3107 ダイワボHD 2020-11-27 15:30:00
特別調査委員会による調査報告書受領に関するお知らせ [pdf]

                                                2020 年 11 月 27 日
各 位
                          会 社 名   ダイワボウホールディングス株式会社
                          代表者名    代 表 取 締 役 社 長     西村 幸浩
                                      ( コード 番号 3107 東証 第1部)
                          問合せ先    法務コンプライアンス室長      西川 浩史
                                      ( TEL 06- 6281- 2325)



              特別調査委員会による調査報告書受領に関するお知らせ

 2020 年9月 30 日に公表いたしました「当社連結子会社における不適切な取引の発生および特別調査委員
会の設置について」に記載のとおり、当社連結子会社である旧ダイワボウノイ株式会社(同社は 2020 年
4月1日をもって当社連結子会社である大和紡績株式会社に吸収合併されています。以下、     「大和紡績」と
いいます。  )において、元従業員(以下、  「行為者」といいます。)による不適切な取引(以下、
                                               「本件不適切
取引」といいます。     )に関しまして、弁護士・公認会計士等の当社と利害関係を有しない外部専門家を含む
特別調査委員会を設置して調査をすすめてまいりました。
 本日、特別調査委員会から調査結果を記載した報告書を受領しましたので、その概要と今後の対応方針に
ついて、下記のとおりお知らせいたします。

                            記

1.特別調査委員会の調査結果
   特別調査委員会による調査の結果、判明した本件不適切取引の概要は以下のとおりであります。
   行為者は 2014 年から 2020 年の6年間にわたり、大和紡績には秘して、架空の循環取引を行って
  おりました。
   また、本件不適切取引に関与した者につきましては、本件不適切取引が架空ないしは循環取引である
  ことを認識していたという事実まで認めることはできず、本件不適切取引は、行為者の単独での行為で
  あったと判断しております。
   特別調査委員会の調査結果詳細につきましては、添付の「調査報告書」をご覧ください。
   なお、プライバシーおよび機密情報保護等の観点から、個人名および会社名等につきましては、
  部分的に非開示措置を施しております。

2.業績への影響
   特別調査委員会の調査結果に基づき、本件不適切取引が 2021 年3月期第2四半期決算に与える影響
  額等を精査し、その処理方法を含め検討しております。
   これらを反映した 2021 年3月期第2四半期報告書につきましては、2020 年 11 月 13 日に公表いたし
  ました「2021 年3月期第2四半期報告書の提出期限延長に係る承認に関するお知らせ」に記載しており
  ます延長後の提出期限である 2020 年 12 月 16 日までに提出できる見込みであり、決算発表予定日につ
  きましても、決定次第速やかに公表を行う予定であります。

3.今後の対応方針
   当社は特別調査委員会が認定した事実と、再発防止策の提言を真摯に受け止め、速やかに再発防止策
  を策定のうえ実行してまいります。なお、具体的な再発防止策については、決定次第改めてお知らせ
  いたします。
   株主、投資家の皆様をはじめ、関係者の皆様にはご迷惑とご心配をおかけいたしますが、何卒ご理解
  賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

                                                            以上
                          2020 年 11 月 27 日


ダイワボウホールディングス株式会社   御中




           調査報告書
           (要約版)




   ダイワボウホールディングス株式会社   特別調査委員会
目次

第1   本特別調査委員会設置に至る経過と当委員会の目的 ..................... 4

 1   本件循環取引の発覚 ................................................. 4
 2   当委員会の設置..................................................... 4
 (1)ダイワボウホールディングス株式会社 ............................... 4
 (2)特別調査委員会設置に至る経過 ..................................... 4
 (3)当委員会......................................................... 5
 3   本調査の目的及び調査期間 ........................................... 5
 (1)調査の目的....................................................... 5
 (2)調査期間......................................................... 6

第2   本調査の期間及び方法 ............................................... 6

 1   内部通報の呼びかけ ................................................. 6
 2   社内アンケートの実施 ............................................... 6
 3   ヒアリング......................................................... 7
 4   デジタル・フォレンジック調査 ....................................... 7
 (1)調査の対象....................................................... 7
 (2)調査の方法....................................................... 7

第3   大和紡績株式会社について ........................................... 7

 1   大和紡績 .......................................................... 7
 2   大和紡績の管理部門 ................................................. 8
 (1)管理部門......................................................... 8
 (2)「受渡担当」による統制 ........................................... 9
 3   ノイ社 ............................................................ 9
 (1)会社の概要....................................................... 9
 (2)C 部 D 課 ........................................................ 10

第4   不適切な取引(本件循環取引を除く)に関する当委員会の調査結果など .. 10

 1   循環取引(本件循環取引を除く)についての調査 ...................... 10
 (1)大和紡績について ................................................ 10
 (2)主要子会社等についての調査 ...................................... 12
 (3)ダイワボウ情報システム株式会社について .......................... 13
 2   不適切な取引(循環取引を除く)に関する調査結果 .................... 13

第5   本件循環取引について .............................................. 14



                                 1
 1   A 氏の職務 ........................................................ 14
 2   本件循環取引の手口の概要 .......................................... 14
 (1)本件循環取引の概要 .............................................. 14
 (2)関与会社に対する手口の概要 ...................................... 15
 (3)ノイ社内における手口の概要 ...................................... 18
 (4)本件循環取引に至る背景事情及び動機 .............................. 20
 (5)A 氏における利益享受の有無について .............................. 21
 (6)本件循環取引についての協力者等の有無について .................... 21
 3   長期にわたって発見されなかったこと ................................ 23
 (1)在庫調査の不備 .................................................. 24
 (2)財務データが活用されていない .................................... 24
 (3)内部監査の不備 .................................................. 25
 4   A 氏のその他の不正取引の可能性について ............................ 25
 (1)C 部 D 課所属時期 ................................................ 25
 (2)B 社所属時期 .................................................... 25
 (3)L 社 ............................................................ 26
 5   監査役の監査について .............................................. 26
 6   EY 新日本有限責任監査法人による監査について ....................... 26

第6   当社の財務諸表等への影響 .......................................... 26

 1   本件循環取引の金額及び損害額について .............................. 27
 (1)本件循環取引金額の認定方法 ...................................... 27
 (2)本件循環取引の金額 .............................................. 27
 (3)本件循環取引にかかる債権債務残高 ................................ 27
 (4)本件循環取引にかかる棚卸資産残高 ................................ 28
 2   今後の負担が見込まれる損失 ........................................ 28

第7   追加調査の実施 .................................................... 28

 1   本件買戻し案件 ................................................... 28
 (1)調査の端緒...................................................... 28
 (2)事実の概要...................................................... 29
 2   評価 ............................................................. 30

第8   原因の究明........................................................ 30

 1   内部統制システムが社内に浸透していない ............................ 30
 2   社風について...................................................... 31
 (1)コンプライアンスを無視した営業活動の撲滅 ........................ 31

                                  2
 (2)「営業優位の社風」の変革 ........................................ 32
 3   具体的な原因...................................................... 32
 (1)業務手順規程がないこと .......................................... 32
 (2)営業部署内での統制の欠如 ........................................ 32
 (3)「受渡担当」による統制が機能していない .......................... 33
 (4)財務データが有効に活用されていなかった .......................... 33
 (5)十分な内部監査がなされていなかった .............................. 33

第9   再発防止策の提言 .................................................. 34

 1   経営トップの強いリーダーシップによる社風の改革 .................... 34
 2   業務手順規程の策定 ................................................ 34
 3   内部統制システムの改善と適切な運用 ................................ 34
 4   偽造文書等への対策 ................................................ 35
 5   内部通報制度の充実 ................................................ 35
 6   適切な人員の配置及び採用 .......................................... 35
 7   システム改修にも「不正の抑止」機能を強化すべきである .............. 36
 8   グループ体制のあり方 .............................................. 36


別紙    主要子会社等における循環取引の可能性




                                3
第1    本特別調査委員会設置に至る経過と当委員会の目的
 1    本件循環取引の発覚
      B 社元役員の A 氏は、2012 年 4 月から 2018 年 9 月末日までダイワボウノイ株
 式会社(以下、「ノイ社」という)の C 部副部長として、同部 D 課の業務を自ら
 行っていた。2020 年 9 月 4 日、A 氏は B 社社長に対し、C 部副部長であった当時
 から、下記概要の架空の循環取引を行っていた旨を告白した。以下、「本件循環
 取引」という。
      A 氏は過去数年間にわたり、ノイ社には秘して、商品が実在しないにもかかわ
     らず、製品を伝票のみで P 社、Q 社等に販売し、その後、R 社、S 社等を経てノイ
     社が購入し、更に循環に回すという、架空の循環取引を行っていた。


 2    当委員会の設置
(1)ダイワボウホールディングス株式会社
      ダイワボウホールディングス株式会社(以下、「DWBHLD」という)は、下記事
     業会社の純粋持株会社である。
       ダイワボウ情報システム株式会社              IT インフラ流通事業
       大和紡績株式会社                     繊維事業
       株式会社オーエム製作所                  産業機械事業
      本件循環取引はノイ社において発生したが、ノイ社は 2020 年 4 月に大和紡績
     株式会社(以下、「大和紡績」という)に吸収合併され、同社の製品・テキスタ
     イル事業本部として運営されている。C 部及び D 課も同事業本部の 1 事業とし
     て、大和紡績東京本社(東京都中央区日本橋富沢町 12-20 日本橋 T&D ビル)に
     おいて運営されていた。


(2)特別調査委員会設置に至る経過
      A 氏による自白があった後、以下の経過を経て、特別調査委員会が設置された。
      2020 年 9 月 4 日   B 社は直ちに大和紡績に A 氏の自白及び本件循環取引の概要
                       を報告。大和紡績では、直ちに関係者への事情聴取などの調
                       査を開始。
      2020 年 9 月 7 日   大和紡績は DWBHLD に対し本件循環取引及び同日までの調査
                       内容を報告。DWBHLD は大和紡績に対し、事案の詳細の解明、
                       影響額の確定のための調査を命じる。
      2020 年 9 月 18 日 大和紡績から DWBHLD に対し、逐次、調査状況が報告され、
                       取引データが大量にあり影響額の算出に時間を要することな
                       どが報告されていた。DWBHLD では、本件循環取引の影響額の
                       大きさや架空案件の広がりなどに懸念をもち、特別調査委員

                               4
                    会の設置及び委員選出について検討を開始した。
      2020 年 9 月 25 日 大和紡績から DWBHLD へ最終報告が提出。しかし、影響額が
                    一部推定に止まっていることや、ヒアリングの範囲が限定さ
                    れていることなどから、DWBHLD では大和紡績内部での調査で
                    は不十分と判断した。
      2020 年 9 月 30 日 DWBHLD は、同日開催の同社取締役会において、本件循環取
                    引の事実解明、原因究明などを目的として、外部の弁護士及
                    び公認会計士を含む特別調査委員会(以下、「当委員会」と
                    いう)の設置を決議し、同日、これを適時開示した。


(3)当委員会
      当委員会は、DWBHLD との契約において、同社から独立して、中立公正の立場か
     ら事案解明にあたることを宣明している。その委員は以下のとおりである。
委員長      藤木   久(DWBHLD 社外監査役   弁護士法人藤木新生法律事務所    弁護士)
委    員   植田益司(DWBHLD 社外監査役     マイスター公認会計士共同事務所    公認会
                   計士)
委    員   藤井安子(弁護士法人藤木新生法律事務所        弁護士・公認不正検査士)
委    員   井上   彩(弁護士法人藤木新生法律事務所      弁護士・公認不正検査士)
委    員   松山元浩(公認会計士・税理士松山元浩事務所        公認会計士)
委    員   小野正也(DWBHLD 常勤監査役)
会計補助者         宮宇地晃久(公認会計士)
              水井   圭人(公認会計士)


 3    本調査の目的及び調査期間
(1) 調査の目的
      当委員会の調査範囲及び調査の目的は以下のとおりである。
         ①本件循環取引の事実関係及びその原因の究明
         ②長期間にわたって本件循環取引の発見が遅れたことの原因の究明
         ③大和紡績における本件循環取引以外の不適切な取引の調査並びに仮に存在
         したときは事実関係及び原因の究明
         ④上記①から③についての有効な再発防止策の提言
      大和紡績は繊維事業を業とする会社であるところ、同社の繊維部門に属する子会
     社及び関連会社にも本件循環取引の類似行為が伏在するおそれがあるため、上記③
     については、繊維部門を業とする下記 4 社の子会社等についても実施することとし
     た。以下、同 4 社を「主要子会社等」という。
         ダイワボウレーヨン株式会社(以下「ダイワボウレーヨン」という。)

                               5
        ダイワボウアドバンス株式会社(以下「ダイワボウアドバンス」という。)
        カンボウプラス株式会社(以下「カンボウプラス」という。)
        朝日加工株式会社(カンボウプラスの子会社。大和紡績の孫会社となる。
                    以下「朝日加工」という。)
      大和紡績の兄弟会社に、ダイワボウ情報システム株式会社(以下、「DIS」とい
 う)、株式会社オーエム製作所(以下、「オーエム製作所」という)がある。両社
 は、大和紡績とは事業内容も全く異なるし、取引先、取引内容、取引慣習も全く異
 なる。資本関係もないし、取締役の兼任もない。したがって、両社については、本
 調査の対象とする必要がないと判断し、オーエム製作所は調査対象から除外した。
 これに対し、DIS は 2014 年 12 月から翌年にかけ、取引先が企てた循環取引におい
 て、それを知らないまま、循環の連鎖の 1 つに組み込まれたことがある。そして、
 2020 年 2 月、DIS は当該循環取引の関与企業として新聞報道されたことがあるの
 で、大和紡績とは事業分野も異なり、大和紡績の子会社でもないが、DIS について
 も、循環取引などの懸念がないかを調査することとした。


(2)調査期間
      当委員会は 2020 年 9 月 30 日開催の取締役会において設置された。9 月 29 日に
 準備会を開催し、同日から同年 10 月 31 日までを目処に調査に着手したが、調査
 過程で発見した追加事象等を調査したため、同年 11 月 27 日まで調査を続行し
 た。


第2    本調査の期間及び方法
      調査方法は以下のとおりであるが、本報告書の各箇所において、適宜、調査方
     法を再論する。


 1    内部通報の呼びかけ
      当委員会事務局である弁護士法人藤木新生法律事務所に臨時窓口を設置し、大和
     紡績及び主要子会社等の全従業員(ただし、工場の生産作業従事者を除く。以下、
     同じ)に対し、郵送又は架電の方法で情報提供を呼びかけた。


 2    社内アンケートの実施
      下記アンケートを実施し、本件循環取引及びその他の不適切な取引に関する情報
     提供を呼びかけた。そのうち1通から、製品の買戻しに関する情報提供があったの
     で、追加調査を行った(28 頁参照)。
       ・大和紡績及び主要子会社等の役員及び全従業員を対象にしたアンケート



                           6
          ・大和紡績及び主要子会社等の営業部門管理職及び管理部門管理職を対象に
          したアンケート


 3    ヒアリング
      当委員会は、大和紡績及びその主要子会社等その他の役員・従業員に対し、会
     社の組織、規程、業務手順などについて、多数回のヒアリングを行うとともに文
     書等の提供を得た。その他に、本件循環取引の事案解明、本件循環取引以外の不
     適切な取引に関する調査、その他不祥事の再発防止の観点から、大和紡績所属者
     51 名、主要子会社等など 11 名、社外関係者 19 名から個別のヒアリングを実施し
     た。


 4    デジタル・フォレンジック調査
      当委員会は、本件循環取引以外に重要な不正取引の潜在的な可能性を検討する
 ため、会社と利害関係のない独立性の高い専門業者に依頼して、デジタル・フォレ
 ンジック調査を次のとおり実施した。


(1)調査の対象
      調査の対象は、A 氏が本件循環取引を行っていた時期に所属していた C 部 D 課の
 課員 3 名及び A 氏の上司であった F 氏とした。また、当委員会が実施したアンケー
 ト結果により、本件循環取引以外の買戻し案件について情報提供があったことから、
 発生した C 部 E 課の課員 1 名、その上司 1 名、同課に関係する管理業務責任者 1 名
 に対しても追加的に調査を行った。


(2)調査の方法
      対象としたデータは、A 氏については、B 社貸与の PC 端末、メールデータ(添付
 ファイル含む)、本人に割り当てられ、ネットワークフォルダに保存された文書デ
 ータ、及びクラウドサーバーに保存された文書データとし、それ以外の対象者につ
 いてはメールデータ(添付ファイルを含む)を対象とした。
      対象データに対しては、データプロセッシングを実施し、専用のレビュープラン
 トフォームにアップロードを行い、データレビューワーにより、本件循環取引その
 他の類似事案及び不正一般に関連する特定のキーワード検索等によってスクリー
 ニングを行い、データレビューを実施した。


第3    大和紡績株式会社について
 1    大和紡績
      大和紡績株式会社(現・DWBHLD)は 1941 年に設立された、わが国を代表する紡

                         7
 績メーカーの 1 つである。戦後の繊維業界は、石油危機、ニクソンショック、日米
 繊維交渉、プラザ合意などのたびに深刻な不況に見舞われ、やがて、新興国からの
 安い繊維製品の輸入によって、構造的な長期不況にあえいできた。
     以下に、本報告書に関係する範囲で大和紡績の組織の変遷を述べる。なお、実際
 の経過は、会社分割、合併、商号変更などを組み合わせ極めて複雑であるが、ここ
 では、DWBHLD の HP の「沿革」の記載をもとに簡略化して説明する。
     2006 年 1 月、大和紡績は会社分割を行い、全事業部門をノイ社、ダイワボウポ
 リテック株式会社、ダイワボウプログレス株式会社、ダイワボウエステート株式会
 社の 4 社に承継させ、純粋持株会社となった(以下、「ポリテック社」、「プログ
 レス社」、「エステート社」という)。同時に管理部門(総務・人事部、システム
 部、財務部)の人員をダイワボウアソシエ株式会社(以下、「アソシエ社」という)
 に転籍させ、アソシエ社は、ノイ社、ポリテック社、プログレス社、エステート社
 などの事業会社から管理部門の業務を受託することになった。
     2009 年 7 月、大和紡績は商号を「ダイワボウホールディングス株式会社」へ変
 更し、同時に、DWBHLD の完全子会社として新たに大和紡績株式会社を設立した。新
 設の大和紡績株式会社は中間持株会社として、ノイ社、ポリテック社、プログレス
 社、エステート社の全株式を保有することになった。以下、「大和紡績」は 2009 年
 7 月に新設された大和紡績をいい、DWBHLD へ商号変更するまでの大和紡績を「旧大
 和紡績」という。
     2020 年 4 月、大和紡績は、ノイ社、ポリテック社、プログレス社、エステート
 社、アソシエ社を吸収合併し、事業部門及び管理部門とも同社に組み込まれた。
     現在、大和紡績は、製品・テキスタイル事業本部(ノイ社)、合繊事業本部(ポ
 リテック社)、産業資材事業本部(プログレス社)の三事業本部を有する他に、主
 要子会社等を含む約 20 社の子会社及び孫会社などを有している。
     資本金は、2009 年 7 月の設立時は 1 億円、2020 年 4 月 1 日に 3 億 1000 万円、
 同年 4 月 30 日に現在の 35 億 4500 万円に増資し、会社法上の大会社になった(会
 社法 2 条 6 号)。


 2   大和紡績の管理部門
(1)管理部門
     以上に述べたように、2006 年 1 月、旧大和紡績は会社分割によって、全事業を
 ノイ社、ポリテック社、プログレス社、エステート社などへ承継させるととも
 に、管理部門の人員をアソシエ社に転籍させ、以後、アソシエ社は事業会社の管
 理部門の業務を受託することになった。2009 年 7 月、大和紡績が新設され、同社
 が上記事業会社の中間持株会社となった以降も、アソシエ社は事業会社の管理部
 門の業務を受託する体制がそのまま継続された。

                             8
      このようにして、アソシエ社が事業会社から管理部門の管理業務を受託するこ
 とになった。当委員会が大和紡績の管理部門職員にヒアリングを行ったところ、
 「この管理部門の外出しによって、管理部門が事業会社の下請になってしまっ
 た。管理部門が事業会社と別会社になってしまい事業会社の業務への関心が低下
 した。」との意見が多く聞かれた。後述するように、本件循環取引は、管理部門
 の統制が十分に機能していなかったことを原因の 1 つとするが、その遠因がこの
 「管理部門の外出し」にあったといえよう。
      なお、大和紡績は 2020 年 4 月に子会社 5 社を吸収合併し、管理部門の外出しは
 解消されたが、当委員会の調査の時点でも、外出し時に形成された管理部門の営
 業部門に対する劣位、関心の乏しさは解消されずに残っていた。


(2)「受渡担当」による統制
      旧大和紡績では、もともと営業部門の中に、営業課員が行った販売及び購入に
     ついて、出荷、仕入、在庫などの管理を行う「受渡担当」を設けており、これに
     よって、営業課員の営業活動を他者がチェックする機能が期待されていた。2006
     年 1 月の分社化に伴い、ノイ社について言えば、2011 年、受渡担当は営業業務部
     内の「物流課」及び「東京物流G」の 1 つの部署として集約され、2012 年 4 月、
     「物流課」及び「東京物流G」は「大阪営業業務課」及び「東京営業業務課」に
     改称された。2020 年 4 月の統合により、ノイ社は大和紡績の製品・テキスタイル
     事業本部となり、ノイ社の営業業務部は、大和紡績の営業業務部に統合された。
     ノイ社の営業業務部のうち受渡担当を含む物流機能は、大和紡績営業業務部物流
     課として集約された。本件循環取引は、2014 年 9 月から 2020 年 8 月までの間、C
     部 D 課において発生したが、同部同課はノイ社東京オフィス(現在の大和紡績東
     京本社)にあったので、東京営業業務課及び同課に属する受渡担当が本件循環取
     引に関する出荷、仕入れ、在庫についてのチェックを担当していた。なお、東京
     オフィスは時期により名称が異なるが、以下では、「東京オフィス」に統一す
     る。


 3    ノイ社
(1)会社の概要
      旧大和紡績は、2006 年 1 月、会社分割を行い、全事業部門を子会社へ承継させ
     たが、同社の製品・テキスタイル事業部門を承継したのがノイ社であった。
      ノイ社は、衣料品、寝具寝装品用の原糸、テキスタイルから最終製品までを製
     造・加工・販売する会社である。2020 年 4 月をもって大和紡績に吸収され、現在
     は、同社の製品・テキスタイル事業本部として活動している。



                           9
(2)C 部 D 課
     C 部は、D 課、E 課からなる。2014 年以降、本件循環取引の売上高は大幅に増加
  し、2014 年度は 72 百万円、2015 年度は 433 百万円(D 課売上の 20.9%)、2016 年
  度は 803 百万円(同 41.3%)、2017 年度は 1,150 百万円(同 59.6%)、2018 年度
  は 1,457 百万円(同 66.6%)、2019 年度は 1,892 百万円(同 77.3%)に膨張して
  いた。


第4   不適切な取引(本件循環取引を除く)に関する当委員会の調査結果など
 1   循環取引(本件循環取引を除く)についての調査
     当委員会では、本件循環取引以外に類似取引及びその他の不適切な取引が行わ
     れた兆候がないかどうかについて、以下の調査を行った。


(1)大和紡績について
     循環取引は、販売する製品と仕入れる製品が同じ場合に生じやすい。これに対し、
  原材料を仕入れ、工場で加工品を生産・販売する事業では、仕入品と販売品とが異
  なるから、循環が生じにくい。
     合繊事業本部(ポリテック社)は、原材料を仕入れ、工場において合繊綿、不織
  布を生産販売する事業であるから、循環取引が生じる下地がない。産業資材事業本
  部(プログレス社)も、原料又は素材を仕入れ、工場において製造・加工して製品
  を生産・販売するから、循環取引が生じにくい。これに対し、製品・テキスタイル
  事業本部(ノイ社)は、衣料、寝具寝装品などの原糸、テキスタイル、最終製品を
  製造、加工、販売しているが、最終製品の仕入、販売も多いため、循環取引の素地
  が生じることになる。以上から、循環取引については、ノイ社により慎重な検討を
  要する。


 ア   アンケート及びヒアリングの実施
     当委員会では、大和紡績及び主要子会社等の役員及び全従業員を対象にしてア
  ンケートを実施し、さらに営業部門及び管理部門の管理職を対象にしたアンケー
  トも実施した。本件循環取引以外の循環取引及びその他の不適切な取引について
  も回答を求めたが、追加調査の対象とした1件(28 頁参照)を除き、循環取引等
  の存在を懸念させる回答はなかった。
     また、大和紡績・三事業本部の全ての部及び課の責任者にヒアリングを行った
  が、循環取引及びその他の不適切な取引は「ない」との回答であった。


 イ   取引の実態調査



                           10
     大和紡績において他に類似取引がないかの確認を行うため、取引先ごとの売上
    データから以下の条件 1 及び同 2 によりサンプルを抽出し、取引の実在性を確認
    した。
     条件に該当した取引について、証憑類との照合等による取引事実の検証を行っ
    た結果、本件循環取引以外には、取引の実在性に疑義が生じるものは識別されな
    かった。


     (条件 1)    直前期の年間取引高 60 百万円以上で且つ直近 2 カ年対前年 20%
              超増加している取引先を選定した。当該対象取引先に対し、製品・
              テキスタイル事業本部は過去 7 年間、合繊本部・産業資材事業本部
              は過去 4 年間の取引件数を調査した。当該対象取引に対し、年度ご
              とに製品単位で取引金額 1 百万円以上の取引を抽出した。
     (条件2)     仕入先と販売先が同一の取引先のうち、「通し取引」(伝票のみ
              での取引)の懸念がある取引先につき、過去 4 年間の該当取引を調
              査した。


ウ    財務分析による類似取引の可能性の検討
(ア)回転期間分析
      本件循環取引のような資金循環取引(架空循環取引)では、架空の在庫あるい
     は売上債権が重畳的に計上されていくため、売掛金回転期間(月末売掛金残高÷
     月間売上高)、在庫回転期間(月末在庫残高÷月間売上高)が増加する。本件循
     環取引にはその傾向が明瞭に看取できる。そのため、他の繊維事業部門(ノイ社、
     ポリテック社、プログレス社。子会社であるダイワボウアドバンス、ダイワボウ
     レーヨン)につき、部別の売掛金及び在庫の回転期間の平均値と、それを大幅に
     上回る取引例を調査した。その結果、本件循環取引については、所属部の平均的
     な売掛金回転期間が 1.6 か月であるのに対し、ほとんどの年度で 5 か月を上回っ
     ており、著しい異常値が確認できた。他の部では、衣料製品部の 1 取引先を除き、
     異常値はなく、衣料製品部の 1 例も、調査の結果、不正な原因によるものではな
     かった。
      次に、在庫の回転期間も同様の方法で調査したところ、本件循環取引は所属部
     の平均回転期間の 2 倍近くの異常値を示していたが、他の取引については、異常
     は認められなかった。


(イ)ノイ社における与信額推移の分析
      ノイ社については、製品を仕入れ、製品を販売するという事業内容から、循環
     取引の生じる土壌があるので、念の為、次の調査を実施した。

                           11
          大和紡績では、売上債権残高が与信額の一定割合を超える取引先について警告
      が出され、与信超過が発生した部署に対しては、営業業務部が警告及び与信超過
      の解消計画を徴求している。
          そのため、2020 年 9 月までの直近の 4 か月の期間のうち 3 か月以上連続で与
      信超過の警告対象となった取引先について、その理由を調査した。その結果、本
      件循環取引を除き、各担当者から合理的な理由が説明されており、循環取引その
      他の不適切な取引の兆候は認められなかった。
          また、資金循環取引(架空循環取引)がなされた場合は、在庫や売掛金の増加
      に伴い運転資本が増加する。そこで、2015 年度以降の運転資本について、2015
      年期首 4 月時点の運転資本を基準に増加倍率を月次推移で分析した。本件循環
      取引があった D 課では、2020 年 9 月末には 1.8 倍に増加していたが、それ以外
      の部課において、循環取引及びその他の不適切な取引を起因とする有意性のあ
      る変動は識別されなかった。


 エ    まとめ
      以上のように、さまざま観点から複合的な調査を行ったが、大和紡績の全ての事
 業部門について、循環取引及びその兆候については、認めることができなかった。


(2)主要子会社等についての調査
      ダイワボウレーヨン、カンボウプラス、ダイワボウアドバンス、朝日加工に対
     し、ヒアリングや資料の提供を求め、循環取引の有無及び可能性を調査した。
      その調査結果は別紙「主要子会社等における循環取引の可能性」のとおりであ
     る。いずれの会社の事業内容も、製品を仕入れて販売するものとは異なるので、
     循環取引が生じにくい。また、架空循環取引では、帳簿在庫と実際の在庫とに齟
     齬が生じるが、全社とも、帳簿在庫と実際の在庫とが合致しているとの回答を得
     た。
      また、循環取引があると、売掛金の回転期間、棚卸資産の回転期間が異常に増
     加する。そのため、当委員会は、ダイワボウレーヨン、ダイワボウアドバンスに
     ついて、売掛金及び在庫の回転期間を調査したが、両社とも異常な数値は検出さ
     れなかった。カンボウプラス及び朝日加工については、基幹システムが異なるた
     め同様の分析は行えなかった。そこで代替調査として、両社が行っている売掛金
     の滞留調査結果の査閲及び在庫の滞留状況のヒアリングを両社の役員に対して実
     施し、その結果、売掛金及び在庫について滞留が発生していない旨の回答を得
     た。
      以上から、主要子会社等についても循環取引の存在及びその兆候は認められな
     いというべきである。

                            12
(3)ダイワボウ情報システム株式会社について
ア    当委員会は、DIS から以下の経過を聴取した。
     DIS は、2014 年 12 月から翌年にかけ、取引先が企てた循環取引において、それ
    を知らないまま、循環の連鎖の 1 つに組み込まれる事態が生じた。DIS では、上
    記取引を調査し、実在する取引であると判断したうえで、取引を行っていたが、
    同取引では、DIS は実商品にかかわることがなく、伝票のみでの売買になってい
    た(いわゆる「通し取引」)。DIS は、ディストリビューターの本来の業務は、
    実際に商品の調達、納品などを行うことにあるとのポリシーから、2016 年以降、
    同取引については自ら受注を断っていた。
     2019 年 12 月、上記取引先によって、DIS が知らないまま組み込まれた上記取引
    が循環取引であったことが適時開示されたため、DIS も関与企業ではないかとの
    風聞が生じることになった。そのため、DIS では、全社アンケートの実施、担当
    者の全メール調査、取引先を含む関係先のヒアリング、財務データの分析及び検
    討などによって、社内に隠れた循環取引が存在しないかを調査し、それがないこ
    とを確認した。


イ    このような経過から、DIS には循環取引を許容する風土がないと認定できる
    し、DIS が行った上記調査方法は循環取引の有無を判別する方法として合理的か
    つ十分であると認めることができる。
     DIS では、上記調査とともにコンプライアンス教育を実施し、改めて循環取引
    等の不適切な取引に関与しないように社内の周知を徹底して行った。これによっ
    て、循環取引などの不適切な取引にかかわってはならないことは社内に周知さ
    れ、現在も、社内の共通認識として定着している。今後も、継続的にコンプライ
    アンス教育を実施し、規範意識の維持及び向上に努めたいという。
     また、当委員会の調査によれば、DIS は、元来、営業部門(販売)と調達部門(仕
 入)が組織上分離されているし、業務フロー上の各所においてシステム上の統制機
 能が働いており、不正な循環取引が生じにくい仕組みになっている。
     以上のように、前記の調査と同時に行われたコンプライアンス教育などを通じ
    て、社内の規範意識の向上が認められるし、それが現在も引き継がれていると認
    められる。また、組織上の区分、業務フローに関するシステム上の規制からも、
    不正な循環取引が生じにくい仕組みになっている。
     以上から、現時点においても、不正な循環取引及びその兆候は認めることがで
    きないと判断した。


2    不適切な取引(循環取引を除く)に関する調査結果
     一般に不正が存在しないことの立証は、不正のあらゆる可能性を排除する必要が

                        13
 あるから、不可能に近い。当委員会の限られた調査期間において、本件循環取引な
 どの解明を行いながら、大和紡績及びその主要子会社等が展開する広範な事業につ
 いて不正が存在しないことを立証するのは不可能である。
      よって、当委員会では、重大な不正取引に範囲を限定し、その発見のための合理
 的な調査を実施し、その調査によっても、その存在及び兆候が認められないときは、
 異常がないものとした。そして、大和紡績及び主要子会社等とも、他の循環取引の
 有無を調査するため、上記1(1)及び(2)の調査を実施した。これによって、ア
 ンケート及びヒアリングに加え、合理的な調査方法によって在庫確認がなされ、異
 常がないこと、売掛金及び在庫について滞留がないことなどが確認されている。こ
 れらの調査は、循環取引だけでなく、重大な不正取引についての調査としても合理
 的であるし、上記の調査を複合的に実施しても、その存在及び兆候が認められない
 ことから、重大な不正取引についても認められないものとした。


第5    本件循環取引について
      当委員会の調査の結果、A 氏は、少なくとも 2014 年 9 月から 2020 年 8 月までの
     間、ノイ社に秘して、P 社、Q 社、R 社、S 社等の取引先との間で実際に製品の受渡
     が行われない帳票だけの架空取引を実施して、資金循環をしていたことが認められ
     た(以下、本件循環取引に関与した P 社~W 社を総称して「関与会社」という)。


 1    A 氏の職務
      A 氏は、2012 年 4 月から 2018 年 10 月に B 社に転籍するまでの間、ノイ社営業部
     門 C 部副部長の職にあった。同部 D 課において、主に α 社やγ社向けの製品販売
     を担当していた。


 2    本件循環取引の手口の概要
(1)本件循環取引の概要
      本件循環取引の流れは、概ね表 5.1 のとおりである。大別すると P 社を含む商流
     (【Ⅰ】~【Ⅲ】)と Q 社を含む商流(【ⅰ】~【ⅵ】)の 2 系統がある。




                            14
 表 5.1   本件循環取引における商流
                 P 社を含む商流                     Q 社を含む商流

 3社間取引    【Ⅰ】 ノイ社→P 社→R 社⇒ノイ社        【ⅰ】 ノイ社→Q 社→R 社⇒ノイ社

          【Ⅱ】 ノイ社→P 社→R 社⇒T 社→ノイ社    【ⅱ】 ノイ社→Q 社→R 社⇒T 社→ノイ社
 4社間取引
          【Ⅲ】 ノイ社→P 社→R 社⇒S 社→ノイ社    【ⅲ】 ノイ社→Q 社→R 社⇒S 社→ノイ社

                                     【ⅳ】 ノイ社→U 社→Q 社→R 社⇒S 社→ノイ社

 5社間取引                               【ⅴ】 ノイ社→V 社→Q 社→R 社⇒S 社→ノイ社

                                     【ⅵ】 ノイ社→W 社→Q 社→R 社⇒S 社→ノイ社

         (※)→は通常の売買を表し、⇒は取引の対象(品名・品番、単価、数量)が変
           更されて売買されたことを表す。




(2)関与会社に対する手口の概要
     表 5.1 のとおり、本件循環取引にはいろいろな類型があり、場合によっては、関
 与会社が S 社に替わって T 社となったり、U 社、V 社及び W 社が加わったりすること
 もあったが、基本的な仕組みはあまり変わらない。そこで、以下では、特に断らない
 限り、期間も長く最も取引高が多い P 社を含む商流の内、表 5.1【Ⅲ】を取り上げ、
 その手口の概要を説明する(なお、時期や取引により手口は異なっているが、以下で
 は、もっとも主要な手口を取り上げる)。


 ア    表 5.1【Ⅲ】の循環取引における商流
      ノイ社が S 社から仕入れた製品を P 社に対して販売し、それを P 社が R 社に販売
     する。R 社は、A 氏の指示に従い、製品の品名・品番、単価、数量の異なる新たな
     製品を S 社に販売する。S 社は、R 社から製品を購入後、一定期間、製品を保管し
     てからノイ社に再度、転売し、新たな取引が行われるという仕組みである。架空製
     品が各関与会社間で売買される都度、代金に各社の利益が上乗せされる。R 社の元
     で取引の対象物(品名・品番、単価、数量)が変更されるが、取引額は、その前の
     取引で R 社が P 社に支払った代金に R 社の利益等を上乗せした金額である。
      本件循環取引は架空取引であり、実際には製品の移動はない。このため、A 氏
  は、ノイ社及び各関与会社に対し、特に製品の出荷や納品、あるいは名義変更を装
  う必要があった。




                                15
    〈図 1〉   表 5.1【Ⅲ】における循環の流れ




                         ノイ社




                S 社                P 社




                         R 社




イ    P 社に対する手口
(ア)     A 氏の説明によれば、A 氏は、P 社に対して、ノイ社が海外から製品を輸入
      し、P 社を経由して R 社に売り、R 社からβ社に売却する旨、説明していた。P
      社には、製品自体はノイ社から直接 R 社に送付すると説明していた。
      なお、P 社の認識は、上記とは異なる(22 頁参照)。
        A 氏の説明によると、本件循環取引では、ノイ社から P 社に(架空)製品を
      販売するにあたり、まず、A 氏が P 社の担当者にメールで、P 社に販売する製
      品の品番(ノイ社では品名)、枚数、(ノイ社からの)仕入単価、(P 社の R 社
      への)売り単価を提示する。その際、A 氏は、当該取引の実在及び製品が R 社
      に納品済みであることなどを装うため、β社から R 社に対する「発注書」、製
      品輸入時の「Packing List」、偽造した R 社の受領印が押印された「コンテナ
      配送指図書」等の帳票を偽造して、P 社に送付する。P 社は、ノイ社から購入し
      た製品は、購入とほぼ同時に、R 社に対し、A 氏が指示した単価で販売する。製
      品は既に R 社に出荷・納品されていることになっているため、P 社では出荷指
      示を行わず、R 社に対し「納品書兼請求書」を送付する。


(イ)    本調査の結果、2017 年 8 月 15 日付の P 社とノイ社との間における「国内取
      引代行基本契約書」(以下、「取引代行契約書」という)を P 社が保有してい
      たことが判明した。ノイ社が R 社に製品を売却するにあたり、ノイ社は P 社に

                         16
     対しその代金回収業等を委託するという内容のものであるが、同契約書のノイ
     社名、社長名、代表者印(印影)はすべて A 氏がねつ造したものであって、偽
     造である。A 氏の説明によると、上記契約書締結後も、本件循環取引の方法や
     手順等に変更はなく、従前の取引方法が継続していた。


ウ    R 社に対する手口
     R 社の説明によると、R 社は A 氏から本件循環取引について詳しい説明を受け
    ていなかったという。製品は、R 社を通さずに倉庫に直送されると思っていた。
     ノイ社が販売した製品(品名・品番、数量、単価)がそのまま P 社、R 社、S 社
    へと引き継がれると、本件が循環取引であることが発覚する。そのため、A 氏は、
    R 社にメールで指示して、 社が P 社から仕入れた製品の品番
                 R                 (ノイ社では品名)、
    数量、単価を変更させていた。R 社は、S 社に対し、A 氏の指示通りに前記イ(ア)
    で P 社から購入した製品とは異なる品番(ノイ社では品名)、単価、数量の製品
    を販売し、A 氏から指示された内容の「請求書」、「請求明細書」や「納品書」等
    の帳票を送付していた。


エ    S 社に対する手口
     A 氏は、S 社に対して、α社向けの製品を R 社が輸入し、S 社が買取り在庫とし
    て一定期間保管後、ノイ社へ売却し、ノイ社からα社に売却したいと説明してい
    た。S 社は、A 氏から、R 社の支払サイトが短く、ノイ社では支払が難しいため S
    社に間に入ってもらいたいと依頼されていた。R 社が輸入した製品は、ノイ社指
    定の甲倉庫に入庫され、S 社名義で保管する。S 社からノイ社へ販売する際は、ノ
    イ社が甲倉庫に出荷指示して、S 社からノイ社へ名義変更を行う旨、説明してい
    た。
     前記ウのとおり、R 社は、A 氏の指示どおり S 社に製品を販売し、「請求明細
    書」、「納品書」等の帳票を S 社に宅配便で送付する。S 社では、上記帳票を確認
    し、R 社へ代金を支払う。その後、S 社における処理が厳格になり、A 氏は、上記
    に加え、輸入時の「Packing   List」及び R 社がコンテナを甲倉庫に向け配送した
    ことを装った海運会社作成の「納品書」等を偽造して、R 社の従業員になりすまし
    たメールアドレスから S 社の担当者に送付するようになった。
     S 社は R 社から製品を購入した後、A 氏の依頼に基づき、当初は 2 か月間(最終
    的には4か月間)在庫として製品を保管する。約定の保管期間経過後、S 社は、あ
    らかじめ取り決めていたマージンを上乗せした請求書をノイ社に送付し、当該製
    品を販売する。S 社の認識では甲倉庫に対する名義変更などの指示はノイ社が行
    うため、S 社からは出荷指図(名義変更)は行わなかった。



                          17
オ    Q 社を含む商流(表 5.1【ⅰ】~【ⅵ】)における手口
      A 氏の説明によると、A 氏は Q 社に対して、海外から輸入した製品を R 社に販売
    し、R 社から小売店へ販売する取引について、ノイ社は、与信の関係で直接 R 社に
    販売ができないから、Q 社を経由して R 社に売りたいと依頼していた。
      Q 社を含む商流の手口は、当事者間で授受される帳票類に多少違いはあるが、前
    述の P 社を含む商流と、基本的には同じである。
      なお、 社を含む商流においては、 社間取引が行われた時期がある
         Q            5              (表 5.1
                                          【ⅳ】
    ~【ⅵ】)。これは、循環取引を継続していくにつれノイ社の Q 社に対する売上額
    が増加し、ノイ社が設定した Q 社の与信限度額に達してしまうことがあったため、
    U 社、V 社、W 社に、ノイ社と Q 社との間に入ってもらうことで与信限度額への抵触
    を回避したことによるものである。


(3)ノイ社内における手口の概要
 ア    ノイ社における認識
      本件循環取引について、ノイ社では、以下のように認識していた。
      P 社を含む商流(表 5.1【Ⅰ】~【Ⅲ】)での取引の対象は、α社向けの製品で
     ある。R 社が生産管理している海外の工場で縫製された製品を R 社が輸入して、そ
     れをノイ社が仕入れ P 社に売却し、P 社がα社へ販売する。S 社は、金融機能及び
     在庫機能のため介在している。R 社が輸入した製品は、主にα社指定の甲倉庫に入
     庫し、S 社が在庫として一定期間預かった後、P 社からのオーダーで、主にα社指
     定の丙倉庫等に出荷される。
      Q 社を含む商流(表 5.1【ⅰ】~【ⅵ】)での取引の対象は、主に Q 社向けの製
     品である。海外の工場で縫製された製品の生産管理を R 社が行っており、これを R
     社が輸入する。ノイ社はこの製品を(S 社を通して)購入し、Q 社へ納めると認識
     していた。U 社、V 社、W 社については、Q 社に対する与信枠の限度額を超えないよ
     うに、間に入っていると説明を受けていた。R 社が輸入した(架空の)製品は、3 社
     間取引(表 5.1【ⅰ】)の場合は Q 社へ直送され、S 社が間に入る取引(同【ⅱ】
     ~【ⅳ】)の場合には、主に甲倉庫又は乙倉庫へ入庫し、同倉庫内で S 社名義へ名
     義変更されることになっていた。S 社は一定期間これらの製品を在庫として持った
     後、Q 社へ納品することになっていた。


 イ    ノイ社内における業務手続の概要
 (ア)営業業務に関する規程の形骸化
       昭和 57 年制定の「営業関係業務提要」は、販売、仕入などの営業業務に関す
      る手順を定め、今も唯一の営業に関する手順である。同手順はその後改訂されて
      おらず、現在では参照されていない。もっとも、それを意識した内容をもつ業務

                        18
    フローチャートがあり、業務処理上の一応の目安とされている。同フローチャー
    トでは、販売及び購入に関する営業担当の権限(上司の承認を要する)、出荷及
    び仕入についての受渡担当によるチェックを定めているが、本件循環取引では
    これらがほとんど形骸化されていた。


(イ)C 部内での統制欠如
     C 部は、D 課及び E 課からなる。C 部の F 部長は E 課の出身であって、部長昇進
    後も E 課のプレイヤーとしてかかわっていた。D 課は、2つの部隊に分かれ、A 氏
    の部隊には他に 2 名の課員がいた。うち 1 名は主にγ社の製品を扱い、他の 1 名は
    製品企画を担当していた。
    業務フローチャートでは、営業担当者が製品を販売するときは、課長の承認を得
    ることを要するが、D 課では、与信枠を超えない限り A 氏のみの判断で行うことが
    できた。仕入については事実上、枠の制限もなかったため、A 氏が単独で行ってい
    た。


ウ   売上処理について
    業務フローチャートによれば、ノイ社では、製品の販売及び購入を営業担当者が
 行い、それに伴う製品の出荷、請求書送付を受渡担当が行って、職務を分担してい
 る。受渡担当は、事業部門ごとに配置され、営業担当者と隣接してデスクを設置し、
 連携して職務を執行できるようにしている。製品を販売する場合、買い手からの出
 荷依頼に応じ、受渡担当で出荷指図を行う。出荷確認後、受渡担当は、出荷報告を
 行い、買い手へ請求書を送付する。
    架空取引である本件では、実際の貨物がなく買い手からの出荷依頼もない。P 社
 へ製品を販売する際、A 氏は、甲倉庫名義の「出荷明細書」等の帳票を偽造し、そ
 れを受渡担当へ提示して出荷報告をさせていた。出荷報告後、受渡担当がノイ社の
 請求書を買い手へ郵送することになっているが、循環取引を回転させるためには、
 各関与会社間での資金決済時期を連動させる必要があった。このため、A 氏は、受
 渡担当から請求書を預かり、他の関与会社の支払日を考慮しながら、ノイの請求書
 を必要な範囲で改ざんして P 社へ送付していた。後に処理月度、出荷日、請求日、
 支払期日を改ざんするようになった。
    Q 社に対して売上を計上する手続も P 社に対するものと基本的には同様である。
 ただし、Q 社宛ての請求書の改ざんは行っていない。


エ   仕入処理について
    業務フローチャートによれば、仕入処理の場合、受渡担当は、納入先からの「納
 品書」及び「請求書」に基づき、出荷報告(受入処理)をする。

                        19
      A 氏は、ノイ社内において、S 社から買付した製品は、甲社や乙社などの倉庫に
 納入したことにしていた。ノイ社が S 社から製品を購入すると、 社はノイ社に
                                S      「請
 求書」を送付する。S 社では、ノイ社が甲社に対し出荷指図をするとの認識である
 ため、S 社からは倉庫発行の出荷明細書(名義変更指示書)等は送付しない。この
 ため、A 氏は、受渡担当に対し、甲社発行の「出荷明細書」等を偽造して、S 社か
 らノイ社へ製品が名義変更されたことなどを装っていた。


 オ    B 社転籍後の手口の概要
      A 氏は、2018 年 10 月付でノイ社から B 社へ転籍となったが、本件循環取引の発
     覚をおそれ、その担当業務を後任者へ引き継がなかった。A 氏は、関与会社に対す
     る連絡はそのまま自身にて継続して行うとともに、ノイ社内での手続については、
     下記のとおり「なりすましメール」を使用して、ノイ社の後任者に取引の実在性を
     誤信させ、社内手続が滞ることのないよう仕向けていた。
      すなわち、A 氏は、各関与会社の担当者のものと誤認するようなメールアドレス
     (例えば「担当者名@会社名.com」など)を独自に取得し、これを使用することに
     よって、あたかも同社の担当者から A 氏宛に出荷依頼が来ているかのように装っ
     た。例えば、Q 社担当者名の偽アドレスから A 氏宛に、出荷依頼のメールを送付し
     (偽アドレスの主は A 氏であるから、実際には A 氏が自ら自分宛に送付しているだ
     けである)、これをノイ社の後任者へ転送することで、同者に、Q 社から出荷依頼
     が来ているものと誤信させ、社内での売上処理を行わせていた。また、甲社担当者
     名の偽アドレスから A 氏宛に、甲社の倉庫に保管されていた S 社名義の製品が Q 社
     へ直送された旨の出荷明細書(A 氏の偽造によるもの)が添付されたメールを送付
     し、これをノイ社の後任者へ転送することで、同者に、S 社から買い付けが行われ
     たものと誤信させ、社内での仕入処理を行わせていた。


(4)本件循環取引に至る背景事情及び動機
      A 氏は、長年にわたり、主に製品の販売業務を担当しており、A 氏が取り扱う商
     流について、D 課の中で A 氏以外に把握する者はいなかった。
      A 氏によれば、社内では長期在庫の解消や売上の数字は求められる一方で、取引
     先からのクレームやトラブル等が発生しても、自己解決を求められ、およそ上司に
     相談できるような環境にはなかったという。A 氏の業務内容を理解している者はお
     らず、誰かに相談をしたところで無駄だ、自分一人で解決するしか方法はないとい
     う思いで日々の業務を行っていた。各々が、さながら「個人商店」として業務を行
     わざるを得ず、A 氏は年々、孤独感を深めていったとのことであった。
      2014 年、A 氏は、長期間 P 社に在庫保管を依頼していた製品を買い戻す必要に迫
     られ、複数回に分けて、R 社を経由させた上でこれらを買い戻した。そしてこれを

                         20
     きっかけに、当該在庫を用いて売上の数字を上げることに思い至り、本件循環取引
     が開始された。
      また 2016 年には、従前の実取引の中で、納期遅れにより Q 社に生じさせていた
     損害を補填する必要が生じ、既に開始されていた本件循環取引の環に Q 社を入れる
     ことで、Q 社の損害を回復させることにした。
      このようにして開始された本件循環取引は、出口(エンドユーザー)のない取
  引であり、結果的に長年にわたって継続されることとなったが、A 氏によれば、
  当初はどのみち早期に発覚してしまうだろうと考えていたという。ところが後述
  するとおり、諸要因が重なった結果、実に 6 年もの間発覚することはなく、その
  間に取引価格は雪達磨式に膨らむこととなった。


(5)A 氏における利益享受の有無について
      本調査において発見された証拠に基づけば、本件循環取引において、A 氏が関与
     会社からリベートを受けていた、あるいはノイ社が売却した製品代金の一部を着服
     していたなどの事実は認められなかった。
      よって、 氏が本件循環取引において個人的な利益を得ていたとは認められない。
          A


(6)本件循環取引についての協力者等の有無について
 ア    ノイ社内について
 (ア)組織的犯行・共犯者の有無について
       A 氏は、本件循環取引について、上司にも D 課課員にも相談せず、単独で実行
      したと説明し、組織的犯行及び共犯者の存在を否定する。本調査においても、ノ
      イ社又はノイ社内の従業員等が本件循環取引に主体的に関与したという証拠も、
      A 氏と共謀して本件循環取引に関与したという証拠のいずれも見つからなかっ
      た。
       よって、本件循環取引についてノイ社における組織的犯行であった、あるいは
      社内に共犯者がいたとは認められない。


 (イ)C 部及び D 課における本件循環取引の認識の有無について
       本調査におけるヒアリング等によると、本件循環取引では関与会社からは A 氏
      の説明に添う帳票が送付されてくるなど、不自然な点は特に見当たらず、当時、
      部長を含み C 部及び D 課内では、本件循環取引が架空ないしは循環取引であっ
      たとの認識を誰も有していなかったという。
       また、同課内は同じ課であっても分業体制(A 氏の表現では「個人商店」)と
      なっていて、担当者以外の者が他の業務に干渉することはなかった。当時、A 氏
      は副部長職にあり、A 氏の業務について指図できる立場には、上長である C 部部

                        21
    長しかいなかったが、同部長は E 課を主に指揮しており、A 氏の携わっていた製
    品についてあまり詳しくなく、部内全体を把握する者が欠けている状態であっ
    た。かかる D 課の状況からすれば、課員が担当以外の取引について関与すること
    がなく、ましてや副部長職にある A 氏の業務を顧慮する者はおらず、C 部部長を
    含め誰もその取引の実在性につき疑念を持たなかったという状況もありえない
    ことではない。
     A 氏が B 社に転籍した後については、後任者に長期にわたって業務の引継ぎ
    をしないなど、部長及び課員において当然に疑いを抱くべき状況があったとも
    思われる。その一方で、転籍後の A 氏は関与会社の担当者になりすましたメール
    を用いて、一見しただけでは偽造と分からない帳票類をそれに添付するなど、そ
    の手口は非常に巧妙化していた。以上を鑑みれば、A 氏以外の部長及び課員にお
    いて、本件循環取引が架空ないしは循環取引であったとの認識があったとまで
    いうことはできない。
     また、当委員会が実施したデジタル・フォレンジック調査(7 頁以下参照)に
    おいても、部長及び課員が、本件循環取引が架空ないしは循環取引であったこと
    を認識していたことを証する証拠は発見されなかった。
     よって、C 部及び D 課において、A 氏以外の者が、本件循環取引について架空
    ないしは循環取引であるとの認識があったとは認められない。


イ   関与会社について
(ア)P 社について
     P 社は、本件循環取引におけるノイ社と P 社の関係について、ノイ社が P 社
    に対し、「ノイ社が R 社に販売した製品代金」の回収業務を委託したものであっ
    たといい、2017 年 8 月 15 日に A 氏との間で作成した取引代行契約書はそれを定
    めたものであるという。しかし、A 氏にはそのような認識はなく、同契約書作成
    後も従前と同じく、ノイ社→P 社→R 社へ請求書などが送られ、従前と同様の形
    態の取引が行われていた。ノイ社及び P 社の関係が代金回収業務の委託といえ
    るのかについては、疑問が残るというべきである。
     A 氏は、本件循環取引は自分一人の判断で行った、架空の循環取引であること
    は誰にも話していないと述べているし、P 社も、架空循環取引であったことは知
    らないという。よって、P 社が本件循環取引について、A 氏と共謀した、あるい
    は主体的に関与したとは認められなかった。


(イ)R 社について
     R 社社長によれば、本件循環取引について、A 氏から詳しい説明を受けていな
    い。どんな商流なのか、製品が最終的にどこに販売されるのかも分からなかった。

                       22
     架空の循環取引だとは全く知らなかったという。もっとも、R 社のもとで製品の
     品番などを変更していることから、不安に思うこともあったが、P 社及びノイ社
     は大企業であり、大丈夫だろうとも思っていたという。
                             「取引額が増加していき、
     不安になった。A 氏の説明を聞きたいと思い、電話をするが、かからない。よう
     やく話を聞けても、A 氏の話はわかりにくく、よくわからなかった。」という。
     A 氏は委員会のヒアリングに対し、R 社社長の人のよさに甘えてしまった、人の
     よさを利用してしまった、と話していた。
       以上から、同社長が、本件循環取引について、何らかの不安、疑念を有して
     いたことが認められる。ただし、同社長は、架空の循環取引であることまでは知
     らなかったというし、A 氏も、本件循環取引は自分一人の判断で行った、誰にも
     話していないと述べているので、同社長が架空の循環取引であることまで認識
     していたとは認めることができなかった。
      また、R 社は、循環してくる製品の品名、枚数、単価などを書き替えており、
     本件循環取引の重要なプレイヤーではあるが、書き替えについては、A 氏が書き
     替える内容を R 社へ連絡し、R 社はそのとおり実行していただけであること、不
     安になって A 氏への説明を求めようとしていたことなどから、主導的な関与ま
     では認められなかった。


(ウ)Q 社、S 社、T 社、U 社、V 社及び W 社について
      Q 社、S 社、T 社、U 社、V 社及び W 社においては、本件循環取引が架空循環取
     引であるとの認識はなかった旨、説明している。本調査においても、 同社らが
     A 氏と共謀していた、本件循環取引に主体的に関与した、あるいは、本件循環取
     引が架空ないしは循環取引であることを認識していたという積極的な証拠は見
     つからなかった。


ウ    結論
     よって、本報告書では、本件循環取引は A 氏の単独での犯行であったと結論付け
 る。


3    長期にわたって発見されなかったこと
     本件循環取引は 2014 年 9 月にスタートし、2020 年 9 月 4 日に A 氏自身が自白
    するまで発覚しなかった。6 年にもわたって発見されなかったことは、内部統制
    上、より大きな問題を含んでいる。発見が遅れたことの原因としては、発生原因
    となった上記事情の他に、在庫調査の不備、財務部門による統制の不備、内部監
    査の不備を指摘することができる。



                           23
(1)在庫調査の不備
   受渡担当は、担当する事業部について、毎月、倉庫に対し文書での在庫確認を
  行っていた。本件循環取引についても、帳簿に記載された在庫をもとに在庫一覧
  (「受払明細表」)を作成し、保管先だとされた甲倉庫へ郵送して、在庫の確認
  を行っていた。受払明細表に記載された在庫は「架空在庫」が含まれているた
  め、実際の在庫とは大きく異なるはずであるが、甲社では受払明細表に記名押印
  して受渡担当へ返送していた。甲社によれば、「受払明細表」の内容がわかりに
  くく、また、保管貨物は段ボールなどに梱包されていて中身が分からないため、
  そのまま記名押印して返送していたとのことであった。
   また、甲社では、同社が保管している製品について、毎月、保管料の請求書を
  東京営業業務課へ送付していた。甲社からの請求書の記載と、会社の帳簿上の在
  庫を対比すれば、営業業務課では在庫の異常に容易に気づくはずであった。とこ
  ろが、甲社からの請求書には保管製品の明細がなく、営業業務課では、請求書の
  記載と帳簿上の在庫との齟齬に気づくことがなかった。なお、本件循環取引の発
  覚後、大和紡績では、甲社に対し、保管料の請求書に保管製品の明細書の添付を
  求め、現在は、請求書の記載から保管製品の明細がわかるようになっている。
   以上のように、本件循環取引に関する調査によって、外部倉庫における在庫確
  認の不備を認めた。
   なお、在庫の確認方法には、倉庫が在庫を記載し、その文書によって大和紡績
  が確認する方法と、大和紡績が帳簿在庫を集計して外部倉庫へ送付し、倉庫がこ
  れに確認印を押印して返送する方法がある。本件では、後者の方法によって在庫
  確認をしており、不十分な確認しかできていなかったため、当委員会では、後者
  の方法によって在庫確認をしている他の外部倉庫について、倉庫から発行された
  保管料請求書に記載の製品と、大和紡績の帳簿在庫を対比することなどによって
  改めて在庫確認を行った。その結果、全ての倉庫について、在庫に異常は認めら
  れなかった。


(2)財務データが活用されていない
   本件循環取引では、売上及び在庫とも、年々、大幅に増額しており、通常の取
  引では説明しにくい状況になっていた。財務部では、毎月、取引ごとの売掛金の
  滞留状況を各課の課長へ送付し、回答を求めるが、一応の回答があれば、それ以
  上の追及はなくそのまま終了していた。
   また、売掛金については、取引先ごとに与信枠が設定され一定割合に達すると
  警告が出され、営業業務部では、担当課の課長へ通知し、回答を求めていた。も
  っとも、一応の回答があると、それ以上の対応をしていなかった。本件循環取引
  でも、A氏からの虚偽の説明を受け、そのまま終了していた。

                    24
      以上のように、会計不正を暴くための有力な財務データを取得しながら、それ
     を活用した内部統制の仕組みがないため、財務データを活用した統制が機能しな
     い状態が続いていた。


(3)内部監査の不備
      不祥事の防止のためには、発見統制手段としての内部監査が重要である。適切な
     内部監査がされていれば、長期にわたり不正が見逃されることはなかったであろう。
      ところが、従前の内部監査は、監査法人との協議の上で立案した監査スケジュー
     ルに従い、会計監査に帯同し、監査対象部署におけるヒアリングの実施、棚卸資産
     や固定資産の現物確認を実施するほかは、モニタリングが中心であった。たとえば、
     パソコンの画面を通じて、在庫、売掛金の滞留などを調べ、それに異常があれば、
     事情を聴取するなどである。したがって、営業部門においてどのような手順で売り
     がなされ、受渡担当者がどのようにチェックをしていたかを把握し、監査できてい
     なかった。
      また、在庫調査も内部監査の重要な役割であるが、監査室では、自社倉庫につい
     ては、年 2 回の実地棚卸をしていたものの、外部倉庫(外部業者が運営する倉庫)
     については、実地棚卸を行っていなかった。
      なお、大和紡績では、監査室の監査機能を強化するため、2019 年 9 月に内部監
     査規程を制定し、内部監査項目を定めるとともに、監査計画、監査報告を義務づけ
     た。これによって、適切な内部監査が実施されることが期待される。


 4    A 氏のその他の不正取引の可能性について
(1)C 部 D 課所属時期
      A 氏は、2010 年 4 月、C 部 D 課の課長となった。2012 年 4 月からは C 部副部長と
     して、本件循環取引の他に、α社、γ社向けの製品の販売、仕入を担当していた。
     本件循環取引の発覚後、大和紡績では、A 氏が担当した取引(販売及び購入)の全
     件について、本人の聴取、帳票の調査、取引先、取引時期、取引金額、その他の諸
     事情を検討しながら、取引の実在性のあるものを除外して本件循環取引の範囲を確
     定した。当委員会も同様の手法によって、実在性のある取引を除外し、更に、本件
     循環取引の範囲及び件数を確定したが、その過程において、重大な不正取引を発見
     することはなかった。
      実際にも、当委員会が実施したデジタル・フォレンジック調査においても、本件
     循環取引以外の不適切な取引について積極的な証拠は発見されていない。


(2)B 社所属時期



                             25
      A 氏は、2018 年 10 月、大和紡績の子会社である B 社へ転籍し、本件循環取引を
  自白した 2020 年 9 月 4 日まで勤務した。
      同社社長によれば、A 氏が具体的な取引の担当はしていないため、不適切な取引
  に関与する機会がなかった。また、B 社転籍後は、実父介護のための休暇や、私傷
  欠勤が続いた上に、2020 年 3 月以降はコロナ禍によって会社の活動が削減された
  ため、本格的に B 社の仕事には関わっていない。よって、同社で不適切な取引に関
  わったことはない。
      ちなみに、A 氏の B 社でのパソコンにはデジタル・フォレンジック調査がなされ
  ているが、本件循環取引以外の不適切な取引をうかがわせるデータは検出されてい
  ない。


(3)L 社
      A 氏は、大和紡績の子会社 L 社(既に解散し清算結了登記済)の取締役(非常勤)
     に就任していた時期がある。同社は、生地を販売していたが、2014 年 4 月から 2017
     年 6 月まで同社の取締役(非常勤)に就任していた。ただし、当時の同社社長によ
     れば、A 氏は、同社の業務に全く関わっておらず、名目のみの取締役であったとい
     う。よって、A 氏が L 社において不正な取引にかかわった形跡は認められない。


 5    監査役の監査について
      大和紡績の監査役、ノイ社の監査役から、監査の方法、本件循環取引及びその兆
     候についての情報などについて聴取した。監査役らは、取締役会などの重要な会議
     にはすべて出席しているが、本件循環取引に関する情報は全くなかった。また、内
     部統制システムによって、大和紡績及びその子会社の業務についても不正の防止及
     び不正の発見の仕組みができているが、どの部署も本件循環取引に気付くことがな
     かった。内部通報制度でも、本件循環取引及びその兆候に関する情報提供はなかっ
     た。
      以上の次第で、監査役としても、本件循環取引を知ることはできなかった。


 6    EY 新日本有限責任監査法人による監査について
      DWBHLD は、EY 新日本有限責任監査法人と監査契約を締結している。同監査契約
     では、DWBHLD 単体決算以外に、大和紡績及び大和紡績関係の 3 社(ノイ社、ポリテ
     ック社、プログレス社)を含む DWBHLD グループ全体の連結決算が対象になってい
     た。当委員会は、EY 新日本有限責任監査法人に対し、上記監査について照会し、本
     調査にあたっての参考とした。


第6    当社の財務諸表等への影響

                         26
 1    本件循環取引の金額及び損害額について
(1)本件循環取引金額の認定方法
      本件循環取引金額の認定方法は、以下のとおりである。
      まず、A 氏本人の供述から、本件循環取引を開始したとされる 2014 年度(2015 年
 3 月期)から 2020 年度(2020 年 4 月から 9 月末)までを対象期間として、取引データ
 ベースから D 課で計上された「売上加工買付一覧」データを抽出し、以下の認定基
 準に基づいて本件循環取引を集計した。


      (取引認定基準)
         以下①、②のいずれかに該当するものは本件循環取引と判定した。
         ①    A 氏の供述より、得意先が U 社、V 社又は W 社のいずれかへの売上取引
             は、すべて本件循環取引であると認定した。
         ②    A 氏 の 供 述 よ り 、 得 意 先 が P 社 又 は Q 社 の い ず れ か へ の売 上 取 引 に
             ついても、基本的には本件循環取引であると認定した。ただし、合理的な
             理由により明らかに正常であると判断できる取引は除外した。


(2)本件循環取引の金額
      上記方法によって認定した本件循環取引にかかる金額は以下の通りである。


     表 6.1   本件循環取引売上                                          (単位:百万円)
         年度          P社        Q社             V社     U社        W社        合計
        2014 年            72                                                72
        2015 年          326      107                                       433
        2016 年          476      327                                       803
        2017 年          620      396            84        50             1,150
        2018 年          915      457            53                  32   1,457
        2019 年        1,277      484                            130      1,892
       2020 年
                        620         20                                     640
      (4~9 月)
        TOTAL         4,306    1,791           137        50    163      6,447




(3)本件循環取引にかかる債権債務残高
      本件循環取引における 2020 年 9 月 30 日現在の売掛債権及び買掛債務残高は以
     下の通りである。



                                         27
             表 6.2                          (単位:百万円)
                                          売掛債権      買掛債務
               2020 年 9 月 30 日残高             898        635




(4)本件循環取引にかかる棚卸資産残高
     本件循環取引における 2020 年 9 月 30 日現在の棚卸資産残高は以下の通りであ
     る。
              表 6.3                (単位:百万円)
                                          棚卸資産
               2020 年 9 月 30 日残高             658




 2   今後の負担が見込まれる損失
     2020 年 9 月末において循環取引の途中過程で S 社において在庫となっている以
 下の買付予定金額については、今後の損失負担が見込まれる。


     表 6.4   今後の買付予定額                                    (単位:百万円)

                       買付予定金額              消費税             消費税込み

          9 月買付                    139             14              153

        10 月買付                     133             13              146

        11 月買付                     130             13              143

        12 月買付                     117             12              129

             合計                    520             52              572




第7   追加調査の実施
 1   本件買戻し案件
(1)調査の端緒
     当委員会が実施したアンケート(6 頁以下参照)において情報提供があり、回答
 者にヒアリングを行った。それらによると、2018 年 9 月ころ、C 部 E 課において、
 長期在庫になっていた製品を取引先へ販売し、その後、品番を変更して他社へ転売
 したというものであった。本件循環取引とは異なり実在する取引であったものの、


                                     28
 買戻し条件付き売買の可能性があること、買戻しを隠蔽するため当初の品番を変え
 て買戻しをするなど、本件循環取引と類似の要素があったこと、また、本件循環取
 引と同じ C 部で発生していたことから、より慎重な調査が相当である。このため、
 関係者へのデジタル・フォレンジック調査を含む詳しい調査が必要と判断し、当初
 の調査期間を延長して追加調査の実施を決定した。


(2)事実の概要
   C 部 E 課の関係者及び X 社などへのヒアリングを行うとともに、取引に関係する
 帳票などを入手し、概ね次の事実が認定できた。
   C 部 E 課では、不織布を仕入れ、販売しているが、2018 年 9 月当時、不織布 23,750
 mが長期在庫になり、在庫の処理に困っていた。そのため、F 部長と H 課長が相談
 し、F 部長が X 社に対し同不織布の在庫処分を依頼し、2018 年 9 月、X 社へ販売し
 た(以下、「本件不織布」という)。同時点での簿価は 257 円/m(総額 6 百万円)
 であったが、売却価格は、100 円/m(総額 2 百万円)とし、損失分 157 円(総額 4
 百万円)は、当該年度において在庫引当金から償却した。
  その後、顧客から不織布の引き合いがあると、ノイ社は X 社から必要量の本件不
 織布を買い入れて顧客に転売していた。その買戻し回数は、計 22 回、買い戻し合
 計は 13,250mである。なお、買い戻す際に、売却先の X 社から、売却した製品を買
 い戻すと社内でも問題になることから、H 課長が Y 社に介入を依頼し、X 社→Y 社
 →ノイ社へと買い戻した。また、同じ品番では買戻しがすぐに発覚するので、Y 社
 のもとで品番を変更して買い戻していた。ノイ社は上記の買戻しにあたり Y 社から
 120 円/m で仕入れ、顧客には 350~600 円/m で転売していた。
   なお、ノイ社から X 社への販売時に、買戻し特約があったかを調査した。H 課長
 によれば、X 社との交渉は F 部長が行ったので、不明とのことであった。F 部長に
 よれば、X 社への販売にあたり、ノイ社も本件不織布の販売先を探すのに協力する
 とは言ったが、買戻しの約束はしていないし、現在の残量を買取る義務もないとの
 ことであった。また、X 社も、「ノイ社とは買戻しの約束はない。X 社でも独自に
 第三者へ販売しているし、現在の残量をノイ社が買取る義務はない。」とのことで
 あった。




                        29
〈図2〉


                X社




                     Y社
       ¥100/m                  \120/m


        ノイ社                    ノイ社      顧客




 2    評価
     以上から、証拠上、X 社への販売にあたり買戻し特約を認定することはできなか
 った。本件は、本件不織布の在庫を続けることが困難なため、一旦は X 社へ在庫処
 分のため売却したが、その後、転売先が見つかるたびに、X 社から同不織布を必要
 量に応じて買い戻して転売していたものであって、取引自体に実在性があるし、違
 法性もない。
      もっとも、買戻しを会社に隠蔽するため、Y 社を意図的に介在させた上で、Y 社
 のもとで当初の品番を変更させており、明らかに不当な方法が駆使されている。こ
 のような処理が横行すれば、社内の規範意識を麻痺させ、大きな不正へと繋がりか
 ねない。しかも、部長、課長の上位者によってなされており、社内へ及ぼす悪影響
 はより深刻である。しかるべき再発防止策がなされるべきである。


第8    原因の究明
      本件循環取引の原因及び長期間にわたって発見が遅れてしまったことの原因は、
     業務手順規程がないこと、営業部内における統制の欠如、受渡担当による販売及び
     購入に関する統制の不備、在庫調査の不備、財務部門による統制の不備、内部監査
     の不備などである。しかし、より根源的な原因は、社内においてコンプライアンス
     及び内部統制に関する意識が十分に浸透していないこと、また、営業部門が管理部
     門に対して優位な地位にあるため、管理部門の統制を無視又は軽視しがちな社風で
     あろう。


 1    内部統制システムが社内に浸透していない



                          30
     大和紡績は、2011 年 12 月、コンプライアンス委員会及びコンプライアンス規則
    を設置・制定し、同社及びその子会社は、「法令を遵守することはもとより、企業
    倫理を十分認識し、社会人としての良識と責任をもって行動しなければならない。」
    と定めた。また、一定規模の企業にあっては、コンプライアンスは内部統制システ
    ムの構築及び運用によってはじめて実現できるため、同社においても内部統制シス
    テムを整備・運用することによって企業統治を行ってきた。しかしながら、不正の
    防止的統制手段(業務手順規程の制定、営業部署内での統制、物流課による統制)
    や発見統制手段(財務データを活用する仕組み内部監査)による統制が機能しなか
    ったために、本件循環取引の発生を許したばかりか、長期にわたって発見が遅れた。
     コンプライアンスの遵守を宣明し、意識しながらも、それが抽象的な標語、方針
    に止まり、それを内部統制システムの整備・運用によって具体化し実現するとの意
    識が不十分であったというべきであろう。そのような意識の一因として、同社が会
    社法上の大会社ではなく、会社法上、内部統制システムの整備・運用が義務づけら
    れていなかったことが考えられるが、同社は、2020 年 4 月、子会社 5 社の吸収合
    併に伴い、資本金を 35 億 4500 万円に増資し、会社法上の大会社になった。それに
    伴い、同年 5 月、
             「内部統制システムに関する基本的な考え方およびその整備状況」
    を定め、「当社および子会社の取締役・使用人の職務の執行が法令・定款に適合す
    ることを確保するための体制」の整備を宣明した。また、同年 7 月には財務内部統
    制委員会を設置し、同委員会規則を制定した。抽象的なコンプライアンスの意識が、
    これらの規程などによって、内部統制の視点を取り込んだ組織、仕組みとして具体
    化され、社内に定着していくことが何よりも望まれるというべきである。


2    社風について
(1)コンプライアンスを無視した営業活動の撲滅
     本調査の過程において、
               「営業が強くて、管理の言うことを聞かない」
                                   「営業は、
    管理を仕事の邪魔をしているとしか見ていない」などの声を聞くことが少なくなか
    った。
     言うまでもなく、事業会社にとって営業部門は重要である。そのため、多くの会
    社において、営業優位の社風が生まれ、管理部門の統制が無視又は軽視される状況
    が生じてきた。しかし、わが国のコンプライアンスに関する意識は近年大きく変化
    している。コンプライアンスを無視した営業活動はもはや許されないし、会社ぐる
    みでのコンプライアンス違反であれば会社自体の存続すら揺らぐことになる。特に
    上場企業やそれに準じる企業では、証券取引所の上場基準やコーポレートガバナン
    ス・コードなどのソフトローによっても、高いレベルのコンプライアンスが設定さ
    れ、厳格な遵守が求められる。今後は、コンプライアンスを無視した営業の撲滅と



                       31
     ともに、コンプライアンスを生かした営業の強化を意識すべきであり、そのために、
     社内の意識、価値観を大きく転換する必要がある。


(2)「営業優位の社風」の変革
     2006 年 1 月の旧大和紡績の分社化に伴い、事業会社の管理業務をアソシエ社が
 受託することになり、結果的に管理部門を弱体化させることになってしまった。
     内部統制システムの整備・運用には、管理部門の強化が不可欠である。そのため
 には、管理部門、管理機能の重要性を社内に定着させる必要がある。幸い、本件循
 環取引は、管理部門に多くの反省や自戒を生じさせており、管理部門からは、これ
 を機会に管理機能を強化させる必要がある、管理部門の責任を果たす必要があると
 の声が上がっている。また、2020 年 4 月に大和紡績が事業会社とともにアソシエ社
 を吸収合併し、管理部門も大和紡績の一部門になった。これを機会に、「営業優位
 の社風」を変革させ、管理部門が有効に機能する、社風、文化、組織を確立すべき
 である。


 3    具体的な原因
     本件循環取引が発生し、長期にわたって発見が遅れた具体的な原因は以下のとお
 りである。既に該当箇所で詳論しているので、要点のみ述べる。


(1)業務手順規程がないこと
      大和紡績には、販売及び購入に関する業務手順規程がない。それがないため、
     営業課員による単独での取引処理が放置されてしまったし、受渡担当者による販
     売及び購入に関する統制も、営業部の職位の上位者からの要求によって、形骸化
     されてしまう事態が生じていた。業務手順規程がないから、他者の担当職務への
     無関心、遠慮が生じ、他者によるチェックが効かない状態が生じていた。
      本件循環取引が発生した根源的な原因の1つといえよう。


(2)営業部署内での統制の欠如
      大和紡績は三事業本部に分かれ、その中でも事業内容は多種に分かれる。多くの
     部署では、営業課員による単独での取引処理は認められないが(上長の承認を要
     するなど)、製品・テキスタイル部などの一部の部署では、上長の承認なしに、
     営業課員が単独で処理を行っている。それは、営業効率だけを考えれば有用な点
     もあろうが、内部統制の観点からは不正の温床になりやすいから、原則として、
     許されるべきではない。このことが本件循環取引の大きな原因となった。




                      32
   例外的に、営業課員に単独処理の権限を与える必要があるときでも、業務上の
  メールは必ず上長を CC に入れる、すみやかな事後承認を求めるなどによって、
  不正が生じない環境をつくる必要がある。


(3)「受渡担当」による統制が機能していない
   ノイ社を含む大和紡績では、事業部署に受渡担当者を配置し、営業課員がおこな
 う販売及び購入については、受渡担当者が出荷、着荷などの管理を行う仕組みにな
 っていた。営業課員の取引を、営業課以外の東京営業業務課に属する受渡担当がチ
 ェックする仕組みであり、内部統制として有効な仕組みであった。ところが、業務
 手順規程がなく、あるべき手続が確定していないこともあって、営業部門からの、
 とりわけ職位の上位者からの圧力には統制が十分に効かないこともあった。本件循
 環取引は、その典型例であった。
   また、受渡担当者は、外部倉庫(甲倉庫)に対し、毎月、文書による在庫照会を
 おこない、帳簿上の在庫と照合する重要な職務を負っていた。ところが、文書照会
 方法の不備によって的確な在庫調査ができていないにもかかわらず、これに気づく
 ことがなかった。また、甲倉庫では、同倉庫が保管する商品について、東京営業業
 務課に対し、毎月、請求書を送付していたから、同営業業務課では、その請求内容
 を精査することによって、帳簿上の在庫と、実際の在庫との相違に容易に気づくこ
 とができたのに、これにも気づくことがなかった(以上は 24 頁参照)。そのため、
 本件循環取引が長期にわたって見過ごされることになった。


(4)財務データが有効に活用されていなかった
   会計上の不正が行われた場合、財務データに異常が出ることが多い。本件循環取
 引でいえば、売掛金や在庫が滞留し、財務データからもこれが看取できた。ところ
 が、営業業務部ではその情報を当該部署の課長へ連絡し、回答は求めるものの、そ
 の回答があればそれ以上の行動がなされていなかった。本件では、A 氏へ連絡をし
 たが、A 氏からの虚偽の回答があるとそのまま放置されてしまった。当該財務デー
 タを活用して、不正を統制するための具体的な仕組みがなかったために、発覚が遅
 れ、長期にわたって不正が放置された。


(5)十分な内部監査がされていなかった
   内部監査については、2019 年 9 月に内部監査規程が制定され、内部監査計画書
 が作成されるなどの整備が行われた。しかし、それまでの監査室の活動は、棚卸資
 産や固定資産の部分的な現物監査や、ヒアリング及びモニタリングが中心になって
 いたため、内部監査の機能を十分に果たせていなかった。内部監査の重要な機能で
 ある在庫確認についても、商品の約半分を保管する外部倉庫については実地棚卸が

                    33
 全く行われていなかった。内部監査は不正の発見統制手段として極めて重要である
 が、それが機能していなかったことが、本件循環取引が長期にわたって発見されな
 かった大きな原因となった。


第9   再発防止策の提言
     本件循環取引の発覚以降、大和紡績では、多岐にわたる具体的な再発防止策を
 策定している。同社の策定した再発防止策は概ね妥当であり、やや重複する点も
 あるが、中立公正の観点から、当委員会が重要と考える再発防止策を提言する。


 1   経営トップの強いリーダーシップによる社風の改革
     再発防止のための最も重要な施策は、コンプライアンス意識を内部統制システ
     ムに具体化させ、適切に運用することである。また、コンプライアンスの意識を
     織り込んだ営業への意識改革、営業優位の社風の是正である。いずれをとって
     も、そのためには営業部門及び管理部門にわたる全社的な意識改革が不可欠であ
     るが、それができるのは経営トップしかない。
      また、社風、社内の意識改革であるから、単発の施策ではなく、継続的な教
     育、研修が不可欠である。


2    業務手順規程の策定
     業務手順規程によって業務手順を確定することは、内部統制の基本である。昭
 和 57 年制定の「営業関係業務提要」は制定以降、全く改訂がなく、組織の変化、
 商品の変化、技術の変化などとともに、利用されなくなった。現在の組織、人的
 資源、IT資源、商流・商材の特性などを考量した、合理性がある規程を整備す
 る必要がある。また、営業効率だけでなく、コンプライアンスや内部統制を意識
 した内容とすべきである。営業部内における統制(営業課員による単独処理を認
 めない、販売及び購入を同一人に処理させないなど)、販売及び購入における受
 渡担当の役割及び位置づけもこの中に明記すべきである。


 3   内部統制システムの改善と適切な運用
     大和紡績は従前から、内部統制システムを利用しながら企業統治を行ってきた
 が、本件循環取引の反省を生かしながら、整備・運用の改善をなす必要がある。
 特に以下の点は重要であるから、実効性のある改善が強く望まれる。
       ・財務データを活用した不正防止の仕組みの構築(24 頁参照)
       ・内部監査の範囲及び内容の拡充(25 頁参照)
       ・在庫管理方法の改善。とりわけ、本件循環取引の大きな原因となった外部
        倉庫については、実地棚卸を組み合わせたうえで、実効性のある在庫管理

                       34
       の方法を整備する必要がある(25 頁参照)


4    偽造文書等への対策
     本件循環取引の特徴の1つは、多数の偽造・変造書類が作成・行使された点で
ある。パソコンのスキャン機能や市販ソフトを使用して簡単に作れるのに、社印
などもそれなりに精巧にできており、一見しても、偽造・変造とは気がつかな
い。このような書類の横行は、取引先との正常な取引を妨害するばかりか、社内
の内部統制機能を大きく阻害するから、その悪影響は計り知れない。
     再発防止策の第 1 は、就業規則等に偽造・変造書類の作成や行使を禁止する規
定をもうけ、違反者には厳しいペナルティを課す必要がある。また、継続的な研
修や広報を続け、偽造・変造書類の作成や行使を許さない社風を確立する必要が
ある。
     文書の決裁や確認を行う部署は、偽造・変造書類が使用される可能性あること
を認識したうえで、職務にあたることも重要である。
     文書の真正が疑わしい以上、社内、社外を問わず、直接の連絡による状況の確
認も必要であろう。
     将来的には、基幹システムの改修によって、決済過程に偽造・変造書類が介在
する余地のない仕組みを構築することが重要であるが、当面は上記施策の実施が
急務である。


5    内部通報制度の充実
    大和紡績では、2006 年 4 月に内部通報制度を発足させ、2020 年 4 月には社外窓
口も設けたが、2019 年に実施したグループ会社従業員を対象にしたアンケートで
は、半数ほどが制度を知らなかったし、知っている人の中でも、内部通報すると
不利益を被ると思った、秘密が守られないと思ったなどの誤解も多い。正確な理
解を広めるために継続的な広報が必要である。そのような広報活動が不正の抑止
策ともなる。


6    適切な人員の配置及び採用
     不正の抑止、不正の発見のため、定期的な従業員の配置転換を検討すべきであ
    る。営業効率を考えれば、従業員の配置転換は、短期的にはマイナスであろうが、
    中長期的には人材育成の機会にもなるし、組織の活性化にもなる。何よりも、不
    正の抑止、不正の発見のために重要である。本件循環取引が発覚した契機も、 社
                                       B
    への転籍によって、従前の不正を隠しきれなくなったからであった。
     また、今後、管理部門の機能強化が急務の課題になるが、そのためには、人員
    の補強が必要である。たとえば、大和紡績は、2020 年 7 月、財務内部統制委員会

                        35
    を設置するとともに、「財務内部統制委員会規則」を制定したが、そこでは、監
    査室が内部 統制にお い て大きな役 割を果た す ことが前提 にされて い る。そして、
    本件循環取引の発生によって、同委員会の役割は一層強化され、監査室の役割も
    増大するであろう。他方、管理部門の責任者へのヒアリングでは、全ての部署が
    人員、人材の不足を指摘している。管理部門における人員の補充、人員の育成は
    避けることができない課題であり、何らかの善処が求められるところである。


7    システム改修にも「不正の抑止」機能を強化すべきである
     不正の抑止、不正の発見のためには、それを意識した IT システムの構築が有効
    である。現在、大和紡績では基幹システムの改修を計画しているが、本件循環取
    引などを例としながら、不正抑止の機能を強化すべきである。


8    グループ体制のあり方
     大和紡績は 2020 年 4 月の合併によって、製品・テキスタイル事業本部(ノイ
    社)、合繊事業本部(ポリテック社)、産業資材事業本部(プログレス社)とい
    う業態の異なる三事業本部を有するとともに、ダイワボウレーヨン、ダイワボウ
    アドバンス、カンボウプラスなどを含む合計 20 ほどの子会社、孫会社、関連会社
    を有している。そのため、事業範囲は細分化し複雑化しており、大和紡績に長年
    在籍する者 でも、事 業 の全容を正 確に知る 者 はほとんど いないの が 実情である。
    その結果、 管理に要 す る人数や時 間が増大 し 、管理コス トを上昇 さ せる。他方、
    事業や会社 の垣根は 、 管理の見通 しを悪く さ せ、管理の 効率・精 度 を低下させ、
    不正の温床となりかねない。
     事業及び関連会社の整理は高度の経営判断を要し、軽々に論じることではない
    が、管理機能に視点を置くとき、今後の中長期的な経営課題の 1 つとして、認識
    する必要があろう。
                                              以上




                        36
                                                                                                                                                                                    別紙

                                                                      主 要子会社等 にお ける循環取引 の可能性




 社名                   ダイワボウレーヨン                                       バ
                                                              ダイワボウア ド ンス                                  カンボウプラス                                      朝 日加工


 業容      自社 工場 にお いて レー ヨン綿 を製造 し販売す る。            ライ セ ンス を取得 したブラン ド の製造、販売な ど。
                                                                      品                      原 反 の加 工 受託 、原 反 の加 工 販 売 。                原 反 の加 工 受託 、原 反 の加 工 販 売。



         パルプ 、重油、化学薬 品を仕入れ、 自社 工場 において             指定 工場 で製造 したブラン ド品を仕入れ、量販店 な どヘ   メー カ ー か ら受 託 され た原 反 に加 工 を施 す 。 ま たは 、 自  カ ンボ ウプラスの完全子会社 であるので 、商流はほぼ同
        レー ヨン綿 を生産 し販売す る。                        販売 している。                         社 で 原反 を仕 入 れ 、顧 客 向 け に特殊 加 工 して納 品す る。     じである。

       仕入は購 買 グル ー プ (以 下 :「 購 買G」 )が 行 い 、販売は     商品仕入は商品部 生産課 、販売は営業部 と分 離 してお     原反 を仕 入 れ 、加 工 品 を販 売 す る の で 、循 環 取 引は 生 じに  メ ー カ ー か ら受 託 され た原 反 に加 工 を施 す。 また は 、 自
      販売課 がお こな う。購 買G及 び販売課は機能 原料部 に属            り、1人 の担 当者 が仕入 と販売 を行 うことはない。      くい 。 また 、加 工 は各 顧 客 ご とに特 殊加 工 し汎 用性 が あま 社 で原 反 を仕 入 れ 、顧 客 向 けに特殊 加 工 して 納 品す る。
      し、同 じ部長 が担 当す るが、仕入業務 と販売業務 は課長以                                               りな い ので 、 そ の 意 味 で も循 環 取 引 の 可能性 は乏 しい。
      下では分離 されて い る。 また、仕入 品の現物管理 は購買G             受注生産な ので営業 が受注 し、そ の情報 を社 内シス テ ム                                              原反 を仕 入 れ 、加 工 品 を販 売 す る の で 、循 環 取 引は 生 じに
      ではな く、総務部業務課が管理 してい るので 、仕入 品 の実            に入力す ると、生産課 へ受注デ ー タが届 き、生産課 が仕入    管理体制 ≧しては、原反仕入 は製造部門、販売は営業部 くい。 ま た 、加 工 は各 顧 客 ご とに特 殊 加 工 し汎 用性 が あ ま
      在性 は常に確認 できている。                             を計上す る。                            門 と分離 してお り、注文書若 しくは指示書 がない と次の段 りな い の で 、そ の 意 味 で も循 環 取 引 の 可能性 は乏 しい 。
      そ もそ も、仕入品はパル プ、重油、化学薬 品等であるのに              ブラン ド品な ので指定 工場以外か らは仕入れ ることはな   階に進 めない体制になつてお り、1人 の担 当者 が原反仕入
      対 して 、販売品は 工場力 工 した レー ヨン綿 であるので 、循
                     日                            い。販売先 は量販 店 であ り、循環取引の可能性 は乏 しい。 と加 工後 の製 品販売 を行 うことはない。      管理体制 としては、原反 仕入 は製造部門、販売は営業部
循環取 引 環取引はな りたたない。                                                                                             門 と分離 してお り、また原反 は契約書 に基 づいて仕入計 上
の 可能性                                               取引先につい ては、主要な取引先に大 きな変動がな く、  取引先につい ては、主要な取引先 に大きな変動がな く、 する体制 になっているため、1人 の担 当者 が原反仕入 と加
         取 引先 に つ い て は 、 主要 な取 引先 に大 きな変 動 が な く、 またす べ ての取引先 に対 して売掛金 の滞留 がない。 またすべ ての取引先に対 して売掛金 の滞留 がない。   工後 の製 品販売 を行 うことは な い。
        ま たす べ て の 取 引先 に対 して売 掛金 の 滞 留 が な い 。
                                                                                             カ ンボ ウプ ラス はEY新 日本 有 限責任 監査 法 人 と監査 契約      取 引先 に つ い て は 、主要 な取 引先 に大 きな変 動 が な く、
         ダイ フボ ウ レー ヨンはEY新 日本有限責任監査法人 と監査                                                  を してい る の で 、 内部 統 制 の フ ロー チ ャー ト び リス ク コ ま た売 掛 金 につ い て は、す べ て の 取 引先 に対 して 毎月
                                                                                                                             及
        契約 を しているので 、内部統制 のフロー チ ャー ト及び リス                                                 ン トロー ル マ トリック ス を基 に、 監査 法人 が実施 した運 用 チ ェ ック を してお り売掛金 の 滞 留 が な い。
        ク コン トロールマ トリックス を基 に、監査法人 が実施 した                                                  テ ス トの 実施 状 況及 び結 果 につ い て ヒア リン グ した。
        運用テ ス ト 実施状況及び結果 について ヒア リング した。
               の




      在庫 は、 自社 工場内 と外 部倉庫 に保管 してい る。 自社 工 在庫 は高額 なブ ラ ン ド品なので在庫管理 は特 に厳 しく注                 在庫は 自社 工場内 と外 部倉庫 にて保 管 してお り、いずれ  在 庫 に つ い て は、全 て 自社 工 場 内 に あ り、外 部倉 庫 の利
     場内 と同工場近 くの外部倉庫 について は、いずれ も年 2回 意 してい る。                                             も定期的に在庫確認 を行 ってい る。                用 は な い。
     の実棚 を行 い 、 うち 1回 は監査法人の立会 を受 けて い る。
                                          在庫 は、全 て外 部倉庫 で保管す る。外部倉庫は実棚 は し                  外部倉庫 について は、定期的 に社 内 の在庫デ ー タか ら出  自社 工場内在庫 について は、 いずれ も定期的に在庫確認
      遠方 の外部倉庫 について は、実棚は していないが、倉庫 ていないが 、倉庫 か ら保管料 の請求 とともに保 管品 のデ ー                     力 した在庫表 を倉庫に送 り、倉庫が数量確認後 に押印 され を行 つて お り、差異があればそ の原 因を究明 して、修 正 し
     か ら保管料の請求 とともに保 管品の在庫表が届 くので 、そ タが届 くので 、それ を社 内 の在庫デ ー タ と照合 し、在庫確                   た もの を入手 して、在庫確認 を している。又半年 に 1回 実 てい る。帳簿在庫 と実棚 とに異常な差異はない。
     れ を社 内 の在庫デ ー タ と照合 し、在庫確認 を している。現 認 を している。現在異常はない。                                 地棚卸を して現物 の確認 を してお り、差異があればそ の原
     在異常はな い。                                                                              因 を究明 して 、修 正 してお り、現在異常はない。
在庫確認
     監査法人か ら外部倉庫 に対 して 直接残高確認 がな されて い                                                     監査法人 か ら外部倉庫 に対 して直接残高確認 がなされてい
     る。                                                                                    る。