6181 M-タメニー 2019-10-15 15:00:00
社内調査委員会の調査報告書受領等に関するお知らせ [pdf]

                                               2019 年 10 月 15 日
各 位
                       会 社 名 株式会社パートナーエージェント
                       代 表 者 名 代表取締役社長 佐 藤               茂
                                   (コード番号:6181 東証マザーズ)
                       問 合 せ 先 I R 広 報 部 長 伊 東        大 輔
                                          (TEL.03-5759-2700)

         社内調査委員会の調査報告書受領等に関するお知らせ

 当社は、2019 年7月 22 日付「不正行為の疑い等に係る社内調査委員会の設置に関するお知らせ」
にて公表いたしましたとおり、当社の元経理財務部門従業員による不正行為の疑い、および当社の一部
取締役らが取締役会・監査役会に適切な報告を怠った可能性があることについて、外部の弁護士を含む
社内調査委員会を設置して、全容解明等に向けて調査を進めてまいりました。
 本日、社内調査委員会より最終報告書を受領いたしましたので、下記のとおりお知らせいたします。

                         記
1.調査報告の内容
  調査委員会の調査結果につきましては、添付の「調査報告書(最終報告書)」をご参照ください。
  なお、本報告書においては、個人情報および機密情報保護の観点から、個人名等につきましては匿
名としておりますこと、ご了承ください。

2.業績への影響
  調査委員会の調査の結果のとおり、不正の着服額は約 17 百万円であり、不正な経費の計上額は約 38
百万円と認定されました。
  これを受け、当社においては、2020 年3月期第2四半期に過年度にわたる追加税金費用約 15 百万円
を計上する予定でありますが、当期業績に与える影響は軽微であります。また、2020 年3月期第2四半期
以降に当該調査に係る費用約 15 百万円及び、当該不正行為に係る回収金最大約 17 百万円について
計上していく予定でありますが、これらも当期業績に与える影響は軽微であります。
  なお、2019 年8月9日付「社内調査委員会による調査の経過について」にて公表したとおり、当社では
過年度の連結財務諸表に与える影響は軽微と判断し、過年度の決算数値の訂正は行わないこととして
おります。

3.再発防止策の実施
  社内調査委員会の調査結果を真摯に受け止め、社内調査委員会の提言に沿って、以下のとおり
適切な内部管理体制を構築し、再発防止に努めてまいります。

 (1) 内部管理体制の整備に向けた当社代表者による意思表明
     当社代表者自らが、当社における内部管理体制についての改善を主導し、かかる改善の必
    要性について全社員に対して宣言いたします。
 (2) 適切な経理業務の実施に向けた体制整備
     ① 特定人に業務が集中する状況の改善
       当社においては、2019 年 10 月1日付で組織変更を実施し、コーポレート本部内においては、
      経営企画、経理及び財務部門を分離した組織体制とし、また、経理部門については適切な人
      員へと増員してまいります。そして、職務分掌規程の遵守を徹底し、適正な業務配分が実施さ
      れるよう運用の改善を図ってまいります。
       これらの取組みにより、特定人に業務が属人化し、他の者による業務の相互牽制が機能しな
      くなる状況の改善に努めております。

                          1
   ②   業務体制の再整備
       経理部門において、今後、業務の相互確認体制の遵守と自己承認取引の禁止の徹底がな
      されるよう、関連規程や業務マニュアルの整備と共に、その周知を行ってまいります。
       また、経理書類が適切に作成されるべく、業務フローの見直しについても早急に進めてまい
      ります。
(3) 現金類の管理の適正化
    当社においては、現金管理を厳格化するべく、既に、小口現金の残高及び現金支出の機会を必
   要最小限に留めるものとしております。また、今後は現金支出の際は、小口現金及び銀行預金口座
   の管理者と現金支出の承認権限者を別途に定める等、出金手続の厳格化を進めてまいります。
    さらに、現金類の実残高については、現金出納帳記載の残高との不一致が生じないよう、複数の
   目で確認がなされる体制を構築しております。
(4) 報告体制の整備等
    ① レポーティング・ラインに従った適切な報告体制の整備
       当社は、重要な事象がレポーティング・ラインに従い迅速かつ適切に報告されるように、今後
      は、かかる報告が適切に実施されることの重要性について、入社初期研修や管理職研修等を
      通じて、継続的に周知徹底に努めてまいります。
       また、取締役においても、自身の管掌部門を適切に管理する職責を全うするよう、取締役研
      修等において周知を図ってまいります。
       この他、コーポレート本部内では週次で情報共有会議を実施し、重要な事象の早期発見に
      努めてまいります。
    ② 内部通報制度の利用促進
       内部通報制度については、入社初期研修内、及び毎年2月・8月にかかる制度について周
      知し、社内外に複数の窓口を設置してまいりましたが、内部通報制度が不祥事案を即時に察
      知するための重要なツールであるということを全社的に認知させるべく、その機能の意義や役
      割について改めて周知する機会を設け、内部通報制度が実効的に機能するよう取り組んでま
      いります。
(5) コンプライアンス研修の実施
    当社においては、コンプライアンス意識及び不正を許さない企業風土の醸成に向け、予てより実
   施しております個人情報保護や情報漏洩に関する研修以外に、法令遵守を浸透させ、徹底させるこ
   とを目的に新たなコンプライアンス研修を定期的に実施してまいります。
(6) 内部監査の実効性の強化
    当社においては、内部監査の実効性を担保するべく、内部監査手法について見直しを行うものと
   します。
    また、当社においては、内部監査体制の強化に向け、内部監査室の人員について適切な人員へ
   と増員し、支店運営はもとより本社管理部門に対する監査業務の拡充を図ってまいります。さらに、こ
   れまで不在であった内部監査室長を配備し、当該室長には監査実務について明るい人材を登用し
   ております。
    加えて、内部監査の実効性の高めるため、内部監査室の独立性を確保するための措置を講じると
   ともに、内部監査室、監査役、会計監査人が密に連携し、実効的な三様監査を実施できる体制構築
   を進めてまいります。

4.今後の対応について
  当該不正行為に関与した従業員に対しては、社内規程に従い厳正なる処分を行うとともに、
今般の事態を重く受け止め、その経営責任を明確にするため、本日の取締役会において以下のと
おり取締役より報酬の減額の申し出がありました。また、取締役会・監査役に適切な報告を怠っ
た取締役らのうち、現任である紀伊保宏氏については、本日をもって取締役を辞任する旨との申
し出があり、当社取締役会は当該申し出を受理いたしました。

 代表取締役社長   佐藤   茂          報酬月額   20%減額   3カ月

                       2
 株主・投資家の皆さまをはじめ、取引先および関係者の皆さまには多大なるご迷惑とご心配を
おかけし深くお詫び申し上げます。

                                                                以上
(注)上記は発表日現在の情報です。これら情報は流動的な様々な要素を含むものであり、様々な要因により実際の結果
  はこれらと異なる場合があることにご注意ください。


                      <本件に関するお問い合わせ先>
             株式会社パートナーエージェント IR 広報部長 伊東
          〒141-0032 東京都品川区大崎1-20-3 イマス大崎ビル4階
      IR 直通:03-6685-2800(平日:10 時~17 時) Mail:ir-contact@p-a.jp




                                3
     調 査 報 告 書




      令和元年 10 月 15 日




株式会社パートナーエージェント社内調査委員会
株式会社パートナーエージェント   取締役会   御中




                                    令和元年 10 月 15 日




                     株式会社パートナーエージェント社内調査委員会



                               委員長:貝瀬      雄一



                               委   員:渡瀬   ひろみ



                               委   員:藤池    智則
                                     目   次



第 1 部 本調査の概要............................................................... 3

 1.    本委員会の設置の経緯...................................................... 3

 2.    本委員会の構成............................................................ 3

 3.    調査目的 ................................................................. 4

 4.    調査期間及び調査方法...................................................... 4

 5.    調査範囲 ................................................................. 4

第 2 部 本調査の結果............................................................... 6

 1.    当社の概要 ............................................................... 6

 2.    経理財務部における業務体制等 .............................................. 9

 3.    内部監査室の体制及び内部監査の結果 ....................................... 17

 4.    現金の不正な出金、架空の経費計上等 ....................................... 19

 5.    その他の調査結果......................................................... 26

 6.    本件の発覚後の対応....................................................... 27

第 3 部 本調査で判明した不正の取引額及び連結財務諸表への影響 ...................... 29

 1.    総括 .................................................................... 29

 2.    連結財務諸表に与える影響額を個別確定できたもの ........................... 29

第 4 部 原因の究明 ............................................................... 30

 1.    内部管理体制を重視しない企業風土 ......................................... 30

 2.    業務の二重確認体制の形骸化 ............................................... 30

 3.    杜撰な経理業務が放置された環境 ........................................... 31

 4.    取締役による内部管理体制の不備 ........................................... 31

 5.    現金についての管理体制の不備 ............................................. 32

 6.    内部監査室の体制不備..................................................... 33

 7.    一部取締役におけるコンプライアンス遵守に係る意識の欠如 ................... 33

                                     - 1 -
第 5 部 再発防止策の提言.......................................................... 35

 1.    内部管理体制が重視されない企業風土の是正 ................................. 35

 2.    適切な経理業務の実施に向けた体制整備 ..................................... 35

 3.    現金類の管理の適正化..................................................... 36

 4.    報告体制の整備等......................................................... 37

 5.    コンプライアンス研修の実施 ............................................... 38

 6.    内部監査の実効性の強化................................................... 38




別紙 1 ........................................................................... 39

別紙 2 ........................................................................... 40

別紙 3-1 ......................................................................... 42

別紙 3-2 ......................................................................... 46




                                       - 2 -
                           第1部 本調査の概要



1.   本委員会の設置の経緯

      株式会社パートナーエージェント(以下「当社」という。
                               )は、令和元年 6 月下旬の社
     員面談において、経理財務部(時期により名称が異なる場合があるものの、特段の言及が
     ない限り、以下「経理財務部」という。)において、現金の着服及び証憑の存在しない経
     費の計上が行われている疑いがある旨の指摘を受けた。

      当社は、これを受けて、上記に係る初期調査を実施したところ、当社の経理財務部の元
     従業員 X 氏が現金の着服を、従業員 Y 氏が現金の着服及び実態のない経費の架空計上をそ
     れぞれ行っていたこと(以下「本件」という。
                         )を自供し、本件が発覚した。

      当社は、かかる初期調査の結果を踏まえ、本件について社外の専門家も関与させた客観
     的な調査を行うことを目的として、令和元年 7 月 29 日、社内調査委員会(以下「本委員
     会」という。
          )を設置し、類似事案の存否を含めて、本件に関する事実調査(以下「本調
     査」という。
          )を行うこととした。



2.   本委員会の構成

      本委員会は、以下の 3 名の委員により構成された。

        委員長     貝瀬   雄一       当社取締役コーポレート本部長

        委   員   渡瀬   ひろみ             当社社外取締役

        委   員   藤池   智則       弁護士(堀     総合法律事務所)



      また、本委員会は、本調査を補助させるため、以下のとおり、外部の専門家並びに当社
     の総務法務部及び経理財務部の担当者を補助者として選任して、本調査の補佐をさせた。

                 所属                         氏名
         公認会計士須賀智仁事務所          公認会計士       須賀   智仁

            堀   総合法律事務所        弁護士    富田   直由

        弁護士法人鈴木康之法律事務所         弁護士    山口    真吾

                 当社           経理財務部部長        久保   理
                              (公認会計士)
                               総務法務部部長      笹渕    宏明   等




                             - 3 -
3.   調査目的

      本調査は、本件に関する事実関係(類似事案の存否を含む。)の調査、本件が生じた発
     生原因の解明(とりわけ内部統制上の課題の検討)、及び再発防止策の提言を行うことを
     目的とする。



4.   調査期間及び調査方法

     (1) 調査期間

       令和元年 7 月 29 日~令和元年 10 月 7 日



     (2) 調査方法

       本委員会は、本調査について、具体的に以下の方法により実施した。



       ①    開示資料等の確認

             本委員会は、本件に関連する可能性のある会計資料、証憑書類、各種会議体の
            議事録、社内規程等の関連資料について、必要と認める範囲で確認を行った。



       ②    インタビュー

             本委員会は、本件の実行行為者である X 氏及び Y 氏、本件及びこれに付随する
            事情を知る可能性のある役員・従業員(退職した者を含む。以下同じ。)のうち、
            本委員会が必要と認めた者並びに原因分析の観点から事情を聴取する必要があ
            ると認められる役員・従業員に対し、インタビューを実施した。具体的な対象者
            については、別紙 1 のとおりである。



5.   調査範囲

      本調査の調査範囲は、以下のとおりである。

     (1) 本調査の対象範囲

         本調査の主たる対象範囲は、初期調査により発覚した当社の経理財務部における不
       正な現金の引出し及び経費の架空計上並びに本件発覚後の役員・従業員の対応である
       が、それ以外にも、類似の案件が生じている可能性のある事項については調査の対象
       とした。


                             - 4 -
(2) 本調査の対象期間

   本委員会は、本調査の対象期間については、基本的に、本件の実行者である X 氏及
  び Y 氏が主に本件における不正な現金の引出し及び経費の架空計上を実行したと述
  べる平成 26 年 4 月 1 日から本件発覚後に取締役会に本件が報告された令和元年 7 月
  16 日までとしたが、それ以前の両氏その他の役員・従業員による不正行為の可能性に
  ついても、必要に応じて調査を実施した。




                    - 5 -
                          第2部 本調査の結果



1.   当社の概要

     (1) 当社の基本情報

                                          (令和元年 7 月末時点)

        会社名    株式会社パートナーエージェント

        設立年    平成 18 年

        資本金    257 百万円(令和元年 7 月末現在)

       上場市場    東京証券取引所マザーズ市場

        決算日    3 月 31 日

       本店所在地   東京都品川区大崎一丁目 20 番 3 号

       従業員数    660 名(平成 31 年 4 月 1 日現在)

       事業内容    パートナーエージェントサービス、ファスト婚活サービス、ソリュー
               ションサービス、QOL(Quality Of Life)サービス等



     (2) 当社のコーポレート・ガバナンス体制

        当社のコーポレート・ガバナンス体制は以下のとおりである(令和元年 6 月 30 日
       時点)。また、当社では、上場準備を契機として、平成 24 年 9 月から内部監査室が設
       置され、現在まで 1 名(D 氏)が所属している。




                            - 6 -
(3) 当社の従業員数の推移

   当社の従業員数の推移は、各年 4 月 1 日時点で、以下のとおりである(パート・ア
  ルバイト社員及び派遣社員を含む。。
                 )

   ① 平成 26 年 4 月:285 名

   ② 平成 27 年 4 月:384 名

   ③ 平成 28 年 4 月:438 名

   ④ 平成 29 年 4 月:438 名

   ⑤ 平成 30 年 4 月:468 名

   ⑥ 平成 31 年 4 月:660 名



(4) 当社の組織体制における経理財務部の位置付け

   本件は、後述のように、平成 26 年 2 月以降に、経理財務部において発生した可能
  性があるものと認められるが、平成 26 年 2 月頃以降の同部のレポーティング・ライ
  ン上の位置付けは次のとおりである。

   ①   平成 26 年 1 月~平成 27 年 3 月:企画管理本部(取締役 B 氏が管掌)の下位に
       経理財務課が位置した。



                         - 7 -
   ②   平成 27 年 4 月~平成 28 年 3 月:組織変更により企画管理本部から名称が変更
       した管理部(取締役 B 氏が管掌)の下位に位置し、管理部の下位に経理財務課
       が配備された。

   ③   平成 28 年 4 月~平成 29 年 3 月:管理部の管掌が執行役員に昇格した X 氏に変
       更され、取締役 B 氏は事業企画推進部を管掌することとなった。経理財務課は
       管理部の下位に配備された。

   ④   平成 29 年 4 月~平成 29 年 12 月:組織変更により事業サポート本部が新設さ
       れた(本部長は経営企画室長たる取締役が兼任、副部長は執行役員 X 氏)。管
       理部(X 氏が部長兼任)は経営企画室と共にその下位に配備され、経理財務課
       は管理部の下位に配備された。

   ⑤   平成 30 年 1 月~平成 30 年 3 月:組織変更により情報システム部が事業サポー
       ト本部に吸収され、経営企画管理本部と名称変更された(本部長は取締役 B 氏、
       副本部長は執行役員 X 氏他 1 名)。経営企画管理本部の下位に経理財務部、総
       務部、経営企画部及びシステム部が配備された。

   ⑥   平成 30 年 4 月~平成 31 年 3 月:経営企画管理本部(本部長は取締役 B 氏に代
       わって、取締役 E 氏)の下位に管理部(X 氏の退職により、F 氏が部長に就任
       し管掌)が配備され、その下位に、経理財務課、総務課及び IR 課が配備され
       た。

   ⑦   平成 31 年 4 月~令和元年 6 月:管理部が廃止され、経営企画管理本部(本部
       長は取締役 E 氏、副本部長は Y 氏)の下位に、経理財務部、人事部、総務 IR 部
       が配備された。



(5) 当社の内部通報制度の利用状況

   当社は、平成 26 年 4 月より内部通報制度を整備しており、社内の相談窓口は総務
  部又は監査役とされ、社外の相談窓口は法律事務所とされている。かかる内部通報制
  度の利用実績は以下のとおりである。

   ①   平成 27 年度:1 件

   ②   平成 28 年度:4 件

   ③   平成 29 年度:3 件

   ④   平成 30 年度:5 件

   ⑤   平成 31 年度:1 件(第 1 四半期時点までに限る。
                                  )

   いずれの内部通報も、パワーハラスメント又はセクシュアルハラスメントに関する
  相談である。




                      - 8 -
2.   経理財務部における業務体制等

     (1) 経理財務部における人員体制及び業務状況

        当社の経理財務部の人員体制や X 氏及び Y 氏が担っていた業務については、本件の
       原因の究明に当たり、本件の実行時の状況だけでなく、X 氏が当社に入社してからの
       状況も重要であることから、X 氏が当社に入社した平成 21 年 6 月頃以降の状況を記
       載すると、以下のとおりである。



       ①   平成 21 年 6 月頃~平成 24 年 3 月頃

            経理財務部は、一部期間を除いて、X 氏 1 名体制であった。X 氏は一般的な経
           理業務を担うとともに、また、経理業務の職務とは異なるものであるが、予算の
           作成及び KPI 管理といった経営企画及び経営管理業務の一部、人事及び総務の業
           務の一部も担っていた。



       ②   平成 24 年 4 月頃~平成 25 年 3 月頃

            経理財務部は、Y 氏の入社に伴い、一部期間を除いて、X 氏及び Y 氏の 2 名体
           制となった。

            Y 氏は前職にて経理業務の経験を有していたこと、X 氏は経理業務以外の業務
           が繁忙であったことから、Y 氏の入社後早期の段階から、X 氏は経理業務の大半
           を Y 氏に引き継がせ、 氏としては、 氏の処理について承認を行うに留まった。
                       X      Y
           その上で、X 氏は、従前同様の経理業務以外の経営企画及び経営管理業務や人事
           の業務の一部に加え、社内基幹システムの修繕対応等を担うこととなった。

            X 氏及び Y 氏は、少なくとも Y 氏が入社した平成 24 年 4 月頃から、業務量が
           増大し、月次決算等による繁忙期を含め、深夜まで勤務することが多くなった。

            また、当社は平成 24 年頃から上場準備を開始することとなった。その際、経
           理財務部からは X 氏及び Y 氏が上場準備に係る対応を担うこととなり、さらに、
           同時期から、 氏は毎月の取締役会及び経営会議の資料作成を担うようになった。
                 X

            このような状況から、X 氏及び Y 氏は互いの業務について相互に確認する余裕
           がなくなり、また、X 氏は上長として部下の経理処理を確認のうえ承認すること
           が求められていたものの、実際は特に証憑の確認をすることなく、多数の経理処
           理を下記(2)③の簡易的な方法により、まとめて承認するなど、経理処理の手続
           が徐々に形骸化するようになった。



       ③   平成 25 年 4 月頃~平成 28 年 3 月


                               - 9 -
     経理財務部は、新たに入社した従業員 2 名が配属されることとなり、X 氏及び
    Y 氏を含め 4 名体制となった。但し、1 名は債権回収担当であり、実質的には、
    経理業務を担う者としては 1 名の増員であった。

     X 氏については、上記②同様に経理業務に関与することは少なく、部下の処理
    について承認を行うに留まっていた。当社では、平成 25 年 4 月 1 日に職務分掌
    を定める業務分掌規程が制定されたところ、少なくとも、人事、システムの修繕
    対応並びに毎月の取締役会及び経営会議の資料作成は経理財務部の職務分掌の
    範囲外であったが、X 氏が引き続きこれらの業務に従事した。

     また、新たに経理財務部に入社した従業員に対しては、Y 氏が従前担っていた
    経理業務を引き継ぐこととなったものの、当該従業員は、経理業務の経験が乏し
    かったため、Y 氏の業務負担の大幅な軽減には直ちに繋がらなかった。

     そして、平成 27 年 10 月、当社は東京証券取引所マザーズ市場に上場して以降、
    上場 1 期目は X 氏が、2 期目以降は Y 氏がそれぞれ開示書類を作成していた。

     以上により、担当業務量が多い X 氏及び Y 氏は、他の経理財務部員の業務を確
    認するという余裕がなく、経理財務部内で相互に業務内容の確認を行う状況は担
    保されず、経理処理の手続の形骸化が進み、X 氏は Y 氏を含む部下が行った経理
    処理を下記(2)③の簡易的な方法により、まとめて承認するという状態が続いた。
    そのため、当社の経理業務は Y 氏に大きく依存するものでありながら、Y 氏の経
    理業務に関して十分な牽制を図ることができない状況であった。



④   平成 28 年 4 月~平成 30 年 3 月

     平成 28 年 4 月、 氏は執行役員に就任し、
                 X           経理財務部の上位に位置する管理部
    を管掌することとなり、経理財務部は、X 氏が外れ、Y 氏を含め 3 名乃至 5 名の
    体制となった。

     X 氏は、執行役員への就任に伴い、経営企画及び経営管理業務を主として担う
    こととなったため、経理財務部の管掌者であったものの、経理業務については下
    記(2)③の簡易的な方法による承認以外に関与することはなかった。

     また、平成 29 年 4 月以降、組織変更により、事業サポート本部(X 氏は副本部
    長に就任した。)が管理部(X 氏が引き続き部長に就任した。
                                )を管掌することと
    なり、管理部は経理財務部、総務部、人材開発部(その下位に労務管理課、育成
    課、採用課が位置した。)を管掌することとなったため、X 氏にはかかる職責に伴
    う業務負担が生じた。

     さらに、平成 30 年 1 月以降、組織変更により、事業サポート本部は経営企画
    管理本部となり、X 氏は同部の副本部長に就任した。また、同部の下位には、経
    理財務部、総務部、経営企画部及びシステム部が位置し、X 氏はシステム部以外


                        - 10 -
     の部長を兼任し、X 氏にはかかる職責に伴う業務負担が生じた。

      このように、X 氏の業務が増大する一方で、Y 氏は、従前通り、引き続き経理
     財務部において経理業務全般を担っていた。そのため、X 氏は Y 氏を含む部下が
     行った経理処理を下記(2)③の簡易的な方法により、まとめて承認するという状
     態が続き、Y 氏の経理処理に関して十分な牽制を図ることができない状況が継続
     した。



⑤    平成 30 年 4 月~平成 31 年 1 月

      経理財務部は、Y 氏を含め 4 名乃至 6 名の体制であった。

      平成 30 年 3 月末、X 氏が当社を退職したことから、同年 4 月より、Y 氏は、X
     氏が担っていた経営企画及び経営管理業務を引き継ぐこととなった(なお、経営
     企画室は別途設置されていた。。具体的には、Y 氏は、X 氏より、平成 30 年度の
                   )
     予算の管理や平成 31 令和元)
               (     年度の予算の作成等の経営企画及び経営管理業務、
     毎月の取締役会及び経営会議の資料作成を引き継ぐこととなった。

      これにより、Y 氏は、部下の業務を確認する余裕がない状況が続き、また、下
     記の内部告発を行った G 氏が入社する平成 31 年 2 月まで、他の経理財務部員も
     Y 氏の業務を二重確認しない状態が継続した。



    上記①乃至⑤のとおり、X 氏及び Y 氏は、職務分掌外の職務も含めて多数の職務を
担当し、そのために、同人らは他の経理部員の業務を確認する余裕がなく、また、他
の経理業務部員も相互に業務確認をする状況は担保されておらず、経理手続の形骸化
が進んでいった。また、当社の経理業務は Y 氏に大きく依存していたところ、 氏は、
                                     X
Y 氏を含む部下の経理処理について下記(2)③の簡易的な方法によりまとめて承認を
する状況が続いていたため、Y 氏の経理処理に関して十分な牽制を図ることができな
い状況が継続していた。

    この点について、経理財務部を管掌する歴代の上長は、X 氏及び Y 氏に業務が偏る
状況を認識していたため、採用などの措置を講じたものの、人材の採用が困難であり、
また、採用しても人材が定着しないなどの事情により、同部にて人員が不足する状況
が改善されなかった。

    また、当該各上長は、X 氏及び Y 氏を信用し、経理財務部における業務執行を委ね
てしまっていたため、同部にて適切な業務が執行されていないという問題を認識して
おらず、かかる問題を解決するに足る十分な措置を講じることができなかった。この
ような点が要因となって、経理財務部における内部統制に不備が生じることとなった。




                         - 11 -
(2) 経理関係の書類の作成方法等

  ①   現金出納帳の作成

       当社においては、補助簿として、小口現金に係る現金出納帳が作成されている
      ところ、経理財務部では、まず現金出納帳を週次で作成したうえで、翌月中旬時
      点までに現金出納帳の記載を踏まえ、伝票への入力が行われていた(なお、使用
      する会計ソフトウェアにより、伝票に入力した科目は、総勘定元帳にも自動的に
      入力が反映される。。
               )

       もっとも、かかる現金出納帳は、本委員会が当社から受領した平成 23 年 4 月
      分以降を見る限りにおいて、全て Excel ファイルにて作成されており、また、現
      金出納帳は経理財務部員であれば誰でもアクセス可能な社内共有フォルダに保
      存されており、経理財務部員であれば、誰でも現金出納帳を容易に修正可能な環
      境にあった。実際に、一部の経理財務部員によれば、自身が小口現金の管理及び
      現金出納帳の作成担当であるにも拘らず、他の経理財務部員が勝手に現金出納帳
      の記載を変更していることがあったとのことである。

       次に、経理財務部においては、業務効率化のため、顧問税理士と協議のうえ、
      伝票への入力に際して、科目ごとに末日付でまとめて入力される運用が採用され
      ていた。もっとも、具体的な時期については特定できないものの、上記のとおり、
      経理財務部の業務増大等の要因から、その後、現金出納帳の作成も遅滞すること
      となり、当月分が翌月初旬から中旬頃にまとめて作成されるようになった。

       さらに、少なくとも平成 23 年 5 月頃から、現金出納帳の現金の出入金の記載
      と通帳の払戻しの金額や日付等の記載とが一致しない事態が散見されるように
      なり、例えば、平成 29 年 3 月の現金出納帳においては、同月付けで実施された
      複数日にまたがる複数回の現金引出しについて、一取引ごとに都度記録されるの
      ではなく、各引出し額を合算した 490 万円が同月 10 日という日付に引き出され
      たものと記録されており、実態と整合しない記録がなされていた。

       加えて、Y 氏の認識によれば、少なくとも当社入社後たびたび現金出納帳の残
      高が小口現金の実残高と一致しない現象が生じていたとのことであった。その一
      例として、平成 25 年 1 月末日時点の現金出納帳上の残高は 872,511 円であると
      ころ、同年 2 月の現金出納帳における前月末日時点の残高は 1,637,695 円に修正
      されており、根拠なく 765,184 円も残高が増加するという差異が生じていた。

       このように、経理財務部において現金出納帳は容易に変更可能な状況下にあり、
      また、実際に現金出納帳の記載には誤りが散見されており、現金出納帳上の現金
      残高は小口現金の実残高と一致しないことが常態化していた。かかる事態は、X
      氏及び Y 氏だけでなく、経理財務部の他の従業員の中にもこれを認識していた者
      が存在していた。

       しかしながら、上記のとおり、経理財務部では、各自が行った業務について相


                     - 12 -
    互に確認しないことが日常的に生じていたという状況があり、そのため、現金出
    納帳上の不整合も、単なる記載の誤りに過ぎないと評価され、それ以上に何らか
    の不正が生じているものとの疑いについて真剣に調査しようとする者がなく、下
    記のとおり、G 氏が内部告発を行うまで、長らくの間、これが上長や内部監査室
    等に報告されることはなかった。また、上記のとおり、経理財務部を管掌する歴
    代の上長は、同部の具体的な経理財務業務の運用状況を十分に掌握していなかっ
    たために、長年にわたり上記の問題が見過ごされるに至った。



②   金種表の作成

     当社においては、少なくとも Y 氏が入社した平成 24 年 4 月頃は、日繰りで小
    口現金に係る金種表が作成されるようになり、日々業務が終了する時点で、小口
    現金に保管される各種紙幣や硬貨の数を計算して作成していた。

     しかしながら、経理財務部における業務の増大等が要因となり、平成 24 年 7
    月頃から金種表が日繰りで作成されない場合が生じることとなった。そして、上
    場準備に伴い、会計監査人として監査法人が選定されるに至って以降、監査への
    対応として、決算月である 3 月分のみ金種表が作成されるに留まっていた。



③   業務の二重確認体制

     当社の経理財務部においては、担当者が証憑等に基づき作成した仕訳伝票の入
    力内容を、他の経理財務部員の確認を経たうえで、上長の確認及び承認を得る運
    用とされていた。

     しかしながら、実態としては、上記のとおり、経理財務部における(主として
    X 氏及び Y 氏の)業務増大等が要因となり、一担当者が行った業務内容について、
    他の従業員が証憑に照らして二重確認をするということは習慣化されていなか
    った。

     また、上長である X 氏(X 氏退職後は Y 氏)は、かかる入力内容について、証
    憑に照らして都度確認をすることなく、数カ月程度に一度、数千件に及ぶ仕訳に
    ついて、まとめて承認をするという運用が行われていた。

     具体的には、X 氏及び Y 氏によれば、かかる承認に際しては、事前に、科目ご
    とに予算と実績の比較を行って、著しい差異が生じていない場合は、特段問題が
    ないものと評価をしていたとのことであり、少しでも効率的に処理するために行
    われた方策であったとのことである。

     このように業務の相互確認体制が形骸化していた結果として、伝票の内容が通
    帳や領収証等の証憑と一致しないという事態がたびたび生じるという状況とな


                  - 13 -
       った。そして、当社の経理書類において、その記録と証憑が一致しないという状
       況が継続的に生じたということから、事後的に過去に行われた経理処理について
       証憑をもって確認することが困難となる事態が生じたといえる。



  ④    自己承認

        当社の経理財務部においては、運用として、一担当者が申請し作成した仕訳伝
       票の入力結果について、同一人が承認をするということは認められていなかった。

        しかしながら、当社においては、過去 3 事業年度について、仕訳伝票の入力の
       申請者と承認者が同一人である場合の有無を確認したところ、直近 2 事業年度に
       ついて、以下のとおり自己承認が行われていた処理が存在した。いずれも Y 氏に
       よるものであり、経理財務部において担当者間の業務の相互確認が機能していな
       かった。なお、これ以前の事業年度については、自己承認が行われた形跡は認め
       られなかった。

           平成 30 年度:878 件(全入力結果 35,174 件中)

           平成 31 年度:1,290 件(全入力結果 39,921 件中)

        かかる自己承認取引については、平成 29 年 12 月頃に、監査法人及び監査役の
       監査上の指摘があり、これを踏まえ、当社は、同月、経理財務部において自己承
       認取引を禁止することとし、その旨周知した。その後、自己承認取引は実施され
       なくなったが、X 氏が当社退職後の平成 30 年 4 月以降、Y 氏により再び自己承認
       取引が実施されており、上長や他の経理財務部員は特段かかる状況を問題視する
       ことはなかった。



(3) 経理財務部における多額の現金の取扱いと頻繁な現金の引出し

      当社においては、過去に営業店において 100 万円を超える高額な小口現金が保管さ
  れ問題となったこと等から、平成 27 年 6 月以降、営業店における小口現金の保有額
  を必要最小限に留めること、小口現金からの支出の機会を限定的とすることを決定し、
  現在までかかる運用に基づく取扱いがなされている。

      他方、当社の経理財務部においては、少なくとも平成 23 年頃から、従業員の経費
  の精算について、現金による支給が実施されていた。また、各営業店の電話利用料に
  ついても、自動引落しによる支払とされていなかったものについて、収納代行をする
  コンビニエンスストアにて、経理財務部員がまとめて現金で支払を行っていた。さら
  に、当社においては、毎年 4 月に全従業員を集めた士気高揚等を目的とする社員総会
  が実施されており、業績分配給及び表彰対象の従業員への賞金については、平成 29 年
  4 月頃まで、現金による支給が実施されていた。



                          - 14 -
   これらの精算に要する現金については、該当の支出が生じる直前に経理財務部の従
  業員が当社名義の銀行預金口座のキャッシュカードを利用して、銀行 ATM や銀行窓口
  にて都度現金の引出しを行って準備していた。

   かかる引出しは、日常的な経費の支払を目的とするものについては、月に数回程度、
  1 回につき数十万円の単位の金額で行われ、数十万円単位の現金が日常的に小口現金
  から出入りしており、少なくとも現金出納帳上、通常小口現金として想定される範囲
  を超えて 100 万円以上の多額の現金残高が存在することが常態化していた。

   また、業績分配給及び賞金に充当するための現金の引出しに際しては、毎年数百万
  円単位の多額の現金の引出しが行われることとなり、多い時では 1,100 万円にも上る
  ことがあった。そのような多額の現金が一時的にではあれ、経理財務部の金庫内で保
  管されていた。

   さらに、少なくとも、平成 24 年 4 月以降、当社名義の銀行預金口座のキャッシュ
  カードについては、経理財務部の金庫内に保管されていたものの、経理財務部員であ
  れば誰でも金庫を開けることができ、かつ、キャッシュカードの暗証番号を把握して
  おり、キャッシュカードを使用して現金の引出しをすることができる状況にあった。

   なお、平成 27 年 4 月からは社員総会における業績分配給及び賞金の支給について
  は、従業員の給与振込先となる銀行預金口座宛に振込処理により支払われることとな
  り、同月以降は現金での支払ではなく振込によるものとなった。もっとも、上記の経
  費については、相当額、現金による精算がなされている。



(4) 不透明な現金の入出金

   当社が上場する前の事実ではあるが、当社においては、上記(3)だけでなく、平成
  23 年から平成 25 年までの間、計 5 回にわたり、400 万円から 3,000 万円の多額の現
  金が当社名義の銀行預金口座から引き出され、一定期間が経過した後に、当該口座又
  は当社名義の別の銀行預金口座に引出額と同額の金員の預入れがなされた事実が存
  在した。

   当社代表者の A 氏及び取締役である B 氏によれば、これらの引出し及び預入れにつ
  いては、B 氏が当社入社前に所属していた会社に対する運転資金等を目的とした短期
  貸付けとその弁済の受領に該当するものとして、当社代表者の A 氏の了承のもと、B
  氏が帳簿外で実施したとのことである。

   X 氏は、上記資金の使途について知らされていなかったものの、 氏の指示により、
                                 B
  上記のうちいずれかの現金の引出しの事務手続に関与し、また、その旨について現金
  出納帳の記録担当であった Y 氏とも情報共有をした。こうした帳簿外の取引の存在は、
  X 氏や Y 氏の規範意識を低下させる契機となり、本件の着服に及ぶ心理的障壁を下げ
  る要因となったと考えられる。



                     - 15 -
 なお、かかる高額な現金の引出しは、いずれも当社が上場する以前に行われたもの
であり、平成 25 年 10 月以降は、こうした引出しが行われた形跡は認められない。




                - 16 -
3.   内部監査室の体制及び内部監査の結果

     (1) 内部監査室の概要

         当社においては、上場準備を契機として、平成 24 年 9 月から内部監査室が設置さ
       れ、現在まで D 氏 1 名が所属している。

         内部監査室の担当者は、平成 29 年度までは、毎年、本社及び営業所の全拠点の実
       査を行っており、平成 30 年度以降は、実査に要する交通費等の経費を削減するため、
       営業所への実査は行わず、テレビ会議システムにより担当者の聴取を行う等の簡易
       的な方法により代替して実施することとしている。なお、本社以外の営業所につい
       ては、平成 26 年は 19 拠点、平成 27 年は 21 拠点、平成 28 年は 25 拠点、平成 29 年
       は 33 拠点、平成 30 年及び平成 31 年は 37 拠点である。

         また、当社の組織図上、内部監査室は、レポーティング・ライン上、代表取締役
       社長の管掌下に位置するとされており、その人事評価権者は代表取締役とされてい
       る。しかしながら、実際に内部監査室の担当者の人事評価権者は以下のとおりであ
       った。

         ① 遅くとも平成 28 年 4 月から平成 30 年 3 月まで:X 氏

         ② 平成 30 年 4 月から平成 31 年 3 月まで:F 氏

         ③ 平成 31 年 4 月以降:Y 氏

         このように、内部監査室の担当者の実際上の人事評価権者は、内部監査が行われ
       る対象部署の所属長であり、かかる人事評価の結果を代表取締役が追認するものと
       されてきた。



     (2) 内部監査の結果

         当社所定の内部監査項目には、経理財務部に関するものについては、
                                       「現金…の残
       が台帳と合っているか」「出納帳は正確に作成、更新されているか」等という点が
                 、
       含まれる。

         これについて、平成 25 年 3 月から平成 31 年 3 月までに実施された内部監査室に
       よる内部監査のうち、平成 27 年 3 月付の内部監査報告書においては、経理財務部を
       含む本社における現金や金券類の管理について、現物と帳簿に整合性があり適切に
       管理されているとされており、それ以降に実施された内部監査の報告書においては、
       経理財務部に関する現金管理について特段の指摘は存在しなかった。

         もっとも、D 氏による現金出納帳の残高と小口現金の実残高の確認方法について
       は、経理財務部より内部監査を実施する月における現金出納帳(月中におけるもの
       であるため、1 カ月に満たない日数のものに過ぎない。)のみについて予め開示を受


                            - 17 -
け、内部監査室の担当者が実査を行う日時点の小口現金の実残高を確認し、当該現
金出納帳の残高と一致するかという方法により簡易的に確認しているに過ぎず、当
月以前の現金出納帳の現金の繰越残高の推移との整合性等を確認することはなかっ
た。

 また、D 氏による現金出納帳に記載される経費精算が適切であるかの確認方法と
しては、当該現金出納帳上に経費として記載されるもののうち、経理財務部がサン
プルとして抽出した費用について、経理財務部が提出した証憑との整合性のみを簡
易的に確認するというものであった。したがって、かかる確認に際して、内部監査
室の担当者が自らサンプルを抽出し証憑との整合性を確認するということはなかっ
た。

 このように、内部監査が簡易的な確認方法に留まった背景には、過去に D 氏が内
部監査を行った結果として、現金の管理を厳格に実施するように指摘をした際に、
指摘を受けた事業部や他の部門から反発を受けたことがあり、このような事実を踏
まえると、少なからず当社においては厳格な内部管理体制を維持することよりも、
業務効率を優先することが是とされる企業風土があったものと考えられる。

 また、当社の事業規模の拡大及びそれに伴う監査範囲の広がりに鑑みると、D 氏 1
名では、実効的な内部監査には限界があった面もある。

 このような事情があったことから、D 氏は内部監査の過程において、経理財務部
において金種表が適切に作成されていないことを把握していたものの、内部監査項
目に金種表の作成に関する定めが存在しないため、内部監査の結果としてかかる事
実を報告することはなく、かかる事項を次年度以降の内部監査項目に追加すること
もなかった。




               - 18 -
4.   現金の不正な出金、架空の経費計上等

      本調査の結果、当社においては、以下に詳述するとおり、X 氏及び Y 氏が、当社名義の
     銀行預金口座からキャッシュカードで現金を引出し、現金着服を行っていたことが認めら
     れた。

      また、現金引出しを行えば、現金出納帳上、現金が増加するが、X 氏及び Y 氏が着服し
     ている分については、当社の金庫内の現金は増えない。そのため、Y 氏が、現金出納帳上
     の小口現金の残高が多額になり過ぎないように、立替経費の精算を伴う経費伝票及び債務
     の支払伝票を自らが起票し、承認することによって、あたかも現金を正当に出金したかの
     ように偽装して、経費の架空計上を行って、本件の発覚を遅らせた。

      さらに、毎年 3 月の決算期末に行われる監査法人による本社の現金実査において、Y 氏
     は本件の発覚を防ぐための偽装工作を行い、現預金残高を実態に反して、現金出納帳通り
     の現金に有しているよう見せかけたうえ、かかる残高に基づき財務諸表を作成していた。

      以下、その手口について詳述する。



     (1) 現金の不正な出金について

           当社から開示を受けた各資料、 氏及び Y 氏に対する聴取等を踏まえ、
                         X                   本委員会は、
       過去に行われた銀行預金口座からの出金について、不正な出金であるかについて調査
       を行った。X 氏及び Y 氏が認めた不正な引出しの手口及び金額については、以下のと
       おりである。



       ①    不正な出金に係る手口

             X 氏及び Y 氏による不正な出金の手口としては、経理財務部にてキャッシュカ
            ードを保管している当社名義の銀行預金口座から、ATM を利用して、現金の引出
            しを行い、着服するというものであった。

             不正な出金に利用されたのは、当社本社用に開設された株式会社りそな銀行及
            び株式会社みずほ銀行の銀行預金口座であった。これらの銀行預金口座が利用さ
            れた理由としては、本社経理財務部にて通帳やキャッシュカードを管理している
            こと、預金額が多額であること、経費精算や費用の支払のための現金の引出しを
            日常的に行う口座であることから、不正な出金がなされたとしても、他に開設す
            る銀行預金口座に比して、発覚する可能性が少ないという点にあったとのことで
            ある。

             不正に出金された現金の資金使途について、X 氏によれば私的な借入の返済等
            に、Y 氏によれば生活費、私的な交通費、遊興費等にそれぞれ充当した旨を供述
            する。



                         - 19 -
     上記 2.(3)のとおり、小口現金用の現金の引出しについては、特段のルールが
    定められておらず、必要な経費の支払に対して小口現金の残高が不足する場合に
    は、経理財務部の従業員であれば誰でも随時キャッシュカードを利用して現金を
    引き出し、小口現金に補填するという運用を行っていた。そのため、現金着服を
    行っていた X 氏及び Y 氏が小口現金の管理担当外となった以降も、キャッシュカ
    ードを利用した不正な現金の引出しが可能であった。



②   着服に係る認定

     本委員会は、経理財務部員により過去に行われた当社名義の銀行預金口座から
    の現金の引出しについて、X 氏及び Y 氏に対して同人らによる着服か否かを確認
    した。

     もっとも、本件の着服が、現金の引出しによるものであり、誰が引出しを行っ
    たかについて記録が残らず、着服した金額を、X 氏や Y 氏の預金口座に入金した
    形跡もほとんど見受けられず、また、当社における経理資料がしばしば証跡と一
    致しない内容のものであることがあり、本調査において客観的に依拠できる十分
    な資料が存在しなかった。

     そのため、現金出納帳上の小口現金への入金記録及び通帳の現金払戻しの記録
    をもとに、これらに記録される個別の現金の引出しについて、当該引出しが行わ
    れた時期と近接する時期に現金出納帳上に支出が記録された経費(下記の不正の
    経費計上分を除く。)と比較して、経費の支出に充当された引出しといえるか確
    認をして、経費に充当された可能性の低い引出し分について、X 氏及び Y 氏に対
    して、不正の引出しをしたものであるか、同人らの記憶を喚起しながら、逐一確
    認するという方法に依拠して着服の有無を認定した。

     そして、平成 23 年 4 月分から個別の現金の引出しについて上記の確認を行っ
    たところ、現時点で最長 8 年以上も前の出来事であること、8 年以上にわたる多
    数回に及ぶ経理財務部による現金引出し全てが確認対象となることから、調査の
    性質上、経費に充当されていない可能性のある現金引出しであっても、自身らに
    よる着服対象であったかについて、同人らが十分に記憶喚起できないものが少な
    くなかった。

     以上の方法による調査に対する同人らの回答結果は別紙 2 のとおりであり、累
    計は下表のとおりである。

          回答結果              X氏            Y氏

    自身の着服に間違いない                  0円     6,530,000 円

    自身の着服の可能性が高い            900,000 円   6,000,000 円



                   - 20 -
自身の着服の可能性がある         3,150,000 円     5,860,000 円

         合計          4,050,000 円    18,390,000 円



 これについて、X 氏及び Y 氏が、
                  「自身の着服に間違いない」又は「自身の着服
の可能性が高い」と供述した現金の引出しについては、同人らにとって不利益な
事実を敢えて認める供述であること、当該引出しの前後にはこれを充当したと考
えられる経費が存在しないことから、事実であると認定する。

 また、X 氏は、平成 30 年 3 月時点における自身の着服額の累計については 400
万円から 500 万円程度という認識であったと述べていること、下記 5.(2)②のと
おり X 氏は当社に対して 480 万円の弁済をした事実が認められることから、同人
の着服額は 480 万円程度存在した可能性があるといえる。そして、別紙 2 のうち、
X 氏が「自身の着服の可能性が高い」及び「自身の着服の可能性がある」と回答
した現金引出し額の合計が 405 万円であり、480 万円と大きく相違しないことを
踏まえると、X 氏については、
              「自身の着服の可能性が高い」と回答した現金引出
し分に加え、少なくとも「自身の着服の可能性がある」と回答した現金引出し分
についても着服の事実を認定ができるものと考えられる。

 他方、 氏については、自身の着服の可能性がある」
    Y      「             と回答したものについて、
あくまで自身による着服の可能性が否定できないものであるという回答に留ま
り、それ以上にかかる引出しについて Y 氏による着服であると認定するに足る証
拠が存在しない。そのため、Y 氏については、
                     「自身の着服の可能性がある」と回
答したものについて、Y 氏による着服であると直ちに認定することはできないと
考える。

 以上を踏まえると、本委員会として、X 氏及び Y 氏について、それぞれ着服を
行ったものと認定できる金額及び現金引出し件数については、下表のとおりであ
る。

                    X氏             Y氏

       着服認定額     4,050,000 円    12,530,000 円

       着服認定件数            21 件           36 件



 なお、本項目で不正な引出しとして認定した金額は、後記(3)で述べる架空の
経費計上として認定した額よりも少ないが、本調査は、上述のとおり客観的に立
証するに足る証拠が必ずしも十分に存在するものではなく、X 氏及び Y 氏の供述
に依拠せざるを得ないこと、捜査機関による強制的な手段を利用できる捜査とは
異なり、当社関係者の協力に基づく任意調査であることから、調査の結果は当社

                - 21 -
      関係者の協力度合いに影響を受けることは否定できず、採り得る手段に自ずと限
      界があることを付言する。また、上記のとおり、当社の経理財務部では、経理書
      類の作成にたびたび不備が生じていたという点も、過去の事実関係の把握を困難
      とする要因となったという点も指摘する。さらに、架空計上の認定額の中には、
      経費計上における領収書等の証憑の漏れも含まれ得るが、現時点で、過去に遡っ
      て真の架空計上と証憑漏れの経費計上を区別することが困難な場合があり、そう
      した場合には、保守的な会計処理の観点から、架空計上と認定しているため、そ
      うした事情も架空計上額の認定額と着服の認定額の差異を生じさせる原因とな
      っている。



(2) 小口現金からの着服について

   本件における X 氏と Y 氏による着服の手口は、主として、当社名義の銀行預金を引
  き出した際に、直ちに着服して、現金出納帳上は、当社の小口現金としての現金残高
  が増額されるというものであるが、 氏によれば、
                  Y      平成 31 年 4 月から同年 6 月までの
  間については、小口現金に多額の現金残高があったため、小口現金から着服を行って
  いたとのことであり、その累計については正確には把握していないものの、100 万円
  程度であったとのことである。

   これについて、上記期間中の現金出納帳の記載によれば最低でも 400 万円を超える
  残高があるものとされていること、上記期間中は現金の引出しを行わずに費用の支払
  を行っている場合が散見され小口現金に一定程度の現金が存在したものと推測され
  ること、着服の事実は Y 氏にとって不利益供述に該当することから、かかる着服に関
  する Y 氏の供述については信用性が認められると思われる。

   したがって、本委員会は、Y 氏は上記期間中、100 万円を小口現金から着服したも
  のと認定する。



(3) 架空の経費の計上について

   当社から開示を受けた各資料、 氏及び Y 氏に対する聴取等を踏まえ、
                 X                   本委員会は、
  過去に計上された経費について、架空であるかについて調査を行った。その結果、X
  氏は不正の経費の計上をしていないと述べ、Y 氏は自身のみが不正の経費の計上を行
  っていたと認めた。Y 氏が認めた不正な経費の計上の手口及びその金額について、以
  下のとおりである。



  ①   架空の経費の計上に係る手口

       上述した現金の着服が長期間にわたり発覚しなかった原因として、現金出納帳
      上の現金の残高が実態より多額とならないよう、Y 氏が、多数の架空取引を計上


                    - 22 -
    して帳簿を不正に操作したことが確認されている。

     すなわち、現金の着服により帳簿上の現金残高が多額となり、不正が発覚する
    ことをおそれた Y 氏が、架空の立替経費精算の取引を作成するなどして、あたか
    も正当に現金の出金があったかのように見せかけ、小口現金の残高が著しく過大
    にならないよう帳簿を不正に操作していたものである。

     これらは、当社において、顧客に謝礼として交付する金券の購入費用、通勤費
    や出張旅費等について、まとまった金額の取引申請が反復して発生していた状況
    を悪用して、同様の取引が存在するかのように見せかけて架空計上したものであ
    る。また、Y 氏が小口現金の管理の担当外となった以降についても、管理の担当
    者が退社した深夜の時間帯に現金出納帳への架空取引の記帳をし、会計システム
    への経費伝票の作成及び承認を実施することにより、かかる架空計上を行ってお
    り、内部統制システムによる牽制機能を事実上無効化するような行為を行ってい
    たものである。



②   架空の経費の計上に係る認定

     Y 氏が不正な経費の計上を認めた金額について、別紙 3-1 のとおり認定する。

     これらの偽装工作の取引により、当社では、会社の財務諸表は各決算期におい
    て、下表のように販売費一般管理費が水増しされた状態により決算が行われ、そ
    れに伴い営業利益、経常利益、税引前当期純利益も過少に財務報告が行われてい
    る結果となった。

     なお、上記の各架空計上の認定額の中には、経費計上における領収書等の証憑
    漏れも含まれ得るが、真の架空計上と証憑漏れの経費計上を区別することが困難
    であること、Y 氏が架空計上の可能性があると供述していることから、保守的な
    会計処理の見地に立って、証憑漏れの計上に過ぎない可能性があるものも含めて、
    架空計上と認定している。

      事業年度    件数(件)         金額(円) 税込        金額(円) 税抜
     平成26年3月期       3           5,475,000       5,214,287
     平成27年3月期      10           2,417,756       2,238,667
     平成28年3月期      16           7,354,226       6,809,475
     平成29年3月期      25           9,643,863       8,929,514
     平成30年3月期      41           6,801,383       6,297,600
     平成31年3月期      21           6,136,286       5,681,756
     令和2年3月期        1             218,664         202,467
       合計         117          38,047,178      35,373,766



     これに対して、別紙 3-2 の経費については、本調査において証憑の存在を確認
    することができなかったものの、Y 氏は自身がかかる経費について不正計上をし


                   - 23 -
    ていないはずであると供述したものである。その供述は、低額の経費を不正に計
    上する実益がないという同氏の発言とあいまって不自然とはいえないこと、当社
    が他に作成する帳簿にて不正が明らかとなりうる経費については計上しないと
    いう同氏の発言を踏まえ不自然とはいえないこと、供述内容の一貫性等の観点か
    ら直ちに信用できないとまでいえない。さらに、経理財務部においては会計資料
    の作成が不正確であった場合が散見され証憑管理についても適切に実施されて
    いなかった可能性があること、他に当該経費について実態がないものと認める証
    拠がないことも併せ考慮すると、本件では、かかる経費については、実態がない
    経費の計上と直ちに認定することはできないものと思われる。



(5) 監査法人が実施する現金残高実査に向けた不正な対応

   当社は、平成 27 年頃から、上場準備に向けて監査法人が会計監査人として選任さ
  れ、財務諸表監査及び上場準備に関する助言指導が行われるようになった。これによ
  り、毎年決算日には監査法人による当社の本社及び各店舗の事業所への実査が行われ
  るようになり、監査法人により、決算日時点の現金出納帳の現金残高と小口現金の実
  残高が一致するか確認されるようになった。

   もっとも、当該実査が行われるようになった平成 27 年時点では既に現金出納帳の
  現金残高と小口現金の実残高は一致しないことが常態化していた。

   そして、当社においては、毎年 3 月末に決算作業の一環として行われる監査法人に
  よる本社の現金実査について、店舗の現金実査が優先されるスケジュールが組まれて
  おり、通例的に決算日の 3 月 31 日ではなく翌日 4 月 1 日午後に実施されていた。

   Y 氏は、かかる状況を利用し、平成 27 年以降、着服により生じた小口現金の残高不
  足分を、毎年 4 月 1 日午前中に当社名義の銀行預金口座から引き出し小口現金に振り
  替えることにより穴埋めし、決算日に、現金出納帳上の残高通りの現金が存在するか
  のように見せかけて、現金残高を偽装した。かかる引出し額は以下のとおりである。

               決算期            金額
              平成27年3月期       3,460,000円
              平成28年3月期       4,000,000円
              平成29年3月期       4,250,000円
              平成30年3月期       2,000,000円
              平成31年3月期       5,500,000円

   かかる引出しにより金庫に保管された現金は、引出し先の銀行預金口座に預入れさ
  れた形跡は存在せず、そのまま小口現金として保管され費消されたものと推測される。

   この結果として、当社は、会計帳簿に現金預金の残高数値を実態と異なり過剰に計
  上することとなり、その数値に基づき財務諸表を作成し、決算開示及び株主総会への
  上程を行うこととなった。



                    - 24 -
   なお、平成 30 年については、他の年に比して引出し額が 200 万円と少額であるが、
  これについては、同年の現金出納帳の現金残高と小口現金の実残高の不一致額が例年
  に比して少額であったというものではない。下記 5.(2)②に述べるように、X 氏によ
  る着服額の返金があったため、かかる返金額分だけ当該不一致が解消し、同年につい
  てのみ当該不一致を解消するために銀行預金口座から引き出す金額が少額で済んだ
  というものに過ぎない。



(6) X 氏及び Y 氏の通謀の可能性について

   本件の一連の現金の引出し、経費の計上等の不正行為について、X 氏及び Y 氏が両
  者間で通謀して行った可能性が疑われるものの、X 氏及び Y 氏ともに、通謀によるこ
  とを一貫して否定している。

   この点について、X 氏が自身の現金の引出しが事後的に発覚しないように架空の経
  費の計上を行うよう Y 氏に要請することはなかったという点は、通常、事実経緯とし
  て必ずしも自然であるとはいい難い。

   しかしながら、X 氏のみが自身の着服相当額と主張する金員(480 万円)を当社に
  弁済したこと自体は上記のとおり証拠上事実として認定できるものであり、仮に両者
  間で通謀がなされて、X 氏が Y 氏による架空計上を知っていれば、X 氏は当社に弁済
  する必要性を感じなかった可能性があり、それでもなお弁済の可能性を感じたならば、
  X 氏は Y 氏に対しても同様の弁済を求めることが自然であったと思われるところ、X
  氏はそのような対応をせず専ら自身のみが弁済を行っていた。こうした事実を踏まえ
  ると、本件の不正行為が両者間に通謀なく実施されたものであるという供述もあなが
  ち信用性を否定できないものといえる。

   したがって、本委員会が確認する各証拠や事実関係を踏まえる限りにおいて、両者
  間に本件の不正行為の通謀があったという事実を認定することはできないものと思
  われる。

   もっとも、 氏は、 氏による現金着服を事後的に認識していたことは認めており、
        Y   X
  そのため、経理財務部の経理手続の信用性が損なわれることをおそれるとともに、自
  らの現金着服が発覚するのをおそれ、自らの着服分だけでなく、X 氏による着服分を
  も隠蔽すべく、その分も含めて、経費の架空計上を行っていたものと認められる。




                     - 25 -
5.   その他の調査結果

     (1) 振込処理による不正な支出の有無の調査

        本委員会は、現金の引出し以外にも振込処理による不正な支出が存在しないか確
       認するべく、本件の不正な現金の支出が集中して行われた時期が含まれる平成 29 年
       4 月乃至令和元年 6 月までの間において、経理財務部が独自に決裁し振込処理を行
       ったものについて、取引実態がないにもかかわらず実施された振込処理がないか調
       査をした。

        かかる調査においては、特段問題のある振込処理は見受けられなかったこと、振
       込処理による場合には振込情報が通帳及び取引履歴上に記録として残るため不正の
       手口として利用される可能性が相当程度低いと考えられること等から、当該期間以
       前についても振込処理による不正な支出は存在しないものと認定する。



     (2) X 氏による金員の穴埋め及び着服分の返還の事実の有無

        ①   金員の穴埋めについて

             X 氏は、平成 26 年 3 月頃、現金出納帳上の現金残高と小口現金の実残高に
            約 200 万円の差異が生じており、その原因は不明であるものの、経理財務部
            部長であった自身の管理責任を問われる可能性をおそれ、自ら金融機関等に
            借入を行い、200 万円を埋め合わせたと述べる。

             これについて、同月に X 氏が金融機関から 150 万円を借り入れた事実、X 氏
            が 200 万円を埋め合わせたとする X 氏及び Y 氏の供述の一致が認められるも
            のの、他に 200 万円が当社の小口現金に納められたという証憑が存在しない。
            また、同月及びその前月の現金出納帳上、いずれの時点においても現金残高が
            200 万円を超えた記録が存在しないため、かかる記録上は当該各月時点におい
            て現金出納帳上の現金残高と小口現金の実残高に 200 万円程度の差異が生じ
            ていたとはいうことができない。

             これらを踏まえると、平成 26 年 3 月頃に現金出納帳上の現金残高と小口現
            金の実残高に約 200 万円の差異が生じたという事実及び X 氏が自費でかかる
            差異を解消させるべく 200 万円を埋め合わせたという事実を認定することは
            できない。



        ②   着服分の返還について

             X 氏は、平成 30 年 3 月末頃、自身の着服相当額として約 400 万円から 500
            万円の金員を当社に返還したと述べている。



                          - 26 -
            この点について、X 氏は同月 27 日に親族から合計 800 万円の借入を行って
           おり同月 28 日に 700 万円を現金で引き出していること、同日付で当社名義の
           銀行預金口座に現金で 480 万円の預入れがされていること、 氏が約 400 万円
                                         X
           から 500 万円の金員を返金したとする X 氏及び Y 氏の供述の一致が認められ
           ること、上記 4.(5)のとおり例年 4 月 1 日に実施されていた現金残高と実残高
           の差異を埋め合わせるための現金引出し額が例年に比して少額であったこと
           を踏まえると、X 氏により 480 万円の返還が行われ、かかる金員について、小
           口現金として保管されたものと認定することが自然といえる。



6.   本件の発覚後の対応

      本件については、元従業員 G 氏が在職中に独自に行った調査により発覚し、平成 31 年
     4 月 19 日、同氏が Y 氏に対して問いただしたところ、Y 氏が本件を自供したものであっ
     た。かかる事実について、同月 22 日、G 氏は取締役である B 氏及び E 氏に対して報告をし
     たところ、B 氏は内部監査室の担当者である D 氏に対して事実関係の調査を指示した。同
     月 23 日、D 氏は B 氏及び E 氏に対して、G 氏の報告どおりの事実が確認できる旨を報告し
     た。

      しかしながら、B 氏は、D 氏及び E 氏に対する同日付メールにおいて、一旦自身に取り
     扱いを預からせて欲しい旨を述べ、B 氏は本件について直ちに取締役会に報告することを
     怠り、また、E 氏は、B 氏に本件の対応を委ねたままとし、本件の事実を認識しながら取締
     役会に直ちに報告しなかった。

      そして、B 氏は、D 氏及び E 氏に対する同年 5 月 20 日付メールにおいて、決算手続を途
     中で止めることのリスクを考えて、一先ずは本件を黙認してかかる手続を進めた旨を述べ、
     また、同人らに対して、一連のメールやデータを削除して知らなかったことにしても構わ
     ない旨を述べた。

      このように、B 氏が上記メールで D 氏及び E 氏に対してデータの削除を示唆したのは、
     B 氏が本件の対応について B 氏自身に一任して欲しいと D 氏及び E 氏に求めていたとこ
     ろ、その後、相当期間経過してしまった状況に鑑みて、D 氏及び E 氏に報告遅滞の責任が
     及ばないようにするべく、関連する B 氏と D 氏及び E 氏とのメールのやり取りを削除して
     はどうかと提案したとのことである。B 氏は、本件自体を隠蔽する工作を行っているとは
     認められないが、平成 31 年 3 月期の決算手続を円滑に進めるために、本件の報告を遅ら
     せていたとものと認められる。

      その後、令和元年 6 月 20 日、取締役に就任予定であった本委員会の委員長(同年 7 月
     1 日就任。以下「本委員長」という。
                      )が、取締役に就任するにあたって、業務の把握等の
     目的で行った経理財務部員の面談に際して、本件の不正行為の疑いとともに B 氏がこれを
     関知している事実を聞き、本委員長が A 氏とともに、B 氏に確認したところ、B 氏は、本
     件の不正行為の疑いを知っており、報告が遅れたことを認めた。そこで、A 氏は、同月 24


                         - 27 -
日、本件の不正行為の疑いについて、実行行為者である X 氏及び Y 氏から事情を聴取し、
事実の確認(初期調査)をしたうえで社内報告を行うこととした。

 しかしながら、当初 Y 氏から聴取への協力を得ることができず、ようやく同年 7 月 12
日に事情聴取をして、同人らが不正行為の一部について認めたため、A 氏は、同月 16 日に
取締役会に報告し、当社の取締役会は、同月 22 日に、本件の事実関係を詳細に明らかに
するべく本調査を実施することを決定し、これを社外に公表した。




                  - 28 -
             第3部 本調査で判明した不正の取引額及び連結財務諸表への影響



1.   総括

      本調査で判明した不正の取引額及び連結財務諸表への影響に関しては、最終的に、会
     計監査人との協議を経たうえで決定されるべきものであるが、本調査における本件の不
     正行為の事実認定は、特に現金の引出しについてはX氏及びY氏の供述に依拠せざるを得
     ない点が多く、事実として不明確な点が存在することは否定できないものの、少なくと
     も本委員会が把握する各証拠を踏まえ、本調査において認定可能な本件の不正取引につ
     いて、連結財務諸表に与える影響は、現時点では全体として軽微といえる。以下、検討
     結果の詳細を述べる。



2.   連結財務諸表に与える影響額を個別確定できたもの

     (1) 本件の不正取引の内容

           前記の架空計上及び現金残高の不正計上に関しては、上記1の前提のもと、平成
          27年3月期から平成31年3月期までの連結財務諸表に対して与える影響額が個別確定
          された。



     (2) 検討結果

           上記1の前提のもと、架空計上及び現金の不正計上の連結財務諸表に与える影響
          額は下表のとおりである。

連結財務諸表に与える影響額                                               (単位:千円)
    修正科目    平成26年3月期 平成27年3月期 平成28年3月期 平成29年3月期 平成30年3月期 平成31年3月期
     売上高                 -        -        -        -          -
   売上総利益                 -        -        -        -          -
 販売費及び一般管理費     △ 5,214  △ 2,238  △ 6,809  △ 8,929  △ 6,297    △ 5,681
    営業利益          5,214    2,238    6,809    8,929    6,297      5,681

      現金預金            0      3,460     4,000    4,250    2,000     5,500




                              - 29 -
                       第4部 原因の究明



 本調査対象のうち、「第 2 部   本調査の結果」において認定した、本件の現金の不正の引出
しや架空経費の計上は、その実行行為者である X 氏及び Y 氏における倫理観の欠如に起因する
ものであることは間違いない。

 しかしながら、当社として、本件のような長年にわたる不正行為の機会を与え、現在に至る
まで発覚が遅れたという点で、内部管理体制が十分に機能していなかったことを認めざるを得
ない。

 以上を前提に、本委員会は、当社として本件の不正行為を未然に防ぎ又は早期に発見するこ
とができなかった原因を以下のように考える。



1.   内部管理体制を重視しない企業風土

      当社では、既述のように、経理財務部の従業員にマルチタスクによる多量の業務処理
     が課せられきた経緯があり、職務分掌と異なる業務にもたびたび従事させていた。即
     ち、当社は、形式的には業務ごとに部門を設置し、職務分掌を明確に区分し、内部管理
     体制を構築したものの、実際はこれと異なる実務運用を行っており、各部門が本来担う
     べき職責を十分に果たすことができにくい状況が生じていた。
      当社は、上場を機に組織として拡大し、間接部門の人員の補充等の一定の対応を講じ
     たものの、十分な人員補充等ができなかったため、経理財務部における経理手続の形骸
     化が進む一方で、経理業務が属人化し、相互牽制が働かない状況となった。
      また、当社では、内部監査室の担当者がこれまで 1 名しかおらず、既述のように、内
     部監査について簡易的な手法が採用された。
      これらの事情を踏まえると、当社における業容の急拡大に沿って、内部管理体制を拡
     充させる程には、内部管理体制は重視されておらず、そうした状況が、X 氏及び Y 氏に本
     件の不正行為の機会を与え、また、その発覚が遅れた遠因であると考えられる。



2.   業務の二重確認体制の形骸化



     (1) 特定の者への業務の集中
         上記のように、X 氏及び Y 氏については、職務分掌上担当外である業務を含め、
       多くの業務を処理することが求められた。
         それに伴い同人らの業務が逼迫することとなり、そのため、必然的に本来担当す
       る経理業務について疎かにならざるを得ず、たびたび経理書類にミスが生じる事態
       が生じるだけでなく、経理財務部において、業務の二重確認を怠り、むしろ、自己



                         - 30 -
          承認取引すらまかりとおる状況となった。また、当社の経理業務は Y 氏に依存する
          こととなり、かつ、Y 氏の経理処理に関する牽制は十分に働かなかった。


     (2) 経理財務部全体における業務の二重確認体制の形骸化
           上記のように、X 氏及び Y 氏が他の者の業務を確認しない状況にあったこと、た
          びたび経理書類に不備が生じていたこと等から、同人らの部下である他の経理財務
          部員についても、かかる状況が日常となり疑問を抱くことがなくなり、経理業務に
          対する経理財務部全体の規範意識が低下するに至ったと言わざるを得ない。
           これにより、経理財務部全体において、業務の二重確認が形骸化した状況で行わ
          れるに留まり、また、経理書類のミスについて特段疑問視しない状況が生まれた。
          特に X 氏及び Y 氏が行う業務については、同人らに属人化し、他の者が関与しない
          ものも存在したという点も、同人らが行った業務に他の者が関与することがない事
          態に繋がったといえる。
           さらに、X 氏及び Y 氏以外の経理財務部員も、現金出納帳の現金残高と小口現金
          の実残高に大幅な差異が長年継続して発生していた状況を把握していたものの、本
          件を内部告発した G 氏を除いて、誰一人として異を唱えるものが存在しなかったと
          いう点も、経理財務部全体の規範意識の低下を示す一事情と指摘せざるを得ない。
           かかる状況こそが、X 氏及び Y 氏による不正な現金の引出しや Y 氏による不正の
          経費計上の機会を与えたものといえ、また、当社としてこれらを早期に発見するこ
          とができず、長年にわたり漫然と見過ごされる要因となったといえる。



3.   杜撰な経理業務が放置された環境

      上記 2 のとおり、経理財務部において適切な業務が行われない体制が長年にわたって
     継続していた状況から、経理書類にたびたびミスが生じており、また、そもそも現金出
     納帳にその作成担当者以外の者でも容易にアクセスでき、かつ、修正可能なものであっ
     た。
      このような状況が、本件の不正行為を容易にし、また、発覚を遅らせた要因に繋がっ
     たというべきである。



4.   取締役による内部管理体制の不備

      上記 2.(2)及び 3 で述べた経理財務部の体制の問題は本来的には各経理財務部員が自身
     に委ねられた職責を適切に全うしていれば生じないものであり、個々の担当者の倫理観
     に問題があったといえ、また、X 氏及び Y 氏が犯した不正行為についても個々の倫理観の
     欠如が原因であるといえる。
      しかしながら、本件は単に X 氏及び Y 氏という一部従業員の倫理観の欠如により生じ
     た不祥事案という問題だけに留まらず、そもそも本件を容易にした経理財務部全体の体
     制不備についても根深い問題が内在していることを指摘することができる。なぜなら
     ば、本件における経理財務部自体の体制不備は、経理財務部員が巧妙に秘匿して作出し


                         - 31 -
     たものではなく、単に経理財務部員として通常果たすべき職責を果たしていなかったと
     いうものに過ぎないからである。したがって、経理財務部を管掌する取締役としては、
     自身が管掌する部門を管理する中で、かかる体制不備について少なくとも把握すべきも
     のであり、また、容易に把握することができたものである。
      しかしながら、実際は、当該各取締役は経理財務部自体の業務量の把握や人員補充な
     どに取り組みつつも、部下を信頼するあまり、自身の職責である経理財務部の確認の程
     度を緩めていたと言わざるを得ず、そのために、適切な内部管理体制が機能しなかった
     ものといえる。
      このように、経理財務部を管掌する取締役による確認が行き届いていなかったという
     職務の怠慢が、X 氏及び Y 氏による不正行為の発生を未然に防ぎ、又はこれを早期に発見
     することができなかった要因であると言わざるを得ない。



5.   現金についての管理体制の不備



     (1) 容易に現金引出しが可能であること・小口現金に多額の現金が出入りしていたこと
         当社においては、経費精算や業績分配給及び社員総会における賞金の支給が現金
       で実施されていたため、かかる精算金や賞金の支給のために、経理財務部の従業員
       が都度必要な現金の引出しを行っていた。そして、経理財務部の従業員であれば、
       金庫に保管されるキャッシュカードの暗証番号を把握していたため、誰でも容易に
       現金の引出しが可能であった。
         このように、当社の経理財務部においては、従業員が日常的に容易に現金を引き
       出すことができたという状況が、X 氏及び Y 氏による着服を容易にさせたと言わざ
       るを得ない。
         また、上記のように頻繁に現金の引出しがなされ、小口現金から多額の現金が出
       入りする状況であったことから、小口現金でありながら 100 万円を超える高額な残
       高が存在する状態が常態化していた。このような状況も、不正な現金の引出しを容
       易にし、発覚が遅れた原因というべきである。


     (2) 役員が主導して帳簿外での現金引出しを行っていたこと
         上記に加え、当社では、上場する以前に取締役 B 氏が主導し代表者 A 氏の了承の
       もと数千万円単位の現金が引き出され、帳簿外で処理されていたという事実が複数
       回存在した。
         かかる事実の存在は、当該引出しの事務手続に関与した X 氏にとって(さらに、
       その事実を X 氏から耳にした Y 氏にとって)、自身も同様に私的な支出のために会
       社財産を横領することへの心理的障壁を下げる要因となったことは否定できない。




                        - 32 -
6.   内部監査室の体制不備

      経理財務部に対する内部監査項目上、現金出納帳の記載の正確性が監査の対象とされ
     ていたものの、その確認方法については、実査を行った月の現金出納帳(月中のもので
     あるため、1 カ月に満たない日数分のものに過ぎない。)を確認するのみであり、また、
     経理財務部がサンプルとして抽出した経費の処理についてのみ証憑との整合性を確認す
     るという簡易的な手法を採るに留まっていた。
      しかしながら、本件で問題となった現金出納帳の残高と小口現金の実残高の不一致や
     不正の経費計上については、必ずしも外部から発覚が容易でない態様ではなかったとい
     える。そのため、内部監査室として、例えば、確認対象月の前数カ月の現金出納帳と比
     較をすることや、経理財務部ではなく内部監査室側が無作為に選別した経費について証
     憑が存在するか確認をすること等によって、証憑のない経費の計上を容易に発見するこ
     とができるものであった。そのような確認手法は、これまで行っていた監査方法に加え
     て実施したとしても、特段過重な負担となるものではないと考えられる。
      そのため、当社の内部監査については、形式的には監査項目に基づき実施されたもの
     であったとしても、実態として実効性のある内部監査が実施されていたとはいえないも
     のであった。これが本件の不正な現金の引出しや不正な経費計上を長らく見抜くことが
     できなかった一要因となったといえる。
      さらに、当社は内部監査室を設置して以降現在に至るまで 1 名のみの人員を配置する
     に過ぎず、同人が本社を含む全拠点の内部監査を実施するものであった。現時点では本
     社以外の営業所は 37 拠点にまで大幅に増加したにもかかわらず、依然として内部監査室
     としては 1 名の人員しか配備されていない状況である。かかる状況では拠点ごとに十分
     な内部監査を実施することができる体制であるとはいい難い。
      加えて、内部監査室の担当者の人事評価権者が内部監査の対象部署の所属長であった
     という点は、内部監査室の独立性が阻害される事情であるといえ、むしろ、これまで実
     施されてきた内部監査が実効性を有しないものとなった要因と推測することもできる。



7.   一部取締役におけるコンプライアンス遵守に係る意識の欠如

      当社においては、元従業員 G 氏の内部告発により、平成 31 年 4 月 22 日、取締役 B 氏
     及び取締役 E 氏は、本件の不正行為の事実を認識するに至ったものの、B 氏がこれを自身
     の責任で対処する旨を述べ、その後約 2 カ月もの間、取締役会への報告を怠った。
      このように、取締役自身が会社において生じた重大な不祥事案について、適切に取締
     役会に報告し対処するということをせず、約 2 カ月も対応を怠るような対応をとってい
     たという点は、その下位に位置する従業員としても、本来報告すべき事項について、漫
     然と見過ごすことに抵抗がない環境下にあったとことを推測せざるを得ない。
      上記の報告漏れ等については、本件の不正行為の発覚後に行われた行為であり、本件
     の不正行為自体を招いたものではないにせよ、取締役により上記の報告漏れ等が行われ
     たということ自体が、当社全体として不正行為に対する報告体制に関する意識が必ずし




                          - 33 -
も高くないことを示しており、重要事案が直ちにレポーティング・ラインに従い報告さ
れるという体制が十分に整っていないと考えられる。




                - 34 -
                   第5部 再発防止策の提言



 今回、当社において生じた不正の現金の引出し及び経費の計上については、上記のとおり、
その実行行為者である X 氏及び Y 氏による倫理観の欠如に原因があるという点は勿論である
が、
 「第 4 部 原因の究明」で述べたとおり、それに留まらず、当社の組織として、これらの不
正の発生の機会を与え、あるいはその発覚を遅らせたという当社の内部管理体制の不備にも、
問題の根幹があると指摘せざるを得ない。

 したがって、当社は、本件について単なる個別の不祥事案として捉えるのではなく、組織全
体の問題として重く受け止め、改善策の具体的な検討及び実行について真摯に向き合わなけれ
ばならず、当社の今後の内部管理体制のあり方について、計画、実行、検証及び改善を継続し、
確固たる決意をもって継続的に取り組むことが必須といえる。

 このような観点から、本委員会は、前記「第 4 部      原因の究明」で詳述した点も踏まえて、
今後当社において同様の不祥事案が発生しないよう、内部管理体制を有効に構築し機能させる
ために、以下の再発防止策を提言する。



1.   内部管理体制が重視されない企業風土の是正

      当社においては、内部管理体制の不備が長年にわたり続いていたことから、内部管理体
     制が形骸化しており、それゆえに、本件のような、必ずしも巧妙な手口ではない不正行為
     を長年にわたり容易にし、また、発見できない事態に繋がった。

      かかる事態は、当社の経営陣により十分な内部管理体制の構築がなされなかったゆえに
     生じたものというべきであり、当社の経営陣は内部管理体制が形骸化した現状を深く反省
     すべきものといえる。

      今後、当社は適切な内部管理体制を構築することが急務といえ、その職責については、
     当社の代表者が中心となり、経営陣が主体的に果たすことが求められ、かつ、そのことを
     従業員に対して明らかにすることが肝要といえる。



2.   適切な経理業務の実施に向けた体制整備

     (1) 特定人に業務が集中する状況の改善


        当社においては、特に X 氏及び Y 氏に対して、職務分掌の対象外の業務を含め、
       多くの業務が集中したことが結果として経理財務部全体の業務体制の不備を招き、
       本来機能すべき内部統制が機能しなくなったといえる。本件では、特定人に業務が
       集中することで同人が本来果たすべき職責を十分に果たせなくなるという事態が生


                      - 35 -
       じ、牽制機能が脆弱化し、不正が発生する温床を生み出したことは容易に想像でき
       る。


         具体的には、特定人に業務が集中し属人化すると益々外部からはその業務の状況
       を把握することができず、不正を容易にする状況が生まれ、また、不正が生じてい
       たとしても、その発覚の妨げとなるものといえる。かかる問題は、本件では経理財
       務部において生じたものであるが、同部に限った問題ではないといえる。


         このような点から、当社においては、経理財務部に限らず、職務分掌に基づく適
       正な業務の分配及び適切な人員の配置を実施し、かかる状況を改善することが必要
       と考えられる。



     (2) 経理財務部における業務体制の再整備

         当社の経理財務部においては、特に正確性が求められる経理業務について、従業
       員相互の業務について実質的に二重確認しない状況が常態化し、経理書類にたびた
       び不正及び不備が生じる事態が生まれた。現金出納帳の現金残高と小口現金の実残
       高の不一致が生じていたことを複数の経理財務部員が認識していたものの、長らく
       の間これを疑問視し異を唱える者がいなかったという点も尋常ならざる状況と言わ
       ざるを得ない。さらに、Y 氏による多数回に及ぶ自己承認取引も特に問題視されな
       い状況が続いたという点で問題というべきである。

         このような経理財務部において、適正な業務が実施されるよう、二重確認体制の
       整備及び自己承認取引の禁止が急務といえる。そのために、業務フローを明確化す
       べく関連規程やマニュアルの整備及びその周知徹底を行う必要がある。また、経理
       書類の作成にあたっては、証憑との照合を適切に実施するとともに、事後的な変更
       が可能とならない手法によるべきといえる(少なくとも Excel による補助簿の作成
       は速やかに是正すべきものといえる。。
                        )



3.   現金類の管理の適正化

      当社の経理財務部では、各部員がいずれも当社名義の銀行預金口座からキャッシュカー
     ドを使って現金を容易に引き出すことが可能な状況下にあった。特に、経理財務部員であ
     れば、誰でも銀行預金口座のキャッシュカードを持ち出すことができ、暗証番号を把握し
     ているという状況は、本件の不正な現金の引出しを容易にした要因と言わざるを得ない。

      また、当社では、各種経費の精算や外部への支払が現金により行われることが多く、経
     理財務部として、数十万円単位の金銭を小口現金から出入りすることが日常的に生じてお
     り、現金の入出金の機会が多く存在した。そして、小口現金でありながら 100 万円を超え
     る高額な残高が存在する状態が常態化していた。このような状況も、不正な現金の引出し



                       - 36 -
     を容易にし、長期間にわたり経費の架空計上が発覚しなかった原因というべきである。

      以上を踏まえ、今後は、当社において、小口現金の残高及び現金支出の機会を必要最小
     限に留めること、小口現金及び銀行預金口座の管理者と現金支出の承認権限者を別途に定
     めること、それ以外の者については小口現金や銀行預金口座を取り扱うことができないも
     のとすること等の運用面を整備することにより、現金支出をする手続を厳格化することが
     必要と考えられる。

      また、現金類の実残高について、金種表等の作成を日々行い、就業時間後、現金出納担
     当者が必ず実残高の確認を行い、さらに、別の従業員も確認し、現金出納帳が適切に記録
     保存されている旨、確認・承認する体制を構築することが必要である。

      なお、本件は経理財務部において生じた不祥事ではあるが、同様の事態が生じる可能性
     は同部に限られるものではないことから、他の部や営業所においても、同様の対応がとら
     れているかどうかを確認して、とられていないのなら同様の対応をとる必要があると考え
     られる。



4.   報告体制の整備等

     (1) レポーティング・ラインに従った適切な報告体制の整備

         当社においては、経理財務部において経理書類の不備がたびたび生じていたにも
       かかわらず、特に問題視されることなく放置されてきた状況や、取締役 B 氏及び E
       氏において本件の事実を把握しながら 2 カ月程度も何らの報告や対応をしなかった
       という状況が認められる。これらを踏まえると、当社においては、重要な事象がレ
       ポーティング・ラインに沿って適切に報告される体制が十分に整っていなかったも
       のといえる。

         したがって、今後、当社において、重要な事象がレポーティング・ラインに従い
       迅速かつ適切に報告され、経営陣に共有される体制整備を行うことが急務といえ、
       また、それが実効的に運用されるよう、従業員に周知徹底する必要がある。



     (2) 内部通報制度の利用促進

         当社においては、本件発覚以前も経理財務部員において、経理書類にたびたび誤
       りが散見されること、業務の相互確認体制が形骸化していること等について認識が
       あったにもかかわらず、かかる状況に異を唱えることがなかった。

         当社の内部通報制度について、過去 5 年間における利用実績は、毎年 1 件から 5
       件に留まり、現時点で従業員数が 660 名であるという現状を踏まえると、従業員に
       おいて内部通報制度が必ずしも認知されていないものといえる。



                       - 37 -
         内部通報制度は会社に生じた問題を即時に察知するための重要なツールといえる
        ことから、これに十分留意して、今後は内部通報制度が本来の機能を果たせるよう、
        全社的に利用の周知をする必要があるといえる。そして、利用が促進される前提と
        して、内部通報者に不利益が生じないこと、匿名による通報が許容されること、利
        用しやすいよう社内外に複数の窓口を設置すること等の条件が備わっている必要が
        あり、従業員が利用する上で少しでも心理的障壁がない制度とする取組が必要であ
        るといえる。


5.   コンプライアンス研修の実施

      経理財務部では二重確認がされていない自己承認取引が実質的に存在し、経理業務にミ
     スがたびたび生じていたことについても、G 氏がこれに異を唱えるまでは、これを疑問視
     する者がおらず、むしろ、重大な問題に繋がりうるという認識を有することなく看過して
     いた。このように、経理財務部全体として適切な業務を全うするという規範意識が鈍麻し
     ていたと言わざるを得ない。

      そのため、今後は、適切な業務が実施されるべく、各人の意識改革を促すことが急務と
     いえ、各人の意識を改める機会としてコンプライアンス研修を定期的に実施することが必
     要であるといえる。

      本件は経理財務部において生じた不祥事案であるが、当社として、他の部も含め、コン
     プライアンス体制の不備による不祥事が生じないよう、本件を機に、全社員の意識改革を
     促すことが必要といえ、かかる研修については全役員及び従業員を対象として行われるべ
     きといえる。


6.   内部監査の実効性の強化

      当社における内部監査については、内部監査項目に該当する事項を形式的に確認する手
     続を経るに留まっており、実効的な内部監査が行われていなかったと言わざるを得ない。
     したがって、今後は、内部監査手法についても実効性のあるものとなるよう、見直しが必
     要といえる。

      また、当社の内部監査室は平成 24 年 9 月の設置以来、D 氏 1 名のみであるが、現在本社
     及び営業所を含めると拠点が 37 箇所存在するため、各拠点に対して実効的な監査を行う
     上では、内部監査室の人員体制に不足があるものと言わざるを得ない。そのため、内部監
     査室の人員の増員等、体制強化を図る必要があるといえる。

      さらに、内部監査室の担当者の人事評価権者がこれまで内部監査の対象部署の所属長で
     あったという点は、内部監査の独立性や実効性のある内部監査を阻害する要因となるため、
     本来のレポーティング・ラインに従い、代表取締役が人事評価権者として職責を果たすべ
     きといえる。

                                                 以   上


                         - 38 -
                            別紙 1


      インタビュー対象者一覧



対象者              役職又は所属

A氏               代表取締役社長

B氏               取締役(非常勤)

C氏      コーポレート本部・経理財務部

D氏                内部監査室

E氏       元取締役・コーポレート本部

F氏               経営企画管理本部

G氏     元経営企画管理本部・経理財務部

H氏     元経営企画管理本部・経理財務部

X氏      元執行役員・経営企画管理本部

Y氏      コーポレート本部・経理財務部




        - 39 -
                                                              別紙 2

  日付           科目    部門      項目         入金              備考
  2019/3/4   普通預金   本社    Q 社引出        450,000   Y 氏で間違いない
 2019/2/22   普通預金   本社    Q 社引出        450,000   Y 氏の可能性が高い
  2019/2/4   普通預金   本社    Q 社引出        400,000   Y 氏で間違いない
 2019/1/18   普通預金   本社    Q 社引出        450,000   Y 氏で間違いない
2018/12/26   普通預金   本社    Q 社引出        450,000   Y 氏の可能性がある
2018/12/14   普通預金   本社    Q 社引出        450,000   Y 氏で間違いない
 2018/12/4   普通預金   本社    Q 社引出        500,000   Y 氏で間違いない
2018/11/30   普通預金   本社    Q 社引出        200,000   Y 氏の可能性が高い
2018/11/27   普通預金   本社    Q 社引出        450,000   Y 氏の可能性がある
2018/11/22   普通預金   本社    Q 社引出        500,000   Y 氏で間違いない
2018/10/24   普通預金   本社    Q 社引出        450,000   Y 氏の可能性がある
2018/10/12   普通預金   本社    Q 社引出        500,000   Y 氏で間違いない
 2018/10/3   普通預金   本社    Q 社引出        450,000   Y 氏で間違いない
 2018/9/19   普通預金   本社    Q 社引出        450,000   Y 氏で間違いない
 2018/9/11   普通預金   本社    Q 社引出        480,000   Y 氏で間違いない
 2018/8/13   普通預金   本社    Q 社引出        400,000   Y 氏で間違いない
  2018/8/6   普通預金   本社    Q 社引出        500,000   Y 氏で間違いない
 2018/7/24   普通預金   本社    Q 社引出        300,000   Y 氏の可能性が高い
  2018/7/3   普通預金   本社    Q 社引出        300,000   Y 氏で間違いない
  2018/5/1   普通預金   本社    Q 社引出        150,000   Y 氏で間違いない
  2018/3/1   普通預金   本社    Q 社メイン引出     300,000   Y 氏の可能性が高い
 2018/2/19   普通預金   本社    R 社引出        300,000   Y 氏の可能性が高い
 2018/1/16   普通預金   本社    Q 社引出        250,000   Y 氏で間違いない
2017/12/20   普通預金   本社    Q 社引出        300,000   Y 氏の可能性がある
 2017/12/5   普通預金   本社    R 社引出        400,000   Y 氏の可能性がある
 2017/11/6   普通預金   本社    Q 社引出        250,000   Y 氏の可能性が高い
2017/10/27   普通預金   本社    Q 社引出        400,000   Y 氏の可能性が高い
 2017/10/6   普通預金   本社    Q 社引出        300,000   Y 氏の可能性が高い
 2017/10/5   普通預金   本社    R 社引出        200,000   Y 氏の可能性がある
  2017/8/3   普通預金   本社    R 社引出        350,000   Y 氏の可能性が高い
 2017/6/26   普通預金   本社    R 社引出        200,000   Y 氏の可能性がある
 2017/5/23   普通預金   本社    Q 社引出        300,000   Y 氏で間違いない
 2017/5/17   普通預金   本社    R 社引出        100,000   X 氏の可能性がある
  2017/5/9   普通預金   本社    R 社引出        200,000   Y 氏の可能性が高い
  2017/4/9   普通預金   本社    R 社引出        200,000   X 氏の可能性がある
  2017/3/1   普通預金   本社    R 社引出        150,000   Y 氏の可能性が高い
  2017/2/6   普通預金   本社    R 社引出        300,000   Y 氏の可能性が高い
  2017/2/3   普通預金   本社    R 社引出        100,000   X 氏の可能性がある
 2017/1/12   普通預金   本社    R 社引出        100,000   X 氏の可能性が高い


                              - 40 -
  日付           科目    部門        項目        入金              備考
  2017/1/4   普通預金   本社    R 社引出         250,000   Y 氏の可能性が高い
 2016/12/2   普通預金   本社    R 社引出         150,000   X 氏の可能性が高い
 2016/12/2   普通預金   本社    R 社引出         300,000   Y 氏の可能性が高い
 2016/11/6   普通預金   本社    R 社引出         400,000   Y 氏の可能性が高い
 2016/11/4   普通預金   本社    R 社引出         200,000   X 氏の可能性がある
 2016/10/7   普通預金   本社    R 社引出         300,000   Y 氏の可能性がある
 2016/10/7   普通預金   本社    R 社引出         100,000   X 氏の可能性がある
  2016/9/1   普通預金   本社    R 社引出         200,000   X 氏の可能性が高い
 2016/8/23   普通預金   本社    R 社引出         400,000   X 氏の可能性がある
  2016/8/2   普通預金   本社    R 社引出         250,000   Y 氏の可能性がある
 2016/7/28   普通預金   本社    R 社引出         200,000   X 氏の可能性がある
  2016/6/3   普通預金   本社    R 社引出         200,000   Y 氏の可能性がある
 2016/3/17   普通預金   本社    R 社引出         200,000   X 氏の可能性が高い
  2016/3/4   普通預金   本社    R 社引出         300,000   Y 氏の可能性がある
 2016/2/18   普通預金   本社    R 社引出         250,000   X 氏の可能性が高い
  2016/2/2   普通預金   本社    R 社引出         300,000   Y 氏の可能性が高い
  2016/1/8   普通預金   本社    R 社引出         300,000   X 氏の可能性がある
  2016/1/4   普通預金   本社    R 社引出         300,000   Y 氏の可能性が高い
 2016/12/3   普通預金   本社    R 社引出         300,000   Y 氏の可能性が高い
 2015/11/3   普通預金   本社    R 社引出         400,000   Y 氏の可能性が高い
 2015/7/17   普通預金         R 社引出         200,000   X 氏の可能性がある
 2015/6/25   普通預金         R 社引出         150,000   X 氏の可能性がある
  2015/6/1   普通預金         Q 社引出         480,000   Y 氏の可能性がある
 2015/5/20   普通預金         S 社引出         330,000   Y 氏の可能性がある
  2015/5/8   普通預金         R 社引出         300,000   X 氏の可能性がある
 2015/4/22   普通預金         R 社引出         500,000   Y 氏の可能性がある
 2015/3/24   普通預金         R 社引出         100,000   X 氏の可能性がある
 2015/3/19   普通預金         R 社引出         300,000   Y 氏の可能性がある
  2015/2/4   普通預金         R 社引出         250,000   Y 氏の可能性が高い
 2015/1/15   普通預金         R 社引出         200,000   Y 氏の可能性がある
 2014/10/9   普通預金         R 社引出         200,000   X 氏の可能性がある
  2014/9/4   普通預金         R 社引出         350,000   Y 氏の可能性がある
 2014/8/18   普通預金         R 社引出         150,000   X 氏の可能性がある
 2014/6/29   普通預金         R 社引出         250,000   X 氏の可能性がある
 2014/6/18   普通預金         R 社引出         200,000   X 氏の可能性がある
                          R 社