク管理態勢上の問題点
  ア   リスク管理体制について(組織体制の問題)
  (ア)リスク・コンプライアンス委員会等を中心としたリスク管理体制の問題
      点
       貴社においては、役職員の不正行為等のオペレーショナルリスクについ
      ては、リスク・コンプライアンス委員会の審議を経て、経営委員会にて各
      事業年度の重要な管理対象リスクを決定し、リスク・コンプライアンス委
      員会を 定期 的に開 催し ながら 全社 的なリ スク 管理活 動を 展開す る こ と と
      している。
       しかしながら、リスク・コンプライアンス委員会においては、その活動
      方針・内容等に関し、貴社が抱えている様々なリスクのうちどのようなリ
      スクをその主たる取扱対象とすべきか、どのような仕組みで対象リスクを
      管理していくのかなどについて議論が錯綜し、焦点や軸が今一つ定まらな
      いまま運営をしている状況が継続していた。

                        37
  また、リスク・コンプライアンス委員会は、その活動状況を四半期に 1
 回経営委員会に報告していたものの、経営委員会としては、総じて、リス
 ク・コンプライアンス委員会の答申状況は諮問機関としては十分ではない
 と評価していたものと認められ、その運営方法等について継続的に指摘が
 なされていた。以上の状況に鑑みれば、貴社の制度設計どおりに、経営委
 員会に おい て主体 的に かつ必 要十 分にリ スク 管理に 関す る検討 や 判 断 を
 なし得る態勢を構築できていたとは認め難い。
  リスク・コンプライアンス委員会の活動状況に関しては、定例での議論
 として、定期的に実施しているコンプライアンス・アンケートの結果報告
 及び検討、懲戒事案の処分の検討及び決定等を行っていたほか、期初に定
 めたリスクにつき各主管部門からの報告を受領していたものの、同委員会
 の活動の多くは、報告を受けて議論するにとどまっており、各主管部門に
 具体的 に指 示する など の積極 的な 措置を 採る ような こと はなか っ た も の
 と認められる。
  また、前述のとおり、貴社グループのリスク管理活動の統括管理者とし
 て貴社にリスクマネジメント統括責任者(CRO)が置かれているところ、
 2019 年度より CRO はリスク・コンプライアンス委員会のメンバーからは外
 れているが、そのような体制では、貴社のリスク管理活動全般に関する必
 要十分な実態把握や適時適切な指示等をなし得るとは考え難く、その職責
 を十分には果たし得ないものと考えられる。
  このように、リスク・コンプライアンス委員会や CRO を中心とする貴社
 のリスク管理体制の現状は、目的達成のために十分に効果的であると評価
 し得るレベルにはないものと認められる。


(イ)リスク管理の責任部門の不明確性
  貴社の内規によると、貴社グループにおける「リスク管理活動の全体統
 括部門」は管理本部の法務・CSR 室とされ、同室が貴社グループの「リス
 ク管理活動に係る方針・計画」、「リスクの分析・評価」、「リスク・コ
 ンプライアンス委員会の管理対象リスクの選定・管理方針」についての検
 討・立案と同委員会への提示や、リスク主管部門との協議、調整等を行う
 とされていた。他方、社長直轄のリスク管理室も、「全社的なリスクマネ
 ジメント及び業務プロセスの統制並びに品質向上の推進を職務とし」、貴
 社の「事業活動に係るリスク評価及びリスク低減のための措置に関する企
 画立案」や「内部統制評価(JSOX 評価)に係る業務プロセスの整備及び運



                   38
 用に対する指導統制」を行うこととされている(なお、2018 年度までは TQM
 推進部が担当していた。)。
  以上の規定ぶりからすると、法務・CSR 室とリスク管理室のリスク管理
 活動に おけ る職責 には かなり 重複 する部 分が 存在す ると 認めら れ る も の
 の、その責任範囲の明確化や役割分担等がなされていたとは認められない
 ほか、法務・CSR 室とリスク管理室のいずれが貴社におけるリスク管理活
 動の責任部門となるのかについても明確ではない状況となっている。


(ウ)不正リスク主管部門の不明確性
  (2018 年度までの)リスク・コンプライアンス委員会においては、同委
 員会の管理対象リスクとして 15~20 程度のリスクを選定し、それらをリ
 スク・コンプライアンス委員会管理のリスクと主管部門管理のリスクに分
 類した上で、主管部門管理のリスクについては各リスク主管部門が関係部
 門との 緊密 な連携 によ りリス ク管 理活動 を実 行推進 する ことと さ れ て い
 た(リスク・コンプライアンス委員会管理のリスクの主管部門は、全て法
 務・CSR 室とされていた。)。そして、自部門主管のリスクがリスク・コン
 プライアンス委員会の管理対象リスクとなった場合には、当該部門は、そ
 のリスク管理活動の推進状況を同委員会へ定期的に報告し、同委員会から
 の指示をそのリスク管理活動へ反映することとされていた。
  不正リスクに関しては、①法務・CSR 室主管の「コンプライアンス(役
 員・従業員の不正):役員・社員の不正・不祥事により、会社の信用を失
 墜し、事業停滞を招くリスク」と、②TQM 推進部主管の「業務手続の遵守:
 既定の業務手続が遵守されないことにより、適正に業務遂行されない、ま
 たは事実を正確に把握できないリスク(不正行為や違法性を惹起する)」
 の二つのリスク・コンプライアンス委員会管理対象リスクが関連性を有し
 ている。しかしながら、いずれのリスクも役職員による「不正」を対象と
 しているところ、それぞれの部門が取り扱う不正リスクの内容が明確化さ
 れていない上、両部門の連携体制や役割分担等についても検討・整理され
 ていた形跡は認められなかった(なお、リスク・コンプライアンス委員会
 の体制 が大 きく変 更さ れ、貴 社の リスク 管理 活動の あり 方が見 直 さ れ た
 2019 年度からは、「オペレーショナルリスク」の中の「社員による不正行
 為(架空発注・詐欺等)」については、所管部は「社内各部」、関連部門
 が「法務・CSR 室」と整理されており、本不正行為は当該リスクに包含さ
 れると思料される。)。



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(エ)小括
     以上のような貴社のリスク管理における組織体制上の問題点は、貴社の
    リスク 管理 活動に おけ る盲点 ない し弱点 を作 出して しま った要 因 と な っ
    たと思料され、結果的に本不正行為の発生等を招いた一因となったと考え
    られる。


イ   不正リスク対応の不備(リスク管理活動の問題)
(ア)潜在的な不正リスクの洗い出しや組織横断的な連携に基づく不正リスク
     への対応の不十分性
     前述のような霞が関オフィスの管理不全状況や、中央省庁案件及び A 氏
    の特異性等に鑑みれば、本不正行為のような不正リスクが営業第 1 チーム
    において顕現化する蓋然性は高かったと認められるが、リスク主管部門た
    る法務・CSR 室及び TQM 推進部においてそのような認識の下に営業第 1 チ
    ームにおけるリスクに対処していた形跡は認められなかった。
     すなわち、法務・CSR 室における「コンプライアンス(役員・従業員の不
    正)」リスクに関する取り組みに関しては、専ら、貴社において顕現化し
    た不正リスク(内部通報事案を含む)への対応(調査や処分等)及びその
    ような問題事案についての事例研究や各種ハラ