4968 荒川化学 2019-06-26 15:30:00
富士工場における爆発・火災事故について(第8報)事故調査報告書の補足事項について [pdf]

                                                          2019年6月26日

各 位
                                会社名      荒川化学工業株式会社
                                本社所在地    大阪市中央区平野町 1 丁目 3 番 7 号
                                代表者名     取締役社長 宇根 高司
                                (コード番号   4968 東証第一部)
                                問合せ先     取締役経営企画室長 高木 信之
                                         TEL(06)6209-8500(代表)



                 富士工場における爆発・火災事故について(第8報)
                 事 故 調 査 報 告 書 の 補 足 事 項 に つ いて

 2017年12月1日に弊社富士工場にて発生した爆発・火災事故につきまして、お亡くなりになった方のご冥福をお祈り申
し上げ、ご遺族に対し心よりお悔やみ申し上げます。また、負傷された方、近隣住民の皆様ならびに関係ご当局の皆様、
お客様をはじめとする多くの方々に多大なご迷惑、ご心配をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。
 今回の事故を受けて2018年11月20日に公表されました事故調査報告書において、その後の調査で記載内容に一部
補足事項があり、事故調査委員会より報告を受けましたので、お知らせいたします。


                                 記

対象報告書
2018 年 11 月 20 日(火)発表
「荒川化学工業株式会社 富士工場 印刷インキ用樹脂製造棟 爆発火災事故調査報告書」


補足事項
4.2.1 事故の詳細
【静電気対策状況】 43 ページ
 〈補足前〉
  まず協力会社の社員の服装については,荒川化学の規定による帯電防止作業服(各自で購入),静電気帯電防
 止靴(協力会社から支給),ヘルメット,軍手,防じんマスクを着用していた。
  協力会社の社員の静電気帯電防止靴と当該製造棟の 1 階の床との絶縁抵抗を 1,000V で測定したところ,最大
 1.6×107Ω JIS T8103 の規格(1.0×105≦R≦1.0×108Ω
         で                                )を満たしていた。当該製造棟 1 階の床については接地極
 との間の抵抗を測定したところ 7.5×105Ωであった(図 49)。
  従って,静電気が発生しても静電気帯電防止靴から床に放電するため,人体の帯電はなかったと判断する。
 〈補足後〉
  まず当該作業に従事する協力会社の社員の服装については,荒川化学の規定で,帯電防止作業服,静電気帯
 電防止靴,ヘルメット,軍手,防じんマスクの着用を義務づけている(図 48)。当該作業に従事していた協力会社社
 員に対する事故後の事情聴取では,規定を守っていた旨の説明を受けた。ただし発災時に着用していた作業着の
 現物は焼失等のため確認はできていない。
  協力会社の社員の静電気帯電防止靴と当該製造棟の 1 階の床との絶縁抵抗を 1,000V で測定したところ,最大
 1.6×107Ω JIS T8103 の規格(1.0×105≦R≦1.0×108Ω
         で                                )を満たしていた。当該製造棟 1 階の床については接地極
 との間の抵抗を測定したところ 7.5×105Ωであった(図 49)。
  帯電防止作業服および静電気帯電防止靴の着用については,本委員会の委員である公益社団法人 産業安全
技術協会 山隈常務理事から,以下の見解が示された。
  人体の帯電は帯電防止作業服によって防止又は軽減できないものもあることから,人体の帯電防止は,衣服で
はなく,靴と床の導電性による接地によって確保するものであることが静電気専門家の共通認識である。
  事故当時、被災した作業者は帯電防止靴を履いていたことが確認されており、作業床は、一般に十分な導電性
を有するコンクリート製であることから,作業者の身体は接地状態にあったと考えられる。
  したがって,作業者の着衣が帯電防止品でなかったとしても,身体には静電気が蓄積することはほとんどなく,そ
の皮膚から火花放電のような着火性放電が生じた可能性は極めて低い。
  以上の見解から,静電気が発生しても静電気帯電防止靴から床に放電するため,人体の帯電はなかったと判断
する。


4.2.2 事故原因の絞り込み
【季節要因について】 58 ページ
〈補足前〉
 事故があった 2017 年 12 月 1 日 9 時の気象条件(温度 13.5℃ 湿度 56.4%)であればより帯電しやすかった可
能性がある。
〈補足後〉
 事故があった 2017 年 12 月 1 日 9 時の気象条件(温度 13.5℃ 湿度 56.4%)であればより帯電しやすかった可
能性はあるが,実験結果からは顕著な差は認められず,湿度が低いことによって着火性の放電が発生するほどの
電荷密度に達するとは言い切れない。


4.2.2 事故原因の絞り込み
【過去事例について】 61 ページ
〈補足前〉
 また,協力会社の社員の証言から,現場近くに設置されたミスト噴霧器は 2017 年 7 月頃から故障しており事故当
日には使用されていなかったが,包装作業前には湿度 60%以上を確認してから作業を開始することになっていたた
め,作業時には湿度 60%以上が確保されていたと考えられる。
〈補足後〉
 また,協力会社の社員の証言から,現場近くに設置されたミスト噴霧器は 2017 年 7 月頃から故障しており事故当
日には使用されていなかった。
  包装前に湿度 60%以上を確認してから作業を開始することになっていたが,その記録は焼失しており,日常の作
業時の湿度が管理できていたか不明である。
  当日の包装作業場の湿度の記録はないが,事故当日の朝の富士市消防本部消防防災庁舎の観測データは,
事故概要に示すように相対湿度 81.0%(8 時),56.4%(9 時)であった。このことから,包装作業場の湿度は 60%近く
あったと考えられる。
  一方,本委員会の委員である公益社団法人 産業安全技術協会 山隈常務理事からは,ロジン変性フェノール
樹脂の帯電と湿度との関係について以下の見解が示された。
  図 62 に示したように,ロジン変性フェノール樹脂の帯電量は湿度の影響を受けにくいことが確認されている。ま
た,一般に,大気中の水分が物体の表面に吸着されると,その物体の表面の電気抵抗が低下して静電気が流れ
やすくなるが,当該樹脂については,測定によって,その電気抵抗は測定環境の湿度によらずほぼ一定であること
が確認されており,これは吸湿性が極めて低いことを意味する。このように,当該樹脂の帯電性は作業環境の湿度
の影響を受けにくいものであることから,事故時の湿度の値は本件事故原因に影響を与えるものとは考えにくい。


                                                               以上
荒川化学工業株式会社         富士工場

  印刷インキ用樹脂製造棟

  爆発火災事故調査報告書




       2019年6月補足
   荒川化学工業株式会社   富士工場
印刷インキ用樹脂製造棟   爆発火災事故調査委員会
要   旨


 2017 年 12 月 1 日 8 時 25 分,静岡県富士市の荒川化学工業株式会社 富士工場 印刷インキ用
樹脂製造棟において,爆発・火災事故が発生し,協力会社および荒川化学従業員の犠牲(死亡者
2 名,重傷者 2 名,軽傷者 11 名の人的被害)を伴う重大な事故となった。また,住民居住地での
事故であったため,周辺住民に多大な不安と影響を及ぼした。
 当事故の原因究明および再発防止対策を講じるため,2017 年 12 月 3 日に社外委員 4 名,社内
委員 4 名からなる,荒川化学工業株式会社 富士工場 印刷インキ用樹脂製造棟 爆発火災事故
調査委員会と,その下部組織として事故原因究明チームを発足し,これまで 8 回に渡って委員会
を開催し,事故原因および再発防止対策についての議論を重ねてきた。
 その結果,今回の爆発・火災事故は,印刷インキ用樹脂製造棟 1 階のロジン変性フェノール樹
脂の製品包装作業中,FIBC(=フレキシブルコンテナ)内でコーン放電が起こり,ロジン変性フ
ェノール樹脂の粉じんに着火したことから始まったと推測される。そして粉じん爆発が起こり,
発生した火炎が製造棟内の危険物,可燃物に引火,類焼し,製造棟全体の火災に至る重大事故に
発展したものと考えられる。
 以上,当事故の直接原因と,その再発防止対策を取りまとめ,荒川化学工業株式会社では対策
に取り組んでいるところである。今後,安全文化の醸成にむけて,会社全体で安全に対する意識
の向上に取り組んでいくことを強く求める。
                    目   次


1.序
 1.1 はじめに .................................1
           ................................
 1.2 事故調査員会の構成 ............................1
               ...........................
 1.3 事故調査委員会の経緯 ...........................2
                ..........................


2.事業所および設備の概要
 2.1 事業所の概要 ...............................3
            ..............................
 2.2 印刷インキ用樹脂製造棟の概要 .......................4
                    ......................
  2.2.1 製品概要 ..............................4
              .............................
  2.2.2 設備概要 ..............................6
              .............................
  2.2.3 プロセス概要 ...........................
                ...........................11
  2.2.4 取扱物質(可燃物の保管状況) ...................
                        ...................16
  2.2.5 運転体制 .............................
              .............................20


3.事故概要
 3.1 事故概要 ................................
           ................................22
 3.2 被害状況 ................................
           ................................23
 3.3 事故に至った経緯と事故後の状況 .....................
                      .....................26
  3.3.1 発災前の状況(当日) .......................
                    .......................26
  3.3.2 発災後の状況(当日) .......................
                    .......................34
  3.3.3 発災後の状況(翌日以降) .....................
                     .....................34
 3.4 消火・救助活動の状況 ...........................35
                ..........................


4.事故原因
 4.1 事故の調査方法 .............................
              .............................36
 4.2 事故の原因推定 .............................
              .............................36
  4.2.1 事故の詳細 ............................
              ............................37
  4.2.2 事故原因の絞り込み ........................
                  ........................46
      A.原因物質の検証 ..........................
                 ..........................46
      B.着火源の検証 ...........................
               ...........................51
      C.爆発の検証 ............................
               ............................62
      D.火災の検証 ............................
               ............................73
  4.2.3 着火から爆発火災に至るシナリオの推定と考察 ............
                               ............75
5.事故原因の整理
 5.1 粉じん爆発およびそれに伴う火災に至った経緯 ...............
                           ...............89
 5.2 事故原因の整理 .............................
              .............................89
  5.2.1 物質 ...............................
            ...............................89
  5.2.2 人 ................................
          ................................89
  5.2.3 設備 ...............................
            ...............................90
  5.2.4 作業 ...............................
            ...............................90


6.再発防止対策
 6.1 直接原因に対する是正 ..........................
                ..........................92
  6.1.1 物質に対する対策 .........................
                  .........................92
  6.1.2 人に対する対策 ..........................
                ..........................92
  6.1.3 設備に対する対策 .........................
                  .........................92
  6.1.4 作業に対する対策 .........................
                  .........................93
 6.2 関連事項の改善 .............................
              .............................93
  6.2.1 リスクアセスメント ........................
                  ........................94
  6.2.2 協力会社の管理 ..........................
                ..........................94
  6.2.3 その他の関連事項の改善 ......................
                    ......................94
 6.3 今後の課題 ...............................
            ...............................95


7.おわりに ...................................
       ...................................96
1.序


1.1 はじめに
     2017 年 12 月 1 日 8 時 25 分,静岡県富士市の荒川化学工業株式会社 富士工場 印刷インキ
用樹脂製造棟において,爆発・火災事故が発生し,協力会社および荒川化学従業員の犠牲(死亡
者 2 名,重傷者 2 名,軽傷者 11 名の人的被害)を伴う重大な事故となった。また,住民居住地で
の事故であったため,周辺住民に多大な不安と影響を及ぼした。
    当事故の原因究明および再発防止対策を講じるため,2017 年 12 月 3 日に荒川化学工業株式会
社    富士工場 印刷インキ用樹脂製造棟 爆発火災事故調査委員会を発足した。
    当委員会では,現場検証,インタビュー,記録類の確認,再現実験,外部研究機関による爆発・
火災シミュレーションなどの結果をもって,これまで 8 回に渡って委員会を開催し,事故原因お
よび再発防止対策についての議論を重ねてきた。その結果,爆発・火災事故に至る直接原因の絞
込みができ,再発防止対策を取りまとめるに至ったので,当報告書をもって報告する。


1.2 事故調査委員会の構成
    社外委員 4 名,社内委員 4 名を事故調査委員とした。また,検証や実験などを行う事故原因究
明チームを下部組織として発足した。


事故調査委員会委員長および委員
委員長 鈴木 和彦        岡山大学 名誉教授 大学院 自然科学研究科 特任教授
委    員 中村 昌允     東京工業大学 環境・社会理工学院
                 イノベーション科学系・技術経営専門職学位課程 特任教授
       土橋 律      東京大学 大学院 工学系研究科 教授
       山隈 瑞樹     公益社団法人 産業安全技術協会 常務理事
       眞鍋 好輝     荒川化学工業株式会社 専務取締役(代表取締役)
       西川 学      荒川化学工業株式会社 取締役 生産本部長
       橋本 大司     荒川化学工業株式会社 執行役員 生産本部 副本部長
       大島 弘一郎 荒川化学工業株式会社 品質環境保安室 室付部長


     事故原因究明チーム
          樋口 啓二    荒川化学工業株式会社 生産本部付部長
          山本 幸平    荒川化学工業株式会社 生産本部 小名浜工場 副工場長
          川瀬 滋     荒川化学工業株式会社 経営企画室 マネージャー
          石井 貴紀    荒川化学工業株式会社 生産本部 小名浜工場 保安課長




                             1
1.3 事故調査委員会の経緯
 現地視察,事故調査委員会開催日および主な審議内容は以下のとおりである。


表 1 事故調査委員会開催日および内容
             開催日               開催場所               内容
      2017 年 12 月 3 日(日)                 事故調査委員会の発足
      2017 年 12 月 12 日(火)   荒川化学工業株式会社   鈴木委員長が東京支店で打ち合わ
                            東京支店         せ
      2017 年 12 月 13 日(水)   荒川化学工業株式会社   中村委員が富士工場を視察
                            富士工場
      2017 年 12 月 17 日(日)   荒川化学工業株式会社   鈴木委員長、土橋委員、山隈委員が
                            富士工場         富士工場を視察
第1回   2017 年 12 月 24 日(日)   荒川化学工業株式会社   事故発生の概要、経過、被害状況報
                            富士工場         告と推定される事故原因
第2回   2018 年 1 月 28 日(日)    荒川化学工業株式会社   推定される事故原因の検証、爆発規
                            富士工場         模の推定
第3回   2018 年 4 月 22 日(日)    荒川化学工業株式会社   推定される事故原因および事故経
                            富士工場         緯の検証と絞り込み
第4回   2018 年 6 月 3 日(日)     荒川化学工業株式会社   同上および爆発シミュレーション
                            富士工場         の状況
                                         運転操作、設備設計の基準類、教育
                                         などの要因の検証
第5回   2018 年 7 月 22 日(日)    荒川化学工業株式会社   検証実験の結果報告
                            富士工場         委託実験の結果報告
                                         事故原因の整理
第6回   2018 年 9 月 22 日(土)    荒川化学工業株式会社   爆発・火災シミュレーション結果/
                            富士工場         検証実験結果/シナリオとの検証
                                         事故原因の整理
                                         再発防止対策
第7回   2018 年 10 月 14 日(日)   荒川化学工業株式会社   シナリオと爆発・火災シミュレーシ
                            富士工場         ョンの再検証
                                         事故原因の整理
                                         再発防止対策
第8回   2018 年 11 月 4 日(日)    荒川化学工業株式会社   事故調査報告書の取りまとめ
                            富士工場
※上記以外にも複数回の小打ち合わせを実施した。




                                   2
2.事業所および設備の概要


2.1 事業所の概要
事業所所在地:荒川化学工業株式会社 富士工場
        静岡県富士市厚原 366-1


事業内容:富士工場では,敷地面積約 51,000m2 の中,製紙用薬品・粘接着剤用樹脂・印刷インキ
用樹脂などの製品を製造しており,1959 年 12 月の操業開始以来,順次規模を拡大してきた。図 1
に富士工場の全体配置図を示す(青枠内は富士工場の敷地を表す) 富士工場の敷地北側に位置す
                             。
る印刷インキ用樹脂製造棟において,今般の発災事故に関係するロジン変性フェノール樹脂の製
造を 1976 年に開始した。その後,1984 年,1988 年に生産能力を増強,2000 年にワニス製品の製
造を開始した。当ロジン変性フェノール樹脂やワニスの概要は後述する。




                                  Y製造棟




                                         印刷インキ用樹脂製造棟(発災場所)


                         Z製造棟




           図 1 富士工場の全体配置図(青枠内が富士工場の敷地)




                           3
2.2 印刷インキ用樹脂製造棟の概要
2.2.1        製品概要
 印刷インキ用樹脂製造棟(以下,当該製造棟と略す)では,雑誌や新聞の印刷に使用される平
版・新聞インキの主原料であるロジン変性フェノール樹脂,および同樹脂を植物油や高沸点石油
系溶剤に溶解した印刷インキ用樹脂ワニス(以下,ワニスと略す)を製造していた。インキメー
カーで当ワニスを使用して,または当樹脂を溶解しワニスにして,顔料や添加剤を分散させ,平
版・新聞インキが製造される。
 当ロジン変性フェノール樹脂は,印刷インキの粘弾性制御が比較的容易である,硬さと柔軟性
のバランスがとれた印刷被膜を形成することができる,顔料分散性が良好,比較的安価で幅広い
物性制御が可能といった理由から平版・新聞インキ用樹脂として広く使用されている。原料にロ
ジン,アルキルフェノール,ホルムアルデヒド,ポリオールを用いた樹脂であり,フェノール樹
脂をロジンで変性したものである。製造法の一例を挙げると,アルキルフェノール/ホルムアル
デヒドの縮合物(=レゾール型フェノール樹脂)とロジンを反応させ,その後にロジンのカルボ
キシル基とポリオールの水酸基によるエステル化反応で高分子量化する方法があり,得られた樹
脂は図 2 のような化学式となる。代表的なロジン変性フェノール樹脂の物性は以下のとおりであ
り,黄~褐色の消防法指定可燃物可燃性固体類である。荒川化学工業株式会社(以下,荒川化学
と略す)では図 3 のように微粉の混じった数 cm 程度のブロック形状として,紙袋やフレキシブ
ルコンテナ(Flexible Intermediate Bulk Container 以下,FIBC と略す)に包装し,販売している。


【代表的なロジン変性フェノール樹脂の物性】
 密 度          :1.05g/cm3(20℃)
 引火点          :282℃
 軟化点          :174℃
 酸 価          :21mgKOH/g
 溶解性          :水に不溶,トルエンやキシレンに可溶
 危険有害反応 :自己反応性なし



               OH


     O                                O

         O                        O
               R    n
 O                                          OH

         O                      O
     O                      O




                   R=C4H9,C8H17       etc


図2       ロジン変性フェノール樹脂の代表的な化学式                        図3   ロジン変性フェノール樹脂の外観写真




                                                 4
 また,ワニスはロジン変性フェノール樹脂を植物油や高沸点石油系溶剤に溶解したものであり,
チキソトロピック性を付与するためにアルミニウム有機化合物といった増粘剤を添加する。植物
油には大豆油,アマニ油,桐油などがあり,高沸点石油系溶剤は初留点 240℃以上,引火点 108℃
以上のナフテン系の炭化水素である。代表的なワニスの物性は以下のとおりであり,黄~褐色の
消防法指定可燃物可燃性固体類である。粘ちょうな製品として,タンクローリーにて輸送,また
はドラム缶に包装し,販売している。


【代表的なワニスの物性】
 密 度      :0.88g/cm3(100℃)
 引火点      :108℃
 粘 度      :70Pa・s(コーンプレート型粘度計,25℃)
 溶解性      :水に不溶,トルエンやキシレンに可溶
 危険有害反応 :自己反応性なし




ロジン:
 松から得られる琥珀色,無定形の天然樹脂である。大別すると,松脂を直接立木から集め
蒸留して得られるガムロジン,製紙工場でクラフトパルプを作る時に副生する粗トール油を
蒸留して得られるトール油ロジン,伐採した松の木の根から抽出して得られるウッドロジン
がある。その主成分は,3 つの環構造,共役 2 重結合,カルボキシル基を有するアビエチン
酸であり,ロジンは異性体の混合物である。 ロジンの持つこれらの反応性を利用して,多く
の誘導体がそれぞれの物性を発揮し,工業用原料として広く産業界で使用されている。


アルキルフェノール:
 ブチルフェノール,オクチルフェノールなどといった側鎖炭素数の異なるアルキルフェノール
が挙げられる。


ポリオール:
 グリセリン,ペンタエリスリトール,トリメチロールプロパンなどといった多価のアルコール
が挙げられる。




                             5
2.2.2    設備概要
 当該製造棟は 4 階建ての構造となっており,発災以前に北西方向から撮影した写真を図 4 に示
す。




              図 4 発災以前の当該製造棟(北西方向からの撮影)


 また,4 方角から見た外観図を図 5 に示す。軽量の壁材が多く使用されており,北側には軽量
気泡コンクリート(Autoclaved Lightweight aerated Concrete 以下,ALC と略す)が半分程度使用
されていた。北西角の一部はブロックとコンクリートで 2 重壁となっていた。




         南側                            東側          自動倉庫西側


                                                        壁材
                                                        ALC
                                                  ブロック+コンクリート

                                                    発災場所(推定)
           北側                          西側
                                                       36 頁参照
                         図 5 当該製造棟の外観



                                 6
 4 階の設備配置図を図 6 に示す。 階北西部には製造状況を監視する計器室があり,
                   4                      その南側に
は製造工程内のサンプルを測定する測定室,南中央部には電気室があった。ピンク円で着色した
部分は製造釜を表しており,製造釜は 6 基あった。そのうち,ロジン変性フェノール樹脂の製造
釜が 3 基,フェノール樹脂の製造釜が 2 基稼働しており,フェノール樹脂の製造釜 1 基は休止中
であった。 階には製造釜の上部があり,
     4             原料の投入や製造工程内のサンプル採取を行っていた。
当該製造棟の東側には 4 階建ての自動倉庫(原料倉庫)があり,4 階のみ当該製造棟と連結され
た構造となっていた。




           計器室

                 製造釜 A   製造釜 E   製造釜 B   製造釜 C




               休止中の                        自動倉庫
               製造釜       製造釜 D   電気室


         測定室



                      図 6 4 階の設備配置図




                            7
 3 階の設備配置図を図 7 に示す。3 階には 4 階の製造釜 6 基の下部とろ過設備(図面上,図 7
にはろ過設備が記載できず),およびワニスの製造釜 1 基の上部があった。




           製造釜 A   製造釜 E    製造釜 B   製造釜 C




                                            ワニスの

            休止中の    製造釜 D                   製造釜

             製造釜




                    図 7 3 階の設備配置図




                            8
 2 階の設備配置図を図 8 に示す。 階にはワニス製造釜 1 基の下部,
                   2                 および北側と南側に固化室
と称する,溶融状態の樹脂を空冷にて固化させる部屋があった。各々の固化室は上段と下段があ
り,上段に流し入れた溶融のロジン変性フェノール樹脂がオーバーフローして下段に流れる仕組
みとなっていた。固化室は北固化室(上下段)
                    ,南固化室(上下段)の計 2 基あった。




           北固化室




                                    ワニスの
                                    製造釜
             南固化室




                    図 8 2 階の設備配置図




                          9
 1 階の設備配置図を図 9 に示す。1 階北西部には集じん機,その南側には角タンク(レゾール型
フェノール樹脂のキシレン溶液を保管)が配置されていた。集じん機の放散口は北側にあり,放
散口の正面にはブロックとコンクリートの 2 重壁があった。また,集じん機の南東側には北固化
室から送られた固形のロジン変性フェノール樹脂を溜めておく北ホッパーがあり,南西部には南
固化室からの南ホッパーが 2 つあった。これらホッパーから FIBC へロジン変性フェノール樹脂
の包装作業を行っていた。一方,北東部にはワニスの製造釜のろ過設備があり,ろ過後に屋外の
ワニスタンクへポンプ移送していた。




     コンクリート
     +ブロックの壁



                             北ホッパー



   放散口

   集じん機
                                ワニスのろ過設備
   角タンク




                                     着火場所(推定)
                                      36 頁参照
                南ホッパー


                  図 9 1 階の設備配置図




                        10
2.2.3       プロセス概要
 当該製造棟での製造プロセスフローを図 10 に示す。青字原料はタンク保管してある原料であり,
配管をとおして製造釜へ投入する。緑字原料はドラム缶または紙袋に保管してあり,製造釜の投
入口から荒川化学工業株式会社の社員(以下,荒川化学社員と略す)が投入する。
 固形のロジン変性フェノール樹脂を製造する際は,製造釜での反応が終了した溶融状態の樹脂
を固化室で冷却・固化し,協力会社の社員が粗砕・解砕した後,包装容器に包装する。図 11 に包
装容器のひとつである FIBC の外観写真を添付する。また,ワニスを製造する際は,製造釜で反
応終了した溶融状態の樹脂をワニスの製造釜へ移送し,高沸点石油系溶剤や植物油などと混合し
てワニスを製造し,屋外のワニスタンクにポンプ移送する。


                      アルキルフェノール,                      高沸点石油系溶剤,
                      キシレン                            植物油
                      (屋外タンク)                         (屋外タンク)
                           ロジン
     パラホルムアルデヒド,           (屋外タンク)
     触媒
                      ポリオール,触媒                     ロジンタンク
                                                                      ポリオール,触媒

4階                                                                                 増粘剤,
                                         ポリオール,触媒                                  酸化防止剤
製造釜   製造釜                   製造釜                              製造釜       製造釜
 D     E                     A                                B         C

3階
            北固化室            ろ過設備
                                               南固化室
                                    固化室(上段)                                    ワニスの
                                                                               製造釜
2階
                                    固化室(下段)



                           ホッパー                         ホッパー
               中間体   中間体                                                           屋外タンクへ
1階             タンク   タンク                                                    ろ過設備
                             FIBC                           FIBC
                                                                   包装容器準備

  着火場所(推定)
      36 頁参照



図 10 当該製造棟での製造プロセスフロー




                                                                    図 11 FIBC の外観写真


 ロジン変性フェノール樹脂およびワニスの詳細な製造内容については, 12~13 に製造ブロッ
                                図
クフローを示し,説明する。



                                              11
ロジン変性フェノール樹脂の製造ブロックフロー

   アルキルフェノール
   パラホルムアルデヒド      ①付加・縮合
   触媒               反応工程
   キシレン
                             ロジン                      縮合生成水
                                            ②付加反応工程   キシレン
                    タンク保管    レゾール型フェノール樹脂             ロジンオイル
                   (製造棟1階)

                             ポリオール                    縮合生成水
                                            ③エステル化
   印刷インキ用樹脂製造棟4階                             反応工程     キシレン
                             触媒                       ロジンオイル




   印刷インキ用樹脂製造棟3階                             ④ろ過工程




                                            ⑤固化工程




                                            ⑥粗砕・解砕
   印刷インキ用樹脂製造棟2階                              工程




                                            ⑦包装工程


   印刷インキ用樹脂製造棟1階
                                                      製品



                図 12 ロジン変性フェノール樹脂の製造ブロックフロー


①付加・縮合反応工程(作業:荒川化学社員)
 4 階の製造釜 D または E に,製造釜の投入口からパラホルムアルデヒドの投入作業,計器室の
プラント制御用コンピュータシステム(以下,DCS と略す)によりアルキルフェノール,キシレ
ン,水の投入操作を行う。
 混合後,製造釜の投入口から触媒を投入し,100℃で付加・縮合反応させる。当反応は発熱反応
であり,DCS による自動制御で温度調節する。
 所定時間反応させた後,冷却し,触媒の中和と水層の分離操作を行う。その後,1 階のタンク
へ移送・保管する。


②付加反応工程(作業:荒川化学社員)
 4 階の製造釜 A または B または C に,計器室の DCS による溶融ロジンの投入操作を行い,投
入後に 220~250℃へ昇温する。
 その後,①で得たレゾール型フェノール樹脂の投入操作を計器室の DCS により行う。ロジンと
レゾール型フェノール樹脂の付加反応は吸熱反応であり,DCS による自動制御で温度調節する。



                                   12
③エステル化反応工程(作業:荒川化学社員)
 4 階の製造釜の投入口からポリオール,触媒を投入し,240~270℃でエステル化反応を行う。
ロジンとポリオールのエステル化反応は吸熱反応であり,DCS による自動制御で温度調節する。
 所定のタイミングにおいて製造釜からサンプル採取を行い,4 階の測定室で酸価と粘度を測定
する。所定の酸価,粘度となったら,計器室の DCS による減圧操作を行う。


④ろ過工程(作業:荒川化学社員)
 固化室内に異物がないことを確認した後,2 階の固化室の窓とドアを閉じる。
 3 階の製造釜の下のろ過設備に金網を取り付ける。
 製造釜の底排弁の開度を調節しながら,溶融状態のロジン変性フェノール樹脂の取り出しを開
始し,2 階固化室の上段へ流し入れる。上段が一杯になったら,オーバーフローして下段に流れ
る。
 取り出しが終了したら,底排弁を閉じる。


⑤固化工程(作業:荒川化学社員)
 取り出し終了 1 時間後,固化室の窓とドアを開け,固化室送風ブロアーと換気扇の運転を開始
し,一晩空冷する。


⑥粗砕・解砕工程(作業:協力会社社員)
 固化室内のロジン変性フェノール樹脂の温度が 50℃以下になったら,集じん機を始動し,固化
室の集じんダクトのバタフライ弁(排気)を開けて固化室に入室する。
 2 階固化室でスコップを使用してロジン変性フェノール樹脂をスクリューコンベアに入れる。
ロジン変性フェノール樹脂はスクリューコンベア内で解砕されながら,1 階のホッパーへ移送さ
れる。
 固化室での粗砕作業が終了したら,バタフライ弁を閉める。


⑦包装工程(作業:協力会社社員)
 1 階にて包装に必要な洗浄済みの FIBC を準備する。
 ホッパー金属検知器の動作確認を行う。
 ホッパー排出口付近の集じんダクトから排気を行う。
 包装充填操作担当と補助の 2 名で FIBC をホッパー排出口に取り付ける。
 包装充填操作担当が回転型スライド弁を開け,台秤の表示を見ながらロジン変性フェノール樹
脂を FIBC に充填する。充填終盤で FIBC をホッパーから取り外し,充填量の微調整を行い,所定
量となったら FIBC の充填口を縛る。
 包装された FIBC はフォークリフトを用いて屋外へ搬送する。終わったら戻り,繰り返す。
 ホッパーからロジン変性フェノール樹脂が排出されなくなったら,エアノッカーでホッパーを
叩き,ホッパー壁に残っている樹脂を取り出し,集じんダクトからの排気を終える。



                        13
ワニスの製造ブロックフロー

   アルキルフェノール
   パラホルムアルデヒド      ①付加・縮合
   触媒               反応工程
   キシレン
                             ロジン                      縮合生成水
                                            ②付加反応工程   キシレン
                    タンク保管    レゾール型フェノール樹脂             ロジンオイル
                   (製造棟1階)

                             ポリオール                    縮合生成水
                                            ③エステル化
   印刷インキ用樹脂製造棟4階                             反応工程     キシレン
                             触媒                       ロジンオイル



                             高沸点石油系溶剤
                             植物油            ④溶解・反応
   印刷インキ用樹脂製造棟3階             増粘剤              工程
                             酸化防止剤




                                            ⑤ろ過・タンク
                                             移送工程

   印刷インキ用樹脂製造棟1階
                                                      製品



                    図 13 ワニスの製造ブロックフロー


①付加・縮合反応工程(作業:荒川化学社員)
 4 階の製造釜 D または E に,製造釜の投入口からパラホルムアルデヒドの投入作業,計器室の
DCS によりアルキルフェノール,キシレン,水の投入操作を行う。
 混合後,製造釜の投入口から触媒を投入し,100℃で付加・縮合反応させる。当反応は発熱反応
であり,DCS による自動制御で温度調節する。
 所定時間反応させた後,冷却し,触媒の中和と水層の分離操作を行う。その後,1 階のタンク
へ移送・保管する。


②付加反応工程(作業:荒川化学社員)
 4 階の製造釜 A または B または C に,計器室の DCS による溶融ロジンの投入操作を行い,投
入後に 220~250℃へ昇温する。
 その後,①で得たレゾール型フェノール樹脂の投入操作を計器室の DCS により行う。ロジンと
レゾール型フェノール樹脂の付加反応は吸熱反応であり,DCS による自動制御で温度調節する。


③エステル化反応工程(作業:荒川化学社員)
 4 階の製造釜の投入口からポリオール,触媒を投入し,240~270℃でエステル化反応を行う。
ロジンとポリオールのエステル化反応は吸熱反応であり,DCS による自動制御で温度調節する。
 所定のタイミングにおいてサンプル採取を行い,4 階の測定室で酸価と粘度を測定する。所定
の酸価,粘度となったら,計器室の DCS による減圧操作を行う。



                                   14
④溶解・反応工程(作業:荒川化学社員)
 3 階のワニスの製造釜へ計器室の DCS による高沸点石油系溶剤の投入操作を行う。
 溶融状態のロジン変性フェノール樹脂をワニスの製造釜へ移送し,
                              植物油や増粘剤を投入する。
190℃で溶解・反応させた後,冷却し,酸化防止剤を投入する。
 その後,高沸点石油系溶剤を追加投入することにより粘度調整を行う。


⑤ろ過・タンク移送工程(作業:荒川化学社員)
 1 階のろ過設備に金網を取り付ける。
 所定の粘度となったら,屋外のワニスタンクにポンプ移送する。
 移送終了後,製造釜の底排弁を閉める。




                       15
2.2.4    取扱物質(可燃物の保管状況)
 当該製造棟では図 14~17 に記載した物質を取り扱っており,発災時の可燃物の保管状況を階ご
とに記載する。
      (赤字は消防法危険物,青字は非危険物)
 4 階の可燃物の保管状況を図 14 に示す。4 階にはドラム缶に包装されたロジン変性フェノール
樹脂の原料,小分けした器具洗浄用キシレン(仮置き)
                        ,アルキド樹脂があった。製造釜内には製
造中のロジン変性フェノール樹脂や,
                反応開始前のフェノール樹脂の原料
                               (アルキルフェノール,
ホルムアルデヒド)があった。




                               製造中のロジン変性樹脂
                               (製造釜内)


                                         増粘剤 (ドラム缶内合計610kg)




                                      キシレン


                                                 熱媒
  キシレン        キシレン                               (槽内約4.3m3)
                                          アルキド樹脂(ドラム缶内合計140kg)
                               樹脂原料(ドラム缶内合計500kg)
               アルキルフェノール
               パラホルムアルデヒド
               (製造釜内)




                     図 14 4 階の可燃物の保管状況




                                 16
 3 階の可燃物の保管状況を図 15 に示す。
                      ワニスの製造釜には投入した高沸点石油系溶剤があり,
ワニスの製造釜周辺には紙袋に包装された酸化防止剤や,紙袋に包装されたロジン変性樹脂があ
った。




           ロジン変性樹脂
           (紙袋内合計1,500kg)

                                 高沸点石油系溶剤
                                 (製造釜内)




                            酸化防止剤
                            (紙袋内合計1,620kg)




                 図 15 3 階の可燃物の保管状況




                            17
 2 階の可燃物の保管状況を図 16 に示す。ワニスの製造釜内には高沸点石油系溶剤があり,回収
または廃棄用ドラム缶にはロジン変性フェノール樹脂が入っていた。




                                            高沸点石油系溶剤
                         集じん機回収粉
                         (FIBC内20~30kg)     (製造釜内)
  廃棄ロジン変性樹脂(ドラム缶1本)


    キシレン




                                  回収ロジン変性樹脂(ドラム缶1本)




                           廃棄ロジン変性樹脂 (ドラム缶2本)




                        図 16 2 階の可燃物の保管状況




                                   18
 1 階の可燃物の保管状況を図 17 に示す。1 階には原料・中間体のタンク類が多く,西部のタン
クには消防法危険物第 4 類第 2 石油類のレゾール型フェノール樹脂のキシレン溶液(図 17 ではレ
ゾール型フェノール樹脂と記載した)が保管されていた。通常,集じん機のすぐ南側のタンクに
もレゾール型フェノール樹脂のキシレン溶液が保管してあるが,当品番は廃番となったため,タ
ンク洗浄のためのキシレンが保管されていた。西部の北ホッパー内にはロジン変性フェノール樹
脂があり,東部にはワニス製品やワニス製品をろ過した残さが入ったドラム缶があった。また,
当該製造棟の 1~4 階には原料などを製造釜に移送するための多くの配管があった。




     :FIBC空袋                                          グリセリン(タンク内13,010kg)
     :フォークリフト                      キシレン(タンク内980kg)         灯油(タンク内8,280kg)

 レゾール型フェノール樹脂        キシレン(タンク内6,700kg)
 (タンク内13,270kg)


 キシレン
 (タンク内1,000kg)
                                                     ワニス(ドラム缶2本)




                   ロジン変性樹脂(ホッパー内)
                                    LPGボンベ




レゾール型フェノール樹脂
                                                             ワニスろ過残 (ドラム缶8本)
  (タンク内11,340kg)
            レゾール型フェノール樹脂         レゾール型フェノール樹脂
            (タンク内5,620kg)         (タンク内11,950kg)

            キシレン(タンク内10,060kg)
                 地下

                            図 17 1 階の可燃物の保管状況




                                          19
2.2.5       運転体制
 富士工場の組織と協力会社への業務委託ルートを図 18 に示す。事務課,製造第一課,製造第二
課,保安課,品質管理課があり,当該製造棟の担当は製造第二課第二係であった。製造課長のも
と,係長とスタッフがおり,班長や作業員へ製造関係の指示を行っていた。24 時間連続運転を行
うため,作業員は 1 班 4 名の三交替制をとっている。具体的には,1 部勤務 7~15 時に 4 名,2
部勤務 15~22 時に 4 名, 部勤務 22~7 時に 4 名が勤務しており,
                 3                       日勤として 7~15 時に 1 名(嘱
託)
 ,8~16 時に 1 名が勤務していた。
 協力会社への業務委託は,事務課が協力会社との契約や包装詰め替え作業依頼(すでに包装さ
れた製品を別の大きさの容器に詰め替える作業。どの製品をどれだけ詰め替えするかを依頼)を
行い,
  製造第二課第二係が当該製造棟での製造品の包装作業依頼
                           (固化室にある製品の包装作業。
どの製品をどれだけ包装するかを依頼)を行っていた。




                                      富士工場 工場長             荒川化学83名、協力会社22名


     [ 事 務 課 ]           [ 製造第一課 ]        [ 製造第二課 ]           [ 保 安 課 ]         [ 品質管理課 ]

       事務課長              製造第一課長           製造第二課長                 保安課長           品質管理課長
                                                                 マネージャー          マネージャー




[ 総 務 係 ] [ 業 務 係 ]   [第一係]   [第二係]    [第一係]     [第二係]    [工務係]     [ 環境保安係 ]

  主査         係長         係長      係長      係長        係長1名      係長          係長         係長
 スタッフ        主査        スタッフ                      スタッフ1名                            主査
            スタッフ


                       班長       班長      班長        班長3名                班長          検査員
                       作業員      作業員     作業員      作業員10名               作業員


  嘱託          派遣                                 嘱託1名                             パート



                     契約関係                        包装依頼
                   包装詰め替え依頼

                                        協力会社(包装作業)




                      図 18 富士工場の組織と協力会社への業務委託ルート




                                         20
 なお,発災時に当該製造棟で作業していた協力会社社員 6 名,荒川化学社員 6 名の年齢,発災
時の作業内容および当該製造棟での経験年数は以下のとおりである。


   表2   当該製造棟内の協力会社社員および荒川化学社員の年齢,作業内容,経験年数
          社員       年齢          発災時の作業内容   経験年数
        協力会社社員 a   63 歳         指示・監督      28 年
        協力会社社員 b   64 歳    包装充填操作 補助       10 年
        協力会社社員 c   55 歳         包装充填操作     17 年
        協力会社社員 d   33 歳   搬送(フォークリフト運転)    7年
        協力会社社員 e   43 歳         包装容器準備     8年
        協力会社社員 f   28 歳         包装容器準備     5年
        荒川化学社員 g   62 歳          原料準備      32 年
        荒川化学社員 h   40 歳          原料準備      21 年
        荒川化学社員 i   51 歳          DCS 監視    8年
        荒川化学社員 j   44 歳          DCS 監視    2年
        荒川化学社員 k   32 歳          DCS 監視    14 年
        荒川化学社員 l   26 歳          容器洗浄      1年




                          21
3.事故概要


 2017 年 12 月 1 日 8 時 25 分,静岡県富士市の荒川化学工業株式会社 富士工場 印刷インキ用
樹脂製造棟において,爆発・火災事故が発生し,死亡者 2 名,重傷者 2 名,軽傷者 11 名の人的被
害,および製造設備,建物が損壊する物的被害を出した。図 19 には発災時の類焼状況,図 20 に
は消火活動状況を示す。




       図 19 発災時の類焼状況                            図 20 消火活動状況




3.1 事故概要
発生日時:2017 年 12 月 1 日(金)8 時 25 分


気象状況:天候           晴
       気温         11.3℃(8 時)    13.5℃(9 時)
       相対湿度       81.0%(8 時)    56.4%(9 時)
       平均風速        0m/s(8 時)      4.3m/s(9 時)
       風向          静穏(8 時)      東南東(9 時)
       気圧        1,012hPa(8 時) 1,013hPa(9 時)
      (富士市消防本部消防防災庁舎 気象観測システム                   12 月 1 日 8 時と 9 時の測定データ)


発生場所:印刷インキ用樹脂製造棟


発生状況:12 月 1 日 8 時 25 分,印刷インキ用樹脂製造棟での製品包装作業中,爆発が起こり,
       製造棟全体に類焼した。




                                   22
3.2 被害状況
人的被害:
 人的被害は以下のとおりであった。


 当該製造棟内で作業
      死亡者 2 名 協力会社社員(社員 b,d)
      重傷者 2 名 協力会社社員(社員 a,c)
      軽傷者 8 名 協力会社社員 2 名(社員 e,f)
              荒川化学社員 6 名(社員 g,h,i,j,k,l)
 Y 製造棟南側で作業
      軽傷者 3 名 運送会社社員 3 名
      (Y 製造棟の南側でタンクローリーへの液状製品の充填作業を行っていた)




物的被害:
 当該製造棟を中心に甚大な損壊となり,爆風および飛散物による周辺の損壊が一部にあった。


【近隣の被害範囲】
 JR 身延線富士-西富士宮間,運転の見合わせがあった(午前 9 時半に運転休止し,13 時 09 分
に運転再開)
     。また,富士工場の周囲 100m では通行が規制された。
 近隣では厚原地区,弥生地区,伝法地区において停電があった。また,当該製造棟から周囲約
400m 圏内にて家屋の歪み・壁・窓の破損などがあった。飛散物については,ガラスが周囲約 30m,
壁材が北へ約 130m,南へ約 80m,東西へ約 40m 飛散していた。風向きが東南東であったため,
北西方向約 420m まで微細なロジン変性フェノール樹脂やすすが飛散していた。


【富士工場場内の損壊状況】
 富士工場場内の損壊状況を図 21 に示す。場内では事務所,倉庫,他の製造棟の壁や窓が破損し
ていた。当該製造棟の南側ではキシレン配管が破損・焼損しており,発災時はここから火柱が立
っていた。図 21 の①~⑩の損壊状況の写真を図 22~31 に示す。




                           23
                                           ③Y 製造棟:北面壁・窓破損




                                               ②キシレンポンプ:破損・焼損




          ⑨Z 製造棟:北面壁ひび割れ

                                                      ①発災製造棟:全焼



                                                     ④自動倉庫:西面壁破損
⑩荒川化学事務所:1~3 階窓破損



                                                    ⑤危険物倉庫:屋根・壁破損


                                                    ⑥協力会社事務所:窓破損
               ⑧品質管理棟:2 階窓破損        ⑦休憩所:窓破損


                        図 21 富士工場場内の損壊状況




         図 22 ①発災製造棟                   図 23 ②キシレンポンプ




          図 24 ③Y 製造棟                     図 25 ④自動倉庫



                               24
図 26 ⑤危険物倉庫         図 27 ⑥協力会社事務所




 図 28 ⑦休憩所           図 29   ⑧品質管理棟




 図 30 ⑨Z 製造棟        図 31 ⑩荒川化学事務所




               25
【当該製造棟の損壊状況】
 当該製造棟の損壊状況を図 32 に示す。当該製造棟の外観は,特に強度の低い壁材部の損壊が激
しく,1~3 階の大半の壁材・ALC 部は屋外に向けて吹き飛んでいた(消火時の放水による損壊含
む)。また,製造棟の南側・西側・北側の部位が焼損していた。




             南側                     東側   自動倉庫西側


                                             壁材
                                             ALC
                                         ブロック+コンクリート


               北側                   西側

              図 32 当該製造棟の損壊状況(損壊箇所:赤色部分)




3.3 事故に至った経緯と事故後の状況
3.3.1    発災前の状況(当日)
 2017 年 12 月 1 日(金)
  ・当日は 4 階に荒川化学社員 6 名,1~2 階に協力会社社員 6 名がいた。
  ・ロジン変性フェノール樹脂の製造釜 A,B,C,およびワニスの製造釜が稼働していた。
  ・フェノール樹脂製造釜は空の状態であった。
  ・北固化室で冷却したロジン変性フェノール樹脂の粗砕作業を開始するところであった。
    以下状況については図 33~37 も参照。


 【当該製造棟 4 階(荒川化学社員 6 名)
                      】
  時刻         作業者      作業内容
  6 時 55 分   社員 l     ロジン変性フェノール樹脂の製造釜 C で減圧を開始
                      (計器室の DCS により制御)
  7 時 00 分   社員 j     製造釜 A セパレーター内の有機層と水層を分離するため水抜き開始
             社員 l     ワニスの製造釜で製造が終了し,製品タンクへ移送開始
                      (計器室の DCS により制御)




                               26
7 時 05 分   社員 k     ロジン変性フェノール樹脂の製造釜 B の製造工程内サンプルを採取
7 時 30 分            ワニスの製造釜内の製品移送完了
7 時 35 分   社員 i     ワニスの製造釜へ高沸点石油系溶剤を投入
                    (計器室の DCS により制御)
           社員 l     南東部のキシレン容器内でろ過設備の金網洗浄
7 時 45 分   社員 j     ロジン変性フェノール樹脂の製造釜 A の製造工程内サンプルを採取
                    し,測定室で測定
8 時 00 分   社員 i     計器室の DCS でロジン変性フェノール樹脂の製造釜 A の温度監視
           社員 g     パラホルムアルデヒド準備
           社員 l     南東部でキシレン容器の洗浄開始
8 時 05 分   社員 h,k   フェノール樹脂の製造釜 D にパラホルムアルデヒドを投入
8 時 15 分   社員 k     フェノール樹脂の製造釜 D にアルキルフェノールを投入開始
                    (計器室の DCS により制御)
8 時 20 分   社員 i     キシレン容器へ新しいキシレンを投入するためにキシレンポンプを
                    始動(計器室の DCS により制御)


発災時        社員 i,j,k は 4 階の計器室にて運転状態を DCS で監視中
           社員 g,h は 4 階中央の北部で原料の準備開始
           社員 l は 4 階の南東部で容器洗浄中


  以上,ロジン変性フェノール樹脂の製造やワニスの製造に関する反応は作業手順どおりに
行われており,また DCS での監視をしており,異常はなかった。


8 時 25 分   1 階で爆発発生
25~27 秒    25 秒:近隣情報より推定
           27 秒:富士山空振計(太郎坊,上井出)の震動時刻より算出




                             27
                    アルキルフェノール,                       高沸点石油系溶剤,
                    キシレン                             植物油
                    (屋外タンク)                          (屋外タンク)
                         ロジン
     パラホルムアルデヒド,         (屋外タンク)
     触媒
                    ポリオール,触媒                     ロジンタンク
                                                                    ポリオール,触媒

4階                                                                               増粘剤,
                                       ポリオール,触媒                                  酸化防止剤
製造釜   製造釜                 製造釜                              製造釜       製造釜
 D     E                   A                                B         C

3階
            北固化室          ろ過設備
                                             南固化室
                                  固化室(上段)                                    ワニスの
                                                                             製造釜
2階
                                  固化室(下段)



                         ホッパー                          ホッパー
            中間体    中間体                                                           屋外タンクへ
1階          タンク    タンク                                                    ろ過設備
                           FIBC                           FIBC
                                                                 包装容器準備


                   図 33 印刷インキ用樹脂製造棟での製造プロセスフロー




                   計器室

                          製造釜 A       製造釜 E         製造釜 B         製造釜 C




                     休止中の                                           自動倉庫
                     製造釜             製造釜 D          電気室


              測定室



                                  図 34 4 階の設備配置図




                                            28
製造釜 A   製造釜 E      製造釜 B   製造釜 C




                                   ワニスの

 休止中の      製造釜 D                   製造釜

  製造釜




           図 35 3 階の設備配置図




 北固化室




                                   ワニスの
                                    製造釜
    南固化室




           図 36 2 階の設備配置図




                   29
  コンクリート
 +ブロックの壁



                        北ホッパー



放散口

集じん機
                           ワニスのろ過設備
角タンク




                                着火場所(推定)
                                 36 頁参照
           南ホッパー


            図 37 1 階の設備配置図




                   30
【当該製造棟 1~2 階(協力会社社員 6 名)
                       】
 時刻         作業者        作業内容
 7 時 10 分              集じん機を始動
 7 時 30 分   社員 b,c,d   集じんダクトのバタフライ弁を開け,
                       北固化室上段で固化したロジン変性フェノール樹脂を粗砕し,
                       スクリューコンベアに入れ,ホッパーへ搬送開始
 7 時 50 分   同上         北固化室上段の作業が終了し,1 階へ移動
            社員 b,c     ホッパーから FIBC へ包装開始
            社員 d       包装完了した FIBC をフォークリフトで屋外へ移動開始
            社員 a,e,f   他製造棟での作業を終え,当該製造棟へ応援に来た
                       北固化室下段で固化したロジン変性フェノール樹脂を粗砕し,
                       スクリューコンベアに入れ,ホッパーへ搬送開始
 8 時 20 分   社員 a,e,f   北固化室下段の作業が終了し,バタフライ弁を閉め,1 階へ移動


 発災時        社員 b,c は FIBC への包装作業
             全 20 個中,13 個目が終了,14 個目の包装を開始
            社員 d は包装完了した FIBC をフォークリフトで移動開始
            社員 a は現場の指示や監督
            社員 e,社員 f は包装容器の準備・整理


 以上,包装作業手順どおりに包装作業を行っていた


 8 時 25 分   1 階で爆発発生
 25~27 秒    25 秒:近隣情報より推定
            27 秒:富士山空振計(太郎坊,上井出)の震動時刻より算出




                              31
        以上の当該製造棟 4 階の状況と,1~2 階の状況を表 3 にまとめた。


表 3 発災前の状況一覧表(当日)

                       荒川化学社員 作業                           協力会社社員 作業
                        (当該製造棟4階)                          (当該製造棟1~2階)

                作業先                 作業内容          作業先      作業内容       作業先      作業内容

 6:40     計器室入室(社員j,k,l の3名)

 6:45      計器室入室(社員i の1名)

 6:55           製造釜C                減圧開始

                製造釜A              セパレータ水抜き
 7:00
               ワニス製造釜               移送監視

 7:05           製造釜B               サンプル採取

 7:10                                             集じん機      始動

 7:30          ワニス製造釜            屋外タンクへ移送完了

               ワニス製造釜            高沸点石油系溶剤投入
                                                  北固化室      粗砕
 7:35
                                                   上段     (社員b,c,d)
            南東部 キシレン容器            ろ過設備の金網洗浄

 7:45           製造釜A               サンプル採取

 7:50     計器室入室(社員g,h の2名)

                製造釜A                温度監視

 8:00           製造釜D            パラホルムアルデヒド準備
                                                                      北固化室      粗砕
                                                                       下段     (社員a,e,f)
            南東部 キシレン容器              容器洗浄                    包装
                                                          (社員b,c)
 8:05           製造釜D            パラホルムアルデヒド投入      北ホッパー
                                                          フォークリフト
 8:15           製造釜D             アルキルフェノール投入               (社員d)

                                                                              指示・監督
                                  キシレンポンプを始動                                  (社員a)
                                                                      1F中央~
 8:20       南東部 キシレン容器         (キシレン容器へ新しいキシレンを
                                                                       東フロア
                                    投入するため)                                   包装容器準備
                                                                               (社員e,f)


 8:25                                                          爆発発生




                                           32
 ここで,発災時の当該製造棟内の人員配置を図 38 に示す。 階では西側から東側に向けて爆発・
                              1
火災が起こり,協力会社社員 5 名が屋外に避難した。4 階では下層階からの爆発音と同時に,黒
煙に包まれたため,荒川化学社員 6 名は手探りで当該製造棟の 4 階を移動し南東側屋外階段を通
って避難した。


表4   当該製造棟内の協力会社社員および荒川化学社員の発災後状況,年齢,作業内容,経験年数
     発災後状況           社員            年齢       発災時の作業内容            経験年数
      重傷           協力会社社員 a        63 歳        指示・監督                28 年
      死亡           協力会社社員 b        64 歳     包装充填操作 補助               10 年
      重傷           協力会社社員 c        55 歳       包装充填操作                17 年
      死亡           協力会社社員 d        33 歳   搬送(フォークリフト運転)             7年
      軽傷           協力会社社員 e        43 歳       包装容器準備                8年
      軽傷           協力会社社員 f        28 歳       包装容器準備                5年
      軽傷           荒川化学社員 g        62 歳        原料準備                 32 年
      軽傷           荒川化学社員 h        40 歳        原料準備                 21 年
      軽傷           荒川化学社員 i        51 歳         DCS 監視              8年
      軽傷           荒川化学社員 j        44 歳         DCS 監視              2年
      軽傷           荒川化学社員 k        32 歳         DCS 監視              14 年
      軽傷           荒川化学社員 l        26 歳        容器洗浄                 1年




     協力会社社員 b
                                          荒川化学社員 j       荒川化学社員 g

        協力会社社員 c
                                                             荒川化学社員 h
                      協力会社社員 f


                        協力会社社員 e


                                               荒川化学社員 k      荒川化学社員 l
 協力会社社員 d       協力会社社員 a

                                          荒川化学社員 i



            図 38 発災時の当該製造棟内の人員配置図(左:1 階 右:4 階)




                                   33
3.3.2     発災後の状況(当日)
  以下に発災後当日の状況を記載する。消火・救助活動の詳細については3.4に記載した。


   8 時 25 分           爆発発生
     25~27 秒          25 秒:近隣情報より推定
                      27 秒:富士山空振計(太郎坊,上井出)の震動時刻より算出
   8 時 25 分 29 秒      富士工場の漏電警報発報
                      自動火災報知機発報
   8 時 26 分 14 秒      富士山中腹の空振計(上井出観測点)が爆風を観測
              35 秒    富士山中腹の空振計(太郎坊観測点)が爆風を観測
   8 時 26 分           事務課長より消防署へ連絡
                      工場長より本社へ一報
   8 時 27 分           富士工場自衛消防隊により初期消火開始
   8 時 37 分           公設消防隊入場
   8 時 39 分           富士工場事務所前へ負傷者搬送
   8 時 56 分           救急車入場
   9 時 37 分           富士市が周囲 100m を警戒区域に指定,周辺住民に避難指示
  12 時 12 分           避難解除
  14 時 09 分           鎮火




3.3.3 発災後の状況(翌日以降)
 2017 年 12 月 2 日     警察・消防による事故現場,場内,近隣周辺の検証開始
                     事務所捜索開始
              3日     事故調査委員会の発足
                     事故原因究明チーム調査開始
              12 日   富士労働基準監督署,労働安全衛生総合研究所立ち入り
              13 日   事故調査委員 場内視察
              15 日   警察・消防による現場検証中断,事務所捜索終了,規制線解除
                     (ひととおり検証し,必要に応じて現場検証となった)
              17 日   事故調査委員 場内視察
              24 日   第 1 回事故調査委員会開催


              現状     当該製造棟の解体撤去完了




                                  34
3.4 消火・救助活動の状況
 12 月 1 日 8 時 25 分の事故発生直後の消火,救助活動は以下のとおりである。
 爆発音と自動火災報知機の発報を受けて事務課長より 119 番通報(8 時 26 分)すると共に本社
への報告を行い,ただちに工場の自衛消防隊による初期消火活動を開始した(8 時 27 分頃)
                                            。
初期消火活動は近隣の製造棟で勤務していた自衛消防隊員と工場のスタッフの 10 数名が屋外消
火栓を用いて,当該製造棟の南側より放水を行った。
 この間に当該製造棟の 1 階で作業を行っていた協力会社社員 6 名の内,5 名が屋外に避難し,
燃えていた着衣の消火や火傷を水で冷やすなどの応急処置を行った。
 自衛消防隊による初期消火開始後,当該製造棟の 4 階で作業を行っていた荒川化学社員 6 名が
南東側の屋外階段より屋外に順次避難した(8 時 27~37 分の間)
                                 。間もなく公設消防隊が入場し
消火活動を開始(8 時 37 分)
                ,負傷者全員を工場の事務所前に搬送した(8 時 39 分頃)
                                             。
 救急車輌が入場し負傷者の手当てを開始(8 時 56 分頃)
                             ,その後,避難した協力会社の社員 5
名,荒川化学の社員 6 名を救急車輌および救急ヘリコプターにより,富士市内,静岡市内,山梨
県,神奈川県の病院へ搬送した。
 引き続き 23 台の消防車輌により消火活動が行われ,14 時 09 分に鎮火。この間,富士市は工場
から周囲 100m を警戒区域に指定し(9 時 37 分)
                            ,周辺住民に対して避難指示を出した(12 時 12
分解除)
   。
 避難できなかった協力会社社員 1 名は鎮火後の消防の捜索により,当該製造棟 1 階の包装作業
場において遺体で発見された。




                         35
4.事故原因


4.1 事故の調査方法
 今回の爆発・火災事故の原因究明に向けた検証は,以下の方法で行った。
(1) DCS のデータ,記録類は火災により消失しており,事故当日のプラントおよび装置の挙
   動,作業員の操作は,荒川化学および協力会社の社員より聴取し把握した。
(2)機器の損傷状況や現場の焼損状況,周辺の被害状況については現場検証を行った。
(3)事故前の設備の状態は,保管文書,図面類,担当課長,担当係長,荒川化学社員,協力会
   社の社員より聴取し把握した。
(4)事故の事象は公共機関や近隣事業所の情報,データ,荒川化学社員,協力会社の社員の証
   言から把握した。
(5)発生事象を明確に解析する必要があるものについては,事故調査委員会の事故原因究明チ
   ーム,荒川化学社内の技術部門にて技術的検討を行った。また,裏付けとして荒川化学社
   外の研究機関に委託して技術的検討および数値解析,3 次元シミュレーションを行った。


4.2 事故の原因推定
 今回の爆発・火災事故は,近隣情報(図 39)および当該製造棟 1 階東側で作業していた協力会
社の社員の「西の方から火炎が迫ってきた。」との証言,当該製造棟 1 階のロジン変性フェノール
樹脂の製品包装作業場周辺の機器(製品ホッパー,集じん機,タンク,ダクト,配管類)の損傷
が著しい状況,当日のロジン変性フェノール樹脂やワニスの製造に関する反応は作業手順どおり
行われており,設備にも異常はなく,製造釜内の原料や製品が燃えずにそのまま残っていたこと
から,当該製造棟 1 階の製品包装作業場付近で静電気による粉じん爆発が発生し,その火炎が当
該製造棟内の危険物,可燃物に引火,類焼し,重大事故に発展したものと考えられる。事故原因
の推定の詳細は4.2.2に記載する。


                        撮影方向    包装作業場




        光


                    炎



      図 39 最初に炎と光が見えた場所(当該製造棟北西方向からの撮影)



                         36
4.2.1   事故の詳細
【ロジン変性フェノール樹脂の包装作業場の設備】
 包装作業場周辺の設備の状況を図 40,ホッパーを図 41,固化室内部の状況を図 42 に示す。
 固化室は反応を終えた溶融状態のロジン変性フェノール樹脂を冷却固化する設備であり,上下
2 段の構造で床には鋼板が張られている。250~265℃の溶融状態の樹脂を固化室に流し入れ,空
冷により約 20 時間で 50℃以下まで冷却固化する。 回の反応で製造した樹脂をおよそ 1/2 ずつ上
                           1
下段の固化室に流し込み冷却固化する。
 上下段固化室の床の中央にはスクリューコンベアが設置されており,スクリューコンベアの先
端には解砕機が設けられている。スクリューコンベアには蓋はなく,上部は全面開放の状態で上
方に集じんのためのフードが設けられている。スコップにて粗砕した樹脂をスクリューコンベア
に投入し,水平方向に搬送後,解砕機にて数 cm 程度の大きさに解砕し,階下のホッパーに貯蔵
する。スクリューコンベアの解砕機部分を図 43 に示す。
 ホッパーは 1 回の反応で製造した樹脂の約 1/2 の量を貯蔵する容量であり,ホッパーの底部の
排出口には回転型スライド弁が設けられている。回転型スライド弁を開くことにより樹脂が排出
される。また,ホッパーの排出口には金属検知器が設置されている。
 ホッパー下の 1 階床には台秤があり,台秤には鉄鋼製のカバーが載せられており,カバーの上
面と床面が同一レベルになるように台秤はピット内に収められている。台秤の上に FIBC を置い
て,樹脂を充填,計量する。
 包装作業場には集じん機が設置されており,固化室での粗砕・解砕および FIBC への充填操作
により発生する樹脂の粉じんを吸引し処理する。集じん機で捕集された粉じんはスクリューフィ
ーダーで集められロータリーバルブにより排出される。
 設備の材質は一部を除き,鉄鋼製である。
 当該製造棟内の西側の包装作業場の北側と南側には類似のロジン変性フェノール樹脂の固化室
および包装設備が 1 基ずつ設置されており,それぞれ北固化室,南固化室と呼んでいた。ロジン
変性フェノール樹脂の冷却,粗砕,解砕および包装作業は主に北固化室を使用していた。
 なお,図 41~43 は発災前に撮影したものである。




                        37
                                                 3階

                         固化室上段              樹脂


                                            解砕機

                         固化室下段
集じん機                                             2階


                                     ホッパー

                                            金属検知器

                  スクリューコンベア
                                        回転型スライド弁


                                     FIBC
        スクリューフィーダー                                1階

       ロータリーバルブ               ピット      台秤



          図 40 包装作業場周辺の設備の状況(北固化室)




              図 41 北ホッパーの全景(発災前)



                         38
                図 42 固化室内部の状況(北固化室,発災前)




         図 43 スクリューコンベア先端の解砕機(北固化室,発災前)




【ロジン変性フェノール樹脂の包装作業】
 固化室内で冷却したロジン変性フェノール樹脂の粗砕,FIBC への包装作業は,協力会社の社員
が通常 3 名で実施する。
 まず,作業開始前に集じん機を起動し,固化室の集じんダクトのバタフライ弁を開けて,粗砕
作業を開始する。粗砕作業は,上段固化室から開始する。
 協力会社の社員が 2 階の上段固化室に入り,固化した樹脂をスコップにて粗砕しスクリューコ
ンベアに投入する。樹脂はスクリューコンベアで搬送,解砕されてホッパーに入る。固化室 1 段
分の樹脂の粗砕作業の時間は約 30 分である。
 固化室 1 段分の樹脂の粗砕を終えると,協力会社の社員は 1 階へ移動し包装作業を開始する。
 金属検知器の動作確認を行った後にホッパーに貯蔵した樹脂を FIBC に包装する。事故当日に
包装していた FIBC 1 個あたりの充填量は 470kg である。包装作業は充填操作 2 名,FIBC の搬送
1 名の計 3 名で行う。
 包装作業は FIBC を台秤に載せ,FIBC の充填口をホッパー排出口の直近まで伸ばし,回転型ス



                           39
ライド弁を全開にして一気に約 400kg まで充填する。この際,FIBC の充填口の端を回転型スライ
ド弁とホッパー排出口の間に挟みこんで固定する。さらに FIBC の充填口の反対側の端を集じん
ダクト(図 41 には集じんダクトも撮影されている)に近づける。
 FIBC の設置状況を図 44 に,充填操作の状況を図 45 に,類似の回転型スライド弁を図 46 に示
す。なお,図 45 は後日類似の包装設備を用いて包装作業の状況を再現したものである。
 回転型スライド弁を全開にした状態で約 400kg まで一気に充填した後(所要時間約 30 秒)
                                               ,回
転型スライド弁の開閉操作にて調整し,所定量の 470kg まで充填する。約 400kg から 470kg まで
の充填操作中は,正確に計量するために FIBC はホッパー排出口から離し,自立させている。充
填開始から完了までの所要時間は約 1 分である。充填後は FIBC の充填口を閉じ,フォークリフ
トにて屋外へ搬出する。
 ホッパーに貯蔵できる樹脂の量は 1 回の製造で得た樹脂のおよそ 1/2 であり,先に固化室上段
の樹脂の粗砕,解砕,包装を行なった後,同じ協力会社の社員 3 名が上段固化室と同様の手順で
下段固化室の樹脂の粗砕,解砕,包装を行う。なお,下段の固化室の粗砕作業が終了したら固化
室の集じんダクトのバタフライ弁は閉じる。1 回の製造で得られる樹脂の包装個数は FIBC 約 20
個である。
 ロジン変性フェノール樹脂の冷却,粗砕,解砕,包装は通常,北固化室を用いて行われ,事故
当日の固化室での粗砕および包装の一連の作業も北固化室と包装設備で実施し,手順どおり行わ
れていた。
 事故当日は,北固化室上段の樹脂の包装作業の途中に他のプラントでの作業を終えた協力会社
の社員 3 名が応援に入り,北固化室下段の粗砕作業を実施した。先に粗砕した上段固化室の樹脂
の包装作業を行いながら下段固化室で粗砕を行うことで作業時間を短縮できることから,応援の
協力会社の社員による粗砕作業は以前からしばしば実施されていた。
 下段固化室の粗砕作業を終えた応援の協力会社の社員 3 名は,当該製造棟の 1 階の包装場から
東へ 10~15m 離れた場所で作業の監督や容器準備を行っていた。包装作業は協力会社の社員 3 名
で継続していた。
 当該製造棟の東側 1 階にいた協力会社の社員の証言,近隣情報から,爆発は北固化室下段での
粗砕作業後,包装作業場付近で発生したと考えられる。また,屋外に搬送された包装済みの FIBC
の数から,14 個目の FIBC の充填作業中であったと推定される。
 爆発による衝撃と火炎により,包装作業を行っていた 3 名のうち,1 名が死亡,2 名が重傷(う
ち 1 名は後日死亡)
          ,離れた場所で作業していた 3 名のうち,1 名は重傷,2 名が軽傷を負った。
 包装作業および監督や容器の準備を行っていた場所,協力会社の社員の位置を図 47 に示す。




                          40
            ホッパー排出口                                           ホッパー排出口




                                    集じんダクト                                            集じんダクト
回転型スライド弁
                                                  回転型スライド弁


                                                         開


                                                              閉



                            FIBC                                           FIBC




           充填操作中(約400㎏まで)                            回転型スライド弁開/閉操作時(約400kgから470㎏の間)



                                   図 44 FIBC の設置状況




                   図 45 充填操作の状況(類似設備を使用して再現)




                                             41
               図 46 回転型スライド弁(類似品)




       協力会社社員 b(包装充填操作 補助)


             協力会社社員 c(包装充填操作)


                                  協力会社社員 f(包装容器準備)



                                           包装容器の準備


包装作業
                                    協力会社社員 e(包装容器準備)




         協力会社社員 d(搬送)    協力会社社員 a(指示・監督)




              図 47 作業場所と協力会社社員の位置




                             42
【静電気対策状況】
 発災後の検証となるが,服装・設備の接地状況を調査した。調査結果を表 5 に,調査時の写真
を図 48~52 に示す。
 まず当該作業に従事する協力会社の社員の服装については,荒川化学の規定で,帯電防止作業
服,静電気帯電防止靴,ヘルメット,軍手,防じんマスクの着用を義務づけている(図 48)
                                          。当
該作業に従事していた協力会社社員に対する事故後の事情聴取では,規定を守っていた旨の説明
を受けた。ただし発災時に着用していた作業着の現物は焼失等のため確認はできていない。
 協力会社の社員の静電気帯電防止靴と当該製造棟の 1 階の床との絶縁抵抗を 1,000V で測定した
ところ,最大 1.6×107Ωで JIS T8103 の規格(1.0×105≦R≦1.0×108Ω)を満たしていた。当該
製造棟 1 階の床については接地極との間の抵抗を測定したところ 7.5×105Ωであった(図 49)
                                                 。
 帯電防止作業服および静電気帯電防止靴の着用については,本委員会の委員である公益社団法
人 産業安全技術協会 山隈常務理事から,以下の見解が示された。
 人体の帯電は帯電防止作業服によって防止又は軽減できないものもあることから,人体の帯電
防止は,衣服ではなく,靴と床の導電性による接地によって確保するものであることが静電気専
門家の共通認識である。
 事故当時、被災した作業者は帯電防止靴を履いていたことが確認されており、作業床は、一般
に十分な導電性を有するコンクリート製であることから,作業者の身体は接地状態にあったと考
えられる。
 したがって,作業者の着衣が帯電防止品でなかったとしても,身体には静電気が蓄積すること
はほとんどなく,その皮膚から火花放電のような着火性放電が生じた可能性は極めて低い。
 以上の見解から,静電気が発生しても静電気帯電防止靴から床に放電するため,人体の帯電は
なかったと判断する。
 次に,ダクトについて接地極との間の抵抗を数箇所測定したところ 0.5~1.2Ω であり(図 50),
集じん機本体の接地極との間の抵抗は 0Ω,集じん機のフィルターの金網は 18Ω,フィルターを固
定する金属ヨークは 1.4Ω であった(図 51)。なお,集じん機のフィルターはその構造から金網に
接触していたと考えられる。また,ホッパー本体の接地極との間の抵抗も 0.8Ω であった。
 以上より集じん機ならびにホッパーは接地されていたと考える。
 また台秤に鉄鋼板製のカバーが載せられており,そのカバー上面と接地極との間の抵抗を測定
したところ 0Ω であり,台秤および鉄鋼板製カバーは接地されていたと判断する(図 52)
                                           。
 ロジン変性フェノール樹脂の製品の包装には静電気災害防止タイプ C の FIBC を使用しており,
FIBC の出荷時にメーカーが測定した接地可能接続点(接地端子)と本体との間の抵抗は 106~7Ω
であった。また,包装作業場には充填操作中に FIBC に接続する接地ケーブル(アースリール)
が備えられていた。
 しかし,富士工場の包装作業手順書には FIBC に接地ケーブルを接続する手順が記載されてお
らず,事故後の協力会社社員からの聴取においても,実際の包装作業では接地ケーブルを FIBC
に接続せずに,ホッパーに接続して充填作業を行っていた。
 470kg の製品を FIBC に充填する作業において,約 400kg 程度までは FIBC の充填口を回転型ス



                             43
ライド弁とホッパーの排出口との間に挟んで充填しており,この状態では FIBC はホッパー経由
で接地されていた。さらには台秤が接地されており,鉄鋼板製のカバーの上に載せて計量を行う
ことで,FIBC は台秤経由でも接地される仕組みになっていた。


   表 5 接地状況の調査結果(絶縁抵抗および接地極との間の抵抗測定値)
                測定項目                     測定値[Ω]
   協力会社の社員の静電気帯電防止靴と 1 階床との絶縁抵抗         最大 1.6×107
   1 階床と接地極との間の抵抗                          7.5×105
   ダクトと接地極との間の抵抗(複数個所)                      0.5~1.2
   集じん機本体と接地極との間の抵抗                             0
   集じん機のフィルターの金網と接地極との間の抵抗                     18
   集じん機ヨークと接地極との間の抵抗                            1.4
   ホッパーと接地極との間の抵抗                               0.8
   台秤のカバーと接地極との間の抵抗                             0
   FIBC の接地可能接続点(接地端子)と本体との間の抵抗                106~7
   (メーカー出荷時の測定値)




    図 48 協力会社の社員の服装           図 49 1 階床と接地極の間の抵抗測定の状況




図 50 ダクトと接地極の間の抵抗測定の状況        図 51 集じん機と接地極間の抵抗測定の状況




                         44
図 52 台秤と接地極の間の抵抗測定の状況




                        45
4.2.2     事故原因の絞り込み
 事故に至る重要なポイントをA.原因物質,B.着火源,C.爆発,D.火災の 4 つに分けて
整理,検証した。


A.原因物質の検証
 当該製造棟の 1 階および周辺の消防法危険物,可燃物の配置と量を図 53 に示す。図 53 より,
事故発生時に当該製造棟の 1 階の包装作業場周辺には,爆発の可能性がある物質としてはタンク
に保管されたキシレンや危険物第 4 類第 2 石油類のレゾール型フェノール樹脂のキシレン溶液(図
53 ではレゾール型フェノール樹脂と記載した)は,フォークリフトの燃料であるガソリン/LPG,
ロジン変性フェノール樹脂の粉じんがあった。



     :FIBC空袋                                          グリセリン(タンク内13,010kg)
     :フォークリフト                      キシレン(タンク内980kg)         灯油(タンク内8,280kg)

 レゾール型フェノール樹脂        キシレン(タンク内6,700kg)
 (タンク内13,270kg)


 キシレン
 (タンク内1,000kg)
                                                     ワニス(ドラム缶2本)




                   ロジン変性樹脂(ホッパー内)
                                    LPGボンベ




レゾール型フェノール樹脂
                                                             ワニスろ過残 (ドラム缶8本)
  (タンク内11,340kg)
            レゾール型フェノール樹脂         レゾール型フェノール樹脂
            (タンク内5,620kg)         (タンク内11,950kg)

            キシレン(タンク内10,060kg)
                 地下

                      図 53 1 階の消防法危険物・可燃物の配置と量


 事故前の記録写真(2016 年 11 月撮影)を図 54 に示す。
 写真を撮影した 2016 年の 11 月にホッパーの上に堆積した粉じんは除去したが,その後は事故
当日まで掃除されていなかった。また,集じん機や包装場周辺のタンク,建物の梁の上などは長
期間にわたり粉じんの除去,清掃が行われていなかった。
 以上より包装作業場周辺のタンクなどの構築物,機器類,建屋の梁,大口径のダクトの上,タ



                                          46
ンク間の隙間の床にはロジン変性フェノール樹脂の粉じんが堆積していたと考えられる。




  図 54 ロジン変性フェノール樹脂の包装作業場周辺の粉じん堆積状態(2016 年 11 月撮影)
          (左:ホッパー上の粉じん       右:タンク間の床の粉じん)


 写真より粉じんは少なくとも約 35mm の厚みで堆積していたと考えられる。




また,
  ダクト上部には図 55 に示すような状態で粉じんが堆積していたと推定する(安息角 25°)
                                              。




               図 55 ダクト上部の粉じん堆積状況




                        47
 包装作業場周辺の粉じんが堆積していたと思われる位置と推定量を図 56 に示す。


             集じん機上部
             27kg


        通路
        23kg                                                                                  ホッパー上80kg

   T-222上 94kg
                                                                                   T-220上 56kg

   北側梁上 148kg                                                                     T-223上 94kg
                                                                                   南上ホッパー上 44kg
   南側梁上 62kg

                                                 南下ホッパー 44kg
                                                   北固化室

      ダクト経路図(発災前)                                  上段


                                                   北固化室
                                                   下段



                                                            200φ     ダンパー上
                                 ホッパー上                  扉前フード        SSダクトφ450
                                 吸引フード                                                                               東集じん機へ
                                                              2F
                                                                                      閉
                                                                        点検口                 点検口

                                                                    開
                                          ホッパー本体              1F                                              南固化室
                                                                                                              上段
                                                                                                        2F
                                                                                                  75%         南固化室
                                                                    点検口                                       下段
                                                                              開                   開
                                                                                                        1F
                             角ダクト
                             □300mm?
                                                                                  亜鉛引きダクト
                                                                                              点検口
                                                                                  φ450mm
                                                                                  厚み1mm
     排気口
     (大気)                                           吸引ダクト2本



                      集じん機
                                          ホッパー
            集じんブロワー                       排出口
                                          フード                      丸ダクト上部 11kg
            角ダクト上部 13kg



                                         南固化室ホッパー系集じん




       図 56 ロジン変性フェノール樹脂の包装作業場周辺の粉じん堆積位置と推定量




 図 56 をまとめると,包装作業場周辺には表 6 に示すとおり,最大約 700kg のロジン変性フェノ
ール樹脂の粉じんが堆積していたと推定される。なお,粉じんの嵩密度は 0.314kg/L(事故前に集
じん機より回収していた粉の実測値)として計算した。


    表 6 包装作業場周辺の堆積粉じん量(推定)
                              場所                                          堆積粉じんの推定量 [kg]
               ホッパー,集じん機,タンク上                                                                           439
                                                   ダクト                                                  24
                                                              梁                                         210
                                         タンク間通路                                                         23
                                                              計                                         696




                                                                          48
 以上より,
     当該製造棟 1 階の包装作業場周辺の爆発の原因物質として,
                                 キシレン,
                                     ガソリン/LPG、
ロジン変性フェノール樹脂の粉じんが考えられる。
 まず,キシレンおよびレゾール型フェノール樹脂のキシレン溶液を貯蔵していたタンクは蓋が
全て閉じられていたこと,配管の接続口に異常はなかったことを事故後の現場検証で確認してい
る。また,当日のロジン変性フェノール樹脂およびワニスの製造に関する反応や作業,設備には
異常はなく,タンクに高い温度のキシレンあるいはレゾール型フェノール樹脂のキシレン溶液が
入ることはなかった。
 キシレンの物性を表 7 に示す。各データは『静電気安全指針 2007,独立行政法人 労働安全衛
生総合研究所』から引用した。また,蒸気圧は Antoine の式より算出した。
     log P = A - B ÷(T + C)
              P:蒸気圧[kPa]         T:温度[℃]       A,B,C:Antoine 定数
 22 頁の気象状況より,キシレンが引火点以上になっていた可能性は低く,仮にキシレンの漏え
いがあったとしても,当日の気温と蒸気圧から製造棟 1 階の室内のキシレンガス濃度は 0.5vol%
以下であったと考えられる。
 当日の気温 10℃におけるエチルベンゼンの蒸気圧は 0.50kPa であり,大気圧 101.325kPa より大
気中におけるエチルベンゼンの濃度は以下のように計算される。
         0.50 ÷ 101.325 × 106 = 4935ppm(0.49vol%)
 環境省臭気対策ガイドブックによると臭いが容易に感知できるキシレンの臭気強度 3 は 2ppm
の濃度である。したがって,キシレンの漏えいがあれば爆発範囲に至る前に作業員が感知できた
はずであるが,協力会社の社員の証言では溶剤臭やガス臭などの異臭はなく,キシレンの漏えい
はなかったと考えられる。


表 7 キシレンの物性
              沸点       蒸気圧(kPa)      爆発範囲           引火点   発火温度    最小着火エネ
              (℃)      20℃    10℃    (vol%)         (℃)   (℃)     ルギー(mJ)

o-キシレン         144     0.65   O.34   0.9~6.7         32    463      0.2

m-キシレン         139     0.82   O.43   1.1~7.0         27    527      0.2

p-キシレン         138     0.87   0.46   1.1~7.0         27    528      0.2

エチルベンゼン        136     0.94   0.50   0.8~6.7         21    432      ND



 次に,フォークリフトの燃料である LPG,ガソリンの物性を表 8 に示す。各データは『SDS,
液化石油ガス-様式 1,ENEOS グローブ株式会社』『LP ガスの規格,日本 LP ガス協会』『静電
                           ,                    ,
気安全指針 2007,独立行政法人 労働安全衛生総合研究所』
                             ,『SDS,ENEOS レギュラーガソリン,
JXTG エネルギー株式会社』から引用した。
 LPG には着臭成分としてメルカプタン類が 50ppm 以下添加されている。環境省臭気対策ガイド
ブックでは例えばメチルメルカプタンの臭気強度 3 が 0.004ppm であり,LPG として爆発範囲以
下の 80ppm の漏えいで感知できる。




                                      49
                 0.004ppm ÷ 50ppm × 106 = 80ppm(0.008vol%)
    協力会社の社員の証言では溶剤臭やガス臭などの異臭はなく,LPG の漏えいはなかったと考え
られる。ガソリンについては引火点以上の雰囲気となっていたが,フォークリフトのガソリンタ
ンクにはキャップがついており,漏えいの可能性は低いと考えられる。


表 8 LPG,ガソリンの物性
                                                                                最小着火
               組成       沸点         蒸気圧         爆発範囲         引火点       発火温度
                                                                                エネルギー
               (%)      (℃)        (kPa)       (vol%)       (℃)       (℃)
                                                                                 (mJ)
     プロパン                -42      840(20℃)     2.1~9.5      -104       450        0.25
                90<
L    プロピレン               -48      1158(25℃)    2.4~10.3     -108       455        0.28
P    n-ブタン              -0.5      214(21℃)     1.8~8.4       -60       365        0.25
                <10
G    イソブタン              -11.7        348       1.8~8.4      <-56       460        0.52

     硫黄分       <50ppm

ガソリン            ND      17~220      50~93        1~7        <-40       300            ND



    表 9 に,ロジン変性フェノール樹脂の粉じん爆発性試験結果を示す。
    樹脂粉①は事故より以前の 2017 年 6 月に当該製造棟 1 階の包装作業場の集じん機より採取した
粉じんであり,株式会社 環境衛生研究所にて測定した。樹脂粉②は事故前に当該製造棟 1 階の
包装作業場の集じん機より回収し保管されていた粉じんを事故後に株式会社                                    環境衛生研究所に
て測定した。また,樹脂粉③は爆発・火災事故発生時の FIBC へ充填済みの樹脂をすりつぶした
粉じんであり,公益社団法人 産業安全技術協会に委託して測定した。いずれのデータからも当
該粉じんは粉じん爆発の危険性を有し,着火源があれば粉じん爆発が発生する可能性がある。


    表 9 粉じんの爆発性試験結果
                                  樹脂粉①                   樹脂粉②                 樹脂粉③
    測定年月                         2017 年 6 月            2017 年 12 月           2018 年 3 月
                                  株式会社              株式会社                 公益社団法人
    測定者
                                 環境衛生研究所           環境衛生研究所              産業安全技術協会
    前処理                          75μm 篩別下              63μm 篩別下              63μm 篩別下
    爆発下限濃度(g/m3)                   35~40                   40                    25
    最小着火エネルギー(mJ)                0.3