6319 シンニッタン 2020-08-12 16:00:00
分配可能額を超えた前期末の配当金及び前期の自己株式取得に関する外部調査結果ならびに再発防止策について [pdf]

                                                          2020 年 8 月 12 日
各   位
                                      会 社 名 株式会社シンニッタン
                                      代 表 者 代表取締役社長   平山 泰行
                                      (コード番号 6319 東証第1部)
                                      問合せ先 常務取締役財務部長 小林 謙治
                                      電話 044-200-7812



    分配可能額を超えた前期末の配当金及び前期の自己株式取得に関する外部調査結果
                ならびに再発防止策について


  当社は、2020 年 7 月 14 日付「分配可能額を超えた前期末の配当金、並びに前期の自己株式取得につい
て」  で公表しましたとおり、      2020 年 2 月 20 日に実施した自己株式の取得及び 2020 年 6 月 26 日開催の第
89 回定時株主総会において決議し、         実施した剰余金の配当が、    分配可能額を超過していました。        当社は、
これらの発生原因の究明や再発防止策の提言等を行うことを目的として、社外の弁護士による外部調査
を実施しておりましたが、        本日、  調査報告書を受領し、本日開催の取締役会において、         再発防止策の実施
を決議しましたので、下記の通りお知らせいたします。

                                  記

1. 本件の経緯
    当社は、2020 年 6 月 26 日開催の第 89 回定時株主総会において、一株当たり 10 円の配当(以下
   「本件配当」といいます。      )を行う事を決議し実施しましたが、2021 年 3 月期第 1 四半期決算の準
   備過程において、会計監査人の指摘を受け社内調査をした結果、本件配当は、結果として会社法お
   よび会社計算規則により算定した分配可能額を超過していたことが判明しました。
    また、本件配当に関する分配可能額を精査する過程で、2020 年 2 月 20 日に実施した自己株式の
   取得(以下 「本件自己株式取得」      といいます。 についても分配可能額を超過していたことが判明し
                                 )
   ました。
    このような事態を受け、当社は、2020 年 7 月 14 日開催の取締役会において、社外の弁護士によ
   る外部調査を実施することを決議しました。

2. 本件調査の目的
    本件配当及び本件自己株式取得に関する事実関係の調査、発生原因の究明、取締役等の責任の有
   無及び再発防止策の提言を行うことを目的とし、以下の社外の弁護士等による調査を実施いたしま
   した。

    外部調査実施者(敬称略、順不同)
      三浦 亮太    (三浦法律事務所 弁護士)
      木内 敬     (三浦法律事務所 弁護士、公認会計士)
      村田 晴香    (三浦法律事務所 弁護士)
     ※各氏は現在当社グループとの利害関係を有しておりません。

3. 判明した事実関係
     外部調査により判明した事実の概要は次のとおりです。なお、調査報告書については、別添の「調
   査報告書」をご参照ください。

    (1) 本件自己株式取得について
        当社の多くの取締役は、自己株式取得に財源規制の適用があることを認識しておらず、また、
    一部の認識をしていた取締役も財務部において予め確認がなされているであろうと考えたこと
    から、取締役会等においても分配可能額に関する質疑等がなされることなく、本件自己株式取得
    が行われました。

  (2) 本件配当について
      当社の多くの取締役は、配当に財源規制の適用があることを認識していましたが、分配可能額
     の算定上、自己株式の帳簿価額を控除することを認識しておらず、また、一部の認識をしていた
     取締役も財務部において予め確認がなされているであろうと考えたことから、取締役会等におい
     ても分配可能額に関する質疑等がなされることなく、本件配当が行われました。

4. 発生原因の分析
    調査報告書において指摘を受けた発生原因の概要は次のとおりです。

  (1) 役職員の認識不足
      当社の取締役を含む役職員が財源規制を正確に理解しておりませんでした。

  (2) 財務部におけるチェック体制の不備
      財務部において予め担当者が分配可能額を計算し、上位者が確認、承認するなどのチェック体
     制が敷かれておりませんでした。

  (3) 外部の専門家の活用不足
      本件自己株式取得は金額的に重要な取引でしたが、外部の弁護士などに相談することはありま
     せんでした。

5. 再発防止策
    調査報告書における再発防止策の提言に沿い、当社は、次のような再発防止策を策定し、本日の
   取締役会で決議しました。

  (1) 役職員に対する研修の実施
      取締役や管理職に対し、会社法や金融商品取引法等の基本的な法令についての研修を実施しま
     す。これにより、財源規制を含めて、正確な法令の理解に努めます。

  (2) 財務部におけるチェック体制の構築
      分配可能額を算定するためのチェックシートを作成したうえで、財務部において、担当者が算
     定を行い、上位者が確認、承認するなど、複数人による有効な牽制体制を構築します。

  (3) 外部専門家の利用
      当社にとって重要性の高い取引や異例な取引については、積極的に外部専門家に相談したうえ
     で、その結果を稟議書や取締役会資料に添付することとします。

6. 本件に関する責任
     本件が発生したことを重く受け止め、当時の代表取締役社長(現代表取締役会長)及び常務取締
   役財務部長は報酬 1 か月分の 20%を自主返納します。また、本件自己株式取得及び本件配当に関す
   る取締役会議案に賛成したその他の取締役は報酬 1 か月分の 10%を自主返納します。

7. 今後の見通し
    当社は本件を重く受け止め、上記再発防止策を着実に実施していく所存です。
    また、当社は、2020 年 2 月 14 日に公表しました「完全子会社の吸収合併(簡易合併・略式合併)
   に関するお知らせ」に記載しました当社の完全子会社株式会社エスエヌティビルを 2020 年 10 月 1
   日に吸収合併することにより、分配可能額が、本件自己株式取得及び本件配当における分配可能額
   超過額を超えて増加する見込みであり、現在各種手続きを行っております。
    なお、当社の業績に与える影響はありません。
                                                   以 上
(別紙)



                                   2020 年 8 月 12 日


株式会社シンニッタン   御中




             調    査   報   告   書




                              三浦法律事務所
                              弁護士 三浦 亮太
                              弁護士 木内 敬
                              弁護士 村田 晴香
第1       調査の概要

1 調査に至るまでの経緯


     株式会社シンニッタン(以下「シンニッタン」という。)は、2020 年 2 月 19 日、取締
    役会において、自己株式の取得1に関する決議を行い、翌 20 日、東京証券取引所の自己株
    式立会外買付取引(ToSTNeT3)を用いて、12,500 千株の株式を総額 5,687,500 千円で取
    得(以下「本件自己株式取得」という。)した。
     また、シンニッタンは、同年 5 月 26 日、取締役会において、1 株あたり 10 円の配当を
    行う剰余金処分案を株主総会に上程する旨を決議し、同年 6 月 26 日に行われた第 89 回
    定時株主総会において、1 株当たり 10 円、総額 367,487,980 円の配当を行う旨の剰余金
    処分案の決議を行い、同月 29 日を効力発生日として剰余金の配当(以下「本件配当」と
    いう。)を実施した。
     その後、同定時株主総会において新たに選任された会計監査人による指摘により、本件
    配当が、会社法及び会社計算規則の定めにより算定した分配可能額を超えていたことが
    判明し、その後、本件配当の分配可能額を精査する過程で、本件自己株式取得についても
    分配可能額を超えていたことが判明した。
     上記の状況を受け、シンニッタンでは、同年 7 月 14 日、三浦法律事務所に所属する以
    下の弁護士に対し、本件自己株式取得及び本件配当が分配可能額を超過した事実関係や、
    発生原因、取締役等の責任の有無並びに再発防止策の提言を行うことを目的とする調査
    (以下「本件調査」という。)を委任した。


             三浦法律事務所
               弁護士   三浦 亮太
               弁護士   木内   敬
               弁護士   村田 晴香


2 本件調査の目的


     本件調査の目的は以下のとおりである。
     ①   本件自己株式取得及び本件配当に関する事実関係の調査
     ②   分配可能額を超過した原因の究明及び再発防止策の提言
     ③   本件自己株式取得及び本件配当に関する関係者の責任の検討




1
    取得する株式の総数は 12,500 千株(上限)

                               1
3 調査期間


     本件調査は、2020 年 7 月 14 日から同年 8 月 12 日まで実施した。


4 調査方法


     本件調査においては、株主総会議事録、取締役会議事録等を含む関係資料・議事録の閲
    覧、関係する取締役会に参加した取締役及び本件配当又は本件自己株式の取得の検討に
    関与したシンニッタン従業員、2020 年 6 月の定時株主総会の終結をもって退任した会計
    監査人及び同定時株主総会で選任された新任の会計監査人に対してヒアリングを実施し
    た。


第2       調査結果

1    本件自己株式取得及び本件配当に係る事実関係並びに関係者の認識


    (1) 本件自己株式取得に至るまでの経緯


      シンニッタンにおいては、当時の大株主より、2018 年頃から株主還元策等の要請を
     受けたことを契機に、自己株式取得を含む株主還元策等に関する検討を始めた。検討の
     結果、株主還元策として自己株式取得が有力な検討対象となり、証券会社に相談を行う
     などしたうえで、その手続き等についての検討をすすめた。2019 年 7 月頃に証券会社
     から、自己株式を取得する際のスケジュールや主な開示書類、当局への提出書類等がま
     とめられた資料を受領した。同資料には、インサイダー取引規制等を含む法的留意点も
     記載されていたところ、その一項目として「財源規制」が説明されており、自己株式の
     取得には、財源規制が適用されることや分配可能額の算出方法が記載されており、そこ
     には、分配可能額の算定上、自己株式の帳簿価額を減額する等の説明もなされていた。
         しかしながら、シンニッタンにおいては、同資料は自己株式取得の手法や直近の動向
     を検討するために取り寄せたものであり、当時はまだ具体的に実施することまでは検
     討されていなかったこともあり、同説明資料を精査するなどの対応はなされなかった。
         これらを受領した取締役においても、同資料に財源規制の内容が記載されているこ
     とを認識している者はいなかった。


    (2) 配当政策の基本方針の変更



                              2
  シンニッタンにおいては、従来、連結配当性向 30%を目指していたところ、株主還
 元を強化する観点から、2020 年 2 月 14 日、取締役会で以下のような配当政策の基本方
 針の変更を決議し、同日、その旨の適時開示を行った。なお、この配当政策の基本方針
 は 2020 年 3 月期の配当から適用することとされた。


   <変更前>   連結配当性向 30%を目指す
   <変更後>   連結配当性向 40%以上を目標とする。但し、1 株当たりの配当金は
              10 円を下限とする。


  なお、同取締役会に先立ち、配当方針を変更する根拠等を記した検討資料が作成され、
 同資料には、常務取締役財務部長(以下「財務部長」という。)が手書きで分配可能額
 を試算し、変更後の配当方針であっても分配可能額の範囲内に収まることが検討され
 ていた。しかしながら、財務部長は、分配可能額の算定上、自己株式の帳簿価額を控除
 する必要があることを認識していなかったことから、同資料における分配可能額の試
 算においては、自己株式の帳簿価額は控除されていなかった。なお、同検討資料は取締
 役会での説明を行うための手控えに過ぎず、取締役会に配布されることはなかった。ま
 た、取締役会において、分配可能額に関する質疑はなかった。


(3) 本件自己株式取得の実施


  シンニッタンでは、2020 年 2 月 19 日、臨時取締役会を開催し、株式総数 12,500 千
 株(上限)、取得価額の総額 5,700 百万円(上限)とする自己株式を取得する旨の決議
 を行い、翌 20 日、東京証券取引所の自己株式立会買付取引(ToSTNeT3)において買付
 を実施した。シンニッタンが同日取得した自己株式は 12,500 千株、取得価額の総額は
 5,687,500 千円であった。上記取締役会の議事録や関係資料、自己株式取得に係る稟議
 書においては、本件自己株式取得が分配可能額の範囲内か討議・検討した形跡は見当た
 らない。また、本件調査におけるヒアリングにおいて、本件自己株式取得が分配可能額
 を超過していることを認識していたものは見当たらなかった。ほとんどの関係者は、自
 己株式の取得に財源規制が適用されることを認識していなかったと述べ、一部、財源規
 制が課せられることを認識していた取締役も、シンニッタンの財務部を信頼していた
 ため、当然、分配可能額の範囲内であることは予め検討されているだろうと考えていた
 と述べている。


(4) 本件配当の実施


  シンニッタンは、同年 5 月 26 日、取締役会において、2020 年 3 月期の計算書類の承


                            3
     認を行うとともに、1 株あたり 10 円の配当を行う剰余金処分案を株主総会に上程する
     旨の決議を行った。同年 6 月 26 日、 89 回定時株主総会において、 株当たり 10 円、
                          第               1
     総額 367,487,980 円の配当を行う旨の決議を行い、本件配当を実施した。
      同取締役会や株主総会の議事録や資料において、本件配当が分配可能額の範囲内か
     否かを検討した資料は見当たらない。また、本件調査におけるヒアリングにおいて、本
     件配当が分配可能額を超過していることを認識していたものは見当たらなかった。多
     くの関係者は、配当に財源規制が課せられることは認識していたものの、分配可能額の
     算定上、自己株式の帳簿価額を控除することを認識していなかった。さらに、一部の社
     外取締役は自己株式を控除することを認識していたものの、当然、財務部の事前検討に
     おいて検討済みであろうと考えていたと述べている。加えて、多くの関係者は、シンニ
     ッタンは自己資本が十分にあり、わざわざ分配可能額を算定するまでもなく、配当が財
     源規制に違反することはないだろうと考えていた。実際、本件自己株式取得を行う前の
     2019 年 3 月末日の貸借対照表に基づく分配可能額2は、その他資本剰余金及びその他利
     益剰余金の合計額から自己株式の帳簿価額を控除した 6,018 百万円であったと認めら
     れる。シンニッタンでは、近時は 1 年あたり概ね 1 株あたり 7 円から 10 円程度、総額
     3 億から 5 億円程度の配当がなされており、近時の単体の利益が 5 億~9 億円程度であ
     った3ことを考えると、関係者が述べるとおり、自己株式の帳簿価額が控除されること
     を除けば、分配可能額は十分にあったと認識していたこと自体は合理的であると認め
     られる。


2    本件自己株式取得及び本件配当が財源規制に違反した原因


     シンニッタンにおいて、財源規制に違反した自己株式の取得及び配当がなされてしま
    った原因は下記のとおりである。


    (1) 役職員の認識不足


        自己株式取得について


        シンニッタンの取締役及び関係者の多くは、一部の取締役を除き、自己株式の取得
      に財源規制が適用されることを認識していなかった。そのため、自己株式取得を検討
      するに際して、分配可能額の範囲内か否かのチェックがなされることはなく、また、
      取締役会においても分配可能額に関する質疑・検討がなされることはなかった。この


2
    2019 年 3 月末日付の計算書類が取締役会で承認され確定した時点における分配可能額を意味する。
3
 ただし、2020 年 3 月期は、固定資産の減損処理等を行ったため、単体の当期純利益は 172 百万円であ
った。

                            4
      点、2019 年 7 月頃に証券会社から受領した検討資料には、自己株式取得に財源規制
      が適用されることや、分配可能額の計算方法が記載されていたが、同資料は自己株式
      取得の手法や直近の動向を検討するために取り寄せたものであり、当時はまだ具体
      的な取引の検討にまで至らなかったこともあり、同資料を精査するまでには至らな
      かった。


        配当について


        シンニッタンの取締役及び関係者の多くは、配当に関して何らかの財源規制があ
      ることは認識していた。しかしながら、一部の取締役を除くと、分配可能額の算定上、
      自己株式の帳簿価額を控除することは認識していなかった。
        実際、2020 年 2 月の配当方針の変更の際に、財務部長は変更後の配当方針であっ
      ても分配可能額の範囲内に収まるか試算していたが、その試算の際にも自己株式の
      帳簿価額が控除4されていななかった。
        このように、シンニッタンでは多くの役職員が分配可能額の正確な算出方法を認
      識していないなか、上記のとおり自己株式の帳簿価額を控除しなければシンニッタ
      ンには十分な自己資本があったこともあり、わざわざ分配可能額を算定するまでも
      なく分配可能額の範囲内に収まっているであろうとの認識のもと、配当案が決定さ
      れた。


    (2) 財務部におけるチェック体制の不備


      上記のとおりこれまでシンニッタンでは十分な自己資本を有していたこともあり、
     財務部において、剰余金の処分案を策定するにあたり予め分配可能額を算定し分配可
     能額の範囲内であることを確認するなどのチェック体制を設けていなかった。一部の
     取締役は、当然、財務部等においてそれらの確認がなされているであろうと考えていた
     ものの、実際に財務部で算定等がなされていることは確認していなかった。
      そして、財務部において、分配可能額を算定し、配当等がその範囲内であることをチ
     ェックする体制が敷かれていなかったため、分配可能額が不足した状態で本件自己株
     式取得5及び本件配当がなされた。


4
    配当方針の変更がなされた同年 2 月 14 日時点では、本件自己株式取得は行われていなかったが、2 月
14 日時点においても自己株式を保有していたため、分配可能額の算定上、その帳簿価額を控除する必要
があった。
5
  シンニッタンの多くの役職員は自己株式の取得に財源規制の適用があることを認識していなかったた
め、財務部においてチェック体制を整備したとしても、当該チェックの対象に自己株式の取得が含まれな
かった可能性もある。しかしながら、分配可能額のチェック体制の一環として、財源規制の適用対象を列
挙しておくことにより、そのような事態は防ぐことができると考えられる。

                             5
    (3) 外部専門家の活用不足


      本件自己株式取得は総額 56 億円余りであり、シンニッタンにとって重要性の高い取
     引であったにも関わらず、自己株式取得の方法についてはそれまでに証券会社に相談
     するなどして検討してきたこともあり、弁護士などの外部の専門家に相談することは
     なかった。そのため、外部の目を通すことなく、本件自己株式取得が行われた。
      弁護士等の外部専門家に対し、本件自己株式取得に法令上の問題がないか確認して
     いれば、当該専門家から分配可能額の範囲内であるか確認を求められるなどすること
     により、本件自己株式取得が分配可能額を超えていることに気が付くことができたと
     考えられる。


3    再発防止策の提言


     本件自己株式取得及び本件配当がなされた事実関係及びその原因に鑑み、以下のとお
    り、再発防止策を提言する。


    (1) 役職員に対する研修の実施


      シンニッタンにおいては、多くの役職員が分配可能額規制についての正確な知識を
     有しておらず、そのため、有効な社内チェック体制を構築することも、外部専門家に相
     談することもなく、分配可能額が不足した状態で本件自己株式取得や本件配当がなさ
     れてしまった。
      取締役や管理職が法令に関する正確な知識を有することは、有効な内部統制を構築
     するための前提であり、今後は、定期的な研修等を実施することにより、財源規制を含
     む会社法・金融商品取引法等の基本的な知識を習得する必要がある。特に、新任取締役
     については十分な研修を行うなどする必要がある。


    (2) 財源規制に関する有効なチェック統制の構築


      シンニッタンにおいては、2020 年 2 月の配当方針の変更の際に、財務部長が分配可
     能額の試算を行っていたものの6、その計算を別の者が確認し、承認するなどのチェッ
     ク体制は構築されていなかった。
      分配可能額の計算を一人で行う場合には、計算自体を誤ったり、適用対象を誤る可能



6
    ただし、上述のとおり、自己株式の帳簿価額を控除していなかった。

                          6
     性があることから、分配可能額を算定するための計算シートを作成したうえで、通常の
     経理処理と同様に、まず、担当者が算定したうえで、上位者がその確認を行い、承認す
     るなどのチェック体制を構築する必要がある。加えて、財源規制の対象取引であるにも
     関わらず財源規制の対象外であるとの誤解のもとに取引がなされてしまうことがない
     ように、財源規制の対象を予め列挙するなどしたうえで、財務部員への研修を行うこと
     により、財務部員においても、正確な知識の習得に努めるべきである。


    (3) 重要な決定事項に関する外部専門家からの助言の取得


       本件自己株式取得は、それまで数年にわたり、自己株式取得の手続き等について検討
     していたこともあり、シンニッタンにとっては、重要性の高い取引であったにも関わら
     ず、弁護士等の外部専門家から助言を得ることなく、取引が行われた。
       今後は、シンニッタンにとって重要性の高い取引や異例な取引等については、積極的
     に外部専門家から助言を得たうえ、稟議書や取締役会提出資料等に専門家の意見内容
     を添付するなどの対応を行う必要がある。


4    関係者の責任


    (1) 刑事責任


       会社法 963 条 5 項は、財源規制に違反して自己株式を取得した取締役や剰余金の配
     当をした取締役に対して刑事罰を定めている7。
       本件調査においては、シンニッタンの役職員に財源規制に違反していることについ
     て認識を有していた者は認められず、したがって、これらの者に故意犯である上記の刑
     事責任は認められない。


    (2) 民事責任


       会社法上、財源規制に違反して自己株式取得が行われた場合には、当該株式の買い取
     りによる金銭等の交付に関する職務を行った取締役や自己株式取得の決定を行った取
     締役会で当該自己株式取得に賛成した取締役等は、
                           「その職務を行うについて注意を怠
     らなかったこと」を証明しない限り、会社に対し、連帯して、自己株式取得額に相当す
     る金銭を支払って填補する義務を負うものとされている(会社法 461 条1項 2 号、462
     条 1 項 1 号ロ、2 項、会社法施行規則 116 条 15 号、会社計算規則 159 条 2 号)。



7
    自己株式取得に関して会社法 963 条 5 項 1 号、剰余金の配当に関して同項 2 号。

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 また、会社法上、財源規制に違反して配当が行われた場合には、剰余金の配当による
金銭等の交付に関する職務を行った取締役や当該配当を決定した株主総会において剰
余金の配当に関する事項について説明をした取締役、剰余金の処分案を決議した取締
役会において当該決議に賛成した取締役等は、
                    「その職務を行うについて注意を怠らな
かったこと」を証明しない限り、会社に対し、連帯して、自己株式取得額に相当する金
銭を支払って填補する義務を負うものとされている(会社法 461 条1項 8 号、462 条 1
項 6 号イ、 項、
       2  会社法施行規則 116 条 15 号、会社計算規則 159 条 8 号、 条 3 号)
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 本件においては、シンニッタンの多くの取締役は、自己株式の取得に財源規制が適用
されることを認識していなかった。剰余金の配当については、多くの取締役が、財源規
制が適用されることを知ってはいたが、分配可能額の算定上、自己株式の帳簿価額を控
除することを認識していなかった。一部の取締役は、自己株式の取得に財源規制の適用
があることや分配可能額の算定上、自己株式の帳簿価額を控除することを認識してい
たが、財務部において適切な計算がなされているであろうと考え、自ら試算をし、又は、
その点について取締役会で質疑等することはなかった。
 このような取締役の認識の下で、短期間に 2 回にわたり財源規制違反が発生したこ
と、両者ともに、正確な財源規制を認識し、又は、必要に応じて専門家に相談するなど
していれば容易に分配可能額を超過していることに気付き得た事案であることを考え
ると、本件が「その職務を行うについて注意を怠らなかった」場合に該当するものとは
言い切れない。
 他方で、シンニッタンには、分配可能額が足りないことを認識しながら本件自己株式
取得又は本件配当を行った者はいなかった。加えて、上記のとおり、これまでシンニッ
タンは十分な自己資本を有しており、これまでのとおり剰余金の配当の際に、計算する
までもなく分配可能額は十分にあると思い込んでしまった面は否定できない。
 また、シンニッタンにおいては、新任の会計監査人からの指摘を受け、すぐに外部弁
護士への相談を行い、社内でも具体的に再発防止策を検討するなど、原因究明や再発防
止策の策定に積極的に関与しており、これらの再発防止策を講じることにより、今後は、
財源規制に違反する配当等については一定の防止体制が敷かれると評価できる。加え
て、本件自己株式取得及び本件配当を審議した取締役会に出席した全取締役(監査等委
員を含む。)は自主的に報酬の一部を返上する予定である。
 かかる事情を総合的に考慮すれば、シンニッタンが、取締役に対して填補責任等を追
及すべき必要性までは認められないとの判断を行ったとしても、当該判断が不合理と
まではいえないものと思料する。
                                                   以上




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