6470 大豊工業 2019-09-26 16:45:00
特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ [pdf]

                                                          2019 年 9 月 26 日
各     位
                                    会 社 名    大 豊 工 業 株 式 会 社
                                    代表者名     代表取締役社長          杉原 功一
                                    コード番号   6470( 東 証 ・ 名 証 第 一 部 )
                                    問合せ先      執行役員            延川 洋二
                                    電話番号       ( 0 5 6 5 ) 2 8 - 2 8 0 0




              特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ

 当 社 は 、2019 年8月2日付の「特別調査委員会設置に関するお知らせ」にて開示致しましたとおり、当社の
海外連結子会社であるタイホウ コーポレーション オブ アメリカにおいて、  2015 年から 2018 年までの期末棚卸資
産の不適切な会計処理により、    実態と相違がある資産計上が行われている恐れが判明し、   当社とは利害関係を有し
ない外部の弁護士が委員長を務め、    その他の社外の専門家を含む委員で構成される特別調査委員会を設置し、      調査
を実施致しました。
 本日、特別調査委員会より、調査報告書を受領しましたので、下記のとおりお知らせいたします。

                               記

1. 特別調査員会の調査結果
     特別調査委員会の調査結果につきましては、別紙「調査報告書(公表版)
                                     」をご参照ください。なお、当該
    報告書においては、個人情報保護等の観点から、部分的な非開示処置を施しております。


2.過年度の有価証券報告書等及び決算短信等の訂正について
     当社は、特別調査委員会の調査結果を踏まえ、過年度の有価証券報告書等及び決算短信等の訂正を予定して
    おり、2019 年9月 30 日に公表させて頂く予定です。


3.再発防止に向けた取り組み
     当社は、別紙「調査報告書(公表版)
                     」に記載されております、特別調査委員会が認定した事実と原因分析
    に基づいた再発防止策の提言を真摯に受け止め、再発防止策を早急に策定の上、実行してまいります。
     なお、具体的な再発防止策は、まとまり次第、速やかに公表いたします。

 株主・投資家の皆様をはじめ、市場関係者及び取引先の皆様には多大なるご迷惑とご心配をお掛けいたしており
ます事を心よりお詫び申しあげます。

                                                                    以上
                     2019年9月26日




大豊工業株式会社 御中




          調査報告書
           (公表版)




                大豊工業株式会社特別調査委員会


              委員長   平   尾       覚
              委 員   安   田   益   生
              委 員   佐   藤   邦   夫
              委 員   高   岡   俊   文
大豊工業株式会社 御中


                                     2019 年 9 月 26 日


                             委員長      平 尾         覚
                             委   員    安 田 益 生
                             委   員    佐 藤 邦 夫
                             委   員    高 岡 俊 文


 本報告書は、大豊工業株式会社(以下「大豊工業」という。)が設置した特別調査委員会
(以下「当委員会」という。)が実施した調査、原因分析及び再発防止策の提案等(以下「本調
査」という。)について、その報告を行うものである。
 なお、本報告書は、与えられた時間及び条件の下において、可能な限り適切と考える調
査、分析等を行った結果をまとめたものであるが、今後の調査において新たな事実等が判
明した場合には、その結論等が変わる可能性がある。また、本報告書は、裁判所や関係当
局等の判断を保証するものではない。
第1編    当委員会の概要 ························································ 1

  第1       当委員会の設置経緯················································ 1

  第2       当委員会の目的及び調査対象········································ 1

  第3       当委員会の開催状況················································ 2

  第4       当委員会による調査方法・内容等···································· 2

       1   関連資料の精査···················································· 2
       2   ヒアリング調査···················································· 3
       3   電子データ調査···················································· 3
       4   棚卸 ····························································· 3

  第5       本調査の基準日···················································· 4

第2編    大豊工業及び TCA の概要 ················································ 4

  第1       大豊工業について·················································· 4

  第2       TCA について ······················································ 4

  第3       大豊工業による TCA の管理体制について······························ 5

第3編    本調査の結果判明した事実 ·············································· 5

  第1       本調査の結果判明した不適切な会計処理の概要 ························ 5

  第2       TCA における棚卸及び収支管理の実務並びに大豊工業に対する報告の状況 6

       1   TCA における棚卸の実務 ············································ 6
           (1) 月次棚卸について ············································· 6
           (2) 期末棚卸について ············································· 7
       2   TCA における収支計画 ·············································· 8
           (1) 収支計画の策定 ··············································· 8
           (2) 変動計画 ····················································· 8
           (3) TCA における不良率の取扱い ···································· 8
       3   TCA における収支の集計 ············································ 9
           (1) 月次収支の取りまとめ ········································· 9
           (2) 四半期末及び期末の収支状況の取りまとめ ······················ 10
           (3) 経理マネージャー以外の関与者の有無 ·························· 10
       4   TCA と大豊工業間の財務・生産管理関連の情報の流れ ················· 10
           (1) TCA による大豊工業への収支状況の報告の機会・方法 ············· 10
               ア   月次の収支状況の報告について ···························· 10
               イ   四半期及び年度末の収支状況の報告について ················ 11
           (2) 生産管理部門間での連絡内容・連絡状況 ························ 11

  第3       A 氏が在庫数量の調整行為を申告した経緯 ··························· 12

       1   A 氏の申告の経緯 ················································· 12
       2   A 氏の本件調整行為の動機に関する供述 ····························· 13

  第4       実地棚卸資産額の齟齬が生じた経緯等······························· 15

       1   2013 年 12 月期について ··········································· 15
       2   2014 年 12 月期以降について ······································· 16
       3   A 氏による本件調整行為の具体的な内容 ····························· 16
           (1) 調整額の決定方法 ············································ 16
           (2) 月次の在庫数量及び棚卸資産額の調整方法 ······················ 17
           (3) 大豊工業への報告内容 ········································ 18
           (4) 期末の在庫数量及び棚卸資産額の調整方法 ······················ 18
           (5) 任意監査への対応 ············································ 19
           (6) 本件調整行為の終期 ·········································· 19
       4   本件調整行為への関与者及び認識していた者の範囲 ··················· 19
           (1) TCA において、本件調整行為について関与又は認識していた役職員の
               有無 ························································ 19
           (2) 大豊工業において、本件調整行為について関与又は認識していた役職
               員の有無 ···················································· 20

  第5       本件調整行為が財務報告に与えた影響······························· 20

  第6       件外調査························································· 21

       1   TCA 以外の子会社における件外調査 ································· 21
       2   TCA における件外調査 ············································· 21

第4編    原因背景 ····························································· 22

  第1       A 氏の適正な経理業務に関する意識の低さ ··························· 22

  第2       TCA 内での問題点 ················································· 22

       1   経理業務に関する相互牽制の不足··································· 22
       2   生産管理部門が不良品を網羅的に管理できていなかったこと ··········· 23

  第3       大豊工業における TCA の管理に関する問題点························· 23

  第4       大豊工業グループ内で適切な内部通報が行われなかったこと ··········· 24

第5編    再発防止策の提言 ····················································· 24

  第1       適正な経理業務に関する意識の向上に向けた施策 ····················· 24
第2       TCA における再発防止策 ··········································· 25

     1   棚卸結果の確認体制の強化········································· 25
     2   不良率の正確な把握に向けた取組の実施····························· 25

第3       大豊工業における TCA に対する管理の強化··························· 26

第4       内部通報制度の運用の強化········································· 26
第1編   当委員会の概要


第 1 当委員会の設置経緯


 大豊工業は、2019 年 6 月 24 日、大豊工業の北米子会社であるタイホウ           コーポレー
ション   オブ   アメリカ(以下「TCA」という。)の経理・調達担当マネージャーを務めてい
た A 氏からの自主申告を契機として、TCA において、2015 年度から 2018 年度までの期末
棚卸資産の不適切な会計処理により、実態と相違がある資産計上が行われている可能性が
あることを把握した。
 大豊工業は、上記事態を重く受け止め、社内調査を実施し、その結果を杉原功一代表取
締役社長、監査役会を含むその他の役員に報告していたが、金額の規模が大きく過年度修
正が必要になる可能性があることから、2019 年 7 月 30 日開催の取締役会において、事実
関係について徹底した調査を行うとともに、その原因を究明し、再発防止を図るため、外
部の専門家を交えた委員会による調査が必要であると判断し、同年 8 月 2 日、当委員会を
設置した。
 当委員会の構成は以下のとおりであり、調査の客観性・中立性・専門性を確保するた
め、委員長には当社とは利害関係を有しない外部の弁護士を起用し、その他当社とは利害
関係を有しない社外の専門家を含む委員を任命した。


委員長         平尾 覚             弁護士 西村あさひ法律事務所
委員          安田 益生             大豊工業 独立社外監査役
委員          佐藤 邦夫             大豊工業 独立社外取締役
委員          高岡 俊文            公認会計士 株式会社 KPMG FAS


 なお、当委員会では、西村あさひ法律事務所及び株式会社 KPMG FAS が調査補助者とし
て調査補助活動に従事した。


第 2 当委員会の目的及び調査対象


 大豊工業の委託に基づく、当委員会の調査対象事項は、以下のとおりである。
  1   本件に係る事実関係の調査
  2   本件に類似する問題の存否及び事実関係の調査
  3   上記 1 及び 2 で確認された事実関係の原因分析及び再発防止策の提言
  4   上記のほか、当委員会が必要と認めた事項


 また、当委員会による調査の対象期間は、A 氏が TCA に赴任した 2014 年 9 月の直前期で
ある 2013 年 12 月期から下記第 5 記載の基準日までとした。




                         1
第 3 当委員会の開催状況


    当委員会の調査期間は、2019 年 8 月 2 日から同年 9 月 25 日までである。以下の期日に
合計 9 回の委員会を開催した(電話会議での開催を含む。)。また、下記第 4 の 2 記載のヒ
アリング実施の前後及び電子メール等での連絡により、委員間で調査方針等について随時
意見交換を行った。
     2019 年 8 月 9 日
     2019 年 8 月 16 日
     2019 年 8 月 22 日
     2019 年 8 月 30 日
     2019 年 9 月 6 日
     2019 年 9 月 10 日
     2019 年 9 月 13 日
     2019 年 9 月 19 日
     2019 年 9 月 24 日


第 4 当委員会による調査方法・内容等


    当委員会は、下記 1 から 4 記載の調査を実施した。
    なお、当委員会は、本調査の実施に当たり、その範囲と手法はいかなる形でも制限され
ておらず、また、本件に関し、合理的に顕出されたすべての証拠について評価を行い、本
報告書に反映した。


1    関連資料の精査


    当委員会は、大豊工業及び TCA から、TCA における棚卸及び収支管理の手続に関する資
料、過去の TCA における棚卸及び収支管理の実績値に関する資料、TCA から大豊工業への
在庫及び収支の報告に関する資料、TCA の定めていた目標値に関する資料、その他本調査
に関連する資料1の提供を受けるとともに、ヒアリング対象者等から資料の提供を受け、こ
れらの資料を精査・検証した。なお、これらの資料の精査・検証に当たっては、委員又は
調査補助者が最終的な確認を行っている。




1
     TCA の固定資産や債権に関連する資料も含む。




                               2
2    ヒアリング調査


    当委員会は、2019 年 8 月 1 日2から同年 9 月 22 日までの間、本件行為との関連性の観点
から当委員会が必要と認めた大豊工業及び TCA の役職員 28 名に対し、ヒアリング調査を
実施するとともに、対象者から任意に、関連する資料の提供を受けた。
    また、大豊工業の会計監査人である監査法人の担当者に対し、同社グループの経理業務
に関する一般的な理解を得るためにヒアリングを実施した。


3    電子データ調査


    当委員会は、本件行為との関連性の観点から当委員会が必要と認めた、TCA に所属した
ことのある大豊工業及び TCA の役職員 14 名並びに大豊工業経理部において 2019 年 1 月以
降 TCA を担当していた大豊工業の役職者 9 名を対象として、共有サーバーに保存された電
子メールデータ、電子ファイル等を対象にデータを収集した。
    当委員会は、前記のとおり収集したデータを対象に、TCA における棚卸及び収支管理の
手続の実態、過去の TCA における棚卸及び収支管理の実績値の報告の実態、本件の関与者
又は本件について情報共有を受けた者の有無、本件の原因・背景といった点について明ら
かにするため、キーワードを設定し、当該キーワードを用いて検索した結果抽出された
21,017 件のデータを精査した。


4    棚卸


    現時点の在庫金額を把握するために、2019 年 8 月 3 日、TCA において棚卸を実施した。
その際の棚卸は、下記第 3 編第 2 の 1(2)記載の期末棚卸同様、各製造ラインの生産業務を
停止し、連番管理されたタグにカウント数等を記入したものを在庫に添付し、その後、回
収する方法により実施した。
    その後、下記第 3 編第 3 の 1 記載のとおり、本調査の過程において、TCA の一部の役職
員が、2019 年 6 月 24 日以前に A 氏から申告を受けるなどして、期末棚卸資産に関する不
適切な会計処理の事実を認識していたことが判明した。そこで、2019 年 9 月 8 日に、それ
らの役職員を手続に関与させない方法で、TCA において棚卸を実施した。当委員会は、同
日の棚卸の概要に関して、資料を入手し、また、大豊工業の経理担当者に対してヒアリン
グを行ったが、特段の違和感はなかった。




2
     当委員会が設置されたのは 2019 年 8 月 2 日であるが、A 氏の第 1 回ヒアリングは、当委員会の設置
     に先立ち、同年 8 月 1 日に実施されたものである。




                              3
第 5 本調査の基準日


 当委員会は、2019 年 8 月 2 日に本調査を開始し、同年 9 月 25 日まで本調査を行った。
本調査の報告のための基準日(以下「基準日」という。)は、2019 年 9 月 25 日であり、本報
告書は、基準日までに判明した本調査の結果をまとめたものである。


第2編   大豊工業及び TCA の概要


第 1 大豊工業について


 大豊工業は、1944 年に創業し、愛知県豊田市に本社を置く、軸受製品、アルミダイカス
ト製品、ガスケット製品、組付製品、精密金型等の製造及び販売を業とする株式会社であ
る。大豊工業は、愛知県、岐阜県及び鹿児島県に生産拠点を有している。大豊工業の決算
期は、毎年 3 月末である。
 また、大豊工業は、現在、大豊工業、連結子会社 15 社、持分法適用関連会社 1 社及び
非連結子会社 2 社からなる企業集団を形成しており、同企業集団は、各種自動車部品及び
搬送装置・精密金型等の自動車製造用設備の製造・販売を主な事業としている。
 大豊工業は、アメリカの TCA のほかにも、インドネシア、ハンガリー、韓国、中国、タ
イに連結子会社を有している。大豊工業においては、営業部門内の海外事業室(以下「海外
事業室」という。)の企画グループが子会社の運営・管理のサポートを担当している。ま
た、経営管理部門内の経理部の関連事業室(以下「関連事業室」という。)が、連結決算を行
うために必要な範囲で、海外子会社の収支の管理を行っている。
 また、大豊工業の CSR 推進室は、年に 1 回、国内外の子会社に対して、内部監査(J-SOX
監査)を実施している。内部監査(J-SOX 監査)の内容は、連結消去後の子会社の売上高に応
じて 3 つの階層に分かれており、①1 番上の階層では、全般統制、財務報告の統制及び業
務プロセスの統制に関する監査を実施し、②2 番目の階層では、全般統制及び財務報告の
統制に関する監査のみを実施するのに対し、③3 番目の階層に属する子会社に対しては内
部監査(J-SOX 監査)の対象としていなかった。なお、内部監査(J-SOX 監査)においては、
棚卸の手続に関する監査は、業務プロセスの統制に関する監査の一環として行われてい
た。


第 2 TCA について


 TCA は、1981 年 12 月 1 日に設立された大豊工業の完全子会社であり、設立当初は、北
米における大豊工業の製品の販売を事業内容としていた。1996 年に第 1 工場が設立されて
以降、TCA は自社工場で自動車部品の製造も行うようになり、2000 年には第 2 工場も設立
された。TCA は、現在、エンジンベアリング、シュー、ブシュ、バキュームポンプ等の各




                         4
種自動車部品(軸受製品)の製造・販売を事業内容としている。TCA の決算期は、毎年 12 月
末である3。
    なお、TCA では、2015 年頃から、RA コーティングという特殊な樹脂コーティングの加工
を施した製品の製造・販売を開始した。
    TCA の社長は、遅くとも 2012 年 5 月以降、大豊工業からの出向者が務めている。また、
TCA の経理マネージャーについても、遅くとも 2011 年 1 月以降、大豊工業からの出向者が
務めている。
    また、TCA では、2017 年度に続き 2018 年度も営業利益が赤字になることが見込まれた
ことを受けて、2018 年 2 月頃から、生産の安定化、生産性の向上等を目的として、TCA 元
気プロジェクトを開始した。


第 3 大豊工業による TCA の管理体制について


    大豊工業においては、海外事業室の企画グループが子会社の運営・管理のサポートを担
当しており、また、関連事業室が、連結決算を行うために必要な範囲で、海外子会社の収
支の管理を行っている。TCA についても、大豊工業の海外事業室が、運営・管理のサポー
トを担当しており、関連事業室が、収支の管理を行っている。
    また、大豊工業の CSR 推進室は、年に 1 回、TCA に対して内部監査(J-SOX 監査)を実施
しているが、TCA は、上記第 1 で掲げた 2 番目の階層に属していたため、大豊工業の CSR
推進室は、TCA に対して、内部監査(J-SOX 監査)として、全般統制及び財務報告の統制に
関する監査のみを実施していた。


第3編     本調査の結果判明した事実


第 1 本調査の結果判明した不適切な会計処理の概要


    TCA では、財務会計上の材料費の払出記録が取られておらず、損益計算書上の材料費原
価は、購入した材料費に材料の期首と期末の在庫差額を加減して計算している。材料費の
払出記録がないことから、期末在庫は実地棚卸によってのみ把握されることになるため、
TCA における実地棚卸は、財務会計上の適正な材料費を把握するための要の手続となって
いる。しかし、当委員会の調査の結果、TCA において、決算期末の実地棚卸の結果に基づ
く棚卸資産額と財務情報上の棚卸資産額に大きな乖離が生じていることが判明した。
    すなわち、TCA の経理マネージャーであり、TCA の経理処理全般を担当している A 氏

3
     大豊工業の連結財務諸表の作成に当たっては、TCA との決算日の差異が 3 ヶ月を超えていないた
     め、同決算日現在の TCA の財務諸表を使用し、連結決算日との間に生じた重要な取引については、
     連結上必要な調整を行っている。




                            5
は、TCA の決算数値を取りまとめる際に、損益の実績値と収支計画に基づく計画値との間
に生じた差異のうち、合理的な理由を見い出せなかった部分につき、TCA の棚卸の結果が
正しくないと決めつけ、棚卸の結果を調整して財務情報上の棚卸資産額とすること(以下
「本件調整行為」という。)によって、合理的な理由の見つからない差異を解消していた。
その結果、実地棚卸の結果に基づく棚卸資産額と財務情報上の棚卸資産額との間に大きな
乖離が生じた。
    A 氏は、本件調整行為の目的について、専ら計画値と実績値の説明ができない差異を回
避することにあり、利益ねん出並びに TCA の固定資産の減損、大豊工業における TCA 株式
の評価損及び TCA への貸付金の貸倒引当金の計上の回避など、他の目的はなかったと述べ
たため、本調査において、メール分析等の手続を実施したが、A 氏がこれらの他の目的を
有していたことを示す資料は検出されていない。また、A 氏は、下記第 2 の 2(1)記載のと
おり TCA の収支計画を策定していたが、TCA は、本件調整行為を施した後の数値でも収支
計画どおりの売上や利益率を実現できていないことから、A 氏が本件調整行為を行った目
的が収支計画を実現することにあったとは認められない。さらに、下記第 2 の 2(3)記載の
とおり、TCA において不良率を算定しているのは生産管理部門であることから、A 氏が本
件調整行為を行った目的が、TCA の不良率をよく見せるためであったとは認められない。


第 2 TCA における棚卸及び収支管理の実務並びに大豊工業に対する報告の状況


1    TCA における棚卸の実務


(1) 月次棚卸について


    TCA は、決算期末である 12 月末以外の月においては、月次棚卸を実施し、在庫数量を確
認している。月次棚卸では、生産管理部門に所属する棚卸担当の現地スタッフが、月末前
数日をかけて製品、仕掛品及び素材のほぼ全品目の在庫数量をカウントし、月末在庫数量
として確定させている。なお、在庫数量のカウント時には工場の生産を止めていない。
    生産管理部門の棚卸担当者は、カウントされた在庫数量を、TCA サーバーの共有フォル
ダ内の「Inventory Book」と呼ばれる Excel ファイルに入力している。入力済みの Excel
ファイルは、各月末の日付に対応する「MMDDYYYY INV_BooK.xls」の名称を付して共有フォ
ルダ内で保存される。Excel ファイルには、棚卸によりカウントされた品目別在庫数の他
に、FOB 取引条件で輸入される船上在庫の数量4や、客先納入基準による売上取引にかかる

4
     FOB(Free on Board)取引とは、本船渡しとも呼ばれる取引であり、買い手(輸入者)の指定する船舶
     に貨物を積み込むことによって契約が完了し、運賃及び保険料を買い手が負担する取引条件のもの
     である。そのため、FOB 取引の場合には、船舶に積み込まれた時点で、その目的物の所有権は買い
     手に移転することから、買い手の在庫数量に含まれることになる。TCA においては、FOB 取引条件で
     輸入される船上在庫については、生産管理部門が Inventory Book に入力していた。




                              6
在庫5の数量が、在庫の修正項目として入力されている。これらの理由による在庫数量の修
正は、いずれも正当なものである。
    その後、経理マネージャーは、Inventory Book に入力された数値に一見して明らかな入
力ミスがないか確認をした上で、月末在庫数量を確定し、月末在庫数量に単価6を乗じるこ
とで各月末の在庫金額を算定している。そして、経理マネージャーは、前々月末時点の在
庫金額と前月末の在庫金額との増減額の伝票を作成し、経理部門の現地スタッフがその伝
票に基づいて、前々月末時点の在庫金額と前月末の在庫金額との増減額を TCA の会計シス
テムに入力する。
    なお、月次棚卸については、生産管理部門の棚卸担当者が集計した在庫数量の数値及び
財務情報上の在庫数量につき、経理マネージャーによる確認が行われるものの、2019 年 7
月までは、生産管理マネージャーら、他の役職員による確認が行われることはなかった。


(2) 期末棚卸について


    TCA は、所謂タグ方式(各製造ラインの生産業務を停止し、連番管理されたタグにカウン
ト数等を記入したものを在庫に添付し、その後、回収するという方法)により、決算期末
の棚卸を行っている。決算期末の棚卸では、主に各部署のチームリーダーや製造部門のメ
ンバーを構成員として、TCA の職員 50 名程度が、在庫数量をカウントする者と、カウント
数の正確性を確認する者に分かれてチームを編成する。カウントを担当する者は、タグに
品番、品名、Job ナンバー、ロケーションナンバー、数量を記入し、在庫に付ける。カウ
ント数の正確性を確認する者は、タグに記載されたカウント数の正確性を確認した後にタ
グを回収し、経理部門に提出する。経理部門の担当者は、回収されたタグに記載された数
量を Input Sheet と呼ばれる Excel ファイルに入力する。
    経 理 マ ネ ー ジ ャ ー は 、 Input Sheet に 入 力 さ れ た 数 量 を 確 認 し 、 12 月 末 日 付 の
「INV_BooK.xls」に転記した上で、上記(1)記載の月次棚卸と同様に、FOB 在庫や客先納入基
準による売上部分にかかる在庫調整項目等の入力を行った上、決算期末在庫数量を確定
し、これに単価を乗じることで決算期末の在庫金額を算定している。




5
     TCA においては、一部の顧客に対して、出荷時点ではなく、客先に納入した時点で売上計上をして
     いたことから、客先納入基準による取引の目的物については、出荷後納入前のものは、TCA の在庫
     数量に含まれることになる。かかる取引の目的物については、経理マネージャーが Inventory Book
     に入力していた。
6
     単価は、材料費については購入単価、加工費については前年の 8 月~11 月までの実績加工費を基に
     した予定単価の合計を用いる。




                                     7
2    TCA における収支計画


(1) 収支計画の策定


    大豊工業の海外子会社は、海外事業室の指示の下、毎年度の収支計画、すなわち年度計
画を作成している。年度計画は、前年の末に翌年の計画値が策定される。また、毎年 5 月
頃、その年の年度計画について、その年のそれまでの実績を踏まえ計画値を修正する。こ
の修正された年度計画は、「修正計画」と呼ばれている。
    年度計画の策定に当たっては、各子会社の販売計画を基に、材料費や経費等の計算を
行った上で、売上、費用、利益等について目標値が設定される。また、目標値の設定の際
は、不良率についても目標値が設定され、材料費や経費等の目標値は、不良率の目標値を
踏まえて計算されている。
    TCA においては、経理マネージャーが年度計画及び修正計画の策定を担当している。TCA
の経理マネージャーは、営業マネージャーが算定した売上の計画値、人事部門が算定した
労務費の計画値、経理マネージャーが算定した減価償却費、及び経理マネージャーが売上
の計画値を基に生産工程における不良率等を勘案して算定した材料費の計画値等を用い
て、収支計画を策定している。なお、計画値を算定する際に用いられる不良率は、前年度
の不良率の実績値に基づいて、TCA にて、当年度の目標値として定めた数値になってい
る。
    経理マネージャーが策定した収支計画案は、TCA の社長及び副社長の確認を経て、大豊
工業の海外事業室に提出される。海外事業室からは、収支計画案について様々な質問や意
見が出されるが、TCA は、それらの質問や意見を検討し、必要に応じて収支計画案を修正
していた。当委員会の調査によっても、TCA の収支計画の策定に当たり、TCA の意向を無
視して、海外事業室の意見が収支計画に盛り込まれていたというような事情は認められな
かった。


(2) 変動計画


    TCA の経理マネージャーは、毎月の売上の実績値が判明した後、年度計画又は修正計画
で定めた各項目の構成比を基に、毎月の売上の実績値に照らして各費目がどの程度の金額
になるかを算出する。このように、毎月の売上の実績値を基に、年度計画又は修正計画で
定めた各項目の構成比から算出された各費目の金額は「変動計画」と呼ばれている。




                        8
(3) TCA における不良率の取扱い


    TCA において、不良率の実績値は以下のとおり算定されている。
    TCA の生産現場では、現場の作業者が、毎日、PC シート7と呼んでいるシートを作成して
いる。PC シートは生産工程ごとに作成されており、1 時間ごとに、投入数量、生産数量及
び不良品数が記載される。投入数量は、工程内に設置されたカウンターに表示された数値
が記載される。不良品数は、作業員が、赤箱と呼んでいる不良品を入れる箱の中に入って
いる製品の数を数えて、その数を記入している。生産された製品のうち、作業員が良品か
不良品かを判別できないものは、保留品となり、ホールドタグと呼ばれるタグを付けられ
て、ラインの外に置かれる。ホールドタグが付けられた製品については、品質保証部門の
担当者がチェックし、良品と扱うことができるものは、必要に応じて処置を施した上で、
ラインに戻される。他方、品質保証部門の担当者によって不良と判断された場合には、ラ
インに戻されることも、赤箱に入れられることもなく、不良品と扱われ、廃棄処分とな
る。保留品扱いを経て不良と判断された製品については、赤箱には入れられないため、PC
シートの記入対象にはならない。現場の作業者が作成した PC シートは生産管理部門の担
当者の下に集められ、生産管理部門の担当者によって、そのデータが「Daily Report」と呼
ばれる Excel シートに入力されていた。
    TCA では、Daily Report のデータに基づき、不良品数を投入数量で割ることによって、
不良率を算出していた。しかし、保留品を経て不良と判断された不良品の数は、PC シート
にも Daily Report にも含まれないことから、不良率の算定式において分子となる不良品
数に含まれていなかった。
    また、当委員会が、不良品等がスクラップとして業者に引き渡された重量データから不
良品等の概算材料費を算出したところ、TCA の生産管理部門が集計している不良率から算
出された材料費と大きく異なっていた。


3    TCA における収支の集計


(1) 月次収支の取りまとめ


    TCA においては、経理マネージャーが、月次収支を取りまとめている。
    上記 1(1)記載のとおり、経理マネージャーは、毎月初めに、生産管理部門で作成された
Inventory Book を用いて、品番ごとに、前月末時点の在庫の評価額を算出する。そして、
経理マネージャーは、前々月末時点の在庫評価額と比べた増減額を会計システムに入力
し、前月の材料費を算出している。


7
     Production Control sheet のこと。大豊工業では生産管理板と呼ばれているものである。




                                9
    次に、TCA の経理マネージャーは、毎月稼働日で 6~7 日目頃に、前月の収支状況につい
て、TCA の社長及び副社長に口頭又はメールで報告している。この報告には、費用の 1 項
目として材料費は含まれているが、在庫に関する情報は含まれていない。
    また、TCA では、毎月 20 日頃に、TCA の社長及びマネージャー以上の職位の者が出席す
るマネジメントミーティングが開催されているところ、経理マネージャーは、マネジメン
トミーティングの際に、売上全般や事業別の収支状況が記載された資料を作成し、その内
容を報告している。この資料にも、在庫に関する情報は含まれていない。
    月次収支の取りまとめに当たり、月次収支の実績値と収支計画に基づく変動計画上の数
値に差異が生じている場合は、TCA の経理マネージャーは、その差異が生じた原因を分析
することも、その職務の 1 つとしていた。


(2) 四半期末及び期末の収支状況の取りまとめ


    TCA では、四半期末及び期末の収支状況についても、経理マネージャーが取りまとめて
いた。
    下記 4(1)イ記載のとおり、TCA は、四半期ごとに、関連事業室に対して「連結パッケー
ジ」を提出している。連結パッケージには、各四半期の貸借対照表、損益計算書、売上状
況、キャッシュフロー計算書、借入金残高増減明細、有形固定資産残高増減明細、無形固
定資産増減明細、固定資産廃売却明細、人員状況、設備投資計画及び設備投資実績からな
る決算資料や、営業利益の増減状況とその要因について記載する資料が含まれている。
TCA では、四半期における計画値と実績値の間に差異が生じた原因の分析も、経理マネー
ジャーが担当している。


(3) 経理マネージャー以外の関与者の有無


    上記(1)及び(2)記載のとおり、TCA では、経理マネージャーが収支計画を策定し、棚卸
の結果等を踏まえて収支状況を取りまとめ、計画値と実績値の差異が生じた要因の分析を
担当していたが、TCA 内では、他の役職員が、これら経理マネージャーの作業を確認・検
証することはなかった。


4    TCA と大豊工業間の財務・生産管理関連の情報の流れ


(1) TCA による大豊工業への収支状況の報告の機会・方法


ア    月次の収支状況の報告について


    TCA の経理マネージャーは、毎月 20 日頃までに、前月の収支状況及び計画値との差異の




                         10
要因分析等を記載した、A3 サイズ 1 枚程度の「日締め資料」と呼ばれる資料を、海外事業室
の TCA 担当者及びその上司に当たる海外事業室のジェネラルマネージャーを宛先として、
メールで提出していた。そのメールの CC には、大豊工業の経理部門の担当者、TCA の社長
及び TCA の営業マネージャーも含まれていた。日締め資料には、月次の計画値と実績値が
記載され、計画値と実績値に差異が生じている場合は、その差異が生じた要因に関する経
理マネージャーによる分析結果も記載されている。海外事業室の担当者及び関連事業室の
担当者は、日締め資料の内容を確認し、記載されている差異要因の分析結果等について、
その内容を明確にし、分かりやすくするという観点から、経理マネージャーに対して質問
や意見を伝えるなどしている。
    また、TCA の経理マネージャーは、毎月 20 日頃に、関連事業室に対して、月次の損益計
算書及びキャッシュフロー計算書を提出していた。なお、TCA は、2015 年前半頃までは、
月次の貸借対照表も関連事業室に提出していたが、子会社の収支管理の観点からは月次の
貸借対照表が重視されていなかったこともあり、それ以降は TCA から大豊工業に対して、
月次の貸借対照表の提出はなされなくなっていた。
    さらに、毎月下旬、大豊工業の社長及び副社長並びに TCA の社長、副社長及び各部署の
マネージャー等を含めた経営幹部が参加する経営テレビ会議が開催されているが8、TCA の
経理マネージャーは、経営テレビ会議に先立ち、毎月、大豊工業の海外事業室及び関連事
業室宛てに、前月の収支実績が記載された経営テレビ会議用の資料を提出している。経営
テレビ会議用の資料には、前月分の売上高、製造費用、粗利益、営業利益、経常利益につ
いて、それぞれ収支計画上の数値、変動計画上の数値、実績値が記載されている。また、
実績値と変動計画上の数値との差異に関しては、経理マネージャーは、日締め資料に係る
海外事業室及び関連事業室とのやりとりを踏まえた、分析結果を記載している。


イ    四半期及び年度末の収支状況の報告について


    TCA の経理マネージャーは、四半期ごとに、関連事業室に対して、上記 3(2)記載の「連
結パッケージ」を提出している。
    関連事業室の担当者は、「連結パッケージ」内の資料の内容に不明確な部分があった場合
は、経理マネージャーに対して電話で内容を確認している。
    連結パッケージには、貸借対照表も含まれていたが、貸借対照表上の数値については、
長期的視点での比較分析は行われずに、前期との比較のみという短期的視点での比較が行
われていたに過ぎなかった。




8
     その他、大豊工業の専務取締役、常務取締役、営業部長、品質保証部長、経営企画部長、海外事業
     室の担当理事及びジェネラルマネージャーが参加していた。




                         11
(2) 生産管理部門間での連絡内容・連絡状況


    TCA の生産管理部門は、大豊工業の生産管理部に対して、週次でオーダーシートと呼ば
れる Excel を発行している。オーダーシートには、週次の出荷数値などが記載され、その
中に、在庫数量も記載されているが、当委員会がその在庫数量の数値を確認したところ、
A 氏による調整前の数量に近い数値であった。
    また、TCA と大豊工業の間では、月次で生産会議が行われており、大豊工業からは生産
管理部門のグループマネージャーら及び細谷工場の品質・技術員室長らが参加しており、
TCA からは社長並びに製造、生産管理、研究開発、生産技術の各部門のマネージャー又は
コーディネーターが参加している。その際の定例的議題として在庫推移も挙げられてお
り、大豊工業の生産管理部には、TCA の生産管理部門の棚卸の際に集計された在庫数量が
提供されている。
    このように、大豊工業の生産管理部門は TCA における在庫数量を確認していたが、これ
は、大豊工業の生産管理部門として、TCA が製造に用いる大豊工業製の原材料が不足しな
いようにするためであった。このように、大豊工業の生産管理部門は、原材料の不足を防
ぐという目的から TCA の在庫状況を確認しており、TCA の収支状況に関する資料を確認す
ることはなかった。


第 3 A 氏が在庫数量の調整行為を申告した経緯


1    A 氏の申告の経緯


    A 氏の任期満了に伴い 2019 年 7 月から A 氏の後任の TCA の経理マネージャーに就任した
B 氏は、赴任が内定した後の 2019 年 3 月末から同年 4 月中旬にかけて TCA に出張し、A 氏
から業務の引継ぎを受けた。その際、A 氏が、B 氏に対して、TCA の実地棚卸の結果に基づ
く棚卸資産額と財務情報上の棚卸資産額に大きな齟齬が生じていること(以下、当該齟齬
について、単に、「棚卸資産額の齟齬」という。)、その齟齬は A 氏が在庫数量の調整を続
けていた結果生じたものである旨を告げた。
    A 氏から申告を受けた B 氏は、TCA への出張から帰国後、出張中に A 氏から受領した A
氏による本件調整行為が施される前後の 2019 年 3 月分の Inventory Book を確認したとこ
ろ、財務報告上の棚卸資産の金額と実際の棚卸金額に 450 万~500 万ドル程度の差異が生
じていることを把握した。B 氏は、その後、A 氏とメール及び電話で連絡を取り合い、A 氏
の前任の TCA 経理マネージャーであった C 氏に相談した後、A 氏に対して、TCA 社長の D
氏に報告するよう促した。
    A 氏は、B 氏とのやり取りを経て、2019 年 5 月 16 日、TCA 社長の D 氏に対して、あらか
じめ各年度末の実地棚卸の結果から算出される棚卸資産額及び財務情報上の棚卸資産額並
びにその差額を A 氏が集計した結果が記載された表(以下「A 氏による差額分析メモ」とい




                             12
う。)の入ったメモを提示しながら、TCA の実地棚卸の結果に基づく棚卸資産額と財務情報
上の棚卸資産額に大きな齟齬が生じていること及び本件調整行為を行っていたことを報告
した。
 D 氏は、TCA 社長として財務報告に対して責任を負う立場であったが、それまで本件調
整行為を把握していなかった。A 氏の報告を受けた D 氏は、棚卸については年度末に米国
監査人による監査を受けているにもかかわらず、A 氏の報告するような事象が発生し得る
ことをにわかには信用することができず、A 氏が説明するように実際に実地棚卸の結果に
基づく棚卸資産額と財務情報上の棚卸資産額の間に差異が生じているのか、仮に差異が生
じているとすればどの程度のものであるのかを確認する必要があると判断し、A 氏に対
し、棚卸を実施してどの程度の差異が生じているのかを慎重に確認するように指示した。
その後、A 氏は、2019 年 5 月末の月次の棚卸も含め、TCA で棚卸の実務を担当していた生
産管理部門の担当者の棚卸に付き添って確認したが、当該担当者の棚卸の実施方法に特段
の問題は見られなかった。また、A 氏は、2019 年 5 月末の棚卸の結果を基に、棚卸資産額
などを検証したが、A 氏による差額分析メモと同様の結果が得られた。そのため、A 氏
は、2019 年 6 月半ば頃、その旨の報告を D 氏に対して行い、その報告を受けた D 氏は、
2019 年 6 月 21 日頃、本件調整行為について、TCA の前社長で海外事業室担当執行役員で
ある E 氏に報告することを決めた。
 そこで、A 氏は、2019 年 6 月 24 日、A 氏による差額分析メモを盛り込んだ報告資料を作
成し、D 氏の確認を経て E 氏に同資料をメールで送信した上で、同日、テレビ会議によっ
て、E 氏に対して、本件調整行為について説明した。
 E 氏は、TCA 前社長として財務報告に対して責任を負う立場であったが、月次収支の報
告において在庫に関する説明を受けておらず、それまで本件調整行為を全く認識していな
かった。加えて、TCA では 2017 年に一気に 17 品番が立ち上がり、そのためのライン増設
等の準備を 2016 年から行っていたことから、TCA の在庫が増加することは不自然ではない
状況であり、もし、当時 TCA の在庫が増加していることを認識したとしても、問題意識を
持つことはなかったと述べている。本件調整行為について説明を受けた E 氏は、米国監査
人の監査を受けている TCA の期末の棚卸結果について、その結果とは異なる数字を決算に
用いることができた理由を理解することができず、2019 年 6 月 25 日には、A 氏に対し
て、米国監査人への対応も含め、期末棚卸資産に対する処理プロセスを整理するよう、
メールで指示を出した。また、E 氏は、D 氏から報告を受けた当日又は数日後、経理部担
当の執行役員である F 氏に対し、D 氏から受けた報告の内容を伝えるとともに、A 氏から
送られてきた A 氏による差額分析メモを盛り込んだ説明資料を手渡した。
 このように、A 氏が 2019 年 6 月 24 日に E 氏に本件調整行為を説明するより以前に、B
氏、C 氏及び D 氏が、A 氏から申告を受けるなどして本件調整行為の事実を認識するに
至ったが、3 名とも、速やかに、大豊工業に報告したり、上長への報告や内部通報制度を
通じた報告を行うことをしなかった。




                        13
2    A 氏の本件調整行為の動機に関する供述


    A 氏は、当委員会の実施したヒアリングにおいて、本件調整行為を行うに至った動機に
ついて、「経理マネージャーとして、TCA の収支状況について、変動計画と実績値に差異が
生じた場合、その原因を分析する必要があったところ、どうしても差異が生じた原因が説
明できない部分があった。また、前任の C 氏から、『TCA の月次の棚卸結果の数字にはミ
スが多いので、注意して見るように。』との引継ぎを受けていたため、TCA の生産管理部
門による棚卸結果から算出される在庫数量の数値について、信頼性に欠ける場合があると
考えていた。そのため、変動計画と実績値に差異が生じた場合には、生産管理部門による
棚卸結果から算出される在庫数量は誤っている可能性が高く、計画値から算出される在庫
数量の方が正しいと考え、在庫数量の数字をなるべく計画値に整合するように調整するこ
とで、計画値と実績値の差異を説明が可能な程度に収めていた。」旨述べた。なお、A 氏
は、TCA に着任した当初、ほとんど英語を話すことができず、現地のスタッフとコミュニ
ケーションを取ることができなかったため、生産管理部門の棚卸の担当者らに対して、棚
卸結果の正確性に関して集計方法を確認したり、再計算の指示などを行うことができな
かった旨述べている。
    さらに、A 氏は、当委員会の実施したヒアリングにおいて、「当初は、カウントした在庫
数量と計画上の在庫数量の誤差が小さかったものの、調整行為を重ねたことで誤差が大き
くなってしまい、正直に申告できない状況に陥ってしまった」と述べている。
    また、A 氏は、本件調整行為の目的は、専ら計画値と実績値の説明ができない差異を回
避することにあり、利益ねん出や固定資産の減損回避、大豊工業における TCA 株式の評価
損や TCA への貸付金の貸倒引当金回避などの他の目的はなかったと述べている。本調査に
おいて、メール分析等の手続を実施したが、A 氏がこれらの他の目的を有していたことを
示す資料は検出されていない9。
    特に、本件調整行為の動機に TCA の減損損失の発生を避けるという点が含まれていない
かについては、慎重に調査を実施したが、電子メールや関係資料の精査及び他の関係者に
対するヒアリング調査の結果を踏まえても、A 氏に対して、減損損失の発生回避に向けた
プレッシャーがかかっていたといった事実は認められなかった。さらに、TCA において減
損に関する議論が行われるようになったのは、2017 年 12 月期の決算で赤字となったこと
を受けた 2018 年以降のことであるのに対し、A 氏が本件調整行為を始めたのは 2015 年の
ことである。これらの事情等に照らし、当委員会は、TCA の減損損失を避けるという点

9
     なお、D 氏及び E 氏は、大豊工業から TCA に対して、業績に関する過度なプレッシャーはなかった
     旨述べており、実際に、2017 年度に TCA の業績が赤字に転落した後の 2018 年度について、大豊工
     業より、TCA の実力をつけるため(人員・設備の増強のため)に必要であるとして赤字の計画が承認
     されている。このように大豊工業から、D 氏及び E 氏らに対して、業績に関する過度なプレッ
     シャーがかけられた事実は認められず、同氏らから同様のプレッシャーが A 氏にかけられた事実も
     認められない。




                             14
は、本件調整行為の動機には含まれていないと判断した。


第 4 実地棚卸資産額の齟齬が生じた経緯等


1    2013 年 12 月期について


    A 氏による差額分析メモでは、A 氏の TCA 着任前の 2013 年 12 月期についても、「①実地
棚卸結果を元にした棚卸資産額と②財務情報上の棚卸資産額(実地棚卸結果+調整額)との
間には製品と仕掛品で合計 15 万 6000 ドルの齟齬が存在することになっている。
    これは、A 氏が、本件調整行為に関する報告資料を作成するに当たり、TCA のサーバー
上に残っていたデータを探したところ、2013 年 12 月末の実地棚卸の結果について 2 つの
資料が残っており、その内容に差があったことから、2013 年 12 月期においても何らかの
調整が行われていたのであろうと考えたため、そのように記載したものである。もっと
も、A 氏は、この点について、当時の経理マネージャーであった C 氏に確認することはし
ていなかった。
    当委員会において、C 氏に対してヒアリングを実施したところ、C 氏は、自身が TCA に
経理マネージャーとして在籍していた当時、本件調整行為のような調整を行ったことは一
度もない旨述べた。また、C 氏は、実地棚卸の結果として、TCA の生産管理部門から上
がってきた数字について、その一部を修正したことはあったが、それは、生産管理部門か
ら上がってきた実地棚卸の結果に、一見して明らかな入力ミスが見つかったことから、棚
卸を担当した者に確認した上で、それを正しい数字に修正したものである旨述べた。実
際、2013 年 12 月期の実地棚卸の結果を表す資料として、①2013 年 12 月 31 日の棚卸直後
に作成されたオリジナルデータと、②同日中に修正された修正後のデータ及び③年明けの
2014 年 1 月 22 日に更に修正されたデータの 3 つの資料が見つかっているところ、③の
データ上の棚卸資産額と①のデータ上の棚卸資産額の差額は 15 万 5938 ドルであった。C
氏は、棚卸当日に、①のデータについてロケーションナンバーに入力ミスが見つかったこ
と及び別途保管されていた在庫を発見したことから、そのミスを修正するために同日に②
のデータを作成し、また、年明けの期末監査時に米国監査人から指摘を受けた誤りを修正
するために③のデータを作成した旨述べている。実際に、当委員会が、①、②及び③の
データを確認したところ、①のデータから②のデータへの修正は、上記のとおりロケー
ションナンバーの修正や棚卸実施後に発見された別保管の在庫数量についての追加に留ま
り、また、③のデータの修正については、品番の記入ミスによる集計の間違いを修正した
ものに過ぎず、いずれもミスを修正したものであると認められた。その他、当委員会のヒ
アリング及びフォレンジック調査において、C 氏の供述の信用性を否定する資料は検出さ
れていない。
    したがって、A 氏による差額分析メモでは、2013 年 12 月期末について、15 万 6000 ドル
分の棚卸資産額の齟齬と記載されているが、実際にはそのような棚卸資産額の齟齬は生じ




                            15
ておらず、2013 年 12 月期については、TCA において、在庫数量の調整行為は行われてい
なかったと認められる。


2    2014 年 12 月期以降について


    A 氏による差額分析メモには、A 氏の TCA 着任後の 2014 年 12 月期以降、2019 年 5 月に
至るまで、棚卸資産額の齟齬が発生している旨が記載されている。
    この点、A 氏は、2014 年 12 月期の棚卸資産額の齟齬について、これは、実地棚卸の結
果について記入ミスがあったことから、それを正しい値に修正したため生じたものである
と述べており、本件調整行為を行ったのは 2015 年に入ってからであると述べている。当
委員会にて、A 氏が修正を加えた前後の「Inventory Book」を確認したところ、ロット
24000 個の製品について、誤って数量を 2400 個と入力していたため、正しい数量である
24000 個に修正していることが認められたが、それ以外に修正された箇所は不見当であっ
た。したがって、A 氏は、2014 年 12 月期においては本件調整行為を行っておらず、A 氏が
本件調整行為を行うようになったのは 2015 年以後であると認められる。
    また、TCA で保存されていた在庫数量の調整前後の「Inventory Book」の数字を比較した
ところ、2015 年 1 月以降は、A 氏による差額分析メモに記載されたとおりの棚卸資産額の
齟齬が発生していたことが確認された。なお、TCA では、2015 年頃から、RA コーティング
という特殊な樹脂コーティングの加工を施した製品の製造・販売を開始し、新たな製造ラ
インが稼働し始めたことなどにより、生産現場に混乱が生じ、それによる不良品も多く発
生していた。
    したがって、A 氏による差額分析メモ記載の 2015 年 12 月期以降の棚卸資産額の齟齬
は、A 氏の調整行為によって発生したものであると認められる。


3    A 氏による本件調整行為の具体的な内容


(1) 調整額の決定方法


    A 氏は、各月次の収支において調整額を決めるに当たり、月次の収支実績値と変動計画
値を比較していた。すなわち、まず、A 氏は、売上の実績値を基に、収支計画上の利益率
から算出される、変動計画上の「あるべき利益」を算出していた。そして、A 氏は、売上の
実績値を基に、実際の在庫増減及び消耗品費から算出される材料費を踏まえて算出される
利益の実績値を把握していた。
    A 氏は、利益の実績値と「あるべき利益」の金額を比較し、大きな差異があれば、経理マ
ネージャーとして、その差異の要因を検討していた。A 氏は、月次の費用の内訳(消耗品
費、労務費、修繕費等)を分析し、それらの費用の対計画比での増減が、利益の実績値と
「あるべき利益」との齟齬の発生にどの程度影響を与えているかを分析していた。




                              16
 分析の結果、各費用の増減の影響で利益の実績値と「あるべき利益」の間で齟齬が生じた
ことが説明できれば、A 氏は、調整行為は行わなかったが、各費用の増減のみからでは、
利益の実績値と「あるべき利益」の間で齟齬が生じたことを説明できないことが多かった。
そのような場合、A 氏は、上記第 3 の 2 記載のとおり、「生産管理部門による精度が低い実
地棚卸の在庫数量を使うより、自分が生産実績と材料費に関わる変動要因を織り込んで計
算したあるべき在庫数量を使用したほうが正しい」と考え、在庫増減の数値を調整し、材
料費の数字を動かすことで、説明がつかない部分の齟齬を消し込んでいた。
 このように、A 氏は、利益の実績値と「あるべき利益」の間の差額のうち、各種費用の増
減等の要因からは説明がつかない部分の金額(以下「調整対象金額」という。)を消し込むた
めに、本件調整行為を行っていた。
 なお、当委員会において、TCA で実施された実地棚卸で集計された在庫金額に、当年度
の実績売上に計画上の材料費率を乗じて計算した材料売上原価を加算し、当年度の実際の
材料仕入高を減算して算出した数字に、当年度の計画以上に発生した不良品のスクラップ
材料原価を加味して、理論上の 2018 年 12 月 31 日付調整前在庫を算出したところ、A 氏が
本件調整行為を行う前の 2018 年 12 月 31 日時点の在庫金額(2018 年度末の実地棚卸の結果
を基に算出した在庫金額)と近似値が得られた。また同様の手続により、理論上の 2017 年
12 月 31 日時点、2016 年 12 月 31 日時点、2015 年 12 月 31 日時点の調整前在庫を算出した
ところ、各年度の本件調整行為を行う前の在庫金額との間に大きな乖離は確認されなかっ
た。
 また、スクラップ業者が引き取ったスクラップ重量に Kg あたりの材料単価を掛けて廃
棄された材料金額の概算値を算出した。これに Kg あたり加工費を加算し、加工費を含め
た廃棄損金額を算出した。なお、加工費については、不良が発生する工程の進捗率を考慮
している。このように算出された廃棄損金額の各年度の理論値から計画に含まれている廃
棄損金額を控除し、計画で見込まれていなかった廃棄損金額(不良品金額)を算出したとこ
ろ、本件調整行為による調整金額との間に大きな乖離は確認されなかった。
 このことから、当委員会は、本件調整行為の原因となった、収支実績と計画の比較分析
における説明のつかない齟齬は、不良品が当初の計画以上に発生してしまった結果、仮に
計画どおりに不良品が発生していたとしたら存在していたであろう在庫と実際の実地棚卸
の結果に基づく在庫の差異であると判断した。


(2) 月次の在庫数量及び棚卸資産額の調整方法


 上記第 2 の 1(1)記載のとおり、TCA では、毎月の棚卸において、生産管理部門の現地ス
タッフが、在庫の数量を実際にカウントした結果を、毎月の在庫数量及び在庫金額を確定
させるための Excel シートである「Inventory Book」に入力し、TCA サーバー内の共有フォ
ルダにアップロードしていた。
 A 氏は、共有フォルダにアップロードされた「Inventory Book」を確認し、TCA サーバー




                             17
の経理専用のフォルダにコピーした上で、その内容を確認し、上記(1)記載のとおり算出
した、消し込むべき調整対象金額に合わせて、自身で直接、在庫数量の数字を調整・補充
していた。
 A 氏は、「Inventory Book」について、本件調整を施す前のバージョンも削除していな
かったため、TCA には「Inventory Book」については本件調整前のもの及び本件調整後のも
のが存在している。


(3) 大豊工業への報告内容


 A 氏は、TCA の経理マネージャーとして、上記第 2 の 4(1)記載のとおり、大豊工業の海
外事業室及び関連事業室に対して、日締め資料、経営テレビ会議用の資料及び連結パッ
ケージを送付していたが、いずれの資料も、A 氏が在庫数量の調整を行った後の
「Inventory Book」又は Input Sheet を用いて作成したものであった。
 そのため、A 氏は、2015 年以降、大豊工業の海外事業室及び関連事業室に対して、本件
調整行為を行った後の在庫数量を基にした報告しか行っておらず、調整前の在庫数量を基
にした報告は行っていなかった。
 もっとも、上記第 2 の 4(2)記載のとおり、大豊工業と TCA の生産管理部門間では、オー
ダーシートや月次の生産会議の資料において、TCA における在庫数量が報告されていた
が、TCA の生産管理部門が報告していた在庫数量は、A 氏による本件調整行為が施されて
いない数量であった。


(4) 期末の在庫数量及び棚卸資産額の調整方法


 上記第 2 の 1(2)記載のとおり、TCA では、期末の実地棚卸はタグ方式で行われ、生産管
理部門のスタッフが、品番ごとに在庫数量が記載されたタグの数字を集計し経理部門のス
タッフに伝え、経理部門のスタッフは生産管理部門のスタッフから報告された品番ごとの
在庫数量を Input Sheet に入力した後、Inventory Book にも入力していた。
 A 氏は、経理マネージャーとして、タグの数字並びに Input Sheet 及び Inventory Book
上の在庫数量を確認していたが、A 氏は、月次の在庫数量について、数字を調整して報告
していたため、期末の在庫数量についても調整を加えないと、月次ベースで集計していた
在庫数量と四半期末及び期末に集計した在庫数量に大きな齟齬が生じることになってい
た。そこで、A 氏は、期末の在庫数量にも調整を加えていた。その方法は、タグを保管場
所から回収してタグの数字を直接書き換えた上で、Input Sheet 上及び Inventory Book 上
の数字もタグの数字に合わせて修正するというものであった。例えば、タグに「21,000」と
記載されていた場合、その先頭に、「3」という数字を書き足し、タグ上の数字を「321,000」
という数量に変えた上で、Input Sheet 及び Inventory Book 上の数字も「21,000」から
「321,000」に修正していた。




                             18
    A 氏は、期末の在庫数量について、その年の 11 月末の調整額に合わせて、調整を行って
いた。


(5) 任意監査への対応


    TCA は、大豊工業の会計監査人のグローバルネットワークのメンバーファームの米国法
人(以下「米国監査人」という。)との間で会計監査の契約をしており、決算期末に当該米国
監査人による任意監査を受けていた。この契約はあくまで任意であり、金融機関からの要
請により締結したものである。
    A 氏は、決算期末の実地棚卸が行われた後に、棚卸の結果を記載した Input Sheet を米
国監査人の担当者に渡していた。この Input Sheet は、A 氏による調整が行われる前のも
のであった。通常、Input Sheet を確定するには実地棚卸の後に 2、3 日を要するが、A 氏
としては、棚卸直後の生データを提供する目的で、確定前の Input Sheet を仮の状態で担
当者に渡していた。
    その後、本件調整行為を行った A 氏は、棚卸から数週間後の年明けに米国監査人による
期末監査を受けるに当たり、自身による本件調整行為が監査により発覚することを防ぐた
め、米国監査人に対し、在庫数量の調整を行った Input Sheet、Inventory Book 及び調整
後のタグを渡していた。


(6) 本件調整行為の終期


    上記第 3 の 1 記載のとおり、A 氏は、2019 年 5 月 16 日に D 氏に対して本件調整行為を
申告しており、A 氏は、それ以降本件調整行為を行っていない。
    したがって、本件調整行為は 2019 年 5 月以降、実施されていないものと認められる。


4    本件調整行為への関与者及び認識していた者の範囲


(1) TCA において、本件調整行為について関与又は認識していた役職員の有無


    当委員会は、A 氏が TCA の経理マネージャーを務めていた時期に TCA 社長を務めていた
D 氏及び E 氏に対してヒアリングを実施したが、D 氏及び E 氏は、A 氏による本件調整行為
について、全く認識していなかった旨述べた。A 氏も、本件調整行為を行っていること
は、D 氏及び E 氏を含め、TCA の他の役職員には秘密にしていた旨述べている。
    当委員会は、A 氏が TCA の経理マネージャーを務めていた時期に、TCA に駐在していた
役職員について、フォレンジック調査を実施したが、これらの役職員が A 氏の本件調整行
為を認識していたことを示す資料等は不見当であった。
    また、上記 3(3)記載のとおり、TCA の生産管理部門から大豊工業の生産管理部門に対し




                             19
て、TCA における在庫数量が提供されていたところ、TCA の生産管理部門が報告していた
在庫数量には、A 氏が本件調整行為を行う前の数量が記載されていた。仮に、TCA の生産
管理部門が A 氏による本件調整行為の存在を知っていたとすれば、本件調整前の数量を大
豊工業に報告することは考えにくく、本件調整前の数量を報告していたという事実自体、
TCA の生産管理部門、さらにはその上位の役職員が、本件調整行為の存在を知らなかった
ことの証左であると考えられる。
 したがって、A 氏以外の TCA の役職員は本件調整行為に関与していないと認められる。
また、上記第 3 の 1 記載のとおり、D 氏が 2019 年 5 月 16 日に本件調整行為の事実を初め
て認識するに至ったが、D 氏以外の TCA の役職員で、同年 6 月 24 日以前に本件調整行為の
存在を認識していた者はいないと認められる。


(2) 大豊工業において、本件調整行為について関与又は認識していた役職員の有無


 当委員会は、A 氏が TCA の経理マネージャーを務めていた時期に、大豊工業の海外事業
室及び関連事業室において、TCA を担当していた関係者のヒアリング及びフォレンジック
調査を実施したが、海外事業室及び関連事業室の関係者が、A 氏の本件調整行為を認識し
ていたことを示す資料等は不見当であった。
 この点、上記 3(3)記載のとおり、TCA の生産管理部門から大豊工業の生産管理部門に対
して、TCA における在庫数量が提供されていたところ、TCA の生産管理部門が報告してい
た在庫数量には、A 氏が本件調整行為を行う前の数量が記載されていた。そのため、大豊
工業においては、生産管理部門が A 氏による調整前の在庫数量を把握しており、海外事業
室及び関連事業室が A 氏による調整後の在庫数量を把握している状況であった。
 しかし、大豊工業の生産管理部門は、TCA が製造に用いる大豊工業製の原材料が不足す
るという事態に陥らないようにする目的で TCA の在庫数量を確認していたものであり、大
豊工業の生産管理部門が収支状況に関する資料を確認することはなかった。反対に、海外
事業室及び関連事業室としては、収支状況を把握するために在庫数量(棚卸資産額)につい
て報告を受けていたのであり、生産管理部門が管理している在庫数量の資料を確認するこ
ともなかった。
 以上に鑑みれば、大豊工業に対しては、調整前の在庫数量と調整後の在庫数量の双方が
報告されてはいるが、その両方が対比されることがなかったとしても、不自然とはいえ
ず、大豊工業の役職員が本件調整行為を認識していたとの疑義を生じさせるものではない
と考えられる。
 したがって、大豊工業の役職員は本件調整行為に関与していないと認められる。また、
上記第 3 の 1 記載のとおり、B 氏及び C 氏は、2019 年 4 月頃に本件調整行為の事実を初め
て認識するに至ったが、その他の大豊工業の役職員で、同年 6 月 24 日以前に本件調整行
為の存在を認識していた者はいないと認められる。




                         20
第 5 本件調整行為が財務報告に与えた影響


    本件調整行為による不適切な会計処理が、TCA の財務諸表に与えた影響額は下記表 2 の
とおりである。


    <表 2:本件調整行為による不適切な会計処理が TCA の財務諸表に与えた影響額>
                                                                    (単位:米ドル)
         2015年12月期 2016年12月期 2017年12月期 2018年12月期                       累計


売上原価           ▲ 445,610   ▲ 728,638    ▲ 1,735,412   ▲ 1,935,742    ▲ 4,845,402

税引前利益            445,610     728,638      1,735,412     1,935,742      4,845,402

棚卸資産             445,610    1,174,248     2,909,660     4,845,402      4,845,402



第 6 件外調査


1    TCA 以外の子会社における件外調査


    当委員会では、本件不適切な会計処理が、大豊工業の米国子会社で発生したことに鑑
み、TCA 以外の大豊工業の国内及び海外の連結子会社(合計 13 社)において、本件調整行為
に類似する事象の有無を確認するために以下の手続を行った。


           -     各子会社における実地棚卸手続と実施状況の確認
           -     各子会社における保留品の取扱ルールの確認
           -     アンケート調査


    上記手続においては、TCA 以外の大豊工業の国内及び海外子会社について、特段の発見
事項はなかった。


2    TCA における件外調査


    当委員会では、本件調整行為を行った A 氏が TCA の経理マネージャーとして TCA の会計
処理全般を担う立場にあったことに鑑み、TCA における他の不適切な会計処理の有無を確
認するため、TCA の固定資産及び売掛債権について、当委員会で必要と認める以下の手続
を行った。


          -     TCA 固定資産の償却費と大豊工業連結会計において消去される TCA の固
                定資産未実現利益償却額の割合の検証



                                          21
          -   TCA 固定資産の償却費計算の正確性と会計帳簿書類との照合
          -   TCA 売掛債権、売上高の推移分析
              TCA 売掛債権の滞留状況の確認




    また、TCA が米国において調達した固定資産について本来費用処理すべきものが含まれ
ていなかったか、サンプリングで確認した。
    上記手続においては、TCA について、特段の発見事項はなかった。


第4編     原因背景


第 1 A 氏の適正な経理業務に関する意識の低さ


    TCA においては、経理マネージャーは、収支計画の策定及び予実管理並びに収支計画と
実績値との差異分析も、その職務の 1 つとしており、それらは重要な職務である。しか
し、会社が健全に運営されていくためには、経理処理及び決算手続によって把握された情
報を正確に把握し、それらの情報に基づいて財務情報を作成することが何よりも重要であ
り、それを実現することが、経理担当者の最も基本的な責務である。また、上記第 3 編第
1 記載のとおり、TCA においては、実地棚卸が財務会計上の適正な材料費を把握するため
の要の手続であった。
    それにもかかわらず、A 氏は、経理マネージャーの立場にありながら、収支実績と変動
計画の比較分析の結果、利益の実績値と「あるべき利益」の間に説明のつかない齟齬が生じ
たときに、実地棚卸担当の現地スタッフに確認をすることも、在庫の数え直しをすること
もなく、月次の実地棚卸結果に誤りがあると安易に決めつけ、在庫数量を調整することで
説明不能な齟齬を解消していた。
    A 氏は、経理部門の担当者として、TCA の営業活動に関する利益や費用等の実態を正確
に把握し、その数値を正確に会計処理に反映させるという意識が極めて低かったと指摘せ
ざるを得ない。


第 2 TCA 内での問題点


1    経理業務に関する相互牽制の不足


    上記第 3 編第 2 記載のとおり、TCA では、棚卸結果の確認等を含めた収支状況の取りま
とめなどの経理業務が経理マネージャーに一任されていた。
    また、上記第 3 編第 2 の 3(3)記載のとおり、TCA では、2019 年 7 月まで、実地棚卸の結
果集計された在庫数量について、経理マネージャーのみが確認し、他の役職員による




                             22
チェックを経ておらず、実地棚卸が適正に行われていなかった。
    上記第 1 で指摘した実地棚卸の重要性に照らせば、実地棚卸の結果が正確に会計処理に
反映されることを担保できる体制を構築するべきであった。
    その観点から、TCA では棚卸結果の確認体制を十分に構築できていなかったと指摘せざ
るを得ない。


2    生産管理部門が不良品を網羅的に管理できていなかったこと


    上記第 3 編第 2 の 2(3)記載のとおり、TCA では、不良率を算定する際に、保留品を経て
不良と判断された製品の存在等が考慮されておらず、TCA で不良率の実績値として報告さ
れていたものは、実際の不良率より低い数値となっていた。しかも、不良品等がスクラッ
プとして業者に引き渡された重量データに基づいて当委員会が算出した実際に不良品等に
なっているであろう概算材料費が、TCA 内で実績値として報告されていた不良率に基づい
て算出された材料費を大きく上回っており、その差異は保留品を考慮してもなお説明ので
きないものであった。このことは、TCA で実績値として報告された不良率には、保留品だ
けでなく、実際に発生していた不良品の一部が反映されていなかったことを示唆してい
る。
    このような事実からは、TCA において、不良品を網羅的に把握できていなかったことが
認められる。そして、TCA においては、不良品発生は生産管理部門が取りまとめており、
経理部門は生産管理部門が取りまとめた実績不良率を基に合理化による改善見込みなどを
加味した計画不良率を使用し収支計画を策定していたことを踏まえると、TCA において不
良品を網羅的に把握するのは生産管理部門の役割であったといえる。
    したがって、TCA において、生産管理部門が不良品について網羅的に把握できていな
かったことが、A 氏が計画値と実績値に差異が生じた要因を検討しても、説明がつかない
差異が生じたことの一要因であることは否定できない。


第 3 大豊工業における TCA の管理に関する問題点


    上記第 2 編第 3 記載のとおり、大豊工業では、TCA に対して、海外事業室の企画グルー
プが事業の運営・管理をサポートし、関連事業室が、連結決算を行うために必要な範囲で
収支の管理を行っていたが、両部署とも、TCA の売上、利益などの損益計算書上の指標の
実績が収支計画どおりになっているかといった点の確認を重視していた。また、貸借対照
表上の数値においては、長期的視点での比較分析は行われずに、前期との比較のみなどと
いった短期的視点での比較が行われていたに過ぎなかった。
    また、TCA では、期末在庫評価に使用された実績金額に基づく製品評価単価が、製品売
価を上回っていた製品が複数あり、かつ増加傾向にあった。実績金額に基づく製品評価単
価は、発生した不良金額を含んだものであったため、不良率が高くなっていることが、赤




                          23
字製品増加の理由の 1 つであったが、大豊工業及び TCA においては、TCA で赤字製品が生
じている理由が十分に分析されていなかった。
 さらに、上記第 3 編第 2 の 4(2)記載のとおり、大豊工業の生産管理部門は、TCA の生産
管理部門から、TCA の棚卸の際に集計された在庫数量、すなわち A 氏による調整前の在庫
数量が提供されていたが、生産見通しに照らして原材料の不足を防ぎ安全在庫を維持する
という目的から使用していただけであった。
 以上のとおり、大豊工業は、TCA の売上、利益などの損益計算書上の指標の数値及び原
材料の不足の可能性の有無について重点を置いて管理していたものの、TCA の財務情報上
の棚卸資産額を把握しようという意識は極めて低かったといえる。


第 4 大豊工業グループ内で適切な内部通報が行われなかったこと


 上記第 3 編第 3 の 1 記載のとおり、B 氏、C 氏及び D 氏は、A 氏が 2019 年 6 月 24 日に E
氏に本件調整行為を説明するより以前に、本件調整行為について、その行為が不適切な会
計処理であること及び調整額が約 5 億円に及ぶことを認識したにもかかわらず、3 名と
も、速やかに、大豊工業に報告したり、上長への報告や内部通報窓口への通報を行うこと
をしなかった。B 氏、C 氏及び D 氏は、TCA の社長又は大豊工業の経理担当者という立場で
あった以上、本件調整行為を把握した後、速やかに大豊工業に報告したり、上長への報告
や内部通報窓口への通報を行うべきであったが、それができなかった点で適切な対応を
取っていたと評価することはできない。
 このことから、大豊工業及びその子会社においては、内部通報制度の運用に不備があ
り、また、役職員のリスク情報を取得した際の対応に関する意識が低かったことが認めら
れる。


第5編   再発防止策の提言


第 1 適正な経理業務に関する意識の向上に向けた施策


 上記第 4 編第 1 記載のとおり、A 氏が、経理部門の担当者であったにもかかわらず、TCA
の営業活動に関する利益や費用等の実態を正確に把握し、その数値を正確に会計処理に反
映させるという意識が極めて低かったことが、財務会計上の適正な材料費を把握するため
の要の手続であった実地棚卸の結果を軽視し、在庫数量を調整するという本件調整行為に
繋がったといえる。
 そこで、大豊工業及び連結子会社の経理業務に携わる社員だけでなく、棚卸業務に携わ
る社員も含め、適正な経理業務を行うことの重要性、棚卸の重要性等の周知を図り、意識
を向上させるために、大豊工業及び連結子会社において、経理業務及び棚卸業務に携わる
社員に対し、棚卸の重要性及び棚卸の結果に基づく数値を財務情報上正確に表すことの重




                             24
要性に関する研修を行うべきである。
    また、海外の連結子会社においては、日本人の経理担当者が 1 人しか存在しない場合も
あり、疑問点について相談することが難しい場合もある。そこで、今後は、大豊工業の本
社側から、駐在員に対して、現地で困っている事項の有無や相談したい点がないかを積極
的に確認するようなフォローアップの機会を設けるべきである。


第 2 TCA における再発防止策


1    棚卸結果の確認体制の強化


    上記第 4 第 2 の 1 記載のとおり、TCA では、2019 年 7 月まで、実地棚卸の結果集計され
た在庫数量について、経理マネージャーのみが確認し、他の役職員によるチェックを経て
おらず、実地棚卸が適正に行われていなかった。
    しかし、TCA の経理処理及び在庫管理においては、実地棚卸が占める重要性が極めて大
きいことに鑑みると、棚卸業務及びその結果に基づく棚卸資産額の算定については、十分
な牽制機能を働かせる必要がある。
    そこで、まずは、棚卸結果につき、経理マネージャーだけでなく、他部署のマネー
ジャークラス(例えば生産管理マネージャー)も確認する仕組みを構築するべきである。
    また、本件調整行為の発覚を受け、TCA では、2019 年 8 月から、月次棚卸の結果集計さ
れた在庫数量と財務諸表上の棚卸資産額の元となる在庫数量との間に齟齬がないことにつ
いて、経理マネージャーだけではなく生産管理のマネージャー及び生産管理のアシスタン
トマネージャーも確認するようになったが、これを一時的な対応とするのではなく、今後
も継続して実施するとともに、決算期末の実地棚卸についても同様の措置を講じるべきで
ある。
    さらに、上記第 3 編第 2 の 1(1)記載のとおり、TCA の月次棚卸は、これまで、生産管理
部門の棚卸担当スタッフが、3 日間程度で 1 人で対応していた。当委員会は、月次棚卸の
精度が低かったことが本件調整行為の直接の原因となったとまでは認定していないもの
の、月次棚卸の精度をより高めるため、棚卸の担当者を増やし、ダブルチェックを行うこ
となども検討するべきである。


2    不良率の正確な把握に向けた取組の実施


    上記第 4 編第 2 の 2 記載のとおり、TCA では、生産管理部門が不良品を網羅的に把握で
きておらず、不良率を算定する際に、TCA で実際に発生していた不良品の数量を正確に踏
まえた計算を行うことができていなかった。
    そのため、TCA においては、不良品が発生する過程を検証し、各過程で生じる不良品の
数を正確に捕捉することのできる体制・仕組みを構築するべきである。




                            25
 そして、不良率の算定に当たり盛り込むべき数字はどのような数字であるのか、TCA は
現在その数字を把握できているのか、どの数字を盛り込むことができていないのかを検証
し、その結果を踏まえて、不良率の算定方法を定めるべきである。


第 3 大豊工業における TCA に対する管理の強化


 上記第 4 編第 3 記載のとおり、大豊工業は、TCA の売上、利益などの損益計算書上の指
標の数値及び原材料の不足の可能性の有無について重点を置いて管理していたものの、
TCA の財務情報上の棚卸資産額を把握することについての意識が極めて低かった。
 そのため、大豊工業は、上記第 2 の 1 に記載したような、棚卸結果の確認体制の強化を
目的として TCA が講じる取組が適正に行われているかを、大豊工業の適切な部署が確認・
検証し、必要に応じてサポートをする体制を整えるべきである。
 また、例えば、在庫数量及び棚卸資産額について一定の基準を設定し、その基準を超え
た場合には大豊工業の然るべき部署がその理由を調査の対象とするというように、在庫数
量及び棚卸資産額の異常値に対するチェックの仕組みを構築するべきである。


第 4 内部通報制度の運用の強化


 上記第 4 編第 4 記載のとおり、大豊工業及び連結子会社においては、内部通報制度の運
用に不備があり、また、役職員のリスク情報を取得した際の対応に関する意識が低かった
ことが認められる。
 そこで、大豊工業は、連結子会社を含めて、内部通報制度を改めて周知・徹底するとと
もに、どのような場合に内部通報を行うことが望ましいのかについて、具体的事例を用い
て研修を行い、役職員がリスク情報を取得した際に適切な対応を取れるように意識付けを
図るべきである。その際は、現在の大豊工業グループの社員行動指針において、社員は、
違法行為・不正行為を発見したら、ためらうことなく内部通報を行うことと定めているこ
とを周知するべきである。また、併せて内部通報処理規程の見直しを検討するべきであ
る。
                                          以   上




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