4591 M-リボミック 2021-05-10 15:00:00
新型コロナウイルス治療薬の開発に関する進捗報告 [pdf]

                                                               2021年5月10日
各位
                       会   社   名   株   式   会   社       リ   ボ    ミ   ッ   ク
                       代表者名        代   表   取   締   役   社   長    中 村 義 一
                                   (コード番号:4591                 東証マザーズ)
                       問合せ先        執行役員財務経理部長                   米 林 渉 司
                                                       TEL. 03-3440-3745


        新型コロナウイルス治療薬の開発に関する進捗報告

当社は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療用アプタマーの創製に精力的に取り
組んでおりますが、現時点での進捗状況と、今後の展望について、次の通りお知らせいたします。


COVID-19 医薬品開発の世界の現状
現在、COVID-19 は人々の生活ならびに生命にとって世界規模の脅威となっています。とりわけ人命
救助の観点から、一刻も早い対策が必要です。ワクチンはウイルス感染症を予防、もしくは感染した
場合の重症化を抑制するための有力な手段であると考えられます。一方で治療薬は、既に感染が成立
した発症者の治療に用いられるものであり、ウイルス感染症克服のために、ワクチンと共に必要不可
欠なものであります(図 1)。




                  図1.ワクチンと治療薬の違い


現在、mRNA や AAV ウイルスを利用したワクチンが短期間で実用化された結果、ワクチン接種が世
界で広く進められ、その予防効果が明らかになってきています。しかし、治療薬に関しては、既存薬
の適応拡大による承認あるいは開発のみで、COVID-19 を治療標的とした新規薬剤は実現していませ
      表1.COVID-19 治療薬の現状。すべてが既存薬の適応拡大によるもので、
         新型コロナウイルスを標的とした新薬の開発は実現していない。


ん(表1)
    。ワクチン開発に比較して治療薬の開発が遅いという事実は、ワクチン開発は COVID-19
の原因ウイルス SARS-CoV-2 の遺伝子がそのまま「くすり」として利用できるが、治療薬の開発は
SARS-CoV-2 やその遺伝子の働きを抑えるための「くすり(化合物)
                                   」を新たに作り出す必要があるた
めです。当社のみならず、世界の企業や研究機関がそのための努力を継続しているところです。
ワクチンは 100%の感染予防効果を持つわけではなく、ワクチン接種者が COVID-19 に罹患する症
例も報告されているため、治療薬の開発は不可欠です。


アプタマー創出の取り組み状況、および進捗について
当社は核酸アプタマーを利用した治療薬の開発を進めています。SARS-CoV-2 は、ウイルス表面のス
パイク(S)タンパク質が人の細胞表面にある受容体(ACE2 タンパク質)に結合することによって、
感染・増殖することが明らかになっています。当社は、S タンパク質や ACE2 タンパク質に結合する




        図2.当社の COVID-19 に対するアプタマー治療薬の開発プロセス
ことで、S タンパク質と ACE2 の結合を阻害、あるいは、ウイルスの細胞への侵入を阻止できるアプ
タマーに取り組んでおります。現在までの進捗状況を図2に示します。
SARS-CoV-2 の遺伝子は自由に取り扱うことができず、S タンパク質の作成には大臣確認が必要でし
た。当社ではいち早く大臣確認を申請し、昨年 5 月には SELEX 実験を開始することができました。実
験に際しては、緊急事態宣言の有無にかかわらず、研究員の心身の安全を確保するために出社状況を
制限し、慎重に作業を進めてまいりました。これらの困難の中であっても、各研究員はその業務の重
要性を認識し、最大限の努力を払ってアプタマー創製に取り組んでおります。その結果、8 月には S
タンパク質に対して優れた結合性を有するアプタマーの発見に至り、SPR 解析注1において、S タンパ
ク質と宿主受容体 ACE2 との結合を阻害する活性を持つことが確認できております。さらに 11 月から
東京大学医科学研究所との共同研究を開始し、培養細胞を用いたシュードタイプウイルス注 2 感染実験
においてアプタマーによる感染阻害効果を確認しております。一部のアプタマーについては、SARS コ
ロナウイルス、MERS コロナウイルスの S タンパク質に対しても結合活性を有することを確認してお
ります。また、これらのヒット化合物が SARS-CoV-2 変異株の S タンパク質に対しても結合すること
も確認しております。これまでの検討で得られたヒット化合物については、動物試験に移行するため
の化学修飾の導入を実施し、完了しております。
東京大学医科学研究所の河岡教授らは、ハムスターが COVID-19 の優れた感染モデルになることを
報告しているため、今後、治療用アプタマーを動物試験に進める場合には、河岡教授と提携し、ハム
スターを利用した感染モデルで評価したいと考えています


課題および展望について
当社は東京大学医科学研究所との共同研究の中で、取得したアプタマーのウイルス感染阻害効果を慎
重に評価しております。しかしながら、これまでの当社におけるアプタマー創薬の経験から、現在まで
に取得したアプタマーの阻害活性は医薬品化のためには十分ではない可能性があり、動物を用いた薬理
試験に移行した場合においても、更なる阻害効果の増強が必要であると考えております。
これまでの1年間の経験から、SARS-CoV-2 は、当初想定していたよりも遥かに困難な標的であるこ
とが明らかになってきたというのが、当社の率直な印象です。しかしながら、これまでの過程で、その
難しさの要因も次第に明らかになってきており、次の検討のための情報も蓄積してきました。アプタマ
ーは、抗体と比べて分子量が小さいため、結合する領域によっては十分な阻害活性を示さない場合があ
ります。今後はさらに多様なアプタマーの取得を目指し、S タンパク質とアプタマー結合体の構造解析
を進めると同時に、人工核酸の使用を始めとする特殊な SELEX を実施していく予定です。一方で、既
に得られているアプタマーについても、その結合活性や交差反応性に着目し、機能性分子とのコンジュ
ゲートによる新たな阻害作用機序の検討を実施してまいります。
COVID-19 は今なお世界の脅威であり、また将来において異なるコロナウイルス感染症が生じること
も十分に考えられます。したがって、当社としては相応の資源を使い、引き続き治療用アプタマーの実
現に注力し、世界規模での COVID-19 治療薬開発に貢献したいと考えております。
注1
     SPR (表面プラズモン共鳴)法は、2 つ、あるいはそれ以上の分子間相互作用をリアルタイムでモ
ニタリングするための、光学ベースの標識不要の検出技術です。

注2
     シュードタイプウイルスは、取り扱いが比較的容易なウイルスの粒子表面上に異なるウイルスの表
面タンパク質等を作らせた遺伝子組み換えウイルスであり、偽型ウイルスとも称されます。本共同研
究に用いたシュードタイプウイルスは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)の表面に SARS-CoV-2 のス
パイク(S)タンパク質を発現させたもので、新型コロナウイルスの感染初期の機序を安全に再現し解
析することができます。



                                                  以上