5938 LIXIL 2019-04-09 15:30:00
当社代表執行役の異動における一連の経緯及び手続の調査・検討に係る「調査報告書」の公表について [pdf]

                                                   2019 年4月9日
各   位
                      会 社 名   株式会社 LIXIL グループ
                      代表者名    代表執行役会長       潮田 洋一郎
                              (コード番号 5938     東証・名証各一部)
                      問合せ先    IR 室 室長       平野 華世
                              (TEL.03-6268-8806)




          当社代表執行役の異動における一連の経緯及び手続の調査・検討に係る
                   「調査報告書」の公表について


 当社は、2019年2月25日付けで当社ウェブサイトにおいても公表いたしましたとおり、2018年11月
1日付けで行ったCEOの交代等を含む代表執行役等の異動(以下「本件人事異動」といいます。
                                           )に関
して、本件人事異動が、代表執行役やCEO等の交代という当社における最も重要な戦略的意思決定を含
むものであることを踏まえ、コーポレートガバナンスの充実の観点から、本件人事異動における一連
の経緯及び手続の適切性・透明性について、調査・検証を行うことが必要であると判断し、第三者の
弁護士に委嘱して、調査・検証を実施いたしました(以下「本件調査」といいます。。
                                      )
 当社では、本件調査の結果等については、株主の皆様を含めたステークホルダーの皆様によりわか
りやすい形でお伝えすることが重要であるとの考えのもと、2019年2月25日開催の取締役会において、
本件調査の結果等を、同日付けで当社ウェブサイトで公表した形式及び内容で公表することを決定し、
公表いたしました。
 その後、株主様との間で行った対話内容及び株主様から頂いた要請内容等を踏まえ、当社として、
本件調査を実施した第三者の弁護士より受領した調査報告書の全文を開示することが必要であると判
断するに至ったことから、本日、別添のとおり開示することといたしました。本件調査の結果を踏ま
えた当社の対応等は、2019年2月25日付けで当社ウェブサイトにおいて公表いたしましたとおりであ
り、その内容等に変更はありません。
 なお、別添の調査報告書の全文につきましては、当社における機密情報保護の観点から、必要最低
限の範囲で非開示措置を施しております。


    今後も長期にわたって成長を実現する企業として、株主および投資家の皆様のご期待にお応えする
べく、更なる事業の発展はもとより、コーポレートガバナンスの強化・充実及び透明化についてもこ
れまで以上に尽力し、企業価値の向上に努めてまいります。何卒、引き続きのご支援の程、宜しくお
願い申し上げます。


                                                          以上
                     調 査   報    告     書

                                                  2019 年 2 月 18 日
株式会社 LIXIL グループ 御中


                                西 村 あ さ ひ 法 律 事 務 所


                                弁護士       平   尾          覚


                                弁護士       泰   田    啓     太
    当職らは、貴社(以下「LIXIL グループ」といいます。)のご依頼により、2018 年 10 月 31
日に公表された LIXIL グループ CEO の交代等の人事(以下「本件人事」といいます。)に関し
て、LIXIL グループ監査委員会の調査補助者として、LIXIL グループ指名委員会及び取締
役会の手続その他の関連事項の事実調査(以下「本件調査」といいます。)を行いましたの
で、その結果を下記のとおりご報告申し上げます。
    なお、本報告書は、与えられた時間及び条件の下において、可能な限り適切と考えられ
る調査、分析等を行った結果をまとめたものですが、今後新たな事実等が判明した場合に
は、その結論等が変わる可能性があります。また、本報告書は、裁判所等の判断を保証す
るものではない点にもご留意ください。


                            記


第 1 本件調査の概要


1    本件調査の経緯


    2018 年 11 月 27 日開催の LIXIL グループ取締役会における議論を踏まえ、本件人事に関
し、LIXIL グループ監査委員会が調査を行うことが合意され、併せて、当職らが、監査委
員会の調査補助者に選定された。


2    本件調査の方法


    本件調査においては、LIXIL グループから受領した本件人事に関連する資料の精査を
行ったほか、取締役全員に対するヒアリングを実施した。




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第 2 本件調査の結果判明した事実


1    指名委員会及び取締役会の権限等


    LIXIL グループの取締役会規則第 8 条及び別表第 6 項によれば、執行役の選任及び解
任、代表執行役の選定及び解職並びに執行役の職務の分掌(CEO、COO、CFO の決定を含
む。)及び指揮命令の関係その他の執行役相互の関係に関する事項は、取締役会決議に
よって定めることとされている。
    本件においては、執行役の選任及び解任、代表執行役の選定及び解職並びに執行役の職
務の分掌は、指名委員会において議論・決議がなされ、その後、指名委員会から取締役会
に対して議案として提案されているが、もとより、執行役の選任及び解任等が取締役会の
決議事項であるからといって、指名委員会においてこれらの事項について決議をし、取締
役会に対して議案として提案することが許されないわけではなく、LIXIL グループにおい
ても、事実上の慣例として、指名委員会における議論を行った後に、指名委員会の決議内
容が議案として取締役会に提案されていた。


2    2018 年 10 月 26 日に指名委員会が開催されるに至った経緯


    潮田洋一郎氏(以下「潮田氏」という。)は、当職らによる 1 回目のヒアリングにおいて、
「2018 年 10 月 19 日に行った瀬戸欣哉氏(以下「瀬戸氏」という。)及び共通の知人との会食
(以下「10 月 19 日の会食」という。)において、LIXIL グループの経営方針( 略 )など
について議論を行ったが、その際、このまま瀬戸氏に LIXIL グループの経営を任せること
はできないのではないかという思いを強くした。その後、2018 年 10 月 22 日、LIXIL グ
ループの取締役会が開催された(以下「10 月 22 日の取締役会」という。)が、業績が悪化し
ているにもかかわらず、瀬戸氏は特段の対応策を考えている様子もなく、このままでは
LIXIL グループが危機的状況に陥ってしまうのではないかと感じ、これ以上瀬戸氏に
LIXIL グループの経営を任せることはできないと考えた。そこで、10 月 22 日の取締役会
の後、山梨広一氏(以下「山梨氏」という。)らと話をし、2018 年 10 月 31 日に開催が予定さ
れていた取締役会までに指名委員会を開催し、その場で CEO の交代を提案することを決意
した。」と説明している。
    この点、瀬戸氏は、当職らによるヒアリングに対して、「10 月 19 日の会食では、
(    略   )について議論した。私は、(    略   )と助言した。また、(   略   )と伝え
た。( 略 )」などと述べており、LIXIL グループの経営方針( 略 )などについて議
論を行ったという点において、潮田氏と瀬戸氏の説明は概ね整合している。
    また、10 月 22 日の取締役会に係る取締役会議事録によれば、同日の取締役会では、監
査委員会での審議事項等についての説明に関する質疑応答において、複数の取締役から、


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瀬戸氏は LHT の事業にもう少し注力すべき旨の意見、アルミ事業の海外展開に関する質
問、瀬戸氏が作成した事業計画の編成プロセスに問題がある旨の指摘がなされ、それに対
して瀬戸氏が回答した事実が認められる。
 以上の事実関係を踏まえると、潮田氏は、10 月 19 日の会食及び 10 月 22 日の取締役会
を経て、潮田氏が、このまま瀬戸氏に LIXIL グループの経営を任せることはできないと考
え、10 月 31 日の取締役会に先立ち指名委員会を開催し、CEO 及び代表執行役の交代を提
案することを決意し、「潮田氏が LIXIL グループの CEO に復帰するのであれば瀬戸氏は退
任する」旨を瀬戸氏が発言していたことを根拠に、潮田氏が CEO に復帰することで、LIXIL
グループの CEO 及び代表執行役を交代させようとしたものと考えられる。
 この点、潮田氏は、当職らによる 2 回目のヒアリングにおいて、「瀬戸氏が CEO を退任
することになった本当の理由は、LIXIL グループの業績悪化である。」、「LIXIL グループ
が、瀬戸氏の退任理由を業績悪化として公表しなかったのは、瀬戸氏の友人から、瀬戸氏
について、退任理由は LIXIL グループの業績悪化としないでほしい、瀬戸氏の体面を保っ
てほしいと要請されたからに他ならない。」、「指名委員会においても、瀬戸氏の CEO 退任
理由は、業績悪化であることが共有されていたと思う。」と説明している。また、取締役
の中には、当職らによるヒアリングにおいて、今回の CEO 及び代表執行役の交代は、業績
悪化の責任を取るためであったと述べる者もいる。しかし、過去に開催された指名委員会
の議事録等において、LIXIL グループの業績悪化を理由として、瀬戸氏に辞任や解任を求
めるなどの議論がなされた形跡は見られない。加えて、当職らによるヒアリングの結果、
指名委員の中に、瀬戸氏の CEO 退任理由は業績悪化であると認識している者はいなかっ
た。以上のことからすると、潮田氏が、その内心において、LIXIL グループの業績悪化を
理由として瀬戸氏を退任させようと考えたことは否定できないものの、指名委員会におい
て、瀬戸氏の CEO 退任理由が業績悪化であるとの認識が共有されていたと認めることはで
きない。
 なお、LIXIL グループの経営を巡る、潮田氏と瀬戸氏の意見対立は、10 月 19 日の会食
に端を発したものではなく、それ以前から両氏の意見は対立していた。瀬戸氏は、
「( 略 )2017 年 7 月頃から、潮田氏と意見が対立するようになった。」と述べ、ある取
締役も、「瀬戸氏との月に 1 回のミーティングの際に、潮田氏と意見の対立があると聞か
されていた。」と述べる。
 また、このような意見の対立を背景として、瀬戸氏が CEO からの辞意を周囲に漏らすこ
ともあったようである。ある取締役は、当職らによるヒアリングに対して、「2018 年 8 月
下旬頃、思い詰めた様子の瀬戸氏から『会社を辞めたいと思っている。明日、2 人で話を
できないか。』と言われた。翌日、朝食を取る中、瀬戸氏から取締役会の前日、潮田氏と
の間で、(   略   )について議論となったが意見が一致せず、やる気をなくしてしまい、
取締役を辞めたいと思っている旨の話を聞いた。会社のトップが退任するという話は、気
軽にできる話ではなく、瀬戸氏の中で意思は固まっているのだろうと感じた。また、その


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際、瀬戸氏から、『指名委員会で解任になるのなら、自分から辞任した方がましだ。』と
の発言もあった。」と説明している。さらに、別の取締役も、当職らによるヒアリングに
対して、「2018 年 9 月下旬頃に、社長室で 2 人きりで話をしたときに、瀬戸氏は、『自分
の思うとおりにいかないし辞めたい。いつ辞めても良い。』という趣旨のことを言ってい
た。」と説明している。この点、瀬戸氏は、当職らによるヒアリングに対し、上記のよう
な発言をしたこと自体は否定していないものの、仮にそのような発言をしたのであれば、
必ずその発言に続けて、「それでも最後まで自分(瀬戸氏)の職務は全うする。」などと話し
ている旨説明している。


3    2018 年 10 月 26 日開催の指名委員会


    2018 年 10 月 26 日に開催された指名委員会(以下「10 月 26 日の指名委員会」という。)
は、同月 24 日から行われた日程調整の結果、その開催が決まった。
    指名委員会議事録によれば、指名委員全員が出席して開催された 10 月 26 日の指名委員
会において、2018 年 11 月 1 日付けで、潮田氏及び山梨氏を執行役に選任すること、潮田
氏を LIXIL グループの代表執行役会長兼 CEO に、山梨氏を LIXIL グループの代表執行役社
長兼 COO に選定することなどを、2018 年 10 月 31 日に開催が予定されていた取締役会に提
案することが、議案として提案された事実が認められる。なお、指名委員 5 名のうち、2
名は電話会議による出席であった。
    ( 略 )潮田氏は、上記議案を提案する理由・背景として、10 月 19 日の会食におい
て、瀬戸氏から「潮田さんが CEO を務めるのであるなら私はいつでも身を引きます」という
発言がなされたこと、潮田氏としては、LIXIL グループの業績に照らし、瀬戸氏の事業計
画では不十分であると感じたことなどを述べた事実が認められる。
    なお、潮田氏は、当職らによる 1 回目のヒアリングにおいて、「10 月 19 日の会食におい
て、瀬戸氏に対して、従前から資本政策は潮田氏が担当すると言ってきたが、このまま株
価の低迷が続くようであれば、LIXIL グループの CEO に復帰したいと考えている旨伝え
た。このときも、瀬戸氏は、『潮田氏が LIXIL グループの CEO に復帰するのであれば明日
にでも辞める。』と話していた。」と説明している。一方、瀬戸氏は、「10 月 19 日の会食
で、潮田氏が瀬戸氏に CEO を降りてほしいと伝え、瀬戸氏がこれを受け入れたという会話
はなかった。」と説明しており、10 月 19 日の会食において、瀬戸氏の辞任に関する話がな
されたかという点については、両者の説明には齟齬がある。この点、10 月 19 日の会食に
同席していた潮田氏及び瀬戸氏の共通の知人は、10 月 19 日の会食において、瀬戸氏が、
①( 略 )、②潮田氏が LIXIL グループの CEO に復帰するのであれば瀬戸氏は退任する
旨、③引き続き瀬戸氏が CEO を務めさせてもらえるのであれば、やっていきたいと考えて
いることがある旨を述べたと説明している。
    以上に鑑みると、10 月 19 日の会食において、瀬戸氏が、「潮田氏が LIXIL グループの


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CEO に復帰するのであれば瀬戸氏は退任する」旨の発言をした可能性が高い。もっとも、瀬
戸氏のこの発言の趣旨に関しては、潮田氏は、当職らによる 1 回目のヒアリングにおい
て、瀬戸氏が具体的な退任の時期を念頭に置いていたというよりは、潮田氏が LIXIL グ
ループの CEO に復帰する意思を有していれば瀬戸氏はすぐにでも辞めるという意味であっ
たと考えている旨述べている。他方、瀬戸氏は、当職らのヒアリングに対して、10 月 19
日の会食において上記の発言をしたことは否定するものの、10 月 19 日の会食以外の場面
において、潮田氏に対して、潮田氏が CEO に復帰するのであれば、すぐにでも辞めると話
したことがあることを認め、その発言の趣旨につき、「あくまでも個人として CEO という
地位に執着するつもりはないという心意気に過ぎなかった。」と述べている。10 月 19 日の
会食における上記の瀬戸氏の発言の有無という点において、両者の説明には齟齬がある
が、潮田氏も、10 月 19 日の会食の場面では、瀬戸氏が具体的かつ確定的な退任の意思を
表明したとは受け止めていないのであり、10 月 19 日の会食の時点において、瀬戸氏が具
体的かつ確定的な退任の意思を持っていた事実はないという点では、潮田氏と瀬戸氏の認
識に決定的な齟齬はない。
 しかし、ある指名委員は、当職らのヒアリングに対して、2018 年 10 月 25 日、潮田氏か
ら、電話で、「10 月 19 日に、瀬戸さんと話し合った結果、瀬戸さんに CEO を辞めてもらっ
て、私が新たに CEO に就任することになった。」と言われた旨述べている。別の指名委員
も、当職らのヒアリングに対して、「10 月 26 日の指名委員会は、『緊急事態が起きたの
で』との事務局からの連絡により、急遽招集されたものである」などと述べている。ま
た、その指名委員は、「2018 年 10 月 25 日夕刻、潮田氏から電話が掛かってきて話をした
際、潮田氏から、『瀬戸氏と 2018 年 10 月 19 日に夕食を共にしたところ、瀬戸氏から、
CEO を辞めたいと言われた。』と言われ驚いた。」、「潮田氏は、『至急、瀬戸氏の後任者
を決めなければならず、潮田氏が CEO に、山梨氏が COO に、それぞれ就任する予定であ
る。』などと述べた。」、「10 月 26 日の指名委員会において、潮田氏は、『シンガポール
からリモートで経営に携わるのか。』という質問に対し、方法はいろいろあるといった回
答をしたので、潮田氏と山梨氏は暫定的な代行の立場での就任かと理解した。」などと述
べている。さらに、山梨氏は、当職らのヒアリングに対して、「2018 年 10 月 24 日または
同月 25 日のビジネスアワーに、潮田氏から電話を受けた。この電話において、潮田氏
は、潮田氏自身の CEO 復帰に伴い、瀬戸氏が CEO を退任することについて、瀬戸氏の了承
を得たと聞いた。」旨述べている。
 以上の説明からすると、潮田氏は、10 月 26 日の指名委員会を招集するに際し、あたか
も瀬戸氏が CEO を辞任する具体的かつ確定的な意思を有しているかのような発言をしたと
考えられ、その発言内容は、瀬戸氏の意思に関する潮田氏の理解とも整合していない上、
指名委員の誤解を招く可能性の高いものであったと考えられる。実際、当職らによるヒア
リングにおいて、ある指名委員は、「潮田氏の説明を聞き、瀬戸氏が CEO を辞める意思を
表明しているということが、この指名委員会での議論の前提になっていると思った。」旨


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説明し、また、別の指名委員も、「10 月 26 日の指名委員会における潮田氏の説明、特に、
瀬戸氏が、『潮田さんが CEO を務めるのであるなら私はいつでも身を引きます。』と言っ
たという説明を聞き、加えて、潮田氏を CEO に選任する議案が提案されているのを見て、
瀬戸氏が CEO を退任する意思を固めていると受け止めていた」旨説明している。
    もっとも、ある指名委員は、「10 月 26 日の指名委員会の終盤において、瀬戸氏の辞任の
意思の有無を改めて確認する必要があると考え、指名委員会の審議内容等を早期に瀬戸氏
に伝え、辞任の意思を確認すべきであるとの意見を述べ、その結果、潮田氏が早急に瀬戸
氏の意思確認を行うこととなった。」と説明している。また、別の指名委員も、当職らに
よるヒアリングに対して、瀬戸氏が CEO を退任する意向を有しているか否かは分からない
という前提で議論が行われていたと感じており、そのため、指名委員会として、瀬戸氏の
意向を確認すべきであるとの結論に達したと認識している旨説明している。
    そして、10 月 26 日の指名委員会では、質疑の結果、指名委員全員の一致で、提案され
た議案はすべて可決されたが、指名委員会議事録においては、「瀬戸氏が LIXIL グループ
の CEO 及び執行役(代表執行役及び執行役社長)のいずれの地位からも辞任する意向を示す
ことを条件に」、各議案を決定した旨の記載とされた。これは、10 月 26 日の指名委員会の
時点では、瀬戸氏が代表執行役社長及び CEO を辞任する具体的かつ確定的な意思を有して
いることが明らかになっていないからこそ、採られた文言であると考えるのが合理的であ
る。
    これらの事実関係に照らすと、潮田氏は、10 月 26 日の指名委員会及びその招集段階に
おいて、指名委員に対して、瀬戸氏が CEO を辞任する具体的かつ確定的な意思を有してい
るかのような誤解を与える言動をしたといわざるを得ない。しかしながら、10 月 26 日の
指名委員会においては、その議事録の記載からも明らかなように、終始、瀬戸氏が辞任の
意思を有しているという前提で議論が行われたわけではなく、その決議に至るまでには、
瀬戸氏が具体的かつ確定的に CEO 及び代表執行役を辞任する旨の意思を有しているか否か
は分からないというのが多数の指名委員の認識になっていたものと考えられる。


4    2018 年 10 月 31 日開催の指名委員会までの状況


    瀬戸氏は、2018 年 10 月 27 日に潮田氏から電話連絡を受けた後、古くからの知人数名に
連絡し、状況を説明して今後の対応を相談した上で、遅くとも同月 30 日には、同年 11 月
1 日付けで CEO を交代することを承諾し、潮田氏にその旨を伝えた。その際、潮田氏及び
瀬戸氏は、瀬戸氏がきれいに辞める方法として、瀬戸氏は 2019 年 3 月末日まで LIXIL グ
ループ代表執行役社長に留任すること、瀬戸氏は 2019 年 6 月に開催が予定されている定
時株主総会まで LIXIL グループ取締役に留任することなども合意した。
    以上の経緯につき、潮田氏は、当職らによる 1 回目のヒアリングにおいて、「10 月 26 日
の指名委員会での議論を踏まえ、2018 年 10 月 27 日、瀬戸氏に対し、電話で連絡をした。


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その際、指名委員会で瀬戸氏の事業計画やこれまでの実績等も踏まえて議論したことを説
明した上で、『自分(潮田氏)が CEO に就任するのであればいつでも辞めると言っていた
が、時期が来たため辞めてほしい。』と伝えたが、指名委員会で何らかの決定がなされた
とは伝えていない。」と説明している。一方、瀬戸氏は、当職らによるヒアリングに対し
て、「自分(瀬戸氏)は、辞任するにしても 11 月 1 日は早すぎて混乱が生じると反対した
が、潮田氏から、瀬戸氏に辞任を求めることは 10 月 26 日の指名委員会で機関決定された
事項であり、指名委員全員の総意であると説明された。自分(瀬戸氏)は、潮田氏からこの
ように説明されたため、最終的に CEO から辞任する旨の意思決定をした。」旨説明してお
り、両者の説明には齟齬がある。
 この点、2018 年 10 月 29 日に潮田氏が瀬戸氏に送信した電子メールには、「諸事象を含
めて論議した機関決定をくつがえすのは困難」であるとの記載があり、かかる事実に鑑み
ると、潮田氏が瀬戸氏に対して CEO 等からの辞任を求めるに際して、指名委員会による決
定が行われた旨及びその決定を覆すのは困難である旨の説明をしたと考えるのが自然であ
る。
 もっとも、上記 3 記載のとおり、10 月 26 日の指名委員会においては、瀬戸氏が辞任の
意向を示すことが条件とされたとはいえ、2018 年 11 月 1 日付けで潮田氏及び山梨氏を執
行役に選任すること、潮田氏を LIXIL グループの代表執行役会長兼 CEO に、山梨氏を
LIXIL グループの代表執行役社長兼 COO に選定することなどを、同年 10 月 31 日に開催が
予定されていた取締役会に提案することが決議されている。これらのことからすると、潮
田氏の説明は、丁寧さを欠いたことは否定できず、瀬戸氏が指名委員会の決定を条件付き
でないものと誤解した可能性もあるが、虚偽であるとまでは認められない。
 なお、瀬戸氏は、当職らのヒアリングに対して、「自分(瀬戸氏)は潮田氏の意見対立と
いった個人的な事情で会社の経営を投げ出すようなことはせず、自分(瀬戸氏)が辞任を決
めたのは、あくまでも潮田氏から、自分(瀬戸氏)に辞任を求めることは指名委員全員の総
意であり、機関決定がなされた以上、それを覆すことはできないと言われたためであ
る。」と述べている。また、取締役の中には、「瀬戸氏は、中期計画の途中で、自発的に
CEO を退任しようなどと考える人物ではない。」と述べる者もいる。
 しかし、LIXIL グループの経営に精力的に取り組んできた瀬戸氏が、自らは一切議論に
参加していない指名委員会による意思決定がなされたという形式的な理由のみで辞任を決
意したというのは、いささか不自然であることは否めない。加えて、瀬戸氏は、後述する
ように、2018 年 10 月 31 日に開催された取締役会において、瀬戸氏が「皆さんもご存じの
とおり、この役員会で常に私の方針に関して潮田さんと、常にと言っては言いすぎかもし
れませんけれども、何回かかなり対立があって、意見の統一がなかなかできなかったとい
うことが事実としてありました。私自身は潮田さんに呼ばれてきたということもあります
ので、正直言って 4 日前に言われるということに関しては、大変、あんまりじゃないかと
いう気持ちはありましたけれども、潮田さんがやられるということであるのであれば、引


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き継ぎできるようにベストなトライをしますということはお約束しました。」などと発言
している。さらに、瀬戸氏は、複数の取締役に対して、CEO の辞任に関する発言をしてお
り、その発言の真意は定かではないものの、少なくとも、瀬戸氏は、従前から、潮田氏と
の意見対立に関して悩み、そのことを自身の進退と結び付けて考えたことがあったと認め
られる。
    以上の事実からすると、潮田氏が瀬戸氏に対して指名委員会による決定が行われた旨及
びその決定を覆すのは困難である旨の説明をしたことが、瀬戸氏が CEO 等から辞任する旨
の意思決定をした理由の一つになった可能性は十分にあるが、それのみが辞任の理由と
なったわけではなく、LIXIL グループの経営方針について生じていた潮田氏との深刻な対
立を背景として、潮田氏から退任を強く迫られたことも理由になっていると考えるのが相
当である。
    以上の事実関係に鑑みると、瀬戸氏が、2018 年 11 月 27 日に開催された取締役会におい
て、「『全ての指名委員から私に辞めてもらいたいと言われている』という事実が違った
ときには、私の意見は同じ意見ではなかったと思います。」と発言していることを踏まえ
ても、瀬戸氏による CEO 及び代表執行役から辞任する旨の意思表示を無効ならしめるほど
の瑕疵がその意思決定過程に存在したとまで認めることは困難であると考えられる。


5    2018 年 10 月 31 日開催の指名委員会


    LIXIL グループでは、毎月の取締役会の前に指名委員会を開催することが予定されてい
たことから、2018 年 10 月 31 日、取締役会の前に、指名委員会が開催された(以下「10 月
31 日の指名委員会」という。)。この指名委員会には、指名委員全員が出席した。なお、指
名委員 5 名のうち、1 名は電話会議による出席であった。
    ( 略 )10 月 31 日の指名委員会では、まず、潮田氏から、瀬戸氏に対する確認結果
として、瀬戸氏は退任を承諾したが、代表執行役の肩書きは 2019 年 3 月まで残してもら
いたいとの希望を有していることなどが報告された。なお、その際、潮田氏は、瀬戸氏と
どのようなやり取りをした結果、瀬戸氏が辞任を承諾したかまでは指名委員会に説明して
いなかった。10 月 31 日の指名委員会では、2018 年 11 月 1 日付けで、潮田氏及び山梨氏
を執行役に選任すること、潮田氏を LIXIL グループの代表執行役会長兼 CEO に、山梨氏を
LIXIL グループの代表執行役兼 COO にそれぞれ選定すること、2019 年 4 月 1 日付けで、山
梨氏を LIXIL グループの代表執行役社長に選定することなどを、2018 年 10 月 31 日に開催
が予定されている取締役会に提案することが議案とされた。
    その後の質疑では、複数の指名委員から、プレスリリースの記載において 2018 年 11 月
1 日付けで CEO を交代する理由を明らかにすべきであること、山梨氏が COO に就任するの
は代行という立場であるのか、代行という立場でないのであれば、山梨氏を COO に選任す
る背景や理由を指名委員においてきちんと共有すべきであることなどの意見が出された。


                                8
その意見を受け、潮田氏から、山梨氏が COO に就任する理由として、今後は、役職員らの
意見を集約し、分かりやすく経営政策をまとめていく必要があるが、経歴や経験、スキル
からして、山梨氏が適任であると考えている旨説明がなされた。
    上記のような質疑の結果、指名委員会は、指名委員全員の一致で、上記議案を決議し
た。


6    2018 年 10 月 31 日開催の取締役会


    10 月 31 日の指名委員会の後、続けて取締役会が開催された(以下「10 月 31 日の取締役
会」という。)。10 月 31 日の取締役会では、当初、審議事項は「第 77 期中間配当(第 2 四半
期末を基準とする剰余金の配当)実施について」のみの予定であったが、指名委員会委員長
である山梨氏から、10 月 31 日の指名委員会で同日の取締役会に提案することが決議され
た、2018 年 11 月 1 日付けで、潮田氏及び山梨氏を執行役に選任すること、潮田氏を
LIXIL グループの代表執行役会長兼 CEO に、山梨氏を LIXIL グループの代表執行役兼 COO
にそれぞれ選定すること、2019 年 4 月 1 日付けで、山梨氏を LIXIL グループの代表執行役
社長に選定することなどを内容とする動議が提出され、同議案についても審議を行った。
なお、取締役 12 名のうち、1 名は電話会議による出席であった。
    ( 略 )審議に先立ち、潮田氏から、今後の LIXIL グループは、純粋持株会社と事業
会社で CEO を別の者とし、経営も分けた上で、今後のグループ全体の方向性を事業と独立
させた形で検討していくべきであると考えている中で、自分の体力が残っているうちに、
LIXIL グループの CEO に就任したいなどと瀬戸氏に伝え、瀬戸氏の了承を得た旨の説明が
なされた。
    次いで、瀬戸氏からは、「皆さんもご存じのとおり、この役員会で常に私の方針に関し
て潮田さんと、常にと言っては言いすぎかもしれませんけれども、何回かかなり対立が
あって、意見の統一がなかなかできなかったということが事実としてありました。私自身
は潮田さんに呼ばれてきたということもありますので、正直言って 4 日前に言われるとい
うことに関しては、大変、あんまりじゃないかという気持ちはありましたけれども、潮田
さんがやられるということであるのであれば、引き継ぎできるようにベストなトライをし
ますということはお約束しました。ただ、会社のプロセスとして、こういうのはやはりそ
れなりの順番として、指名委員会で話して、それからちゃんとこの取締役会で議論してと
言う、そういうプロセスはきちんとやってくださいねということはお願いをいたしまし
た。」との発言がなされた。
    ( 略 )その後の質疑では、複数の取締役から、なぜ 2018 年 11 月 1 日付けでの辞任
なのかという質問がなされ、潮田氏から、自身が LIXIL グループの CEO を務めていた頃に
比べて、事業会社の意思決定が機動的でなくなっており、顧客の声がダイレクトに反映さ
れていないように思われる旨、また、最近、顧客や営業の従業員からも同様の意見を聞く


                               9
ことが多く、危機感を感じていた旨に加え、以前から純粋持株会社と事業会社に分けて経
営を行うことに関して瀬戸氏との間に意見の対立があった旨、そもそも人事変更というの
は突然生じるものである旨の説明がなされた。その回答に対して、ある取締役から、「One
LIXIL という形で動きが始まっていて、その CEO に対する信頼感、信任感も生まれてきた
ときに、『またかよ』という印象を、絶対従業員も持ちますし、それは従業員だけではな
くて、我々グループ全体に関わっている取引先等も含めて、そういう印象を持って、要す
るに LIXIL グループというのはいつどうなるか分からない不安定な会社だという、信頼感
を非常に損ねると思うのですね。」、「中間決算の発表時に代わるというのは、絶対何かが
あったのだと、絶対憶測が起こるわけですよ。不必要な混乱を招くという面では、一番避
けるべきタイミングである」、「(過去の人事は)事前に発表せずに代わるということは唐突
性がありますけれども、従業員にとってみれば全然唐突性はないのですよ。・・・そういう
意味では全然違います。」などの意見が述べられた。また、別の取締役からは、「これは外
形的に見ますと、最高責任者を代えるのに、指名委員会の委員長と指名委員会の方がそれ
ぞれ代わられるということですよね。見方によれば何かお手盛り人事ではないかと。一体
何のために指名委員会を運営してきて、透明な公共性のあるといいますか、ステークホル
ダーに対してきちっとしたプロセスで後継者を指名しようとするのに、たまたまそういう
立場の人がというのは、それいかがなものかという感じがするわけですよね。」、「今この
時期に、何回も言いますけれど、唐突にといいますか、あるいは社外取締役の方も含め
て、一体このトップの交代が、会社にとってどういういいメリットがあって、いい判断だ
ということを十分説明いただいて、その上でいいのかどうかということだと思うのですけ
れども、私は時期が、今日ここで出てきて決議するというのは、一体そんな理由がどこに
あるのですかというのを、まず申し上げたいと思うのですけれども。」などの反対意見が
述べられた。
 質疑の中で、ある指名委員から、自分の認識としては、今回の CEO の交代は、瀬戸氏か
ら「もう僕は降りてもいい」という話があったというところからすべてが始まった印象があ
る旨の意見が述べられた。また、別の指名委員から、潮田氏と瀬戸氏との間で CEO 交代に
関する話がなされ、瀬戸氏がその件を了解したのであれば、自分の立場からはもうどうも
しようがないということで、最終的に 10 月 31 日の取締役会に至った旨の意見が述べられ
た。そして、更に別の指名委員からは、CEO の交代については、10 月 26 日の指名委員会
でじっくり議論しており、その後、潮田氏から瀬戸氏に CEO 交代に関する確認がなされ、
両名合意の上で、10 月 31 日の取締役会で提案されたと理解している旨の意見が述べられ
た。さらに、ある取締役から、瀬戸氏が CEO になってからの 3 年間では、数字的にはそん
なに上がっていない旨、それにもかかわらず、向こう 3 年ほどは業績を向上させる策がほ
とんどない旨、瀬戸氏は顧客回りをせず、営業現場にも出向かないため、顧客や現場の従
業員の考えが分かっていない旨の意見が述べられた。なお、瀬戸氏からは、冒頭の説明を
除き、辞任に至る経緯や潮田氏及び山梨氏を代表執行役に選定することなどについて、特


                      10
段質問はなされず、意見も述べられなかった。
    10 月 31 日の取締役会では、上記のとおり質疑がなされた後、賛成者が挙手する方法で
採決が行われ、潮田氏、金森良純氏、菊地義信氏、白井春雄氏、川口勉氏、山梨氏及び吉
村博人氏の合計 7 名の取締役が挙手したことにより、賛成多数で議案は可決された(以下
「本件決議」という。)。この採決に当たり、質問を遮って採決を強行したというような事
情は認められない。なお、決議に反対したのは、瀬戸氏、伊奈啓一郎氏及び川本隆一氏で
あった。また、幸田真音氏及びバーバラ・ジャッジ氏は、発言をした後に、以前から許可
を得ていたとおり、別の会議への出席のため、取締役会を退席しており、採決には参加し
ていない。


7    瀬戸氏の辞表提出


    瀬戸氏は、2018 年 10 月 31 日、①同日付けで株式会社 LIXIL の取締役を辞任する旨、②
同日付けで LIXIL グループの CEO を辞任する旨、③2019 年 3 月 31 日付けで LIXIL グルー
プの執行役を辞任する旨の辞任届をそれぞれ作成し、提出した。


第 3 10 月 31 日の取締役会における本件決議の有効性について


    執行役の選解任は取締役会の権限と責任において行われるものであり、また、LIXIL グ
ループにおいては、CEO 及び代表執行役の選解任は、取締役会の権限において行われるこ
ととされている。そのため、本件では、10 月 31 日の取締役会における本件決議の有効性
が問題となる。
    この点、単に取締役会決議が前提とした事項が後に誤りであることが判明したからと
いって、それのみを理由として取締役会決議の有効性が否定されるわけでないことは当然
であるが、「取締役会の目的となっている議題ないし議案につき、各取締役が合理的な判
断をするのに客観的に必要な範囲で、説明若しくは資料の提供がなされず、又は十分な審
議がされないまま決議がなされた場合には」、取締役会決議に手続上の瑕疵があると評価
され得る1。
    しかし、上記第 2 記載の事実に鑑みれば、本件決議に際して、出席取締役に対して十分
な情報が与えられず、あるいは不正確な情報しか与えられなかったといった事情は認めら
れず、また、出席取締役から質問がなされ、それに対する回答も行われている上、質問を
遮って採決を強行したような事情は存在しない。
    なお、瀬戸氏は、「自分(瀬戸氏)が辞めることは指名委員会の総意であり、この機関決
定は覆せない旨の潮田氏の情報は、瀬戸氏の辞任を必須としていなかった 10 月 26 日の指

1
     福岡地判平成 23 年 8 月 9 日(ジュリスト 1433 号 30 頁)参照。




                                   11
名委員会の決定から見て誤った情報であり、自分(瀬戸氏)はこの不正確な情報に基づいて
辞任を受け入れ、10 月 31 日の取締役会に臨んだ」と主張しているが、瀬戸氏自身が 10 月
31 日の取締役会に出席し、自ら経緯等を説明していることに鑑みると、たとえ瀬戸氏の主
張が真実であったとしても、本件決議の有効性には影響は与えない。
 その他に本件決議を無効たらしめる事由は見当たらないことからすると、本件決議は適
法であり、有効であると評価するのが相当である。
 なお、本件においては、10 月 31 日の取締役会に先立ち、10 月 26 日及び 10 月 31 日の
指名委員会が開催されており、指名委員会において、2018 年 11 月 1 日付けで、潮田氏及
び山梨氏を執行役に選任すること、潮田氏を LIXIL グループの代表執行役会長兼 CEO に、
山梨氏を LIXIL グループの代表執行役兼 COO にそれぞれ選定すること、2019 年 4 月 1 日付
けで、山梨氏を LIXIL グループの代表執行役社長に選定することなどを、10 月 31 日の取
締役会に提案することが決議されている。もとより、CEO 及び代表執行役の選解任は、あ
くまで取締役会の権限と責任において行われるものであり、仮に指名委員会の決議に瑕疵
があったとしても、ただちに取締役会決議の有効性に影響を及ぼすわけではない。また、
上記第 2 記載の事実関係に鑑みるならば、指名委員会の議事に際して誤った前提事実の
下、議論がなされたといった事情は認められず、その決議の有効性に疑義を差し挟むべき
瑕疵が存在したとは認められない。


第 4 一連の手続におけるガバナンス上の問題点について


 上記第 3 記載のとおり、10 月 31 日の取締役会における本件決議は、法的に有効に成立
していると認められる。もっとも、2018 年 6 月 1 日に適用が開始された改訂版のコーポ
レートガバナンス・コード(以下「改訂版 CGC」という。)は、CEO の選解任について、その
補充原則 4-3②において、「取締役会は、CEO の選解任は、会社における最も重要な戦略
的意思決定であることを踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続に従い、十分な時間と
資源をかけて、資質を備えた CEO を選任すべきである。」と定めており、コーポレートガ
バナンスの観点から、本件の CEO 及び代表執行役の交代に関する一連の経緯の適切性につ
いてさらに検討を行う。
 なお、LIXIL グループにおける今回の CEO 及び代表執行役の交代は、瀬戸氏の辞任と潮
田氏の就任という形式のものであるが、瀬戸氏が辞任の意思を表明する前に、指名委員会
において条件付ではあるとはいえ潮田氏の CEO 就任に関する決議が行われていることを考
えると、ガバナンス上の問題を考察するに当たっては、瀬戸氏の辞任と潮田氏の就任とを
別個に検討するのではなく、一連の手続として検討するのが相当である。
 以下、検討を行う。




                          12
1    手続の客観性について


    本件人事は、10 月 26 日の指名委員会で初めて提案されたものであるが、そこでの議論
を主導した潮田氏は、潮田氏が CEO に就任するのであれば瀬戸氏は辞任する旨の瀬戸氏の
発言を繰り返し述べて強調していた。そして、潮田氏が、10 月 26 日の指名委員会におい
て、「もし、皆さんの賛同を得られれば、瀬戸さんが火曜日2の朝帰ってくるので、火曜日
に瀬戸さんと面談時間を設けて、『瀬戸さんが言ったように私がもし CEO に復帰するなら
あなたは身を退くと仰ったので、今はその時期だ。』ということをお話ししたいと思いま
す。」と述べていることからすると、潮田氏は、指名委員会の決議を得たことをサポート
として、瀬戸氏の従前の発言を根拠に、瀬戸氏に辞任を迫ろうと考えていたことが窺われ
る。現に、潮田氏が瀬戸氏に宛てて送信した 2018 年 10 月 29 日付けのメールにて、指名
委員会の決定を「機関決定」であるとして記載していることは、その考えの表れであるとい
える。潮田氏のかかる考え方は、突き詰めると、潮田氏が CEO に就任すると決めた場合に
は、瀬戸氏は CEO を辞任すべきであるということに行き着くが、このような手順による
CEO の交代は、いささか透明性を欠くものといわざるを得ない。ところが、指名委員会に
おいては、潮田氏の説明に疑義が呈されることもなく、潮田氏の説明を前提として議論が
行われていた。
    また、本件人事は、指名委員であり、かつ、指名委員会で唯一の社内取締役である潮田
氏を CEO に選定し、指名委員長でもある社外取締役の山梨氏を COO に選定するものであ
る。すなわち、指名委員会の議論を主導する立場にあった 2 名を CEO 及び COO に選定する
というものであった。それにもかかわらず、その 2 名を除いた指名委員だけで議論を行う
というプロセスは採られず、潮田氏の主導の下に指名委員会の議論が行われていた。
    CEO 及び代表執行役の選解任は、あくまで取締役会の権限と責任において行われるもの
であり、仮に指名委員会の決議に瑕疵があったとしても、ただちに取締役会決議の有効性
に影響を及ぼすわけではなく、また、指名委員会の議事に際して誤った前提事実の下、議
論がなされたといった事情は認められず、その決議の有効性に疑義を差し挟むべき瑕疵が
存在したとは認められないことからすると、以上の点は、法的な問題を惹起させるもので
はないが、手続の客観性・透明性という観点からは、考えられるベスト・プラクティスに
照らして、必ずしも望ましくないといわざるを得ない。


2    手続の透明性について


    10 月 26 日の指名委員会の時点においては、瀬戸氏が CEO を辞任する確定的な意思表明

2
     「火曜日」とは 2018 年 10 月 30 日のことであり、予定されていた 10 月 31 日の取締役会の前日とな
     る。




                                13
を行った事実はなかったのであるから、本件人事を検討するに当たっては、瀬戸氏の辞任
の意思の有無が重要な点になるはずであった。従前から潮田氏と瀬戸氏は LIXIL グループ
の経営方針を巡って意見を対立させていただけでなく、本件人事が、潮田氏の主導によっ
て提案され、潮田氏を瀬戸氏の後任の CEO に選任するというものであることに照らせば、
指名委員会におけるベスト・プラクティスとしては、直接瀬戸氏から意見聴取を行い、そ
の意思確認を行うという方法が、より望ましかった。
    しかしながら、10 月 26 日の指名委員会においては、瀬戸氏が CEO 等を退任することか
らその後任人事案を 10 月 31 日の取締役会に提案する必要があるとの情報が伝えられたこ
ともあり、日程的に厳しい状況にあったことなどから、瀬戸氏の意思の確認は指名委員会
で行われず、潮田氏に委ねられることになったため、瀬戸氏の意思確認が不透明な状況で
行われることになった。
    2018 年 11 月 27 日に開催された LIXIL グループの取締役会において、10 月 19 日の会食
や 10 月 26 日の指名委員会後の潮田氏と瀬戸氏のやり取りにおける瀬戸氏の発言内容を
巡って潮田氏と瀬戸氏との間で見解の対立が顕在化したが、これは、本件人事が瀬戸氏の
辞任という形をとっていながら、瀬戸氏が辞任の意思を表明する過程が不透明なままにさ
れたことから生じた問題であると考えられる。


3    CEO の選任にかけた時間について


    本件人事は、10 月 26 日の指名委員会で初めて提案された。
    それ以前の指名委員会においては、(        略     )同日の指名委員会において、山梨氏が、
指名委員会の開催趣旨について、「場合によっては大きな会社の方向性を変えていく議論
をしていく時期に来ているのではないかという議論もありますので、その方向性に沿って
指名委員会として議論をしていくべきグループ全体の将来の経営の体制ですとか、経営構
造ですとか、当然その中に経営陣や取締役の構成といったことを含め、じっくり議論をし
たい」旨説明し、それを受けて、潮田氏が、「今の 1 人の人間が経営できる範囲を超えてい
て、違う産業の中での、あるいは違う国での競争まで 1 人でしなくてはいけないという状
況の結果がこれの業績に表れているのではないだろうか。(               略   )」と発言して議論を
行うなど、(      略   )に関する議論が行われている。もっとも、同日の指名委員会におい
ても、瀬戸氏の退任を見据えた具体的な後任候補者に関する議論が行われてはおらず、ま
た、潮田氏及び山梨氏を CEO ないし COO に指名するなどの議論も行われていない。
    また、複数の指名委員が、当職らによるヒアリングに対して、「これまでの指名委員会
において、瀬戸氏が CEO を辞めることを見据えた将来的な人事に関する議論は一切なかっ
たと思う。瀬戸氏が CEO を辞めることになったのは、突然の出来事であると感じた。」、
「瀬戸氏の後任を誰にするかという点を直接に議論したことはない。LHT を分割するという
議論があり、その際に、LHT の CEO を別の人に任せるというような話は出ていた。今回の


                              14
人事に関する提案は唐突に出てきた感じであった。」と説明している。
    以上の事実関係を踏まえると、本件人事に関しては、10 月 26 日の指名委員会より以前
の指名委員会において、議論されたことはほとんどなかったと考えられる。
    そして、10 月 26 日の指名委員会に初めて提案されて、その 5 日後の 10 月 31 日の取締
役会で正式に可決されていることからすると、今回の CEO の選任手続に十分な時間がかけ
られたとはいい難い。


4    上記のガバナンス上の問題を招いた原因・背景について


(1) 取締役に潮田氏に対する遠慮があったこと


    本件人事は、その実質的な提案者が潮田氏であり、かつ、潮田氏を LIXIL グループの
CEO に選任するというものであった。この点に関し、当職らによるヒアリングに対して、
ヒアリング対象者の一人は、「創業家である潮田氏が自分で CEO をやると言っている状況
で、それに異を唱えることのできる者はおらず、誰も反対のしようがないという状況で
あった」旨説明している。また、瀬戸氏の辞任の意思の有無について、指名委員会が自ら
確認をすべきではなかったかとの質問に対して、ヒアリング対象者の一人は、「潮田氏が
瀬戸氏は了解していると言っているにもかかわらず、潮田氏の発言を疑うかのように、指
名委員会が直接瀬戸氏の意向を確認するというのは想定していなかった。」旨説明し、別
の一人は、「潮田氏と瀬戸氏が 2 人できちんと話し合って結論を出すのがよく、自分はそ
のことに口を出すべき立場にもないと考えた。」旨説明している。
    また、瀬戸氏でさえも、「自分は潮田氏に呼ばれて CEO になったのであるから、潮田氏
が CEO に就くのであれば、自分は CEO を降りる。」旨、潮田氏に述べている事実が認めら
れる。
    これらの状況に照らせば、社外取締役を含めた多くの取締役に、程度の差はあるもの
の、潮田氏に対するある種の遠慮があったことが認められ、このことが、潮田氏が提案す
る人事に対して、ガバナンスを効かせた議論をすることができなかった原因・背景の一つ
になっていると考えられる。


(2) CEO を初めとする執行役の職務分掌に関する指名委員会の役割が不明確であったこと


    LIXIL グループの指名委員会規則においては、指名委員会の権限として、株主総会に提
出する取締役の選任及び解任に関する議案の内容を決定すること、並びにその決定のため
に必要な基本方針等を定めることのみを定めており、執行役の選解任、役付執行役の選
定・解職及び CEO や COO 等の執行役の職務分掌に関する指名委員会の権限や役割について
は、何も定めていない。なお、これら本件人事に関する事項は、法的には取締役会の権限


                           15
と責任において行われるものであることからすると、指名委員会による本件人事に関する
決議は、あくまで指名委員会として、取締役会に対して法的効力のない勧告を行ったに過
ぎないものと評価できる。
    また、今回のように、指名委員自身が社長や CEO の候補者となる場合の手続についても
定められていないことから、指名委員会の役割や関わり方は不明確なものにならざるを得
ない。このことが、本件人事に関するガバナンス上の問題を引き起こした原因・背景の一
つになっているものと考えられる。


第 5 今後検討すべき対応策


    上記第 4 で検討したガバナンス上の問題点及びそれを招いた原因・背景並びに改訂版
CGC を踏まえると、LIXIL グループにおいては、今後、次の事項について適切な体制・手
続の整備を検討することが考えられる。


1    CEO の選任に関する手続


    LIXIL グループにおいては、LIXIL グループ・コーポレートガバナンス・ガイドライン
で執行役の選任基準が定められているものの、選任に関する具体的な手続が策定されてい
ないことから、改訂版 CGC が、新たに、「客観性・適時性・透明性ある手続」に従って、資
質を備えた CEO を選任すべきこと(補充原則 4-3②)を明記したことを踏まえ、LIXIL グ
ループの実情に即した、代表執行役 CEO を始めとする執行役の選任に関する手続を整備す
ることが考えられる。
 また、その際には、指名委員会の権限・役割を明確にすべきであるが、指名委員会の判
          、、
断の客観性・独立性をより確保する観点から、指名委員自身が執行役候補者となった場合
の手続も整備すべきである。


2    CEO の解任に関する基準及び手続


    LIXIL グループにおいては、CEO の解任に関する基準及び手続が定められていないこと
から、改訂版 CGC が、新たに、「CEO を解任するための客観性・適時性・透明性ある手続」
を確立すべきであること(補充原則 4-3③)を明記したことを踏まえ、LIXIL グループの実




                         16
情に即した、CEO の解任に関する基準及び手続を整備することが考えられる3。
    また、その際には、指名委員会の権限ないし役割を明確にすべきである。


3    筆頭独立社外取締役の選任及び独立社外取締役のみを構成員とする会合について

          、、
    社外取締役がより独立した客観的な立場から自らの意見を形成し、取締役会や指名委員
会等においてその意見を述べることができるようにするという観点から、独立社外取締役
、、
のみを構成員とする会合を創設し、当該会合を招集し、議長役を果たす役割を有する筆頭
独立社外取締役を選任することの当否について検討することが考えられる。


                                                 以   上




3
     例えば、具体的な取締役の解任手続について、テクノプロ・ホールディングスは、CEO の解任基準
     として、「業績要件」と「該当する場合には経営トップとして相応しくないと見なされる要件」とを定
     めた上で、後者の要件「への該当・非該当に係る審議及び必要な調査は、当社の独立社外取締役、独
     立社外監査役の全員で構成する独立役員会議が行う。審議及び調査の結果、独立役員会議が CEO 解
     任が適当であると判断した場合には、独立役員会議議長(筆頭独立社外取締役)が、取締役会へ CEO
     解任を付議する」旨、並びに前者の「業績要件」「に該当する場合及び独立役員会議による審議を要し
     ない解任事由にあたる事実が判明した場合には、取締役会は無条件で CEO 解任を決議する」旨を定め
     ている(同社のコーポレートガバナンス・ガイドライン別紙 2 第 3 項参照)。




                           17