6740 JDI 2020-04-13 18:10:00
第三者調査委員会の調査報告書(要約版)の公表についてのお知らせ [pdf]
2020 年4月 13 日
各 位
会 社 名 株式会社ジャパンディスプレイ
代 表 者 名 代表取締役社長兼 CEO 菊岡 稔
(コード番号:6740 東証一部)
問 合 せ 先 執行役員 経営企画本部長
大河内聡人
兼 ファイナンス本部長
(TEL. 03-6732-8100)
第三者調査委員会の調査報告書(要約版)の公表についてのお知らせ
当社は、本日付「第三者調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」のとおり、過年度決算に
おける不適切な会計処理に関する疑義に係る事実関係の有無等について、本日、第三者委員会の調査
報告書を受領し、公表いたしました。
本資料には、当該調査報告書の要約版を添付しております。
以上
株式会社ジャパンディスプレイ 御中
調 査 報 告 書
(要旨)
2020 年 4 月 13 日
株式会社ジャパンディスプレイ 第三者委員会
委員長 国 谷 史 朗
委 員 荒 張 健
委 員 関 口 智 弘
1
第1 調査の概要
1 第三者委員会を設置した経緯
株式会社ジャパンディスプレイ(以下「JDI」という。)は、2019 年 11 月 26 日、
元経理・管理統括部長(以下「A 氏」という。)から、経営陣の指示により過年度の決
算について不適切な会計処理を行っていた旨の通知を受けた。
かかる通知を受けて、JDI は、 氏の主張する過年度決算における不適切な会計処理
A
に関する疑義(以下「本件不正疑義」という。)について、透明性の高い調査を徹底的
かつ迅速に行うため、2019 年 12 月 2 日、執行役員 1 名、弁護士 1 名及び公認会計士
1 名から構成される特別調査委員会(以下「本件特別調査委員会」という。)を設置す
ることを取締役会において決議した。
本件特別調査委員会は、関係者へのインタビュー、会計データ及び関係資料等の保
全・調査を行っていたところ、調査の過程において、本件不正疑義について具体的な疑
義が存在することが判明した。
そのため、JDI は、より透明性の高い枠組みでの調査を行うことが望ましいとして、
2019 年 12 月 24 日、日本弁護士連合会の定める「企業等不祥事における第三者委員会
ガイドライン」(2010 年 7 月 15 日公表、同年 12 月 17 日改訂)に準拠して、JDI か
ら独立した中立・公正な社外委員のみで構成される第三者委員会(以下「当委員会」と
いう。
)を新たに設置することを取締役会において決議した。
2 当委員会設置の目的
当委員会設置の目的は、以下のとおりである。
(1)本件不正疑義に係る事実関係の調査
(2)JDI の事業開始時(2012 年 4 月)から 2019 年 9 月までの間(以下「調査対
象期間」という。)における本件不正疑義に類似する事象の有無の調査
(3)不適切な会計処理が判明した場合、その影響額の算定
(4)不適切な会計処理が判明した場合、その原因の究明及び再発防止策の提言
(5)その他、当委員会が必要と認めた事項
本件不正疑義の内容は、以下の事項についてのものである。
① 100 億円規模の架空在庫の計上
② 滞留・過剰在庫について実態と異なる販売見込み等を用いることによる評価
損の計上回避
③ 本来費用計上すべき消耗品を貯蔵品に振り替えることによる利益操作
④ 本来計上すべき費用や損失の先送りや資産化による利益操作
⑤ 海外向け販売代理店への買戻条件付販売による売上計上
⑥ 大口顧客に対して販売した製品保証に関する費用の先送り
2
⑦ 海外受託製造会社(Electronics Manufacturing Service)(以下「海外 EMS」
という。)及び海外製造子会社における JDI 帰責の損失に関する引当金の未計
上及び先送り
⑧ 固定資産の減損損失の回避
⑨ 関係会社株式の減損処理及び投資損失引当金の計上回避
⑩ 不適切な繰延税金資産の追加計上による利益確保
⑪ 繰延税金資産等を原資とした配当
⑫ 構造改革に伴う損失を経営陣が発表した数値になるようにする操作
⑬ 本来費用処理すべきものを固定資産の取得価額に算入することによる利益確
保
⑭ 関係会社に対して四半期ごとに支出した研究開発委託費を出資に振り替える
ことによる損失回避
⑮ 段階利益(利益表示区分)の操作による営業利益の過大計上
⑯ 上場申請時等における実現不可能な事業計画の作成
3 当委員会の構成
当委員会は、以下の 3 名で構成されている。
委員長 国谷 史朗 (弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所)
委 員 荒張 健 (公認会計士 EY フォレンジック・アンド・インテグリティ合同会社)
委 員 関口 智弘 (弁護士 弁護士法人大江橋法律事務所)
4 前提事項
本書は、当委員会が作成した 2020 年 4 月 13 日付け調査報告書(公表版)
(以下「詳
細版」という。
)の要旨である。当委員会の調査の詳細については、詳細版を参照され
たい。なお、本書で使用する略語は、本書で定義しない限り詳細版で定義されている。
当委員会による調査及びその結果には、次のとおり一般的な限定及び限界がある。
・当委員会による調査は JDI グループの誠実な協力の下で行われたが、当委員会の
調査に強制力はなく、事実関係の調査には自ずと限界があり、当委員会の行った事
実認定は JDI グループの役職員の任意の供述や JDI グループから提出を受けた資
料に依拠せざるを得ず、過去の事実関係の全てを網羅したものでもない。
・A 氏は、本件通知後、2019 年 11 月 30 日に死亡しており、当委員会では、本件通
知の具体的な内容及び従前の行為等について、A 氏へのインタビューを実施でき
なかった。
・当委員会設置の目的は前記 2 記載のとおりであり、本書は当該目的以外の目的に
用いられることを予定していない。
3
・当委員会による調査は、JDI からの委嘱を受けて、JDI グループのために行われた
ものであり、当委員会は、当該調査及びその結果について、JDI グループ以外の第
三者に対して責任を負わない。
4
第2 調査結果の概要
1 100 億円規模の架空在庫の計上
上場直後の四半期における営業損失の回避を企図し、2014 年 3 月期第 4 四半期にお
いて、仕掛品 30 億円の過大計上がなされた。この不適切会計処理は、2015 年 3 月期
第 1 四半期に取り崩された。
その後、業績予想の利益水準の達成を企図して、2016 年 3 月期第 2 四半期から 2017
年 3 月期第 1 四半期にかけて仕掛品 100 億円の架空計上がなされた。これらの不適切
な仕掛金の計上は、2018 年 3 月期第 1 四半期から 2019 年 3 月期第 2 四半期にかけて
段階的に取り崩され、同四半期をもって解消された。
2 滞留・過剰在庫について実態と異なる販売見込み等を用いることによる評価損の計
上回避
滞留品・過剰在庫について、2014 年 3 月期第 4 四半期、2015 年 3 月期第 1 四半期、
同第 3 四半期から 2017 年 3 月期第 1 四半期及び 2018 年 3 月期第 1 四半期にかけて、
実態と異なる販売見込み等のデータを使用して、評価損の計上を回避する不適切会計
処理が行われた。
不適切会計処理の影響額は、以下のとおりである。なお、これらの不適切会計処理は、
それぞれ翌四半期連結会計期間に洗替処理を通じて解消された。
四半期連結会計期間 在庫評価損の
計上回避額
2014 年 3 月期 第 4 四半期 376 百万円
2015 年 3 月期 第 1 四半期 438 百万円
第 3 四半期 2,105 百万円
第 4 四半期 2,523 百万円
2016 年 3 月期 第 1 四半期 1,686 百万円
第 2 四半期 2,107 百万円
第 3 四半期 4,289 百万円
第 4 四半期 2,892 百万円
2017 年 3 月期 第 1 四半期 1,172 百万円
2018 年 3 月期 第 1 四半期 813 百万円
3 本来費用計上すべき消耗品を貯蔵品に振り替えることによる利益操作
2014 年 3 月期第 4 四半期から 2020 年 3 月期第 2 四半期にかけて、固定費削減を求
められた一部の工場拠点において、製造固定費を削減して目標損益を達成するために、
本来費用処理すべきものの一部を貯蔵品として計上していた。
5
不適切会計処理の影響額は、以下のとおりである。なお、これらの不適切会計処理は、
それぞれ翌四半期連結会計期間に洗替処理を通じて解消された。
四半期連結会計期間 貯蔵品の過大計上額
2014 年 3 月期 第 4 四半期 12 百万円
2015 年 3 月期 第 1 四半期 1 百万円
2016 年 3 月期 第 4 四半期 13 百万円
2017 年 3 月期 第 1 四半期 38 百万円
第 2 四半期 114 百万円
第 3 四半期 5 百万円
2018 年 3 月期 第 1 四半期 17 百万円
第 2 四半期 6 百万円
2019 年 3 月期 第 2 四半期 112 百万円
第 3 四半期 100 百万円
第 4 四半期 134 百万円
2020 年 3 月期 第 1 四半期 150 百万円
第 2 四半期 61 百万円
4 本来計上すべき費用や損失の先送りや資産化による利益操作
(1)費用や損失の先送り
①2014 年 3 月期第 4 四半期に一旦費用処理したものを取り消した上で 2015 年 3
月期第 1 四半期に費用処理したこと、及び②2015 年 3 月期第 4 四半期において雑損
失を一部未計上とし、2016 年 3 月期第 2 四半期に損失の計上を行ったことについて、
いずれも意図的な費用計上の先送りと認められた。前記①及び②において先送りさ
れた金額は合計 1,718 百万円である。
(2)費用の資産化による利益操作
①2014 年 3 月期第 3 四半期に治具の改造に係る費用が固定資産として計上された
こと、及び②2016 年 3 月期第 3 四半期に経費として処理すべき研究開発用マスクの
購入費が固定資産として計上されたことについて、いずれも意図的な費用の資産計
上と認められた。前記①及びその類似案件(誤謬を含む。
)並びに前記②により、費
用として計上すべきであった分の資産計上額の合計は、854 百万円である。
5 海外向け販売代理店への買戻条件付販売による売上計上
2017 年 3 月期第 4 四半期及び 2018 年 3 月期第 1 四半期において、海外向け販売代
理店に対する 1,541 百万円の売上計上を行ったが、当該販売には買戻条件が付されて
6
いたこと等から、当該売上計上は収益認識の要件を満たさず、当該販売時点での収益認
識は不適切であった。
また、2016 年 3 月期第 4 四半期における、海外向け販売代理店に対する 109 百万円
の売上計上も、収益認識の要件を満たさず、当該販売時点での収益認識も不適切であっ
た。
6 大口顧客に対して販売した製品保証に関する費用の先送り
JDI は、2017 年 3 月期第 4 四半期及び 2018 年 3 月期第 3 四半期において、大口顧
客への製品不良の賠償費用(2017 年 3 月期第 4 四半期につき 1,000 百万円、2018 年 3
月期第 3 四半期につき 672 百万円)に関して、一旦計上したものを取り消した上、そ
れぞれ翌四半期に計上することによって、費用の先送りを行っていた。
7 海外 EMS 及び海外製造子会社における JDI 帰責の損失に関する引当金の未計上及
び先送り
JDI では、その海外 EMS 及び海外製造子会社との関係で JDI 帰責の損失について、
2014 年 3 月期第 4 四半期、2016 年 3 月期第 3 四半期及び 2017 年 3 月期第 3 四半期
に、JDI が引当金合計 2,534 百万円を計上しない処理が行われた。
また、JDI の海外 EMS の関係で JDI 帰責の損失について、JDI が 2016 年 3 月期第
4 四半期に費用処理すべきところ、この損失(584 百万円)を一旦仮払計上し、2017 年
3 月期第 2 四半期に費用処理することで費用の先送り処理が行われた。
8 固定資産の減損損失の回避
(1)2017 年 3 月期第 3 四半期における茂原工場遊休資産の減損損失の回避
2017 年 3 月期第 3 四半期において、再稼働見込みのない遊休資産について、本来
は減損損失を計上すべきであったところ、会計監査人である有限責任あずさ監査法
人(以下「本件会計監査人」という。
)に対し、再稼働の予定があるかのような説明
を行うことにより、減損損失の計上を回避した。これにより回避された減損損失額は
2,315 百万円である。
(2)2018 年 3 月期第 4 四半期における白山工場の減損損失の回避の企図
2018 年 3 月期第 4 四半期において、白山工場の減損損失の計上回避を企図して、
減損会計処理に用いる判定用資料(以下「減損判定資料」という。 の数字を操作し、
)
本件会計監査人に対して事実と異なる説明を行った。しかしながら、仮に減損判定資
料の操作等がなかったとしても、その後の損益見込み等を踏まえ、減損の兆候を明確
に認識するには至らなかったことから、結論として不適切な会計処理は認められな
かった。
7
9 関係会社株式の減損処理及び投資損失引当金の計上回避(不存在)
当委員会は、実質価額が著しく下落している関係会社として Taiwan Display Inc.を
認識したため、当該関係会社の投資価値に関係すると思われるメールのレビュー、関係
者へのインタビュー及び関係資料の閲覧による調査を実施したところ、当該調査の限
りでは、関係会社株式の減損処理及び投資損失引当金の計上回避が行われている事実
は検出されなかった。
10 不適切な繰延税金資産の追加計上による利益確保(不存在)
当委員会は、繰延税金資産の回収可能性の評価結果について、関係資料の閲覧及び関
係者へのインタビューによる調査を実施したところ、当該調査の限りでは、繰延税金資
産の不適切な計上が行われている事実は検出されなかった。
11 繰延税金資産等を原資とした配当(不存在)
JDI は、そもそも調査対象期間において一度も配当を実施していない。このため、不
適切な配当がなされたと評価する余地はない。また、本件調査の過程で、2016 年 3 月
期(通期)において、繰延税金資産の計上と関連して配当の実施に向けた具体的な検討
が行われていたことが認められたが、繰延税金資産の計上を始めとする配当に向けた
施策が不合理に行われたとは言い難い。
12 構造改革に伴う損失を経営陣が発表した数値になるようにする操作
2017 年 8 月、総額 1700 億円の費用をかけた事業構造改革が公表されたが、当初そ
の一部として白山工場の減損損失の計上が予定されていたことが内部資料により判明
している。しかし、2018 年 3 月期第 4 四半期の決算時において、構造改革に伴う損失
が想定よりも大きくなる見通しとなったことから、経営陣が発表した数値に収まるよ
うに操作する目的で、白山工場の減損損失の発生回避を企図し、前記 8 の不適切な行
為を行った。もっとも、2018 年 3 月期第 4 四半期の白山工場の減損処理に関しては、
仮にかかる不適切な当該行為がなかったとしても、その後の損益見込み等を踏まえ、減
損の兆候を明確に認識するには至らなかったことから、構造改革に伴う損失の数値操
作について、結論として不適切な会計処理は認められなかった。
13 本来費用処理すべきものを固定資産の取得価額に算入することによる利益確保
(1)茂原工場 J1 1第 6 世代ラインの立上費用の資産化
上場直前期の 2013 年 3 月期第 3 四半期及び同第 4 四半期において、茂原工場 J1
第 6 世代ラインの立上費用のうち、JDI の固定資産管理規則において取得価額に含
めないとされている登録免許税及び不動産取得税等の合計 1,039 百万円について、
1 J1 や D3 とは、パネル基板の製造ラインを指す。
8
当該規則における規定を認識せずに固定資産の取得価額に含めて計上した。なお、当
時において当該規則の規定を認識しつつ意図的に異なる会計処理を行った証拠は検
出されておらず、誤謬として認定した。
また、白山工場 D3 ラインに関しても、2016 年 3 月期第 1 四半期及び 2018 年 3
月期第 3 四半期において、登録免許税及び不動産取得税の合計 178 百万円を、その
取得価額に不適切に含めて計上した。なお、これらの会計処理が意図的に行われたこ
とまでは明らかでないため、誤謬として認定した。
(2)IT 業務委託費の資産化
2016 年 3 月期第 4 四半期から 2018 年 3 月期第 4 四半期にかけて、固定費削減の
目的で、当時実施していた経営管理機能強化プロジェクトにおいて業務委託費用と
して処理すべき費用のうち合計 279 百万円について、無形固定資産(ソフトウェア)
として固定資産の取得価額に不適切に含めて計上した。
また、2018 年 3 月期第 3 四半期及び 2019 年 3 月期第 1 四半期において、前記経
営管理機能強化プロジェクト以外に関しても、業務委託費用として処理すべき費用
のうち合計 13 百万円について、無形固定資産(ソフトウェア)として固定資産の取
得価額に不適切に含めて計上した。なお、これらの会計処理が意図的に行われたこと
までは明らかでないため、誤謬として認定した。
(3)石川工場 OLED パイロットラインの立上費用の資産化
2016 年 5 月頃、石川工場有機 EL(Organic Light Emitting Diode。本書にて
「OLED」という。
)のパイロットラインに、RGB サイドバイサイド方式の蒸着装置
が追加されたが、当該装置の立上費用として、2017 年 3 月期第 3 四半期から 2018
年 3 月期第 1 四半期にかけて、研究開発費として処理すべき費用 877 百万円が、固
定費削減のため不適切に資産計上された。
(4)茂原工場 J1 OLED ラインの立上費用の資産化
2018 年 3 月期第 3 四半期から 2020 年 3 月期第 2 四半期にかけて、固定費削減の
目的で、本来茂原工場 J1 OLED ラインの立上費用と関連しない費用も含まれた
OLED 事業開発統括部の経費全額を資産計上した結果、2,224 百万円が不適切に固
定資産の取得価額に含められた。
(5)白山工場 D3 ラインの立上費用の資産化
2017 年 3 月期第 3 四半期において、固定費削減の目的で、2016 年 12 月 23 日の
白山工場 D3 ラインの量産開始時より前の 22 日分(同月 1 日~22 日)の同工場の建
屋や機械装置等の減価償却費 932 百万円が含まれる製造部経費について、架空の機
9
械装置として資産計上を行った。
14 関係会社に対して四半期ごとに支出した研究開発委託費を出資に振り替えること
による損失回避
JDI は、関係会社である株式会社 JOLED との間で研究開発業務委託契約を締結し、
研究開発委託費を支払っていたが、契約の合理性に疑問を持つとともに費用の負担が
経営を圧迫したなどの事情から、当該委託契約を出資契約に変更するに至った。当該契
約変更の交渉中、未だ契約変更の高度の蓋然性が客観的に認められない時点において、
契約変更を根拠に費用計上を回避した。2016 年 3 月期第 3 四半期でなされた費用計上
回避の金額は 16.25 億円であるが、翌四半期に処理が行われているため、通期における
費用認識額は変動しない。
15 段階利益(利益表示区分)の操作による営業利益の過大計上
茂原工場 J1 ラインについて、2013 年 11 月に、同月半ば頃から月末にかけてほぼ全
ての装置が稼働していたにもかかわらず、営業利益を良く見せるため、一部の装置が休
止しているという実態と異なる報告と営業外費用への振替の提案が経営会議になされ、
同会議により承認された。これにより、 か月分の減価償却費 512 百万円を稼働休止装
1
置として営業外費用に振り替えるという段階利益の操作が行われ、営業利益が過大に
計上された。
また、類似案件として、茂原工場 J1 ライン及び V3 ラインについて、2016 年 3 月期
第 4 四半期から 2020 年 3 月期第 1 四半期にかけて、実態と異なる稼働休止資産報告
書が誤って作成されていたために、1,295 百万円の減価償却費が過大に営業外費用に振
り替えられた。なお、意図的に誤った稼働休止資産報告書が作成されたことを示す証拠
は検出されず誤謬として認定した。
16 上場申請時等における実現不可能な事業計画の作成(不存在)
JDI の発行株式は、2014 年 3 月 19 日に東京証券取引所市場第一部に上場したが、
かかる上場申請にあたって、東京証券取引所及び幹事証券会社に提出された事業計画
については、その実現可能性に全く疑問なしとはいえないものの、最終的な発行価格の
形成に直接影響するものではなかった。
17 本件不適切会計処理の関与者
当委員会が認定した不適切会計処理の多くは、A 氏によって主導されたものであっ
たが、一部の処理については、当時の CFO 等の執行役員による指示 了承によるもの、
・
及び海外子会社の主導によるものが認められた。
なお、現経営陣の関与は認められない。
10
第3 発生原因の分析
1 本件不適切会計処理の直接的な原因
当委員会が認定した不適切会計処理(以下「本件不適切会計処理」という。
)のほと
んどは、告発者である A 氏自身が主導した不適切会計処理であった。A 氏による不適
切会計処理の機会・正当化要因・動機については以下のとおりである。
(1)機会の存在
ア A 氏が長期にわたって経理部門のトップとして会社の経理実務を取り仕切って
A
いたことから、 氏に経理部門の権限が集中し、上位者からの具体的な指示なしに
会社の制度会計上の経理数値を操作することが可能な状況であった。
イ JDI の A 氏の上位者である CEO 及び CFO は、いずれも外部から招聘・採用さ
れた者であり、A 氏と同様に、旧個社 3 社出身という背景がなく、また、いずれも
A
経理実務・制度会計実務に精通していなかったため、 氏に対して上位者による牽
制が十分働かなかった。
ウ A 氏の在職中は本社の経理部門に対して原則として内部監査が実施されなかっ
たこと等、JDI のガバナンス機能は脆弱であり、 氏の行動に対する監視監督機能
A
が不十分であった。また、経理部門内部における相互牽制機能も存在しなかった。
(2)正当化要因の存在
ア A 氏の主観的な事情については、本人が死亡したため、直接確認することはでき
なかったが、規範意識の鈍麻や様々なプレッシャーと相俟って、自分の力で会社の
数字をよく見せることで会社や CFO を守る、という歪んだ正義感を抱き、不適切
会計処理が正当化されたものと考えられる。
イ 何とか営業利益を良くしたい、という A 氏を含めた会社全体の思いと、A 氏と
前職においても上司・部下の関係であり、個人的にも親密な関係であった当時の
CFO による複数回にわたる不適切会計処理の指示ないし了承、それを受けた A 氏
による営業利益水増しの実現などの一連の行動を通じて、A 氏の規範意識が鈍麻
し、不適切会計処理が正当化されていったと考えられる。
(3)動機の存在
ア INCJ は、JDI の筆頭株主として、その発足後の一定期間において、財務面・人
事面での JDI の実質的な意思決定権限を有していた。JDI の事業計画の策定にお
いて、INCJ は、必ずしも実現が容易とは言い難い目標値(特に営業利益について)
を掲げ、JDI の経営陣・幹部らに対して、その達成を求めた。そのため、JDI の経
営陣・幹部には、会社の業績を良くしたい、何とかして INCJ が求める目標値を達
成したいという欲求があったことが窺われる。
11
イ 2015 年 6 月に新たに就任した CEO は、四半期ごとに業績予想値として公表し
た営業利益の数値を達成するよう、関係各部署に対して厳しく要求しており、この
ような当該 CEO からのプレッシャーも、 氏による不適切会計の動機になったと
A
考えられる。
2 本件不適切会計処理の間接的な要因
(1)長年の業績不振
本件不適切会計処理の根本的な背景として、JDI が、2015 年 3 月期(通期)以来、
通期で当期純利益を計上したことがなかったことが挙げられる。
(2)営業利益至上主義
本件不適切会計処理の多くが営業利益を水増しするものであったことの背景とし
て、JDI における営業利益至上主義ともいうべき行動原理が挙げられる。後に営業損
益が赤字になってからも、資金調達先との関係で、営業損益を少しでも良くしないと
資金調達面に支障を来すというプレッシャーがあった。
(3)内部統制システムが不十分であったこと
本件不適切会計処理の間接的な要因には、①取締役会による監視監督機能が不十
分であったこと、②監査役による内部統制が奏功しなかったこと、③内部監査が本社
経理部門に及ばなかったこと、④内部通報制度が不適切会計処理の予防措置として
十分機能していなかったこと、⑤従業員通報への対応が不十分であったことなど、
JDI における内部統制システムが不十分であったことが挙げられる。
(4)社内の会計処理・運用上の問題点
JDI においては、①適切な会計処理に対する会社全体の認識・姿勢が十分でなかっ
たこと、②会計処理に係る社内ルールの不明確さ・不適切な運用、③情報改ざんを防
ぐための統制活動の欠如、などの不適切会計に繋がり得る会計処理・運用上の問題点
が認められた。
12
第4 再発防止策の提言
1 直接的な原因に係る再発防止策
(1)経理部門の質量両面の強化
A 氏に本社経理部門の権限が集中し、経理業務が属人的になっていったことが、A
氏による不適切会計主導を容易にした一因である。今後、かかる環境を再び発生させ
ないため、JDI における経理部門の人員の質量双方を強化することが不可欠である。
(2)適切な人事ローテーション
A 氏主導による不適切会計が長期間継続したのは、A 氏が長年にわたって JDI の
経理部門のトップを務め、それによって A 氏への権限集中が生じ、A 氏の「機会」
を醸成したものと考えられる。かかる人事の固定化を防止するため、適切な人事ロー
テーションを行うことも検討すべきである。
(3)内部統制システムによる経理部門の監視監督機能の強化
社外取締役の構成の見直し、CFO の選任・取締役就任を含めた取締役会による監
視監督機能の強化、内部監査・監査役監査の対象と方法の見直し、及び内部通報制度
の見直しを含めた内部統制システムによる経理部門の監視監督機能の強化を検討す
べきである。
(4)上場会社としての自主性の確保
JDI による経営の自主性を確保し、特定の大株主の利益や意向ではなく、企業価値
向上・株主全体の利益を最大化するという上場企業としてのコーポレートガバナン
スの基本に立ち返ることが必要である。
(5)経営陣の意識改革
経営陣によるプレッシャーの再発を防止するため、現在及び将来の経営陣が日々
の自らの言動に留意し、自由に意見交換ができる社風を作り上げることが重要であ
る。また、取締役会や監査役による代表取締役に対する注意喚起も重要である。外部
からの信頼、社内のモチベーションを回復するため、経営陣は、真摯に反省するとと
もに、再発防止を誓い、二度と不適切会計は起こさない、許さない、とのトップメッ
セージを発信し続けることが必要である。
2 間接的な原因に係る再発防止策
(1)企業風土の改善・コンプライアンス意識の改革
今後は、不正は起こり得るという「性悪説」に立ったコンプライアンス体制を構築
する必要がある。また、業績を改善すること、そのために営業利益を増大化すること
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は、営利企業として当然であるが、不適切会計の再発防止のためには、不正による利
益操作は許されない、という意識の徹底が必要である。
(2)会計処理基準の見直しと運用の改善
ア 会社の会計処理に対する考えを、「少しでも利益を計上する会計処理」ではなく
「実態に合った会計処理」に改める必要がある。会計監査人との誠実な協議を踏ま
え、慎重に会計処理の選択適用を図り、その結果から目をそらさず、ビジネス上の
施策で改善を図っていく姿勢が重要である。
イ 会計基準においては、会計処理の選択が認められ、解釈に幅のあるものが多いこ
とから、会社として会計処理方針を明確に規定し、実務的に可能な限り社内ルール
として明文化した上で、これを周知徹底し、継続運用すべきである。また、運用上
の誤った解釈がなされないように、処理方針の前提となる考え方も明示すること
が望ましい。
ウ 今回の情報改ざんによる不適切会計処理の発生を踏まえ、かかる不適切会計処
理のリスクへの対応として、「販売見込データから適切に情報をダウンロードし、
当該情報に基づいて在庫評価の算定資料が作成されていることを検証する」とい
うような統制活動の整備・運用が必要と考える。
以上
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