6030 M-アドベンチャー 2020-03-13 19:00:00
調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ [pdf]
各 位
2020 年 3 月 13 日
株式会社アドベンチャー
東京都渋谷区恵比寿 4-20-3
恵比寿ガーデンプレイスタワー24F
代表取締役社長 中村 俊一
(コード番号:6030 東証マザーズ)
問合せ先 取締役 中島 照
電話(03)6277-0515
調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ
当社は、2020 年 1 月 23 日に開示しました「当社子会社従業員における不正行為に関する調
査委員会設置のお知らせ」のとおり、当社子会社従業員による不正行為に対し、外部専門家を中
心とした調査委員会(以下「当委員会」という。
)を設置し、調査を進めてまいりました。
本日、当委員会より、調査の結果判明した着服行為の疑義に関する事実関係と発生原因の分析、
内部統制上の問題についての再発防止策の提言等を目的とする調査報告書(以下「本報告書」と
いう。)が当社取締役会に提出されましたので、下記のとおりお知らせいたします。
記
1.本報告書の内容
調査結果の詳細につきましては、当委員会が作成した調査報告書を添付いたしますので、
ご参照ください。 なお、添付の報告書は、個人名等が特定される開示を避けること等を考慮
し、作成しております。
2.当委員会の調査結果を受けた今後の対応方針
当社は、当委員会からの再発防止策の提言を踏まえ、子会社を含めて下記の再発防止策を
実行してまいります。
1.業務フローの見直し
2.組織上の牽制強化
3.コンプライアンスに対する意識の改善
4.監査の強化
5.子会社管理体制の強化
6.不正リスクに対する意識や感度を高めるための施策
再発防止策の具体的な内容につきましては「調査報告書」をご参照ください。
なお、関東財務局にその提出期限の延長が承認された 2020 年 6 月期第 2 四半期報告書は、
延長承認された提出期限であります本日提出いたします。
また、その他本件に関して新たに開示すべき事項が発生した場合には適宜情報開示を行って
まいります。
3.過年度の訂正の範囲と影響額について
当委員会の調査に基づき、当社は過年度の業績を訂正し、過年度有価証券報告書等の訂正
報告書の提出及び過年度決算短信等の訂正を本日提出いたしました。なお、業績訂正の範囲
と影響額につきましては、本日開示の「過年度に係る有価証券報告書等の及び決算短信等
の訂正に関するお知らせ」をご参照ください。
株主・投資家の皆様、お客様、お取引先皆様をはじめとする関係者の皆様には、多大なるご迷
惑とご心配をおかけいたしますこと改めてお詫び申し上げます。
今後は全社をあげて再発防止策を実行し、信頼の回復に努めてまいります。
以 上
株式会社アドベンチャー 取締役会 御中
調 査 報 告 書
2020年2⽉13⽇
株式会社アドベンチャー 調査委員会
委員⻑ 今井 基喜
委員 藤⼾ 久寿
委員 児⽟ 尚⼈
⽬次
第1 調査の概要 .............................................................................................................. 1
1 調査委員会設置の経緯 ............................................................................................ 1
2 本委員会の構成 ....................................................................................................... 1
3 調査⽬的 .................................................................................................................. 2
4 調査期間・対象期間 ................................................................................................ 2
5 調査⽅法 .................................................................................................................. 2
(1) 関係者からのヒアリング................................................................................ 2
(2) 関連資料の検討 .............................................................................................. 3
6 調査の限界 .............................................................................................................. 3
第2 調査結果 .................................................................................................................. 4
1 GR社の組織体制等.................................................................................................. 4
(1) GR社の概要 .................................................................................................... 4
(2) アドベンチャーによるGR社の⼦会社化 ........................................................ 4
(3) GR社の組織体制............................................................................................. 5
(4) GR社におけるコンプライアンス、リスク管理体制 ...................................... 5
(5) 本件不正⾏為にかかる業務及び体制等 .......................................................... 7
(6) X⽒の経歴、業務内容等 ................................................................................. 9
2 本件不正⾏為について ............................................................................................ 9
(1) 本件不正⾏為の概要 ....................................................................................... 9
(2) 発覚の経緯.................................................................................................... 10
(3) 本件不正⾏為に対する調査の内容 ............................................................... 10
(4) 本件不正⾏為の⼿⼝ ..................................................................................... 14
(5) 本件不正⾏為の隠蔽 ..................................................................................... 21
(6) 本件不正⾏為の動機 ..................................................................................... 21
(7) 社内外における共犯者の有無 ...................................................................... 22
3 アドベンチャーの⼦会社管理 ............................................................................... 22
(1) アドベンチャーの⼦会社管理の実情............................................................ 22
(2) GR社に対する管理状況................................................................................ 22
4 同種の不正⾏為の有無 .......................................................................................... 22
(1) 調査対象 ....................................................................................................... 22
(2) 調査⽅法 ....................................................................................................... 23
(3) 調査結果 ....................................................................................................... 24
第3 過年度連結決算への影響....................................................................................... 24
第4 本件不正⾏為の原因・背景 ................................................................................... 25
1 GR社の問題点 ....................................................................................................... 25
(1) 組織体制の問題点......................................................................................... 25
(2) 組織としての不正リスクに対する意識や感度が不⼗分 .............................. 26
(3) コンプライアンス意識の浸透が不⼗分 ........................................................ 27
(4) 会社の組織⾵⼟ ............................................................................................ 27
(5) 内部監査及び監査役監査の実情 ................................................................... 28
2 アドベンチャーの問題点....................................................................................... 28
(1) ⼦会社管理の実情......................................................................................... 28
(2) ⼦会社の不正リスクに対する組織の意識や感度の実態 .............................. 29
第5 再発防⽌策 ............................................................................................................ 29
1 GR社に対する提⾔................................................................................................ 29
(1) ⽀払等の業務フローの⾒直し ...................................................................... 29
(2) 組織上の牽制強化......................................................................................... 29
(3) 組織の不正リスク及びコンプライアンスに対する意識等の改善 ................ 29
(4) 本件不正⾏為を踏まえた監査の強化............................................................ 30
2 アドベンチャーに対する提⾔ ............................................................................... 30
(1) ⼦会社管理体制の強化 ................................................................................. 30
(2) 組織としての⼦会社での不正リスクに対する意識や感度を⾼める施策 ..... 31
調査報告書
第1 調査の概要
1.調査委員会設置の経緯
株式会社アドベンチャー(以下「アドベンチャー」という。
)の⼦会社である株式会社ギャラ
リーレア(以下「GR 社」という)において、2020 年 1 ⽉ 14 ⽇、同社の社員が経費精算に関
する同社の銀⾏⼝座の⽀払履歴等を確認していたところ、同社の銀⾏⼝座から X ⽒個⼈名義の
銀⾏⼝座への振り込みがなされている形跡が⾒られた。そこで、 社が調査を⾏ったところ、
GR
GR 社の銀⾏⼝座から X ⽒個⼈の銀⾏⼝座への振り込みの履歴が多数⾒つかり、また、X ⽒が
担当していた経理関係資料の改竄等が認められたため、同⽉ 16 ⽇、X ⽒の上司らが X ⽒に問
い質したところ、X ⽒が⾃らの不正⾏為の事実を認めた。
そのため、 社は、
GR 同⽇、アドベンチャーに経理担当社員による不正⾏為の発覚について報
告するとともに、X ⽒の不正⾏為の実態、GR 社の被害総額等を把握するためにさらに社内調
査を実施したところ、X ⽒が、2016 年 10 ⽉ 25 ⽇から 2020 年 1 ⽉ 10 ⽇までの間、GR 社が
活⽤していたインターネットを利⽤した決済システム(以下「Z システム」という。
)で登録さ
れた⼝座1(以下「Z ⼝座」という。
)や銀⾏⼝座から⾃らの銀⾏⼝座等に多数回にわたり振り込
みを繰り返し、合計で約 2 億 5 千万円を着服していた事実(以下「本件不正⾏為」という。
)が
判明したため、同⽉ 22 ⽇に本件不正⾏為に関する社内調査報告書をアドベンチャーに提出し
た。
そこで、アドベンチャーは、本件不正⾏為について透明性の⾼い調査を実効的に実施すると
ともに効果的な再発防⽌策の提⾔を受けるため、同⽉ 23 ⽇に外部の有識者らによる調査委員
会(以下「本委員会」という。)を設置することとした。
2.本委員会の構成
本委員会の委員は外部の公認会計⼠ 1 名及び弁護⼠ 1 名と監査役の 3 名で構成される。各委
員の詳細は以下のとおりである。
委員⻑ 今井 基喜 (公認会計⼠ OAG監査法⼈)
委 員 藤⼾ 久寿 (弁護⼠ ⽇⽐⾕ Ave.法律事務所)
委 員 児⽟ 尚⼈ (公認会計⼠ 当社社外監査役)
なお、本委員会は、調査の必要に応じて、OAG 監査法⼈の公認会計⼠ 11 名その他3名の補
助を得ている。
1
外国法⼈のインターネットを利⽤した決済システムで、同社のアカウントに銀⾏⼝座を登録すれば同じアカウ
ントで送⾦や集⾦もできる。
1
3 調査⽬的
本委員会による調査の⽬的は以下のとおりである。
・本件に関する事実関係の確認
・本件による当社連結財務諸表等への影響額の確認
・本件が⽣じた原因の分析と再発防⽌策の提⾔
・類似事案の確認
・その他、調査委員会が必要と認めた事項
4 調査期間・対象期間
本委員会による調査期間は、2020 年 1 ⽉ 23 ⽇から同年 3 ⽉6⽇までの間である。また、本
委員会の調査対象期間は、 社においては X ⽒が GR 社に⼊社した 2014 年 5 ⽉から本件不正
GR
⾏為が発覚した時点であり、アドベンチャーを含むその他のグループ会社においては GR 社を
買収した 2018 年 11 ⽉から 2019 年 12 ⽉末⽇までである。
5 調査⽅法
本委員会は、以下の⽅法による調査を⾏った(以下「本件調査」という。。
)
(1) 関係者からのヒアリング
本委員会がヒアリングを実施した⼈物は、以下のとおりである。
対象者 役職⼜は所属
A1⽒ GR 社代表取締役社⻑
A2⽒ GR 社取締役 経営管理部部⻑
A3⽒ GR 社経営管理部副部⻑ 兼 経理課課⻑
A4⽒ GR 社経営管理部副部⻑ 兼 ⼈事課課⻑
A5⽒ GR 社経営管理部 次⻑
A6⽒ GR 社経営管理部 次⻑
A7⽒ GR 社経営管理部 経理課
A8 ⽒ GR 社経営管理部 総務課課⻑
A9 ⽒ GR 社経営管理部 総務課
A10 ⽒ GR 社営業推進部マーケティング課(元 EC 事業部販売促進課海外販売チーム)
A11 ⽒ GR 社内部監査室室⻑
A12 ⽒ GR 社常勤監査役
X⽒ GR 社経営管理部 経理課
B1⽒ B 監査法⼈パートナー 公認会計⼠
B2⽒ B 監査法⼈マネジャー 公認会計⼠
B3⽒ B 監査法⼈ 公認会計⼠
2
C1⽒ X が他⼈名義⼝座に振り込んだ当該他⼈名義の本⼈
C2⽒ X が他⼈名義⼝座に振り込んだ当該他⼈名義の本⼈
D1⽒ アドベンチャー代表取締役社⻑
D2⽒ アドベンチャー取締役
D3⽒ アドベンチャー経営管理部部⻑
D4⽒ アドベンチャー内部監査室室⻑
E1⽒ E監査法⼈ パートナー 公認会計⼠
(2) 関連資料の検討
2014 年 5 ⽉から本件不正⾏為発覚時点までの期間で必要に応じて以下の関連資料の内容
の検討を実施した。
No. 資料名
1 各種規程
2 取締役会議事録
3 監査役会議事録
4 コンプライアンス及びリスクマネジメント推進委員会議事録
5 決算書
6 会計データ
7 銀⾏通帳および取引明細書
8 銀⾏振込精査表および添付⽀払関連証憑
9 現⾦に関する⽇計表
10 Z ⼝座⼊出⾦データ
11 預け⾦に関する V 社残⾼証明書
12 ⼈件費マスタデータおよび履歴書
13 在庫リスト
14 その他関連資料
6 調査の限界
本報告書は、本委員会による関係者に対するヒアリング、GR 社及びアドベンチャー等から
提出を受けた関係資料(X ⽒が任意で GR 社に対し提出した資料を含む。 等の情報に基づいて
)
作成されているが、本報告書に係る調査は、あくまで任意の調査であり、資料の収集等につい
ては任意調査による限界がある。
第2 調査結果
3
1 GR 社の組織体制等
(1) GR 社の概要
・設⽴ 2004 年 3 ⽉
・資本⾦ 98 百万円(2019 年 2 ⽉期)
・売上⾼ 15,268 百万円(2019 年 2 ⽉期実績)
・従業員 141 名(パート・アルバイト・派遣社員含む)2019 年 2 ⽉末時点
・事業内容 海外ブランド⾐料雑貨、服飾雑貨の輸⼊及び販売並びにこれらの品⽬の古物
の売買業
・⼤株主 アドベンチャー(持株⽐率 80.95%)
(2) アドベンチャーによるGR社の⼦会社化
2
アドベンチャーは、 監査法⼈による GR 社の財務デューデリジェンス (以下
E 「財務 DD」
という。
)の結果を踏まえ、2018 年 11 ⽉ 16 ⽇に取締役会決議を⾏い、同⽉ 30 ⽇、GR 社の
発⾏済み株式 31,500 株のうち 80.95%に当たる 25,500 株の株式の譲渡を受けて GR 社を⼦
会社化した。
2
財務 DD はM&A等の意思決定に役⽴てるための資料として活⽤することを⽬的として、GR 社から提供され
た資料及びインタビューに基づいて実施されたものであり、その報告書の中の経営成績・財政状態及びその他の
情報に対していかなる監査意⾒を表明するものとはされていない。
4
(3) GR 社の組織体制
株式会社ギャラリーレア組織図 ※2 0 1 9 年9 月1 日変更
株主総会
監査役会
取締役会
代表取締役社長 内部監査室
営業統括本部 経営管理部
大 大
営 東 阪 阪 法 シ
業 京 第 第 人 人 総 経 ス
推 営 一 二 営 事 務 理 テ
進 業 営 営 業 課 課 課 ム
部 部 業 業 部 課
部 部
(4) GR 社におけるコンプライアンス、リスク管理体制
ア コンプライアンス及びリスクマネジメント推進委員会の役割等
GR 社は、2015 年 9 ⽉、コンプライアンス及びリスク管理規程(以下「コンプライアン
ス規程」という。
)を制定し、同社のコンプライアンス及びリスクマネジメント推進(以下
「コンプライアンス等」という。)に関する重要事項の決定は取締役会が⾏うこととされ、
取締役会の下に代表取締役、取締役その他の経営幹部らから構成されるコンプライアンス
及びリスクマネジメント推進委員会(以下「コンプライアンス委員会」という。
)が設置さ
れた。コンプライアンス委員会は、コンプライアンス等に関する基本⽅針、マニュアル等
の策定、社員教育・研修の実施等に関する事項について審議等を⾏い、コンプライアンス
委員会事務局が役職員を対象としたコンプライアンス等に関する教育・研修等を企画し、
計画的に推進することとなっている。
GR 社は、コンプライアンス規程に基づき、年2、3 回のコンプライアンス委員会を開催
し、また、弁護⼠等の外部講師を招いた研修を⾏っていた。
イ 内部監査室の業務の状況
GR 社は、2015 年3⽉に内部監査室を設置し、他の部署で勤務していた社員を内部監査
室室⻑に就任させ、同室⻑が店舗を中⼼とした監査を実施していた。GR 社は業務の性質
上、顧客からのブランド品の買取り等を⾏う店舗において多額の現⾦を扱っているため、
内部監査室は店舗を中⼼に監査を実施し、問題等が発⾒された場合には、店⻑に指摘し改
5
善を促すとともに、その状況を代表取締役及び経営会議に報告していた。また、取締役会に
は毎回出席し、必要に応じて内部監査の状況を報告し、また、監査役会にも定期的に出席し
て意⾒交換をするなどの業務を⾏っていた。
ウ 監査法⼈の監査の状況
GR 社は、2014 年2⽉に B 監査法⼈と監査契約を締結し、B 監査法⼈は同⽉以降、⾦融
商品取引法第 193 条の2第 1 項の規定に準じて、上場申請時に GR 社の財務書類に対する
意⾒を表明することを⽬的として監査を実施し、仕訳を承認するプロセスが有効に機能し
ていないなど GR 社の内部統制上の問題点を指摘していた2。
決算期 契約内容
第 11 期(2015 年 2 ⽉期) ⾦融商品取引法第 193 条の2第 1
項に準ずる監査契約
第 12 期(2016 年 2 ⽉期) ⾦融商品取引法第 193 条の2第 1
項に準ずる監査契約
第 13 期(2017 年 2 ⽉期) 2 項業務契約
第 14 期(2018 年 2 ⽉期) ⾦融商品取引法第 193 条の2第 1
項に準ずる監査契約
第 15 期(2019 年 2 ⽉期) ⾦融商品取引法第 193 条の2第 1
項に準ずる監査契約
第 16 期(2019 年 6 ⽉期) ⾦融商品取引法第 193 条の2第 1
項に準ずる監査契約
第 17 期(2020 年 6 ⽉期) ⾦融商品取引法第 193 条の2第 1
項に準ずる監査契約
* アドベンチャーの監査を担当していた E 監査法⼈は、2019 年 6 ⽉期におけるアドベン
チャーグループの監査計画において、GR 社は個別の財務的重要性を有する重要な構成単
位としての位置付けではないものの、特定の勘定科⽬(棚卸資産、売上⾼)については連
結財務諸表全体の観点からしても重要性があるものと判断し、B 監査法⼈に対して当該勘
定科⽬に関する⼿続を実施するようインストラクションを送付したところ、B 監査法⼈か
らはインストラクションに従った⼿続の結果について報告がなされ、そこでは特段の問題
はない旨の報告を受けていた。
3
GR 社は上場申請を⾏っていないため、現在に⾄るまで B 監査法⼈による意⾒表明はなされていない。なお、
GR 社は、その当時使⽤していた会計システムでは仕訳承認の機能が不⼗分であったことを踏まえ、B 監査法⼈
と協議しつつ、2020 年1⽉から新たなシステムで仕訳承認の運⽤を開始する予定であったが、本件不正⾏為が発
覚したため、現在運⽤開始に向け調整中とのことである。
6
エ 内部通報制度の状況
GR 社は、2015 年 9 ⽉に内部通報規程を制定し、社内に窓⼝を設けて運⽤を開始してい
る。同規程では、通報された事項に関する事実関係の調査の結果はコンプライアンス委員
会に報告されることになっている。
(5) 本件不正⾏為にかかる業務及び体制等
本件不正⾏為は、Z ⼝座から X ⽒本⼈⼝座への送⾦、総合振込を利⽤しての X ⽒本⼈⼝座
への送⾦(知り合いの⼝座に送⾦の上、知り合いから X ⽒本⼈⼝座に送⾦する⽅法を含む。
)
によりなされている。以下関連する業務フローについて概略を記載する。
ア Z ⼝座から銀⾏⼝座への⼊⾦についての業務フロー
GR 社では、2013 年から海外の顧客等に販売した場合、その決済を Z システムで⾏って
いた。
7
<Z システムの仕組み>
③サービス提供
買い手 売り手
④支払 ⑥登録口座へ
①アカウントを作成し、 適宜振込可能 ②Z口座を作成し、
銀行口座情報等を登録 振込先の銀行口座情報等を登録
Zシステム
⑤売り手のZ口座上で残高
として計上される
GR 社としては、Z ⼝座における残⾼を売掛⾦として処理していた。また、Z システムは
約 3%の⼿数料を控除した⾦額を売り⼿の Z ⼝座残⾼として計上しているが、 社は上表
GR
の⑥時点で⽀払⼿数料の仕訳を起票していた。
顧客から Z ⼝座に⼊⾦があった場合、同社 EC 事業部海外販売チーム(当時)の社員及
び経理課担当社員の共有のメールアドレスに通知がされ、この通知を受け、顧客に販売し
た商品が顧客へ発送されていた。そして、海外販売チームの社員が発送⽇を販売管理シス
テムに⼊⼒することにより、当該⼊⼒分の⾦額の売上が計上され、次に、経理課担当者が、
この Z ⼝座に⼊⾦された⾦額と販売管理システムとの⼀致を確認した後、GR 社の銀⾏⼝
座への振込処理を⾏っていた。
なお、海外販売チームの業務は、顧客から Z ⼝座への⼊⾦の確認及び販売管理システム
への⼊⼒までであり、その後の Z ⼝座から GR 社の銀⾏⼝座への振込等については、海外
販売チームの担当者らは業務上分担の範囲外であるため、特に確認は⾏っていなかった。
イ 総合振込(経費精算システム)による経費の⽀払の業務フロー
GR 社では、各部署において経費精算を⾏う際には、まず、経費精算システムを活⽤して
証憑を添付した⽀払依頼が起票され承認された後、総務課担当者が当該証憑と⽀払依頼の
内容が整合していることを確認して当該申請の承認を⾏い、総務課担当者の承認後に経理
課担当者として X ⽒が当該申請を更に承認することになっている。その後、X ⽒は経費精
算システムから承認された⽀払依頼を FB(ファームバンキング)データでエクスポートし
た後、当該 FB データをアプリに登録していた。そして、総務課担当者がアプリから当該
FB データをダウンロードした後、当該 FB データを銀⾏振込システムに登録し、アプリの
備考欄に記載されている振込総件数及び振込合計⾦額と⼀致していることを確認した後、
振込を⾏っていた。
8
(6) X ⽒の経歴、業務内容等
ア X ⽒の経歴等
GR 社は、組織の拡⼤に伴い、経理の知⾒を有する⼈材を外部から採⽤することを企
図し、前職において経理事務を担当していた X ⽒を 2014 年 5 ⽉に経理担当者として採
⽤した。X ⽒は、GR 社に⼊社後、経営管理部経理課において勤務し、2018 年 8 ⽉に主
任に昇格した。その後も本件不正が発覚するまでの間、経理課で勤務していた。
なお、X ⽒は、⾼価なブランド品を⾝に着けるなど社内でも派⼿な格好をしており、
役職員らは、X ⽒がその給与に⾒合わないものを⾝に着けていると認識していた。しか
し、X ⽒が⼊社当初より派⼿な格好をしており、⼊社後しばらくしてから派⼿になるな
ど不⾃然な経緯がないことや、X ⽒が他の社員らに対し、
「彼からもらっている」などと
説明していたため、後述する X ⽒の勤務態度等をも影響し、GR 社の役職員らは X ⽒の
説明を信じ、GR 社から着服したお⾦で買っているのではないかなどと同⽒の不正⾏為
を疑う者は誰⼀⼈いなかった。
イ GR 社⼊社後の業務内容、業務態度等
X ⽒は、経理課担当者として、顧客から Z ⼝座に⼊⾦があった場合に GR 社の銀⾏⼝
座への振込⼊⾦を⾏ったり、各部署から経費精算システムを活⽤して証憑を添付した⽀
払依頼が起票され承認され、総務課においても承認された後、当該証憑と⽀払依頼の内
容が整合していることを確認して当該申請を承認したり、また、現預⾦(店舗現⾦、預
⾦)
、預け⾦(店舗の集配⾦サービスのため警備会社である V 社に預けているもの)及び
借⼊⾦を管理したりするなどの業務を⾏っていた。なお、X ⽒は、GR 社の役職員を問わ
ず、経費精算等に当たり証憑との整合を求めるなど、厳しい姿勢で臨む経理担当者であ
るとの評価を得ていた。
2 本件不正⾏為について
(1) 本件不正⾏為の概要
本件X⽒による不正⾏為(着服)の概要は次のとおりである。
着服⾦額:251,321 千円
着服期間:2016 年 10 ⽉ 25 ⽇から 2020 年 1 ⽉ 10 ⽇まで
着服の⽅法及び着服額の内訳
(単位:千円)
⽅法 実施期間 X ⽒着服額
Z システム 2016/10/25〜2018/11/19 134,856
総合振込
他⼈名義⼝座 2019/2/8 及び 2019/2/15 5,510
本⼈名義⼝座 2019/2/25〜2020/1/10 110,954
9
合計 251,321
(2) 発覚の経緯
2020 年 1 ⽉ 14 ⽇に、A5 ⽒が別件で過去の振り込みについて確認するため経費精算に関
する GR 社の銀⾏⼝座の⽀払履歴等を確認していたところ、同社の銀⾏⼝座から X ⽒個⼈名
義の銀⾏⼝座への振り込みを発⾒し、A3⽒に報告を⾏い、 ⽒は A2 ⽒らに報告を⾏った。
A3
そこで、A2 らで当該振込内容を調査したところ、根拠のない⽀払であることが判明し、また
X ⽒が担当していた経理関係資料の改竄等が認められたため、同⽉ 16 ⽇、X ⽒本⼈を問い質
した結果、X ⽒が⾃らの着服を認めたものである。
(3) 本件不正⾏為に対する調査の内容
ア 関係者へのヒアリング
当委員会は、本調査において、不正⾏為の詳細、不正⾏為が発⽣した背景、GR 社の内部
統制の状況等を把握するために関係者に対して本件不正⾏為に関するヒアリングを実施し
ている。
対象者及びヒアリング内容は次のとおりである。
ヒアリング対象者 ヒアリングの内容等
X⽒ 不正⾏為を実施した動機、⽅法、隠蔽⽅法、不正⾏為発覚
の可能性についての⾒解、GR 社の内部統制についての⾒
解、不正⾏為により獲得した⾦銭の⽀出内容、X ⽒通帳の
履歴等
A1 ⽒、A2 ⽒、A3 ⽒ 内部統制の状況の詳細についての質問、社内承認体制、X
⽒についての評価、不正⾏為が発⾒できなかった理由等
A5⽒、A6⽒ 不正⾏為発⾒の経緯、経営管理部の業務内容、GR 社の成
⻑に伴う内部統制の変遷、X ⽒に対するイメージ、評価等
A7 ⽒、A8 ⽒、A9 ⽒、A10 各⼈の業務内容及び業務フロー、今回の不正⾏為の関与の
⽒ 有無、気付いていたか否か、気付いていない場合はその理
由、 ⽒に対する印象、 ⽒の業務についての評価、 社
X X GR
の内部統制についての⾒解等
A11 ⽒、A12 ⽒ 内部監査と監査役監査の状況についての質問、X ⽒につい
ての評価、不正⾏為が発⾒できなかった理由等
C1 ⽒、C2 ⽒ 不正⾏為に利⽤された X ⽒の知⼈である両⽒に対し、⼊⾦
があったことへの対応、X ⽒とのやり取りの内容、GR 社
に対する問合せの時期及び内容等
イ 統制の整備/運⽤状況の確認及び各種証憑の照合
10
不正の発⽣態様を考慮し、同様の不正が存在していないことを確認するために GR 社に
おいて関連する統制の整備/運⽤状況の確認及びあるべき残⾼と会計計上額に差異が⽣じ
ている取引が存在しないか、不適切な⽀払いが総合振込内に存在していないか等を確認す
るため、次の⼿続を実施した。
統制の整備/運⽤状況の確認として、調査時点の整備/運⽤状況を確認し、それが 2019 年
12 ⽉末時点でも同様の整備/運⽤が⾏われていたことを関連証憑の閲覧及びヒアリングに
より確認を⾏った。
勘定科⽬ 実施⼿続 対象期間
現預⾦ 店舗の⼿許現⾦管理に関する統制を確認する。 2019 年 12 ⽉末時点
⽇々営業終了後に適切に現⾦カウントが⾏われ
ているか
複数⼈により確認している⼜は定期的にカウン
ト担当者は交代しているか
全店舗から提出される毎⽉末の⽇計表を閲覧し、 2014 年 5 ⽉〜2019 年
上記の統制が適切に運⽤されているか確認する。 12 ⽉の各⽉最終⽇前後
全店舗から提出される毎⽉末の⽇計表を閲覧し、 2014 年 5 ⽉〜2019 年
管理部で保管している改竄された⽇計表と照合す 12 ⽉の各⽉最終⽇
る。
本社⾦庫の実査を⾏い、保管されている現⾦や定 2019 年 12 ⽉末時点
期預⾦証書等の実在性及び適切な管理が⾏われて
いるかを調査⽇時点で確認を⾏うことにより、
2019 年 12 ⽉末時点の統制の整備/運⽤状況の推定
を⾏う。
本社⾦庫を誰が開けることができるか、どのよう 2019 年 12 ⽉末時点
に鍵や中⾝を管理しているか統制の整備状況及び
運⽤状況を確認する。
法⼈印や銀⾏印の管理⽅法及び管理状況について 2019 年 12 ⽉末時点
確認する。
経費精算システムの承認に関する運⽤について、 着服実⾏時
他⼈名義⼝座へ振り込みを⾏った 2 件について承
認時の添付書類とシステム上の画⾯を閲覧して確
認する。
上記の統制を確認した結果、適切に運⽤されてい 2014 年 5 ⽉〜2019 年
ると判断した場合、 12 ⽉
経費精算システムから出⼒した FB データ(改竄
11
前)とアプリから出⼒した FB データ(改竄後)を
⽐較し、改竄内容を把握する。
上記の統制を確認した結果、適切に運⽤されてい 2014 年 5 ⽉〜2019 年
ないと判断した場合、 12 ⽉
振込全件に関して、原始証憑と突合し、原始証憑の
存在しない振込の有無、振込先の⼀致及び振込⾦
額の⼀致を確認する。
⾦融機関から⼊⼿した残⾼証明書原本若しくは通 2018 年 11 ⽉,12 ⽉,
帳を閲覧し、全ての預⾦残⾼(残⾼ 0 円のものも含 2019 年 3 ⽉,6 ⽉,9
む)が⼀致しているか確認する。 ⽉,12 ⽉末時点
⼈事システムにおける⼈事マスタと全従業員の履 2019 年 12 ⽉末時点
歴書を照合する。
勤務時間の集計から給与の振込まで給与関連にお 2019 年 12 ⽉末時点
ける⼀連のフローを確認する。
上記のフロー確認後、 2019 年 12 ⽉末時点
もし外部での給与計算結果に対して総務課が当該
計算結果(振込内容)を⾃由に変更することがで
き、総務課内で外部給与計算結果と振込合計額の
⼀致を確認している場合、 件のみ外部の給与計算
1
結果と振込結果を照合する。
会計データと銀⾏⼊出⾦記録について差異を検討 2018 年 11 ⽉〜2019 年
する。 12 ⽉末
売掛⾦ Z システムから⼊⼿した⼊出⾦データを閲覧し、 2014 年 5 ⽉〜2019 年
GR 社以外への振り込みを確認する。 12 ⽉
売掛⾦の会社計上額とあるべき残⾼で⽣じている 2014 年 5 ⽉〜2019 年
差異が Z システムの GR 社以外への振込額で詰ま 12 ⽉
らない場合、取引先別に詳細を確認し、差異の内容
を調査する。
在庫 毎⽉実施している棚卸のフローを確認する。 2019 年 12 ⽉末時点
在庫の実在性等を確認するために POS の在庫デー 2019 年 12 ⽉末時点
タと会計上の計上額を照合し、⼀致しているか確
認する。
在庫の買取⽇を把握し、⻑期滞留となっている在 2019 年 12 ⽉末時点
庫が存在しないか確認する。
⻑期滞留品が存在する場合、現物の確認を⾏う。
12
店⻑⼜は当⽇責任者が買取担当者となった場合の 2019 年 12 ⽉末時点
買取⾦額の妥当性をどのように確認する統制とな
っているのか確認する。
店舗における買取時の統制について確認する。 2019 年 12 ⽉末時点
経理課員からの購⼊実績を買取システムから確認 2014 年 5 ⽉〜2019 年
し、必要に応じて当時の買取査定結果と照合する。 12 ⽉
預け⾦ 残⾼証明書原本を閲覧し、会計計上額と⼀致して 2018 年 11 ⽉,12 ⽉,
いるか確認する。 2019 年 3 ⽉,6 ⽉,9
⽉,12 ⽉末時点
会計計上額の内訳を確認し、必要に応じて証憑と 2018 年 11 ⽉,12 ⽉,
の突合により計上内容の妥当性を確認する。 2019 年 3 ⽉,6 ⽉,9
⽉,12 ⽉末時点
関係会社 海外送⾦や海外⼦会社の預⾦⼝座を操作すること 2019 年 12 ⽉末時点
債権債務 ができる⼈物及び海外⼦会社の預⾦残⾼を確認す
る統制の有無について確認する。
前渡⾦ 取引先別に年度推移を確認し、異常な内容が含ま 2014 年 5 ⽉〜2019 年
れていないか確認する。 12 ⽉
必要に応じて原始証憑と照合し、詳細な内容を確
認する。
前払費⽤ 取引先別に年度推移を確認し、異常な内容が含ま 2014 年 5 ⽉〜2019 年
れていないか確認する。 12 ⽉
必要に応じて原始証憑と照合し、詳細な内容を確
認する。
差⼊ 取引先別に年度推移を確認し、異常な内容が含ま 2014 年 5 ⽉〜2019 年
保証⾦ れていないか確認する。 12 ⽉
必要に応じて原始証憑と照合し、詳細な内容を確
認する。
⻑期 取引先別に年度推移を確認し、異常な内容が含ま 2014 年 5 ⽉〜2019 年
貸付⾦ れていないか確認する。 12 ⽉
必要に応じて原始証憑と照合し、詳細な内容を確
認する。
⻑期 取引先別に年度推移を確認し、異常な内容が含ま 2014 年 5 ⽉〜2019 年
前払費⽤ れていないか確認する。 12 ⽉
必要に応じて原始証憑と照合し、詳細な内容を確
13
認する。
未払⾦ 取引先別に年度推移を確認し、異常な内容が含ま 2014 年 5 ⽉〜2019 年
れていないか確認する。 12 ⽉
必要に応じて原始証憑と照合し、詳細な内容を確
認する。
その他 社内/社外における共謀者の有無や供述との整合 2014 年 5 ⽉〜2019 年
性等を X ⽒が使⽤していた業務 PC を確認する 12 ⽉
(SNS やメールの通査)ことにより確認する。
X ⽒の所有している通帳を確認し、 社からの着 2014 年 5 ⽉〜2019 年
GR
服額の確認及び共謀者の有無を確認する。 12 ⽉
なお、上記⼿続を実施するにあたり X ⽒から⼊⼿した証拠の網羅性は、次の状況より問
題はないものと判断している。
「1.調査委員会設置の経緯」に記載されている通り、2020 年 1 ⽉ 14 ⽇に GR 社の銀
⾏⼝座から X ⽒の個⼈名義の銀⾏⼝座への振込が発覚し、 ⽇に社内で極秘裏に内容を調
15
査した後、A2 ⽒が、X ⽒の 16 ⽇出社直後(同⽇ 9:01)に別室へ呼び出し、内容を問い質
している。その場で、X ⽒が不正⾏為の事実を認めたため、直後に⼀緒に X ⽒の居住して
いるマンションへと同⾏し、着服した資⾦で購⼊したと想定されるブランド品、保有して
いる通帳、クレジットカード等証拠となるもの⼀式を X ⽒同意の元で GR 社が提出を受け
るとともに、スマートフォンを各種の連絡を防ぐために⼀時預かっており、証拠隠滅を図
る時間を与えていない。同時に、社内で X ⽒が使⽤していた業務 PC についても A3 ⽒が
すべてのパスワードを変更し、その後 X ⽒による操作を不能な状態にしている。以上より、
不正に係る X ⽒の証拠資料の網羅性は適切に確保されていると判断している。
(4) 本件不正⾏為の⼿⼝
ア Z システム
A) 不正の概要
X ⽒は⾃分の銀⾏⼝座を Z システムの振込先⼝座として登録の上、Z システムより⾃分
の銀⾏⼝座に振込を実施することにより着服を実⾏した。
着服⾦額: 134,856 千円
着服実施期間: 2016 年 10 ⽉ 25 ⽇〜2018 年 11 ⽉ 19 ⽇
Z システムの仕組みを GR 社内では X ⽒以外誰も理解しておらず、本来であれば、海外
の顧客から⼊⾦された⾦額が全て Z ⼝座に⼊⾦され、それを振込先の⼝座として登録して
いる GR 社の銀⾏⼝座へ適宜振り込むのみであるが、経営管理部内で当該流れを理解して
おらず、Z ⼝座残⾼が増加しても“回収ができていない”という認識であった。そのため、X
⽒にも回収をできる時に早く回収するよう指⽰を⾏っていた。
14
X ⽒が Z システムを着服に利⽤した経緯は、本来、GR 社の銀⾏⼝座のみを Z システム
の振込先⼝座として登録し、会社の⼝座のみに振り込みを⾏う運⽤となるべきところ、当
時 Z システムの仕組み上、会社名義以外の⼝座を振込先⼝座として登録が可能であり、そ
の仕組みを理解した X ⽒は⾃らの⼝座を登録することにより着服が可能と考えたためであ
る。
更に Z システムで取引を⾏っている海外販売チームから登録⼝座が増えていることに関
する問い合わせがなかったことから、 社内において誰も確認しておらず、
GR 着服が可能で
あるとの確信を得た。
<Z システムを利⽤した不正のスキーム図>
①振込口座登録
②入金
海外の顧客 Z口座 GR社 口座
③振込
④振込口座登録 ⑤振込
X氏 個人口座
本来は、上図の①〜③で取引が完結するが、Z システムの仕組みと GR 社内に適切な確
認作業の運⽤が⾏われていなかったことから X ⽒は④〜⑤の不正取引を実⾏している。
B) 不正⾦額
X ⽒の着服額は以下のとおりであるが、Z システムの管理画⾯及び X ⽒の預⾦通帳から
確認した各時期における累計額を記載している。
(単位:千円)
時期 X ⽒着服額
2016 年 10 ⽉末 1,100
2017 年 2 ⽉末 12,668
2018 年 2 ⽉末 70,174
2018 年 11 ⽉末 134,856
2018 年 12 ⽉末 134,856
2019 年 3 ⽉末 134,856
2019 年 6 ⽉末 134,856
2019 年 9 ⽉末 134,856
2019 年 12 ⽉末 134,856
C) 不正が発覚しなかった経緯
15
GR 社内において、⼀度 Z システムの仕組みを理解するためにマニュアルを作成しよう
という流れがあったが、X ⽒が阻⽌した経緯がある。本来は Z システムの管理画⾯から現
時点の残⾼を把握することができるが、X ⽒以外の上席者は Z システムの仕組みを理解し
ていなかったことにより、管理画⾯を確認していなかった。
そのため、あるべき残⾼を X ⽒以外誰も把握していない状態となり、X ⽒の着服により
あるべき Z ⼝座残⾼と帳簿上の Z ⼝座残⾼が著しく乖離しても発覚しない状態となってい
た。
なお、B 監査法⼈も Z 社が海外のカード会社であり、売上の全体ボリュームも少なく、
リスクが⾼くないと判断し、残⾼確認書の発送を⾏っていなかった。
D) 当該不正を⽌めた理由
Z システムを利⽤した着服を X ⽒が⽌めた理由は、Z ⼝座の帳簿残⾼に対して着服額が
膨らみ過ぎたことにより Z ⼝座の実際残⾼がなくなってきたこと(2019 年 12 ⽉末⽇の Z
⼝座の帳簿残⾼ 36,715 千円に対し、実際残⾼は 955 千円であった。)及び Z システムの
仕様変更があったことにより、不正⾏為がしにくくなったためであると考えられる。
イ 総合振込
(ア)他⼈名義⼝座への振込
A) 不正の概要
2019 年 2 ⽉ 8 ⽇に C1 ⽒へ 2,910 千円、
同年 2 ⽉ 15 ⽇ C2 ⽒に 2,600 千円を GR 社
名義で X ⽒が振り込み、C1 ⽒及び C2⽒に振り込んだ⾦額を X ⽒の個⼈⼝座へ C1
⽒及び C2⽒に振り込んでもらう⽅法で着服を⾏っている。
GR 社内において⼝座振替やクレジットカード決済という総合振込を経由せずに⾏
われる⽀払いに関しても経費精算システムでの申請を⾏う運⽤を悪⽤した。また、経
営管理部以外からの経費精算システムの申請に関しては、X ⽒が承認する権限を持っ
ており、また申請内容等を修正する権限も有しており、⽀払先を上記他⼈名義⼝座の
2 つへ変更していた。
<他⼈名義⼝座への振込 スキーム図>
16
経費精算システム
経理課
申請部門 経理課 総務課 C1氏、C2氏
総務課 X氏
X氏
申請
承認
振込先名を
改竄
承認
FBデータ
出力
振込金額を
改竄
FBデータ
入手
総合振込
入金
X氏に送金
個人口座
入金
なお、X ⽒が経費精算システムで改竄する前の本来あるべき振込先に対する⽀払⽅
法はそれぞれ⼝座引落及びクレジットカード決済であったため、上記の改竄と関係な
く GR 社の銀⾏⼝座から⾃動的に引き落としが⾏われている。
改竄後の他⼈名義⼝座への振り込みに関して X ⽒は⼀切仕訳を起票せず、本来ある
べき取引に関する仕訳のみが会計上起票されている。
(1回⽬)
申請⽇:2019 年 2 ⽉ 6 ⽇
申請:⻘⼭表参道店
⽀払期⽇:2019 年 2 ⽉ 28 ⽇
⽀払⽅法:⼝座振替
⽀払⾦額及び改竄前申請⾦額:10,773 円
他⼈名義⼝座への振込⾦額:2,910,773 円
17
(2回⽬)
申請⽇:2019 年 2 ⽉ 11 ⽇
申請:⼼斎橋店
⽀払期⽇:2019 年 2 ⽉ 15 ⽇
⽀払⽅法:クレジットカード決済
⽀払⾦額及び改竄前申請⾦額:13,014 円
他⼈名義⼝座への振込⾦額:2,600,000 円
B) 不正⾦額
(単位:千円)
振込⽇ 振込先 振込⾦額 X ⽒⼝座⼊⾦額
2019 年 2 ⽉ 8 ⽇ C1 ⽒ 2,910 2,910
2019 年 2 ⽉ 15 ⽇ C2 ⽒ 2,600 2,600
C) 不正が発覚しなかった経緯
不正が発覚しなかった主な原因は①経営管理部内の統制、②社内における不正リス
クに対する意識という 2 点にあり、当該経緯は次のとおりである。
① 経営管理部内の統制
普段から経営管理部以外からの申請内容に誤りが多く、 ⽒による承認前の申請内
X
容修正が多く、ログ上で⼤量の X ⽒による修正履歴が残っており、X ⽒の修正ログ
を第三者が確認していたとしても違和感を持ちにくい状態であった。
また、総務課は経費精算システムで経理課が承認した後の FB データに基づいて⽀
払いを⾏っているため、総務課においては個々の振込先についての確認を⾏ってい
なかった。
X ⽒は、⽀払内容を修正する権限が与えられており、会計仕訳も X ⽒が起票し、そ
の仕訳内容やあるべき預⾦残⾼を誰も確認していない。そのため、不正な⽀払いがあ
ったとしても発覚しない体制となっていた。
② 社内における不正リスクに対する意識
GR 社から C1 ⽒及び C2 ⽒に振り込みを⾏った後、 ⽒は C1 ⽒及び C2 ⽒に電話
X
し、誤って振り込んでしまったため、X ⽒の個⼈⼝座へ返⾦するよう電話を⾏った。
その際、C2 ⽒より GR 社から振り込まれたものであるため、X ⽒の個⼈⼝座ではな
く、GR 社の⼝座に返⾦するべきではないかと⾔われたが、強引に説得し、X ⽒の個
⼈⼝座に返⾦してもらっている。
C2 ⽒は、誤った振り込みが⾏われている旨の問い合わせを GR 社へ⾏っている。
18
この問い合わせの対応を⾏った A7 ⽒は、C2 ⽒からの買取実績が無いこと及び経費
精算システム上で C2 ⽒への⽀払いがなかったことから、C2 ⽒に GR 社から振り込
んでいない旨を伝えて終わっている。
このように、社内で不正が⽣じるかもしれないという不正リスクに対する意識が
低かったことによって、不正が発覚しなかった。
D) 当該不正を⽌めた理由
他⼈名義⼝座への振り込みを 2 回のみで辞めた理由は、他⼈を巻き込むことになる
ため、⽌めなければならないと考えていたとのことである。
しかし、この後 X ⽒の個⼈名義⼝座への振り込みが加速していることを鑑みると、
他⼈名義⼝座への振り込みを⾏うことにより、振り込みを利⽤した着服が発覚するか
否かを確認するために当該不正を⾏っていた可能性も否めない。
(イ)本⼈名義⼝座への振込
A) 不正の概要
上記 2 件の他⼈名義⼝座への振り込み以降は他⼈名義⼝座への振り込みを⼀切⾏わ
ず、2019 年 2 ⽉ 25 ⽇からは GR 社の銀⾏⼝座から直接 X ⽒⾃らの⼝座へ振り込みを
始めた。
元々存在する⽀払申請の内容を改竄する他⼈名義⼝座への振り込みと同じ⽅法では
なく、経費精算システムからエクスポートした FB データに X ⽒の⼝座と振込⾦額を
直接新たに追加し、総務課に FB データを渡している。
そして、他⼈名義⼝座への振り込みと同様に、総務課は当該改竄後の FB データに
基づいて振込を⾏った。
<本⼈名義⼝座への振込 スキーム図>
19
経費精算システム
経理課
申請部門 経理課 総務課
総務課 X氏
X氏
申請
承認
承認
FBデータ
出力
本人名義口座
を新たに追加
FBデータ
入手
総合振込
個人口座
入金
B) 不正⾦額
本⼈名義⼝座への振り込みにおける着服額は、次のとおりである。
なお、X ⽒の着服額は各時期における累計額を記載している。
(単位:千円)
時期 X ⽒着服額
2019 年 3 ⽉末 10,968
2019 年 6 ⽉末 39,974
2019 年 9 ⽉末 76,494
2019 年 12 ⽉末 109,274
上記のほか 2020 年 1 ⽉においても 1,680 千円着服している。
C) 不正が発覚しなかった経緯
総合振込の結果である「総合振込精査表」は総務課が出⼒して紙⾯で保管している
が、X ⽒は発覚を防ぐため、
「総合振込精査表」の 2 ページ⽬以降に表⽰されると想定
される箇所に FB データ上で⾃らの⼝座を追加していた。
そのため、総務課が「総合振込精査表」の 2 ページ⽬以降を確認していたら X ⽒へ
20
の振り込みを発⾒できる状態であったが、経費精算システムで総務課および経理課が
承認した後の FB データに基づいて⽀払いを⾏っているため、総務課においては個々
の振込先についての確認を⾏っていなかった。
総務課としてはアプリ上の備考欄に記載されている振込総件数と振込合計⾦額のみ
の⼀致を確認しているのみであった。
このアプリ上の備考欄に記載されている振込総件数及び振込合計⾦額は経費精算シ
ステム上で⾃動的に算出されるものではなく、
全て X ⽒が記載したものであったため、
当該照合では発覚しなかった。
D) 当該不正を⽌めた理由
当該不正は、2020 年 1 ⽉になってからも継続して⾏っており、今回の発覚が無けれ
ば⽌まらなかったと推察される。
(5) 本件不正⾏為の隠蔽
会計システムの仕訳起票を X ⽒が⾏っており、当該仕訳を上司が承認する統制が GR 社
で適切に運⽤されていなかった。
また、決算関係書類も X ⽒が作成していたが、それに関しても根拠証憑と計上残⾼の照
合を上司が承認する統制が適切に運⽤されていなかった。
GR 社の預⾦⼝座から着服を⾏っている際は、B 監査法⼈の⾦融機関に対する残⾼確認
書により差異が⽣じて発覚することを恐れ、店舗の現⾦残⾼や V 社への預け⾦残⾼を増加
させる架空の仕訳や架空の広告宣伝費といった実際の⽀払いを伴わない費⽤に関する架空
の仕訳を起票して隠蔽を⾏っていた。
それにより、B 監査法⼈の監査で確認する 2019 年 6 ⽉末残⾼に関しては実際の預⾦残
⾼と差異が出ていなかった。
また、店舗の現⾦残⾼を増加させたことに対する隠蔽として、店舗の⽇計表を偽装し、
店舗責任者のサインも真似をして記載していた。V 社への預け⾦残⾼を増加させたことに
対する隠蔽として、虚偽の違算明細を作成し、B 監査法⼈に説明を⾏っていた。
(6) 本件不正⾏為の動機
ブランド品が昔から好きであり、GR 社へ⼊社してブランド品との距離がより近くなっ
たことにより、欲望を⽌めれなくなった。
また、海外旅⾏も昔から好きであったが、過去に蓄えていた貯⾦が無くなってきたこと
で我慢していた。しかし、着服をきっかけとして⾹港やシンガポール、韓国等頻繁に海外旅
⾏へ⾏くようになり、⾶⾏機やホテルも⾼級なクラスを利⽤するようになった。
他の社員に対して厳しい態度を社内で取っていたことに対する⽭盾へ葛藤を感じていた
が、社内において多くの権限が付与されており、また X ⽒が⾏った業務を社内で確認する
21
統制が運⽤されておらず、また内部監査が厳しくなかったと認識していたことから、着服
するに⾄った。
なお、着服した資⾦の主な使途は、ブランド品の購⼊、旅⾏、飲⾷、美容整形及び借⾦の
返済である。
(7) 社内外における共犯者の有無
「イ 総合振込 (ア)他⼈名義⼝座への振込」に記載のとおり、判明した不正⾏為の⼀
部は社外の他⼈名義⼝座へ振込が⾏われている。しかし、X ⽒の本⼈名義⼝座を確認した
ところ、当該他⼈名義⼝座への振込額の全額が X ⽒の⼝座に⼊⾦されている。X ⽒の本⼈
名義⼝座や使⽤しているクレジットの利⽤明細を確認したが、ブランド品等個⼈的なもの
の購⼊や飲⾷に利⽤されており、特定の誰か共謀者に対して⽀払っている形跡は⾒受けら
れなかった。
また、X ⽒は社内において Z システムの仕組みが理解されていない点及び預⾦や売掛⾦
残⾼が上司や別の担当者により確認される統制が機能していないことに着⽬して不正⾏為
を⾏っており、その動機や⼿⼝を鑑みれば社内にも共犯者が存在しない単独犯であると判
断した。
3 アドベンチャーの⼦会社管理
(1) アドベンチャーの⼦会社管理の実情
アドベンチャーは、関係会社管理規程に基づき、関係会社から役職員の派遣を要請された
場合など必要に応じて役職員の派遣を⾏い、経理業務をアドベンチャーが⾏うなどの⼦会社
に対する管理を実施している。また、アドベンチャーの内部監査担当者は計画に従い各⼦会
社に対し監査を実施している。
なお、アドベンチャーは、グループ会社の増⼤等の状況を踏まえ、2019 年 11 ⽉に内部監
査室を設置し、それまでは他の部⾨(財務戦略部)と兼任させていた内部監査担当者を内部
監査の業務に専従させた。
(2) GR 社に対する管理状況
アドベンチャーは、2018 年 11 ⽉に GR 社を⼦会社化して以降、同社が監査役会及び内部
監査室が設置され、かつ、監査法⼈による監査も実施されるなど上場を⽬指して内部統制シ
ステムが整備されているとの認識だったことなどの事情もあり、役員派遣や経理業務を実施
するなどの対応はしていない。また、内部監査室の監査は、2019 年 6 ⽉に店舗の棚卸⼿続き
を対象に⾏っているが、特に問題は発⾒されていない。
4 同種の不正⾏為の有無
(1) 調査対象
22
アドベンチャーのグループ会社のうちアドベンチャーを含む以下の会社を調査対象とし
た。また、調査期間については、アドベンチャーが GR 社を買収した 2018 年 11 ⽉末を含
む最初の四半期末である 2018 年 12 ⽉末から現時点で開⽰の対象期間となる 2019 年 12 ⽉
末とした。
l 株式会社アドベンチャー
l ビックハートトラベルエージェンシー株式会社
l AppAge,Limited.
l 株式会社スグヤク
l コスミック流通産業株式会社
l コスミック GC システム株式会社
l 株式会社 wundou
l 株式会社 TET
l Galley Rare Pte.Ltd.
l Galley Rare Hong Kong Limited
l 株式会社 EDIST
l ラド観光株式会社
(2) 調査⽅法
① 同種の不正⾏為の有無については、不正の態様である Z システムを利⽤した際に⽣じ
る勘定科⽬や X ⽒が改竄した勘定科⽬について以下の⼿続を実施した。
勘定科⽬ 実施⼿続 対象期間
現預⾦ 本社や⽀店/店舗の⼿許現⾦管理に関する内部 2018 年 12 ⽉,2019 年
統制を確認する。 3 ⽉,6 ⽉,9 ⽉,12 ⽉
⽇々営業終了後に適切に現⾦カウントが 末時点
⾏われているか
複数⼈により確認している⼜は定期的に
カウント担当者は交代しているか
本社や全⽀店/店舗から提出される毎⽉末の⽇ 2018 年 12 ⽉,2019 年
計表を閲覧し、上記の統制が適切に運⽤され 3 ⽉,6 ⽉,9 ⽉,12 ⽉
ているか確認する。 末時点
2019 年 12 ⽉の 1 ヶ⽉間における振込全件に 2019 年 12 ⽉
関して、原始証憑と突合し、原始証憑の存在し
ない振込の有無、振込先の⼀致及び振込⾦額
の⼀致を確認する。
⾦融機関から⼊⼿した残⾼を確認できる証憑 2018 年 12 ⽉,2019 年
23
等を閲覧し、全ての預⾦残⾼(残⾼ 0 円のもの 3 ⽉,6 ⽉,9 ⽉,12 ⽉
も含む)が⼀致しているか確認する。 末時点
売掛⾦ Z システムから出⼒した⼊出⾦データを閲覧 2018 年 12 ⽉,2019 年
し、不正な振込の有無を確認する。 3 ⽉,6 ⽉,9 ⽉,12 ⽉
末時点
預け⾦ 残⾼証明書原本を閲覧し、会社計上額と⼀致 2018 年 12 ⽉,2019 年
しているか確認する。 3 ⽉,6 ⽉,9 ⽉,12 ⽉
末時点
② グループ会社において適切と認められる役職員に対して、類似案件の可能性を含む質
問を実施した。
(3) 調査結果
① グループ会社に対する上記調査の結果、類似案件は識別されなかった。
② グループ会社の役職員に対する質問の結果、類似案件は識別されなかった。
第3 過年度連結決算への影響
過年度連結決算への影響は以下のとおりである。
(単位:百万円)
期間 項⽬ 訂正前 訂正後 影響額
収 益 21,022 21,022 −
第 13 期 営業利益 545 436 △109
(2019 年 6 ⽉期) 税引前利益 521 413 △108
第2四半期 資本合計 1,718 1,584 △134
資産合計 16,017 15,883 △134
収 益 36,312 36,312 −
第 13 期 営業利益 995 872 △123
(2019 年 6 ⽉期) 税引前利益 952 828 △124
第 3 四半期 資本合計 2,002 1,854 △148
資産合計 19,072 18,924 △148
収 益 50,544 50,544 −
第 13 期 営業利益 684 540 △144
(2019 年 6 ⽉期) 税引前利益 604 460 △144
通期 資本合計 1,709 1,539 △170
資産合計 17,187 17,017 △170
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収 益 14,533 14,533 −
第 14 期 営業利益 404 366 △38
(2020 年 6 ⽉期) 税引前利益 372 333 △39
第 1 四半期 資本合計 1,836 1,628 △208
資産合計 19,180 18,972 △208
また、横領額のうち各四半期に対する税引前利益に与える影響額は以下のとおりである。
第4 本件不正⾏為の原因・背景
本件不正⾏為については、上述したとおり(第2、3(7)) ⽒の単独によるものであり、
、X
GR 社内の他の役職員や外部の第三者の関与は認められないが、本件不正⾏為による着服の⾦
額が多額となり、かつ、それが⻑期間発覚しなかった原因や背景には、以下に述べるような
GR 社やアドベンチャーの問題点を挙げることができる。
1 GR 社の問題点
(1) 組織体制の問題点
ア 経理部⾨でのチェック体制
X ⽒は、 社の中で業務上厳格な姿勢で臨む経理担当者として評価され、
GR また、 ⼝座
Z
から銀⾏⼝座への⼊⾦の業務については、X ⽒の上司らが⼊社する前から⾏っていたなど
の事情もあり、 ⽒の上司らは X ⽒に担当業務を任せっきりとなってしまった。
X そのため、
経理部⾨内で X ⽒の業務をチェックする者が事実上不在であり、X ⽒の業務はいわば「ブ
25
ラックボックス」と化していた。
X ⽒⾃⾝、本委員会のヒアリングにおいて、Z ⼝座から⾃らの⼝座への⼊⾦について上
司らによってチェックされることはない⾃信があった旨述べているが、X ⽒のかかる⾃信
は、X ⽒が本件不正⾏為に最初に⼿を染めた 2016 年 10 ⽉ 25 ⽇に Z ⼝座から X ⽒⾃らの
銀⾏⼝座に 85 万円を振り込んだ後、同⽇中にさらに 25 万円を振り込んでいるなど極めて
⼤胆な⾏動に表れている。
このように、経理部⾨内においてダブルチェック体制による相互牽制がない状態が、従
来から⾼価なブランド品等を購⼊する嗜好のあった X ⽒の本件不正⾏為を誘発する機会を
与えてしまい、また、本件不正⾏為の発覚を遅らせてしまった要因として挙げることがで
きる。
イ 他部⾨によるチェック体制
経費精算システムにおいては、GR 社の各部署から証憑を添付した⽀払い依頼が起票さ
れ各部署において承認された後、総務課および経理課担当者が証憑と突き合わせるなどし
て承認し、最終的に総務課が⽀払を承認しており、経理課の承認した内容を他部⾨である
総務課でチェックする仕組みになっている。そして、少なくとも⽀払承認時に、振込内容
を総務課において証憑等と突き合わせてチェックを⾏えば、経理課の承認した内容が適正
なものかどうかを確認することが可能であった。
しかし、実際は、総務課担当者が⽀払を⾏う際には、経理課担当者が承認しアプリ上に
記録した振込の件数と総額を経費の明細が記載された総合振込精査表の件数および総額と
突き合わせてチェックするのみで、各部署が経費精算の申請をする際に添付していた証憑
等との突合せを⾏っていない運⽤が定着していた。これは既に各部署からの申請に基づき
総務課および経理課において各部署の経費精算を承認する際に証憑との突合せを⾏ってい
るため、改めて⽀払い実⾏時に総務課で⾏う必要がないと判断されて運⽤されていたもの
である。X ⽒はこの運⽤を熟知した上で、各部署から申請のあった経費精算に関わる明細
が記録された FB データを改ざんして本来振り込むべき件数と⾦額を増加させ、総務課に
おいてはそのまま証憑等を確認せずに振込の承認を⾏っていた。
このように、X ⽒の業務について他部⾨によるチェックが実質的に機能していない状態
であった。
(2) 組織としての不正リスクに対する意識や感度が不⼗分
ア Z システムの仕組みの無理解
Z システムでは、その管理画⾯に GR 社の Z ⼝座の残⾼が表⽰されており、GR 社の海
外営業チームの担当する顧客から商品の購⼊代⾦の⼊⾦があった場合には Z ⼝座残⾼が
増加する仕組みになっていた。X ⽒の Z システムにおける業務は、この Z ⼝座から GR
社の銀⾏⼝座に資⾦を移動することであり、いわば会社の財布から財布への移動であった。
26
この資⾦移動の⼿続は単なる事務⼿続に過ぎず、時間がかかることも考えられないため、
X⽒が作成する Z ⼝座の残⾼(売掛⾦)に関わる資料で残⾼が膨れ上がる事態は不⾃然な
状態のはずであった。しかし、上司らは、 システムの仕組みを理解していなかったため、
Z
Z ⼝座の管理画⾯でその残⾼を確認することもなく、また、GR 社内で Z システムの残⾼
を売掛⾦として会計処理していた経緯もあったため、会計帳簿上で Z ⼝座に関する売掛
⾦残⾼が増加しても不⾃然であると認識することもなく、 ⽒にその回収を早期に⾏うよ
X
う指⽰したり、伝えたりする程度であった。
X ⽒も本委員会のヒアリングにおいて、上司からは Z システムの残⾼について「回収
できるときに回収してね。
」と⾔われたことがあるが、 システムの管理)画⾯にある残
(Z
⾼はいつでも回収できるということを理解していなかったなどと述べるなど、上司らの Z
システムに関する無理解が X ⽒による本件不正⾏為を容易にしてしまった要因であると
考えることができる。
イ 根底にある不正リスクに対する感度や意識
X ⽒の上司らは、Z システムについて理解していなかったため、Z システムでは、管理
者権限として ID とパスワードが与えられた者は、Z システムの管理画⾯上で GR 社の銀
⾏⼝座以外にも振込先の⼝座を追加することができる仕組みになっていたことも把握し
ていなかった。
このようなシステムの仕組みを知らずに放置して X ⽒の業務のブラックボックス化を
許してしまっていたという意識の根底には、店舗等での不正リスクについて留意をしてい
た実情を踏まえても、その他の不正リスクに思いが⾄らないという、組織としての不正リ
スクに対する意識や感度が⼗分ではなかった点を挙げることができる。
このことは、 ⽒が総合振込のシステムを悪⽤して他⼈名義⼝座に振り込んだ際、
X 当該
他⼈から⾃らの⼝座にGR社から誤って振込がなされているとの連絡を受けたにもかか
わらず、組織として対応するに⾄らなかったことや、X⽒が⾝に着けているブランド品等
がその給与に⾒合わないものであることを GR 社の役職員の誰もが認識していたにもか
かわらず、X ⽒の真実かどうか疑わしい説明を安易に信じて、GR 社のお⾦を扱っている
X ⽒には不正⾏為に及ぶ機会も動機も存在するというリスクに思い⾄っていない状況か
らも窺うことができる。実際、本委員会のヒアリングにおいて、「冷静に考えれば、経理
を⻑年やっていて、服装が派⼿で、どうして気づかなかったのか。
」と述べる者もいた。
なお、GR 社においては、コンプライアンス規程に基づきコンプライアンス委員会を定
期的に開催し、また、外部から弁護⼠や危機管理コンサルタント等を招いてコンプライア
ンス研修等を実施していたが、不正リスクに対する研修等は開催されておらず、これに対
する意識や感度を⾼めるための組織としての教育も⼗分ではなかったと⾔わざるを得な
い。
27
(3) コンプライアンス意識の浸透が不⼗分
X ⽒が本件不正⾏為に及んだ動機がブランド品の購⼊や海外旅⾏等のためにお⾦がほし
かったということにあり、また、本件不正⾏為に⼿を染めた際の⼤胆な⾏動を踏まえれば、
その業務態度等をも考慮しても、X⽒⾃⾝のコンプライアンスに対する意識は著しく希薄
だったことは⾔うまでもない。そして、ただでさえ希薄であった X ⽒のコンプライアンス
に対する意識はブランド品等の購⼊に対する欲求等によってますます鈍⿇し、不正⾏為を
エスカレートさせていったことが窺われる。そして、その間、GR社においては、X ⽒のコ
ンプライアンス意識を鈍⿇させない、あるいは不正⾏為を躊躇させるような、社員に対す
る教育等を⾏ってコンプライアンス意識を社内に浸透させる取り組みが⼗分であったとは
認められない。
(4) 会社の組織⾵⼟
GR 社は家族経営から始まり、会社の組織⾵⼟として、社員を信頼し任せるという意識が
強いことが窺われ、そのような組織⾵⼟が役職員の不正⾏為のリスクに対する感度を弱め
てしまったという側⾯があることは否定できない。このことは、本委員会のヒアリングに
おいて、 社の組織⾵⼟の特徴について、前の⼈の作業に間違いはあるかもしれないが、
GR 「
不正はない、という家族的⾵⼟があった。、
」「根底にあるのは家族的経営に基づく他⼈への
信頼感があった。リスクへの認識が⽢い。
」などと述べる役職員が複数存在したことや、X
⽒⾃⾝も同社の特徴について「家族的雰囲気でお互いに信頼し合っていた。、
」「会社にはル
ールがなかった、相互のチェックもなかった。
」などと述べていたことからも窺うことがで
きる。
(5) 内部監査及び監査役監査の実情
内部監査や監査役による監査においては店舗等の監査に重点が置かれ、経営管理部につい
ては重点が置かれていなかった。そのため以下のとおり、X ⽒の不正⾏為を躊躇させるよう
な状況にはなかったことが窺われる。
ア 内部監査室の監査
内部監査室においては、時期は明確ではないが、GR 社の宅配買取りの決済システムに
おいて、⽀払に当たっての証憑の確認が不⼗分であることを認識し、それを改善するよう
担当者に告げるなどしたことがあり、GR 社における証憑との突合せなどのチェック体制
が不⼗分であると認識していた。
しかし、総合振込において担当者が振込を⾏う際に証憑との突合せを⾏っていなかった
ことを把握していなかった。内部監査室においては、現⾦等を扱う店舗や本社の他の事業
部⾨でのリスクが⾼いことを踏まえ、店舗等での監査を重点的に⾏っていたため、総合振
込のシステムや Z システムにおける不正リスクについて思いが⾄らず、経営管理部に対す
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る内部監査は重視されていたとはいえない状況であった。
イ 監査役による監査
監査役は、GR 社がアドベンチャーの⼦会社になったことを踏まえインサイダー取引等
の情報管理や、不正のリスクが⽐較的⼤きいと考えられた稟議書や会議費・交際費の精算
関係を重点的に監査するなどしていたが、総合振込や Z システムでの運⽤状況についての
監査は実施された形跡がなく、内部監査同様、監査役による監査においても、経営管理部
に対する監査は重視されていたとはいえない状況であった。
2 アドベンチャーの問題点
(1) ⼦会社管理の実情
アドベンチャーは、 社が上場に向け B 監査法⼈の監査を受けていたことなどの事情か
GR
ら、他の⼦会社とは異なり管理の必要性をさほど認識していなかった。そのため、GR 社か
ら業務フロー等の内部統制報告書の作成に必要な資料等を取り寄せていたものの、GR 社の
担当者との緊密なコミュニケーションにより上記資料からは窺われない GR 社の内部統制等
の問題点を把握するなどの連携が⼗分ではなかった。
このような情報連携が不⼗分なままアドベンチャーが GR 社の店舗等に対する内部監査等
を実施したとしても⼦会社で起こり得る不正リスクについての実情を⼗分把握できないまま
形式的な対応に終わってしまう可能性がある。
(2) ⼦会社の不正リスクに対する組織の意識や感度の実態
アドベンチャーでは最近 M&A によりグループ会社を増加させており、また、昨今におけ
る⼦会社での不祥事が多発している実情を踏まえると、⼦会社での不正リスクが経営に及
ぼす影響度が⾼まっていると⾔わざるを得ない。このような状況にもかかわらず、本来これ
らのリスクを議論すべきリスク管理委員会等において議論されることはほとんどなく、実
際に⼦会社で問題が発⽣した際の当⾯の対処のための議論にとどまっている状況にあるこ
とが窺われる。このように、アドベンチャーにおいて⼦会社の不正リスクについての議論を
⼗分⾏わなかったことの根底には、組織としてこれらのリスクに対する意識や感度が⼗分
ではなかったことを挙げることができる。
第5 再発防⽌策
1 GR 社に対する提⾔
(1) ⽀払等の業務フローの⾒直し
GR 社は、社内での⽀払い等の業務フローにおいて証憑との突合せを⾏う運⽤を徹底して
いなかったことが窺われ、そのような業務フローの運⽤上の不備を熟知した X による不正
⾏為を許してしまった。
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そこで、総合振込を始めとする各業務フローにおいて各⽀払内容及び⾦額について個別の
証憑と突合せを徹底するなど業務フローを⾒直し、改善することが妥当である。
(2) 組織上の牽制強化
X ⽒の不正⾏為を未然に防⽌できなかったのは、X ⽒の供述するとおり(第4、1(1))
、⾃
らの業務をチェックされることがないとのいわば安⼼感を与えてしまったことが要因とし
て挙げられ、また、本件不正⾏為を⻑期にわたり発⾒できなかったのも、 ⽒の業務が固定
X
化し、ブラックボックス化していたことによる。
そこで、経理課内及び他部⾨でのダブルチェック体制を整備するとともに、⼀定期間経過
後の担当者の⼈事異動やそれが難しい場合の担当者の⼀部業務の変更、担当者が夏休みな
どの業務を停⽌している間に他者に業務を引き継ぐなどの相互の牽制機能を強化すること
が必要である。
また、担当者間での相互の牽制機能だけではなく、預⾦残⾼や売掛⾦残⾼等の決算関係数
値及び担当者が⼊⼒した仕訳に関して、各担当者へ任せっきりにするのではなく、上司が
根拠証憑と照合して承認する体制を構築することも必要である。
(3) 組織の不正リスク及びコンプライアンスに対する意識等の改善
会社の組織⾵⼟にも起因する組織の不正リスクに対する意識や感度が⼗分ではなかった
点を改め、また、組織全体にコンプライアンス意識を浸透させることにより、仮に今後不正
⾏為の動機を持った役職員が存在したとしても、不正⾏為の実⾏を躊躇するような社内環境
を整備するため、以下のような対策を提⾔する。
ア) トップがコンプライアンス・リスク管理を重視した姿勢を鮮明にする。
イ) 取締役会において不正リスクに関する議題を意識的かつ定期的に取り上げ、役職員
の不正リスクに対する意識や感度が鈍⿇しないようにする。
ウ) コンプライアンス委員会においてコンプライアンス・リスク管理の意識を⾼めるた
めの役職員の教育、研修の計画を⽴て、これらを実施し、定期的に取締役会に報告す
る。
エ) 本件不正⾏為を踏まえ、コンプライアンス委員会において、潜在的な不正⾏為のリス
クを洗い出し、そのリスクが顕在化した場合の会社経営に与える影響度合いを検証し、
リスクの度合いに応じて優先的に対策を講じ、取締役会に報告する。
オ) 内部通報制度の趣旨、内部通報制度に該当し得る事例について周知、徹底を図り、内
部通報制度の周知等の⽅法や通報の有無等を含め、コンプライアンス委員会及び取締
役会に定期的に報告する。
(4) 本件不正⾏為を踏まえた監査の強化
30
店舗等でのリスクに重きを置いた監査という観点に加え、証憑のチェックを⾏っていない
慣⾏が許容されていたことに鑑み、⽀払の際に証憑との突合せをきちんと⾏っているかとい
う観点からの監査を充実させることが必要である。また、 ⽒の業務のブラックボックス化
X
を許してしまった組織体制を検証し、このような業務の固定化を回避し、ブラックボックス
化を許容しないよう、内部監査室と監査役が連携し、店舗及び本社を問わず、相互の牽制機
能強化のための対策が講じられているかどうかチェックし、改善指導を⾏うことが必要であ
る。
2 アドベンチャーに対する提⾔
(1) ⼦会社管理体制の強化
関係会社管理規程に基づき、経営管理部や内部監査室において、グループ会社の内部監査
担当者等から内部統制上の問題等の情報を⼊⼿し、グループ会社に対し改善指導を⾏った
り、その指導の内容を他のグループ会社に横展開できるような情報共有体制を構築するな
どの管理体制を強化することが必要である。そのためにも、アドベンチャーの経営管理部
や内部監査室が⼦会社のそれらの部⾨と緊密なコミュニケーションをとり、情報連携がで
きる関係を構築することが必要である。
特に GR 社に対しては、かかる情報連携のための関係構築を⾏うことにより、再発防⽌策
の実効性について把握し、その実施状況を効果的にモニタリングすることが必要である。
(2) 組織としての⼦会社での不正リスクに対する意識や感度を⾼める施策
GR 社での本件不正⾏為を踏まえ、組織としての⼦会社での不正リスクに対する意識や感
度を⾼めるため、経営管理部や内部監査室が⼦会社とのコミュニケーションを図ることに
より⼊⼿した不正リスクに関わる情報や昨今の⼦会社での不正事案に関する情報を定期的
にコンプライアンス委員会や取締役会に報告させ、コンプライアンス委員会等で議論した
り、外部講師を招くなどして⼦会社に関わる不正リスクについての意識や感度を⾼めるた
めの教育等を⾏うことも必要である。
以上
31