6694 J-ズーム 2021-02-15 17:30:00
中期経営計画の策定に関するお知らせ [pdf]

                                                      2021 年2月 15 日
各 位
                                    会 社 名   株 式 会 社       ズ ー ム
                                    代表者名    代表取締役 CEO    飯島   雅宏
                                            (コード:6694、東証 JASDAQ)
                                    問合せ先    取締役 CFO      山田   達三
                                                 (TEL.03-5297-1001)




                 中期経営計画の策定に関するお知らせ



当社は、新たに 2021 年 12 月期から 2023 年 12 月期までの第 3 次中期経営計画を策定いたしましたので、お
知らせいたします。
本中期経営計画の詳細につきましては添付資料をご参照ください。


【添付資料】
第3次中期経営計画


                                                              以 上
第3 次中期経営計画
  2021-2023




  株式会社ズーム
                                          目次


はじめに• ••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••• 1
    •

1.  第2次中期経営計画(2018-2020)の総括••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••• 2

2.  第3次中期経営計画(2021-2023)の基本方針••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••• 7

3.  業績目標••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••• 9

4.  経営理念•••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••• 13

5.  利益配分•••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••• 17

6.  重点戦略•••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••• 24




                                       はじめに
   この第3次中期経営計画は、当社の社員・役員へのメッセージとして、また社員・役員
  が目指すべき目標として作成したものです。一般的な投資家向け開示資料とは主旨が異
  なりますので留意して下さい。




                                             1
                 1. 第2次中期経営計画(2018-2020)の総括

 業績目標として掲げた連結売上高100億円、連結営業利益7億円、共に達成することができました。その増
減要因分析、及び、経営理念、ブランドの永続性確立、コーポレートガバナンス改革などの到達度分析は以下の
通りです。
(注)各数値は2020年末時点の集計、予測、分析に基づくもので、最終的な決算の結果とは異なります。


(1)	 売上高の増減要因分析


連結売上高2017-2020




                                                    g)     h)

                                         e)


                                d)            f)

                         c)
                   b)


            a)




a) 2018年ZOOM Japanの売上高が536百万円増加。
b) 2018年MOGAR MUSICを6月末に連結子会社化したことにより871百万円増加。
c) 2019年ZOOM Japanの売上高が205百万円増加。
d) 2019年MOGAR MUSICの売上高が661百万円増加。連結期間が、2018年は6カ月、2019年は12か月。
e) 2020年ZOOM Japanの売上高が847百万円増加。
f) 2020年MOGAR MUSICの売上高が520百万円減少。星野楽器ブランド取扱い終了による。
g) 2020年ZOOM North Americaを4月1日に連結子会社化したことにより1,130百万円増加。
h) 持分法適用会社に販売したズーム製品の未実現利益の実現により、56百万円増加。

                                     2
(2)	 営業利益の増減要因分析(会社・年度別)


連結営業利益2017-2020 会社別




                                                g)




                                                      h)




                                                           i)




                                    e)

                                         f)



                             d)
          a)
                b)

                       c)




a) 2018年ZOOM Japanの営業利益が17百万円減少。
b) 2018年MOGAR MUSICを6月末に連結子会社化したことにより26百万円減少。
c) 2019年ZOOM Japanの営業利益が67百万円減少。
d) 2019年MOGAR MUSICの営業利益が111百万円増加。2018年の連結期間は6カ月、2019年は12カ月。
e) 2020年ZOOM Japanの営業利益が182百万円増加。
f) 2020年MOGAR MUSICの営業利益が36百万円減少。
g) 2020年ZOOM North Americaを4月1日に連結子会社化したことにより554百万円増加。
h) MOGAR MUSIC、Zoom North America取得時の、のれんの償却により119百万円減少。
i) 連結子会社の在庫に含まれる未実現利益の消去により、177百万円減少。




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(3)	 営業利益の増減要因分析(勘定科目別)


連結営業利益2017-2020_科目別


          a)




                 b)




                       c)
                             d)



                                   e)

                                          f)
                                                g)
                                                      h)   i)




a) 売上総利益が1,991百万円増加。
b) 研究開発費増加により281百万円減少。
c) 人件費増加により561百万円減少。
d) 広告宣伝費増加により83百万円減少。
e) 業務委託費・支払手数料の増加により272百万円減少。
f) 荷造運賃の増加により151百万円減少。
g) その他一般管理費の増加により93百万円減少。
h) MOGAR MUSIC、Zoom North America取得時の、のれんの償却により119百万円減少
i) 旭化成マイクロエレクトロニクス火災への対策費用の増加により27百万円減少。




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(4)	 経営理念


 第2次中期経営計画では、
            「品質から品格へ」を経営理念として掲げました。その背景は、あらゆる電子機器の
生産拠点が中国に集約されたことで、当社製品に限らず日本製品全般にとって、もはや高品質をアドバンテッジ
にする時代が終わったという市場環境の変化です。であるならば、ブランドの品格を高めることで競争優位性を
獲得できるのではないか、そのためには、まず社員・役員が品格を身に着け、その社員・役員が開発、販売する
製品にも品格を備える必要があるという発想でした。
 3年間、品質に留まらず品格を高めるという啓蒙を行い、その考えに沿った活動を行ってきましたが、製品の
市場不良率については、3年間で改善したという統計データを見出すことはできません。不良率改善を見込んで
日本市場で「3年間の延長保証」制度を導入しましたが、今のところ無償の修理・交換台数が増えて費用負担だ
けが増加する、という結果に陥っています。
 品格の向上についても、製品デザインに先進性はあるか、取説不要のユーザーインターフェースになっている
か、立場の違いによって意見が異ならないか、問題の解決に当たって安易に妥協していないかなど、課題が多く
残されています。
 よって経営理念の実現は未だ道半ばという評価をせざるを得ませんが、そもそも会社の経営理念は3年間で
達成できる様な中期的目標ではありませんので、今後は長期的目標として、継続的に取り組むこととします。




(5)	 ブランドの永続性確立


 ブランドの永続性を確立する目的で掲げた「第5世代組織の構築と人材育成」については、形式的には実現
できたものと評価できます。CTO一人の属人的な経験や知識、及びマネジメントに依存していた新製品の設計
開発体制を、PDV: Product Development、R&D: Research and Development、 MED: Mechanical
Engineeringの3つのディビジョンに分割し、それぞれに属するグルー チームを細分化して役割分担を明確
                                     プ、
にする事により、同時進行で開発できる機種数を倍増することができました。他のディビジョンについても、一
人二役の兼任マネージャを廃止して二律背反を避ける体制を構築しました。また、随時必要に応じて業務分掌・
職務権限一覧表や業務フローの改訂を行い、権限移譲を進めました。
 しかしながら、形式的な組織やルールは整えたものの、人材育成については成果を出す事が出来ていませ
ん。CMM(経営会議に相当)の議題は報告的な内容に留まり、経営方針や判断を討議する場にはなっておら
ず、この点は社外取締役監査等委員からも指摘されています。創業者2名による属人的経営は、CTOの役割を
組織で引き継ぐ事はできたものの、CEOの役割は依然としてプレイングCEOである状態が続いています。




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(6)	 コーポレートガバナンス改革


 コーポレートガバナンス改革として掲げた「経営の監督と執行を分離」については、CEO、CFO、CSMO、
CPDO、CRDO、CPOという6名の執行役員が業務の執行を担い、社外取締役3人を含む5人の取締役会が業
務執行の合理性を監督する体制となりました。この体制構築の過程において、権限の移譲も積極的に行い、成
果として2020年末現在の業務分掌・職務権限一覧表の改訂バージョン数は#34に至っています。現在の会社
規模や日本の会社法を勘案すると、取締役会の過半数が社外取締役である現体制は、ガバナンス強化という
株式市場の要求にも適うものと考えられます。




                         6
         2. 第3次中期経営計画(2021-2023)の基本方針

(1)	業績目標を連結売上高150億円、連結営業利益12億円とする


 第1次中期経営計画では「株式上場を目指す」 第2次中期経営計画では
                      、           「連結売上高100億円を目指す」と
いう目標を設定しました。いずれも、本当にできるのか?という疑念と、
                                できるはずだ!という信念がせめぎ合う
境界線上にありましたが、結果として実現することが出来ました。果たして、目標は実力の120%ぐらいに設定す
べし、という持論を証明することが出来ました。この第3次中期経営計画においても、実現するかどうかの境界
線上にあって、実力の2割増しと思われる連結売上高150億円を目指す事とし、二度ある事は三度ある、という
普遍的な法則も証明します。具体的な増減要因については後述します。




(2)	経営理念を「品質から品格へ、さらに知足へ」とする


 第2次中期経営計画の総括で述べた通り、ブランドに品格が備わったかどうかについては、疑問符を付けざる
を得ません。その理由を鑑みるに、品格とはいったい何なのかが解り難い事、どうしたら品格が身に着くのか具
体的な実践方法が提示されていない事、だったのではないかと考えられます。
 そこで第3次中期経営計画では、道半ばとなっている「品質から品格へ」という理念を引継ぐと共に、さらにそ
の考え方を昇華させた「知足」 「ちそく」
             (      または「たるをしる」と読む)を目指すこととします。知足とは何か、品
格と知足の関係、具体的な実践方法などについては後述します。




(3)	全ての利害共有者に適正な利益配分をする会社になる


 終戦後、ほとんどの日本人はアメリカ文化に憧れ、そこで生まれた音楽やエレキギター、ファッション、ライフ
スタイルなどを崇拝してきました。アメリカ人の言う事は正しい、とインプリンティング(刷り込み)されて来たわ
けです。しかし、アメリカンドリームを実現した起業家は育てた会社をファンドに売り払い、フロリダや南欧に豪
邸を建てて投資家に転身、投資先のファンドは会社をまるで物のように売り買いしています。この様な、まるで
日本のバブル時代の土地転がしの如く会社を転売して儲ける錬金術を、我々は見習うべきではありません。こ
のような、人としてのモラルに悖る行為を後付けで肯定するための方便が「会社は株主のもの」という理屈でし
た。日本の会社が守ってきた終身雇用制度や長い年月をかけて蓄積した厚い内部留保を、ファンドもマスメディ
アも行政も、こぞって時代遅れだと批判しましたが、その理屈の行き着いた先が、途方もない格差に起因するト
ランプ政権の誕生でした。つまり、金融を主役とした資本主義では社会の問題を解決できなかったということに
なります。




                          7
 そこで、資本主義経済の利点を認めつつ、その欠点を補う解決策として、公益資本主義という経済理論が支
持されつつあります。その考え方によれば、
                   「会社は社会の公器である」という原理原則に基づき、会社とその
取締役会はすべてのステークホルダ(ここでは利害共有者と訳します)に適正な利益を配分する義務がある、と
されています。この理論を取り入れる背景、利害共有者とは誰なのか、適正な利益配分の定義とは、などについ
ては後述します。




                        8
                                 3. 業績目標

 当中期経営計画の最終年度である2023年に、連結売上高150億円、連結営業利益12億円(営業利益率
8%)を目指します。
それぞれの増減要因を以下の通りとします。




(1)	 売上高の増減要因


連結売上高 2020-2023

                                                                    m)




                                                i)   j)   k)   l)
                            e)   f)   g)   h)
                       d)



             b)   c)
        a)




a) 2021年ZOOM Japan:2021年度予算に基づき、前年比104%、320百万円増加。
b) 2021年ZOOM North America:2021年度予算に基づき、前年比135%、421百万円増加。
 連結期間が9カ月から12カ月になった要因を除くと前年比119%。
c) 2021年MOGAR MUSIC:2021年度予算に基づき、前年比98%、7百万円増加。
 2020年に代理店契約を終了した星野楽器ブランド要因を除くと前年比103%。




                                      9
d) 2021年HOOK UP:2021年1月に連結子会社化したことで、1,424百万円増加。
e) 2022年ZOOM Japan:前年比3%、247百万円増加。
f) 2022年ZOOM North America:前年比3%、83百万円増加。
g) 2022年MOGAR MUSIC:前年比3%、31百万円増加。
h) 2022年HOOK UP:前年比3%、43百万円増加。
i) 2023年ZOOM Japan:前年比3%、254円増加。
j) 2023年ZOOM North America:前年比3%、45百万円増加。
k) 2023年MOGAR MUSIC:前年比3%、32百万円増加。
l) 2023年HOOK UP:前年比3%、44百万円増加。
m) 関連事業取得:関連事業取得により1,962百万円増加。




                                     10
(2)営業利益の増減要因


連結営業利益 2020-2023


                                                                             O)



                                                         k)   l)
                                                    j)
                                               i)
                                                                   m)
                                     g)   h)
                                f)
                                                                        n)
                           e)

                      d)


            b)
                 c)



       a)




a) 2021年ZOOM Japan:2021年度予算に基づき、売上増に伴って154百万円増加するものの、旭化成マイクロエレクトロ
 ニクス火災への対策費用が311百万円増加、ブランディング強化のための広告宣伝費が36百万円増加、その他一般管理
 費が19百万円増加することにより、差し引きで212百万円減少。
b) 2021年ZOOM North America:2021年度予算に基づき、137百万円増加。
c) 2021年MOGAR MUSIC:2021年度予算に基づき、9百万円減少。
d) 2021年HOOK UP:2021年度予算に基づき、 のれん償却額32百万円を控除後、
                             又、               108百万円増加。
e) 2022年ZOOM Japan:2021年度予算の損益分岐点売上高7,652百万円がほぼ継続、2022年度の売上高が254百万円
 増加、その売上総利益率を34.9%と仮定して86百万円増加。
f) 2022年ZOOM North America:2021年度予算の損益分岐点売上高3,179百万円がほぼ継続、2022年度の売上高が
 142百万円増加、その売上総利益率を30.6%と仮定して44百万円増加。
g) 2022年MOGAR MUSIC:2021年度予算の損益分岐点売上高1,473百万円がほぼ継続、2022年度の売上高が49百万
 円増加、その売上総利益率を25.2%と仮定して12百万円増加。
h) 2022年HOOK UP:2021年度予算の損益分岐点売上高951百万円がほぼ継続、2022年度の売上高が43百万円増加、
 その売上総利益率を29.8%と仮定して13百万円増加。
i) 2023年ZOOM Japan:2021年度予算の損益分岐点売上高7,652百万円がほぼ継続、2023年度の売上高が254百万円
 増加、その売上総利益率を34.9%と仮定して89百万円増加。
j) 2023年ZOOM North America:2021年度予算の損益分岐点売上高3,179百万円がほぼ継続、2023年度の売上高が
 146百万円増加、その売上総利益率を30.6%と仮定して45百万円増加。




                                          11
k) 2023年MOGAR MUSIC:2021年度予算の損益分岐点売上高1,473百万円がほぼ継続、2023年度の売上高が50百万
  円増加、その売上総利益率を25.2%と仮定して13百万円増加。
l) 2023年HOOK UP:2021年度予算の損益分岐点売上高951百万円がほぼ継続、2022年度の売上高が44百万円増加、
  その売上総利益率を29.8%と仮定して13百万円増加。
m) ESG、SDGs対応:ESG(Environment, Social, Governance)やSDGs(Sustainable Development Goals)に拠出する
  ため69百万円減少。ただし営業利益が増加した場合は100百万円の拠出を目標とする。
n) リスクマネジメント対応:潜在的なリスクに備えるため100百万円減少。
o) 関連事業取得:関連事業取得により300百万円増加。




                                            12
                     4. 経営理念

 経営理念を「品質から品格へ、さらに知足へ」とするに当たって、 「知足」
                               まず   という、一般的には馴染みのな
い言葉の出典について説明します。
 
 かのスティーブジョブスも傾倒した禅の教えによれば、品格を身に着ける上で邪魔になるのが、貪欲、愚痴、
瞋恚(しんい:怒りの感情のこと)の三つであり、中でも制御が難しいのは飽くことを知らない貪りの欲で、この
貪欲に振り回されている境涯から離脱するための心構えが「知足」だとされています。
 「遺教経」という経典には「諸々の苦悩を脱せんと欲せば、まさに知足を観ずべし。不知足の者は富むと言え
ども貧しく、知足の者は貧しと言えども富めり」とあります。また中国の古典「菜根譚」 「足るを知る者には
                                        には
仙境、足るを知らざる者には凡境」ともあります。いわゆる禅問答で、何を言っているのか解り難いので、もう少
し解りやすい例を挙げます。


 茶人千利休は、貴族や武士階級の贅沢な嗜みだった茶の湯に「わびさび」の美しさを加え、その詫び茶の本
意は「足るを知る」ことにあると唱えました。利休は「家は漏らぬほど、食は餓えぬほどにて足る」とも教えてお
り、その教えを受け継いだ松平不昧は随筆で「茶の本意は知足を本とす。 ・
                                 ・ ・省略・ ・
                                       ・ 人として足るを知らざれ
ば人にあらず。茶道は足ることを知らせん為の所作なり」と述べています。


 さて今まで、品格を身に着けるにはどうしたら良いのか?と疑問を抱いていた人も、知足の心を持つことでそ
れが出来そうだ、と感じるのではないかと思います。
 では、さらに具体的に、日常の生活や仕事の中で知足を実践するにはどうすべきか、以下に例を挙げて説明
します。




(1)	 自己肯定感を得る


 利休の唱えた、家は漏らぬほどにて足る、という真意は、ホームレスの掘っ建て小屋でも良い、ということでは
ありません。足るを知るには自分や家族が平穏に暮らせる家が必要だ、という意味であり、主君豊臣秀吉が建
てた黄金の茶室に対する批判という側面もあるかも知れません。つまり、人それぞれの収入に応じた暮らしを
分相応だと感じれば、人を羨んだり、妬んだり、恨んだり、見下したりする心から解放される、ということです。分
不相応な境遇を求めないこと、他の人と比較したりしないことで、自分は満ち足りているという自己肯定感を得
ることができ、
      「足るを知る」事に繋がります。




                           13
(2)	 利他的な振る舞い


 誰でも「自分は何のために仕事をしているのだろう と考えたことはあるでしょう、
                        ?」             一度くらいは。一義的に
は家族のため、会社のため、さらには社会をより良くするため、という答えにたどり着くはずで、自分の欲望を満
足させるため、という答えを出す人は稀なはずです。自分のためだけに働く、という自己中心的で利己的な考え
方ではなく、自分は自分以外の誰かの為に働いている、例えば、ユーザーの為にアイデアを捻り出している、会
社の業績向上のために夜遅くまで会議をしている、という利他的な考え方は、知足の心がなければ成り立ちま
せん。自分の収入はもっと高くて良いはずだと「貪欲」になり、同僚より評価が低いと「愚痴」をこぼし、自分の
思った通りにならないと「瞋恚」を露わにしているのでは、利他的な振る舞いなどできません。自分は満ち足り
ていると知足を感じるからこそ、利他的な振る舞いが出来るはずです。




(3)	 知足と諦観は異義語


 自分は満ち足りていると感じる知足と、自分はこの程度で良いと考える諦観(あきらめること)は似て非なる
ものです。むしろ全く反対です。動機が利他的である限り、自分の業務スキルを上げたり、自分の考えを会議で
主張したり、他の人よりも良いアイデアを出すことは、結果的に評価が上がって収入が増えることに繋がります。
利他的に振る舞った結果が、巡り巡って自分の利益に通じる、という好循環が知足の本意です。
                                          「もうこのぐら
いで良いかな」という諦観では、自分も、他人も、誰も満ち足りた気持ちにすることは出来ません。




(4)	 知足と達成感は同義語


 何かをやり遂げた、という達成感は人を突き動かす一番の動機づけです。その達成感はどのような時に感じる
のでしょう。売上の予算をクリアした、仕事の期日を守れた、目標の性能を実現できたなど、個人やチームのプ
チ達成感から、会社が東京証券取引所に上場出来たというメガ達成感まで、いろいろなレベルがあります。これ
らの達成感を感じる事と、満ち足りたと感じる知足は同義語だと言えます。言い換えれば、何かを日常的に達成
し続けることで、足るを知ることができるし、達成できないことが続けば不知足の凡境に陥ってしまいます。
                                                「こ
のくらいで」と適当なところで妥協したり、
                   「まあいいか」と諦めたりしてはいけません。達成感も知足も、その度
にどんどん遠退いてしまいます。




                        14
(5)	 経営規範5カ条


 ここまでの説明で解るように、知足とは「悟りの境地」に似ています。断食をして即身成仏しなくても、千日続
けて吉野の山に登り続けなくとも、誰にでも、何処にいても、日常生活の中で「悟り」を実感することができま
す。
 ただ「知足へ」という理念は、会社として目指すには観念的すぎて若干の違和感があるかも知れません。しか
し、法律上、人が自然人として人格を持つのと同様、会社も「法人格」という権利と義務に関する人格を与えら
れています。従って会社の振る舞いについても自ずと規範があるべきで、自然人と同様、法律を守ってさえいれ
ば良いというわけではありません。人に家族、友人や知人がいるのと同様に、法人にも顧客、仕入先や販売先が
あります。人が知足を実践して悟りの境地に至ることが出来るのであれば、法人も知足を実践して不滅のブラン
ドに至ることが出来るはずです。


 そこで、会社として知足を実践し、品格を高めるための「経営規範5カ条」を定めることとします。また、これに
合わせて商品開発5カ条、行動規範5カ条についても若干の見直しを行い、解り易くします。




                         15
                          経営規範5カ条


1 全ての利害共有者に適正な利益を配分する。
2 ESG、SDGsに応分のコストを負担する。
3 音・音楽・楽器によって人々のQOL向上に貢献する。
4 普遍的な原理原則を守って100年続くブランドを目指す。
5 軍需産業や原子力産業に関わらない。




                          商品開発5カ条


1 プロには挑戦への、アマチュアには継続へのモチベーションを提供する。
2 機能、性能、価格、外観、操作性等に何らかの「世界初」を取り入れる。
3 ユーザーの視点に立ち、自分でも使いたいと思える商品にする。
4 デザインは機能と結びついていなければならない。
5 課題解決型であり、かつ機会提供型でもある商品で新しい市場を創出する。




                          行動規範5カ条


1 立場に依って主義主張を変えず、
                「人として」是非を判断する。
2 目標の設定は「何とかなる」と楽観的に、その実現が近づいたら「もしかしたら」と悲観的に考える。
3 問題を解決する時は3回「なぜ?」を繰り返して真の原因を探り、2度と繰り返さない対策を講じる。
4 仕事の完成度に「まあいいか」と妥協せず、制約の範囲内で最善を尽くす。
5 指示を受けたら納得してから従い、
                 「させていただきます と言わない。
                           」




                            16
                        5. 利益配分

 社会の公器として、全ての利害共有者に適正な利益配分をする会社になるためには、その背景を理解する必
要があります。また、様々な価値観が時代と共に移り変わって行くのは必然だとしても、企業活動の前提条件と
なる法律や定説が変化してしまっては、会社の存続が揺らぐことになります。従って、今まで唱えられてきた定説
が正しかったのかどうかを検証し、今後信ずべき定説とは何かを見極めることが必要です。




(1)	 幻想だった定説


 当社が設立されたのは1983年ですが、その頃から、またはその後になって一般的に信じられてきた以下の様
な定説は、今となっては幻想だったと考えられます。


a) グローバリゼーション
 資本、物資、技術、サービスなどが国境を超えるグローバリゼーションにより、世界共通のグローバル市場が
誕生するとの予測は、中国の工場で生産されたという理由だけで当社製品にもべらぼうなタリフが課せられ、
出張先の工場ではグレートファイアウォールによってGoogleもFacebookもTwitterも使えない現状を見れば、
的はずれだったと言えます。結局のところグローバリゼーションとは、アメリカ企業が海外でも活動しやすくする
ための方便でした。


b) 二大政党制
 議会制民主主義発祥の地であるイギリスでは、保守党と労働党の政策が似通ってしまって区別がつきにくい
一方、EU離脱という選択に際しては二大政党とは全く異なる分断線が生じ、予測できなかった事態に至りまし
た。もう一つの二大政党国家アメリカでも、大統領選を巡って国を二分した暴力的ないがみ合いが起きるという
異常事態となりました。いずれの例も民主主義が目指すべき本来の方向とは異なり、むしろ二大政党制は社会
を不安定にする制度だったことになります。日本でも二大政党制を目指して小選挙区制が導入されましたが、二
度と政権交代など起こらない空気です。それ故に日本社会は比較的安定している、と言えるかも知れません。


c) ゆとり教育
 詰め込み教育に対する反動から導入されたゆとり教育でしたが、学力低下という深刻な問題に直面しました。
そもそも円周率は3で良いという教育が続くはずもなく、早々に脱ゆとり教育なる方向に変更となりました。


d) トリクルダウン効果
 アベノミクスの矢の一つで、大胆な金融緩和により「富裕層がさらに富裕になると、経済活動が活発化して低
所得層にも利益が再分配される」などという、一見もっともな仮説は、流行語大賞の候補になった程ですが、や
はり古典的経済理論に過ぎなかったようで、利益は再分配などされず、富はさらに富を生む方向にしか進みませ
んでした。
                            17
e) 冷戦が終結して世界は平和になる
 ベルリンの壁が崩壊した時、資本主義が共産主義に勝利し、米ソの対立が終わって、戦争や紛争のない時代
がく と誰もが期待しましたが、
  る、           替わりに宗教的対立、米中の対立、サイバー空間での戦いなどが顕在化し、事
態は一層深刻になっています。


f) 価格は需要と供給で決まる
 生鮮食料品のように時として供給不足に陥るような商品については、理論通り需要と供給のバランスで価格
が変動します。古典的経済学の前提条件どおり「全ての人々が合理的な選択をする」のであれば間違っていま
せん。しかし、常に供給過剰になってしまった工業製品については、価格の比較が容易なオンライン販売の普及
や、独占禁止法による過剰とも言える消費者保護政策もあり、
                           「一部の人々が非合理的な選択をする」事によっ
て価格が変動してしまいます。


g) 統一ヨーロッパ市場の誕生
 人・物・金の自由な移動でEUは統一された市場になるはずでした。しかし、不法移民の移動までもが自由に
なってしまい、また国ごとに異なる社会福祉制度までは統一できず、さらに各国が経済政策の要である金利を
自由に設定できない、という矛盾に直面した結果、イギリスの離脱という結果を招いてしまいました。


h) 金融緩和で物価が上昇
 バブル崩壊後、経済理論通りに金利は下落しましたが、その後一向に景気が回復しないことに業を煮やした
日本政府と日本銀行は2013年、異次元の金融緩和政策で2%の物価上昇を目指すとしました。しかし2021年
になっても未だ実現していません。バブル崩壊後の銀行の貸し剥がしを眼の当たりにした庶民も経営者も、は
しゃぎ過ぎたことを反省し、トラウマに陥り、蓄財することが優先で、出費や投資には慎重にならざるを得ませ
ん。従っていくらお金が余っていても物価は上がりません。もはや貸し剥がしを知らない世代の台頭を待つ他な
いのかも知れません。


i) 原子力発電は安くて安全
 言わずもがな、未だにこの建前を捨てる事のできない政治家や企業は、本音との間で苦悶しているはずで
す。




(2) 幻想かも知れない定説


  前述のような幻想だった定説が唱えられた時、誰もが若干の違和感を覚えながらも「学者がそう言うのだ
から、政治家がそう言うのだから、アメリカがそう言うのだから、たぶん正しいのだろう」と感じていたはずで
す。それらが幻想だったと判った今、現在進行形の定説に対しても、幻想かも知れないという疑いが生じます。




                         18
a) 働き方改革
 ハードワーカーは時代遅れでしょうか。Zoom North Americaの設立時に知人を通じて知り合い、共同出
資を仰いだある資産家は、初対面の私に向かって「君はハードワーカーかい? Yesなら出資するよ」と言いま
した。また、あるノーベル賞候補の日本人科学者は、
                       「自分のプロジェクトの事は、仕事中以外でも、24時間、常
にぼんやりと考えている。そうするとある時ふとインスピレーションが降りてく と言っています。
                                    る」       過労死やパワ
ハラなどは働き方云々の論外です。それらを防止するのは働き方ではなく、人としてのモラルです。仕事を通じて
スキルを上げたい、今日中に終わらせてしまいたい、なんでこうなるの?と好奇心を抱く、などのモチベーション
を尊重しなければ、働き方どころではなく、働く意欲が失われてしまいます。


b) ジョブ型雇用
 日本の企業は有史以来メンバーシップ型雇用で、そもそも集団の意思を尊重する日本人の文化がそうさせて
きました。あなたの仕事はなんですか?という問いに、日本人は会社名で答え、外国人は仕事の内容を答える、
という辛辣なジョークはもう何十年も前に言われていましたが、今でもその本質は変わっていません。良し悪
しの問題ではなく、日本人のマインドセットに適合しているわけですから、今後も当分の間変わることはないで
しょう。外資系企業や外国人を多く雇用する会社ではジョブ型を導入することに利点が多いはずですが、ジョブ
型雇用ではそのジョブがなくなったら解雇に直結します。企業が解雇を容易にするための方便に使うとしたら、
格差の是正どころか、より広げる方向になってしまいます。


c) リモートワーク
 リモートワークはジョブ型雇用とセットで成り立ちます。日本のメンバーシップ型組織には和と集団の意思を
重んじる文化が根付いている以上、阿吽の呼吸を感じとり、行間を読み、良い意味で忖度する仕事にリモート
ワークは馴染みません。また、リモートワーク最大の問題点は質疑応答や議論の盛り上がりに欠ける事です。参
加者が任意のタイミングで質問したり、自分の意見を述べたりする雰囲気にはならず、順番に質問を行い、順番
に答えていく、いわばお役所的な会議に陥ってしまいます。これでは新しい製品のアイデアは生まれません。ま
た、プレゼンテーションにしても、会議にしても、気の利いたジョークやユーモアは場の雰囲気を和げたり、議
論の盛り上がりを促す効果がありますが、リアクションの無いジョークほど悲しいものはありません。1秒後にタ
イムラグ付きで笑いが起きても、義理で反応しているように感じてしまいます。もし何もかもがオンラインになっ
たら社会全体がユーモアを失い、ギクシャクした雰囲気になっていく事でしょう。やはり、相手の目を見て、ノン
バーバルスキルも使いながら、タイムラグのない会話をする事が、会社組織には不可欠です。


d) 同一労働同一賃金
 この考え方もジョブ型雇用とセットで成り立ちます。メンバーシップ型雇用の場合、雇用形態によってその責
任の重さが異なります。事実として、最高裁は2020年10月、職務内容、人事異動や配置転換の範囲などを考慮
すれば、アルバイト職員への賞与の不支給は不合理とまでは言えない、との判断を下しました。また、かの有名
なピータードラッカーのマネジメント理論によれば、ホワイトカラーのマネジメントとは、時として自分よりもス
キルの高い専門家たちを束ね、それぞれのベクトルを合わせ、人数比よりも高い倍率で結果を出すことだ、とさ



                           19
れています。その様な職場環境においては、そもそも誰と誰が同一労働をしているのか、という定義ができませ
ん。あえて導入するなら同一責任同一賃金と言うべきでしょう。


e) シンギュラリティ
 技術的特異点と訳され、人工知能が人類に変わって文明の進歩の主役になる時点、とのことで2045年ごろに
訪れる(かも知れない)とされています。100年続く企業を目指している当社にとっては、遠い未来の話ではあり
ません。当社にとってのシンギュラリティとは、商品企画をAIが行うことになるはずですが、果たして当社製品の
ような、過去や他社にお手本がなく、機能とデザインが微妙にバランスする様な商品を、ディープラーニングが
取り柄のAIに生み出せるのか疑問です。逆説的に言えば、AIには生み出せないような商品を企画、開発してい
れば、シンギュラリティを乗り越えられるということになります。




(3)	 信じるに足る定説


 幻想だった定説や、幻想かも知れない定説には共通点があります。その定説で得をする人と損をする人が同
時に存在する事、表向きの理屈の裏側に何らかの隠された意図がある事です。ということは、プラスマイナスゼ
ロになってしまうゼロサムルールや、隠された意図などには左右されない普遍的な法則に従って経営し、行動す
ることが会社の永続性を担保することになるはずです。


a) 資本主義の欠点
 企業活動が資本主義経済によって成り立っている以上、その資本主義が持つ様々な欠点を理解しておくこと
は、企業の在り方を考察する上で重要です。


	   ・必然的に所得格差の増大を生み出す。
	   ・所得格差で生じる貧困問題を解決できない。
	   ・景気循環と不安定な経済をもたらす。
	   ・貧富の差を是正できるほどの雇用を生み出せない。
	   ・企業活動の負担を企業に課さない。
	   ・環境や天然資源を搾取する。
	   ・個人主義と自己利益を追求する。
	   ・金融主導で経済を成長させる。
	   ・短期的利益を追う計画を好む。
	   ・社会的価値や幸福感を計算に含めない。


 これらの欠点を逆説的な定説だと考えれば、会社が目指すべき方向性が解ります。つまり、所得格差や貧困
を容認しない理念を掲げ、景気に左右されない経営で雇用を守り、環境や天然資源を守るために相応の負担を



                          20
し、自己の利益のみに固執する金融主導の錬金術には加担せず、長期的利益を重視することで社会から存在価
値を認められる企業になる、という方向性です。


b) 人としてという価値観
 コンプライアンスは、人として守るべきルールであって、法律に触れなければ良い、という位置付けではあり
ません。ただし、ハラスメントやジェンダーに関する基準の様に、時代と共に移り変わってしまうルールもありま
す。会社にはコンプライアンスマニュアルも制定されていますが、移り変わる基準をあらかじめ織り込んでアッ
プデートしておく事は不可能で、変化を取り込むのは止むを得ず事後的になってしまいます。この様な場合、ど
う行動すべきかの基準は「人として」という価値観に他なりません。人としてやって良い事なのか、言っても良い
事なのか、行っても良い所なのか、売っても良い物なのか、買っても良い物なのか、と言う基準で考えれば、自ず
と答えが出るはずです。
 さらに、
    「人として」と言う価値観は、
                 「適者生存」という自然の摂理にも通じます。常に進化を続け、環境に適
応し、仲間と共存するための基準にもなります。言い換えれば、様々なリスクや問題に直面する場面でも、自然
界の法則には逆らわない、という謙虚な態度で接すれば良いということになります。


c) モノづくりが資本主義の原点
 例えば英語は、コミュニケーションの道具であって、英語そのものがビジネスになる訳ではありません(一部
業種を除く) 同様に、
      。    金融も、投資も、ITも、本来はそれぞれが独立したビジネスになるのではなく、モノづく
りの為のビジネスであるべきです。金融は新しい製品を生み出す企業に資金を提供し、投資はアイデアがある
のに資金がない起業家を支援し、ITは製品の開発効率や性能の追求に利用することが、それらをとりまくあらゆ
るサービス業に波及して経済を活性化させます。この相乗効果こそが本来のトリクルダウン効果と言えるはずで
す。


d) インターナショナリズム
 グローバリズムが幻想だったことが明らかになり、その反動でナショナリズムが台頭することになりました。
アメリカファーストを唱えたトランプ政権の流れは世界各国に波及し、中国では国家主席がかつての皇帝のよう
な権力を持ちつつあります。このままナショナリズムの台頭を放置すれば、破滅的な結果をもたらすことは想像
に難くありません。グローバリズムは幻想、ナショナリズムは破滅、だとすれば進むべき道はインターナショナリ
ズムしかありません。国境と国の独立を維持しつつ、互いに節度のある交流を維持することが、政治・経済の安
定をもたらすはずです。


e) 軍需産業に関わらない
 憲法で戦争を放棄している日本に軍需産業があるのか、と問われれば答えはYesです。防衛省による令和3
年の防衛関係費概算要求額は5兆4897億円、このうちミサイル防衛を含む宇宙関連が724億円、サイバー領域
関連が357億円、その他自衛隊の装備品である潜水艦、ヘリコプター、弾薬、電子機器などがあり、空母にしか
見えない護衛艦も含まれます。それらを製造している会社や業界がTVコマーシャルを打ったり、積極的にソー
シャルメディアで発信したりはしていないので、一般的にはよく知られていませんが、名にし負う日本の一流企

                         21
業がこぞって関わっています。環境や人権への配慮を強調する企業が、同時に人を殺すための道具をも製造して
いることは、二枚舌と言わざるを得ません。
一方で、アメリカの楽器産業の規模はおよそ7000億円とされ、そこから世界では1兆5千億円程度と推計でき
ます。日本の軍事予算の1/4程度の規模しかありません。日本と日本人を脅威から守る防衛は大事な産業である
ことは言うまでもありません。しかし、いかに巨大な市場がそこにあろうとも、当社グループは、人々のささくれ
だった気持ちを和らげるという間接的な方法で、戦争のない世界の実現に貢献すべきです。


f) 原子力産業に関わらない
 当社で何らかの問題が発生した時の対処方法は、2度と起こらない様に根本的な対策をする、です。そのた
めに3回の「なぜ?」を繰り返すべし、と行動規範でも定めています。 「なぜ?」
                                では    福島第一原子力発電所の炉
心溶融事故は起こってしまったのでしょうか。1回目のなぜ?の答えは、原子炉を冷却するための電源を喪失し
たから、2回目のなぜ?の答えは、想定外の津波が来たから、そして3回目のなぜ?の答えが導き出す真の原因
は、想定以上の津波の大きさを予測した科学的知見よりも経済合理性を優先させたから、
                                       です。ところが資本主
義社会において我々は、常に経済合理性を最優先して事業を行っているわけですから、原子力発電所を安全に
制御する事と、事業を発展させるための優先事項とは両立しないことになってしまいます。従って2度と事故を
起こさない根本的な対策とは、原子力発電を止める事であり、それが一企業にはできないのなら、せめてそれに
関わる事は避けなければなりません。


g) Conscious Capitalism
 金融を中心とした資本主義の欠点を補おうとするのが公益資本主義ですが、その発想が生まれた反面教師で
あるアメリカでさえも、一部の起業家の間でConscious Capitalism(思慮深い資本主義)というムーブメント
が起きています。この考え方は4つの原理からなるとされ、 全ての関係者をやる気にさせる高次元な目的、
                           1)                    2)
顧客や従業員、流通業者、サプライヤー、地域、環境といった全てのステークホルダーの統合、 そのステーク
                                           3)
ホルダー全てに奉仕する思慮深いリーダーシップ、 同じく全てのステークホルダーの価値向上を目指す思慮
                       4)
深い企業文化とマネジメント、とされています。公益資本主義の考え方とは驚くほど類似しており、これらが日本
と米国で同時発生的に提唱されていることは注目に値します。


h) 会社は社会の公器
 会社、とりわけ上場企業は公器である、という原則に依る公益資本主義やConscious Capitalismでは、
                                                        「公
益」 「思慮深い」
  と      という言葉の違いはあっても、会社の目的、企業文化、リーダー、
                                      マネジメントにまで、ステー
クホルダーに奉仕する行動を求めている点では共通しています。公益や思慮深いという言葉からは、利益を度
外視するというニュアンスも感じられますが、そもそも利益がなければ配分もできないので、経営は利益を最大
化することが大前提であり、最優先されます。ステークホルダー(利害共有者)とは、社員、役員、顧客、株主、
工場、代理店、販売店などの直接的な関係者の他、地域、国家、地球など、会社が間接的に恩恵を受けている
社会や環境も含みます。会社とその取締役会は、これらの人、組織や環境と利害を共有し、適正な利益を配分
しなければなりません。



                            22
                      利益配分の定義


 前述の幻想だった定説、幻想かも知れない定説、信じるに足る定説等を念頭に、この第3次中期経営計画に
おいて、ステークホルダー(利害共有者)それぞれへの適正な利益配分を次の様に定義します。


	   ・社員 会社の成長と社員の収入が直接リンクする制度を導入します。
       :
	   ・執行役員:貢献度に応じたインセンティブを報酬に加えます。
	   ・顧客:競合他社製品よりも圧倒的に優れたコストパフォーマンスをコミットします。
	   ・株主:投機目的ではない中・長期保有株主を優遇する制度を導入します。
	   ・工場:根拠に基づいたコストダウンでWin-Winの関係を構築します。
	   ・代理店:市場のテリトリを厳正に管理する施策により逸失利益を最小化します。
	   ・販売店 チャンネルマネジメントにより不当・過当な競争を排除します。
        :
	   ・地域社会:公益的なNPOを設立して会社と社員・役員の属する地域に貢献します。
	   ・地球環境:製品の性能向上による省エネルギー化や廃棄物削減などで環境負荷を軽減します。




                          23
                          6. 重点戦略

(1) We’re For Creatorsによるブランディング強化


 ブランド価値は事業の核心的利益です。We’re For Creatorsというコーポレートタグラインに沿ってさらな
るブランディングの強化を図ります。


a)	 クリエーター志向の商品企画、設計開発を継続する。
b)	新分野のクリエーター誕生をウォッチし、いち早く最適化した商品を展開する。
c)	 課題解決型かつ機会提案型の商品で新たなクリエーターの誕生を支援する。
d)	新たなクリエーターを発掘するため、作品を発表できるイベントを開催する。
e)	 広告宣伝予算を増額し、ブランド価値の向上もその目的に加える。
f)	 ディストリビュータによる広告宣伝がソーシャルメディアに移行するよう促すと共に、使用するコンテンツの
 提供に注力する。
g)	ブランド認知度を向上させるため、ノベルティーグッズの配布、提供、販売を積極的に行う。
h)	毎年、知名度の高いアーティストにCreator Awardの表彰を行い、受賞者をエンドーザーとして広告宣伝に
 起用する。




(2)	 中核事業関連多角化の推進


 M&Aや新しいカテゴリーへの参入によって事業を多角化することは、会社の持続的成長には欠かすことので
きない戦略です。ただし、当社グループは音・音楽・楽器に関連した多角化で事業拡大を目指すこととし、失敗
例の多い非関連多角化はギャンブルと位置付け、これを行いません。


a)	 商品の企画、開発、製造、 小売まで一気通貫の事業基盤を構築する。
                卸、
b)	音・音楽・楽器に関する技術の蓄積をコアコンピタンスと位置づけ、保護、強化する。
c)	 音・音楽・楽器に関連しない周辺技術については、優れた外注技術を利用するオープン ノベーションの手
                                           ・イ
 法を継続する。
d)	音・音楽・楽器に関連するサービス分野(モノづくり以外)も多角化の選択肢とする。
e)	 先端技術を用いた主要製品に加えて、すでに確立した技術を用いた製品も、OEMを活用して拡充する。
f)	 過去に実績のある技術を積み重ね、さらに新たな技術を追加して新カテゴリーに参入する。 	
g)	多角化した事業から得た情報を商品開発にフィードバックする。
h)	ディストリビューション事業で得たコネクションをM&A戦略に活用する。




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(3) 中間層向けの商品の拡充


 アメリカ大統領ジョーバイデンはその選挙演説で、アメリカを支える豊かな中間層を再構築すると述べまし
た。中国の国家主席シージンピンも五中全会(党中央委員会第5回全体会議) 所得を倍増させて中間層を
                                   で、
増やす、と宣言しました。日本の経済発展も1960年池田内閣の所得倍増計画が契機となりました。途上国にも
同様の動向が起きることは確実視されており、貧困を脱した中間層のQOLをより豊かにする、音・音楽・楽器へ
の需要が劇的に増加することが期待されます。従って、その中間層をターゲットにする商品の開発にリソースを
集中します。


a) 	主要商品の市場における中心価格帯を1万円前後から20万円までとする。
b)	アフターサービス網や物流インフラの行き届かない国や地域でも、幅広い中間層を失望させないよう、不良
 率0.1%未満を目指す。
c) 	性能、機能、外観等については過剰品質に陥らず、価格に対して納得感のあるレベルにする。
d)	ユーザーが使用する言語の多様化に対応するため、製品本体のローカライズを進める一方で、取扱説明書を
 読む必要のない、簡便で解りやすいユーザーインターフェースを提供する。
e) 	
   国や地域によって売れ筋商品が異なる背景を分析し、それぞれの嗜好が重なり合う共通の市場をターゲット
 にする。
f)	 多様な中間層の異なるニーズに応えるため、アーミーナイフ型の多機能、多目的な商品と並行して、特定の目
 的に特化した商品も開発する。




(4)	 リスクマネジメントの導入と徹底


 第1次、第2次中期経営計画の対象期間においても、自然災害、感染症パンデミック、部品不足、関連会社倒
産など予期せぬ事態が多く発生しました。しかも、不思議なことに、会社の規模が大きくなるに従って、直面す
るリスクの深刻さも大きくなってきました。従って、第3次中期経営計画の期間に発生するリスクについては、パ
ニックに陥らないこと、事業へのインパクトを限定的にすることを目的として、コストと効果のバランスを考慮し
ながら、全てが想定の範囲内となる様、あらかじめ対処方針を定めます。


a)	 リスク 中国の外注工場のコスト上昇、
       :              及び地政学的リスク。
 対処方針 外注工場の分散
     :       (その所在国を含めて)を図り、特定工場への依存度を1/3以下にする。
b	 リスク:部品サプライヤーに起こり得る災害や事故、あるいはM&A等による経営方針の変更。
 対処方針 全ての基幹部品について特定メーカーへの依存度を1/3以下にする。
     :
c)	 リスク:省エネ、EV普及に伴うレアメタル使用部品の供給不足。
 対処方針:常に他業界における需給の増減をウォッチして発注量を調整すると共に、予め代替部品のリスト
 を作成する。



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d)	リスク:社内ネットワークに対する外部からの攻撃とその結果生じる情報漏洩。
 対処方針:ITグループを中心に事例の収集に努め、常に最新の対策を導入する。同時に、全ての情報につい
 てそれらが流出した場合に起こり得る問題と対策を想定しておく。
e)	 リスク 人材育成による世代交代が進まず、
       :                新製品の増加による成長戦略が成立しない。
 対処方針:人事異動によるジョブローテーションの頻度を高めると共に、中堅エンジニアにプロジェクトマネ
 ジメントの機会と教育プログラムを用意する。
f)	 リスク 子会社での予期しない事象の発生や不正によって、
       :                       重要な損失が発生する。
 対処方針:子会社の管理と連結決算を担う専門の部署を新設し、リスク情報をより早期に入手できる体制を
 構築するともに、監督機能を強化する。
g)	リスク:COVID-19の影響による航空運賃の上昇で海外子会社の利益率が低下する。
 対処方針:航空便を利用せざるを得ない状況に陥らないよう、新製品開発スケジュールの遅延を防止し、品
 質問題による出荷停止措置をなくす。
h)	リスク:海外の税法に関する知識不足が原因で、当社または子会社の税務申告が否認され、追徴課税され
 る。
 対処方針:関係会社間取引、特にタックスヘイブン税制や移転価格税制等、リスクが高い分野について専門
 のコンサルタント会社と契約して助言を得ると共に、事前に税務当局との調整を試みる。
i)	 リスク:M&A案件の発生や、予期しない資金需要が生じた際、必要な資金が調達できない、または調達コ
 ストが上昇してしまう。
 対処方針:海外子会社を含む資金調達手段を拡充すると共に、グループ資金管理を実施する。
j)	 リスク:新たな感染症パンデミックや自然災害
 対処方針:基本的な感染防止対策はCOVID-19収束後も継続、ビデオ会議の活用によって出張の頻度や人
 数を減し、いつでも即時リモートワークに移行できる体制を維持する。




(5)	職務習慣病の治療と予防


 当社は創業から37年が経過しました。まさに当社が創業した1983年、日経ビジネス誌に「企業の平均寿命
は30年」という、ベンチャースピリッツに水を差す様な記事が掲載され、なんとかそれを乗り越えようと努力し
てきました。その35年後の2018年になって東京商工リサーチ社が集計した倒産企業の平均寿命は、全業種平
均で24年、最も長い製造業で34年でしたので、日経ビジネス誌の仮説が正しかったことが確認されました。た
だし、人の寿命と同じくあくまで平均であり、37年間存続した企業の余命についての統計はありません。とは言
え、少なくとも、いつ突然死しても不自然ではないと認識する必要があります。
近年は、人に生活習慣病が起こるように、会社にも似たような症状が見られる様になりました。いわゆる大企
業病ですが、当社の規模で大企業病と呼ぶのはおこがましいので、職務習慣病と名付けました。これを治療し、
変化と適応を怠らなければ、100年でも存続できるところが、人と会社の異なる点です。様々な職務習慣病の
症状を把握した上で、その場しのぎの対症療法ではなく、根本的な治療と予防を行います。



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a) 	
   症状:前回と同じだから、と無駄で非効率な業務ルーチンを繰り返す。
 治療と予防:組織も市場も製品も、常に変化しているのだからルーチンも変化して当然と考え、常に改善で
 きないか、効率化できないか、さらには省略できないのか、を念頭に仕事をする。
b)	症状:自分で次の仕事を見出すことができず、指示を待っている。
 治療と予防:その仕事がプロジェクト全体や月単位の仕事の中で、どの様な位置付けになっているかを把握
 する。マネジメントはその位置付けを明示しつつ個別の仕事をアサインする。
c) 	
   症状:指示されたから、という理由だけで仕事をしている。
 治療と予防:なぜその様な指示があったのかを推量しなければ、期待される成果は残せない事を自覚する。
 解らなければ質問して、なぜその仕事が必要なのかを納得してから着手する。
d)	症状:ワークフローがなぜそうなったのか、そもそもの理由を知らないため、例外的処理に対応できず類似
 の問題が再発してしまう。
 治療と予防:問題の起こり得ない仕事にワークフローは必要ないので、手順や承認プロセスが決められた経
 緯を理解してから例外的処理を行う。また、ワークフローの制定時や改定時には、従前どの様な問題や誤謬
 が発生したのか、経緯を記録として残す。
e) 	
   症状:業務の指示がトップマネジメントからマネジメントへ、さらにサブマネジメントから担当者へ、最後は
 外注へと伝言ゲームになってしまい、本来の主旨が伝わらない。
 治療と予防:業務の指示は必ず作業をする当事者に対して行い、上長もその打ち合わせや会議(オンライン
 を含む)の場に同席して指示内容を共有する。伝言による指示、いわば業務の丸投げを厳に慎む。また、業
 務指示に対して「検討します 「調査します などと応じる場合は、 「誰が」
              」      」          必ず   という主語を明確にする。
f)	 症状:報告書の形式を整えることに無駄な時間を費やす。
 治療と予防:信頼に足る報告には、形式ではなく、むしろ手書きメモのようなリアリティーが求められる。
 ExcelやWordは体裁を整えるために使用するのではなく、複雑な計算や、文章の推考を繰り返す目的で利
 用する。
g)	症状:縦割りになった部署の垣根を超えた調整ができない。
 治療と予防:組織の単位は業務を分割する目的ではなく、むしろ分割せざるを得ない仕事をどう再統合すべ
 きかを示している。組織の一単位だけで完結する仕事などは存在しないとの認識を共有し、連携すべき部署
 を適切に判別して調整する。
h)	症状:目先の仕事の手間を省くために、ユーザーにとって不利益な方針を選択してしまう。
 治療と予防:「ユーザーの視点に立ち、自分でも使いたい商品にする。 という商品開発の規範を、
                                 」            全ての仕
 事にも適用する。また、自分だけではなく、上司や同僚、部下に対してもユーザーの視点で指摘を行う。
i)	 症状:問題発生時の対策で、過去の事例や経験のみに基づいた対症療法的な選択をしてしまう。
 治療と予防:前例は踏襲するのではなく、参考に留める。
                          「なぜ?を3回繰り返す という行動規範に則り、
                                     」           真
 の原因を突き止め、原理原則に従った根本的な対策を選択する。




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