3918 PCIHD 2019-09-05 17:00:00
分配可能額を超えた当期の自己株式取得と中間配当金に関する一連の経緯及び再発防止策について [pdf]

                                                        2019 年9月5日
各 位
                                 会 社 名   PCIホールディングス株式会 社
                                 代表者名    代表取締役社長        原口    直道
                                         (コード番号:3918    東証第一部)
                                 問合せ先    取締役経営企画本部長     井口    直裕
                                                 (TEL.03-6858-0530)


       分配可能額を超えた当期の自己株式取得と中間配当金に関する一連の経緯及び
                    再発防止策について

 当社は、2019 年 7 月 18 日付「分配可能額を超えた当期の自己株式取得と中間配当金に関するお知らせ」
で公表いたしましたとおり、2019 年 1 月 10 日及び 2019 年 5 月 10 日付取締役会において、結果として、会
社法及び会社計算規則により算定される分配可能額を超える自己株式の取得及び中間配当金の支払いを決
議し、実施いたしました。この件について、当社は、2019 年 7 月 24 日付「分配可能額を超えた当期の自己
株式取得と中間配当金に関する第三者委員会設置のお知らせ」のとおり、外部の専門家による第三者委員会
を設置し、当該第三者委員会において事実関係の調査及び原因究明、本件に係る関係者の責任の所在の明確
化並びに再発防止策の提言が実施されました。この度、本件の経緯、第三者委員会の調査結果及び当社の再
発防止策について、下記のとおり、ご報告いたします。
 なお、上記自己株式の取得に係る譲渡人の皆様に譲渡代金の返還を含め何らかの対応を求めること、並び
に、上記中間配当金を受領された株主の皆様に返還を求めることはいたしません。

                                記
1. 本件の経緯
      当社は、2019 年1月 10 日付取締役会決議において、取得し得る株式の総数 150,000 株(上限)、取得
  価格の総額 250 百万円(上限) 取得期間 2019 年1月 11 日から同年2月8日までとして自己株式の取得
                   、
  を行うことを決定し、2019 年1月 11 日から同年2月8日までの期間にて自己株式の取得(以下「本件
  自己株式取得」という。
            )を実施いたしました(総額 249 百万円)
                                 。
      また、2019 年5月 10 日付取締役会決議において、2019 年3月 31 日を基準日として1株当たり 30 円
  の中間配当(以下「本件中間配当」という。
                     )を行うことを決定し、2019 年6月 11 日を効力発生日とし
  て配当金の支払いを実施いたしました(総額 123 百万円)。
      その後、2019 年9月期の監査の過程において、当社の監査法人の指摘を受け、当社にて事実確認を行
  ったところ、本件自己株式取得の実施時点で、会社法及び会社計算規則の定めにより算定された分配可
  能額を超えていたことが判明いたしました。
      本件の発生原因の究明と今後の再発防止を徹底するため、2019 年7月 24 日付にて当社と利害関係を
  有しない中立・公正な外部の専門家からなる第三者委員会を設置し、事実関係の調査及び原因究明、本
  件に係る関係者の責任の所在の明確化並びに再発防止策の提言を依頼いたしました。

2. 調査の方法
      第三者委員会は、関係者に対するヒアリング、関連資料の閲覧並びに会計データ等の分析・検討の実
  施により、事実関係の調査及び原因究明、本件に係る関係者の責任の所在の明確化並びに再発防止策の
  提言を実施しました。
      委員長   相良朋紀 (元広島高等裁判所長官・弁護士/TMI総合法律事務所 顧問)
   委 員   石原 修 (弁護士/TMI総合法律事務所 パートナー)
   委 員   武藤雄木 (弁護士・公認会計士/岩田合同法律事務所 パートナー)

3. 調査により判明した事実
   当社は、2018 年 11 月 13 日付取締役会において、従来の配当方針を変更し、2019 年9月期以降の配当
 について中間配当と期末配当の年2回とし、本件中間配当を実施することが当社の配当方針に盛り込ま
 れ、また、同取締役会において、期末配当を実施するに当たり分配可能額の算定を行い、当該配当を実
 施するに足る分配可能額が存在することを確認した上で、株主総会への付議議案として、2018 年9月期
 の期末配当を1株当たり 55 円(配当総額 231 百万円、前年比5円増配)として剰余金の処分を行う旨を
 決議しました。その後、当該期末配当は 2018 年 12 月 20 日付株主総会決議によって承認された後、翌
 21 日より支払いを開始いたしました。
   本件自己株式取得については、2019 年1月8日付の常務会による事前審議を経て、同年1月 10 日付
 の取締役会書面決議によって承認され、同年1月 11 日から2月8日までの間、本件自己株式取得を実施
 いたしました。この際に、例年定期的に行われる期末配当の実施時とは異なり、経理部門における分配
 可能額の検証が行われず、常務会及び取締役会においても、本件自己株式取得が分配可能額内で実施さ
 れるかどうかという観点からの議論は行われず、結果として、本件自己株式取得は会社法及び会社計算
 規則により算定される分配可能額を超過して実施されました。
   その後、当社は、上述記載の配当方針の変更に係る 2018 年 11 月 13 日付取締役会決議に基づき、2019
 年4月 22 日付常務会による事前審議及び同年4月 24 日の取締役会報告を経て、同年5月 10 日付取締役
 会書面決議によって本件中間配当議案を決議いたしました。本件自己株式取得の際と同様、本件中間配
 当の実施時には、経理部門における分配可能額の検証は行われず、常務会及び取締役会においても分配
 可能額について検証がなされないまま取締役会にて決議され、本件中間配当は本件自己株式取得時点で
 分配可能額が既に存在しなくなっていたにもかかわらず、同年6月 11 日に、中間配当金 123 百万円の支
 払いを実施いたしました。
   なお、当社は、仮に、本件自己株式取得及び本件中間配当の実施以前に 2018 年 12 月 31 日を臨時決算
 日として臨時決算を行っていれば、適法に本件自己株式取得及び本件中間配当を実施することが可能で
 あったことを明らかにするために、監査法人に対して同年 10 月 1 日から同年 12 月 31 日までの臨時会計
 年度の臨時計算書類の監査を依頼し、2019 年8月2日付で監査法人より、会社法 441 条2項の規定に準
 じて行われた当該臨時計算書類の監査の結果として「独立監査人の監査報告書」を受領しております。
 当該報告書には、
        「臨時計算書類が、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠
 して、当該臨時計算書類に係る期間の財産及び損益の状況をすべての重要な点において適正に表示して
 いるものと認める。」と記載されており、仮に本件自己株式取得及び本件中間配当を実施する前に、2018
 年 12 月 31 日を臨時決算日として臨時決算を行い、子会社からの配当収入を分配可能額に反映させてい
 たとすれば、本件自己株式取得及び本件中間配当は、それぞれ分配可能額の範囲内で実施することが可
 能でありました。

4. 本件の発生原因の分析
 第三者委員会の検証を踏まえた、本件の発生原因の分析は以下のとおりです。
 (1)役職員の分配可能額に関する正しい知識が不足していたことによる財源規制の看過
 (2)社内のチェック体制が不十分であったこと
 (3)業務フローの文書化、チェックリスト作成などへの意識が不足していたこと
 (4)経理部門及び財務部門において人員不足が生じていたこと
5. 本件に関する処分
   本件に関する責任の所在を明確にするため、各取締役の月額役員報酬を 2019 年9月から2ヶ月間、
  30%減額する処分を実施いたします。

6. 再発防止策
   今後、再発防止を徹底するために、第三者委員会による調査報告書の内容を踏まえ、以下に掲げる事
  項を実行してまいります。
  (1)分配可能額の検証プロセスの文書化及び責任部署の明確化を図ります。
  (2)分配可能額に関連する事案については、必ず算定シートを用いて分配可能額を検証し、社内関連
     部署による相互チェックを実施することとし、更には必要に応じて算定シートのチェックを明示
     的に外部の専門家へ依頼いたします。
  (3)全社的な法的リスクファクターの洗い出しを行い、チェックリスト化を図り、監査等委員会と内
     部監査室による適切な連携体制のもと、監査機能を強化いたします。また、法務関連事項に関す
     る組織対応を明確にいたします。
  (4)役職員における会社法等の知識を啓発する取り組みを推進いたします。
  (5)経理部門、財務部門及び法務部門の人的体制を不断に見直し、必要に応じて異動・増員等を実施
     し、組織体制の強化を図ります。


7. 責任の所在
  本件における関係者の責任につきましては、第三者委員会より以下の検討結果を受けております。
  (1)刑事責任
     取締役において、分配可能額が存在しないことを知りながらあえて本件配当等を行ったという事
     実を認めることはできない。したがって、取締役は、会社法上故意犯である、法令に違反して剰
     余金の配当をした罪(違法配当罪)及び財源規制に違反して自己株式を取得した罪(自己株式取
     得罪)の刑事責任を負うものではないと思慮する。
  (2)会社法上の責任
     取締役が、
         「その職務を行うについて注意を怠らなかった」との事実を認めることはできないし、
     また、全株主の同意もない以上、これらの者に法的責任が存在することは否定できないものと言
     わざるを得ない。
   なお、第三者委員会による、事実関係の把握及び原因の分析、再発防止策の提言並びに本件に係る関
  係者の責任についての検討の内容につきましては、別紙「調査報告書(開示版)
                                     」をご参照ください。
   また、当社としては、別紙「調査報告書(開示版)第5 関係者の責任 2 会社法上の責任」に記載の
  第三者委員会の見解を踏まえ、上記5.記載の本件に関する処分を行うことを前提に、現時点において、
  取締役に対する法的責任の追及を行うことは予定しておりません。

8. 今後の見通し
   2019 年9月期期末の配当につきましては、2019 年8月9日付「2019 年9月期 第3四半期決算短信〔日
  本基準〕(連結)」に記載のとおり、1株当たり 30 円 00 銭の配当予定であることに変更はありません。
   当社はこの度の事態を重く受け止め、再発防止策を実施するとともに、強固な内部管理体制の構築に
  努めてまいりますので、ご理解の程お願い申し上げます。
                                                      以   上
調 査 報 告 書(開示版)




    2019 年 9 月 5 日




 PCI ホールディングス株式会社

     第三者委員会




         - 1 -
                                          2019 年 9 月 5 日


PCI ホールディングス株式会社   御中




                         PCI ホールディングス株式会社     第三者委員会


                                  委員長     相   良   朋   紀


                                  委   員   石   原       修


                                  委   員   武   藤   雄   木




                        - 2 -
第1          調査の概要

1   当委員会設置の経緯


    PCI ホールディングス株式会社(以下「PCI」という。)の 2019 年 9 月期の監査の過程
で、PCI の会計監査人である三優監査法人(以下「監査法人」という。)は、PCI が 2019 年
6 月 11 日に支払を実施した剰余金の配当(以下「本件中間配当」という。)が、会社法及
び会社計算規則により算定される分配可能額を超えていたことを確認した。また、かかる
指摘を受け、PCI において確認を行ったところ、2019 年 1 月 11 日から同年 2 月 8 日まで
に実施した自己株式の取得(以下「本件自己株式取得」といい、本件中間配当と併せ「本
件配当等」という。)を実施した過程において、既に分配可能額を超過していたことが発
覚した。
    PCI は、2019 年 7 月 24 日に取締役会を開催し、役員の責任の所在の調査及び本件配当
等に係る実態解明のため、PCI と利害関係を有しない中立・公正な外部の専門家から構成
される第三者委員会(以下「当委員会」という。)を設置することを決議した。


2   調査目的


    当委員会の調査の目的は、以下のとおりである。
        ①       本件配当等に係る事実関係の調査及び原因究明
        ②       本件配当等に係る PCI 関係者の責任の所在の明確化
        ③       PCI における本件配当等の再発防止策の提言


3   当委員会の構成


    当委員会の構成は、以下のとおりである。
    委員長          相良   朋紀(元広島高等裁判所長官・弁護士、TMI 総合法律事務所     顧問)
    委       員    石原    修(弁護士、TMI 総合法律事務所   パートナー)
    委       員    武藤   雄木(弁護士・公認会計士、岩田合同法律事務所        パートナー)


    当委員会の運営は、日本弁護士連合会「企業等不祥事における第三者員会ガイドライ
ン(2010 年 12 月 17 日改訂)」に準拠しており、当委員会の委員長及び委員は PCI と利害
関係を有していない。
    なお、当委員会による本件配当等の調査(以下「本件調査」という。 の補助者として、
                                   )
PCI と利害関係を有していない以下の者が当委員会の調査業務の補助を行った。
    吉       井    久美子(弁護士・公認会計士、TMI 総合法律事務所)


                                 - 3 -
    山   口        俊(弁護士・公認会計士、TMI 総合法律事務所)
    松   永    耕   明(弁護士、TMI 総合法律事務所)
    佐   藤    竜   明(弁護士、TMI 総合法律事務所)
    出   山        洋(弁護士、TMI 総合法律事務所)


4   調査方法等


(1) 調査期間
        当委員会は、2019 年 7 月 24 日から同年 9 月 4 日までの間、本件調査を実施した。


(2) 調査・検討対象
        当委員会は、①関係者に対するヒアリング及び関係資料の閲覧並びに②会計データ
    等の分析・検討の実施により、本件配当等の事実関係を把握するとともに事実認定を
    行い、本件配当等の違法性について検討した。
        以上の調査の結果を踏まえ、当委員会は、本件配当等について、原因分析を行った。


(3) 調査方法
    ア   役職員及びその他関係者へのヒアリング


        当委員会は、以下の役職員及びその他関係者に対してヒアリングを実施した。


                 対象者名                     所属・役職等
        天野豊美(以下「天野氏」 PCI 代表取締役会長
                    )
        原口直道(以下「原口氏」 PCI 代表取締役社長
                    )
        井口直裕(以下「井口氏」 PCI 取締役
                    )                   経営企画本部長兼経営企画室長
        宮原譲(以下「宮原氏」
                  )          PCI 社外取締役    常勤監査等委員
        髙原明子(以下「髙原氏」 PCI 社外取締役
                    )                     監査等委員
        佐藤貴則(以下「佐藤氏」 PCI 社外取締役
                    )                     監査等委員   弁護士
        牧真之介(以下「牧氏」
                  )          PCI 社外取締役    監査等委員   公認会計士・税理士
        A氏                   PCI 執行役員    財務・経理本部長
        B氏                   PCI 財務・経理本部   経理グループ   グループマネ
                             ージャー
        C氏                   PCI 内部監査室長
        D氏                   経営企画本部法務担当マネージャー       弁護士
        三優監査法人     担当者 3 名   PCI 会計監査人
        E氏                   パートナー     公認会計士

                               - 4 -
             対象者名                    所属・役職等
        F氏              パートナー      公認会計士
        G氏              マネージャー      公認会計士
     ※所属・役職等はいずれも本件配当等の実施時点である


    イ   会計データ及び関連資料の閲覧及び検討
        当委員会は、PCI から、別紙「開示資料リスト」記載の資料の提出を受け検証し、
     また、EDINET 及び TDnet 等を利用して PCI の有価証券報告書、四半期報告書、決算
     短信及び臨時報告書等を取得し、これらを検証した。


第2      本件配当等と財源規制との関係について

1   当委員会において認定する事実


(1) 配当方針の変更及び 2018 年 9 月期期末配当の実施
        PCI は、2018 年 11 月 13 日付けの取締役会において、株主に対する利益還元の機
     会を充実させるという目的で、従前の配当方針を変更し、2019 年 9 月期以降の配当
     について中間配当と期末配当の年 2 回とし、2019 年 9 月期は 1 株当たり 60 円(中
     間:30 円、期末:30 円)とする旨の決議をし、これによって本件中間配当を実施す
     ることが PCI の配当方針に盛り込まれた。
        また、PCI では、同取締役会において、株主総会への付議議案として、2018 年 9 月
     期の期末配当を 1 株当たり 55 円(総配当額:2 億 3,147 万 9,820 円、前年比+5 円)
     として剰余金の処分を行う旨が決議され、当該期末配当は、2018 年 12 月 20 日付け
     の株主総会決議によって承認された後、翌 21 日に実施された。
        なお、期末配当に際して、PCI では、明文化された社内規程はないものの、従来か
     ら、経営企画室長を兼務している井口氏が具体的な配当議案を立案した後、経理グル
     ープにおいて算定シートに基づく分配可能額の算定を行い、当該配当を実施するに
     足る分配可能額が存在することを確認した上で、当該配当議案が常務会及び取締役
     会に付議されており、2018 年 9 月期期末配当に際しても、同様の手続により、分配
     可能額の有無の検証が行われた1。また、2018 年 9 月期期末配当時点での PCI におけ
     る分配可能額は、4 億 4,718 万 3,224 円であり、上記のとおり、2018 年 9 月期期末配
     当の総配当額が 2 億 3,147 万 9,820 円であったことから、当該分配可能額から総配
     当額が控除される結果、期末配当実施後の PCI における分配可能額は、2 億 1,570 万


1 当委員会において、PCI 作成に係る分配可能額の算定シートの内容を検討したところ、会社法に従った

分配可能額の算定を導くものであり、当該算定シートに特段指摘すべき法的問題点は見受けられなかっ
た。

                           - 5 -
      3,404 円となっていた。


    (2) 子会社からの配当収入の受領
       PCI は、2018 年 12 月 13 日から同月 17 日までにかけて、子会社 5 社からの配当収
      入として 4 億 1,514 万 2,800 円を受領した。その結果、PCI の 2018 年 12 月 31 日時
      点の損益計算書の期間純利益として 4 億 324 万 5,587 円が計上され、同時点の貸借
      対照表のその他利益剰余金の残高として 5 億 9,999 万 4,400 円が計上されていた。


    (3) 本件自己株式取得
       PCI では、2018 年 12 月下旬頃、同社の株価水準が、同社の想定する適正株価を下
      回る状況が生じていたことから、本件自己株式取得の実施につき検討が開始された。
      本件自己株式取得は、代表取締役会長である天野氏、代表取締役社長である原口氏及
      び井口氏が主導して検討したものであり、当該検討に基づき、井口氏が本件自己株式
      取得に係る議案を立案し、2019 年 1 月 8 日付けの常務会による事前審議を経て、同
      年 1 月 10 日付けの取締役会の書面決議によって当該議案は承認された2。なお、この
      際、本件自己株式取得の取得総額を約 2 億 5,000 万円として常務会及び取締役会に
      本件自己株式取得に係る議案が上程されているが、このような金額が設定されたの
      は、天野氏、
           原口氏及び井口氏の意識の中では、
                          2018 年 9 月期末の時点で約 4 億 5,000
      万円の分配可能額があり、前述第 2-1-(1)記載の 2018 年 9 月期期末配当に係る総配
      当額の約 2 億 3,000 万円がここから控除されるものの、前述第 2-1-(2)記載の子会社
      からの配当収入約 4 億円がこれに加算された結果、本件自己株式取得を実施する時
      点の分配可能額は約 6 億 2,000 万円存在しているところ、後述第 2-1-(4)記載の本件
      中間配当の配当額として約 1 億 2,000 万円が控えていることも踏まえ、この時点の
      分配可能額として約 5 億円存在するという意識があり、その上で、余裕を見て、この
      約 5 億円の半分程度の約 2 億 5,000 万円とされたものであった。
       例年、定型的に行われている期末配当の実施とは異なり、本件自己株式取得に際し
      ては、経理グループにおける算定シートに基づいた分配可能額の検証が行われず、常
      務会及び取締役会においても、本件自己株式取得が分配可能額内で実施されるかど
      うかという観点からの議論は行われず、これらの会議の際に配付された説明資料に
      おいても、分配可能額の検証に係る事項は記載されなかった。むしろ、常務会及び取
      締役会の際に配付された説明資料である「常務会/取締役会:自己株式の取得に関す
      る件②」と題する資料によれば、2019 年 9 月末の見込みの純資産額の数値について


2
  なお、会社法 165 条 2 項は、取締役会設置会社は、市場取引等により当該株式会社の株式を取得するこ
とを取締役会の決議によって定めることができる旨を定款で定めることができると規定しているところ、
PCI の定款 10 条には、「当会社は、会社法第 165 条第 2 項の規定により、取締役会の決議によって市場取
引等により自己の株式を取得することができる。       」との規定があるため、本件自己株式取得は、PCI の取
締役会決議によって実施可能であった。

                              - 6 -
  記載があったものの、分配可能額という記載はなく、資本剰余金が、分配可能額に加
  算することのできない資本準備金を含んだ形で一括して記載されている上に、分配
  可能額の算定根拠となる PCI 単体の純資産の部ではなく、連結ベースの純資産の部
  の数値が記載されていた。また、当該純資産内の利益剰余金に係る記載の右側には、
  「当期利益:540M、配当:231M」と記載されていた。
   さらに、本件自己株式取得に関与した A 氏及び承認決議を行った各取締役(監査等
  委員を含む。
       )は、経理グループの担当者に対し、本件自己株式取得に係る分配可能
  額を算定するよう指示を出すことをせず、分配可能額について詳細な検証がなされ
  ないまま取締役会の決議がなされた。また、本件自己株式取得を決定又は実施する前
  に、 の法務担当マネージャーである D 氏に対して相談がなされるということもな
    PCI
  かった。
   PCI は、上記取締役会決議に基づき、
                     2019 年 1 月 11 日から同年 2 月 8 日までの間、
  本件自己株式取得を実施したが、この時点での分配可能額は、前述第 2-1-(1)記載の
  とおり、2 億 1,570 万 3,404 円であったにもかかわらず、本件自己株式取得の取得総
  額は 2 億 4,978 万 3,700 円であった。したがって、本件自己株式取得は、会社法及び
  会社計算規則により算定される分配可能額を 3,408 万 296 円超過してなされたもの
  であった。
   本件自己株式取得については、PCI の 2019 年 9 月期第 1 四半期報告書において、
  後発事象として記載された。なお、監査法人による当該第 1 四半期報告書に係るレビ
  ューの過程において、本件自己株式取得が分配可能額を超過してなされたことにつ
  いて、監査法人からの指摘はなかった。


(4) 本件中間配当
   PCI は、前述第 2-1-(1)記載の配当方針の変更に係る 2018 年 11 月 13 日付け取締
  役会決議に基づき、井口氏が議案を立案し、2019 年 4 月 22 日付け常務会による事前
  審議及び同月 24 日付け取締役会での事前報告を経て、同年 5 月 10 日付けの取締役
  会の書面決議によって当該議案を承認した。本件自己株式取得の際と同様、本件中間
  配当の実施時には、経理グループにおける算定シートに基づいた分配可能額の検証
  が行われず、常務会及び取締役会においても、本件中間配当が分配可能額内で実施さ
  れるかどうかという観点からの議論は行われず、これらの会議の際に配付された説
  明資料においても、分配可能額の検証に係る事項は記載されなかった。さらに、本件
  中間配当に関与した A 氏及び承認決議を行った各取締役(監査等委員を含む。)は、
  経理グループの担当者に対し、本件中間配当に係る分配可能額を算定するよう指示
  を出すことをせず、分配可能額について詳細な検証がなされないまま取締役会の決
  議がなされた。また、本件中間配当を決定又は実施する前に、PCI の法務担当マネー
  ジャーである D 氏に対して相談がなされるということもなかった。


                       - 7 -
       PCI は、本件自己株式取得を実施したことにより、分配可能額が既に存在しなくな
      っていたにもかかわらず、上記 2019 年 5 月 10 日付けの取締役会の書面決議に基づ
      き、同年 6 月 11 日に、本件中間配当に係る配当金 1 億 2,337 万 8,720 円の支払いを
      実施した。
       その後、2019 年 9 月期の監査の過程で、監査法人は、本件中間配当が、会社法及
      び会社計算規則により算定される分配可能額を超えていたことを確認し、 にその
                                       PCI
      旨を伝え、かかる指摘を受け、PCI において確認を行ったところ、本件自己株式取得
      を実施した過程において、既に分配可能額を超過していたことが発覚した。なお、PCI
      は、仮に、本件配当等の実施以前に 2018 年 12 月 31 日を臨時決算日として臨時決算
      を行っていれば、適法に本件配当等を実施することが可能であったことを客観的に
      明らかにするために、監査法人に対して当該臨時計算書類の監査を依頼し、2019 年
      8 月 2 日付けで監査法人より、会社法 441 条 2 項の規定に準じて行われた当該臨時計
      算書類の監査の結果として「独立監査人の監査報告書」を受領し、当該報告書には、
      「臨時計算書類が、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に
      準拠して、当該臨時計算書類に係る期間の財産及び損益の状況をすべての重要な点
      において適正に表示しているものと認める。」と記載されていた。


2    本件配当等の違法性


     自己株式取得及び剰余金の配当は、会社債権者を害する不適切な会社財産の流出を防
    ぐため、会社法において定められた分配可能額を超えることができない3。そして、分配
    可能額は、会社法 461 条所定の計算式に基づいて算出される金額であるところ4、前述第
    2-1 記載のとおり、本件配当等は、分配可能額を超過するにもかかわらず行われたもので
    あるため、会社法 461 条の規定に違反するものであったと思料する。
     また、事業年度期間中に生じた利益は、臨時計算書類を作成し、臨時決算を経た場合で
    ない限り、分配可能額に反映することはできないとされているが5、PCI では、本件配当等
    の実施以前にかかる臨時決算を行わなかったため、2018 年 12 月に受領した前述第 2-1-
    (2)記載の子会社からの配当収入を含む期中の純利益の額を分配可能額に反映すること
    はできなかったものである6。




3
  会社法 461 条 1 項 2 号、同 1 項 8 号
4
  会社法 461 条 2 項、会社法施行規則 116 条 14 号、会社計算規則 156 乃至 158 条
5
  会社法 461 条 2 項 2 号イ、会社計算規則 156 条等
6
  後述第 5-2 のとおり、PCI が、もし仮に本件自己株式取得及び本件中間配当を実施する前に、2018 年 12
月 31 日を臨時決算日として臨時決算を行い、子会社からの配当収入を分配可能額に反映させていたとす
れば、本件自己株式取得及び本件中間配当は、それぞれ分配可能額の範囲内で実施することが可能であっ
た。

                            - 8 -
第3     本件配当等が行われた原因の分析

    関係資料及び前述第 1-4-(3)記載の当委員会の事情聴取の結果より、本件では、期末配当
に用いられる分配可能額の算定シートに基づき正確な計算ができていれば、本件配当等が
分配可能額を超過することに未然に気が付くことができた可能性が存在する一方で、 で
                                      PCI
は、期末配当とは異なり、自己株式の取得手続、中間配当の実施手続に関し、会社法所定の
分配可能額を当該算定シートに基づき確認するという業務フローが形成されていなかった
ことが判明した。以下では、こうした事象が発生した原因について検討する。


1    役職員による財源規制の看過


     本件の発生を招いた直接の原因・背景としては、以下の各態様による、役職員による財
    源規制の看過が挙げられる。


    (1) 本件配当等に係る分配可能額の検証手続の失念
       役職員の一部は、本件配当等について、期末配当と同様に会社法上の財源規制が及
      ぶという知識は有しており、期中の純利益の額を分配可能額に組み入れるためには
      臨時決算手続が必要であることも制度として理解していたものの、業務多忙が理由
      となり、本件配当等につき、分配可能額を検証することを失念してしまっていた。


    (2) 分配可能額の計算方法に関する誤解
       役職員の一部は、本件配当等について、期末配当と同様に会社法上の財源規制が及
      ぶという知識は有していたものの、会社法上の分配可能額の計算方法について、子会
      社からの受取配当金を含む期中の純利益の額について特段の追加処理なく加算する
      ことができるなどの曖昧な理解7のまま、分配可能額に特段の問題はないものと判断
      し、分配可能額の超過を看過していた。


    (3) 分配可能額の項目の確認不足
       役職員の一部は、本件配当等について、期末配当と同様に会社法上の財源規制が及
      ぶという知識は有していたものの、会社法上の分配可能額の項目について、単体ベー
      スの資本準備金の項目の数値をもって純資産は潤沢であると考え、分配可能額に特
      段の問題はないものと判断し、分配可能額の超過を看過していた。




7
 前述第 2-2 記載のとおり、期中の子会社からの受取配当(臨時決算益)を分配可能額に取り込むために
は、臨時計算書類を作成し、臨時決算を行う必要がある(会社法 441 条、会社計算規則 156 条等)。

                        - 9 -
    (4) 分配可能額の計算対象の誤解
       役職員の一部は、本件配当等について、期末配当と同様に会社法上の財源規制が及
      ぶという知識は有していたものの、会社法上の分配可能額の計算対象について、単体
      ベースではなく、連結ベースの利益剰余金等の数値の確認をもって、分配可能額に特
      段の問題はないものと判断し、分配可能額の超過を看過していた。


2    遵守に対するチェック体制の不備


     監査等委員と内部監査室との連携体制として、 の本社機能に係る内部統制に関して
                          PCI
    は、監査等委員会が中心となり監査・監督を行うと整理されていた。また、PCI の監査等
    委員会監査等実施基準においても「自己株式の取得」について取締役の義務に違反する事
    実がないかを監視し検証する義務が定められ、違反のおそれがある事実を認めた場合に
    は、必要な措置を講じなければならない旨も規定されていた8。しかしながら、本件配当
    等については、十分な監視・検証が実施されていなかった。
     また、 には法務機能を担う専門部署が設けられていなかったことも確認されており、
        PCI
    社内の法的リスクを自ら抽出し、チェックする機能が十分に果たされていなかったこと
    も、本件発生の原因の一つと考えられる。


3    社内規程及び社内手続の文書化


     上記のとおり、PCI では、自己株式の取得手続、中間配当の実施手続に関する業務フロ
    ーが規定されていなかった。この点、上場後の PCI として初めて実施した自己株式取得
    (以下「第 1 回自己株式取得」という。)及び本件中間配当については、手続に遺漏がな
    いよう、コンプライアンスの観点から特に慎重を期して検討すべきであった。しかしなが
    ら、結果として、PCI では、第 1 回自己株式取得及び本件配当等につき、従来の期末配当
    と同様に、経理グループで算定シートに基づき分配可能額を算定するという運用は実施
    されなかった。かかる背景には、一つ一つの社内手続の対処を属人的なスキルに委ねてお
    り、業務フローの文書化、チェックリストの作成などへの意識が足りていなかったことが
    挙げられる。


4    社内の人員不足


     また、本件配当等の実施当時においては、経理部門及び財務部門が少人数の繁忙状態に
    あり、組織として人員不足が生じていたことも、業務フローのない手続の実施につき、足


8
 監査等委員会監査等実施基準 27 条 1 項 5 号、同条 2 項。なお、本件中間配当の手続を含めた法的義務
の履行状況については、同 23 条等により監視・検証・必要な措置を講じる旨が規定されている。

                         - 10 -
    を止めて検証を行うという意識を持たせることができなかったことにつながり、本件発
    生の原因の一環となったと考えられる。


第4    再発防止策

1    分配可能額の検証プロセスの文書化・責任部署の明確化


     本件の事態を招いた直接の原因は、中間配当の手続、自己株式の取得手続について、分
    配可能額の検証を行うという業務フローが社内規程・チェックリスト等で文書化されて
    いなかったことにある。翻って、かかる指摘は、従来の期末配当に際して行われていた経
    理グループによる算定シートを用いた検証という業務フロー自体、 において明確に文
                                  PCI
    書化されていなかったことにも及ぶ。
     そのため、今後は、配当の実施、自己株式の取得を常務会及び取締役会で決議する際に、
    必ず算定シートを用いて分配可能額を検証し、監査等委員に検証結果を報告するととも
    に、その概要を常務会及び取締役会の議案書に記載するという一連の業務プロセスを整
    備し、これを文書化した上で、財源規制の遵守を主管する部署を明確に定め、関係部署に
    これを周知すべきである。


2    チェック体制の強化


     PCI において、本件配当等の財源規制違反の有無を事前に監視し検証する機関・役割は、
    社内規程上、主として監査等委員会が担っていた。監査等委員会は、財源規制違反の確認
    は当然のこと、来期以降の配当方針・自己株式取得方針の当否等も含めた網羅的な確認を
    行うべきであり、これらを含めた各委員の役割分担、監査等委員会としての監視・検証体
    制の在り方を検討すべきである。かかる検討に当たっては、監査等委員会と内部監査室に
    よる適切な連携体制にも配意し、遺漏のない監査体制を構築することが求められる。
     また、PCI の社内の法的リスクをチェックする機能の強化という観点では、経営企画本
    部とは別の部署として法務機能を担う専門部署を設け、各部署・子会社ごとの法的リスク
    の網羅的な洗い出し・リスク分析・リスク評価を行い、全社にその結果を周知徹底するな
    どして、他の顕在化していない法的リスクの発生予防、早期対応を可能とする体制を整備
    することなども積極的に検討すべきである。


3    社内の関与者の教育


     PCI は、財源規制を始めとする管理業務に携わる役職員に対して、会社法、金融商品取
    引法を始めとした事業に関連する法令等に関する社内研修を定期的に開催し受講させる、


                        - 11 -
     外部セミナーへの積極的な参加を促すなど、役職員が業務遂行に必要となる基本的な知
     識・情報を獲得できるためのコンプライアンス教育体制の整備を積極的に推進し、会社の
     継続的な活動として定着させるべきである。


4      社内の人的体制の整備


       PCI では 2019 年上旬にかけて経理部門及び財務部門の人員増強が行われてきたが、結
     果として、社内の人員不足が本件発生の原因の一環となったことは否定できない。
       ホールディングスとして本社機能を担う PCI においては、今後も管理部門が繁忙状態
     となる可能性があることを念頭に置き、経理・財務・法務の実務経験及び知識を有する人
     員の採用、育成、配置等の人的体制を不断に見直し、必要に応じて異動・増員等を実施す
     ることにより、業務を属人的なものとせず、組織として継承できる体制を構築すべきであ
     る。


第5        関与者の責任

1      取締役の刑事責任


       会社法上、法令に違反して剰余金の配当をした取締役は、5 年以下の懲役若しくは 500
     万円以下の罰金、又はこれらが併科される9(違法配当罪)
                               。また、会社法上、財源規制に
     反して自己株式取得をした取締役についても同様である10(自己株式取得罪)。
       当委員会が調査した限りでは、PCI の取締役において、分配可能額が存在しないことを
     知りながらあえて本件配当等を行ったという事実を認めることはできない。
       したがって、PCI の取締役は、故意犯である違法配当罪及び自己株式取得罪の刑事責任
     を負うものではないと思料する。


2      会社法上の責任


       会社法上、財源規制に違反して自己株式取得が行われた場合には、当該株式の買い取り
     による金銭等の交付に関する職務を行った取締役、自己株式取得の決定を行った取締役
     会で当該自己株式取得に賛成した取締役、取締役会において自己株式取得議案を提案し
     た取締役は、
          「その職務を行うについて注意を怠らなかったこと」すなわち、自己に「過
     失」がないことを証明しない限り、株式会社に対し、連帯して、自己株式取得額に相当す
     る金銭を支払って填補する義務を負うものとされており、この責任は、全株主の同意がな


9
     会社法 963 条 5 項 2 号、同条 1 項
10
     会社法 963 条 5 項 1 号、同条 1 項

                                - 12 -
     い限り、免除することはできない11。
      また、会社法上、財源規制に違反して配当が行われた場合には、剰余金の配当による金
     銭等の交付に関する職務を行った取締役、剰余金の配当の決定を行った取締役会におい
     て剰余金の配当に賛成した取締役、取締役会において配当議案を提案した取締役は、「そ
     の職務を行うについて注意を怠らなかったこと」すなわち、自己に「過失」がないことを
     証明しない限り、株式会社に対し、連帯して、配当額に相当する金銭を支払って填補する
     義務を負うものとされており、この責任は、全株主の同意がない限り、免除することはで
     きない12。
      そして、一般に「過失」とは、その者の「職業、その属する社会的・経済的な地位など
     にある者として一般に要求される程度の注意を欠いたために、債務不履行を生ずべきこ
     とを認識しないこと」13をいうものとされており、ここでは取締役がその職業・地位・知
     識等を前提として一般に要求される注意を尽くしたかどうかが問題となるものと考えら
     れる。
      取締役は、その職務上の地位からすれば、会社法その他関係法令を遵守して自己株式の
     取得及び剰余金の配当をすべき義務を負っているものと考えることができ14、少なくとも
     法令に定める計算方法に従って分配可能額の有無を確認するか、またはその確認のため
     に適切かつ必要な指示を出す程度の注意義務は求められていると思料する。したがって、
     取締役が、実際に、客観的な資料を基に法令に定める計算方法に従って分配可能額を算出
     することを自らしないだけではなく、このような対応を採るように適切な指示をするこ
     ともなく、かつ適切な対応がなされているかどうかの確認をも怠ったのであれば、上場企
     業の取締役として「一般に要求される程度の注意」を払ったと評価することは困難である
     と言わざるを得ない。
      なお、本件においては、前述第 2-1-(2)記載のとおり、PCI は、2018 年 12 月に子会社
     から 4 億 1,514 万 2,800 円の配当収入を受領しており、その結果、同年 12 月 31 日時点
     の損益計算書の期間純利益として 4 億 324 万 5,587 円が計上され、同時点の貸借対照表
     の利益剰余金として 5 億 9,999 万 4,400 円が計上されており、前述第 2-1-(4)記載のとお
     り、これらの金額を含む同年 12 月 31 日時点の損益計算書及び貸借対照表については、
     会社法 441 条 2 項の規定に準じて監査を行った監査法人から適正意見を取得している。
     かかる監査済みの 2018 年 12 月 31 日時点の損益計算書及び貸借対照表の内容によれば、
     同日を臨時決算日として臨時決算を行った場合の分配可能額については、本件自己株式
     取得の時点では約 5 億 7,964 万円、本件中間配当の時点では約 3 億 2,985 万円と算定さ


11
   会社法 462 条 1 項 1 号ロ、461 条 1 項 2 号、462 条 2 項、462 条 3 項、会社法施行規則 116 条 15 号、会
  社計算規則 159 条 2 号
12
   会社法 462 条 1 項 6 号ロ、461 条 1 項 8 号、462 条 2 項、462 条 3 項、会社法施行規則 116 条 15 号、会
  社計算規則 159 条 8 号
13
   我妻榮『新訂債権総論(民法講義 IV)         』有斐閣(1964 年)106 頁
14
   会社法 355 条参照

                                   - 13 -
れる。このように、本件配当等については、配当及び自己株式取得の分配可能額が実質的
に全く存在しない状況で行われたものではなく、仮に、2018 年 12 月 31 日を臨時決算日
として臨時決算を本件配当等の実施以前に行っていれば、分配可能額の範囲内で会社法
の規定に反することなく実施することが可能であったという特殊性がある。もっとも、臨
時決算は行われず、かかる配当収入を分配可能額に反映する手続に関して何らの確認・指
示等を実施せずに、結果として本件配当等が分配可能額の範囲内で実施されなかったと
いう事実は否定することができず、実質的に見て、会社財産が毀損されていなかったと見
ることも全く不可能ではないという点を考慮しても、本件の特殊性は、取締役の過失の存
在を否定することはできない。
 以上からすれば、本件において、PCI の取締役が「その職務を行うについて注意を怠ら
なかった」との事実を認めることはできないし、また、全株主の同意もない以上、これら
の者に上記の法的責任が存在することは否定できないものと言わざるを得ない。
 もっとも、本件調査によれば、PCI の取締役は、分配可能額が存在しないことを認識し
ながら本件配当等を行ったものではない。加えて、上述のとおり、本件配当等については、
配当及び自己株式取得の分配可能額が実質的に全く存在しない状況で行われたものでは
なく、仮に、2018 年 12 月 31 日を臨時決算日として臨時決算を本件配当等の実施以前に
行う、又は、資本準備金を減少させてその他資本剰余金を増加させる処理を行えば、分配
可能額の範囲内で会社法の規定に反することなく実施することが可能であったことなど
を考慮すれば、会社債権者に対するインパクトも大きなものではないとも評価し得る。
 また、PCI は、本件配当等に関与した全取締役から過去の取締役報酬の月額 30%に相当
する金額について 2 か月分を減額する申し出を受け、取締役会としてもこれに基づき減
額処分を実施する予定であるとのことであり、あくまでこの限度ではあるものの、会社財
産の一部の回復も見込まれている。
 さらに、PCI は、再発防止策に積極的に取り組む姿勢を見せており、業務プロセスの整
備等については、既にこれに着手している。
 かかる事情を総合的に考慮すれば、当委員会としては、PCI が、PCI の取締役に対して
填補責任等を追及すべき必要性までは認められないとの判断を下したとしても、当該判
断が不合理とまではいえないものと思料する。


                                           以   上




                     - 14 -
                           別紙-開示資料リスト


No.                               資料名
1       全体
    1   取締役会規則
    2   監査等委員会規則
    3   内部監査規程
    4   子会社からの経営指導料・配当受領に係る関連資料(子会社の配当性向に係る資料・
        入金記録等)
    5   月次 BS/PL 資料(2017 年 10 月~2019 年 6 月の月次推移表)
    6   2018 年 12 月開催の株主総会準備に係る想定問答として、本件自己株式取得・中間配
        当に関して作成した資料
    7   監査法人より受領した「臨時決算を実施したと仮定した場合の算定資料」
    8   2019 年 9 月期第 3 四半期レビューにおいて監査法人とやりとりした本件関連資料一式
        (本件の指摘を受けた際のメール・議事録等を含む)
    9   臨時計算書類の監査法人による監査の最終報告に係る報告書及び関連資料一式
 10     常務会規程
 11     監査等委員会監査等基準及び内部統制システムに係る監査等委員会監査の実施基準
 12     直近 3 期の監査等委員会監査方針(又は監査役会監査方針)及び監査計画
 13     第三者委員会の設置に係る 2019 年 7 月 17 日付け常務会議事録・同月 24 日付け取締
        役会議事録
2       過去の自己株式取得(第 1 回)関連
    1   常務会向け議案書(添付資料含む)
    2   決議に係る取締役会提案資料(添付資料含む)・議事録
    3   監査法人に自己株式の取得に関する情報を共有した際の資料一式(監査法人担当者と
        やり取りをした際のメール等を含む)
    4   自己株式の取得に関して主幹事証券とやりとりした関連資料一式(主幹事証券の担当
        者に相談をした際のメール・議事録等を含む)
3       前期末配当関連
    1   常務会向け議案書(添付資料含む)
    2   分配可能額の計算シートのフォーマット
    3   決算取締役会提案資料(添付資料含む)・議事録
    4   監査法人に期末配当の実施に関する情報を共有した際の資料一式(監査法人担当者と
        やり取りをした際のメール等を含む)
4       本件自己株式取得(第 2 回)関連


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No.                          資料名
    1   常務会向け議案書(添付資料含む)
    2   書面決議に係る取締役会提案資料(添付資料含む)・議事録
    3   監査法人に自己株式の取得に関する情報を共有した際の資料一式(監査法人担当者と
        やり取りをした際のメールを含む)
    4   2019 年 9 月期第 1 四半期レビューに関して監査法人から受領した関連資料一式(監査
        法人からのレビュー手続全体の指摘事項に関連する資料を含む)
    5   主幹事証券から受領した関連資料(主幹事証券の担当者に相談をした際のメール・議
        事録等を含む)
    6   本件自己株式取得(第 2 回)時点における分配可能額及びこれを超過した額を検証す
        るために作成された計算シート(「分配可能額算定の検討」シートを用いて再計算し
        たもの)
5       本件中間配当関連
    1   常務会向け議案書(添付資料含む)
    2   書面決議に係る取締役会提案資料(添付資料含む)・議事録
    3   監査法人に中間配当の実施に関する情報を共有した際の資料一式(監査法人担当者と
        やり取りをした際のメールを含む)
    4   2019 年 9 月期第 2 四半期レビューに関して監査法人から受領した関連資料一式(監査
        法人担当者とやり取りをした際のメールや監査法人からのレビュー手続全体の指摘事
        項に関連する資料を含む)
    5   本件中間配当時点における分配可能額及びこれを超過した額を検証するために作成さ
        れた計算シート(「分配可能額算定の検討」シートを用いて再計算したもの)




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