2784 アルフレッサHD 2019-12-26 16:00:00
「第三者による特別調査委員会」からの調査報告書の受領について [pdf]

                                               2019 年 12 月 26 日

各 位

                     会 社 名    アルフレッサ ホールディングス株 式 会 社
                     代表者名     代 表 取 締 役 社 長        久保    泰三
                                       (コード番号2784 東証一部)
                     問 合 せ先   コーポレートコミュニケーション部長   根本    壮一
                                       (TEL:03-5219-5102)


      「第三者による特別調査委員会」からの調査報告書の受領について

 当社は、2019 年 6 月 7 日付「当社連結子会社における調剤報酬請求に係る不適切行為の判明と第
三者による特別調査委員会の設置に関するお知らせ」で開示いたしましたとおり、当社と直接的な利害
関係を有しない社外有識者(弁護士)のみを委員とする、第三者による特別調査委員会(以下「本委員
会」といいます。)を設置し、当社連結子会社における薬剤服用歴管理指導料に係る不適切行為等につ
いて調査を依頼いたしました。
 本日、本委員会から調査報告書を受領いたしましたので、下記のとおりお知らせいたします。


                          記


1.調査報告書の概要


 本委員会の調査は、当社連結子会社のアポロメディカルホールディングス株式会社(以下「アポロメ
ディカル」といいます。)と株式会社日本アポック(以下「日本アポック」といいます。)を対象にしています。
調査対象とした調剤薬局の店舗数は、アポロメディカルが 104 店舗、日本アポックが 67 店舗、合計 171
店舗で、調査対象期間に営業していた調剤薬局の全店舗となります。
 本委員会は、調剤報酬請求時に薬剤服用歴管理記録(以下「薬歴」といいます。)が未記載であった
にも関わらず、薬剤服用歴管理指導料を加算して調剤報酬を請求していたもの(以下「請求時薬歴未
記載」といいます。)と、厚生労働省の各地方厚生局による個別指導に基づく自主返還金額を過少報告
する目的で、請求時薬歴未記載に係る電子薬歴管理システムの日付データを遡って変更して薬歴を入
力したもの(以下「薬歴の改ざん」といいます。)について調査いたしました。また手法としては、調査対
象会社の電子薬歴管理システムのログデータ分析、全役職員に対するアンケート調査及び一部の役
職員に対する個別面談等を実施しました。
 調査報告書にはその具体的な調査手法と判明した事実、および薬歴の改ざんに関する経緯等が記
載されており、また本委員会がまとめた原因分析と再発防止策の提言も含まれています。
 詳細につきましては別添の調査報告書をご覧ください。なおプライバシー及び機密情報保護の観点
から部分的な非開示措置(略称の変更を含む。)をいたしております。


                          1
2.調査結果


(1)アイランド薬局ほくしん店
アポロメディカルが運営するアイランド薬局ほくしん店(北海道北広島市。以下「ほくしん店」といいま
す。)における 2013 年 6 月~2019 年 4 月までの 71 ヵ月間の調剤報酬請求のうち、請求時薬歴未記載
の件数は 14,422 件(応需処方箋枚数合計に対する比率 15.2%)で、自主返還金額(概算)は 5,938,390 円
となります。このうち薬歴の改ざんは 14,404 件(応需処方箋枚数合計に対する比率 15.2%)となります。
また、ほくしん店の管理薬剤師が北海道厚生局の個別指導に際し多数の請求時薬歴未記載が存在
していることに苦慮して自発的に未記載の薬歴に後追いで入力を始めたことと、その後、ほくしん店の
管理薬剤師等がアポロメディカル本社の管掌役員から薬歴の改ざん指示を受けて、北海道厚生局によ
る個別指導に基づく自主返還金額を過少報告する目的で、電子薬歴管理システムの日付データを遡っ
て変更して薬歴を入力し、多数の薬歴の改ざんを実行したことが事実として確認されています。


ほくしん店の請求時薬歴未記載について、合計および年度別には以下の通りです。
                                        応需処方箋枚数
            年 度                件数
                                        合計に対する比率
2013 年 6 月~2014 年 3 月(10 ヵ月)   5,011      29.9%
2014 年 4 月~2015 年 3 月(12 ヵ月)   3,433      14.4%
2015 年 4 月~2016 年 3 月(12 ヵ月)   2,781      20.4%
2016 年 4 月~2017 年 3 月(12 ヵ月)   2,086      16.0%
2017 年 4 月~2018 年 3 月(12 ヵ月)    963        7.2%
2018 年 4 月~2019 年 3 月(12 ヵ月)    147        1.1%
2019 年 4 月(1 ヵ月)                 1         0.1%
合計(71 ヵ月)                      14,422     15.2%
※2019 年 5 月以降、請求時薬歴未記載は確認されていません。


(2)アポロメディカルが運営する、ほくしん店以外の店舗
アポロメディカルが運営する、ほくしん店以外の店舗における 2014 年 1 月~2019 年 4 月までの 64 ヵ
月間の調剤報酬請求のうち、請求時薬歴未記載の件数は 162,569 件(応需処方箋枚数合計に対する
比率 2.1%)で、自主返還金額(概算)は 67,407,990 円となります。このうち薬歴の改ざんは、調査の結果、
確認されていません。


(3)日本アポックが運営する全店舗
日本アポックが運営する全店舗における 2014 年 1 月~2019 年 4 月までの 64 ヵ月間の調剤報酬請
求のうち、請求時薬歴未記載の件数は 67,586 件(応需処方箋枚数合計に対する比率 0.9%)で、自主返
還金額(概算)は 28,040,620 円となります。このうち薬歴の改ざんは、調査の結果、確認されていませ
ん。
なお各地方厚生局の個別指導等とは関係ない時期に電子薬歴管理システムの日付データを後日変
更していた請求時薬歴未記載が、調査の結果、1,092 件確認されております。これは請求時薬歴未記



                                 2
載の合計に含まれており、今後、調剤報酬を返還する予定です。また、調剤報酬の請求締切日時点で
薬歴が記載されていたため請求時薬歴未記載の合計には含まれていませんが、個別指導前に薬歴に
一部記載を追記し、電子薬歴管理システムの日付データを後日変更したものが、調査の結果、236 件
確認されています。


上記(2)(3)の請求時薬歴未記載について、合計および年度別には以下の通りです。


                                  アポロメディカル
                                                     日本アポック
                                   (ほくしん店除く)
             年 度                          応需処方箋            応需処方箋
                                 件数       枚数合計に   件数       枚数合計に
                                          対する比率            対する比率
 2014 年 1 月~2014 年 3 月(3 ヵ月)    30,206     9.3%   11,857    3.5%
 2014 年 4 月~2015 年 3 月(12 ヵ月)   74,312     5.7%   29,210    2.1%
 2015 年 4 月~2016 年 3 月(12 ヵ月)   16,836     1.3%   4,504     0.3%
 2016 年 4 月~2017 年 3 月(12 ヵ月)   15,044     1.1%   7,857     0.5%
 2017 年 4 月~2018 年 3 月(12 ヵ月)   14,786     1.0%   8,577     0.6%
 2018 年 4 月~2019 年 3 月(12 ヵ月)   10,302     0.6%   5,549     0.4%
 2019 年 4 月(1 ヵ月)                1,083     0.7%    32       0.0%
 合計(64 ヵ月)                      162,569    2.1%   67,586    0.9%
 ※2019 年 5 月以降、請求時薬歴未記載は確認されていません。


アポロメディカルおよび日本アポックは請求時薬歴未記載であったと確認された調剤報酬請求(薬歴の
改ざんを含む)について、今後、調剤報酬を返還する予定です。



3.再発防止に向けた対応策


 今回の特別調査委員会の報告書の内容を受け、以下の再発防止策をアポロメディカルおよび日本
アポックで徹底いたします。さらに、当社としても管理・監督体制を強化し、再発防止に取り組んでまい
ります。
 なお本委員会の再発防止策に関する提言は別添の調査報告書をご参照ください。


 ① 適正人員の確保
    ・調剤薬局の薬剤師・事務員等の適正配置と必要に応じた増員・再配置


 ② 社内ルールの明確化
    ・薬歴記載マニュアルまたは薬歴記載手順書の策定
    ・賞罰規定における調剤報酬請求の不適切行為に関する責任と処分の明文化



                                     3
 ③   管理体制の強化
     ・社内ルールの周知徹底および適正な運用の管理強化
     ・本社による監査・指導の徹底


 ④   新システムの構築・導入
     ・薬歴の改ざんができないシステムの構築
     ・薬歴記載時間を短縮できるシステムの導入


 ⑤   社内研修の充実
     ・コンプライアンス遵守と薬歴の速やかな記載等に関する研修の継続的実施


 ⑥   コンプライアンス違反を許さない企業風土の醸成
     ・会社幹部による意識改革の徹底および全社改革の推進
     ・全役職員による公正・誠実な業務遂行およびコンプライアンス遵守のための意識改革


 ⑦ 内部通報制度の充実・強化
     ・通報窓口の周知徹底
     ・通報者の保護体制の強化



4.関係者の人事上の措置について


アポロメディカルおよび日本アポックは、本委員会による調査報告書の内容を真摯に受け止めており
ます。両社における人事上の措置は以下の通りです。


(1)アポロメディカル
  1)取締役の異動および職掌変更(2020 年 1 月 1 日付)
            新役職                現役職    氏名
     取締役               常務取締役
                                     脇屋 明彦
     特命担当              管理本部長


  2)取締役の辞任(2019 年 6 月 13 日付)
     取締役               日向寺 康人




                                4
  3)取締役報酬の自主返上(2020 年 1 月から)
   代表取締役社長           都筑 朋英             月額基本報酬額の 10% (1 ヵ月)
   常務取締役             原 孝順              月額基本報酬額の 10% (1 ヵ月)
  ※代表取締役社長の都筑朋英は、前任の代表取締役会長兼社長である我妻照男の逝去に伴い、
   2019 年 5 月 30 日より現職に就任しています。


(2)日本アポック
  1)取締役および執行役員の辞任(2019 年 12 月 26 日付)
   取締役 執行役員          須田 充彦


  2)取締役報酬の自主返上(2020 年 1 月から)
   代表取締役会長           犬竹 一浩             月額基本報酬額の 10% (3 ヵ月)
   代表取締役社長           金本 鎭久             月額基本報酬額の 10% (3 ヵ月)
   取締役 執行役員          本間 智久             月額基本報酬額の 10% (1 ヵ月)


(3)社員の処分(アポロメディカルおよび日本アポック)
  関係した社員及びその監督者に対して、社内規定に基づき厳正に処分を行います。



5.業績に与える影響について


2019 年 6 月 7 日付開示でお知らせしましたとおり、当社は過年度における金額的な重要性は乏しい
ものと判断しており、当期会計年度の業績予想に変更はありません。また過年度の有価証券報告書、
四半期報告書、内部統制報告書および決算短信の訂正も行わない予定です。


当社の株主、投資家、市場関係者および取引先などのステークホルダーの皆様には、多大なご心配
とご迷惑をおかけいたしましたことを深くお詫び申しあげます。当社としましては、当社グループ役職員
が一丸となり信頼回復に努めてまいります。今後ともご支援ご協力を賜りますようお願い申しあげます。


                                                        以 上




                               5
                                    2019 年 12 月 26 日

各 位
                           アルフレッサ ホールディングス株式会社




         「第三者による特別調査委員会」からの報告について


 当社は、「第三者による特別調査委員会(委員長:政木道夫弁護士)」から本日、調査報告書を受領
いたしましたので、公表いたします。
                                              以 上
                              令和元年12月26日

アルフレッサ ホールディングス株式会社   御中




        調   査    報      告     書




                  特別調査委員会



                      委員長   弁護士   政   木   道   夫



                       委員   弁護士   深   山   美   弥



                       委員   弁護士   松   尾   宗太郎
                                                         目           次
第1       調査の概要
1 当委員会設置の経緯 ..................................................................................................... 1
2 当委員会の構成............................................................................................................. 1
3 当委員会の目的............................................................................................................. 2
4 調査期間........................................................................................................................ 2
5 本調査の限界 ................................................................................................................ 2
第2       調査の方法
1 薬歴の記載状況に関する特別調査チーム及び対策本部による調査 ............................ 3
2 アポロメディカル及び日本アポックの役員及び従業員に対するアンケート調査....... 4
3 関係者のメール分析 ..................................................................................................... 4
4 アポロメディカル役員及び従業員に対するヒアリング............................................... 4
5 日本アポック役員及び従業員に対するヒアリング ...................................................... 4
6 アポロメディカル及び日本アポックの社内資料の検討............................................... 5
第3       前提事実
1 調剤薬局における薬歴の記載の必要性 ........................................................................ 5
2 「指導後速やかに」薬歴に記載することの意味.......................................................... 6
3 薬歴に未記載の状態で薬剤服用歴管理指導料を請求する行為について ..................... 6
4 薬歴の改ざん ................................................................................................................ 7
第4       アポロメディカルについて判明した事実
1 アポロメディカルの概要 .............................................................................................. 7
2 薬歴の改ざん件数,調剤報酬請求時に薬歴未記載であった件数等 ............................ 7
3 アポロメディカルが運営する調剤薬局全店舗の薬歴記載状況等 ................................ 9
4 薬歴未記載に対するアポロメディカルの指導状況 .................................................... 10
5 ほくしん店における不適切行為について................................................................... 12
第5       日本アポックについて判明した事実
1 日本アポックの概要 ................................................................................................... 17
2 薬歴の改ざん件数,調剤報酬請求時に薬歴未記載であった件数等 .......................... 17
3 日本アポックが運営する調剤薬局の薬歴記載の状況 ................................................ 18
第6       不適切行為の原因
1 概要 ............................................................................................................................. 21
2 ほくしん店における事情 ............................................................................................ 21
3 店舗の薬剤師不足 ....................................................................................................... 22
4 アポロメディカルの管理・指導体制 .......................................................................... 22
5 アポロメディカルのコンプライアンス意識 ............................................................... 23
6 日本アポックのコンプライアンス意識 ...................................................................... 24
第7       再発防止策の提言
1 環境面の整備 .............................................................................................................. 25
2 コンプライアンス意識の醸成と社内風土改革 ........................................................... 27
別紙1・メールの調査対象者
別紙2・ヒアリング対象者一覧(アポロメディカル)
別紙3・ヒアリング対象者一覧(日本アポック)
第1 調査の概要


1 当委員会設置の経緯
  アルフレッサホールディングス株式会社(以下「アルフレッサHD」という。)
 は,平成31年4月24日,新聞社からファックスで取材依頼と質問事項が記載
 された書面を受領した。同書面には,アルフレッサHDの連結子会社であるアポ
 ロメディカルホールディングス株式会社(以下「アポロメディカル」という。)が
 経営するアイランド薬局ほくしん店(以下「ほくしん店」という。
                              )が,平成30
 年6月に北海道厚生局による個別指導を受け,薬剤服用歴管理記録(以下「薬
 歴」ということがある。
           )が未記載であったのに薬剤服用歴管理指導料を算定して
 調剤報酬請求していたこと等を指摘されたこと,過去5年分を自己点検した上で
 不適切な算定分を自主返還するよう求められ,返還対象の未記載薬歴が1万30
 00件以上あったにもかかわらず,後から薬歴を改ざんすることにより未記載薬
 歴を約240件まで減らし,同厚生局に虚偽報告をしたこと等の指摘がなされて
 いた。
  これに対し,アルフレッサHDは,平成31年4月25日に社内のメンバーに
 よる特別調査チームを立ち上げるとともに,令和元年5月13日にはアルフレッ
 サHD代表取締役社長を本部長とする対策本部(以下「対策本部」という。)を設
 置して事実関係の調査を開始したところ,ほくしん店が,一部の薬歴につき未記
 載の状態で薬剤服用歴管理指導料を算定して調剤報酬請求していた上,自己点
 検・自主返還の際に薬歴を改ざんして未記載件数を減らしていたこと,改ざんの
 際には薬歴記載の日時を遡らせて記載していたことのほか,アポロメディカルの
 役員が返還額を減らすよう指示していたことがうかがわれた。
  そこで,アルフレッサHDは,外部の弁護士のみで構成する特別調査委員会
 (以下「当委員会」という。
             )を設置し,①かかる不適切行為に係る事実関係の調
 査及びアポロメディカルのほか,同じくアルフレッサHDの連結子会社である株
 式会社日本アポック(以下「日本アポック」という。)が経営する調剤薬局を対象
 とする類似事案の有無の調査,②アポロメディカルのコンプライアンス及びガバ
 ナンス上の問題点の調査,③上記①及び②で確認された事実関係,問題点の原因
 分析並びに再発防止策の提言,④上記のほか,当委員会が必要と認めた事項等を
 依頼した。


2 当委員会の構成
  当委員会は,弁護士政木道夫を委員長とし,弁護士深山美弥及び弁護士松尾宗
 太郎を委員とする3名で構成され,補助者として,弁護士3名が調査に携わって


                  1
 いる。


3 当委員会の目的
  当委員会の目的は
 ①ほくしん店の不適切行為に係る事実関係の調査並びにアポロメディカル及び日
  本アポックが運営する調剤薬局における類似の不適切行為の有無の調査
 ②アポロメディカルのコンプライアンス及びガバナンス上の問題点の調査
 ③上記①及び②で確認された事実関係,問題点の原因分析並びに再発防止策の提
  言
 ④上記のほか,当委員会が必要と認めた事項
 である。
  なお,①の類似の不適切行為の有無については,平成26年1月から平成31
 年4月までの64か月間を対象とする。薬歴未記載の状態で薬剤服用歴管理指導
 料を算定して調剤報酬請求した件数,自主返還すべき金額の算定,薬歴の改ざん
 の有無・件数等の電子薬歴管理システムを使用する調査は,アルフレッサHDの
 特別調査チーム及び対策本部の調査方法等を検証した上でその調査結果に依拠し
 ている。
  また,調査によって判明した事実等については,ほくしん店の不適切行為を中
 心に,アポロメディカル及び日本アポックに認められた不適切行為,その背景事
 情,その他不適切行為の原因となり得るコンプライアンス意識及び管理・指導体
 制について指摘する。再発防止策については,薬歴未記載や不適切行為が行われ
 得る環境はアポロメディカル及び日本アポックに共通のものと考えられたため,
 合わせて指摘することとする。
  以下,当委員会が行う調査を「本調査」という。


4 調査期間
  当委員会が本報告書に係る調査に要した期間は,令和元年6月7日から同年12
 月25日までである。


5 本調査の限界
   本報告書は,令和元年12月25日現在,当委員会が取得している情報に基づ
 いて作成されているが,本報告書に係る調査は,あくまで任意の調査であり,資
 料収集等について任意調査によることの限界が存在した。


第2 調査の方法
  当委員会による本調査は,以下の方法で行った。


                   2
    1 薬歴の記載状況に関する特別調査チーム及び対策本部による調査
     薬歴の記載状況に関する一次的な調査は,アルフレッサHDが組織した特別調
    査チーム及び対策本部が次のとおり行った。
(1)日時を遡らせて記載した薬歴の調査方法
     アポロメディカル及び日本アポックが運営する調剤薬局では,薬歴を手書きし
    ている9店舗を除き,電子薬歴管理システムを採用している。店舗により使用さ
    れている電子薬歴管理システムは異なるが,株式会社甲(以下「甲」という。,
                                      )
    株式会社乙(以下「乙」という。)の丙(以下「丙」という。)及び丁(以下
    「丁」という。,株式会社戊(以下「戊」という。,己株式会社(以下「己」と
           )              )
    いう。,株式会社庚(以下「庚」という。
      )               )及び株式会社辛(以下「辛」とい
    う。)のいずれかのシステムが使用されていることが確認された(以下,特定の会
    社の電子薬歴管理システムのことを,その会社名のみで記載することがある。。
                                      )
     このうち,甲,己,庚及び辛については,同システムにログインして行われる
    全ての作業に,店舗では変更できないログがあり,これが時系列で記録されるこ
    とから,日時を遡らせて薬歴を記載・修正した場合,記載日時とログの時系列が
    整合しないこととなる。そこで,かかる時系列が整合しないログについては,該
    当する薬歴を検証することにより,日時を遡らせて薬歴を記載・修正したものを
    特定した。
     丙については,店舗では変更できないログを出力する機能が存在しないことか
    ら,対策本部がメーカーに分析ソフトの新規開発及び分析を委託し,日時を遡ら
    せて薬歴を入力した記録を分析させ,回答を得た。
     それ以外の電子薬歴管理システムでは,上記各方法による分析はできず,手書
    き記載についても客観的な分析はできなかったが,ほくしん店を除く全店舗1の薬
    剤師及び事務員全員を対象にヒアリングを実施し,日時を遡らせて薬歴を記載し
    た経験の有無を調査するとともに,同内容のヒアリングシートにも回答させた
    上,署名させた。
     当委員会は,特別調査チーム及び対策本部による上記調査の方法,調査の過程
    及び調査結果につき,調査担当者のヒアリング及び当委員会が実施したヒアリン
    グ等の調査結果との整合性の点検,並びに,特別調査チーム及び対策本部が日時
    を遡らせて薬歴を記載したと認定した薬歴の中から任意に抽出した2か月分のロ
    グ及び薬歴を点検することにより,適切に実施されていることを確認した。
(2)薬歴未記載件数の調査方法
      電子薬歴管理システムを使用している店舗では,ツールを用いて薬歴未記載の


1
 後述のとおり,ほくしん店は甲を使用しており客観的な分析が可能であった。また,対
策本部がヒアリングを実施した時点ではアポロメディカルの1店舗及び日本アポックの2
店舗が閉店していたことから,ヒアリングの対象となったのは167店舗である。

                      3
 件数を検索することにより,薬歴が記載されていない件数を調べることができる
 ことから,この方法で薬歴未記載件数を確認した。手書き記載の店舗について
 は,当委員会が実施したアンケートやヒアリングにより確認した。


2 アポロメディカル及び日本アポックの役員及び従業員に対するアンケート調査
  アポロメディカルの役員及び従業員合計836名(休職者を除き,派遣社員を
 含む。,並びに,日本アポックの役員及び従業員等合計594名(休職者を除
    )
 く。)に対しアンケート調査を実施し,全員から回答を得た。アンケートの実施
 にあたっては,回答内容がアルフレッサHD,アポロメディカル及び日本アポッ
 クに知られることがないよう,アンケート用紙を封緘して当委員会に送付する
 か,回答者が当委員会に直接ファクシミリ送信して回答する方法を採り,その旨
 を周知して協力を求めた。


3 関係者のメール分析
 ほくしん店の不適切行為に関し,アポロメディカル第一事業部幹部,ほくしん
店,取締役及び元取締役のメールを分析した。ただし,一部の社内メールは消去
されていたため,可能な限り復元して分析することとした。メール分析の対象者
は別紙1のとおりである。


4 アポロメディカル役員及び従業員に対するヒアリング
 ほくしん店における不適切行為について,当時ほくしん店で勤務していた薬剤
師及び事務員,並びに,ほくしん店を所管する第一事業部部長,次長,マネージ
ャー(マネージャーは2名おり,うち1名は不適切行為当時にほくしん店管理薬
局長(薬局の管理者のことであり,以下では「管理薬剤師」という。)を兼任して
いた者である。)合計9名(12回)のヒアリングを行った。
  また,ほくしん店及び第一事業部の幹部以外に,アポロメディカルの社長以下
 の役員及び従業員合計33名(34回)のヒアリングを行った。
  アポロメディカルの役員及び従業員に対するヒアリングの内訳は,別紙2のと
 おりである。


5 日本アポック役員及び従業員に対するヒアリング
  日本アポックの会長以下の役員及び従業員合計38名(52回)のヒアリング
 を行った。
  日本アポックの役員及び従業員に対するヒアリングの内訳は,別紙3のとおり
 である。



                  4
6 アポロメディカル及び日本アポックの社内資料の検討
  アポロメディカル及び日本アポックの組織に関する資料,業務内規,調剤内
 規,各種マニュアル,薬歴未記載に関する情報を含む社内報告書,過去の個別指
 導に関する資料,幹部会議の議事録等を分析した。


第3 前提事実
1 調剤薬局における薬歴の記載の必要性
(1)薬歴
  薬歴については,厚生労働省保険局医療課医療指導監査室が発行する「保険調剤
 の理解のために(平成30年度)」の「Ⅲ調剤報酬点数表における留意事項   5薬
 学管理料 (1)薬剤服用歴管理指導料 ①薬剤服用歴の記録」において,
                                  「薬歴の
 記録は患者情報を集積したものであり,適切な服薬指導を行うためには必要不可欠
 なものである。処方箋の受付の都度,患者情報を確認し,新たに収集した患者の情
 報を踏まえた上で,その都度過去の薬歴を参照した上で,必要な服薬指導を行う。
 薬剤服用歴の記録は,調剤報酬請求(薬学管理料)の根拠となる記録である。薬剤
 服用歴の記録への記載について,指導後速やかに完了させるとともに,同一患者に
 ついての全ての記録が必要に応じ直ちに参照できるよう患者ごとに保存・管理す
 る。」旨説明されている。
  すなわち,服薬指導後薬歴への速やかな記載を完了させることは,薬剤師がその
 都度患者の過去の薬歴を参照して適切な服薬指導を行うために必要不可欠である
 とともに,薬剤服用歴管理指導料の請求の要件となっている。


(2)薬歴の記載事項
  薬歴の記載事項は,次のアからサのとおりである(前記「保険調剤の理解のため
 に(平成30年度)
         」参照)。
 ア 患者の基礎情報(氏名,生年月日,性別,被保険者証の記号番号,住所,必要に
  応じて緊急連絡先)
イ 処方及び調剤内容(処方した保険医療機関名,処方医氏名,処方日,処方内容,
 調剤日,処方内容に関する照会の内容等)
ウ 患者の体質(アレルギー歴,副作用歴等を含む),薬学的管理に必要な患者の生
 活像及び後発医薬品の使用に関する患者の意向
エ 疾患に関する情報(既往歴,合併症及び他科受診において加療中の疾患に関する
 ものを含む)
オ 併用薬(要指導医薬品,一般用医薬品,医薬部外品及び健康食品を含む。)等の
 状況及び服用薬と相互作用が認められる飲食物の摂取状況
 カ 服薬状況(残薬の状況を含む。
                )


                    5
キ 患者の服薬中の体調の変化(副作用が疑われる症状など)及び患者又はその家族
 等からの相談事項の要点
 ク 服薬指導の要点
ケ 手帳活用の有無(手帳を活用しなかった場合はその理由と患者への指導の有無)
 コ 今後の継続的な薬学的管理及び指導の留意点
 サ 指導した保険薬剤師の氏名


(3)薬歴の管理
  薬歴は,同一患者について全ての記録が必要に応じ直ちに参照できるよう保存・
 管理しなければならず,また,最終の記入の日から起算して3年間保存しなければ
 ならない(前記「保険調剤の理解のために(平成30年度)
                           」参照)。


2 「指導後速やかに」薬歴に記載することの意味
  前記のとおり,薬歴への記載は,指導後速やかに完了させなければならない
 が,具体的には指導後いつまでに薬歴を記載すれば「速やかに」記載したといえ
 るのかについては,上記ガイドラインには記載がない。
  しかし,
     「速やか」とは,早い様をいうのであって,「直ちに」よりは時間的な
 幅が認められるとしても,服薬指導をした後,短時間のうちに記載する必要があ
 る趣旨と考えられる。また,アポロメディカル及び日本アポックは会員ではない
 ものの,日本チェーンドラッグストア協会の「薬剤服用歴(薬歴)管理ガイドラ
 イン(平成27年7月)(以下「協会ガイドライン」という。
            」                )の「第3章 「薬
 剤服用歴(薬歴)管理ガイドライン   2.薬歴の記載内容と記載要領 4)薬歴
 記載のスケジュール化 」には,(1)薬歴は,応需時(服薬指導終了時)に記載
                「
 することを原則とし,やむを得ない場合があったとしても,遅くとも調剤した当
 日のうちに記載する。(2)電子薬歴を採用していて,処方箋応需時にはメモ対応
 である場合は, その内容を電子薬歴にインプットする業務時間を当日のうちに確
 保しなければならない。
           」とあり,薬歴は服薬指導の当日のうちに記載するよう指
 導している。
  これらに鑑みれば,薬歴を「速やかに」記載するとは,原則として服薬指導当
 日のうちに薬歴を記載することであるというのが,正しい理解と思われる(アポ
 ロメディカルが運営する調剤薬局に対する各地の厚生局による個別指導でも,薬
 歴は服薬指導をした当日中に記載すべきとの指導がなされたことがある。。
                                 )


3 薬歴に未記載の状態で薬剤服用歴管理指導料を請求する行為について
   前記1のとおり,薬歴は,調剤報酬請求(薬学管理料)の根拠であり,調剤報
 酬請求の要件となる記録である。したがって,薬歴を記載していない状態で調剤


                    6
 報酬請求することは不適切というべきであり,仮に故意によるものであれば,不
 正請求との誹りも甘受せざるを得ない。したがって,厚生局の個別指導におい
 て,薬歴の未記載があるとか,薬歴の記載があっても内容が不十分であると指摘
 された場合は,既に支払われた調剤報酬を自主返還するよう求められることが多
 いようである。


4 薬歴の改ざん
  本調査においては,調剤報酬請求時に薬歴が未記載であったにもかかわらず薬
 剤服用歴管理指導料を加算して調剤報酬を請求し,その後,個別指導に基づく返
 還金額を過少に報告する目的をもって,日時を遡って薬歴等を記載することを,
 「薬歴の改ざん」という。


第4 アポロメディカルについて判明した事実
1 アポロメディカルの概要
  アポロメディカルは,平成3年に設立され,東京都豊島区南大塚2丁目45番
 8号ニッセイ大塚駅前ビル8階に本店を置く非上場企業であり,調剤薬局事業を
 営む会社である(平成31年3月期売上高(連結)195億円,資本金(単体)
 403百万円)。
  アポロメディカルは,平成20年3月,アルフレッサHDの子会社となった。
 現在経営する調剤薬局の店舗数は104である。


2 薬歴の改ざん件数,調剤報酬請求時に薬歴未記載であった件数等
(1)改ざん件数,改ざん方法等の調査状況
ア アポロメディカルが運営する調剤薬局では,本調査開始時点において,薬歴を
 手書きしている4店舗を除き,100店舗で電子薬歴管理システムを採用してい
 る。このうち甲を使用するのはほくしん店を含む83店舗,己を使用するのは4
 店舗,丁を使用するのは9店舗,戊を使用するのは4店舗である。
イ 甲の薬歴管理システムは,いったん記載した薬歴の内容を追加・変更した場合
 は,変更履歴とその日時が表示される。甲の薬歴管理システム上の記載日時は,
 オペレーティングシステムの日付・時刻に連動する仕様であり,通常パソコンを
 インターネットに接続していれば定期的に時刻が同期される。しかし,この同期
 をしない設定にすることにより,薬歴管理システムの記載日時を変更することが
 可能である。
  対策本部は,ほくしん店の甲のログを抽出し,薬歴操作に関するものをログI
 Dに割り振られた番号順に表示させ,薬歴記載日がログIDの順序と整合しない
 データについて,該当する薬歴を確認することにより,日時を遡らせて薬歴を記


                   7
    載したものと特定した。
    ウ ほくしん店以外の甲を使用する82店舗については,上記同様の方法で甲のロ
    グを検証したが,日時を遡らせて薬歴を記載・修正したものは発見されなかっ
    た。
    エ 己は,甲同様にログが存在するため,対策本部が4店舗の甲のログを検証した
    ところ,日時を遡らせて薬歴を記載・修正したものは発見されなかった。
    オ 丁を使用している9店舗及び戊を採用している4店舗については,システムを
    使った確実な分析をすることはできず,日時を遡らせて薬歴を記載・修正したも
    のを発見することはできなかった。


(2)薬歴の改ざん件数等の調査結果
      上記(1)を踏まえ,対策本部が実施したヒアリング及び当委員会が実施した
    調査によって改ざんと認められたものは,次のとおりである。
     なお,ほくしん店については平成25年6月から2平成31年4月まで,その他
    の店舗については平成26年1月から平成31年4月までを調査対象期間として
    いる。


            調査対象           処方箋枚数         薬歴改ざん件数(処方箋全枚
                                         数に対する改ざんの割合)
    ほくしん店                       95,030        14,404(15.2%)
    ほくしん店を除く第一事業部の店舗           590,099              0(0%)
    第一事業部以外の店舗             7,113,697                0(0%)


(3)調剤報酬請求時に薬歴未記載であった件数等の調査結果
     前記第2・①イのとおり調査した結果,調剤報酬請求時に薬歴未記載であった
    件数及びそのため厚生局に自主返還すべきこととなる金額は,次のとおりであ
    る。
     なお,調査対象期間は上記(2)と同様である。


         調査対象      処方箋枚数       請求時に薬歴未記載であ         返還予定額
                               った件数(処方箋全枚数          (円)
                                  に対する割合)


2
 ほくしん店については,平成30年6月の個別指導の結果,過去5年分を自己点検した
上で不適切な算定分を自主返還するよう求められ,その算定作業中の改ざんが疑われたこ
とから,平成25年6月からの改ざんの有無・件数を調査する必要があり,本調査でも,
ほくしん店については平成25年6月以降としている。

                           8
 ほくしん店          95,030        14,422(15.2%)    5,938,390
 ほくしん店を除く第一    590,099        17,262(2.9%)     7,295,470
 事業部の店舗
 第一事業部以外の店舗   7,113,697       145,307(2.0%)   60,112,520


3 アポロメディカルが運営する調剤薬局全店舗の薬歴記載状況等
(1)調剤薬局全店舗の薬歴記載状況等
ア 薬歴記載の手順
  アポロメディカルでは,従来の紙ベースの薬歴(いわゆる紙薬歴)から,順次各
 店舗に電磁的方法により薬歴を記載し保存する電子薬歴管理システムを導入して
 おり,本報告書作成時点で全店舗104店舗のうち100店舗で電子薬歴となった。
  アポロメディカルでは,事務員(オペレーター)が処方箋を基にレセプトコンピ
 ュータに入力してレセプトを作成するが,その際にアシストシートを印刷し,薬剤
 師は,患者に服薬指導をする際にアシストシートに患者とのやり取りを書き残して
 おき,その後,アシストシートの記載を見ながら電子薬歴システムに薬歴を記載す
 ることが専らであった。薬剤師は,薬歴の記載が未了のアシストシートを積み重ね
 て置いており,記載が終わったアシストシートは廃棄していたので,アシストシー
 トの溜まり具合を見れば,薬歴の未記載がどの程度あるのかが把握できる。


イ 調剤報酬請求
  店舗の事務員は,毎月5日頃から10日までにレセプトの内容に従って調剤報酬
 請求を行う。請求時に薬剤師が薬歴記載を完了させていない場合には,未記載分を
 調剤報酬請求から外して請求する必要がある。


(2)薬歴の記載に関する個別指導の状況
ア 薬歴の記載に関する個別指導の状況
  地方の厚生局は,医療保険制度の健全な運営のため,国民に対する良質な保険診
 療等の提供が行われるよう,保険診療の質的向上及び適正化のために保険医療機関
 等への指導・監査等の行政指導を行っている。個別指導の結果には,
                               「概ね妥当」,
 「経過観察」「再指導」があり,再指導の場合は,再度翌年に個別指導を受ける。
      ,
  個別指導を受ける店舗は,実施日の約1か月前にその旨通知が届く。その後,個
 別指導日の約1週間前に,厚生局から患者20名が指定され,さらに,個別指導日
 の2,3日前に患者10名が指定されるので,指定された患者の直近1年分の薬歴
 等を印刷して個別指導に持参する(開店して1年後に必ず実施される新規店舗に対
 する個別指導では,後者の指定はなく,前者の20名分のみである。。厚生局から
                                )
 提出を求められるべき薬歴は,各厚生局の方針によって異なり,例えば,
                                 「電子薬


                          9
 歴の場合は,全表示記録(処方内容,記録の日付,記録者,修正日付,修正箇所,
 修正者が印字されたもの)」等と指定され,操作歴記録(記録の日付,記録者の一
 覧,いわゆるアクセスログ)まで印刷するように指定される場合もあれば,「患者
 にかかる全ての記録」とだけ指定され,電子薬歴の記載日付の印刷までは不要と解
 釈できる場合もある。
  個別指導においては,薬歴の記載について,調剤報酬請求時に未記載だったもの
 や,記載されていても内容が不十分であること等が指摘されれば,そのような不適
 切請求に対する薬剤服用歴管理指導料の自主返還を求められる。自主返還の範囲は,
 個別指導の結果によって異なり,対象期間中の全例が対象になるものと特定の患者
 分に限定されるものがあるが,店舗が自主点検した上で返還することになる。なお,
 自主返還といっても現実に金銭を納付するのではなく,その後の調剤報酬請求の際
 に相殺する方法で行われるのが一般的である。また,厚生局に対しては,指摘され
 た事項について,改善結果を報告しなければならないとされている。


イ アポロメディカルが運営する店舗に対する個別指導の状況
  平成26年4月から平成31年3月までの間,ほくしん店の個別指導を含め,合
 計41件の個別指導が行われた。この結果の内訳は,概ね妥当が10件,経過観察
 が26件,再指導が5件であった。
  このうち,薬歴が全く記載されていないと指摘を受けたものはないが,記載する
 内容(項目)が不十分であること,薬歴記載日が服薬指導をした日より遅延してい
 たことが不適切であると指摘され,薬剤服用歴管理指導料の返還を求められたもの
 は19件であった。


4 薬歴未記載に対するアポロメディカルの指導状況
(1)個別指導への会社としての対応
ア 薬剤部による個別指導対策
  アポロメディカルでは,電子薬歴管理システムが導入される以前には,各店舗
 の個別指導が行われる場合に,薬剤部が個別指導の準備の指導を行っていた。薬
 剤部は,個別指導の通知を受けた店舗に対し,厚生局へ提出する資料や書面の準
 備を手伝い,それらの内容を確認し,個別指導で指摘を受けそうな事項について
 説明したりしていたが,このほか,不適切,不十分と考える薬歴等の記載につい
 て,指導を受けないように書き足すなどの修正を行うこともあった。こうした対
 応は,薬歴等の記載が不十分であることを見とがめたA(以下「A」という。)薬
 剤部長の指示で行われていた。なお,こうした修正については,少なくともその
 一部についてAが報告していたことから,アポロメディカルの一部の経営陣も承
 知していた。


                    10
  薬剤部は,その後徐々に導入されていった電子薬歴管理システムについても,
 個別指導の準備の際に,不適切と考える薬歴等の修正を行っていた。電子薬歴管
 理システムでは,記載を修正すると入力者,修正日時,修正履歴等が記録される
 が,個別指導には修正履歴を印刷せずに提出し,修正が分からないようにしてい
 た。


イ アイランド薬局a店の個別指導
  ところが,平成26年12月の近畿厚生局によるアイランド薬局a店に対する
 個別指導において,薬歴については誰がいつ入力したかが分かる修正履歴を含め
 て薬歴を持参するよう求められた。そのため,薬剤部は,アイランド薬局a店の
 個別指導の準備においては,薬歴等の修正は行わなかった。また,Aは,同年6
 月に薬剤部長から異動し,個別指導の対応は,薬剤部を統括する薬局事業本部長
 であるB(以下「B」という。)に引き継がれたところ,Bは,薬歴等の修正を快
 く思っていなかったこともあり,アイランド薬局a店での資料提出要求も踏ま
 え,個別指導の準備にあたり薬歴等の修正はさせないこととした。B及びAは,
 各事業部のマネージャー以上が出席する会議において,アイランド薬局a店の個
 別指導では修正履歴付きで薬歴の提出を求められたため修正しなかったこと,同
 様の要求が今後全国で標準化されると思われるため薬歴を溜めずになるべく早く
 記載すべきあること,アイランド薬局a店の個別指導では,調剤した分の薬歴は
 当日中に終了させないと請求してはいけないとの指導があった旨発言し,注意を
 促した。


ウ 個別指導対応の担当変更
  Bは,平成27年4月,店舗への改善点を助言するなど指導的な役割を担当す
 る業務支援部を設置した。同部は,平成29年6月に業務指導室に改組され,そ
 のころ,薬剤部が担当していた個別指導の対応を引き継ぎ,薬剤部は専ら社内研
 修を行うこととなった。このときは,既に薬歴等の修正は行われていなかったこ
 とから,薬歴等の修正のやり方等が業務指導室へ引き継がれることはなかった。
 業務指導室は,平成30年4月に業務指導部,平成31年4月に研修指導部に改
 組された。


(2)平成27年3月の日本薬剤師会からの自主点検依頼への対応
  平成27年2月,当時,株式会社Xの子会社であった株式会社Yの一部調剤薬
 局において,薬歴未記載の状態で調剤報酬請求をしていたことが発覚した。厚生
 労働省は,日本薬剤師会宛てに薬歴未記載の件数(調剤報酬請求後に記載したも
 のも含む。
     )等を自主点検するよう依頼し,同年3月には,都道府県薬剤師会から


                   11
 各店舗へと自主点検依頼が発出された。
  アポロメディカルでは,C会長(以下「C会長」という。,A,Bらが協議
                            )
 し,アシストシート等に指導内容を書き残していれば,実際に薬歴を記載してい
 なくても薬歴未記載の件数に含めないとの方針を打ち出した。この方針は,各事
 業部長から各店舗に伝達され,全店舗は未記載の薬歴があるとの回答はしなかっ
 た。


5 ほくしん店における不適切行為について
(1)ほくしん店における薬歴未記載の状況
ア D(以下「D」という。
            )は,平成19年7月2日から平成26年12月14日
 までほくしん店の管理薬剤師であった。Dは,ほくしん店が所属する第一事業部
 のE第一事業部長(以下「E」という。)やFマネージャー(以下「F」とい
 う。)に対し,自身を含むほくしん店の薬剤師は,残業したり昼休みをとらずに薬
 歴を記載しているものの,薬歴記載が大幅に遅れていることを報告していた。


イ Dは,平成26年12月15日から他店に出向となり,G(以下「G」とい
 う。)が平成26年12月15日から平成27年2月28日まで管理薬剤師を務め
 た。この頃,G以外のほくしん店の薬剤師は,薬歴未記載のものを約1年分溜め
 ており,中でもDと薬剤師1名の未記載件数が多かった。そのため,Gは,Dが
 他店に出向していた間に,Dが薬歴未記載のまま放置していたアシストシート
 を,事務員に指示して廃棄させた。


ウ Dは,平成27年3月1日にほくしん店の管理薬剤師に復帰し,同年10月2
 2日まで務めた。ほくしん店では,同年1月及び2月はかろうじて調剤報酬請求
 時までに薬歴の記載を終えていたものの,施設に入居している患者の対応が多
 く,そのための調剤や移動等に時間を取られるため,現状のままでは薬歴を速や
 かに記載することが難しく,記載するために残業せざるを得ない状況がある旨を
 Eに訴えていた。しかし,Eは,ほくしん店が人員不足だとは考えず,特段の対
 処はしなかった。
  その頃,前述のとおり,株式会社Yの一部調剤薬局における不適切行為を受
 け,都道府県薬剤師会から各店舗に薬歴未記載の件数等の自主点検依頼があった
 が,Eは,ほくしん店を含む第一事業部の各店舗からメールで薬歴未記載の件数
 等を報告させた上で,同年3月11日,各店舗に対し,Aに報告して対応を検討
 するので店舗単位で勝手に回答しないよう指示した。そして,Eは,同月12日
 深夜,北海道地区の各店舗に対し,メールで,アポロメディカルの方針として,
 「薬歴に転記ができていないもののメモ等(アシストシート)があるのであれば


                    12
     薬歴とみなします。もちろん月が変わって転記が終わっているものがほとんどだ
     と思います。今回Ⅰ3に該当するのは    なし   と判断して提出はないです。
                                           」と指
     示した。ほくしん店を含む北海道地区の各店舗は,その指示に従い,未記入の薬
     歴はないものとし,薬剤師会に回答しなかった。


    エ 平成27年10月23日から令和元年6月21日までは,H(以下「H」とい
    う。)がほくしん店の管理薬剤師であったが,Hが管理薬剤師となった当時,ほく
    しん店では,前任のDを含む4名の薬剤師が薬歴の未記載分を溜めている状態で
    あった。
     Hは,ほくしん店の調剤技術料を増やすため,比較的保険点数が高くなるよう
    な営業に積極的に取り組んだ。特に,平成29年7月頃から,アポロメディカル
    が推進していたかかりつけ薬剤師管理指導料加算や特定薬剤管理指導加算(ハイ
    リスク加算)等を増加させ,新規の施設患者を獲得すべく営業活動をすることに
    注力し,同年8月にはかかりつけ薬剤師管理指導料の算定数が100件を超え
    た。Hは,そのような店舗運営が評価され,平成30年6月1日からは第一事業
    部のマネージャーに昇格し,同年7月8日には社長賞の表彰を受けた。その一方
    で,Hは,かかりつけ薬剤師管理指導料を算定していた分も含め,自身の薬歴記
    載を怠っていたものも多く,ほくしん店の薬剤師に薬歴記載を強く促すこともし
    ないまま,毎月の店舗の営業報告において,ほくしん店には未記載の薬歴はない
    旨虚偽の報告をしていた。


(2)薬歴未記載に対する第一事業部からの指導
      Eは,第一事業部各店舗の管理薬剤師及びFに宛てた平成27年2月25日付
    けのメールにおいて,薬歴未記載の問題についての報道に触れつつ注意喚起する
    とともに,アイランド薬局a店の個別指導を踏まえれば,今後は服薬指導の当日
    に薬歴記載を完了させていなければ調剤報酬を返還させられる流れになるであろ
    うこと,今後は残業をしてでも当日中に薬歴記載を終わらせる必要があることな
    どを伝えた。
     また,Eは,平成28年12月28日にも,メールで,
                             「個別指導が数店舗あっ
    て薬歴に関して指摘がありました。少し前だと記入してればいい…という時もあ
    りましたが細かく見られています。100万円単位の返還もある店もあります。
    来月は研修もありますが考えましょう。」と送信し,このメールの前後には,各店
    舗から各月の薬歴処理枚数をメールで報告させ,薬歴の速やかな記載を促してい
    た。

3
 薬剤師協会からの自己点検依頼のうち,
                  「Ⅰ」は,未入力(当月を超えて記載をされたも
のを含む)の薬歴の数を問うものである。

                         13
  しかし,Eは,平成29年6月にアポロメディカル取締役に就任し,薬局事業
 本部長と第一事業部長を兼務するようになると,各店舗に直接指導することは少
 なくなっていった。同月には,Fが第一事業部次長に就任したが,Fは,Eのよ
 うに各店舗の管理薬剤師に対して薬歴の記載を促すことはなかった。


(3)個別指導通知後個別指導までの状況
ア 個別指導通知後のHの行動
  Hは,平成30年5月14日,厚生労働省北海道厚生局長から「北海道厚生局
 及び北海道による社会保険医療担当者の個別指導の実施について(通知)(以下
                                  」
 「通知書」という。
         )の送付を受け,同年6月15日にほくしん店に対して個別指
 導が実施されることを知った。通知書において,厚生局に持参する薬歴は,入力
 者,作成日時,更新者,更新日時,更新箇所を表示させて印刷したものを持参す
 るよう指示されていた。
  Hは,E,F,G及び業務指導部に対し,通知書の写しをメールして個別指導
 があることを報告するとともに,ほくしん店の従業員に指示して個別指導で提出
 する書類の準備を開始した。Hは,ほくしん店に多量の未記載の薬歴があったこ
 とから,取り急ぎこれらを記載しようと考え,同年5月14日頃から同月18日
 までの間,ほくしん店において,未記載の薬歴を記載していった。Hは,この時
 点では,調剤報酬請求時に薬歴が未記載であっても,アシストシートに記載して
 あれば厚生局から問題視されることはないと考え,電子薬歴管理システムの日時
 を遡らせることなく記載していた。


イ 同年5月19日から同年6月14日までの間
  Eは,同年5月19日頃,Hに対し,電話で,未記載の薬歴を記載する際には
 電子薬歴管理システムの日時を遡るよう改ざんを指示した。Hは,日時を遡る方
 法を知らなかったため,ほくしん店の薬剤師に聞くなどして日時を遡る方法を知
 り,同日から個別指導前日である同年6月14日までの間に,数件を除き直近1
 年分,すなわち平成29年6月から平成30年6月までの未記載の薬歴を改ざん
 した。
  Hは,同年6月8日頃,厚生局から特定薬剤管理指導加算(ハイリスク加算)
 に係る患者20名の指定を受け,同月13日頃には,薬剤師管理指導料加算に係
 る患者10名の指定を受けたことから,指定された患者の未記載の薬歴を改ざん
 した。指定された30名の中には,日時を遡らずに記載した患者も含まれていた
 が,Hは,これらについて日時を遡って修正することはしなかった。
  他方,業務指導部のI部長(以下「I」という。,J及びKは,同年6月12
                       )
 日頃から同月14日頃までの間,ほくしん店に赴き,厚生局に持参する30名分


                    14
 の書類をチェックした。その際,Jらは,かかりつけ薬剤師管理指導料に係る薬
 歴に未記載があることや,通知書受領後に,その数か月前の薬歴を電子薬歴管理
 システムの日時を遡らずに記載したものを発見したが,日時を遡った薬歴の改ざ
 んには気付かなかった。Iは,Eに対し,通知書受領後に数か月前の薬歴を記載
 しているものがあることを報告した。


ウ 個別指導時の状況
  Hは,Gと事務員1名とともに,同年6月15日,個別指導に赴いた。指定さ
 れた30名分の薬歴の中には,通知書受領後に日時を遡らずに記載したものが含
 まれていたことから,厚生局担当者から指摘を受けたほか,かかりつけ薬剤師管
 理指導料についても,不適切な記載があるとの指摘を受けた。


(4)個別指導結果通知後自主返還までの状況
ア ほくしん店は,厚生局から,同年7月11日付けの「北海道厚生局及び北海道
 による社会保険医療担当者の個別指導の結果について(通知)」の送付を受けた。
 個別指導の結果は,再指導であり,薬剤服用歴管理指導料,かかりつけ薬剤師管
 理指導料を含め複数の自主返還を要求された。自主返還の対象期間は概ね1年で
 あったが,薬剤服用歴管理指導料等に関しては,平成25年6月分から平成30
 年5月分までの5年であった。
  Hは,上記個別指導の結果の通知を受け,ほくしん店の従業員に内容を知らせ
 るとともに,E,F,G及び業務指導部に報告した。Hは,調剤報酬請求時点で
 薬歴が未記載であり返還対象となる件数を甲の薬歴管理システムで検索して返還
 額を算出し,500万円から600万円になると考え,その旨Eに電話で連絡し
 た。


イ Eは,Hに電話をかけ,C会長の意向であるとして,返還額を減額するよう指
 示した。Hは,反発を覚えたものの指示に従わざるを得ないと考え,薬歴が未記
 載であり本来自主返還すべきものの大部分を返還対象から外し,最終的に約61
 万円を提案し,これが返還額となった。なお,Eは,Hから聞いた本来自主返還
 すべき想定額をC会長に報告したところ,C会長から返還額を減らすよう指示さ
 れたためHに指示した旨述べているが,C会長は,当委員会設置前の令和元年5
 月14日に他界しており,ヒアリングは実施できなかった。
  EとHは,返還額を減額するにあたり,今後,厚生局等から薬歴の未記載件数
 を調査されても露見しないよう,未記載であるが返還しない約1万4000件の
 薬歴について,日時を遡って薬歴を記載しなければならないと考えた。そして,
 Eが,Hにこれらの改ざんを行うよう指示した。


                  15
ウ Hは,当初,アシストシートが残っているものについてはその内容に従って改
 ざんしていたが,Dのアシストシートが一部廃棄されて実際の服薬指導の内容が
 不明なものがあることや,記載すべき薬歴が膨大で入力作業に時間がかかること
 から,未記載の薬歴の全件についてアシストシートの記載を転記することは困難
 であった。他方,甲の電子薬歴管理システムの未記載件数検索機能では,何らか
 の入力がされていれば未記載とは認識されないことから,未記載件数検索を誤魔
 化すためだけならば薬歴の内容を記載せず簡単な入力をすれば足りると考え,単
 に「経過」等とだけ入力するようになった。また,服薬指導時の薬剤師が異動や
 退職のためほくしん店に在籍していない場合もあったことから,作業を進めるう
 ちに,薬剤師名が表示されるアカウントではなく,薬剤師名が表示されないアカ
 ウントでログインして作業するようになった。
  ほくしん店のH以外の薬剤師らは,返還額を誤魔化すことや薬歴を改ざんする
 ことに強く抵抗したが,Hが本社の指示には逆らえないとして一人で連日深夜ま
 で改ざん作業をしているのを見ており,また,Hから改ざん作業を手伝うよう促
 されたことから,ほくしん店の薬剤師2名と事務員2名が,改ざん作業を手伝っ
 た。また,F及びGは,同年7月20日及び21日,ほくしん店に赴いて薬歴の
 改ざんを手伝った。


 エ その後,平成30年9月6日に発生した北海道胆振東部地震の影響で返還時期
 が延期された。Hは,事務員に指示してかかりつけ薬剤師に係る患者の返還作業
 をさせ,同月18日付けで,合計1112件分,68万7853円を返還する旨
 の北海道厚生局及び北海道知事に対する返還同意書を作成した。


(5)発覚後の状況
  平成31年4月24日,アルフレッサHDは,新聞社の取材依頼等を受けて特
 別調査チームを立ち上げ,ほくしん店に赴いて改ざんの調査を行った。
  E,F,G及びHは,調査にどう対応するかを事前に協議し,Hが全て正直に
 告白すべきである旨述べたものの,Eが改ざんはない旨の嘘をつくことを決め,
 E及びFにおいてヒアリングに対応し,改ざんはない旨嘘を言った。その後,E
 は,アルフレッサHDが薬歴入力のログを検証することを知り,改ざんを隠しき
 れないと考えたが,自らの関与を隠すため,Fが改ざんを指示したと説明するよ
 うFに指示した。Fは,いったんはこれを了承したが,その後,Hと相談し,両
 名において,Eの指示を含めた改ざんの経緯を告白した。




                  16
第5 日本アポックについて判明した事実
1 日本アポックの概要
  日本アポックは,平成7年9月に設立され,埼玉県川越市脇田本町6番地20
 に本店を置く非上場企業であり,調剤薬局事業を営む会社である(平成30年度
 の売上高 153.79億円,資本金(単体)270百万円)
                            。
  日本アポックは,平成27年3月にアルフレッサHDの子会社となった。現在
 経営する調剤薬局の店舗数は65(調査対象の店舗数は67)である。


 2 薬歴の改ざん件数,調剤報酬請求時に薬歴未記載であった件数等
(1)改ざん件数等の調査状況
  日本アポックが運営する調剤薬局では,本調査開始時点において,薬歴を手書
 きしている5店舗を除き,62店舗で電子薬歴管理システムを使用している。
  各調剤薬局が使用する電子薬歴管理システムは,丙を使用するのは21店舗,
 丁を使用するのは6店舗,庚を使用するのは13店舗,辛を使用するのは22店
 舗である。
  これらの電子薬歴管理システム上の記載日時は,甲同様,オペレーティングシ
 ステムの日付・時刻に連動する仕様であり,したがって,パソコンの日時を変更
 することで,調剤報酬請求以前の日時に遡る設定をして薬歴を変更することが可
 能である。
  このうち,庚及び辛は店舗では変更できないログが存在するため,対策本部に
 てログを検証し,該当する薬歴を確認するなどして,日時を遡らせて薬歴を記
 載・修正したものを特定した。
  丙を使用する店舗については,メーカーに検索ソフトの新規開発及び分析を委
 託した結果,メーカーから,日時を遡らせて薬歴を入力・修正した可能性のある
 データを受領し,対策本部にて該当する薬歴を確認するなどして,日時を遡らせ
 て薬歴を記載・修正したものと特定した。
  丁を使用する店舗については,分析ソフトによっても確実な分析をすることは
 できず,日時を遡らせて薬歴を記載・修正したものを発見することはできなかっ
 た。


(2)薬歴の改ざん件数等の調査結果
  上記(1)及び対策本部が実施したヒアリングを踏まえ,当委員会が調査した
 結果,次のとおり,改ざんと認められるものは発見されなかった。


      調査対象        処方箋枚数   薬歴改ざん件数(処方箋全枚数
                          に対する改ざんの割合)


                    17
 日本アポックの店舗              7,514,406                    0(0%)


  ただし,対策本部にて改ざんを分析する過程で,改ざんには該当しないものの,
 電子薬歴管理システムの日時を変更した上で薬歴を修正するという不適切行為が確
 認された(下記3(1)。
            )


(3)調剤報酬請求時に薬歴未記載で自主返還する薬歴未記載の件数等の調査結果
   日本アポックの店舗については平成26年1月から平成31年4月までを調査
 対象期間としている。


    調査対象          処方箋枚数        請求時に薬歴未記載で           返還予定額
                               あった件数(処方箋全           (円)
                               枚数に対する割合)
 日本アポックの店舗         7,514,406         67,586(0.9%)    28,040,620



 3 日本アポックが運営する調剤薬局の薬歴記載の状況
(1)不適切な薬歴
   日本アポックの調剤薬局においては,調査対象期間において,薬歴の改ざんは
 認められず,請求時点で薬歴が未記載であったものは,全体の約0.9パーセン
 トであり,アポロメディカルと比較して良好であった。
   ただし,改ざんには該当しないものの,電子薬歴管理システムの日時を変更し
 た上で薬歴を修正するという以下の不適切行為の存在が確認された。


 ア 個別指導対策としての追記
   平成26年1月から平成31年4月までの間に,個別指導の直前に,その対策と
 して日時を遡って追記をしていたものが,下記6店舗において確認された。これら
 は,請求時点において薬歴の記載はされていたものの,個別指導において返還また
 は指導を免れるため,患者への指導内容等を追記することがあったが,その一部で
 日時を投薬日に遡って追記したものである。


            店舗名                     件数
  薬局アポックb店                           32
  アポックc店                             97
  アポックd店                             39
  アポックe店                             26

                          18
  アポックf店                 30
  アポックg店                 12


イ 個別指導対策とは関係なく日時を変えた入力
  上記ア以外に,平成26年1月から平成31年4月までの間に,投薬日以降に,
 個別指導とは関係なく,患者への指導内容等を,日時を当時に遡り入力していたも
 のが,下記8店舗において確認された。


            店舗名        件数
  h店                     422
  i店                     250
  薬局アポックj店               89
  薬局アポックk店               267
  薬局アポックl店               56
  薬局アポックm店                  2
  アポックd店                    2
  アポックe店                    4


(2)電子薬歴管理システムの日時の変更
  上記(1)記載のとおり,調査対象期間である平成26年1月から平成31年
 4月までの間に,電子薬歴管理システムの日時を遡って薬歴の入力をした事例が
 複数認められた。
  このうち最も古いものは薬局アポックk店である。同店は,門前の病院の診療
 時間が長く,これに対応して営業時間が長かったことから患者数が多くなり,薬
 剤師が薬歴の未記載を溜めがちであったが,ある時期から電子薬歴管理システム
 の日時を遡る方法が薬剤師間に広まり,平成26年1月以降,多数の日時の変更
 をしている(平成26年1月当時の管理薬剤師はLである。。その後,門前の病
                           )
 院の診療時間が若干短くなったことや管理薬剤師が変わり薬歴の入力の仕方を改
 めたことなどにより,平成27年には日時の変更は激減し,平成28年には2月
 に2件あるのみで,その後はなくなった。
  h店は,日本アポックが平成29年10月に買収した店舗であり,それまでの
 管理薬剤師が退職することから平成30年4月に日本アポックから管理薬剤師を
 異動させたところ,平成29年10月以降に400件程度の薬歴の未記載がある
 ことが判明したため,電子薬歴管理システムの日時を遡らせて薬歴を記載したも
 のである。これについては,グループ長と店舗運営部長も了承していた。
  i店の管理薬剤師は,薬歴の記載が滞りがちで薬歴が未記載のまま溜まってい

                  19
 たところ,本社にはこれを隠して薬歴の未記載がない旨報告していた。そのた
 め,本件調査により薬歴の未記載があることが発覚することをおそれ,これを糊
 塗するために電子薬歴管理システムの日時を遡らせて薬歴を記載したものであ
 る。
   その他の店舗には,調査対象期間の中で,いったん記載した薬歴を後日になっ
 て修正する際に日時を遡らせて記載したものや,単に日時を遡らせる方法を実行
 して確認したと認められるもの(投薬日から数日後に行っており電子薬歴管理シ
 ステムの日時を遡らせる理由が客観的にも認められないもの)などがあったが,
 日本アポックの調剤薬局において,電子薬歴管理システムの日時の変更が広く行
 われているような形跡は認められなかった。一部の薬剤師が,日時変更の方法を
 知っている場合があり,個別の事情によって日時を変更していたものと理解する
 ことができる。


(3)日本アポックにおける個別指導対応
 ア 日本アポックは,平成25年7月のアポックf店の個別指導において自主返還
 の人数が約2000名にのぼるなどしたことから,M社長の発案により,店舗の
 薬剤師に薬歴記載の指導等をするためのプロジェクトチーム(平成31年4月に
 「行政指導対策委員会」と改称した。)を立ち上げ,個別指導で指摘される事項の
 マニュアルを作成して店舗に配布したり,模擬の個別指導を行うようになった。
   その一方,平成25年10月のアポックm店の個別指導において,グループ長
 のN(以下「N」という。
            )が事前に薬歴を確認し,記載が不十分なものに追記す
 るよう管理薬剤師に指示し,薬歴を修正させたが,このときは電子薬歴管理シス
 テムの日時は変更しなかった。その後,プロジェクトチームにおいて薬歴記載の
 指導をしていたグループ長のO,Pが,個別指導の通知を受けた店舗に赴いて薬
 歴を確認した際,アポックm店の薬歴修正を知っていたことなどから,記載が不
 十分な薬歴などの追記等を指示して管理薬剤師に追記させたことがあり,これら
 の中に,電子薬歴管理システムの日時を遡らせたものがある(薬局アポックb
 店,アポックc店,アポックd店,アポックe店)。このほか,アポックf店の個
 別指導の際,管理薬剤師のLが電子薬歴管理システムの日時を遡らせて薬歴を修
 正した。これらは,いずれも,個別指導において指摘を受け,あるいは自主返還
 を求められることを免れるために行われた。


イ 個別指導にあたり薬歴等を追記することは,店舗運営部のグループ長らの指示
 により専ら行われており,その際に電子薬歴管理システムの日時を遡らせること
 も同様であるが,このような対応をしていることは,店舗運営本部長(平成31
 年4月から本部制となった。それ以前は,店舗運営部長)のQ(以下「Q」とい


                  20
 う。,店舗運営部長のNも,事案により濃淡はあるものの了承していた。
   )


第6 不適切行為の原因
1 概要
  調査対象期間において,薬歴未記載の状態で薬剤服用歴管理指導料の請求を行っ
 ていた店舗は,アポロメディカル及び日本アポックのいずれにおいても発見された。
 ただ,その処方箋枚数に対する割合は,ほくしん店が15.2パーセントであるの
 に対し,アポロメディカルでは,ほくしん店を除いた北海道(第一事業部)の店舗
 では2.9パーセント,北海道以外の店舗では2.0パーセントであり,日本アポ
 ックの店舗では0.9パーセントであった。
  ほくしん店以外で薬歴未記載の状態で薬剤服用歴管理指導料を請求した原因に
 ついては,請求当時は薬歴を記載したつもりであったが後で確認したところ記載が
 漏れていたというようなミスが主であるようであり,上記割合が低いこととも整合
 している。一方で,ほくしん店の場合は,要は処方箋6枚ないし7枚に1枚は薬歴
 が未記載となっていたのであるから,うっかりミスだけが原因とは考えられないと
 ころである。また,薬歴の改ざんが認められたのもほくしん店だけであった。
  そこで,以下では,主にほくしん店における改ざんを含む不適切行為の原因を指
 摘し,日本アポックについては,本調査の過程で認められた役員及び従業員のコン
 プライアンス意識の問題点について指摘する。


2 ほくしん店における事情
(1)過去の薬歴未記載の放置
  ほくしん店では,Dが管理薬剤師をしていた間,特に未記載が多いDほか1名の
 薬剤師以外の薬剤師も薬歴の記載が遅れ,薬歴を記載しないまま1年近くが経過し
 ていたものもあったとのことである。Dは,薬歴の記載が間に合わない旨をEやマ
 ネージャーのFに伝えて対処を求めたが,Eらは,ほくしん店で扱う薬剤師一人当
 たりの処方箋枚数が格別に多いわけではないからほくしん店の薬剤師らの努力が
 不十分であると考え,人員補強等の対処はせずに,ただ薬歴を記載するよう繰り返
 し指導するだけであった。そのため,Dらの薬歴未記載の状態は解消しなかった。
 そして,Dが未記載の薬歴を残したまま平成26年12月14日に他店へ出向する
 と,後任の管理薬剤師は,Dが溜めた薬歴の記載を諦め,Dのアシストシートを廃
 棄した。
  ほくしん店では,従前から薬歴の記載が遅れていたにもかかわらず特段の対処を
 することなく放置しており,ほくしん店の薬剤師は,薬歴を速やかに記載しなけれ
 ばならないとの意識を強く持つことがなかった。



                  21
(2)近年の事情
  平成27年10月23日からほくしん店の管理薬剤師となったHは,ほくしん店
 の売上を伸ばすために積極的に営業活動を行い,かかりつけ薬剤師管理指導料の算
 定数が100件を超すまでに増やしたが,その実,薬歴の記載にまで十分に手が回
 っていなかった。そのため,他の薬剤師に対する指導も不十分であった。


3 店舗の薬剤師不足
  ほくしん店の薬剤師は,ほくしん店は他の店舗と比較して施設を訪問した上で服
 薬指導をしなければならない対応が多いことなどから,薬歴を記載する時間が十分
 に取れる状況ではない旨述べている。
  また,ほくしん店以外の店舗についても,個別にヒアリングを行うと,店舗の繁
 忙度に比べて薬剤師が不足しており,薬歴を記載するために残業せざるを得ないと
 か,記載が遅れがちになるとの不満を述べるものが少なくなかった。女性薬剤師の
 産前休暇・産後休業,育児休業やパートタイム勤務を踏まえた人員体制になってい
 ないものと考えられる。


4 アポロメディカルの管理・指導体制
(1)各店舗の薬歴未記載件数の報告
  アポロメディカルでは,各店舗の管理薬剤師から各事業部のマネージャーに毎月
 末の薬歴未記載件数を報告させ,マネージャーにおいてこれを取りまとめ,本部長
 会議の資料としていた。
  しかし,薬歴の未記載があるにもかかわらず調剤報酬請求時までには記載する見
 込みである,あるいは,調剤報酬請求時までに薬歴を記載できる見込みがないのに
 正直に報告せず,未記載の薬歴はない旨の報告をする店舗もあった。他方,未記載
 の薬歴の件数を正直に報告する店舗があっても,報告を受けた幹部において議論し
 たり,問題であるとして対処した形跡はない。そもそも,各店舗の未記載の薬歴の
 件数は,電子薬歴管理システムを使って本社において検索できたにもかかわらず,
 漫然と各店舗の報告を受けるだけであったもので,アポロメディカルにおいて,服
 薬指導後速やかに薬歴を記載すべきことや,薬歴を記載しない状態で調剤報酬請求
 をしないようにするとの確固たる姿勢は認められない。


(2)社内規程,社内研修,内部監査の状況
 ア 社内規程
  アポロメディカルから提出を受けた社内規程や各店舗に共有しているマニュア
 ル類(医薬品の安全使用のための業務手順書,アイランド薬局医療安全管理指
 針,アイランド薬局〇〇店における一般用医薬品の情報提供等のための業務に関


                    22
 する指針,アイランド薬局〇〇店における調剤された薬剤及び医薬品の情報提供
 等のための業務に関する指針,アイランド薬局〇〇店における調剤された薬剤及
 び医薬品の情報提供等に関する業務手順書,電子薬歴システム運用管理規程,電
 子薬歴システム運用マニュアル,事業継続計画書,事業継続基本計画書等)に
 は,薬歴を「速やかに」記載すべきことについての説明は見当たらない。唯一,
 医薬品の安全資料のための業務手順書(初版は平成19年6月30日のもので最
 新の改訂は平成30年8月1日)第4章・4に,
                      「薬歴簿の記載」として,服薬指
 導にて確認した内容は全て薬歴簿に記載すること,薬歴簿には確認内容及び指導
 内容を明記すること,服薬指導加算算定時は,必要事項を必ず薬歴簿に記載する
 ことを示している。


 イ 社内研修
  社内研修は,薬剤部研修課が担当し,薬剤師に対しては,新人研修,2年目研
 修,3年目研修,5年目研修,10年目研修,プロフェッショナル研修,薬局長
 就任前研修等を行っているが,薬歴に関しては,薬歴に記入すべき内容について
 指導するのみで,服薬指導の当日中に記載しなければならないことに焦点を置い
 た研修は行っていない。社内での指導不足もあり,当委員会のヒアリングでは,
 「速やかに」薬歴を記載すべき時期について,処方箋の期限である4日以内に記
 載する,調剤報酬請求日までに記載する,同じ患者が再度来店する日より前に記
 載するなど独自の見解を述べる者も少なくなかった。


 ウ 内部監査
   内部監査室は,平成27年上期から平成29年下期まで,アポロメディカルが
 運営する全店舗から未記載の薬歴の数を報告させていた(平成27年上期より前
 の記録は保管されてない。。ただし,多数の未記載があったほくしん店の報告は
            )
 常に「残薬歴なし」であり,また,ほくしん店では,監査時には,溜めているア
 シストシートを休憩室に隠していたとのことであるので,この点については監査
 の実効性が十分であったとはいい難い。
  平成30年に内部監査室長が交代した以降は,未記載の薬歴について監査対象
 とはしていない。


5 アポロメディカルのコンプライアンス意識
(1)個々のコンプライアンス意識
  Eは,アポロメディカルの取締役であり,第一事業部長として北海道地区の責任
 者を務めていたにもかかわらず,安易に改ざんを決意してHに指示をしたもので,
 コンプライアンスに対する意識は希薄である。


                   23
  Hは,ほくしん店の管理薬剤師であり,自身も未記載の薬歴を溜めていたところ,
 個別指導に持参する薬歴を改ざんし,その後,自主返還にあたっても膨大な改ざん
 をして北海道厚生局を欺き,かつ,他の薬剤師にも改ざんを手伝わせて巻き込んだ
 もので,Eの指示があったとはいえ,やはりコンプライアンスに対する意識は乏し
 いといわざるを得ない。
  F及びGは,第一事業部の幹部としてHの上司や同僚という立場であったにもか
 かわらず,Eの指示に無抵抗に従い,Hやほくしん店の他の薬剤師の改ざん行為を
 漫然と容認したほか,自らも改ざん行為に加担したものであって,E,Hと同様で
 ある。
  ほくしん店の改ざんは,上記4名がどこかで思いとどまれば起こり得なかったも
 のであって,同人らのコンプライアンスに対する意識がいずれも欠けていたことが
 主な原因ということができる。


(2)アポロメディカルの組織風土
  平成26年まで薬剤部が行っていた個別指導対策としての薬歴の修正作業は,厚
 生局に不適切請求を指摘され自主返還させられるのを回避するために,不適切な薬
 歴の内容を修正していたものである。ほくしん店の薬歴の改ざんは,過去に薬剤部
 が各店舗に指導して行っていたことと行為の性質としては変わらない。薬剤部のか
 つての個別指導対応を知っていたEやFは,返還額を減らすとか,そのために薬歴
 を改ざんすることに対し,抵抗感が薄かったものと考えられる。薬剤部の個別指導
 対応は,常務取締役であるAが薬剤部長として陣頭に立って全国の店舗に直接指示
 していた上,薬局長会議等の場で情報共有されていたことなどから,会社の利益の
 ために薬歴を修正することは悪くない,ルールを曲げても正当化されるという考え
 が浸透し,アポロメディカルの風土ともいえる状況になっていたということができ
 る。
  なお,当委員会が行ったアンケートには,このような風土を批判する意見も多数
 記載されており,従業員の多くが改善を強く望んでいることが理解できた。


6 日本アポックのコンプライアンス意識
 Q,Nを始めとする店舗運営本部の幹部は,個別指導対策の薬歴の追記や,電子
 薬歴管理システムの日時を変更した入力があることを知っていたにもかかわらず,
 本調査の当初は乙について日時変更が分析できないとされていたことから,乙を使
 っている店舗において日時を変更して追記したことを申告しなかった。また,庚を
 使用していたh店及びi店において,日時を変更したログが検出されたことについ
 ても,端末の誤作動のために検出された異常値であるなどとして,日時を変更して
 入力した薬歴はない旨報告していた。その後,本調査において両店の管理薬剤師が


                   24
 日時を変更して薬歴を記載したことを認め,また,乙について日時変更を分析する
 システムを開発するに至ってから,ようやく個別指導対策の薬歴の追記や,その際
 に日時を変更して入力したものがあることなどを告白したものであって,一連の行
 為や,本調査への取組み状況に鑑みれば,誠実であるとはいい難い。
 日々の仕事には真面目に取り組んでいるものの,目の前の仕事をうまくこなすこ
 とに汲々とするだけで,その背後にあるべきコンプライアンスに対する意識が十分
 であるとは認められない。個別指導があれば,いかに指導を受けずに済ませるかに
 目が行き,本調査では,いかに不適切な事例を出さずにやり過ごすかに目が行って
 しまい,アポロメディカルで同種案件が大きな問題となっていることの意味に思い
 が至っていなかった。
 ヒアリングにおいて,アルフレッサホールディングスのグループに加わったため
 上場企業としての規律が求められることを負担に感じる旨述べた者もいた。


第7 再発防止策の提言
1 環境面の整備
(1)店舗の薬剤師数の拡充
  店舗の薬剤師の人数を検討し,適切な人員を配置するよう努める必要がある。
 店舗によっては,その所在地などの関係で必要な人員が確保しにくいところもあ
 り得ることと思われるが,必要な人員がいなければ現場にしわ寄せがいくだけで
 あり,薬歴の記載のみならず,適切な調剤業務に支障が出る可能性がある。人員
 を検討する際には,形式的な人数だけではなく,産前休業・産後休業,育児休
 業,パートタイム勤務,体調(休みがちなど)など,個々の薬剤師の事情も検討
 したうえで,調剤補助(アシスタント制)の導入も含め,実質的な人数で調整す
 る必要がある。必要な人員の確保や人件費の兼ね合いなど容易に実現できるとは
 限らないものの,積極的に取り組んで改善していくべきである。


(2)作業補助や不正防止のための機器の整備
  人員拡充を補完する観点で,電子薬歴管理システムの記載時間を短縮できるよ
 うなシステムを導入し,あるいは,業務を効率化して薬歴記載の時間を確保する
 ため,調剤補助のための機器を導入することも検討の価値がある。薬剤師の人数
 に比して配置されている端末が少ない店舗があるとの指摘もあったので,薬剤師
 が随時薬歴を記載できるよう,十分な端末を配置することも必要である。
  また,電子薬歴等のIDやパスワードの管理を徹底するとともに,将来的に
 は,薬歴記載の改ざんが行われればアラートが鳴るようなシステムを導入して各
 本社においてリアルタイムに各店舗を管理・監督できる仕組みとすることや,レ
 セプトコンピュータ及び電子薬歴システムをクラウド型の新機種に随時変更し,


                  25
 各店舗での日時変更を一切できなくするなどのシステム的な対応も検討の余地が
 ある。


(3)管理・指導体制の充実
 ア 社内規程・マニュアルによる明示
   薬歴の記載を服薬指導後速やかに行うべきことや,薬歴の記載が薬剤服用歴管
 理指導料の加算の要件であること,薬歴が未記載であれば請求から外す必要があ
 ること,薬歴の改ざんや悪質な未記載等に対しては懲戒処分を行うことなどのル
 ールを明確に定めた社内規程,マニュアルを備え,社内で周知徹底することが必
 要である。


 イ 薬歴記載の確認
  各店舗では,毎日,管理薬剤師が薬歴記載状況を確認するとともに,店舗運営
 部長,グループ長等が店舗巡回時に薬歴記載状況を調査し,指導を実施する必要
 がある。また,各店舗から薬局事業本部への薬歴記載状況の報告は,月末や調剤
 報酬請求時点を含めた複数回とすることを検討すべきである。
  各店舗において速やかに薬歴が記載できているかどうかは,アポロメディカル
 でも日本アポックでも各店舗から定期的に報告を受けているが,従前,実際に
 は,いずれにおいても虚偽の報告がなされていた。したがって,単に店舗から報
 告をさせるだけではなく,上記店舗巡回時の調査等を行うことや,時には抜き打
 ち監査等で実際に薬歴の記載状況を確認することをも組み合わせて実効性を持た
 せるようにすべきである。


 ウ 社内研修
  アポロメディカルでも日本アポックでも,薬歴は服薬指導をした後速やかに記
 載すべきであることはもとより,
               「速やかに」とはいつであるのかを具体的に指導
 すべきである。また,いずれの薬剤師の中にも,服剤服用歴管理指導料を加算し
 て調剤報酬請求するには薬歴が記載されていることが要件であることを明確に意
 識していない者がいたので,これについても改めて教育する必要がある。これら
 はごく基本的なルールであり,薬剤師であれば知っていて当然と思われることで
 あるが,それであるが故に時間の経過と実務のやり方にさらされる中で,いわば
 ローカルルール化されやすいように思われ,初年度研修のみならず,いろいろな
 時期,階層の研修で,繰り返し確認していくことが肝要と考える。
  これらの研修においては,過去の個別指導において薬歴の未記載や記載内容の
 不足を指摘された具体的な事例等を紹介した上で注意喚起することも効果的であ
 ると思われる。


                     26
2 コンプライアンス意識の醸成と社内風土改革
(1)コンプライアンス意識の醸成(風土改革)
  薬歴の記載や調剤報酬請求などの具体的な社内研修のほか,そもそも社内で虚
 偽の報告をするとか,厚生局を誤魔化すというような行為に及ばないよう,コン
 プライアンスに対する意識を高めて,不正への心理的抵抗を持つようにすること
 が必要である。当委員会が実施したアンケートやヒアリングによれば,多くの従
 業員は,個人としては正しい意識を持っているように思われ,どちらかといえ
 ば,会社幹部の姿勢を見ることにより,不適切な忖度をしているようにうかがわ
 れる。全体会議でのトップメッセージでは常にコンプライアンス遵守を啓蒙し,
 社内にコンプライアンス委員会を設置するとともに定期的にコンプライアンス研
 修を実施するなどして,会社の幹部自らが,コンプライアンスを重視する姿勢を
 真摯に示すことにより,大きく改善させることができるものと考える。


ア 過去の薬剤部による個別指導対応との決別宣言
  当委員会が実施したアンケートやヒアリングでは,アポロメディカルにおい
 て,ほくしん店の不適切行為につき,従前薬剤部が個別指導で薬歴の修正等を行
 ってきたことを類似の不適切行為として挙げたり,薬剤部がそのようにやってき
 たのだからほくしん店の不適切行為についても知っているはずだというような意
 見が散見された。実際は,薬剤部による薬歴修正等は,平成26年12月のアイ
 ランド薬局a店の個別指導時から行われなくなっていたが,社内にはそのことが
 理解されていないということである。会社として,コンプライアンスを重視して
 いくという意識を持たず,姿勢を従業員に明示していないため,従業員に伝わら
 ないものと理解できる。
  したがって,これを機会に,ほくしん店で行われた一連の行為を含め,不適切
 行為からの断固とした決別を会社として宣言する必要がある。そして,今後は,
 各行政指導については経営会議等で事前・事後の報告を行うなどして,対応を現
 場任せにせず,また,重大事象が発生した場合には店舗管理者等の緊急招集を行
 い,経営者が現場の実情を把握して積極的に改善に取り組むことのできるように
 体制を整えるべきである。


イ アポロメディカル経営陣の責任の明確化
  Eは,ほくしん店における改ざん等の首謀者であり,責任は重い。Eは,個別
 指導後の改ざんについてはC会長から返還額を減らすよう指示があったために行
 った旨述べるが(C会長のヒアリングができなかったため,主張として記載する
 にとどめる。,そうであったとしても,取締役会の構成員としてC会長を牽制す
       )


                  27
 べきであったにもかかわらず,盲目的に不適切な指示に従ったというにすぎない
 し,薬歴の改ざんは自ら考えたことに変わりはないのであって,格別酌むべき事
 情とはいえない。
  Aは,ほくしん店の不適切行為には直接の関与は認められないが,平成26年
 までは薬剤部長として薬歴の修正等を主導していたものであり,そうして作り上
 げた上記のような風土の延長上にほくしん店の問題があることからすれば,やは
 り責任は重いといわざるを得ない。
  両者について責任を明確にし,その重さに相応する対応をとることにより,従
 業員等に対し,会社が真摯にコンプライアンスを重視していくという意思を示す
 ことになるものと考える。なお,Eは,令和元年6月13日,取締役を辞任し
 た。


 ウ 日本アポック経営陣の責任の明確化
  取締役兼店舗運営本部長のQは,薬歴の追記や,その場合の電子薬歴管理シス
 テムの日時の変更を了承していたもので,責任がある。
  平成21年4月から平成28年9月までQの前任の店舗運営部長であったR取
 締役は,個別指導対策として薬歴を追記していたことを知らなかった旨述べてい
 るが,そうであれば店舗運営部長として業務の把握が不十分であったというほか
 なく,相応の責任がある。
  両者について責任を明確にすべきことは,アポロメディカルの場合と同様であ
 る。


(2)通報窓口の利用促進
  当委員会のアンケートからすると,アポロメディカル及び日本アポックにおい
 ては,これまで内部通報窓口,外部通報窓口の利用が十分に機能していなかった
 ようである。社員がコンプライアンス違反を発見した場合には通報窓口を安全に
 利用でき,通報したことで不利益を被ることはないという体制を確保し,社内研
 修等で繰り返し通報窓口の存在を周知し,利用を促すことが肝要である。
                                     以上




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別紙1・メールの調査対象者


 元代表取締役社長以下の役員,薬剤師その他の合計9名のアカウントに対し
てメール調査を実施した。※下記の役職はメール調査実施当時のものである。


    対象者         役    職
1   C           会長兼社長(故人)
2   A           常務取締役
3   S1          常務取締役
4   B           相談役
5   E           顧問
6   F           第一事業部部長
7   G           第一事業部北海道ブロックマネージャー,n1店
8   H           第一事業部北海道ブロックマネージャー,ほくしん店管理
                薬剤師
9   ほくしん店       (店舗の事務連絡用メール)
別紙2・ヒアリング対象者一覧(アポロメディカル)


 代表取締役社長以下の役員,薬剤師その他の社員等合計42名に対して延べ
46回のヒアリングを実施した。※下記の役職はヒアリング実施当時のもので
ある。
      対象者   役    職               実施回数
 1    R     代表取締役社長               1回
 2    A     常務取締役                 1回
 3    S1    常務取締役                 1回
 4    B     相談役                   1回
 5    E     顧問                    2回
 6    S2    総務・人事部部長              1回
 7    I     地域連携推進部部長             1回
 8    S3    薬局事業本部次長              1回
 9    F     第一事業部部長               2回
 10   G     第一事業部北海道ブロックマネージャー    1回
            n1店
 11   H     第一事業部北海道ブロックマネージャー    2回
            ほくしん店管理薬剤師
 12   S4    ほくしん店薬剤師              1回
 13   S5    ほくしん店薬剤師              1回
 14   S6    元ほくしん店薬剤師             1回
 15   S7    ほくしん店事務員              1回
 16   S8    ほくしん店事務員              1回
 17   S9    薬局事業本部研修・指導部部長        1回
 18   S10   薬局事業本部研修・指導部次長        1回
 19   S11   薬局事業本部研修・指導部研修課       1回
 20   S12   薬局事業本部研修・指導部研修課       1回
 21   J     薬局事業部本部               1回
 22   S13   研修・指導部                1回
 23   S14   第三事業部福島第一ブロック次長       1回
 24   S15   第四事業部長                1回
 25   S16   第五事業部長                1回
 26   S17   第五事業部マネージャー           1回
 27   K     第五事業部マネージャー           1回
28   S18   第六事業部部長             2回
29   S19   第六事業部次長             1回
30   S20   第六事業部近畿ブロックマネージャー   1回
31   S21   第六事業部マネージャー         1回
32   S22   第六事業部マネージャー         1回
33   S23   第六事業部マネージャー         1回
34   S24   グループ企画部マネージャー       1回
35   S25   アイランド薬局n2店マネージャー    1回
36   S26   アイランド薬局n3店管理薬剤師     1回
37   S27   アイランド薬局n4店薬局長       1回
38   S28   アイランド薬局n5店管理薬剤師     1回
39   S29   アイランド薬局n6店管理薬剤師     1回
40   S30   アイランド薬局n7店管理薬剤師     1回
41   S31   アイランド薬局n8店          1回
42   S32   n9店薬剤師              1回
別紙3・ヒアリング対象者一覧(日本アポック)


 代表取締役社長以下の役員,薬剤師その他の社員等合計38名に対して延べ
52回のヒアリングを実施した。※下記の役職はヒアリング実施当時のもので
ある。
      対象者   役   職                    実施回数
 1    T1    代表取締役会長                   2回
 2    T2    代表取締役社長                   1回
 3    R     取締役                       1回
 4    Q     取締役執行役員 店舗運営本部長           3回
 5    N     店舗運営本部店舗運営部長              4回
 6    T3    店舗運営部維持担当部長               1回
 7    T4    店舗運営部次長 第1グループ長           2回
 8    L     店舗運営部次長 第2グループ長           1回
 9    O     店舗運営部次長 第3グループ長           3回
 10   T5    店舗運営部次長 第4グループ長           1回
 11   T6    店舗運営部主任                   1回
 12   T7    店舗運営部                     1回
 13   P     人材開発部部長                   2回
 14   T8    監察室長                      1回
 15   T9    薬局アポックo1店薬局長    マネージャー    1回
 16   T10   薬局アポックo1店管理薬剤師            1回
 17   T11   薬局アポックo1店                 1回
 18   T12   薬局アポックo1店                 1回
 19   T13   薬局アポックo1店                 1回
 20   T14   薬局アポックo2店                 1回
 21   T15   薬局アポックb店マネージャー            2回
 22   T16   薬局アポックo3店管理薬剤師            1回
 23   T17   薬局アポックo4店マネージャー           1回
 24   T18   薬局アポックo4店                 1回
 25   T19   薬局アポックo5店管理薬剤師            1回
 26   T20   薬局アポックo6店                 1回
 27   T21   薬局アポックk店管理薬剤師             1回
 28   T22   薬局アポックo7店                 1回
 29   T23   アポックo8店管理薬剤師              1回
30   T24   アポックd店管理薬剤師      1回
31   T25   アポックe店管理薬剤師      1回
32   T26   アポックe店           2回
33   T27   アポックe店           1回
34   T28   アポックm店           1回
35   T29   o9管理薬剤師 マネージャー   1回
36   T30   o10店マネージャー       1回
37   T31   i店管理薬剤師          3回
38   T32   h店管理薬剤師          1回