3906 M-ALBERT 2020-05-13 16:30:00
外部調査委員会の調査報告書の受領及び調査結果等に関するお知らせ [pdf]
2020年5月13日
各 位
会 社 名 株式会社ALBERT
代表者名 代表取締役社長兼CEO 松本 壮志
(コード番号:3906 東証マザーズ)
問合せ先 経営戦略部 大江 翔
(TEL 03-5937-1610)
外部調査委員会の調査報告書の受領及び調査結果等に関するお知らせ
当社は、2020年2月14日付「2019年12月期決算発表の延期と社内調査の実施に関するお知らせ」及び
2020年2月27日付「外部調査委員会設置に関するお知らせ」にてお知らせいたしましたとおり、監査手続
の過程において、2019年12月期第4四半期に実施したデータサイエンティスト育成事業に係る取引に関す
る売上高計上の妥当性、及び同四半期の受託業務に係る取引に関する売上高計上の妥当性(以下、両事案
合わせて「本事案」といい、売上高の合計金額は、約57百万円であります。 )について実態把握をする必
要があると会計監査人から指摘されたことから、社外監査役2名、外部弁護士兼公認会計士及び補助者と
しての外部弁護士により、社内調査を開始いたしました。その後、会計監査人からの要請を受け、調査の
独立性、客観性、信頼性、透明性を高めるために、社内調査体制を終了させ、2020年2月27日付で3名の
外部委員のみから構成される外部調査委員会を設置して調査を開始しました。
その後、2020年4月21日付「外部調査委員会の調査範囲追加に関するお知らせ」にてお知らせいたしま
したとおり、外部調査委員会の調査とは別に、会計監査人により行われていた監査手続において、会計監
査人から工事完成基準に係る売上計上の妥当性について慎重に検討を要する事案(以下、 「追加事案」と
いい、売上高の合計金額は、約20百万円であります。 )が確認された旨の指摘、及び当該事案に係る追加
調査を外部調査委員会で行ってほしい旨の要請に基づき、外部調査委員会による追加調査を行っておりま
した。
当社は、2020年5月13日付で外部調査委員会より、調査の結果判明した事実関係、原因分析及び再発防
止策の提言に関する調査報告書(以下、 「本報告書」といいます。 )を受領いたしましたので、その概要と
今後の方針について、下記のとおりお知らせいたします。
株主・投資家の皆様をはじめ、関係者の皆様には多大なるご迷惑とご心配をおかけいたしましたことを
深くお詫び申し上げます。
1.外部調査委員会の調査結果
本報告書によれば、本事案及び追加事案については2019年12月期の売上高として計上することは妥当で
はないとされております。また、追加事案の類似事象として2018年12月期の3件が判明しておりますが、
それ以外の本事案及び追加事案に類似した事象は確認されませんでした。それらの結果を踏まえた原因分
析及び再発防止策の提言を頂いております。詳細については、添付の外部調査委員会の調査報告書(公表
版)をご参照下さい。
2.今後の対応について
当社は、本報告書の受領と並行して、本報告書における再発防止策の提言を踏まえた必要な改善措置に
取り組むべく社内協議を進めており、その具体的な内容につきましては、決定次第速やかにお知らせいた
します。
3.その他
本報告書を受けた2019年12月期の決算への影響額は、本事案及び追加事案の売上高合計約77百万円のみ
であります。過年度においては、2018年12月期に追加事案の類似案件3件が確認されましたが、財務諸表
に与える影響が軽微であることから遡及修正は行わない見込みです。
- 1 -
現在当社では、当該影響額を織り込んだ2019年12月期の決算数値の確定ならびに、会計監査人の監査を
進めており、決算発表を5月下旬に予定しております。
今後、早急に再発防止策を策定及び実行し、1日も早い信頼回復に努めてまいりますので、何卒ご理解
とご支援を賜りますようお願い申し上げます。
以上
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2020 年 5 月 13 日
株式会社 ALBERT 御中
調 査 報 告 書
( 公 表 版 )
株式会社 ALBERT 外部調査委員会
委員長 伊丹 俊彦
委 員 垰 尚義
委 員 丸山 琢永
第1 調査の概要
1 調査に至る経緯
株式会社 ALBERT(以下「ALBERT」という。)は、2017 年 11 月以降、株式会社 A 社(以
下「A 社」という。)の従業員に対し、ビッグデータ分析に必要な知識及びノウハウに
関する研修等を有償で提供し、当該研修等を修了した一部の者について、A 社との派遣
契約を締結し、派遣社員として受け入れてきた。2019 年 11 月、ALBERT は、A 社との間
で、同月及び同年 12 月に、A 社から受け入れた派遣社員(以下「A 社派遣社員」とい
う。)に対し、スキルアップを目的とした再研修(以下「本件再研修」という。)を行う
旨合意し、本件再研修に関して、同年 11 月及び 12 月に合計 5,000 万円(税抜。以下、
売上に関する記述においては同じ。
)の売上を計上した(以下、本件再研修に係る売上
計上を「A 社事案」という。。もっとも、A 社事案について、期末近くの短期間に研修
)
費用として多額の売上が計上されたことから、会計監査人である有限責任あずさ監査
法人(以下「あずさ監査法人」という。)は、ALBERT に対し、本件再研修の実在性を確
認することを求めた。
また、ALBERT は、2019 年 12 月 25 日、株式会社 B 社(以下「B 社」という。
)との間
でデータ分析に関する業務の受注に係る業務委託契約(以下「本件業務委託契約」とい
う。)を締結した。本件業務委託契約の契約期間は同日から 2020 年 5 月 31 日までであ
り、受注金額は 1,700 万円であった。2020 年 1 月、ALBERT は、本件業務委託契約につ
いて、工事進行基準1を適用した上、原価比例法に基づく工事進捗度を約 41.4%と算定
し、2019 年 12 月第 4 四半期に合計 703 万 9,817 円の売上を計上した(以下、本件業務
委託契約に係る 2019 年第 4 四半期の売上計上を「B 社事案」といい、A 社事案と併せて
「本事案」という。。これに対し、あずさ監査法人は、上記工事進捗度の算定根拠とな
)
る同四半期末までの発生原価に、当時の執行役員 5 名全員が「タグ付け作業」という単
純作業を実施した分の工数実績が含まれていたこと等を理由に、ALBERT に対し、工数
の実在性や原価の期間帰属等を確認することを求めた。
これらの要請を受け、ALBERT は、独立性、客観性、信頼性、透明性を確保した調査を
実施するため、2020 年 2 月 27 日、ALBERT と利害関係を有しない長島・大野・常松法律
事務所の弁護士及び PwC ビジネスアシュアランス合同会社の公認会計士を委員とする
外部調査委員会(以下「本委員会」といい、本委員会による調査を「本調査」という。
)
を設置し、本委員会は、同日、本調査を開始した。
さらに、あずさ監査法人は、ALBERT に対し、本事案に加えて、C 社及び D 社を顧客と
1
工事契約に関して、工事収益総額、工事原価総額及び決算日における工事進捗度を合理的に見積り、こ
れに応じて当期の工事収益及び工事原価を認識する方法(企業会計基準第 15 号「工事契約に関する会計基
準」第 6 項(3)参照)
1
する 6 つのプロジェクト(以下「追加事案」という。)について、2019 年 12 月の売上
計上の妥当性を確認してほしい旨の要請を行った。これを踏まえ、本委員会は、ALBERT
と協議の上、追加事案に係る事実関係等の調査も実施した。
2 調査の目的
本委員会は、以下の目的のもと、本事案に関する調査を実施した2。
① 本事案に関する事実関係(類似事象の存否を含む)の確認
② 本事案が生じた要因の究明と必要な場合はその再発防止策の提言
③ その他本委員会が必要と認めた事項の調査
3 調査体制
本委員会の構成は、以下のとおりである。
委員長 伊丹 俊彦(長島・大野・常松法律事務所 弁護士)
委 員 垰 尚義(長島・大野・常松法律事務所 弁護士)
委 員 丸山 琢永(PwC ビジネスアシュアランス合同会社 公認会計士)
各委員は、いずれもこれまで ALBERT と利害関係を有していない。
また、本委員会は、長島・大野・常松法律事務所の弁護士ら及び PwC ビジネスアシュ
アランス合同会社の公認会計士らを調査補助者として任命し、本調査の補助をさせた。
4 調査期間
本調査の期間は、2020 年 2 月 27 日から同年 5 月 12 日である。
5 調査方法
本委員会は、本調査に当たり、ALBERT の組織図、社内規程、各会議体の議事録、事業
内容に関する資料、会計処理に関する資料、本事案及び追加事案に関する資料(提案資
料、見積書、契約書、発注書等)、その他本委員会が本調査の目的のため必要と判断し
2
2020 年 2 月 27 日付け「外部調査委員会設置に関するお知らせ」
、2020 年 4 月 21 日付け「外部調査委員
会の調査範囲追加に関するお知らせ」と題する各プレスリリース参照。なお、本委員会は、調査目的の③
に該当するものとして、追加事案に係る調査を実施した。
2
た資料等を幅広く収集し、その内容を精査した。また、電子データの保全、精査に加え、
関係者に対するアンケート及びヒアリングを実施した。加えて、会計処理に関する不適
切な行為及び ALBERT における重大なコンプライアンス違反・ガバナンス上の問題に関
)を広く申告対象事項として、ALBERT の全役職員3を対象
する事項(そのおそれを含む。
に、本委員会を申告窓口としたホットライン窓口を設置した4。
6 本調査の性質及び留保事項
本調査は、ALBERT をはじめとする関係者の協力を前提とする任意の調査である。本
委員会は、ALBERT から本調査について真摯な協力を得られたものと認識しているもの
の、本調査の結果及び本調査報告書の記載内容は、本調査の範囲内で判明したものに限
定され、調査の過程で開示若しくはアクセスのなかった資料又は事実が存在する場合
には、修正・追加して記載すべき事項が存在する可能性がある点に留意されたい。
3
受入出向社員、派遣社員及び ALBERT 内で勤務する請負社員等を含む。
4
もっとも、本委員会は、ホットライン窓口への申告を1件も受領しなかった。
3
第2 確認された事実及び会計処理の妥当性
ALBERT は、ビッグデータの分析等を行うとともに、自社の有するデータ分析に必要
な知識及びノウハウを活かしてデータサイエンティスト5の育成等を行っているところ、
以下のとおり、本事案に関し、2019 年 11 月及び 12 月の売上を計上することが妥当で
はない事実、及び追加事案についても、同年 12 月の売上に計上することが妥当ではな
い事実等が確認された6。
1 A社事案
(1) 確認された事実等
ALBERT と A 社とは、2017 年 8 月、ALBERT の有するデータサイエンティスト育成の
ノウハウと、関連会社を含め、人材サービスを提供している A 社のサービスとを相互
補完し、データサイエンティストに係る需要を共同で開発推進すること等を合意し、
ALBERT は、同年 11 月から、A 社研修員に対して研修を提供し、育成したデータサイ
エンティストを派遣社員として受け入れる協業事業を行っていた。
しかし、ALBERT が受託する高度な分析業務をこなすに足るスキルを一部の A 社派
遣社員は想定された期間内に身に付けることができず、ALBERT においては、高度な
専門性を必要としない定型的な業務にしか A 社派遣社員をアサインできない状況が
生じていた。その結果、ALBERT の試算によれば、2019 年第 1 四半期から第 3 四半期
までにアサイン可能なプロジェクトが十分でなく、ALBERT における収益に貢献しな
い A 社派遣社員に係る人件費(派遣費用)
(以下「アイドルコスト」という。 が 7,000
)
万円超に達しており、2019 年通期ではアイドルコストが 1 億円に達することが見込
まれた。
そこで、ALBERT は、2019 年 11 月 7 日までに、アイドルコストの低減のため、A 社
との間で、A 社派遣社員に対して OJT(On the Job Training)の方法による再研修を
実施する旨合意した。
この点、ALBERT においては、本件再研修を実施するため、A 社派遣社員を ALBERT
におけるプロジェクトへアサインした形跡が認められ、また、A 社からは本件再研修
に係る検収書が提出されている。しかし、関連するプロジェクトのプロジェクトマネ
ージャーは本件再研修の存在自体を知らされておらず、また、A 社派遣社員に対する
5
データサイエンティストとは、一般に、データ分析でビジネスの意思決定をサポートする人材をいい、
ALBERT では「ビジネス力・データサイエンス力・エンジニアリング力を用いることでビジネスの課題解決
まで実現するプロフェッショナル」と定義されている。
6
なお、本調査においては、本報告書記載の各事案のほかに、不適切な会計処理が行われた事実は確認さ
れなかった。
4
本件再研修独自の評価をした形跡もないこと等を考慮すると、本件再研修に係る A 社
に対する役務の提供、すなわち A 社派遣社員に対する本件再研修としての OJT の実
態を認めることは困難である。
また、本件再研修に係る交渉過程において、ALBERT の担当者と A 社の担当者とは、
現場担当者レベルでは、再研修費の負担に見合う経済的効果を A 社が得るという趣
旨で、2020 年 1 月から 6 月に係る研修費を総額 2,000 万円減額するとともに、毎月
の派遣費用を 500 万円増額し、 ヶ月間で 3,000 万円増額する旨を事実上合意したこ
6
とが認められる。しかしながら、この合意については、他の関係者の認識や合意通り
の履行が行われていないこと等を考慮すると、ALBERT と A 社との間の正式な合意と
までは認められない。
(2) 本件再研修に関する売上計上の妥当性
ALBERT では、本件再研修に関し、2019 年 12 月及び 2020 年 1 月に A 社から支払わ
れた 5,000 万円を 2019 年 11 月及び 12 月の売上として計上している。現行の会計制
度において採用されている実現主義の原則においては、①財貨又は役務の提供が行
われ、②対価として現金又は現金等価物を受領したときに収益として認識すること
が必要である7。
本件再研修に関し、上記(1)の再研修に係る合意に基づき、2019 年 12 月、2020 年
1 月に A 社から ALBERT に対して計 5,000 万円の支払がなされていることから、②が
認められることは明らかである。しかし、①の役務の提供については、上記(1)のと
おり、再研修の実態、すなわち ALBERT が行うべき役務の提供があったと認めること
は困難である。したがって、上記収益認識に必要な要件①の「役務の提供」の点につ
き疑義が生じる以上、ALBERT は、上記 5,000 万円につき、売上として計上するのは
妥当ではないと考えられる。
(3) a 氏及びその他の執行役員の認識
代表取締役である a 氏は、上記(1)の各合意に関し、A 社代表取締役である b 氏に
対して連絡をするなど、交渉過程において上記(1)の各合意に関し、交渉内容等の事
実の一部を認識していたことが認められる。もっとも、a 氏は、CFO かつ執行役員で
ある d 氏に対し、本件再研修に係る合意に関して 5,000 万円の収益を上げることに
会計処理上問題がないかの確認を求め、実在性を伴っていれば問題ない旨の回答を
得ていた。また、本件再研修に関する具体的な交渉や対応はいずれも執行役員である
c 氏以下の役職員が担当していたため、本件再研修の実施状況の詳細を把握していた
7
「企業会計原則企業会計原則注解」第二 損益計算書原則 三 B 部分参照
5
とは認められない。その他本調査によって明らかになった事実等も考慮すれば、上記
(1)の各合意に関して、会計上妥当とはいえない売上計上となる可能性を a 氏が具体
的に認識していたとは認められない。
次に、d 氏については、2019 年 10 月頃、a 氏から本件再研修に係る合意に関して
5,000 万円の収益を計上することに会計処理上問題がないか問われ、実在性を伴って
いれば問題がない旨回答したものの、d 氏が、上記(1)の各合意に関与した、又は合
意内容の詳細等を確認していた事実は認められなかった。
また、c 氏は、上記(1)の各合意の当事者であり、それらの内容を認識していた。
しかし、c 氏は上記(1)の再研修に係る合意に基づき A 社派遣社員を各プロジェクト
へアサインすることを検討、指示した後は、c 氏が本件再研修の実施状況を具体的に
確認した事実は確認されていない。その他本調査によって明らかになった事実等に
照らし、c 氏が上記(1)の各合意に関し、会計上妥当とはいえない売上計上となる可
能性を具体的に認識していたとは認められない。
加えて、上記以外の執行役員については、執行役員会議で交渉経緯等について共有
された内容を超えて A 社との協業事業に係る交渉内容等を認識していた事実は確認
されておらず、これらの者が本件再研修の実施状況及びその会計処理について具体
的な認識を有していた事実は認められない。
2 B社事案
(1) 確認された事実等
ALBERT は、2019 年 12 月 25 日、B 社との間で、契約期間を同月 25 日から 2020 年
5 月 31 日までとし、また委託報酬を 1,700 万円(税抜)とする本件業務委託契約を
締結した。本件業務委託契約では、ALBERT がデータ分析業務の一環としてタグ付け
作業を実施することが合意されていた。
上記タグ付け作業は、店舗等の名称と当該店舗等における販売製品又は提供サー
ビスの分類を紐付けるという単純作業であるため、ALBERT においては、通常は執行
役員がこのような作業を自ら実施することはなかった。しかし、2019 年 12 月期は
ALBERT のデータサイエンティストの稼働が逼迫しており、多くのデータサイエンテ
ィストをタグ付け作業にアサインすることができない状況にあったこと等から、
2019 年 12 月中に、当時の執行役員 5 名全員が当該作業を実施することとなった。
ALBERT においては、受注プロジェクトが請負契約である場合、売上高が 1,000 万
円以上(消費税等を含まない。
)かつ期間が 3 ヶ月超であり、当事業年度末までの進
捗部分に成果の確実性が認められるプロジェクトについては、工事進行基準により
収益及び費用を計上することとされている。ALBERT は、本件業務委託契約について、
6
受注段階で工事進行基準を適用すると判定し、契約締結日である 2019 年 12 月 25 日
から同月 31 日までの間の売上原価(執行役員が実施したタグ付け作業に係る稼働時
間に基づいて算定された売上原価を含む。)に基づき、2019 年第 4 四半期末までの工
事進捗度を約 41.4%と算定し、同四半期に 703 万 9,817 円の売上を計上した。
しかし、本調査の結果、上記売上原価の算定の基礎となる稼働時間には、①執行役
員である d 氏及び c 氏について、実際には契約締結前である 2019 年 12 月 24 日以前
に実施されたタグ付け作業に係る稼働時間が含まれているほか、②d 氏について、同
氏とは単価の異なる従業員が実施したタグ付け作業に係る稼働時間が含まれている
ことが確認された。これらは、d 氏及び c 氏が、上記①又は②の稼働時間を勤怠管理
システムに自ら入力することによって生じたものである。
(2) 本件業務委託契約に関する売上計上の妥当性
工事進行基準の適用が認められるためには、当事業年度末までの進捗部分に「成果
の確実性」が認められること、すなわち、工事収益総額、工事原価総額、及び当事業
年度末までの工事進捗度を、信頼性をもって見積ることができる必要がある8。
本件業務委託契約においては、上記(1)のとおり、売上原価の算定の基礎となる一
部の執行役員の稼働時間に、①実際には契約締結前である 2019 年 12 月 24 日以前に
実施されたタグ付け作業に係る稼働時間が含まれているほか、②当該執行役員とは
単価の異なる従業員が実施したタグ付け作業に係る稼働時間が含まれていることか
ら、2019 年 12 月末までの一部の進捗部分については、工事進行基準適用の前提とな
る「成果の確実性」が認められないものといえる。
一方、上記以外の執行役員のタグ付け作業に係る稼働時間については、契約締結後
の 2019 年 12 月 25 日から同月 31 日までの間にタグ付け作業が一定時間実施された
事実は認定できるものの、当該執行役員らが上記期間内に実施したタグ付け作業に
係る正確な稼働時間をパソコン等の操作ログその他の客観資料から認定することは
困難であり、工事進行基準を適用する上での数量的な情報を把握することができな
かった。また、本件業務委託契約に関しては、通常はタグ付け作業を実施することが
予定されていない執行役員が、年度末に集中的に稼働して当該作業を実施している
上、CFO である d 氏自身が上記(1)のとおり勤怠管理システムにおける不適切な入力
行為を行っていたという特殊性を有することから、タグ付け作業に対して本来働く
べき内部統制におけるモニタリング機能が十分には期待できない状況にあったこと
が指摘できる。
以上のように、本件業務委託契約に関して実際に実施されたタグ付け作業に係る
状況を考慮すると、本件業務委託契約について、工事進行基準を適用し、執行役員に
8
企業会計基準第 15 号「工事契約に関する会計基準」第 9 項等
7
よるタグ付け作業について2019年第4四半期の売上として計上することは妥当では
ないと考える。
(3) a 氏の関与及び認識
a 氏は、本件業務委託契約に係るタグ付け作業を自ら実施することはなかったもの
の、当時の執行役員による当該作業に関する社内のやり取りを認識しており、2019 年
12 月末に当時の執行役員がタグ付け作業を実施していることを認識していた。しか
し、それ以上に、タグ付け作業に関する一部の執行役員による上記(1)の不適切な行
為に a 氏が関与し、又はこれらの行為を a 氏が認識していた事実は認められない。
3 追加事案等
追加事案については、C 社との間で締結した請負契約に係る 4 件のプロジェクト
(以下「C 社事案」という。、D 社との間で締結した請負契約に係る 2 件のプロジェ
)
クト(以下「D 社事案」という。 において、
) それぞれ業務が完了したものとして 2019
年 12 月の売上に計上されていたものの、実際には 2019 年 12 月末時点では各プロジ
ェクトに係る業務は完了していなかった。
(1) C 社事案
ALBERT は、2019 年 12 月、C 社から 4 件のプロジェクトを受注したが、それら 4 件
のプロジェクトはいずれも、2019 年 12 月中に業務を実施することが予定されてい
た。なお、ALBERT は、C 社に対し、2016 年からマーケティングデータ分析のプラッ
トフォームを提供するサービス(以下「プラットフォーム・サービス」という。
)を
提供しており、C 社との間で、プラットフォーム・サービスの提供に伴う運用・保守
契約(以下「C 社運用・保守契約」という。)を締結している9。ALBERT が C 社に対し
て提供するプラットフォーム・サービスについて、新たな機能の追加や改良のうち、
軽微な内容については C 社運用・保守契約に基づくサービスで行い、一定以上の工数
が必要となる作業については、個別のプロジェクトとして受注しており、 社事案は、
C
いずれも、プラットフォーム・サービスの改良等に係る個別プロジェクトであった。
C 社は、プラットフォーム・サービスに関し、毎年、C 社運用・保守契約に係る費用
と個別プロジェクトに係る費用とを合わせた年間予算を策定し、ALBERT に対し当該
9
C 社運用・保守契約は C 社のコンサルティングを行っていた E 社を通じて締結されており、C 社運用・
保守契約における契約当事者は、ALBERT と E 社とされていた。ただし、業務に関するやり取りについて
は、直接、ALBERT 担当者と C 社担当者間で行われていた。
8
年間予算の範囲内で個別プロジェクトを発注している。
C 社事案については、いずれも 2019 年 12 月中の業務完了を想定しており、ALBERT
においては、必要な人員を確保し、可能な作業を実施したものの、必要なデータが揃
わないなどの事情で作業が遅れたことにより、12 月中に業務が完了しなかった。し
かし、ALBERT の C 社事案の営業担当者は、 社事案を担当していたプロジェクトマネ
C
ージャーである e 氏の指示により、C 社担当者に請求書等10を送付し、C 社の押印等
を受けた検収書の交付を受けた。請求書を送付する際、C 社事案に係る途中の成果物
である各要件定義書等が C 社に送付されているが、 社事案として当初予定されてい
C
た業務は完了していなかった。
C 社事案はいずれも請負契約であり、売上計上基準としては工事完成基準11が適用
されるものであるが、ALBERT は、2019 年 12 月 27 日付けの検収書 4 通を C 社から受
領していたことから、当該検収書に基づき、C 社事案に係る売上として合計 900 万円
(税抜)を計上した。
この点、e 氏は、業務が完了していないものの、業務の途中の成果物である要件定
義書等を提出することで C 社事案に係る検収を行うこと、残った業務については C 社
運用・保守契約に含めて対応することで C 社担当者と合意しており、C 社から検収書
を受領した上で、 社事案に係る売上を計上することに問題はないものと理解してい
C
た旨供述している12。また、e 氏の上司や C 社事案を管轄する執行役員が、C 社事案
に係る売上計上が妥当ではないことを認識していた事実は確認されていない。
ただし、C 社事案については、いずれも 2019 年 12 月末時点では業務が完了してお
らず、2019 年 12 月末の時点で、同時点での成果物を契約の目的物に変更する旨の合
意が成立した事実が認められないことからすれば、2019 年 12 月に売上を計上するの
は妥当ではないと考えられる。
(2) D 社事案
ALBERT は、2019 年 12 月 D 社との間で、大量の写真や画像に対するタグ付け、ある
いは、タグ付け作業のレビューの業務を行うことを内容とする請負契約を締結した。
なお、D 社は、契約の相手方であるものの、実際にタグ付け作業の成果物の納品は F
社に対して行われており、D 社は、取引の仲介を実施したことに伴って契約に介在し
10
e 氏を含む複数の関係者は、12 月中に業務が完了していないことは認識していたが、C 社担当者から
2019 年 12 月中に請求書を C 社に送付するように依頼を受けた旨供述している。
11
工事契約に関して、工事が完成し、目的物の引渡しを行った時点で、工事収益及び工事原価を認識する
方法(企業会計基準第 15 号「工事契約に関する会計基準」第 6 項(4)参照)
12
本調査において e 氏が、C 社事案に係る検収書の受領前又は受領後に、C 社事案に係る事実関係又は検
収書の受領に係る経緯等につき、財務経理セクションの担当者に対して相談又は報告した事実並びに財務
経理セクションの担当者が C 社事案に係る作業の完了前に検収書が発行されたことを認識している事実は
確認されなかった。
9
た相手先ということになる。また、ALBERT は、2019 年 11 月以降、F 社から D 社を介
して、継続的にタグ付け等の作業に係る業務を受注しており、2020 年 1 月以降も、
同様の業務を受注している。
D 社事案について、ALBERT は実際の作業を中国所在の会社に委託しており、中国に
おいては年末ぎりぎりまで作業が行われることが見込まれたため、2019 年 12 月中に
業務が完了することを見越して、事前に、2019 年 12 月中に検収書を発行することが
合意されていたが、実際には、タグ付け等の作業の前提となるデータの提供が遅れた
ために 2019 年 12 月中に業務が完了しなかった。しかし、D 社は、合意したとおり、
ALBERT に対して 2019 年 12 月中に検収書を発行した13。D 社事案はいずれも請負契約
であり、売上計上基準としては工事完成基準が適用されるものであるが、ALBERT は、
2019 年 12 月 25 日付けの検収書 2 通を D 社から受領していたことから、当該検収書
に基づき、売上として合計 1,116 万円(税抜)を計上した。
D 社事案の担当者は、C 社事案と同様、e 氏であったが、e 氏は ALBERT 側において
作業に必要な体制を整えていたにもかかわらず、相手方のデータの提供が遅れたこ
とによって、当初予定されていた 2019 年 12 月中に業務が完了しなかったものであ
り、既に納品した成果物をもって、検収書を発行することに F 社及び D 社の了解が
得られたのであるから、2019 年 12 月に売上を計上することは問題がないものと理解
していた旨供述しており、その他、e 氏が不正な売上を計上する意図があったことを
認める事実は本調査において確認されていない14。また、e 氏の上司や D 社事案を管
轄する執行役員が、 社事案に係る売上計上が不適切であると認識していた事実も確
D
認されていない。
ただし、D 社事案については、いずれも当初予定していた全てのデータに係るタグ
付け作業は 2019 年 12 月中には完了しておらず、2019 年 12 月末の時点で契約の目的
物を変更する旨の合意が成立した等の事情も認められないことからすると、2019 年
12 月に売上を計上するのは妥当ではないと考えられる。
(3) その他
上記のとおり、2019 年 12 月において、工事完成基準に基づいて計上された売上の
13
e 氏を含む複数の関係者は、検収書の発行時点において、2019 年 12 月中に D 社事案に係る業務の完了
が難しいことを F 社担当者は認識していたものの、同担当者は、同月中に業務が完了しない原因が F 社側
の事情によるものであり、納品した一部の成果物から ALBERT による作業の品質に満足していたため、
2019 年 12 月中に検収書を発行することを了承し、その意向に沿って、D 社は検収書を発行した旨供述し
ている。
14
本調査において e 氏が、D 社事案に係る検収書の受領前又は受領後に、D 社事案に係る事実関係又は検
収書の受領に係る経緯等につき、財務経理セクションの担当者に対して相談又は報告した事実並びに財務
経理セクションの担当者が D 社事案に係る作業の完了前に検収書が発行されたことを認識している事実は
確認されなかった。
10
中に、実際には業務が完了していないものがあることが判明したことから、本調査委
員会は、2018 年 9 月から 12 月、2019 年 9 月から 12 月の間に売上計上が行われたも
ので、工事完成基準が適用されたプロジェクト全てについて、業務の完了時期と売上
計上時期にずれがないか否かについて、関連証憑に基づき検証した。その結果、2018
年 12 月に C 社との取引で計上された 3 件の売上について、売上計上が妥当ではない
と考えられる取引15が判明したが、それ以外には、追加事案に係る売上の計上を除き、
業務完了前に売上が計上されたプロジェクトは認められなかった。
また、C 社事案については、運用・保守契約と個別プロジェクトの 2 類型の事案が
併存しており、かつ、2 類型についての年間予算が事前に決まっていたこと、また、
個別プロジェクトで行うべき業務と運用・保守契約の中で行うべき業務が必ずしも
明確に区別されていなかったという事情があったことが、業務完了前の売上計上の
要因となったものと考えられることから、 社との個別プロジェクトに係る売上につ
C
いては、2017 年 9 月から 12 月の間に売上が計上されたものについても、関連証憑に
基づき検証を行った。しかしながら、同期間においては修正が必要となるような売上
計上は認められなかった。
なお、C社と同様に、プラットフォームの運用・保守契約と個別プロジェクトの2類
型のプロジェクトが併存する顧客は他にも4社存在するが、それらの4社については、
C社と異なり、2類型についての年間予算額が事前に決定されているという事情は認
められず、前述のとおり、2018年9月~12月、2019年9月~12月の間に売上計上が行わ
れた取引について証憑等の確認を行った結果、業務が完了する前に売上計上がなさ
れた事案は見つからなかった。
第3 原因分析
本調査の結果、ALBERTにおいて、本事案及び追加事案に関し、妥当性を欠く売上計上
が行われたことが認められる。その直接的原因は、非定型的な取引について、売上計上
のフローが明確ではないこと及び通常の取引フローと異なり最終成果物の納品に先立
ち検収書が発行されたことに関し、内部統制が十分に機能しなかったことにあると考
えられる。
すなわち、A社事案における本件再研修は、売上高が5,000万円と大きく、かつ、再研
修という役務の提供は過去に1度しか行われたことがなかったという意味で、非定型的
15
C 社に対して 2018 年 12 月に売上計上がなされた 3 件のプロジェクトは、C 社事案と同様、プラットフ
ォーム・サービスの改良等に関する個別プロジェクトであったが、2018 年 12 月末の時点で当初予定され
ていた業務が完全には完了していなかったにもかかわらず、2018 年 12 月末時点の作業結果を成果物とし
て、C 社が検収書を発行していたことが判明している。当該 3 件のプロジェクトに関し、2018 年 12 月に
合計 399 万 5,000 円(税抜)の売上計上が行われているが、これら 3 件の売上についても、C 社事案同
様、2018 年 12 月の売上に計上することは妥当ではないと考えられる。
11
な取引であった。また、B社事案についても、年末(かつ決算期末)に全執行役員がタ
グ付け作業を行うという点で、これまでにない非定型的な取引であった。本事案は、こ
のような非定型的な取引を行う上で、売上計上のフローが明確でなかったにもかかわ
らず、(ⅰ)ALBERTの一部の執行役員を含む役職員において、売上計上に関する慎重な検
討や対応が必要であるとの認識が不十分であったこと、(ⅱ)このような非定型的な取
引に対応するためのCFO及び財務経理セクションによるモニタリング体制が十分に整
備されていなかったこと及び(ⅲ)非定型的な取引に関して適切な会計処理を行うため
のコミュニケーションが不十分であったことにあると整理することができる。
また、追加事案は、本事案のような非定型的な取引ではないものの、いずれも最終成
果物の納品に先立ち検収書が発行されているところ、このような取引においても、会計
処理に際して上記同様の問題点があったことを指摘することができる。
これらを敷衍すると、まず、上記(ⅰ)売上計上に関する意識について、A社事案に関
しては、本件再研修の内容に精通していた執行役員がいたにもかかわらず、当該執行役
員であるc氏は、CFOに対して適切な会計処理を担保するために必要な証憑等を十分に
確認していなかった。さらに、c氏は、本件再研修の目的について、A社との間で行って
いたA社との協業事業で発生していたアイドルコストを軽減することにあり、これによ
りALBERTにもたらされる損益改善の金額が重要で、その損益改善の方法については必
ずしも重視していなかった旨供述している。これらの対応及び供述を踏まえると、c氏
は、本件再研修の非定型性に伴う会計上のリスクや、そのようなリスクを踏まえて売上
計上の妥当性を確保するという意識が十分でなかったと言わざるを得ない。
また、ALBERTのCFOであるd氏は、遅くとも2019年10月26日の時点で再研修が行われる
ことは認識しており、同月28日にはa氏からA社事案について会計上の問題点がないか
の確認を求められていたにもかかわらず、a氏に対して(再研修の)実態が伴っていれ
ば問題ないと回答するにとどまり、あずさ監査法人に対して必要な確認を取らず、また、
再研修の実在性を担保するために必要な証憑等の確認も十分に行わなかった。このよ
うな対応は、d氏は、ALBERTのCFOとして、本件再研修の非定型性に伴う会計上のリスク
や、そのようなリスクを踏まえて売上計上の妥当性を確保するという意識が不十分で
あったといえる。
B社事案についても、一部の執行役員は、契約締結前のタグ付け作業に係る稼働時間
を売上原価の計上及び売上原価に係る勤怠工数管理に用いる業務管理情報として入力
する行為や、他の役職員にタグ付け作業を実施させて当該作業に係る稼働時間を自分
の稼働時間として入力する行為を自ら行っており、少なくとも一部の執行役員におい
て、B社事案に係る非定型性に伴う会計上のリスクや、そのようなリスクを踏まえて工
事進行基準に係る売上計上の妥当性を確保するという意識が十分でなかったと考えら
れる。
さらに、追加事案においても、追加事案を担当していたe氏は、請負契約においては
12
売上計上のためには業務が完了することが必要であることは認識していたものの、顧
客から検収書を受領すれば、当初の予定通りの業務が完了していない場合であっても、
かかる検収書に係る売上を計上することに問題はないと認識していた旨供述し、財務
経理セクションの担当者に追加事案に関して業務が完了していないこと等の報告をす
ることなく、また追加事案に係る売上計上の妥当性について確認することもなかった。
このようなe氏の認識及び対応は、工事完成基準が適用される請負契約において、完了
していない役務提供に係る売上を計上することに伴う会計処理上の知識が不足してお
り、また適切な会計処理を行うことに対する意識も十分でなかったと言わざるを得な
い。
次に、上記(ⅱ)モニタリング体制について、ALBERTの会計フロー上、財務経理セクシ
ョンでは、売上の計上に際して契約書及び確証となる書面を確認することとされてい
たところ、A社事案においては本件再研修の非定型性を踏まえた実態把握が必要であっ
たにもかかわらず、実際に役務の提供等が行われたことを担保するための手続は行わ
れていなかった。
また、B社事案に関しては、財務経理セクションが工事進行基準の適用判定を行うに
当たり、全ての執行役員が年末(かつ決算期末)にタグ付け作業に従事するという特殊
性を踏まえ、工事進行基準の適用の前提となる「成果の確実性」が認められるか否かを
そのリスクに応じて慎重に検討すべきであったものの、そのような検討は行われてい
なかった。
本事案のように非定型的な取引で売上計上に係るフローが明確でない場合には、不
適切な会計処理がなされるリスクを考慮し、CFOにおいて最終的な会計処理の責任を負
うのが一般的である。しかし、ALBERTにおいては、CFOの権限や責任が明示的に定めら
れておらず、本事案において問題となっているような非定型的な取引について、CFOで
あるd氏による適切なモニタリングが行われていなかった。
さらに、追加事案に関し、e氏は、いずれも複数のプロジェクトを受注する継続的な
関係にある顧客との間で、検収書受領後に発生した作業を後続のプロジェクト16に従事
したものとして処理していた旨供述しており、かかる供述によれば、追加事案に計上さ
れた売上原価の額と売上額が見合わないものとなっている。この点、ALBERTにおいて経
理を所管する財務経理セクションにおいて、上記のような関係性が窺われるプロジェ
クトについて、そのリスクに応じて、プロジェクト毎の粗利益率をモニタリングしてい
れば、追加事案の粗利益率が高いことに気付き、より慎重な売上計上につながった可能
性があるところ、そのようなモニタリングは実施されていなかった。
さらに、上記(ⅲ)非定型的な取引に関して適切な会計処理を行うためのコミュニケ
16
e 氏は、C 社事案については、検収書受領後に発生した作業を、C 社運用・保守契約における業務に従
事したものとして処理しており、D 社事案においては、検収書受領後に発生した作業を、翌月分の作業と
して受注した後続のプロジェクトに係る業務に従事したものとして処理していた旨供述している。
13
ーションについて、A社事案においては、a氏がd氏に対して会計上の問題がないかの確
認を求めた後、a氏とd氏の間で、会計処理の問題点について検討結果が確認された形跡
がない点や、再研修の実施に関してc氏から再研修を現場で担当する者に対する情報伝
達が不十分であった点で、会計処理を適切に行うために必要な社内のコミュニケーシ
ョンが十分でなかったと考えられる。B社事案においても、年末(かつ決算期末)のタ
イミングで全執行役員が作業し、工事進行基準を適用して売上を計上することが会計
上問題になり得ることについて、d氏から他の執行役員へ注意喚起等がなされることが
なかった点で、社内のコミュニケーションが不十分であったと考えられる。
また、本事案について、財務経理セクションとしては、売上計上に係るフローが明確
ではない非定型的な取引に関するリスクを考慮し、適切な会計処理となることを担保
するために、あずさ監査法人に対して、会計処理に関する事前相談を行うべきであった
が、実際にはそれが十分に行われていなかった点は、コミュニケーション不足の問題と
しても指摘できる。
追加事案においても、一定の成果物を納品し、顧客の合意を得て検収書を取得してい
るとはいえ、当初予定していた業務は完了していなかったのであるから、各プロジェク
トに係る売上を計上することについて、財務経理セクションに対してその情報を共有
し、その判断を仰ぐべきであったが、そのような情報共有は行われておらず、社内コミ
ュニケーションが不十分であったことが指摘できる。
14
第4 再発防止策
1 CFOの役割の明確化及び充実化
前述のとおり、本事案の直接的原因は、非定型的な取引や最終成果物の納品に先立っ
て検収書が発行された取引について売上計上に係る内部統制が十分に機能しなかった
点にあると考えられる。
すなわち、本事案のような非定型的な取引や、追加事案のように最終成果物の納品に
先立って検収書が発行された取引については、非定型的な取引であることを認識する
プロセスや、取引のリスクを踏まえた会計処理のフローやモニタリング手続が十分に
定まっておらず、CFO の権限や責任が明文化されていなかったことも相俟って、財務経
理セクションによる内部統制が十分に機能していなかった。
そこで、今後、ALBERT においては、CFO の職責等を明文化し、当該職責の内容やその
重要性を役職員に周知することが肝要である。また、CFO の財務報告に係る内部統制に
関する権限(例えば、会社の重要会議への参加権限、財務・経理上の判断に必要な情報
へのアクセス権限、会社の締結する契約に係る稟議書の承認権限等)についても明確化
し、そのモニタリング機能の実効性を確保することも必要であろう。
2 適切な会計処理に関するルール・手続の整備及びコミュニケーション環境の改善
適切な会計処理を行うためには、社内に会計に関する適切な規程その他のルール・手
続が整備されていることが必要であることは言うまでもないが、単に社内規程その他
のルール・手続が整備されているのみでは足りず、これを正しく運用できるよう必要な
コミュニケーションを取ることができる環境が存在することで、はじめて ALBERT にお
いて適切な会計処理を行う体制が整備されていると評価することが可能である。
そこで、ALBERT において不適切な会計処理の再発を防止するためには、下記の適切
な会計処理の手続の整備・強化とコミュニケーション環境の充実化を図ることが必要
であると考えられる。
(1) 非定型的な取引等において適切な会計処理をするためのルール・手続の整備・強
化
ALBERT では、経理処理に関し、経理規程及び経理規程細則が定められているほか
に、一部の経理手続については、財務経理セクションにおいて管理するフロー図(エ
クセルファイル)に基づく運用が行われていた。しかしながら、前述のとおり、非定
型的な取引について、財務経理セクションにおいて売上計上や工事進行基準の適用
15
に関する会計上のリスクの検証や証憑の確認をするルールや手続が適切かつ十分に
整備されていなかった。
A 社事案においては、財務経理セクションの担当者は、本件再研修に係る業務報告
書等、役務提供が行われたことを証する関係書類を確証として確認することが必要
であったと考えられるにもかかわらず、このような書類を確認することなく、売上の
計上を行っている。
そもそも A 社との協業事業に関しては、前述のとおり、ALBERT と A 社とで座学及
び OJT による各研修の詳細に係る合意がなされたことは確認されず、また ALBERT に
おいて各研修の内容等の詳細を定めるマニュアル等が作成されていたことを確認す
ることはできなかった。特に OJT については、A 社派遣社員に対するプロジェクトへ
のアサイン及び当該プロジェクトにおける従事内容面において明確な差異はなく、
ALBERT では実施した OJT を事後的に客観的な資料に基づいて確認できるような体制
が整備されていなかった。本件再研修がそうであるとおり、従前プロジェクトにアサ
インされている A 社派遣社員に対して再研修として OJT が行われる場合には、 と
OJT
通常のプロジェクトへのアサインとを事後的に区別し、 の実施状況を確認できる
OJT
客観的資料を整備することが必要である。なお、通常は、OJT は育成研修事業の一内
容として行われ、 期間にアサインされたプロジェクトが OJT としてなされたこと
OJT
が明らかであるため、上記のような体制が十分に整備されていなかったことは問題
として顕在化してはいなかったものの、 がなされた事実を確認する手続や関連証
OJT
憑を整備することが望ましい。
また、B 社事案については、財務経理セクションが工事進行基準における「成果の
確実性」に関する確認・検証を行うべきことが明確に規定されていなかったために、
「成果の確実性」の判断に当たって適切に工事進捗度の算定を行うことができない
可能性があるという特殊性に関する会計上のリスクを踏まえた対応を取ることがで
きなかった。
追加事案に関しても、上記第 3 のとおり、ALBERT においては、財務経理セクショ
ンにおいて、各プロジェクトに係る粗利益率の確認が行われておらず、リスクに応じ
た財務経理セクションにおけるモニタリングが不十分であった。
したがって、これらのルールや手続、粗利益率の検討等を通じた会計手続の適切性
のチェックについて、早急に改定・整備した上、改定後のルール・手続に則した運用
がなされるよう、その周知を徹底することが望ましい。
(2) 営業を担当する部署や事業の遂行に当たる部署等と財務経理セクションとの間の
十分なコミュニケーションの確保
ALBERT においては、プロジェクトの受注時や売上原価の計上及び売上原価に係る
16
勤怠工数管理に用いる業務管理情報の発行時等に、営業を担当する部署や事業の遂
行に当たる部署等と財務経理セクションとの間で、会計処理や売上の計上時期に関
する協議等が行われることがあったものの、特に本事案のような非定型的な取引に
関しては、そのような協議が十分ではなく、また、協議の内容についての記録が残さ
れていなかった。
前述のとおり、B 社事案については、財務経理セクションにおいて、工事進行基準
の適用判定を行うに当たり、「成果の確実性」に係る本件業務委託契約の特殊性を十
分に踏まえた検討・確認が必要であったと考えられ、また追加事案に関して売上を計
上することが妥当であるか財務経理セクションにおいて検討・確認をすべきであっ
たと考えられる。そのような検討・確認を行う前提として、営業を担当する部署や事
業の遂行に当たる部署等と財務経理セクションとの間で、適切なタイミングでコミ
ュニケーションを図り、プロジェクトのスケジュールや作業内容、作業者等の情報を
十分に共有することが重要となる。また、A 社事案についても、d 氏と c 氏の間で再
研修の実在性について十分なコミュニケーションが取られていなかった。
したがって、今後は、このようなコミュニケーションのタイミングや共有・協議す
べき内容を明確化するなどして、非定型的な取引が行われる場合の協議内容を充実
化し、その記録を一定期間保管することが望ましい。例えば、営業会議等にオブザー
バーとして財務経理セクションの職員が出席し、進行しているプロジェクトを把握
するなどの方法により、財務経理セクションへの情報伝達をスムーズにすることも
考えられる。
さらには、現場レベルのコミュニケーションにとどまらず、各執行役員と CFO との
間で、財務・経理上のリスクに関するコミュニケーションを行い、問題意識を共有す
るための機会を設けることが考えられる。そのような機会が設けられることで、例え
ば、非定型的な取引を行う場合に、より適切なタイミングで情報共有を図ることが可
能となり、また、各執行役員間に適切な会計処理についての意識が定着することが期
待できる。
(3) 会計監査人への事前相談の機会の確保
本事案においては、非定型的な取引が行われ、妥当性を欠く会計処理が行われるリ
スクが生じていたにもかかわらず、会計監査人に対する適切かつ十分な相談・照会が
行われていなかった。
そこで、適切な会計処理を担保するための手続や社内のコミュニケーションを整
備、充実化することに加え、財務経理セクションのみでは会計処理上の問題を適切に
検討・判断できないケースが発生する場合に備え、会計監査人に適切な会計処理方法
等を相談・照会する機会を適切に確保することが必要である。
17
例えば、本事案のような非定型的な取引や、売上が一定以上の金額となるプロジェ
クトについては原則として会計監査人への事前相談を行うなど、会計監査人への相
談・照会を行う機会を適切に確保し、会計監査人とのコミュニケーションを十分に取
れるようにすることが有効であると考えられる17。
3 教育・研修を通じた会計に係る知識・コンプライアンス意識の強化
上記 1 及び 2 の各再発防止策が効果的に実施されるためには、その前提として、今
一度、ALBERT の全役職員に対する教育・研修を実施し、全役職員において適切な会計
処理に必要な知識を学習するとともに、会計に係るコンプライアンス意識を強化する
ことが重要であると考えられる。
適切な財務報告を実施することは上場企業の最も基本的な責務の一つであり、適切
な財務報告を実現するためには、財務会計セクションのみならず、営業部門や事業を遂
行する部門を含めた全役職員がその役割等に応じて会計に関する適切な知識を持ち、
また会計に係るコンプライアンスの重要性を認識することが必要不可欠である。その
ためには、全役職員に対して、適切な会計処理に関する知識を充実させるとともに、会
計に係るコンプライアンスに関する継続的な教育・研修を実施していくことが必要で
ある。また、事業部門の役職員が、ビジネスを遂行する上で会計上のリスクを適切に認
識し、財務経理セクションとの間で適切なコミュニケーションをとることの重要性に
ついても、教育・研修の中で強調されるべきである18。
4 再発防止策の実行性を担保する体制
上記 1 及び 2 の各再発防止策が実施、徹底されるためには、今後とも、上記 3 の役職
員に対するコンプライアンス教育の実施により役職員のコンプライアンス意識の向上
に努めるのはもとより、各再発防止策が実施、徹底されていることを確認し、万一実施
されていない場合には ALBERT 自ら当該事実を早期に是正することができる体制を整備
するため、非定型取引等取引形態のリスクに応じたモニタリングが実効性をもって実
施できるよう内部監査の更なる強化を図ることが望ましい。
また、一部の執行役員に非定型的な取引のリスクを踏まえて適切な会計処理を行う
という意識が不足していたこと等が、本事案に係る原因として考えられ、各再発防止策
の実施には、ALBERT の各執行役員による積極的な対応が求められることからすると、
ALBERT の執行役員及び関連部署のみで再発防止策の実施の徹底を図ることには限界が
17
会計監査人への相談のほか、財務経理セクションにおいて特に会計処理上リスクが高いと考えるプロジ
ェクトについては、内部統制室によるチェックを実施するようなルール整備を行うことも考えられる。
18
さらには、今回発覚した事案等を契機として、役職員のコンプライアンス意識を強化すべく、全般的な
コンプライアンス教育・研修を充実・強化することも検討に値する。
18
あり得る。そこで、ALBERT による各再発防止策の策定に関与するとともに、その実施
状況をモニタリングし、それに加えて、今後 ALBERT が直面する様々な新たな課題につ
いて、その解決策等を協議し、経営陣に対して直接提言を行うための組織を設置するこ
とも検討に値する。
5 不適正な会計処理に関与した役職員に対する適正な処分
一般に、上場会社において妥当性を欠く会計処理がされた場合、上場会社の社会的信
頼を大きく損なう結果となる。本件においても、本事案における会計処理の妥当性が問
題となり、本調査が実施され、株主総会も継続会の開催を余儀なくされている点で、そ
の影響は決して小さくはなかったと考えられる。ALBERT が、今後、行うべき職責の不
実施を含む同様の不適切な行為を行わない、行わせないことを明確に示し、また、不適
切行為には厳しい姿勢で臨むことを明確に示す観点から、本事案においても、不適切な
行為に関与した者に対する適正な処分を行うことが有効であると考えられる。
以 上
19