6849 日本光電 2021-04-15 17:00:00
調査委員会の調査報告書等に関するお知らせ [pdf]
2021 年4月 15 日
各 位
会 社 名 日本光電工業株式会社
代表者名 代表取締役社長執行役員 荻 野 博 一
(コード番号 6849 東証第1部)
問合せ先 経営戦略統括部長 吉澤 慶一郎
(TEL :03-5996-8003)
調査委員会の調査報告書等に関するお知らせ
当社は、2021 年1月6日に社員3名が国立大学法人三重大学医学部附属病院の生体情報モニタ商談に
関連した贈賄の疑いにより逮捕されたことを受け、翌1月7日に当社独立社外取締役2名、外部の弁護
士2名を含む調査委員会(以下「当委員会」という。)を設置し、事実関係の解明、原因分析等の調査を
進めてきました。
このたび、当委員会より調査報告書を受領いたしましたので、下記のとおりお知らせいたします。
記
1.調査報告書の内容(別添)
添付の報告書は、取締役会に提出された調査報告書を基に、個人情報および機密情報保護の観点から、
部分的に非公表の措置を取っています。
2.当委員会の調査結果を受けた今後の対応方針
当社は、当委員会からの再発防止策の提言を踏まえ、具体的な再発防止策を速やかに策定の上、実行
していきます。また、再発防止策が早期かつ確実に実行されるよう、実行管理を目的とする再発防止策
実行管理委員会を経営会議の下部機関として設置します。
3.関係者の処分
当社は、今回の事態の重大性を厳粛に受け止め、コンプライアンス委員会等にて処分内容を以下のと
おり決定いたしました。
(1)取締役に対する処分
代表取締役社長執行役員 荻野 博一: 月額報酬の 30%を3ヵ月減額
代表取締役専務執行役員(国内事業統括) 田村 隆司: 月額報酬の 30%を3ヵ月減額
取締役常務執行役員(コンプライアンス担当役員) 長谷川 正: 月額報酬の 20%を3ヵ月減額
なお、本件に関係した社員および管理監督責任を負う社員については、社内規程に基づき、厳正に処
分いたします。
お客様、株主の皆様、ならびに関係するすべての方々に、多大なご迷惑とご心配をおかけしましたこ
とを改めてお詫び申し上げますとともに、再発防止を徹底することにより信頼回復に努めてまいります。
以 上
日本光電工業株式会社 御中
調査報告書
(開示版)
2021 年4月 15 日
調査委員会
委員長 村岡香奈子
委 員 清水一男
委 員 山内雅哉
委 員 柿島房枝
委 員 長谷川正
委 員 生田一彦
目次
第1 調査委員会について .....................................................................................................1
1 設置の経緯 ....................................................................................................................1
2 委嘱事項 .......................................................................................................................1
3 調査体制 .......................................................................................................................1
4 調査期間 .......................................................................................................................2
5 本調査の手法 ................................................................................................................2
(1)客観的資料の調査 .................................................................................................2
(2)業務フロー、決裁権限、値引き率の調査 .............................................................2
(3)関係者へのヒアリング ..........................................................................................3
(4)デジタルフォレンジック調査 ...............................................................................3
(5)社員へのアンケート調査 ......................................................................................4
(6)ディーラーへの調査 ..............................................................................................5
(7)取引調査 ................................................................................................................5
(8)寄附事例の調査 .....................................................................................................5
6 調査の限界 ....................................................................................................................6
第2 本事案について当委員会が認定した事実 ....................................................................7
1 前提 ...............................................................................................................................7
(1)中部支店の状況 .....................................................................................................7
(2)三重大病院重症系施設の市場攻略 ........................................................................7
(3)O氏からの金銭要求 ..............................................................................................8
2 2018 年 5 月頃からのO氏らとのやり取り ...................................................................8
(1)商談状況 ................................................................................................................8
(2)当社からの寄附以外の利益供与方法の発案 .......................................................11
(3)2018 年 7 月 2 日の面会 .......................................................................................12
(4)再度の当社からの寄附検討 .................................................................................12
(5)三重大への見積の提出 ........................................................................................12
3 本件商談取引の実行 ...................................................................................................13
(1)2018 年 8 月から 2019 年 4 月まで .......................................................................13
(2)本件利益供与の原資の作出 .................................................................................13
4 本件利益供与の実行 ...................................................................................................13
5 その後の取引 ..............................................................................................................13
6 当事者 3 名以外の当社の役員・社員等の関与 ...........................................................14
第3 同種事案の存否及び事実関係の調査 .........................................................................15
1 「同種事案」の意義 ...................................................................................................15
2 調査内容 .....................................................................................................................15
(1)デジタルフォレンジック調査 .............................................................................15
(2)社員アンケート調査 ............................................................................................15
(3)ディーラーアンケート調査 .................................................................................16
(4)取引調査 ..............................................................................................................16
(5)寄附事例の調査 ...................................................................................................16
3 調査結果 .....................................................................................................................16
第4 本事案の原因分析 .......................................................................................................17
1 利益供与が誘発される環境と利益供与の原資の作出が容易なシステム(機会) ....17
2 目先の商談成立への欲求(動機) .............................................................................18
3 コンプライアンス体制の不備・問題の本質に対する理解不足(正当化) ...............18
第5 再発防止策の提言 .......................................................................................................21
1 ガバナンスの強化 .......................................................................................................21
(1)組織の見直し .......................................................................................................21
(2)寄附金の検討プロセスの見直し .........................................................................21
(3)内部統制の強化 ...................................................................................................21
(4)ディーラーとの相互牽制 ....................................................................................21
2 人事評価の見直し .......................................................................................................22
3 コンプライアンス教育の徹底 ....................................................................................22
4 モニタリングの実施 ...................................................................................................23
第1 調査委員会について
1 設置の経緯
2021 年 1 月 6 日、国立大学法人三重大学医学部附属病院(以下「三重大病院」という。)
の生体情報モニタ商談に関連した贈賄の疑いにより、日本光電工業株式会社(以下「当社」
という。)中部支店医療圏営業部長A、中部支店医療圏営業部三重営業所長B及び中部支
店医療圏営業部三重営業所一係長Cの計 3 名(以下、この 3 名を「当事者 3 名」という。)
が逮捕された。
この事態を受け、2021 年 1 月 7 日、当社において調査委員会(以下「当委員会」とい
う。)を設置し調査を行うことが決定され、当委員会が設置された。
なお、当事者 3 名は勾留後、2021 年 1 月 27 日に津地方検察庁より起訴され、同年 4 月
14 日に第 1 回公判期日が開かれた。
2 委嘱事項
当委員会が当社から委嘱を受けた事項は以下のとおりである。
① 当事者 3 名が、公務員である三重大病院臨床麻酔部長(当時)O元教授(以下「O氏」
という。)らに、臨床麻酔部が機器を管理する手術室等に設置されていた生体情報モ
ニタ等につき順次当社製品が納入されるよう有利便宜な取り計らいを受ける見返り
に、O氏の設立した団体に対して販売業者(ディーラー)を介して現金 200 万円を入
金(以下「本件利益供与」という。)したという贈賄事件(以下「本事案」という。)
に係る事実関係の調査
② 他の贈賄事案(以下「同種事案」という。)の存否及び事実関係の調査
③ 上記①及び②で確認された事実関係の原因分析及び再発防止策の提言
3 調査体制
当委員会は、調査の専門性を考慮、かつ調査の公正性を確保するため、弁護士である社
外取締役、公認会計士・税理士である社外取締役を中心に構成している(同人らは東京証
券取引所有価証券上場規程第 436 条の 2 が定める独立役員である。。また、本事案の性
)
質及び調査の実効性に鑑み、元社外取締役であった弁護士及び顧問関係にある事務所の
弁護士を加えることとした。
そして、警察・検察の捜査において当社の役員等の関与の可能性は指摘されていないこ
とから、本事案は組織的な不正行為ではない蓋然性が高いと判断され、社内取締役が当委
員会に参画することで調査の公正性が阻害される恐れは低く、むしろ当社の業務フロー
を熟知している社内取締役の意見を活用することが調査の迅速性・網羅性に資すると判
断した。
なお、当委員会はいわゆる「第三者委員会」ではないが、日本弁護士連合会が作成した
1
「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に可能な限り準拠して、当社の全て
のステークホルダーの信頼回復に向けて公平・中立な立場から調査することを心掛けた。
当委員会は、次の委員で構成される。
委員長 村岡 香奈子 社外取締役 弁護士
委 員 清水 一男 社外取締役(監査等委員) 公認会計士・税理士
委 員 山内 雅哉 弁護士(ひびき綜合法律事務所)
委 員 柿島 房枝 弁護士(大原法律事務所)
委 員 長谷川 正 取締役(コンプライアンス担当役員(CCO))
委 員 生田 一彦 取締役(常勤監査等委員)
また、当委員会は、次の者を調査補助者に選任し、調査に従事させた。
弁護士 田辺一男 大原法律事務所
弁護士 大原武彦 大原法律事務所
弁護士 加藤平一朗 大原法律事務所
4 調査期間
2021 年 1 月 7 日から 2021 年 4 月 14 日まで本事案に関する調査(以下「本調査」とい
う。)を実施した。この期間中に、合計 8 回の調査委員会を開催した。
5 本調査の手法
当委員会が実施した本調査の手法は、以下のとおりである。
(1)客観的資料の調査
組織図・社内規程、基幹システム上の過去取引データ、受注伺いデータベース上の過
去データ、営業支援システム(JAYRO)上の過去見積書データ、当事者 3 名及び中部支
店支店長の業務用メール(三重県警より提供を受けた E メールデータ。2018 年 4 月か
ら 2020 年 12 月まで。)などの客観資料を確認した。
(2)業務フロー、決裁権限、値引き率の調査
業務フローについて、
『国内販社主要業務プロセス 業務マニュアル(J-SOX 対応)、
』
『販売業・貸与業等に関するガイドライン』等の確認を行った。
決裁権限、値引き率について、製品別の標準価格、ガイドライン価格、販売原価が記
載され、それぞれの役職ごとの決裁限度額が記載されている営業用決裁価格照会ファ
イルの確認、本事案に係る商談の値引き率、支社支店ごとの見積承認方法などの調査を
行った。
2
また、営業本部及び内部監査室に対して、業務フロー、決裁権限、値引き率、取引
慣行等に関して、ヒアリングを実施した。
(3)関係者へのヒアリング
主なヒアリング対象者は以下のとおりであるが、その他の中部支店や営業本部所属
の社員を含め合計 28 名に実施した。なお、以下の一覧は、ヒアリングを行った順番で
列挙している。
役職 ヒアリング
対象者
(括弧内は 2018 年 4 月当時の役職) 実施日
代表取締役 社長執行役員
荻野博一 2 月 15 日
(同上)
代表取締役 専務執行役員
田村隆司 2 月 16 日
(同上)
人事部付
社員B 2 月 17 日
(中部支店医療圏営業部三重営業所長)
人事部付
社員C 2 月 19 日
(中部支店医療圏営業部三重営業所一係 所員)
人事部付
社員A 2 月 25 日
(中部支店医療圏営業部長)
中国支店医療圏営業部長
社員F 3月2日
(2018 年 3 月まで中部支店病院営業二部長)
中部支店長
社員D 3 月 10 日
(同上)
営業本部病院営業統括部長
社員E 3 月 12 日
(同上。なお、2017 年 3 月まで日本光電中部株式会社社長)
(4)デジタルフォレンジック調査
当事者 3 名及び社員D(中部支店長)について、本事案の捜査担当検事の許可を受け
三重県警より提供を受けたメールデータ(コピー)及び添付ファイル(コピー)を、社
員Dについて、上記に加えローカル PC 上のメールデータ及び添付ファイル並びにサー
バー上のメールデータ及び添付ファイルを、社員E(営業本部病院営業統括部長)につ
いて、ローカル PC 上のメールデータ及び添付ファイル並びにサーバー上のメールデー
タ及び添付ファイルを、支社支店の営業部長(2021 年 3 月時点の 23 名)について、サ
ーバー上のメールデータ及び添付ファイルを保全した。
なお、当委員会で保全したデータには以下の制約がある。すなわちサーバー上のメー
3
ルデータについて、当社が 2021 年 1 月まで採用していたメールシステムでは、指定容
量を超えるとメール送受信ができなくなるため、過去のメールデータを削除する必要
があり、サーバー上のメールデータの残存期間は平均で約 8 か月であった。削除された
メールデータを指定期間保持する仕組みは取っていなかった。また、サーバー上のメー
ルデータのローカル PC への複製 保存方法は個人の利用方法に任されていた。
・ さらに、
本事案の当事者 3 名の PC 及び携帯電話は捜査機関に押収されており、前述した提供を
受けたメールデータ(コピー)及び添付ファイル(コピー)以外のデータについては、
当委員会の調査期間内に開示は難しいとの方針が捜査機関より示された。
上記の計 28 名に対して、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同
会社(以下「デロイト社」という。
)及びデジタルデータソリューション株式会社に委
託して、メールデータ、添付データ等のレビューを実施した。レビューの期間は、保全
を行うことができた全期間を対象とした。
本デジタルフォレンジックは、本事案及びその他同種事案の事実確認を目的として
おり、当事者 3 名及び当社の役員・社員による官公立病院関係者への贈賄を調査対象と
している。そのため、連絡手段として最も使用頻度が高いと思われる、メール及びその
添付ファイルのレビューを中心に実施することとした。
調査対象期間内の全データ 617,411 件を対象に、本事案、同種事案及び不正一般に関
連する特定のキーワード検索等により絞り込みを実施した。
なお、絞り込みに使用した検索キーワードは、主に次のとおりである。
裏金、賄賂、わいろ、接待、会食、懇親会、ゴルフ、リベート、見返り、現金、キャ
ッシュ、金員、金品、商品券、寄附、寄付、貰う、頼む、願う、融通、要請、研究費、
共同研究、受託研究、開発費、協賛、奨学寄附金、資金、趣意書、講座、寄贈、業務
委託契約、共同研究契約、アドバイザリー契約、他社更新、自社更新、他社交換、差
額、販売手数料、無償提供、格安保守、粗利、原資、値引、利ざや、薄利、機器選定、
捻出、便宜、受注伺、リプレイス、ホットライン、コンプラ等
絞り込み実施後のレビュー対象データ(60,103 件)について、関連するデータの抽
出基準等を明記したレビュープロトコルに従って、一定のタグ付け 「Hot」
( 「Relevant」
「Not Relevant」「クリティカル」等による区分)をしてレビュー作業を実施した。
、
(5)社員へのアンケート調査
日本国内の当社社員(計 3,994 名)に対して、本事案と同種事案の認識の有無や法令
遵守意識等について WEB アンケート調査(以下「社員アンケート調査」という。 を 2021
)
年 2 月 15 日から同月 22 日にかけて実施した。調査に必要な ASP の構築及び集計作業
は株式会社クロス・マーケティングに委託した。また、社員アンケート調査の対象とな
4
る社員に対しては、問合せ窓口は大原法律事務所とし、回答者名については大原法律事
務所でのみ把握し当社側には伝えないことを通知したうえで実施されている。
(6)ディーラーへの調査
① 当社と取引のあるディーラーに対するアンケート調査
当社では、国内販売において基本的に販売代理店制度は敷いておらず、広域ディーラ
ー・地場ディーラー等の販売業者(ディーラー)と売買を行うことも多い。本事案は、
ディーラーを介したO氏への寄附金の入金行為(ディーラーからO氏が設立した団体
への寄附行為)が問題となった事案である。
このことから、当委員会では、当社と取引のあるディーラーのうち、2018 年から 2019
年までの間に官公立の医療機関への納品があった 879 社に対して、過去 5 年間におい
て、当社社員から依頼を受けて、公務員・みなし公務員の関連する商談・取引・その他
ビジネスについて、①取引の相手方以外の口座宛への金銭の送金、②当該公務員・みな
し公務員又はその関係者に対する寄附その他の名目での金銭の支払いや高額(合計 10
万円以上)な物品の贈与をしたことの有無、並びにそのような依頼を当社社員から受け
たことの有無を問うアンケート調査(以下「ディーラーアンケート調査」という。)を
実施した。
実施期間は、2021 年 2 月 16 日から同年 3 月 5 日である。
② 本事案に関与したディーラーへのヒアリング
本事案の事実関係調査の一環として、本事案に関与したディーラー(以下「X社」と
いう。)に対し 2021 年 4 月 5 日にヒアリングを実施した。
(7)取引調査
本事案は、当社からディーラーへの卸価格とディーラーから三重大病院への入札価
格(納入価格)との差額の一部が、O氏側に入金された金員の原資となった事案である。
このことから、全支社支店の当社製品売上データ 3 年分のうち、ディーラー経由で行
われた取引で平均粗利率からの標準偏差を用いた一定の値及び一定の額以上のデータ
を抽出した上、該当取引の承認履歴の確認やヒアリングを実施した。
この調査方法については、デロイト社の助言を受けており、当社会計監査人の確認を
得て行われた。
(8)寄附事例の調査
本調査期間中の 2021 年 2 月 17 日にV社社員 2 名が津地方検察庁より起訴された。
報道等によれば、2018 年 3 月に、当時三重大病院臨床麻酔部副部長であったO氏にV
社製の医薬品を積極的に使用してもらう見返りとして、奨学寄附金名目で臨床麻酔部
が管理する三重大病院名義の口座に現金 200 万円を振り込んだということである(以
5
下「V社寄附事案」という。。
)
本事案は当社からの寄附行為が問題となったものではないが、当委員会の調査の過
程で、当事者 3 名が三重大病院への当社からの寄附を検討しようとしたものの正式申
請まで至らなかったことが判明していること、及び、V社寄附事案を受け、以下の調査
を行った。
① 寄附検討がなされたにとどまった(正式申請まで至らなかった)事例及び他社更新
がなされた事例
当社において支社支店が寄附を検討する場合、2018 年度当時の寄附申請フローは、
営業本部の窓口である社員Eの事前了承が得られたものについて、正式申請手続を行
うというものであった。正式申請手続は、「会議付議・決裁手続き基準」に基づいて、
支社支店からの申請については本社営業本部、経営管理部門、経理部門による確認を経
て、基本的に社長決裁とされていた。
そこで、過去 3 年分の寄附検討がなされたにとどまった(正式申請まで至らなかっ
た)事例及び国立大学病院の生体情報モニタ等で他社更新(既に納入されている他社製
品の更新時に、他社製品に替えて自社製品を納入すること。以下同じ。)がなされた事
例を抽出し、双方に該当する事例を中心に商談状況を調査した。
② 正式申請がなされた寄附事例
過去 5 年分の寄附申請書台帳を確認し、継続的に寄附を行っている案件について、そ
の寄附申請の判断過程、商談との関係性を調査した。また、寄附が行われた官公立病院
について、寄附金額と年度の売り上げの相関関係を調査し分析した。
6 調査の限界
当委員会は、強制的な調査権限を有しておらず、あくまでも当社の任意の協力の下で調
査を実施したに過ぎないことから、当委員会の調査及び結果には一定の限界がある。
以下「第2」で記載する「本事案について当委員会が認定した事実」について、当委員
会では、可能な限り、客観的資料の裏付けがある事実、また、客観的資料の裏付けが乏し
い場合は複数人の供述が一致した事実を認定しているが、当委員会が依拠した資料が全
ての事実を網羅しているとは限らず、また、当事者 3 名の公判が係属中であり一定の制約
を受けることから、内容の真実性、正確性を担保するものではない。
6
第2 本事案について当委員会が認定した事実
1 前提
(1)中部支店の状況
① 組織等
当社は 2017 年 4 月 1 日に国内販売子会社 11 社を吸収合併した。これに伴い、東海・
北陸地方を所管していた「日本光電中部株式会社」が中部支店となった。
中部支店(日本光電中部株式会社)では、2017 年度より前の数年間、売上目標未達
の状態が続いており、2017 年 4 月に中部支店長として赴任した社員Dは、業務改善策
を講じる必要があると考え、後述するプロジェクトの立ち上げ等を行った。
中部支店内の会議体としては、営業部長の会議体である運営会議(毎月 1 回開催)、
医療圏営業部の全社員が集まる業績報告会(四半期に 1 回開催)等があり、実績や営業
課題のアップデートを行っていた。
② 売上目標について
当社では、年間の売上目標について営業本部と各支社支店とが協議のうえ各支社支
店に割り振られ、更に各部に売上目標が割り振られるという方式が採用されていた。
各部への割り振りにおいては、部長の意見が取り入れられ、合議によって決定がなさ
れていた。部長の交替があったような場合には、前年度の年度末に異動予定の部長が次
年度の売上目標を合議によって仮に作成し、次年度に入ってから新部長の意見を踏ま
え、本決定するという方法がとられていた(もっとも、新部長は担当部の状況を即座に
は把握できないことから、仮決定されている売上目標を追認することが多いようであ
る。。
)
そして、中部支店では、2018 年度に各部の部長がほぼ全員交代したことから、前部
長らが策定した数字が売上目標として設定されたため、特に医療圏営業部にとっては
達成が難しい売上目標が設定されていた可能性がある。少なくとも、社員Aは、医療圏
営業部長に昇進した初年度であり、医療圏営業部に割り当てられた 2018 年度の売上目
標に強いプレッシャーを感じていたようである。
(2)三重大病院重症系施設の市場攻略
① 当社における大学病院重症系施設の位置付け
当社では、地域医療の拠点となる大学病院等の手術室、集中治療室(ICU、NICU)等
を「重症系」と総称し、重症系施設における生体情報モニタ等の他社市場を攻略しシェ
アを更新することは従来からの重要テーマとされていた。
中部支店においては、業務改善の一環として各営業所とシステム営業部(ソリューシ
ョン営業部)が連携して営業を行うべく、2017 年 4 月にプロジェクト(以下「PJ」と
いう。)が立ち上げられ、各営業所において毎月 1 回のペースで会議が行われるように
7
なったが、特に 2018 年度からは、拠点病院の他社市場攻略を重点施策として情報共有、
攻略方法の多角的検討が行われるようになった。この PJ においても、三重大病院重症
系施設は三重営業所における重点攻略対象の1つと位置付けられ、検討が行われた。
② 三重大病院重症系施設の機器選定・シェアの状況
三重大病院臨床麻酔部(以下「麻酔部」という。)の部長は、麻酔器等の医療機器を
一般入札の方法によって購入するにあたり、応札者の提案した設備が必要な仕様を満
たしているかの技術審査を行うなどの職務権限を有していた。
三重大病院の中央手術室には、当社の生体情報モニタが一部の手術室に入っていた
が、その他はすべて当社と競合関係にあるW社の生体情報モニタが入っていた。また、
血管撮影室(アンギオ室、カテーテル検査も同室で実施することから「カテ室」ともい
う。)には、U社の生体情報モニタが入っていた。
2018 年 4 月、それまで麻酔部の准教授であったO氏が教授となった。また、同月、
T大学附属病院麻酔科にいたP氏が三重大病院麻酔部の講師となった。麻酔部は、手術
中の患者の全身管理を主とした業務を行っており、その業務を行う上で患者のバイタ
ルサインをモニタリングする機材として使用する生体情報モニタは非常に重要な役割
を担う機器の一つであることから、この選定については、特に、実際使用する麻酔科医
師であるO氏が大きな権限を有していた。
P氏は、このO氏の業務を補佐する立場であり、O氏より機器の選定を任されていた。
(3)O氏からの金銭要求
O氏は、教授になることが内定した 2018 年 2 月頃から、当社のみならず麻酔部へ出
入りする医療機器、医薬品メーカー、業者に対し、研究費・寄附金を要求するようにな
った。また、研究費・寄附金を提供しないメーカー、業者とは、今後の取引はしない、
また面会もしないといった異例の対応を表明していた。
社員Cは、O氏から金銭要求を受けている状況を、社員B及び社員F(当時の病院営
業二部長)に対して報告し、情報共有がなされた。また、2018 年 4 月に医療圏営業部
長となった社員Aに対しても、社員Bから上記の状況について情報共有がなされた。
2018 年 4 月 16 日、社員C、社員BがO氏及びP氏の下へ面会に行った際に、O氏か
ら、三重大病院の手術件数は年々増加しており、安全で効率の良い手術室運営、管理を
するためには、設備投資が必要であるとの説明を受け、当社には、今後、手術室の安全
管理を高めるための提案をしてほしいとの趣旨の依頼があった。また、研究費・寄附金
の要求も受けた。
2 2018 年 5 月頃からのO氏らとのやり取り
(1)商談状況
① 2018 年 5 月 7 日の面会
8
社員B及び社員Cは、2018 年 5 月 7 日、O氏及びP氏と面会をした。
この場では、事前に準備していた、S大学附属病院手術室の麻酔科医師控室の写真を
使用し、生体情報モニタの紹介・提案をした。
また、統合型ゲートウェイサーバー(通称:バイトラック)(以下「バイトラック」
という。 のデモンストレーションも実施した。
) なお、このバイトラックという製品は、
手術室に設置されている生体情報モニタに表示される患者の生体情報(心電図、血圧、
動脈血酸素飽和度等)を、タブレット端末を活用し、離れた場所でも確認できるという
機能を持っている。
バイトラックについては、O氏、P氏から高い評価を得ることができた一方、O氏は、
生体情報モニタには興味がないと発言し、今後のモニタの仕様の検討、提案はP氏を中
心に詰めていくようにという指示があった。
② 上記①の面会を受けての三重営業所の提案
上記①の面会後、当社としては、以下のとおりの提案をすることとした。
a. W社製の手術室の生体情報モニタを当社に更新する提案
b. 現在三重大病院手術室で使用されている当社製生体情報モニタの情報を麻酔科
控室で監視できるようにするセントラルモニタの提案
c. バイトラック提案
この提案は、社員B、社員Cが発案し、その後、ソリューション営業部にも情報共有
された。
③ 上記①の面会における金銭要求に対する三重営業所の対応
上記①の面会においても、O氏から研究費・寄附金の要求があった。
この要求に対して、社員B及び社員Cは、明確な回答をせず、社内で検討はしている
として、面会を終わらせたものの、O氏からの強い金銭要求に対し対応を検討せざるを
得なかった。
そこで社員B及び社員Cは、2018 年 3 月より三重大病院手術室に臨床試用で貸し出
していた商品Q(手術中の患者の体温維持を目的とした製品)の臨床データを当社へ提
供してもらうことの対価として研究費の支払いをするという委託研究の提案をしよう
と考えた。
社員Cは、この提案をするために当社商品事業本部の商品Qの製品担当者と打ち合
わせをしたり、ソリューション営業部と情報共有したりしていた。
④ 2018 年 6 月 14 日の面会
社員B及び社員Cは、2018 年 6 月 14 日に三重大病院麻酔部を訪問しO氏及びP氏と
面会した。
この面会においては、O氏らに対し、商品Q並びに手術中の患者の深部体温を測定す
る製品である商品Rを採用してもらい、その臨床データを提供してもらう対価として
研究費の支払いをするという委託研究を提案した。この提案は、1 症例あたりの受託研
9
究費は高額とはならないが、三重大病院の手術室の年間の手術件数及び症例数を勘案
すると件数が確保できることから、年間 30 万円から 40 万円程度のまとまった研究費
を支払えるというものだった。
ところが、この提案に対して、O氏は、日本光電のために研究をしているのではなく、
三重大病院麻酔部として行いたい研究に対して、数十万円程度の金額ではなく百万円
単位の寄附・研究費を求めており、これに応じられないなら日本光電はない旨を発言し、
退席してしまった。
O氏は途中退席したが、社員B及び社員Cは、残されたP氏へ、生体情報モニタとバ
イトラックの見積書を提示した。P氏からは、バイトラックでのモニタリング等につい
て一定の評価を受けた。
この面会の後、社員Bは、社員Aに対し、当社の生体情報モニタを他大学の事例を紹
介する等して提案していること、O氏から上記のとおりの強い金銭要求があったこと
を報告した。この報告に対して、社員Aは、他のメーカーや業者の動向、どのような研
究をしたいと考えているのか等について調査するように社員Bに指示した。
⑤ P氏からの研究費催促とそれに対する対応
2018 年 6 月 20 日、三重営業所の会議室で PJ の会議があった。
会議後、社員Cは、P氏よりモニタの選定について「製品の納入価格も重要だが、や
はり研究費が考慮条件としては大きく、病院上層部に対しても意見をしやすくなる。手
術室全部とアンギオ室の統一セントラルモニタを実現すると、日本光電にとってもメ
リットのある話だと思う。」という趣旨のメールを受け取った。
このメールを受け取った社員Cは、
「脅しメールが来ました」と添えて、社員Bと社
員Aに同メールを転送し情報共有をした。社員Bは、社員Cから転送された上記内容の
メールを受けて、同日夕方、社員Aに、商談内容や背景について状況報告のメールを送
信している。そこには、
「確実に言えることは、研究費を払わなければ商談の土俵に上
がることが出来ないということ」 今後の展望として
、 「手術室の生体情報モニタと、ICU、
OR モニタ、病棟モニタのトータル提案を見据えて麻酔部攻略と、手術室モニタの奪取
をしなければなりません」、懸念点として「麻酔科のモニタが研究費だけで受注出来る
のか、次年度以降毎年の研究費を要請されるのか、コンプライアンス・透明性を担保し
て費用を出せるのか」といった記載がある。
これに対し、社員Aは、共同研究契約の方法、アドバイザリー契約の方法を提案し、
引き続き他社動向を確認するように社員Bに指示をした。
2018 年 6 月 21 日、P氏は社員Cに対して、6 月 27 日が見積の提出期限であること
から、その前にO氏に面会をするのであれば 25 日もしくは 26 日が都合がよいという
内容のメールをしており、日程調整の上、6 月 26 日に、当事者 3 名は、O氏と面会す
ることとなった。
2018 年 6 月 23 日、社員Aは、社員Dに対し、麻酔部への寄附について、商談内容や
10
背景を記載した資料(以下「寄附検討資料ⅰ」という。)を添付し、営業本部と交渉し
てほしい旨のメールを送付した。
⑥ 2018 年 6 月 26 日の面会
当事者 3 名で、2018 年 6 月 26 日、O氏に面会した。社員Aは 100 万円相当の寄附を
社内で検討していることをO氏へ伝えたが、O氏は、これにも満足せず、寄附金額を上
げるよう要求してきた。社員Aは、その場で回答することはできなかったため、7 月 2
日に最終回答の席を設けることとなった。
この面会を受け、社員Aは社員Dに麻酔部への寄附を相談し、社員Dは社員Eに電話
で相談するも、社員Eからは、この内容では会社からの寄附は無理である旨の回答を受
けた。6 月 27 日、社員Dは、社員Eの回答を社員Aに伝達する一方で、社員Eに対し
ては寄附検討資料ⅰを添付し、W社に先を越されてしまうと今後の更新が難しくなる
ということを添えて、寄附の検討を再度メールで願い出た。なお、この際、商談状況等
の詳細について追って提示する旨も伝えている。
そして、社員Dは、社員Aと社員Bが作成した商談状況等の詳細が記載された資料
(以下「寄附検討資料ⅱ」という。
)を 6 月 28 日に社員Eにメールで送付したが、社員
Eからは特段の反応はなかった。
(2)当社からの寄附以外の利益供与方法の発案
当事者 3 名は、O氏からの強い金銭要求を受け、委託研究の提案を検討していたが、
2018 年 6 月 14 日の面会でO氏を満足させる結果とならないことが判明した。また、当
社からの寄附の可能性も探っていたが、6 月 27 日以降のメールに対する社員Eの反応
が無いことから、2018 年 6 月下旬頃には、実現可能性が低いという認識を有するに至
った。
そこで、社員Aは、当社からの寄附ができない場合のことを考え、2018 年 6 月 26 日
の面会後、社員Cに対して、当社に代わって研究費・寄附金を出してくれるディーラー
がいないか探すように指示をした。社員Cは、その指示を受け、X社ならば協力してく
れるだろうと考え、X社担当者に相談を開始した。
なお、2018 年 1 月頃、三重大病院救命救急センターの医師から人工呼吸器ワークシ
ョップの協賛金要請があり、当社に代わりX社に 10 万円を振り込んでもらったという
ことがあった。
そして、社員Cは、後述する 2018 年 7 月 2 日の面会より前の段階で、当社からの卸
価格と三重大病院の入札価格(納入価格)との差額の一部を原資として、ディーラー
から三重大病院麻酔部に寄附をするということについて、X社と大筋で確認を済ませ
た。この間、社員CはX社担当者に対して、当社からの寄附について社内で検討して
いることも情報共有している。
11
(3)2018 年 7 月 2 日の面会
前述したとおり、同日までに、社員CがX社との間で寄附に関する相談を済ませてい
たため、当事者 3 名は、当社からの寄附だけではなく、ディーラーからの寄附をも念頭
に、2018 年 7 月 2 日のO氏との面会に臨んだ。
面会の場では、冒頭から、O氏が他社を引き合いに出しながら寄附金についての回答
を求めたのに対し、社員Aは、200 万から 300 万を支払うことをO氏に示した。これに
対しO氏からは、毎年お願いする旨の回答があった。
その後、当事者 3 名は、O氏に対して、当社製品の提案書を提示した。この提案は、
手術室の他社更新を前提に、2018 年度はバイトラックとセントラルモニタのみ受注し、
2019 年度から生体情報モニタを数台ずつ更新していくというものであった。提案内容
の説明は、社員Cが中心となって行っていたところ、その途中で社員AがO氏へ、2018
年度に生体情報モニタを購入すべきと発言した。
これに対し、O氏は、アンギオ室の生体情報モニタを当社で更新する旨の回答をした
(以下、この商談成立を受けて実際に行われた取引を「本件商談取引」という。。
)
このやり取りの後、O氏からは、生体情報モニタ 2 台とバイトラック 1 台ならば合
計 1300 万円くらいの提案をして欲しい旨の意向が示された。
その後、2018 年 7 月 9 日頃、O氏から三重営業所に対して、手術室の生体情報モニ
タの更新について当社製品を採用する旨の連絡があった。
(4)再度の当社からの寄附検討
7 月 11 日、社員Aは、社員Bから三重大病院に関して寄附を出している企業の情報
共有を受け、その内容を社員Dにメールで共有し、社員Eに対し当社からの寄附を申請
するように再度願い出た。同日、社員Dは、他メーカーの寄附状況等のメールを社員E
に転送し、当社としても寄附対応をしたいことから、寄附を検討して欲しい旨連絡をし
た。これに対し、社員Eからの反応はなかった。
さらに、7 月 25 日、社員Aは社員Eに対して、
「社内的に非常に厳しい事だとは重々
理解していますが、地方営業所、地方大学の未来のため」寄附の検討をお願いするとの
メールを出した。このメールに対しても、社員Eからは特段の反応はなかった。
(5)三重大への見積の提出
当社製品で更新されることが内定してから 2018 年 7 月 31 日までの間、社員CはP
氏と提案内容について検討を重ね、最終的に、2018 年度は、バイトラック 1 台、カテ
室の生体情報モニタ 2 台を更新し、その後毎年数台ずつ、手術室の生体情報モニタを継
続的に更新するという提案に至った。
そして、7 月 31 日、社員Cは、X社に対して、バイトラックと生体情報モニタ 2 台
で金額合計 1404 万円の見積書をメールで送付し、当該見積書はX社から三重大病院に
12
提出された。
3 本件商談取引の実行
(1)2018 年 8 月から 2019 年 4 月まで
O氏からは合計 1300 万円で購入したい旨の意向が出ていたことから、
社員Cは、2018
年 7 月 31 日に合計 1404 万円(税込)の見積書をX社を介して三重大病院に提出して
いる。その後、X社にも利益が出るような価格の交渉を行った。
2019 年 1 月、X社は、三重大学の一般競争入札にて、当社のバイトラックと生体情
報モニタ 2 台の契約権を落札した。
その後、当社とX社との間にもう 1 社ディーラーが入ることになり、社員Cは、2019
年 3 月 22 日、当該ディーラーに対して最終的な見積を提出し、本件商談取引が実行さ
れた。なお、当社とX社との間に入ったディーラーの本件商談取引に係る粗利は 10 万
円だった。
(2)本件利益供与の原資の作出
本事案では、X社が行う寄附の原資を捻出するために、当社からX社への卸価格につ
いて値引きが行われている。製品によっては 75%以上、平均でも 64%以上の値引きが
なされている。
他方、本件商談取引において、X社には約 350 万円の粗利が出たとのことである。こ
の粗利から 200 万円が本件利益供与の原資として確保された。
4 本件利益供与の実行
社員B及び社員Cは、2018 年 12 月頃に、O氏から、寄附金の支払先についてはO氏
が設立する団体に振り込むようにと指示を受けていたため、本件商談取引実行後、当該
団体が設立されるのを待っているような状態であった。
2019 年 1 月から 2 月頃に、O氏及び三重大病院講師(当時)N氏との間で寄附金の
金額が 200 万円と確定し、同年 7 月1日に、N氏から、研究会ができたので、昨年度話
していた寄附をお願いすると言われたため、社員CはこれをX社にメールで共有した。
O氏が設立した団体は、一般社団法人 BAM エンカレッジメント(以下「BAM」という。
)
であり、2019 年 8 月 30 日にX社からの寄附(本件利益供与)が実行された。
5 その後の取引
2019 年度は、手術室の生体情報モニタについて、三重大病院の一般競争入札でX社
が落札し、2019 年 9 月に納入された。この取引の商流は、当社⇔ディーラーY⇔ディ
ーラーZ⇔X社⇔三重大病院であったが、X社を含むディーラーからO氏側に利益供
与がなされたという事実は確認されなかった。
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なお、O氏からは毎年の寄附を要求されていたため、社員B及び社員Cは、2019 年
度末の生体情報モニタの商談において 200 万円捻出する必要があると考えていたが、
このときは商談が成立しなかった。
2020 年度は、手術室の生体情報モニタについて、三重大病院の一般競争入札でX社
が落札し、2020 年 9 月に納入された。この取引の商流は、当社⇔X社⇔三重大病院で
あったが、X社からO氏側に利益供与がなされたという事実は確認されなかった。
6 当事者 3 名以外の当社の役員・社員等の関与
本調査の結果、X社を介した BAM に対する本件利益供与の実行について、当事者 3 名
以外の当社の役員・社員等が関与していたことを裏付ける事実及び組織的な不正行為
であるという事実は確認されなかった。
14
第3 同種事案の存否及び事実関係の調査
1 「同種事案」の意義
本事案は、当社の正式な手続を経た寄附ではなく、当事者 3 名がディーラーを介して
捻出した資金を、三重大病院ではなくO氏が設立した団体に対してディーラーが寄附
する方法(第三者供賄)で利益供与が行われたものである。もっとも、官公庁に対する
寄附金の形を取って行われた利益の供与について、寄附金として正規の手続が採られ
ているかどうかにかかわらず、特定の公務員の職務行為と対価関係が認められる場合
には賄賂性は否定されないと解されている(『大コンメンタール刑法』
(第三版)第 10
巻 80 頁) V社寄附事案においても検察はこのような見解に立つものと考えられる。
。 従
って、本調査においては、当社において寄附の手続を経て実行された寄附であるかディ
ーラーを介して捻出された資金が供与された寄附であるかを問わず、また、寄附名目で
あるかどうかを問わず、官公立医療機関との商談に関連してなされた利益供与として
贈賄行為となる疑いのあるものを同種事案として調査した。
2 調査内容
上記第1の「5 本調査の手法」で挙げた各調査において、同種案件の存否及び事実
関係について、当委員会は以下のとおり調査を行った。
(1)デジタルフォレンジック調査
絞り込み実施後のレビュー対象データについて、官公立医療機関に関するものを抽
出し、案件ごとに整理したうえ、確認が必要であると認めた事項については個別に調査
を行った。
個別調査の結果、官公立医療機関に対する寄附金・協賛金等の検討過程で当該医療機
関との商談状況に触れた件は数件あり、その中には当社の製品採用を期待する趣旨の
寄附であることが否定できないものがあった。しかし、当委員会の調査の結果、公務員・
みなし公務員の職務との関連性を裏付ける客観的資料等の存在は確認できず、同種事
案と認定するまでには至らなかった。
(2)社員アンケート調査
本事案と同種事案の認識があると回答した者に対して、対象となる期間を限定せず、
当該認識の内容についてフリーコメントによる記載を求めた。記載があったもののう
ち、確認が必要であると認めた事項については、回答者に大原法律事務所からメールで
事情聴取を行い、さらに必要だと判断した場合には当委員会でヒアリング等を実施し
て、その内容を個別に調査した。なお、記載された事実について、官公立医療機関に関
するもの以外のもの、及び、10 年以上前のもので証拠等の確認が困難であるものは個
15
別調査の対象としなかった。
個別調査の結果、具体的な内容が確認できなかったもの、及び、医療機器業公正競争
規約の運用基準等も参照し医療機器の選択若しくは購入を誘引する手段として提供さ
れたものでないこと又は少額であると認定できた金品・便益等の提供を除外すると、同
種事案に該当する事実は不見当であった。なお、同種事案に該当しないものの、調査の
過程で認識された事実のうち検討が必要と考えられる事項については、引き続き当社
の調査等に委ねるものとした。
(3)ディーラーアンケート調査
同種事案に該当する事実があるという回答はなかった。
(4)取引調査
同種事案に該当する事実は不見当であった。
(5)寄附事例の調査
同種事案に該当する事実は不見当であった。
3 調査結果
当委員会の調査の結果、同種事案に該当する事実は不見当であった。
16
第4 本事案の原因分析
1 利益供与が誘発される環境と利益供与の原資の作出が容易なシステム(機会)
① 医療機器の取引は、様々な医療機関における医療全般の種々のニーズに対応するた
め、その用途に応じて数十万点にも及ぶ製品があり、その流通の仕組みも多種多様であ
る。また、医療の安全・安心の確保のため、医療機関に対して製品の取扱説明や臨床使
用に先立つ試用のための機器の貸出し、購入後の保守・点検等の付帯的サービスが、医
療機器を製造・輸入するメーカーと販売業者(ディーラー)によって行われているとい
う実態がある。医療機器業界のこのような特殊性により、メーカー・ディーラーが医療
機関に対して利益を供与したり便宜を図ったりするなどの手段を用いて取引を不当に
誘引しようとする事態が起こりやすい環境となっている。
他方、本事案はO氏からの強い金銭要求が端緒となっているが、ユーザーの欲求を優
先することでメーカー・ディーラーからユーザーへ不当な便益供与が行われる危険性
は高まるといえる。
医療機器業界の業界団体である医療機器業公正取引協議会では、その設立経緯に「事
業者と消費者の間で取引が行われる一般商品とは異なる、特異な環境で形成されてき
た医療機器の取引慣行では、ともすれば、正常な商慣習の域を逸脱した不当な景品類の
提供競争等の不公正な取引が生じる可能性が危惧されており、実際に不祥事が頻発し
ました」とあり、公正で自由な競争の確保と正常な商慣習の確立のために、自主規制ル
ールである「医療機器業公正競争規約」を管理・運営している。このような自主規制ル
ールが定められている業界であるということからも、適法性を確保するために日々の
業務遂行において慎重な判断が求められていた。
② 本事案では、商流に入ったX社が寄附名目で金銭を提供することで本件利益供与が
行われた。この原資を捻出するために、当事者 3 名は、ユーザーとの商談で納入価格の
目線を把握し、X社への卸価格の値引きを行った。「値引き」自体は、医療機器業界の
取引慣行上珍しくないものであるが、本事案は当社の販売プロセスにおいてこのよう
な値引きができたからこそ、原資が作出され、本件利益供与が行われたのであり、「値
引き」が不正の温床となり得ることが明らかとなった。
当社では、製品別に標準価格(定価)、ガイドライン価格が設定され、それぞれの役
職ごとの決裁限度額が決められている。しかしながら、当社は長年販売会社制を採用し
てきたものを 2017 年に合併により販売子会社を吸収したという経緯もあり、支社支店
ごとの見積承認方法や文書管理方法が統一されておらず、業務の標準化や IT 化に不十
分な点もあったため、統制や検証がスムーズにできない状況であった。
③ 本事案において、当社が寄附を行う代わりに、実際に BAM に入金行為を行ったのはX
社である。当社では、国内販売において基本的に販売代理店制度は敷いておらず、広域
ディーラー・地場ディーラー等の販売業者(ディーラー)と売買を行うことも多く、デ
17
ィーラーの存在自体が不正に結びつくものではないが、本件利益供与はディーラーの
存在なしには成立しないものであった。当社では、欧州子会社である日本光電ヨーロッ
パ有限会社において、世界銀行が融資したルーマニアでの商談において不適切な支払
いがあったことを受けて、2017 年に「腐敗行為防止規定」を制定するなどしてグロー
バル・コンプライアンスプログラムを推進してきたが、日本国内においては、数多くの
ディーラーを通じた取引を行うという独特の取引慣行もあり、ディーラーとの関係に
おける規律の見直しがなされなかった。
2 目先の商談成立への欲求(動機)
本事案は、三重大病院重症系施設の機器選定に絶大な影響力をもつ医局トップのあ
からさまな金銭要求に応じて本件利益供与を行ったものであるが、その動機は、当該金
銭要求に応じれば、当社における重要施策である、大学病院重症系施設の他社更新が実
現する商談の成立において優位になるということにあった。
動機としては他に、各年度の売上目標達成に寄与するという点もあったが、2018 年
に行われた本件商談取引における当社の売上は数百万円程度であり、売上目標に大き
く貢献するような数字ではなかった。もっとも、営業部門の会議体では、常に売上実績
の報告と目標達成のための課題分析のみが求められ、コンプライアンス上の問題が議
論されることは多くなく、また、売上目標未達の場合には期末賞与に影響する一方で、
コンプライアンスへの取り組みを評価する人事評価体制になっていなかったこともあ
り、売上を上げるという方向にのみ重点が置かれる(コンプライアンスやリスクマネジ
メントの観点から売上をあきらめるということが考えにくい)土壌があったことは否
めない。
3 コンプライアンス体制の不備・問題の本質に対する理解不足(正当化)
① 本事案では、当社において正式な寄附申請はなされておらず、X社を介した BAM に対
する本件利益供与の実行を当事者 3 名以外の者が認識していたと思われる証左はない。
しかし、前述のとおり、官公庁に対する寄附金の形を取って行われた利益の供与につい
て、寄附金として正規の手続が採られているかどうかにかかわらず、特定の公務員の職
務行為と対価関係が認められる場合には賄賂性は否定されないと解されている。した
がって、医療機器の選定権限をもつO氏から、商談の見返りとして寄附を要求されてい
るということ自体が、会社として寄附を行うかどうかにかかわらず、また、収受するの
が三重大病院やO氏自身であるかどうかにかかわらず、贈賄罪につながる危険性のあ
る状況であったといえる。
本事案では、本件利益供与が行われる前に、社員Aから社員Dを通じて社員Eに対し
て当社からの寄附の打診(当社の支社支店経由の寄附手続においては、正式な寄附申請
の前に寄附の打診が行われ、営業本部の窓口である社員Eの了解を得た後に決裁のた
18
めの正式申請が行われることが通常であった。
)が行われた。しかし、当初の段階では
打診に対して否定的な回答があったものの、その後複数回社員D及び社員Aから打診
がなされた際には回答はなされなかった。この打診に対して当社による寄付を検討し
た過程については、客観的な資料が乏しく、関係者のヒアリングを行っても明らかにな
ったとは言い難い。また、寄附申請をさせないという明確な判断をしたという証跡もな
く、結果として寄附の正式申請が行われなかったに過ぎないようにも見える。
当事者 3 名は、当社における重要施策である大学病院重症系施設の他社更新が実現
する商談の成立を目の前に控え、O氏からの金銭要求に何とか応えようとしていた。O
氏からの金銭要求については中部支店内でも共有されており、寄附の打診は営業本部
まで上がっていた。ここで、商談の見返りとしての金銭要求に応えることの危険性に鑑
み、O氏からの金銭要求への対応を当事者 3 名に委ねず組織として検討して当事者 3 名
に対してこのような取引を止めるよう指示したり、当社からの寄附をしないという判
断を明確に行ったりしていれば、当事者 3 名において自分達の行為が贈賄罪という重
大な結果となり得るということに気付く端緒になったはずであるが、そのような明確
な判断は行われず、当事者 3 名は当社からの寄附検討の回答を待ちながら本件利益供
与をO氏に対し約束してしまったのである。
しかも、三重大病院の手術室の生体情報モニタが当社製品に更新されることになっ
たことは中部支店内で共有され、2018 年度末にはカテ室の生体情報モニタの売上が、
2019 年度 2020 年度には手術室の生体情報モニタの売上が立っているにもかかわらず、
・
O氏からの金銭要求の帰趨が確認された形跡はない。
これらのことから、大学病院重症系施設の他社更新という成果のみクローズアップ
され、その過程での問題については全て現場任せになっていたという状況が看て取れ
る。
このように、O氏からの金銭要求と不可分に結びついた商談であることを知ってお
り、止めることができる立場にあった者が、かかる商談を当事者 3 名が進めることを明
確に止めることをせず、或いは止めることを躊躇する程度に、大型商談の成立・売上向
上に比してコンプライアンスが徹底されていなかったと言うべきであり、当社のコン
プライアンス体制に不備があったと言わざるを得ない。
② 当事者 3 名は、濃淡はあるものの、「本件利益供与の原資は当社の値引きによる価格
の調整で捻出するが、寄附はあくまでもX社からなされるものであり、当社とは関係が
ない」と、本件商談取引と本件利益供与を敢えて切り離すことにより、自己の行為の正
当化を図ろうとしていた。また、当事者 3 名において、O氏からの金銭要求への対応や
コンプライアンスについて相談するチャネルが乏しかったことも窺われる。
当社では、従前、(ⅰ)職場単位でのコンプライアンス勉強会(国内外の全役員・社員
対象)(ⅱ)リスク管理に関するeラーニング(国内の全役員・社員対象)(ⅲ)事業
、 、
所別コンプライアンス勉強会(国内支社支店対象)及び(ⅳ)年 2 回のコンプライアン
19
スチェック(国内支社支店)を実施していたが、上記の当事者 3 名の供述や関係者のヒ
アリングからは、管理職向けの体系的な教育や、営業現場において判断に迷う具体的な
場面・事例を扱う実践的な研修等が不十分であった。
20
第5 再発防止策の提言
1 ガバナンスの強化
(1)組織の見直し
国内外の当社グループが一丸となって腐敗防止に取り組み、コンプライアンスの統
一的な運用・推進・管理機能を強化するため、コンプライアンスに関する規定、教育内
容・手段等を一元的に把握し統括・管理する部署を設ける。
また、営業本部内にも、営業現場等におけるコンプライアンス上の諸問題を能動的に
解決支援する機能をもった部署を設ける。
さらに、支社支店の管理部門を強化すると共に、支社支店に配置しているコンプライ
アンス担当者と CCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)との直接的な報告ライ
ンを明確にし、営業現場の部長・所長等を牽制する体制を強化すべきである。
(2)寄附金の検討プロセスの見直し
医療機器業界の特殊な環境で形成されてきた取引慣行の正常化のためには、当社が
行う寄附金の支出について、
(ⅰ)奨学寄附金の実施は今後行わない、
(ⅱ)寄附金は公
募制とする、
(ⅲ)営業部門から独立し、かつ、外部の専門家又は有識者が構成員の過
半数を占める審査会を設立して、当該審査会にて審査及び決定を行うこととする、のう
ち1つ又は複数の方法を採ることとし、採用する方法を決定するまでは、寄附金(公共
性の高い学会への寄附を除く。)の支出を停止すべきである。
また、寄附金のみならず、アドバイザー・コンサルティング等の業務委託契約、共同・
委託研究契約、協賛金など医師・医療機関に金銭を提供することになる契約等のプロセ
スについても見直す必要がある。
(3)内部統制の強化
本件利益供与の資金捻出は「値引き」が 1 つの原因のため、注視すべきは販売プロセ
スの統制にある。当社は受注から在庫管理、出荷から売上計上、そして回収まで ERP シ
ステムで管理されているため、受注後の販売プロセスに不正は生じにくい状況にある。
問題は受注情報として当該システムに取り込まれる前の受注管理にあり、受注に至
った経緯と誰が値引きを承認したかを記録として残すシステムの構築が必要である。
よって、見積り作成・承認のフロー、価格設定・定価証明・値引きのフローなど、受
注前の段階における商談管理の業務の標準化を、 を活用しながら進めるべきである。
IT
また、支社支店も含め文書管理方法を統一化するとともに、検証・牽制機能を持つ内部
監査の一層の充実を図るべきである。
(4)ディーラーとの相互牽制
ディーラーとの間で相互に法令等の遵守を誓約し、また、ディーラーに対して定期的
にアンケート、必要に応じたヒアリングなどを実施して、コンプライアンス上の問題が
ないか能動的に情報収集を行い、かつ社外向けコンプライアンス通報窓口を設置する
21
など、ディーラーとの間で相互牽制が機能する仕組みを構築することを検討すべきで
ある。
また、官公立病院との取引に関わるディーラーについては、腐敗防止に関する相応の
確認を行うことが適切である。
さらに、ディーラーとの癒着を防ぐため、人事ローテーションの見直しも検討すべき
である。
なお、当社がディーラーに対して販売価格の調整等を行うことは、公正かつ自由な競
争を阻害する可能性があるが、公正取引員委員会の『流通・取引慣行に関する独占禁止
法上の指針』によれば、
「事業者が単に自社の商品を取り扱う流通業者の実際の販売価
格,販売先等の調査(流通調査)を行うことは、当該事業者の示した価格で販売しない
場合に当該流通業者に対して出荷停止等の経済上の不利益を課す、又は課す旨を通知・
示唆する等の流通業者の販売価格に関する制限を伴うものでない限り、通常、問題とは
ならない。」とされており、不正防止の観点から流通調査を行うことも検討に値する。
2 人事評価の見直し
全社員の人事評価にコンプライアンスの評価項目を明確に設定すべきである。
3 コンプライアンス教育の徹底
管理職向けの体系的な教育や、営業現場において判断に迷う具体的な場面・事例を扱
う実践的な研修として、これまで行われてきた研修に加え、以下の研修を行うべきであ
る。なお、研修に当たっては、その目的を明確にして行うことが肝要である。
ア 国内支社支店長・部長・営業所長向け教育
・外部専門家(弁護士等)を講師とした教育の実施
・既存の研修も含め、確認テストにより所定の力量に達したか確認し、未達の
場合は達成するまで再教育を実施
イ 新任管理職に向けた教育
新任部長研修及び新任管理職(所長、課長以上)研修にてケーススタディを
使った対面による教育を実施
ウ 国内営業に向けた具体的、実践的な研修内容の充実(入札・契約、寄附金・協
賛金に関わる禁止事項、公務員倫理規程、公正競争規約、薬機法(医薬品、医
療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律) ハラスメント等)
、
・各支社支店の所長会議にて営業・サービス担当役員による事例報告を実施
・医療機器公正競争規約説明会に参加したインストラクターによる支社支店
内報告研修会を実施
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4 モニタリングの実施
上記1乃至3で述べた腐敗・不正防止のためのプログラムの策定及び運用状況をモニ
タリングするため、以下のような方策を検討すべきである。
① 定期的な社内コンプライアンス意識調査の実施と検証
② 内部通報窓口の周知徹底
③ 営業部門・技術部門・管理部門の実務担当者及び外部の専門家・有識者も構成員と
する再発防止策実行管理委員会の設置
以 上
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