7518 ネットワン 2020-02-13 15:30:00
特別調査委員会の中間報告書受領及び公表に関するお知らせ [pdf]

                                          2020年2月13日

  各   位
                       会 社 名   ネットワンシステムズ株式会社
                       代表者名    代表取締役 社長執行役員 荒 井 透
                                 (コード番号:7518 東証第1部)
                       問合せ先    管理本部 広報・I R 室 山 形 昌 子
                                   (TEL. 03-6256-0615)


          特別調査委員会の中間報告書受領及び公表に関するお知らせ


 当社は、2019年12月13日付「特別調査委員会設置に関するお知らせ」に記載のとおり、国税局に
よる税務調査の過程で当社の一部取引について納品の事実が確認できない疑義がある(以下「本件」といい
ます。 との指摘を受けたため、
   )           当社とは利害関係を有しない外部の弁護士及び公認会計士で構成される特別
調査委員会を設置し、調査を鋭意実施しております。
 その過程において、本件の詳細、当社連結財務諸表の損益に与える影響額の見込み及び組織的な関与の有
無等を含め、特別調査委員会により調査の中間報告書を受領いたしましたので、下記のとおりお知らせいた
します。
 なお、本不正行為に関与した担当者及び取引先が相当数に上り、かつ、長期間にわたって行われていたこ
とから、調査の実施に相当の工数を要したこと、特別調査委員会による必要なヒアリングの調整及び実施に
想定以上に時間を要し、その結果を踏まえた追加の調査や原因分析等に更なる時間・工数を要したこと、ま
た、特別調査委員会による調査の過程で、本不正行為に類似する不正(原価付替取引)が存在することが発
覚し、当該不正の疑いに係る会社との平成 20 年以降の直接取引を対象として追加調査(新たに不正を把握し
た場合の関係者らに対するヒアリング及びデジタル・フォレンジック調査を含みます。 を実施することが必
                                         )
要となったこと等から、現時点において、本不正行為が発生した原因の分析や再発防止策の提言を含めた最
終的な報告書の提出までは至っておりません。特別調査委員会からの最終的な報告書及び再発防止策の提言
につきましては、2020年3月12日を目途に提出される予定です。当社は、最終的な調査結果を受領し
次第、速やかに開示いたします。

                         記

 特別調査委員会の調査結果(中間報告書)

  添付「納品実体のない取引に関する調査 中間報告書(開示版)
                              」をご覧ください。

  なお、中間報告書の全文については個人のプライバシー及び機密情報保護等の観点から、部分的な非開
 示措置・匿名化を施しております。

 株主・投資家の皆様及びお取引先をはじめ関係者の皆様には、多大なるご迷惑とご心配をおかけいたしま
すことを深くお詫び申し上げます。

                                                   以上
                                  2020 年 2 月 13 日


ネットワンシステムズ株式会社       御中




   納品実体のない取引に関する調査
             中間報告書
             (開示版)




    ネットワンシステムズ株式会社            特別調査委員会



         委員長     濵        邦   久


         委   員   芝        昭   彦


         委   員   岩   田    知   孝
目次

第1   特別調査委員会による本中間報告書の趣意等 .............................. 2

 1   特別調査委員会設置の端緒及び目的 ...................................... 2
 2   当委員会の構成 ........................................................ 2
 3   留意事項 .............................................................. 2

第2   調査補助者、調査期間及び調査方法 ...................................... 3

 1   調査補助者 ............................................................ 3
 2   調査期間 .............................................................. 4
 3   調査対象期間 .......................................................... 4
 4   調査方法 .............................................................. 4
 (1)当委員会による関係者らに対するヒアリング ........................... 4
 (2)当委員会が貴社から開示を受けた資料 ................................. 5
 (3)会計データ及び各種証憑類等(他社提供の証憑を含む)の閲覧及び検討 ... 5
 (4)デジタル・フォレンジック調査 ........................................ 5
 (5)社内アンケートの実施 ................................................ 5
 (6)社外アンケートの実施 ................................................ 6
 (7)ホットラインの開設 .................................................. 6

第3   調査結果 .............................................................. 6

 1   貴社に関する基本情報 .................................................. 6
 (1)貴社の概要 .......................................................... 6
 (2)貴社の組織・体制 .................................................... 6
 2   第 1 営業部の体制及び営業第 1 チームの業務等 .......................... 11
 (1)第 1 営業部の職務 ................................................... 11
 (2)第 1 営業部の体制 ................................................... 12
 (3)取引の基本的な流れ ................................................. 12
 (4)商流取引 ........................................................... 13
 (5)純額取引に係るルール ............................................... 13
 3   本不正行為 ........................................................... 14
 (1)本不正行為の内容 ................................................... 14
 (2)本不正行為の態様及び手口 ........................................... 17
 4   本件の貴社連結財務諸表への影響 ....................................... 26

別紙   案件内訳(受注ベース) ............................................... 27




                                   1
第1    特別調査委員会による本中間報告書の趣意等
 1    特別調査委員会設置の端緒及び目的
      貴社は、2019 年 11 月、東京国税局による税務調査の過程で、一部取引につい
     て納品の事実が確認できない取引がある旨の疑義があるとの指摘を受けた。貴社
     は、社内調査チームを組成して社内関係者へのヒアリングを行うなどの調査を行
     ったところ、その事実経緯の正確な把握には、取引先を含めたより広範かつ深度
     ある調査が必要な状況にあるとの認識を持つに至り、同年 12 月 13 日、納品の事
     実が確認できない取引及びこれに類似する不正の有無・態様の確認並びに原因究
     明等、貴社連結財務諸表への影響額の算定及び判明した事実を踏まえた再発防止
     策に関する助言(以下「本調査」という。)のため、特別調査委員会(以下「当
     委員会」という。)を設置することを決定し、その旨を公表した。
      当委員会は、貴社からのかかる依頼を受けて本調査を鋭意実施しているところ
     であるが、現時点における本調査の経過及び認定事実を、本書(以下「本中間報
     告書」という。)をもって報告するものである。


 2    当委員会の構成
      当委員会は、以下の委員により構成される。


       委 員長:濵     邦久(濵法律事務所   弁護士   元東京高等検察庁検事長)
       委   員:芝    昭彦(芝・田中経営法律事務所     弁護士)
       委   員:岩田   知孝(株式会社KPMG FAS    弁護士    公認会計士)


 3    留意事項
      本調査及び本中間報告書は、以下の事項を前提とする点に留意されたい。
 (1)本調査は、後述第2の4「調査方法」に記載のとおり、当委員会が貴社から
      入手した資料及び貴社又は取引先等の関係者へのヒアリング等に基づき、後述
      第2の2記載の調査期間内で行われたものであり、本中間報告書作成時までに
      分析、検討等した資料から確認できた内容のうち、本調査の目的に照らして指
      摘するべきであると考えられる点について記載しているものであって、入手し
      た資料等から確認できた内容の全てを網羅的に記載したものではないこと
 (2)後述のとおり、入手資料については、貴社から提供を受けたものであり、メ
      ールサーバや個々人のメールを独自に全て収集し精査したものではなく、限定
      的なものであること
 (3)本調査においては、以下の事項を前提としていること
     ① 検討対象となった書類上の署名及び押印は真正になされたものであること

                          2
     ② 写しとして開示を受けた書類は、いずれも原本の正確かつ完全な写しである
          こと
 (4)本中間報告書は、前述(2)及び(3)のとおりの前提において作成された
      ものであり、本調査外の資料及び関係者の供述等により本中間報告書と異なる
      事実が認められることを否定するものではない。そのため、新たな事実関係が
      判明した場合には、本中間報告書と異なる結論に至ることもあり得ること
 (5)ヒアリングの内容については第三者に開示しないという前提で実施している
     ところ、本中間報告書には、性質上、ヒアリング内容を適宜記載しているので、
     取扱いに厳重な注意が必要であること
 (6)本調査及び本中間報告書作成は、貴社との関係において客観的立場において
     なされたものであり、かかる立場確保のために、貴社その他いかなる者も本中
     間報告書作成者に対していかなる権利も取得せず、本中間報告書作成者に対し
     ていかなる請求も起こさず、本中間報告書を証拠、資料その他主張等の根拠と
     して使用しないこと及び本中間報告書作成者は、貴社その他いかなる者に対し
     ても何らの義務及び責任を負わないこと


      なお、本書においては、下表のとおりの略語を用いる。役職については、現
     在の役職にて記載することを基本とし、必要があれば、当時の役職を記載す
     る。


                   正式名称/内容                        略称
     ネットワンシステムズ株式会社                         貴社
     元東日本第 1 事業本部第 1 営業部営業第 1 チームシニアマネ      A氏
     ージャーA 氏
     同第 1 営業部営業第 1 チーム従業員                   B 氏乃至 E 氏
     中央省庁を総称する表記                            中央省庁


第2    調査補助者、調査期間及び調査方法
 1    調査補助者
     当委員会は、本調査の実施に当たり、以下の弁護士に対し本調査の補助を依頼
 した。


      和田法律事務所
      弁護士      西岡   環
      TMI総合法律事務所
      弁護士      菊田   行紘   同       田代   啓史郎   同    高野     大滋郎
          同    近藤   圭介   同       鈴木   弘記    同    山口     俊

                             3
       同    合田    顕宏         同       松永   耕明   同   熊澤   啓介
       同    藤井    裕季         同       中村   恵太   同   岩田   周
       同    南     悠樹         同       平    龍大   同   山田   皓介
       同    鍛治    亮太         同       川浦   翔太   同   大栢   美緒
       同    清水    一平         同       正田   琢也   同   板井   遼平


    また、当委員会は、本調査の実施に当たり、デジタル・フォレンジック等につい
て株式会社KPMG             FAS(以下「KPMG」という。)に所属する以下の専門家を
起用するとともに、本調査を効率的に行うため、先行して調査を実施していた貴
社社内調査チームからの情報提供及び補助を得て、本調査を実施した。


     株式会社KPMG          FAS
     公認会計士       見越    敬夫            山田 昂輝


2    調査期間
     本中間報告書は、2019 年 12 月 13 日から 2020 年 2 月 6 日まで(以下「本調査
    期間」という。)の調査に基づいているものであるが、当委員会は、その後も本
    調査を鋭意継続しており、最終報告は後日別途行う予定である。


3    調査対象期間
    本調査の対象期間については、必要性と実効性を勘案して、2012 年 1 月から 2019
年 11 月 30 日(以下「本調査対象期間」という。)としたが、必要に応じてそれ
以前の期間に遡って調査を実施している。


4    調査方法
     当委員会は、以下のとおり、関係者へのヒアリング、並びに貴社及び協力を得
    られた取引先等から提供を受けた資料の分析・検討等の方法により、本調査を実
    施している。


(1)当委員会による関係者らに対するヒアリング
      当委員会は、2019 年 12 月 16 日から 2020 年 2 月 6 日までの間、関係者(貴
     社役職員及び退職者並びに一部の取引先の担当者)からヒアリングを実施した。
      また、当委員会は、自ら又は貴社を通じて、9 社の取引先に対して担当者へ
     のヒアリングの要請を行ったところ、本調査期間において、うち 5 社はこの要
     請に応じたことから当委員会としてヒアリングを実施し、うち 1 社からは書面

                                 4
  での回答を受領したもののヒアリングは実施できておらず、それ以外の 3 社に
  対してはヒアリングを実施できていない。
   また、当委員会は、ヒアリングの実施と並行して、同種類似事案の有無に関
  する調査の目的で一定金額以上の外注取引を抽出し、当該取引の実在性を確認
  する質問票を、当委員会から営業担当者 175 名に電子媒体を通じて直接送付し、
  その回答を受けた。


(2)当委員会が貴社から開示を受けた資料
   当委員会は、貴社に対し、随時、分析・検討等が必要となると考えた資料(社
  内規程類やマニュアル等)の開示を依頼し、その開示を受けて内容を分析・検
  討した。
   当委員会は、これに加えて、貴社関係者の各ヒアリング時に各人が持参し当
  委員会に提供があった資料、並びに、各ヒアリング時等に当委員会から関係資
  料の提示を求めたことにより当委員会に各関係者から提供があった資料につい
  ても分析・検討した。


(3)会計データ及び各種証憑類等(他社提供の証憑を含む)の閲覧及び検討
   当委員会は、貴社に対し、随時、2012 年 4 月から 2019 年 11 月までの間の貴
  社の会計データ・取引データ及び証憑資料の開示を依頼し、その開示を受けて
  取引の実在性を検討した。
   また、貴社、乙社及び丙社の 3 社協同で行われた不正行為の認定作業結果及
  び他社提供の証憑についても貴社から提供を受けて、不正行為の全体像の把握
  を行うとともに、個別取引の実在性について検討を行った。


(4)デジタル・フォレンジック調査
   当委員会は、調査補助者である KPMG に指示して、関与が想定される対象役職
  員 17 名のメール、チャット、及び携帯電話等の保全を実施し、2012 年 4 月以
  降のメールデータをキーワード検索等により絞り込み、レビューを実施し、重
  要メールとして抽出されたものを証拠として活用した。


(5)社内アンケートの実施
   当委員会は、貴社及び貴社子会社であるネットワンパートナーズ株式会社(以
  下「調査対象子会社」という。)の事業本部所属の営業職、技術職及び企画事
  務職従業員合計 1,129 名に対し、アンケートを実施した。



                      5
(6)社外アンケートの実施
         当委員会は、第 1、1 記載の類似する不正の調査を主たる目的として、一定金
     額以上の取引高があった取引先(得意先・仕入先・外注先)に対して、アンケ
     ートを実施した。


(7)ホットラインの開設
         当委員会は、第 1、1 記載の類似する不正の調査を主たる目的として、下記の
     とおり貴社及び調査対象子会社の役職員向けのホットラインを設定した。


                                     記
         通報期間:2019 年 12 月 19 日~2020 年 1 月 10 日
         受付方法:Web 及び電話


第3   調査結果
 1   貴社に関する基本情報
(1)貴社の概要
         貴社は、1988年11月、東京都港区において、LAN(ローカルエリアネットワー
     クシステム)の販売を目的として設立され、2001年1月に東京証券取引所市場第
     一部に上場した。
         貴社及び貴社の関連会社の中心的な事業は、ICTシステムを構成するネット
     ワークやプラットフォーム等の製品(ルータ、スイッチ、光伝送、無線、仮想
     化ソフトウェア、サーバ、ストレージ、ファイアウォール、認証・検疫ビデオ
     会議、コミュニケーションソフトウェア等)の販売、主にそれらの機器を組み
     合わせたシステムに係るサポートの提供(コンサルティング、システム設計・
     構築・保守・運用、技術者教育等)である。
         2019年3月期の連結売上高は1,819億3,500万円、従業員数は連結で2,294名、
     単体で2,141名である。


(2)貴社の組織・体制
     ア    組織
          貴社は、基本的には、決裁権限規程、職務分掌規程及び職務権限基準表に
         基づいて、所管する業務や決裁権限を各部署の各役職者等に割り当てている。
          貴社のコーポレート・ガバナンス及びリスク管理・コンプライアンスに関
         する各体制は、以下のとおりである。



                                 6
イ    コーポレート・ガバナンスに関する体制
     貴社のコーポレート・ガバナンスに関する体制は以下のとおりである。な
    お、以下の記述及び図は、貴社の有価証券報告書及び訂正報告書並びに貴社
    のウェブサイト上の記載を一部引用している。


(ア)コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方
      貴社は、「すべてのステークホルダーから信頼され支持される企業(ア
     ドマイヤード・カンパニー)になること」という経営ビジョンのもと、継
     続した成長を最大の目標とし、当該目標を達成し、中長期的な企業価値の
     向上を図るため、透明・公正かつ迅速果断な意思決定を実現するコーポレ
     ート・ガバナンスの充実・強化に継続的に取り組む旨を表明し、コーポレ
     ート・ガバナンスに関する基本的な考え方及び枠組みを定めた「コーポレ
     ートガバナンス・ガイドライン」を、貴社のウェブサイトにおいて公表し
     ている。


(イ)企業統治の体制の概要
      貴社は、監査役会設置会社であり、取締役会の 30%以上を構成する独立
     社外取締役による経営・職務執行の監督に加え、監査役会の半数以上を構
     成する独立社外監査役による取締役の職務執行の監査、執行役員制度の導
     入による取締役会の経営管理・監督機能強化及び業務執行の効率化・迅速
     化並びに諮問委員会による取締役及び執行役員の選任、解任及び報酬等の
     公正性・客観性の確保を通して、実効性の高いコーポレート・ガバナンス
     体制の構築を図ろうとしている。




                   7
a    取締役及び取締役会
     貴社の取締役会は、独立社外取締役 4 名(全員を東京証券取引所へ独
    立役員として届出)を含む 11 名(男性 10 名、女性 1 名)で構成され、
    原則として月 1 回の開催とし、法令及び定款に定める事項のほか、経営
    ビジョンや経営方針、中期事業計画その他経営・業務執行に関する重要
    事項を決定するとともに、取締役の職務執行状況の報告等を通して、経
    営全般についての監督を行っている。


b    監査役及び監査役会
     貴社の監査役会は、独立社外監査役 3 名(全員を東京証券取引所へ独
    立役員として届出)を含む 4 名(男性 4 名、女性 0 名)で構成され、原
    則として月 1 回開催されている。各監査役は、監査役会での協議に加え、
    取締役会、経営委員会、諮問委員会及びリスク・コンプライアンス委員
    会等の重要な会議に出席し、経営・業務執行に関する重要事項等の審議
    に際しては適宜意見を述べるとともに、経営・業務執行状況の報告を聴
    取している。


c    各種委員会
(a)諮問委員会
      経営の透明性・公正性を高め、コーポレート・ガバナンスを強化す
     るため、取締役会の諮問機関として設置されている。社外取締役が議
     長を務め、代表取締役、社外取締役、常勤監査役及び社外監査役で構
     成され、取締役及び執行役員の選任、解任及び報酬等に関する事項を
     審議及び答申している。


(b)経営委員会
      取締役会の機能に関し、経営管理・監督機能への重点化を図り、経
     営の透明性及び公正性を確保するとともに、迅速かつ効率的な業務遂
     行体制を構築するため、代表取締役社長のもとに設置され、社内規程
     により取締役会の決議を要さない事項の決裁権限を委 任されており、
     会社経営上基本的又は重要な事項につき審議・決定している。経営委
     員会の委員長は社長であり、委員は社外取締役を除く取締役及び委員
     長が任命した者とされ、オブザーバーとして社外取締役、常勤監査役、
     社外監査役、相談役及び特別顧問が参加する。



                   8
ウ   リスク管理・コンプライアンスに関する体制
(ア)リスク管理体制
    a   リスクマネジメント統括責任者(CRO)
         貴社グループのリスク管理活動を統括管理する者として、貴社にリス
        クマネジメント統括責任者(CRO)が置かれている。CRO には、取締役管
        理本部長が充てられている。


    b    リスク・コンプライアンス委員会
         リスク・コンプライアンス委員会は、貴社グループのコンプライアン
        ス強化を推進するとともに、企業価値の持続的な向上を図るため、経営
        委員会の諮問機関として設置され、貴社グループのリスク管理活動及び
        コンプライアンス活動に係る重要事項を審議及び答申している。


(イ)コンプライアンスに関する体制
        コンプライアンスへの取組体制の整備としては、①リスク・コンプライ
    アンス委員会の設置及びコンプライアンス統括責任者(チーフ・コンプラ
    イアンス・オフィサー(CCO))の設置(取締役管理本部長が充てられてい
    る)、②コンプライアンス統括部署の定め、③部門コンプライアンス責任
    者の設置がなされている。また、コンプライアンスの浸透と徹底のための
    措置として、(a)各種社内研修や法令・ルール遵守チェックの実施、(b)通
    報・相談窓口の整備、(c)コンプライアンス必携カードの配布、(d)コンプ
    ライアンス・アンケートの実施、(e)メールマガジンや社内ポータル、ビデ
    オオンデマンドによる各種情報提供、(f)反社会的勢力への対応を行って
    いる。


(ウ)内部通報制度
        貴社の内部通報制度においては、社内窓口が設置されているほか、社外
    窓口として外部の法律事務所に窓口が置かれ、役員のコンプライアンスに
    関する事項については、監査役にも通報が可能である。また、外部の取引
    先等が利用できる窓口も設置されている。


エ   貴社内部監査室による監査
(ア)内部監査室の職務
        内部監査室においては、監査役、会計監査人及び内部統制関連部門と密
    接に連絡を保ちつつ、会社の業務方針が経営方針、社内規程等に沿い、ま

                      9
    た、法令等に抵触することなく行われているかを効率的に調査することに
    より、貴社の経営管理に資することを職務とし、会計、業務、制度 等の会
    社業務全般にわたる監査計画の立案及び監査の実施、監査結果に基づく助
    言・勧告及び関連部門に対する必要な措置等の実施、金融商品取引法に定
    められた内 部統制評 価 報告書作成 に 係る評 価 計画策定及 び評価の 実 施等
    を業務として行っている。


(イ)営業部門に対する内部監査
      営業部門に対する内部監査においては、内部監査の対象となる案件を選
    定し、対象案件については、貴社内の販売管理システム内に保存された帳
    票類を確認・検討する。内部監査の対象とする案件は、売上規模、取引件
    数や過去の内部監査の実績等を基準として抽出している。


(ウ)監査報告
      内部監査の終了後、定期的(年 2 回)に社長、経営委員会及び取締役会
    に監査報告を行うとともに、内部監査の対象となった部門に対して、監査
    報告を行う。監査報告書の中に、内部監査対象部門に対するアクションと
    いう項目があり、その中で内部監査室として、指摘事項に対する改善要望
    を出している。


(エ)純額取引に対する内部監査
      貴社においては、2018 年度まで、A 氏が所属していた東日本第 1 事業本
    部第 1 営業部(以下「第 1 営業部」という。)営業第 1 チーム(以下「営
    業第 1 チーム」という。)が関与した純額取引(発注した商品・サービス
    が顧客指定先への直送であり、貴社が当該案件について付加価値を提供せ
    ずに、手数料を取得する取引であって、貴社の手数料のみが売上げとして
    計上されるもの。詳細は後述する。)のうち、会計監査人による監査の対
    象となったものについては、内部監査の対象案件から除外していた。その
    理由は、営業第 1 チームの純額取引について、会計監査人がかなり厳格に
    検討している以上、これに重ねて内部監査を実施する意味は乏しいと判断
    されたためとのことである。


オ    貴社監査役による監査
    監査役監査については、監査役会が定めた監査の方針、計画、業務の分担
    等に従い、各監査役が、取締役会、経営委員会、諮問委員会及びリスク・コ

                     10
        ンプライアンス委員会等の重要な会議に出席し、経営、業務執行に関する重
        要事項の審議に際しては適宜意見を述べ、経営・業務執行状況の報告の聴取
        を行うとともに、貴社及び子会社の業務並びに財産の状況の調査等により、
        法令及び定款への適合性の観点から取締役の職務の執行を監査している。


    カ    貴社会計監査人による監査
         貴社の会計監査人は、1992年以降変更されていないが、その監査計画では、
        売上取引の実在性の検証は重点監査項目に選定されていた。監査手続の実施
        に際して、貴社の売上取引に関する内部統制は監査上依拠できるものとされ、
        サンプリングにより抽出された売上取引を個別検証することで、貴社会計監
        査人は監査上の心証形成を行っていた。貴社会計監査人のサンプリングは、
        一定金額以上の取引、循環取引の可能性がある低粗利率の取引等、複数の基
        準を用いて実施されていた。
         当該抽出基準により選定された取引には、本調査で納品実体がない取引と
        認定された取引(以下「本件監査対象取引」という。)が含まれていた。当
        該取引について、貴社会計監査人は、A氏等に対して案件の背景事情について
        ヒアリングを行うとともに、内部・外部証憑の証憑突合を実施していた。貴
        社会計監査人が入手した外部証憑には、取引発生時点で貴社が既に入手して
        いた証憑のほか、サンプリング終了後貴社会計監査人からの資料要求に対応
        してA氏が直接の売上先及び仕入先の担当者に要請し、新たに入手した証憑
        も含まれていた。こうした手続を経た上で貴社会計監査人から、本件監査対
        象取引の実在性に関する問題点が指摘されることはなかった。


2   第 1 営業部の体制及び営業第 1 チームの業務等
(1)第 1 営業部の職務
        A氏が所属していた第1営業部は、首都圏、北関東、信越の公共市場及び社会
    インフラ市場を主に担当している(公共市場とは、中央省庁、地方公共団体、
    文教、ヘルスケアを指す。社会インフラ市場とは、電力、鉄道、ガスを指す。 。
                                       )
        営業部は、営業職、技術職及び企画事務職で構成されており、主管する市場・
    顧客に対する営業計画の策定、受注、売上げ、利益及び回収に関して実行責任
    を負うほか、顧客に対する事業活動全般に関する責任を負う。
        A氏が所属していた営業第1チームは、公共市場(中央省庁)を担当し、2019
    年11月1日時点で9名が所属していた。基本的には、エンドユーザーである中央
    省庁ごとに担当者が決められていた。



                        11
   営業第1チームは、上記のとおり中央省庁を顧客とする案件を担当しており、
  主として入札への参加及びその落札を営業活動の目標とし、顧客である中央省
  庁に対し、様々な提案活動を継続的に行う。入札の流れは、概ね、①中央省庁
  において調達等を入札に付すことが決まり、入札公告がされると、②その内容
  に基づいて、各入札参加者が資格審査申請書や提案書等の必要書類を作成・提
  出し、③中央省庁の審査に合格すれば入札通知を受領し、④入札公告の内容に
  従って入札申請書や添付資料を作成・提出して入札し、⑤開札されて受注の可
  否が決まるというものである。入札の対象には、入札仕様書や調達仕様書の作
  成支援等のコンサルティング業務も含まれており、営業第1チームは、このコン
  サルティング業務を入札によって中央省庁から受注し、このサービスを提供す
  ることも多い。営業第1チームは、このように中央省庁を顧客とする案件を担当
  していることから、貴社の霞が関オフィスに勤務している。


(2)第 1 営業部の体制
   東日本第1事業本部には、本部長、副本部長、部長、副部長、マネージャーの
  役職がある。顧客に対する見積りの提出や取引実施については、貴社社内規程
  所定の基準に従い、各役職者による決裁が必要とされている。
   マネージャーは、営業担当者が作成した顧客宛て見積書を第一次的に審理・
  承認する立場にある。


(3)取引の基本的な流れ
   第 1 営業部が行う物販取引の主な流れは、以下のとおりである。
   営業担当者は、将来的な受注を目指す案件開拓の段階で、その案件について、
  顧客名、取引の内容(物販、作業、期間対応等)、金額、受注見込み等の情報を
  販売管理システムに入力し、登録する。この案件登録により、その案件につい
  て個別の ID がシステム上で発番される。登録された案件の進捗状況について
  は、その案件を登録した営業担当者が、適宜情報を更新し、管理する。顧客に
  対する見積りの提出に当たり、承認権者の承認が必要となることは前述のとお
  りであり、顧客から当該見積りに基づいて注文を受けると、営業担当者は、そ
  の案件について受注した旨登録情報を更新する。
   物品の仕入れは、グループ購買・物流部(以下「購買部」という。)が、仕入
  先から営業担当者が取得した見積書に基づき、所定の承認手続を経て、当該仕
  入先に注文書を発行することにより行われる。購買部が当該物品の検収証跡を
  確認し、支払依頼を行った後、経理部が当該仕入先から受領した請求書の内容
  等を確認し、所定の承認手続を経た上で当該仕入先への支払を行う。

                  12
   また、貴社から顧客に対して当該物品が出荷、納入されたことを営業担当者
  が確認し、売上げが計上されると、営業支援室担当者が当該顧客に対して請求
  書を送付する。


(4)商流取引
   営業第 1 チームが担当する中央省庁をエンドユーザーとする入札案件におい
  ては、その性質上、以下の特色が見受けられる。
   中央省庁向けの入札案件は、基本的にシステム全般の大規模な構築等を伴う
  ものであることから、貴社の他部署が担当する顧客に対する営業活動とは異な
  り、貴社として、自社が得意とする製品を売り込むのではなく、入札案件にお
  けるコンサルティング業務(入札の対象とするシステムの仕様の設計や、調達
  仕様書の作成の支援等)から関与することも多い。中央省庁においてシステム
  構築を行う際のコンサルティング業務を落札した業者は、いわゆる設計施工分
  離のルールから、その後の構築請負契約の入札に参加することはできないとこ
  ろ、コンサルティングを担当した業者は、当該入札案件に関する様々な情報を
  持っていることから、落札した業者が、コンサルティングを担当した業者に対
  して、物品の調達につき当該業者を介して行う取引(以下「商流取引」という。)
  への参加を打診してくる傾向にあった。
   貴社としては、コンサルティング業務は、貴社技術部門の担当者や外注先が
  多大な労力をかけて、相当な期間にわたって実施するものであり、その利益率
  は低くならざるを得ないことから、商流取引に応じることで、一定の利益を上
  げ、当該案件全体としての収益性を高めることができる。このような商流取引
  は、貴社においては 2005 年頃から開始されており、貴社が商流取引に関与する
  場合には、一定の利益率を確保するよう営業担当者に指導されており、商流取
  引に入る業者が得る利益率の相場もこれと同程度の水準とのことである。
   貴社においては、商流取引についても一定金額以上の案件については、通常
  の案件と同様に上長による承認が必要とされており、営業担当者は上長に対し
  て、その案件に商流取引として貴社が入る理由や背景事情の合理性、具体的な
  入札案件の内容、落札業者、貴社が取り扱う製品の内容、仕入先及び納品先等
  について、説明する必要がある。


(5)純額取引に係るルール
   貴社の受注取引のうち、発注した商品・サービスが顧客指定先への直送であ
  り、貴社が当該案件について付加価値を提供せずに、手数料を取得するような
  ものについては、
         「純額取引」として扱われ、利益のみを売上げとして計上する

                    13
    ものとされている。営業担当者は、このような純額取引を行う場合には、案件
    登録時に必要事項を記入した申請書等の書面をもって、順次承認を得る必要が
    ある。この申請書は、ワークフロー上に添付するものであり、チェック事項の
    1 つに「コンプライアンス違反にあたる取引ではない」というものがあり、チ
    ェックして申請する必要がある。


3   本不正行為
(1)本不正行為の内容
        当委員会は、本調査によって得られた資料等の検討・分析により、不正行為
    の有無・態様、背景事情等を、以下のとおり認定した。当委員会では、可能な
    限りの調査を実施したものであるが、必ずしも網羅的なものではないことは留
    意されたい。


    ア    本不正行為の概要
         第 1、 記載の納品の事実が確認できない取引は、
             1                   中央省庁をエンドユーザ
        ーとする架空の物品販売を内容とする商流取引を順次繰り返す形で行われて
        いた(以下「本不正行為」という。)。貴社においては、本不正行為の期間
        中、営業第 1 チームのマネージャーであった A 氏が、本不正行為による取引
        の当事会社(後に定義する。)の担当者らと連絡を取り合い、A 氏の部下ら
        に対して必要書類の一部の作成を命じ、A 氏の上長に対して架空の商流取引
        である事実を秘して決裁を受け、本不正行為に係る取引を実行していた。す
        なわち、本不正行為は、貴社において組織的に実行されたものではなく、全
        容を把握して架空の商流取引であることを認識していたのは A 氏のみであり、
        A 氏が単独で行っていたものであった。
         営業第 1 チームは、前述のとおり、その業務の 1 つとして、中央省庁をエ
        ンドユーザーとする情報システムに関するソフトウェア及びハードウェアの
        販売を行っており、その形態には、中央省庁から各取引を落札して、他社か
        ら情報システムに関するソフトウェア及びハードウェアを仕入れ、これを当
        該省庁に納入するものの他に、他社が落札した案件につき、当該落札業者の
        下請けとして、物品の仕入れ及び納品を行い、マージンを得る商流取引も行
        っていた。
         中央省庁の商流取引における本来の取引の流れは、「メーカー(→仕入業
        者)→貴社→落札業者→省庁」となる。
         これに対し、本不正行為の場合の取引の流れは、「仕入業者→貴社→落札
        業者→仕入業者」となり、架空の物品販売であるため、製品の実際の納入は

                        14
なく、帳票類の受渡しと代金名下での金銭の授受のみが当事会社間で行われ
ていた。
 本不正行為は、貴社においては貴社のマネージャー職にあった A 氏により
差配されていた。その架空取引の外形は、貴社を含む各当事会社が、自社の
上流の会社(自社の販売先又はその先の販売先)が中央省庁から実際に落札
した案件の商流取引に入るというものである。このような外形の下で、その
商流取引の対象である製品は、自社の下流の会社(自社の仕入先)から、自
社の上流の会社(自社の販売先)が指定した場所に直接納入されることにな
っていた。例えば、貴社から見ると、取引に使われた中央省庁の案件は、実
際に中央省庁が入札を実施した案件であり、貴社の上流にいる会社(販売先)
は実際に当該案件を落札していたが、A 氏は、貴社が当該落札業者から物品
の調達・納入を受注する商流取引に入ることができたかのように装っていた
(実際には、当該落札業者は、貴社とは別の業者に発注していたものと思わ
れる。)。また、過去に落札された実在の中央省庁案件又は貴社が過去にコ
ンサルティング業務を受注して実施し、入札が行われた案件につき、当該案
件の追加発注という名目で架空の案件を作出していたものもあった。
 本不正行為により、各当事会社(後に定義する)は、下流の仕入先から仕
入れた物品に一定の利益を乗せて上流の会社(販売先)に納品していたが、
これは、当事会社間で帳票類の受渡しと代金名下での金銭の授受が繰り返さ
れる、実体のない架空取引であった。そのため、各社が代金名下の金額に利
益を加算して販売し、その次の取引では更に利益を上乗せした金額で再び仕
入れ、支払を行うことになることから、取引が繰り返される度に売上が計上
され、かつ売上代金の金額が加算されていった。また、繰り返されていた取
引の一部は、途中で分割して複数の会社に発注され、最終の仕入業者等に代
金名下に資金が流出していたと認められる。
 なお、A 氏の供述によれば、A 氏が本不正行為を行ったのは、第 1 営業部が
大規模な赤字を発生させたことなどから縮小傾向にあった中で、某中央省庁
発注の大型案件を A 氏のチームが失注したことから、これを挽回し、第 1 営
業部のプレゼンスを上げるためであったとのことであり、その後も、予算の
達成が第 1 営業部のプレゼンス向上の生命線であったため、本不正行為を止
められなかったとのことである。また、A 氏の供述によれば、本不正行為に
よって具体的な利益を得た者は自身を含めて存在しないとのことである。た
だし、現時点において、これら A 氏の供述を裏付けるものはなく、本不正行
為により支払われた金銭の一部が流出していることなども勘案すると、その
供述内容の信用性には疑問がある。

                15
イ   本不正行為に関与していた会社
(ア)本不正行為の当事会社
     本不正行為は、中央省庁をエンドユーザーとする架空の物品販売を内容
    とする取引であるが、貴社のほか、情報システムに関する機器等の販売等
    を行う甲社、乙社、丙社、丁社及び戊社の 5 社(以下、これらを併せて「当
    事会社」という。)により繰り返されていた。
     なお、当事会社の各担当者が A 氏と連絡を取り合い、本不正行為のため
    に必要な書類をやり取りしていたことは認められるが、各担当者が、本不
    正行為が架空の商流取引であることを認識していた事実や、A 氏と共謀し
    ていた事実については、これまでの本調査においては判然とせず、現時点
    で認定するには至っていない。


(イ)本不正行為による取引の代金の一部が流出した会社
     本不正行為は、前述のとおり、架空の商流取引が繰り返される度に売上
    が計上され、かつ売上代金が加算されていくが、かかる取引の途中で、案
    件を分割して戊社に架空発注し、さらに同社から前述の当事会社以外の複
    数の業者(以下「関与会社」という。)に架空発注されることがあった。
    すなわち、戊社及び同社の発注先である業者に対し、本不正行為によって
    支払われた金銭の一部が流出していると認められる。
     例えば、A 氏の供述では、将来貴社(営業第 1 チーム)が中央省庁案件
    を獲得できた場合に、その下請業務を格安で発注できる業者を用意するた
    め、アプリケーションの開発を行う SE の教育費という名目で、戊社を通
    じて A 氏の友人が経営する会社に対して、毎月数千万円規模の資金を支払
    っていたとのことである。しかしながら、かかる供述の根拠となる資料は
    現時点で発見されていない。また、A 氏によると、実在する営業第 1 チー
    ムの案件において、その利益率を維持するため、関与会社の一部に対し、
    当該案件における発注金額は本来必要な金額よりも低く抑えるように要
    請しつつ、その埋め合わせとして、本不正行為による取引の代金の一部を、
    戊社を通じて当該関与会社に支払っていたとのことである。
     なお、関与会社の各担当者が A 氏と連絡を取り合い、必要な書類をやり
    取りしていたことは認められるが、本不正行為について全容を把握して架
    空の商流取引であることを認識していた事実や、A 氏と共謀していた事実
    についてまでは、これまでの本調査においては判然とせず、現時点で認定
    するには至っていない。



                  16
  ウ    本不正行為の規模等
       本調査により判明した本不正行為の発生金額の推移は、別紙のとおりであ
      る。
       本不正行為は、その始期が 2015 年 2 月頃であり、これが発覚した 2019 年
      11 月まで取引規模を拡大しつつ継続した。
       貴社において本不正行為による取引と認められるものは、案件数にして 40
      件、受注総額として約 279 億円、売上額として約 276 億円と算定されている。


       本調査により判明した関係当事者間の資金移動状況は下図(資金移動イメ
      ージ図)のとおりであり、全体として複雑かつ重層的に本不正行為に係る取
      引が累積していた状況が窺える。



(資金移動イメージ図)
                      甲社               資金の流れ




        丁社           貴社           乙社           戊社




                                           その他


                     丙社



(2)本不正行為の態様及び手口
  ア    本不正行為による取引の内容
       本調査によっ て本不正 行為による取 引である と認められた 案件は 別 紙 の
      とおりであるが、手法に関する A 氏の説明、指示を受けていた部下らの説明
      及び証憑類等を考察すると、その取引の態様・手口は、基本的には同じであ
      るとみられるため、その共通する手法について、A 氏が行った架空商流取引
      のうち、最も金額が大きい案件 A 及びその前段階の案件αを例にとり、以下



                          17
のとおりその流れを説明する(A 氏による偽造注文書を利用して、案件名が
β→α→A→B とすり替わっていく流れとなる。)。
⓪    まず、前提として、案件αの前の本不正行為による取引により、案件
    βとして処理しなければならない取引が発生しており、この案件βにつ
    いて甲社から貴社に発注がなされている(案件βについても貴社から丙
    社に対して正式の注文書が提出される。すなわち、貴社内では、正式に
    は案件βで丙社に発注する外観となっているが、それでは案件βで再度
    丙社が甲社に発注することとなり、再度当事会社間で同じ案件の取引が
    繰り返されてしまうので、架空取引であることが発覚してしまう。そこ
    で、発覚を避けるため、A 氏は、丙社の担当者に当該注文書(案件β)を
    使用しない又は差し替えるように依頼し、同社内では、当該発注につき、
    別途 A 氏より提出される案件αの偽造注文書により社内処理されること
    になる(下記③参照))。
①    A 氏が、甲社が中央省庁から入札によって受注したとされる案件α(先
    行する案件βに係る甲社からの発注に対処するため、本不正行為による
    取引であるのに、貴社においては、実在する某中央省庁の案件をベース
    に新たな案件(追加の物品調達)であるかのように件名が付され、案件
    登録される。)について、甲社から物品の調達について貴社が依頼を受け
    たものとして架空の商流取引を作出する。その際、A 氏は、貴社が丙社か
    ら当該物品を仕入れることとして、丙社及び甲社に対して、それぞれ案
    件αの見積りの内訳明細を交付する(なお、案件αの基礎となる案件は、
    実際に当該中央省庁作成の入札説明書、調達仕様書、要件定義書等が存
    在するなど実際に入札が行われた案件であり、甲社が現に落札したもの
    であったが、貴社が案件登録した案件αは、上記の商流取引に係る架空
    の物品調達案件であり、甲社として必要な物品の調達は、貴社とは別の
    他社に発注したものであるとみられる。 。
                      )
②    送付された内訳明細に基づき、A 氏は、丙社から貴社に案件αの見積
    書を発行させ、さらに貴社から甲社に対して案件αの見積書を交付する。
    甲社は丙社に対して案件 α の見積書を発行する。また、この際に、A 氏
    は、甲社に対して、貴社からの案件αの見積りを受けて、丙社へ自らの
    利益を乗せて案件αの見積書を交付するよう指示しているもの とみられ
    る(なお、このケースでは、併せて別ルートとして、乙社及び己社に対
    しても、同様に己社から乙社へ、乙社から貴社へ、それぞれ案件αの見
    積書が交付されている。また、別途、戊社から丙社に案件αの見積書が
    交付されている。 。
            )

                   18
③    A 氏が丙社に対し、貴社の案件αに関し、本来であれば購買部から発
    行される貴社名義の注文書ではなく、貴社の東日本事業本部長(当時)
    ないし購買部名義の注文書を無断で偽造して交付する。A 氏が案件αの
    偽造注文書を発行する理由は、上記⓪において貴社が丙社から仕入れて
    甲社から発注を受ける(甲社に販売する)外観になっている案件βを、
    次の架空商流取引である案件αに換えるためであるとみられる(案件の
    内訳明細を変えることにより架空の取引が繰り返されていることが発覚
    しないようにするためである。すなわち、案件βは直前の架空商流取引
    であり、既に丙社から甲社に発注され、甲社から貴社に発注された物品
    であるため、丙社が再度同じ案件の内訳明細で甲社に発注することを避
    けるため、貴社が丙社に発注する商品名を貴社において(αに)変更す
    る必要が生じている。 。
              )
     なお、A 氏は、本不正行為による取引においては、件名を「省庁向け物
    品等一式」等、どの中央省庁の案件か外見からは不明な記載として、本
    不正行為による取引を繰り返し行っていることが発見されにくくなるよ
    うに細工していた。
④    上記③の偽造注文書を受けて、丙社は甲社に案件αの発注を出し、貴
    社は甲社から案件αの発注を受ける(これにより、案件βの商流から案
    件αの商流にすり替わって取引が続くことになる。なお、ここで、丙社
    は、別に戊社に対しても案件αの発注を出している。また、貴社は、乙
    社に対して案件αを発注し、乙社は更に己社に発注している。 。
                                )
⑤    A 氏は、丙社に対して、次の本不正行為による取引のために、案件αで
    はなく、案件αとは別の中央省庁の案件である案件 A であるかのように
    名目を変更し、貴社が丙社から当該案件 A に係る物品を仕入れる架空の
    商流取引を作出するため、丙社及び甲社に対して、それぞれ案件 A の見
    積りの内訳明細を交付する。
     なお、案件 A は、A 氏から上司らに対して、甲社が設備関連業務を某
    中央省庁との随意契約により受注したなどと説明し、貴社が当該中央省
    庁案件において甲社と協業していることを背景として、物品調達につい
    て依頼を受けて商流取引に入る旨が説明されていたが、実際には存在し
    ない全くの架空案件である。
⑥    送付された内訳明細に基づき、A 氏は、丙社から貴社に案件 A の見積
    書を発行させ、さらに貴社から甲社に対して案件 A の見積書を交付する。
    甲社は丙社に対して案件 A の見積書を発行する。また、この際に、A 氏
    は、甲社に対して、貴社からの案件 A の見積りを受けて、丙社へ自らの

                   19
    利益を乗せて案件 A の見積書を交付するよう指示しているものとみられ
    る。
⑦    ここで、A 氏は、丙社に対して、案件 A に関し、上記③と同様の偽造注
    文書を交付する。A 氏が案件 A の偽造注文書を発行する理由は、上記①
    乃至④において、貴社が丙社から仕入れて甲社から発注を受けた(甲社
    に販売した)外観となっている案件αを、次の架空商流取引である案件
    A にすり換えるためであるとみられる(すなわち、案件αは直前の架空
    商流取引であり、既に上記④のとおり丙社から甲社に発注され、甲社か
    ら貴社に発注された物品であるため、再度案件αで丙社から甲社に発注
    しなければならなくなることを避けるため、丙社に対して発注する内訳
    明細を貴社において(A に)変更する必要が生じている)。
⑧    貴社内では上記案件 A として(偽造注文書により)発注されているこ
    とは秘匿されているため、後日貴社購買部から案件 α として別途注文書
    が丙社に(正式に)発行されるが、このような偽造注文書を送付してい
    る場合には、貴社購買部から送付される案件αの注文書が丙社内で確認
    されると本不正行為が発覚してしまうことから、A 氏によれば、A 氏は、
    丙社担当者に連絡し、あるいは案件 A の偽造注文書の差替えを行うなど
    して、丙社内で貴社購買部から送付される案件αの注文書が正式な注文
    書として取り扱われず、案件 A の偽造注文書によって案件が切り替わる
    ように画策していたとのことである。なお、別の丙社以外の仕入先の案
    件において、丙社以外の仕入先に対しては、貴社購買部から発行された
    注文書が届いたら、すでに仕入先の手元にある別の注文書(前に A 氏が
    偽造して交付した注文書である)と差し替えるよう依頼するケースもあ
    ったとみられる。
⑨    丙社は、上記⑦の案件 A の偽造注文書を受けて、甲社に案件 A の発注
    を出し、貴社は甲社から案件 A の発注を受ける。
⑩    その後は、上記⑨の甲社から貴社に対する(案件 A による)発注が、
    上記⓪(案件βによる発注)と同じ位置付けとなり、次の新たな本不正
    行為による取引案件 B(別の中央省庁案件)として、同様のことが繰り返
    されていくこととなる。つまり、後日貴社購買部から案件 A として別途
    注文書が丙社に発行されるが、上記⑧と同様、A 氏は、丙社の仕入先担当
    者に対して、購買部から発行された案件 A の注文書は使用しない、若し
    くは差し替える(案件 B の偽造注文書により社内処理する)ように依頼
    していたとみられる。



                  20
     この取引及び⓪~⑩の流れを簡単に図式化したものが、下図(本不正行為
    による取引の一例)である。


           図(本不正行為による取引の一例)




     以下では、本不正行為による取引における A 氏と当事会社とのやり取り、
    営業第 1 チームの部下への指示、貴社の上長に対する説明、事後の隠蔽工作
    について、順次より詳細な手法を説明する。その中で、適宜案件 A 等を例に
    とって説明を加える。


イ    A 氏による当事会社及び関与会社担当者とのやりとり
     A 氏は、貴社の受注先(顧客)に対しては、受注先(顧客)の更に上流にあ
    る会社が獲得した中央省庁案件であり、仕入先として貴社を使用するように
    依頼した上で商流の間に入るように依頼し、貴社の仕入先に対しては、貴社
    の受注先(顧客)が獲得した中央省庁案件であり、仕入先として特定の会社
    (実際は貴社の受注先(顧客)や戊社)を使用するように依頼していた。
     A 氏は、貴社の仕入先に当たる当事会社や商流に参加する関与会社に対し
    て直接連絡を取り、案件名、見積書の送付先(受注先)、見積額、検収日を

                    21
伝えるとともに、当該担当者らと連絡を取り合い、当該仕入先が本来作成す
るべき貴社宛ての見積書の内訳明細を貴社において作成し、それを当該仕入
先に交付して、後日見積書として受領していた。また、見積書の内訳明細の
作成が間に合わない時には、仕入先担当者からは当該会社名義の見積書頭紙
のみをメールで受領して、貴社において作成した見積書の内訳明細を添付し、
貴社における当該仕入先からの見積書とするなどしていた。例えば、前記案
件 A において、A 氏は、仕入先である丙社の担当者から、同社作成名義の貴
社宛て見積書の頭書(単価、数量及び見積合計金額が記載されているが、品
名及び明細欄には概括的に「省庁向け各種プロダクト   一式」、「各種プロ
ダクト」と記載があるのみで、詳細な明細は記載されず、備考欄に「内訳は
別紙のとおりです。」と記載されているもの)の送付をメール添付の方法で
受けた。後述のとおり、A 氏は、同見積書の内訳明細を 2 種類作成するよう
部下に指示しており、貴社が発注する次の案件が、貴社社内システム上、前
に行った本不正行為による取引の案件と同一とならないように、別の内訳明
細に差し替えた上で、本来であれば購買部から発行される貴社名義の注文書
ではなく、貴社の東日本事業本部長(当時)ないし購買部名義の注文書を無
断で偽造し、仕入先の当事会社に発行するなどして、貴社内で本不正行為に
よる取引が発覚しないような措置を講じていた。なお、正式な貴社注文書は
後日貴社購買部から仕入先に発行されるが、このような偽造注文書を送付し
ている場合には、貴社購買部から送付される案件αの注文書が丙社内で確認
されると本不正行為が発覚してしまうことから、A 氏によれば、A 氏は、丙社
担当者に連絡し、あるいは案件 A の偽造注文書の差替えを行うなどして、丙
社内で貴社購買部から送付される案件αの注文書が正式な発注書として取り
扱われず、案件 A の偽造注文書によって案件が切り替わるように画策してい
たものとみられる。また、別の丙社以外の仕入先の案件においては、正式な
貴社購買部からの注文書が届いたら、別の注文書(前に A 氏が偽造して交付
していた注文書である)と差し替えるように依頼し、発覚しないよう画策し
ていたものもあったとみられる。
 また、A 氏は、貴社が直接の受注先(顧客)との間でやり取りする見積書
の内訳明細のみならず、受注先がその上位者(受注先への発注者)に対して
交付する見積書の内訳明細の作成についても関与していた。例えば、ある「省
庁向け物品一式」案件において、A 氏は、受注先(顧客)である丙社の担当者
に対し、貴社作成名義の丙社宛て見積書内訳を送付したほか、丙社作成名義
の戊社(丙社の受注先)宛て見積書の内訳明細を送付していた。このように、



               22
    A 氏が各当事会社担当者と直接連絡を取り合うことにより、本不正行為によ
    る取引が実行されていた。
     さらに、A 氏の供述によれば、本不正行為により取引の代金の一部が流出
    していた取引については、仕入先に戊社から仕入れるように依頼し、戊社か
    ら、貴社(営業第 1 チーム)が別の実案件で使用した会社に対して、当該別
    案件で不足した人件費の補填名目で支払をさせていたとのことである。さら
    に、A 氏の供述によれば、前述のとおり、将来貴社(営業第 1 チーム)が中
    央省庁案件を獲得できた場合に、その下請業務を格安で発注できる業者を用
    意するため、アプリケーションの開発を行う SE の教育費という名目で、戊社
    を通じて A 氏の友人が経営する会社に対して、毎月数千万円規模の資金を支
    払っていたとのことであるが、かかる供述の裏付けとなる客観的資料は現時
    点までに発見されていない。


ウ    A 氏による部下への指示
     A 氏は、部下である B 氏、C 氏、D 氏又は E 氏に対し、本不正行為に関し、
    以下の指示を行っていた。


(ア)顧客向けの見積内訳明細の作成、顧客からの発注書の書換え
      A 氏は、本不正行為に係る貴社の受注取引について、前述の部下らに対
     し、顧客向けの機器の内訳明細を、A 氏が指示する総額に合うように作成
     するよう指示していた。すなわち、明細に記載する総額については、予め
     A 氏が指定しており、部下らは、これに見合う機器の構成を、A 氏から渡さ
     れた過去の案件の内訳明細を参考にし、又は自ら合理性のある内容を考案
     するなどして、内訳明細を作成していた。
      また、D 氏が担当していた案件において、受注先(顧客)から貴社に送
     付された発注書記載のエンドユーザー名、内訳及び案件名等が、貴社がそ
     の受注先に提出していた見積書の記載と異なっていることがあったが、そ
     の場合には、A 氏は、D 氏に対し、受注先が貴社に発行した発注書の PDF を
     書き換えるよう指示していた。


(イ)仕入先の見積内訳明細の作成
      A 氏は、本不正行為に係る仕入取引についても、B 氏又は D 氏に対し、本
     来丙社等の 貴社の仕 入 先となる当 事会社が 作 成するべき 同社名義 の 見積
     内訳明細を作成するように指示していた。前述のとおり、A 氏の指示によ
     り、仕入先から内訳明細がない見積書頭紙のみが貴社に送付されて きた際

                     23
 には、貴社において、B 氏又は D 氏が A 氏の指示に基づいて同案件の内訳
 明細を作成し、送付を受けた頭書と併せて仕入先からの見積書として扱っ
 ていた。
  案件 A についても、A 氏は、丙社の担当者からの上記メールを D 氏に転
 送した上、同人に指示して、本来であれば仕入先である丙社が作成すべき
 同社作成名義の貴社宛て見積書の内訳明細を D 氏に作成させ、これを添付
 したメールを A 氏宛に送付させていた。


(ウ)役員向け説明資料の作成
  貴社においては、見積金額が貴社社内規程所定の基準以上の案件につい
 て受注先(顧客)に見積書を提出するには事業本部長の決裁を得る必要が
 ある。A 氏は、部下らに対し、本不正行為に係る取引について、この決裁
 申請に使用する説明資料を作成するよう指示していた。その際、A 氏は、
 かかる資料の雛形を渡すとともに、受注予定時期、売上予定時期、見積金
 額、仕入金額、粗利等の記載するべき内容を部下らに指示し、これに従っ
 て資料の雛形フォーマットに入力させていた。


(エ)純額取引申請書の作成
  前述のとおり、営業担当者は、純額取引を行う場合には、案件登録時に
 必要事項を記入した申請書等の書面をもって、順次承認を得る必要がある。
 A 氏は、B 氏、C 氏又は D 氏に指示し、本不正行為に係る取引について、コ
 ンプライア ンス違反 の 取引ではな いものと し て純額取引 申請書を 作 成さ
 せ、自らこれを承認した上で、事業本部長及び管理本部長の決裁を受けて
 いた。
  案件 A においては、A 氏は「省庁向けライセンス等一式」、エンドユーザ
 ーは某中央省庁として純額取引申請を行い、貴社の承認権者である管理本
 部長らは、これを申請のとおりに承認した。
  なお、本不正行為における取引には、純額取引のものと総額取引のもの
 の両方が存在したが、過去に実在した案件の追加発注という名目で行う取
 引については、その過去の実案件を総額取引で行っていた場合には追加発
 注も総額取引とし、新規の入札案件の商流に入れることになったと仮装し
 ていたものについては純額取引としていたものとみられる。




                 24
(オ)支払条件変更に関する承認依頼に要する書類の作成
  貴社においては、仕入先への支払条件は、納入月末締め翌月末又は翌々
 月末に送金することが原則とされ、これを短縮する場合には、営業担当者
 が見積りの取得時に承認権者の承認を得る必要がある。A 氏は、B 氏、C 氏
 又は D 氏に指示し、本不正行為に係る取引について、実体がある取引の条
 件として上記支払期日を短縮する必要があるものと称して、支払条件変更
 に関する承認依頼に係る書面を作成させ、承認権者の承認を得ていた。
  案件 A においては、貴社の仕入先である丙社への支払が、物品の納入よ
 りも先に行われなければならない条件であったことから、通常の支払条件
 の変更について、第 1 営業部の当時の部長から管理本部に対して承認申請
 がされ、そのとおりに承認されている。


(カ)監査対応等の発覚防止工作
  A 氏は、内部監査及び会計監査人による監査の対象となった案件につき、
 監査の必要書類である受注先(顧客)発行の検収書等が不足する場合に、
 これらを取得するよう部下らに指示していた。また、A 氏は、部下らを介
 して、これらの書類の取得や、監査向けの納品確認根拠としてのメール返
 信等を、受注先である当事会社に依頼し、協力を得ることも行っていた。
  また、A 氏は、部下らに指示して、見積書の明細等を作成させた案件が
 会計監査人による監査の対象となった際、部下らに対し、監査法人に対す
 る回答案の作成を指示し、作成された内容を自らに送付させてチェックし
 た上で会計監査人に提出させていた。
  さらに、A 氏は、前述の見積明細作成の指示を受けて、事前に金額が決
 まっている ことや顧 客 と向き合う はずの営 業 担当者が認 識してい な い案
 件の存在について疑問を抱く部下らに対し、事実関係を明らかにせず、あ
 るいは叱責して質問をさせないなどの対応をとっていた。例えば、 氏は、
                               A
 B 氏に対しては、「先にお金が必要なお客様がいる。お金を先に払う代わ
 りに、利子がついて返ってくるというビジネスで、悪いことはやっていな
 い。」などと説明し、D 氏に対しては、「銀行がお金を回す必要があってこ
 のような取引があり、悪いことをやっているわけではない。」などと説明
 し、そのようなビジネスもあると思わせ、従わせていた。E 氏に対しては、
 納得できる回答をせずに「とにかく急ぎの案件である。」と述べ、指示に
 従わせていた。さらに、C 氏に対しては、「お前疑っているのか。」と叱責
 し、それ以上の質問を受け付けずに指示に従わせていた。



                  25
      エ    A 氏による上長らへの報告、説明
           貴社においては、見積金額が貴社社内規程所定の基準以上の案件について
          受注先(顧客)に見積書を提出するには、事業本部長の決裁を得る必要があ
          るが、それに先立ち、部下が上長らに対し、来期の案件の見通し等につき説
          明を行う場が設けられている。A 氏は、上長ら(本部長、副本部長、部長及び
          副部長)に対し、実在する案件に架空取引を織り交ぜた来期の見込みを巧み
          に説明していた。かかる上長らへの説明は、多くの案件では営業担当者が行
          うが、本不正行為に係る案件については、営業担当者でなく、マネージャー
          である A 氏が単独で行っていた。
           A 氏は、その後、具体的に架空の商流取引に係る顧客宛ての見積書を提出
          するに先立ち、営業担当者ではなく自ら、上長らに対し、順次、上記の事前
          説明に沿って、当該架空商流取引の背景事情や商流、粗利率、入出金の予定
          等を資料に基づいて説明し、上記管理職らをして実体のある商流取引である
          と信じさせ、決裁を得ていた。


4     本件の貴社連結財務諸表への影響
    当委員会の調査によって判明した、本不正行為が貴社連結財務諸表 の損益及び純
 資産に与える影響総額は、以下のとおりである。


                                                                     (単位:百万円)
             28期※          29期       30期       31期       32期      33期2Q
    科目                                                                       累計
             2015/3       2016/3    2017/3    2018/3    2019/3    2019/9
売上高
                      -   △ 4,278   △ 4,215   △ 7,383   △ 6,561   △ 5,179   △ 27,615
売上総利益
                      -    △ 404     △ 359     △ 882     △ 868    △ 1,128   △ 3,642
営業利益
                      -    △ 404     △ 359     △ 882     △ 868    △ 1,128   △ 3,642
経常利益
                      -    △ 404     △ 359     △ 882     △ 868    △ 1,128   △ 3,642
税金等調整前
当期純利益                 -    △ 404     △ 359     △ 882     △ 868    △ 1,128   △ 3,642
純資産
                      -    △ 404     △ 763    △ 1,645   △ 2,514   △ 3,642          -


    ※ 本不正行為は 28 期(2015 年 2 月)より開始しているが、28 期中は仕入取引
         のみが行われ支払額は未成工事支出金として処理されている。そのため、 28
         期時点での損益及び純資産影響は生じていない。


                                                                              以   上

                                         26
別紙   案件内訳(受注ベース)


                                                          (単位:億円)
   項目    28期      29期      30期      31期      32期      33期      累計
件数         1 件      7 件     12 件      6 件      7 件      5 件     38 件
受注金額          6       37       55       63       68       47      276
発注金額          5       34       48       55       57       41      240


※ 本不正行為による取引の内、33 期中の受注済み未売上の 2 件約 3 億円を除く。




                               27