2721 J-JHD 2020-04-30 16:00:00
第三者委員会の調査報告書(最終)の公表と今後の当社の対応に関するお知らせ [pdf]

                                          2020 年4月 30 日
各 位
                         会 社 名      株式会社ジェイホールディングス
                         代表者名       代表取締役社長 眞野      定也
                                 (コード:2721 東証ジャスダック)
                         問合せ先       取締役        中山 宏一
                                      (TEL   03-6430-3461)




 第三者委員会の調査報告書(最終)の公表と今後の当社の対応に関するお知らせ


 当社は、2020 年4月 28 日付「第三者委員会の調査報告書(最終報告)の受領及び今後
の当社の対応に関するお知らせ」にて公表致しましたとおり、同日に第三者委員会から調査
報告書(最終)を受領しておりましたが、その後、当社においてプライバシー及び機密情報
保護等の観点から、部分的な非開示措置を実施し、本日完了致しましたので、添付の通り、
当該調査報告書を公表致します。


1.再発防止策
 第三者委員会の調査報告書(最終)には、原因と再発防止に関する提言が行われておりま
す。当社は、それらを真摯に受け止め、早期に実効性のある具体的な再発防止策を策定し、
着実に取り組んでまいります。当社としての再発防止策につきましては、策定次第速やかに
開示させていただきます。


2.連結業績への影響
 第三者委員会の調査報告書(最終)の内容を踏まえた 2019 年 12 月期有価証券報告書、
過年度(2017 年 12 月期から 2019 年 12 月期まで)の有価証券報告書及び過年度(2017 年
12 月期第 2 四半期から 2019 年 12 月期第 3 四半期まで)の四半期報告書の訂正報告書の提
出、ならびに同日までに公表予定であった過年度(2017 年 12 月期から 2019 年 12 月
期まで)の決算短信及び過年度(2017 年 12 月期第 2 四半期から 2019 年 12 月期第 3
四半期まで)の四半期決算短信の訂正の発表は、2020 年 4 月 28 日付「2019 年 12 月期決
算発表及び 2020 年 12 月期第 1 四半期決算発表の延期に関するお知らせ」に記載の通り、
2020 年 5 月中を予定しております。


 株主の皆様をはじめ関係者各位には、多大なご心配、ご迷惑をお掛け致しておりますこと
を深くお詫び申し上げます。
                                                    以     上
株式会社ジェイホールディングス 御中




                調査報告書




              株式会社ジェイホールディングス
                      第三者委員会


                     2020年4月28日




                         1
第1 当委員会の概要 ............................................................................................................ 3
   1.当委員会設置に至る経緯 ............................................................................................... 3
   2.当委員会の構成 ............................................................................................................ 3
   3.調査期間、目的等 ........................................................................................................ 3
      (1)調査期間                           3
      (2)調査の目的                          3
      (3)調査の範囲                          3
   4.調査の方法 ................................................................................................................... 4
   5.本調査の前提及び制約等 ............................................................................................. 4
      (1)本調査の前提                         4
      (2)本調査の制約                         5
      (3)本調査報告書の一部非開示                                              5
第2 対象会社及び本件取引に関連する会社等の概要 ........................................................... 6
   1.ジェイホールディングス及び連結子会社 .................................................................... 6
      (1)ジェイホールディングス 6
      (2)シナジー・コンサルティング                                             6
      (3)その他子会社                         6
      (4)事業セグメントの販売構成                                              6
   2.本件取引の関係法人..................................................................................................... 7
      (1)a社               7
      (2)b社               8
      (3)c社               8
      (4)d社               9
第3 調査 ................................................................................................................................ 9
   1.調査対象取引................................................................................................................ 9
      (1)売買契約書等と登記情報との突合により抽出した取引                                                                          9
      (2)高額取引の抽出 10
      (3)重要性の観点からの抽出 10
      (4)抽出された調査対象取引 11
   2.検討結果 ..................................................................................................................... 11
      (1)類型 1 11
      (2)類型 2 13
      ア      物件 I にかかる仲介手数料【16】【17】                                             13
      イ      物件 N にかかる仲介手数料【26】【27】                                             13
      ウ      物件 O にかかる仲介手数料【28】【29】                                             14
      エ      物件 S-①購入にかかる仲介手数料【40】
                                 【41】                                                         15
      オ      物件 B-①仕入にかかる仲介手数料等【2】【3】                                                         15
      カ      物件 F-②販売にかかる仲介手数料【30】
                                 【31】                                                         16

                                                                   1
     (3)類型 3 16
     ア      物件 A にかかる業務委託費【1】                                    17
     イ      物件 C-①、C-②にかかる仲介手数料【4】 【6】 17
                                 【5】
     ウ      物件 V にかかる仲介手数料【45】
                             【46】                                             18
     (4)類型 4 19
     ア      物件 B-②販売にかかる仲介手数料【32】
                                【33】                                                        19
     イ      物件 Q にかかる仲介手数料【36】【37】                                            20
     ウ      物件 G にかかる仲介手数料【12】【13】                                            21
     エ      物件 L にかかる仲介手数料【22】
                             【23】                                             21
     オ      物件 R にかかる仲介手数料【38】
                             【39】                                             22
     カ      物件 S-②(販売)
                     【55】【56】にかかる仲介手数料                                                      22
     キ      物件 E にかかる仲介手数料【8】【9】                                              23
     ク      物件 M にかかる仲介手数料【24】【25】                                            24
     ケ      物件 Y にかかる仲介手数料【50】【51】                                            24
     コ      物件 Z にかかる仲介手数料【52】
                             【53】                                             25
  3.連結子会社該当性 ...................................................................................................... 26
     (1)a社に関する問題                                    27
     (2)b社に関する問題                                    27
     (3)c社に関する問題                                    27
第4 コンプライアンスに関する提言 .................................................................................. 30
  1.原因 ............................................................................................................................ 31
     (1)役員の問題意識の欠如                                  31
     (2)親会社役員の子会社に対する管理意識の薄弱化                                                               32
     (3)完成契約書等のチェック機能の不全                                                      32
  2.再発防止に関する提言 ............................................................................................... 33
     (1)コンプライアンス意識の見直し                                           33
     (2)コーポレートガバナンスの強化                                           33




                                                                 2
第1 当委員会の概要
 1.当委員会設置に至る経緯
     株式会社ジェイホールディングス(以下「JH 社」ともいう。 )が 2020 年
   1 月 17 日付で公表した「第三者委員会の設置に関するお知らせ」に記載の
          JH
   とおり、 社の連結子会社である株式会社シナジー コンサルティング
                               ・         (以
   下「SC 社」という。   )が行った過去の不動産取引の一部に関して、その売
                             JH
   上計上の妥当性等につき外部からの指摘を受け、 社において当該指摘事
   項に関する調査、検証を行ったところ、事実経緯の正確な把握には、外部
   取引先を含めた深度ある客観的な調査が必要であるとの認識に至り、 社   JH
   とは利害関係の無い外部専門家で構成される第三者委員会(以下「当委員
   会」という。    )を設置した。


 2.当委員会の構成
   当委員会の構成は以下のとおりである。
    委員長:河邉 義正(弁護士)
    委 員:吉田 秀康(弁護士)
    委 員:奥山 琢磨(公認会計士)
   当委員会は弁護士等の調査補助者を選任し、  同調査補助者は当委員会の指
  示のもと、関係資料や電子データの精査、関係者に対するヒアリングを実
  施するなどして、当委員会の実務的な補助業務を行った。
   調査委員及び調査補助者は、JH 社、SC 社と業務上の契約関係などの利
  害関係を有しておらず、独立性及び中立性が確保されている。


 3.調査期間、目的等
 (1)調査期間
    当委員会の調査は、2020 年 1 月 18 日から 2020 年 4 月 27 日まで行われ
   た。


 (2)調査の目的
    当委員会の調査は、外部から指摘のあった SC 社の過去の不動産取引の一
   部の売上計上の妥当性等について、事実関係の解明、原因の分析、及び再
  発防止策の提示を目的としている。


 (3)調査の範囲
    当委員会は、外部からの指摘により JH 社の社内において行った調査、検
   証により抽出された 2017 年及び 2018 年に SC 社において計上された 7 物
   件の不動産仲介手数料及び業務委託手数料(後記の別紙図表の物件 D、U、
   W、X、AA、AB 及び AC)について売上計上の適切性を検討した。なお、

                        3
 当委員会は、同種事例の取引の有無の確認にあたり、後記第3の1の手続
 きを経て調査対象範囲を拡大した。


4.調査の方法
   当委員会は、以下の方法で調査を行った。
 ア JH 社、SC 社及び関係者からの資料の収集、精査及び分析
    当委員会は、  調査対象取引に関連して売買された不動産の登記情報、JH
  社、SC 社内で保管されている稟議書、取締役会議事録、入出金証憑、そ
  の他関連資料を必要と認める範囲内で査閲、分析した。
    また、関係者から、JH 社、SC 社には保管されていない関係法人の売
  買契約書、各不動産取引の決済において売買金額、諸費用が計算されてい
 る決済明細等の提出を求め、提供を受けた資料につき査閲、分析した。
イ 関係者に対するヒアリング
  当委員会は、本件調査対象取引の実務を行った SC 社の代表取締役であ
 る甲氏(以下「甲氏」という。)のヒアリングを中心に行い、必要に応じ
 て会社関係者に対してヒアリングを行った。


ウ    デジタルフォレンジック等
     当委員会は、甲氏、SC 社の取締役で JH 社の代表取締役でもある乙氏
    (以下「乙氏」という。)よりパーソナルコンピュータ(以下「PC」とい
    う、)の提供を受け、電子メールデータ、ワードファイル、エクセルファ
    イル、PDF ファイル等のデータを保全した。しかしながら PC に保管さ
    れているデータは、  データ抹消ソフト等により削除された可能性があるほ
    か、同人らは Web メールを使用したところ乙氏のメールデータは 2019
    年 1 月以前のものについては、取得できなかった。当職らは、取得できた
    データの範囲内で、これらを精査、検討した。
     また、SC 社の従業員において共有されていたオンラインストレージの
    共有権限の付与を受け、アップロードファイル等の精査を行った。


5.本調査の前提及び制約等
(1)本調査の前提
ア 当委員会が写しとして開示を受けた資料は原本の真正な写しであり、原
 本と同一の内容を有すること。
イ 当委員会が開示を受けた資料中の署名・押印は、本調査により偽造され
 たものと判断されたものを除き、真正であり、当該署名・押印は権限を有
 する者によりなされたものであること。
ウ 当調査報告書は、SC 社の過去の不動産取引の一部の売上計上の妥当性
 等について、事実関係の解明、原因の分析、及び再発防止策の提示を目的

                    4
  として作成したものであり、JH 社、SC 社の関係者の責任を追及するも
  のではないこと。また、同目的以外の使用、JH 社以外の第三者により利
  用、依拠されることは予定していないこと。


(2)本調査の制約
 ア 本調査は、当初の調査範囲が 7 物件であったところ、最終的に、網羅性
  担保のための 147 物件の調査を要し、指摘すべき取引は 33 物件に至って
  いる。当委員会としては、本調査が継続中であることを理由に JH 社が有
  価証券報告書を提出できない状況に陥ることは、   投資家に多大な影響を及
  ぼすおそれが懸念されるため、可能な限り迅速に調査を行い、JH 社にお
  いて、必要な計算書類等の修正が行われた上で会計監査人の監査を経て有
 価証券報告書の提出が可能となるよう、会計処理の妥当性の検討を最優先
 に本調査を進めたもので、本調査は、極めて限られた時間的制約の中で実
 施されたものである。
イ 本件調査対象取引は、外部第三者である関係法人を介在させ実在する取
 引を利用し、偽造された印鑑を用いて契約書等を整えた上、名義人を仮装
 した上で振込送金が行われていたものなどであり、JH 社、SC 社で保管
 されている稟議書や契約書等の証憑上は正常取引と相違がなく、更に、こ
 れら取引の作出にかかる証憑が存在しないことから、客観資料から取引内
 容の実態を把握し、その実在性等を検証することは、困難であった。そこ
 で、関係者に対するヒアリングにおいて資料の提供を依頼し、任意に提出
  を受けた資料の限りにおいて検証を行った上、関係者に複数回にわたるヒ
  アリングを実施し、複数回の説明に齟齬はないか、他の証拠との突合によ
  り他に存在が想像できる資料を徴求するなど、可能な限り実態の把握に努
  めたが、開示を受けたもの以外に資料が存在するか否かを調査することに
  は限界があった。本調査は、法令に基づく強制調査権が認められない任意
  の調査であり、このような能力的な制約が存在する。


(3)本調査報告書の一部非開示
   本調査報告書において、関係法人の SC 社連結子会社該当性に触れてい
       SC
  るところ、 社において関係法人が連結子会社に該当するものと判断し当
 該関係法人の商号等が公開される場合はともかく、本調査報告書の公表に
 あたっては、関係法人の商号等を非公表とする等、関係者のプライバシー
 保護の観点等を十分考慮されたい。




                   5
第2 対象会社及び本件取引に関連する会社等の概要
1.ジェイホールディングス及び連結子会社
 (1)ジェイホールディングス
    JH 社は、本店を東京都港区に置く株式会社である。
    同社は、1993 年 1 月に株式会社イザットとして設立され、独自で開発し
   た外断熱工法による住宅資材を販売する「加盟店事業」を行っていた。
    2001 年 11 月に株式を店頭登録、2004 年 12 月には店頭登録を取り消し、
   ジャスダック証券取引所に上場し、      2011 年からは住宅事業、 スポーツ事業、
   不動産事業、IT 事業の子会社を有する持ち株会社に移行している。
    2016 年 6 月、加盟店数の減少、それに伴う新築件数の減少に加え、加
   盟店によるイザット社以外からの資材調達が容易になったことから、 社        JH
   の連結子会社となっていた株式会社イザットハウスの全株式を譲渡した。
    そのような中、JH 社は 2016 年 12 月、長年不動産事業に従事し業務経
   験が豊富である乙氏が取締役に、2017 年 3 月には代表取締役に就任し、不
   動産セグメントの強化、規模の拡大を図ってきた。


 (2)シナジー・コンサルティング
    SC 社は、JH 社の連結子会社として、不動産事業を展開する株式会社で
   ある。
         JH
    乙氏は、 社の不動産セグメントの強化にあたり、   乙氏がかつて勤務し
   ていた不動産会社の従業員であった甲氏を不動産事業子会社である SC 社
   に誘い、2016 年 12 月、甲氏が代表取締役に、乙氏が取締役に就任した。
     SC 社は、従前は区分所有物件の仲介業務を中心に展開していた。  乙氏は、
   SC 社において収益を向上させるため、金融機関等から資金を借入れ、物件
   を取得しこれを販売することによる売買差益を計上しようと考えていたが、
   SC 社においては事業融資を受けることは困難であった。そこで、乙氏は、
   まずは、資金力がなくとも行える、後記a社が行っていたビジネスモデル
   で実績を積むこととした。


 (3)その他子会社
    JH 社は、SC 社のほか、システム・ソリューション開発業務、マーケテ
   ィング・プロモーション業務、Web アプリ開発等の Web 事業を主業務とす
   る株式会社アセット・ジーニアス、 フットサルコートのレンタル、フット
   サルスクールの開催、フットサルイベントの企画等フットサル施設の運営
   を主業務とする株式会社ジェイスポーツの連結子会社を有している。


 (4)事業セグメントの販売構成
    JH 社の各事業における販売構成は下表のとおりである。

                      6
                                                                        (千円)
              第 24 期           第 25 期           第 26 期           第 27 期
           (2015 年 12 月期)   (2016 年 12 月期)   (2017 年 12 月期)   (2018 年 12 月期)
住宅事業             954,265          167,999          -                -
スポーツ事業           114,268          107,952          103,791              97,966
不動産事業             68,767          890,741         3,616,811        1,380,962
Web事業            109,237          146,287          144,105           134,805
合計              1,246,538        1,312,980        3,864,708        1,613,734
                                 出典:有価証券報告書                   セグメント販売実績


2.本件取引の関係法人
  本件調査対象取引は、SC 社において不動産売買取引に関する仲介手数料等
 を計上したものであるが、これらは以下の第三者関係法人を介在させるなど
 して行われたものであった。

 (1)a社
  ア 法人の概要
     a株式会社(以下「a社」という)は、2015 年 7 月に不動産の売買、
    仲介、斡旋、賃貸及び管理を主業務に設立された株式会社であり、代表
    取締役は乙氏であったが、2017 年 8 月に乙氏の知人に変更されている。
    株主は、乙氏 1 人であるとのことだった。
     イ 事業の内容等
     (ア) 乙氏は、a社において、不動産の売り物件に対応した買手を確保し、買
        手の資金で決済するビジネスモデルを採用しており、同モデルでは中間
        省略登記により売買当事者として登記情報には登録されないものの、資
        金力がなくとも売買当事者となり収益を得ることができるものであると
        のことであった。
     (イ) 乙氏は、自身がa社を離れ JH 社、SC 社の業務を行うにあたり、a社
        で残存している自身の案件を SC 社において、取り扱うこととした。a
        社が売主となる不動産売買に SC 社が売買当事者として関与するもので
        あり、JH 社においては、2017 年 1 月頃より、利益相反取引にかかる取
        締役会決議を経て、会社情報として適時開示をした上で取引が行われ、
        有価証券報告書の注記事項 関連当事者取引として記載されている。
     ウ 本件調査対象取引との関係
     (ア) a 社は前記のとおり、JH 社において必要な手続きを行った上で、SC 社と取
        引を行っていたものであったが、甲氏は、これら煩雑な手続きを避けることを
        考え、a 社が関与した取引に、架空の売買契約書等を作成し、これら手続きを


                                   7
     行わずに売上として計上させていたものであった。
(イ) a 社の銀行口座の入出金、会社印鑑は、SC 社内で管理され、甲氏にお
  いて押印等がされているものであった。


(2)b社
 ア 法人の概要
   b株式会社(以下「b社」という。  )は、2005 年 7 月に不動産の売買、
  賃貸及びその代理または仲介業並びに管理を主業務に設立された株式会
  社である。b社は、その創業者が 1 人株主及び代表取締役であったが、同
  氏はかねてより甲氏に会社を譲る旨の意向を表明していた。      創業者の死亡
  後、相続人による協議を経て、2015 年 8 月付けで甲氏が代表取締役に就
  任している。この時、b社の株式は相続人らによって保有されることとな
  ったが、相続人らは創業者の意向に従い、実質的に甲氏の意向に沿った経
  営が行われているとのことであった。
   2016 年 12 月、甲氏は SC 社の代表取締役就任に伴い、知人に代表取締
  役の就任を依頼し、自身は取締役を辞任している。なお、本件調査期間中
  である 2020 年 2 月代表取締役が変更されており、同代表取締役に全株式
  が譲渡されたとのことであった。
 イ 事業の実態
   b社においては、少なくとも 2017 年 7 月頃より、b社を売主、SC 社
  を買主とする売買取引が行われるなど、SC 社に関連した取引に介在して
  いたが、 これ以外にb社が独自で行っている取引はないとのことであった。
ウ 本件調査対象取引との関係
(ア) 甲氏は、b社を架空の取引の売買当事者として介在させ SC 社に仲介手
  数料を計上させ、b社が自己の資金をもって手数料相当額を、振込名義人の
  名義に替え、SC 社に振込送金し、仲介手数料の支払を仮装していたものであ
  った。
(イ) b社の銀行口座の入出金、会社印鑑は、SC 社内で管理され、甲氏において
  自由に押印され、入出金等の処理が行われていたものであった。


(3)c社
 ア 法人の概要
   c株式会社(以下「c社」という。)は、2016 年 4 月にアーティスト、
  タレント、スタッフ等のマネジメント及びプロモート業務を主業務に設立
  された株式会社であり、代表取締役は丙氏であった。株主は、乙氏 1 人で
  あるとのことだった。
   乙氏は、芸能事務所の経営に携っていた関係上、芸能関係、カフェ飲食
  店の経営を行うため、c社を設立し芸能関係の事業も展開したが、最終的

                    8
  には丙氏が行っているカフェ事業のみ経営しているところであった。
   なお、本件調査期間中である 2020 年 2 月代表取締役が変更されている。
 イ 事業の実態
   ある別法人で販売した不動産の管理を行う必要が生じたことから、乙氏はこ
  れを甲氏にc社で行うことを勧め、カフェ事業とは別に、銀行口座を開設させ、
  不動産管理案件はc社で行うようになった。c社で行っていた不動産管理とは、
  現場の清掃など一般的な物件管理ではなく、収益物件として不動産を購入した
  買主に対し、賃貸の状況と共に利回りの状況等を取り纏めこれら資料を提供し
  たり、家賃保証や修繕サービスを行ったりするというものであった。家賃保証や
  修繕により、活動資金がなくなると、甲氏は乙氏に資金の充当を依頼し、乙氏
  は自己の資金でこれに対応し、管理業務が行われていた。
 ウ 本件取引との関係
 (ア) 甲氏は、a 社等による売買取引に関し、a 社等が買手から売買代金や諸費
   用と共に仲介手数料も合算された金額の支払を受けると、ここから手数料相当
   額をc社に送金し、c社において、振込名義を当該買手の名義に替え、SC 社に
   振込送金してた。
 (イ) c社の銀行口座の入出金、会社印鑑は、SC 社内で管理され、甲氏におい
   て、入出金等の処理が行われていたものであった。


(4)d社
 ア 法人の概要
    社株式会社d(以下「d社」という。 は、
                     )  2013 年 5 月に不動産の売買・
  交換・賃貸及びその仲介並びに所有・管理及び利用を主業務に設立された
  株式会社である。
 イ 本件取引との関係
    d社は、乙氏が既知の不動産事業者であったところから,甲氏は、偽造
  した同社の印鑑を押印した架空の契約書等により、同社をして SC 社に仲
  介手数料を計上させていたものであった。


第3 調査
1.調査対象取引
  当調査委員会は、以下の手法により、調査対象仲介業者として関与した取引
 を抽出した。


(1)売買契約書等と登記情報との突合により抽出した取引
   JH 社から提示された調査対象取引は、SC 社が手数料を計上した不動産
  売買にかかる仲介取引及び業務委託費取引である。
   当委員会において、調査対象取引に関する登記情報を取得し、JH 社、

                   9
 SC 社内で保管されている調査対象物件にかかる売買契約書を突合したと
 ころ、売買契約書による所有権移転と登記情報の権利者の移転が一致しな
 いものが多く見られた。売買契約書には、
                   「第三者のためにする契約を内容」
 とする特約が付されており、直接移転取引(第三者のためにする売買契約)
                               JH
 として中間省略登記を前提に締結されているものが多くあり、 社内にお
 いては、登記情報における旧所有者から新所有者までの所有権の移転が確
 認できる資料が全て保管されているものではなく、登記情報に登録されて
 いる旧所有者から新所有者への所有権の移転が売買契約に基づき適正に移
 転されているか否かを判断することはできなかった。
  そこで、当委員会は、甲氏に対し、JH 社、SC 社において保管されてい
 る売買契約書以外の、登記情報における旧所有者から新所有者への所有権
 の移転を確認できるその他売買契約書等の提示を求めたところ、甲氏は、
 一部についてその他契約書等を示す一方「社内に残る対象取引の売買契約
 書及び同契約に関する媒介契約書は偽造したものであり売買の実態はなく、
 登記情報における権利移転を示す他の売買契約も存しないものがある。 と
                                 」
 述べるに至った。


(2)高額取引の抽出
   前記(1)の検討を経て、当委員会は、仲介手数料等の売上計上の妥当性
  が疑われる取引は、計上されている仲介手数料等が比較的高額であったこ
  とから、高額な取引から順次検討することとした。
  これら取引についても、登記情報における権利移転を示す他の売買契約
 等はなく、所有権の適正な移転を説明し切れないものであった。
  これら売買契約にかかる媒介契約書においては、「約定報酬の支払い義務
 は売買契約締結時点にて確定するものとし、売買契約締結後、その原因理
 由の如何を問わず売買契約の解除等により、売買契約の一部または全部が
 履行されなかった場合においても、支払時期までに支払うものとする。」と
 の解除特約(以下「解除特約」という。)が付されているものが複数確認さ
 れた。この点について甲氏は「解除特約を付すことによって、決済前の売
 買契約締結案件にかかる仲介手数料の売上計上が可能となることから、解
 除特約を付した媒介契約をもって売上計上していた。」と述べている。
  当委員会においては、媒介契約書に解除特約が付されている取引を調査
 範囲として拡大することとした。


(3)重要性の観点からの抽出
   前記(1)及び(2)を総合的に考慮すると共に、重要性の観点から 2017
  年から 2019 年の JH 社の経常利益の 5%に相当する金額を目安に、解除特
  約を付した媒介契約により計上された 250 万円以上の仲介手数料を計上し

                   10
  ている取引を調査範囲とすることとした(同一物件で複数の取引が行われ
  ており、 何れかの取引が 250 万円以上であった場合は、  その他の取引が 250
  万円未満であっても、調査対象とした。。また、調査の網羅性を担保する
                        )
  ため 250 万円以上の売買取引についても調査範囲とした。なお、何れにつ
  いても甲氏が SC 社の代表取締役に就任した 2016 年 12 月以降に行われた
  取引を対象とした。


 (4)抽出された調査対象取引
    前記(1)乃至(3)の手続きにより抽出された調査対象取引は別紙図表
   のとおりである(以下「本件調査対象取引」という。。
                           )


2.検討結果
   当委員会で、調査対象取引を精査したところ、これらの中には、真正売買
  契約に全く関与していないもの、仲介手数料を収受することができない取
  引に売買契約書等を偽造するなどしたもの、真正売買を偽るため売買契約
  及び媒介契約を仮装したもの、見込み計上し事後的に実態と合致しなくな
  ったもの等が確認された。SC 社は、JH 社の連結子会社の中でも多額の収
  益を計上してところ、甲氏は、早期に売上を計上するため、また、中間省
  略登記において中間者への登記の省略が可能であることを利用し、架空の
  仲介手数料を計上させるため、契約当事者の偽造した印鑑をもって売買契
  約及び媒介契約等を仮装し売上計上させた上、b社やc社をして、振込名
  義人を同契約当事者に替えて、仲介手数料等の振込を行っていたものであ
  る。以下、類型毎に、指摘すべき取引について詳述する。


(1)類型 1
   登記情報に登録の旧所有者から新所有者への売買について SC 社は全く関
  与していなかった類型である。
   本類型に該当するものは以下の通りである。
    物件 D にかかる業務委託費【7】
    物件 F-①仕入にかかる仲介手数料【10】 【11】
    物件 H にかかる仲介手数料【14】【15】
    物件 J にかかる仲介手数料【18】【19】
    物件 K にかかる仲介手数料【20】【21】
    物件 P にかかる仲介手数料【34】【35】
    物件 T にかかる仲介手数料【42】【43】
    物件 U にかかる仲介手数料【44】
    物件 W にかかる仲介手数料【47】【48】
    物件 X にかかる仲介手数料【49】

                    11
   物件 AA にかかる仲介手数料【54】
   物件 AB にかかる仲介手数料【57】
   物件 AC にかかる仲介手数料【58】


(ア) 甲氏は、取得した売り物件情報等を利用し、当該物件に関する架空の手数
  料を計上させることとし、当該物件にかかる架空の売買契約書及び同契約に関
  する媒介契約書、業務委託契約書に、偽造した契約相手方の印鑑を押印しこ
  れらを作成し、本来、収受する余地がなかった仲介手数料等を計上していたも
  のであった。
(イ) これら計上された手数料は、何れもb社やc社の資金等をもって、振込名義を
  契約相手方等の名義に替え、SC 社に振込送金されていたものであった。
(ウ) これら手数料は、偽造した印鑑を押印して、契約相手方等の承知しないとこ
  ろで作成された契約に基づくものであり、また、契約相手方等は手数料を負担
  しておらず、何れも、本来、手数料を収受する余地がなく、売上計上は認められ
  ない。
(エ) 前記(イ)のとおり、SC 社が収受した手数料の原資はb社やc社の自己の資
  金であったが、次にあげるものについては、乙氏又は SC 社が他の名目で支出
  した資金等を原資として SC 社への仲介手数料の支払がなされたものであっ
  た。
   a.物件 W にかかる仲介手数料【47】【48】及び物件 AA にかかる仲介手数料
     【54】
     SC 社は、d社との間で締結した事業出資契約書に基づき、2018 年 12 月
    26 日付けで、d社に対し事業協力出資として 7,300 万円を送金している。
    他方、b社は、同月同日付けで、d社から 6,000 万円の送金を受けており、
    b社は同資金を原資に、【47】【48】【54】の仲介手数料を支払っていたもの
    であった。
  b.物件 X にかかる仲介手数料【49】
      【49】の仲介手数料は、c社が自己の資金と乙氏から送金を受けた
    2,000 万円を原資に、SC 社に支払われたものであった。
  c.物件 AB にかかる仲介手数料【57】
     SC 社は、株式会社e(以下「e社」という。)との間で締結した売買契約に
   基づき 2019 年 2 月 27 日付けで、e社に対し当該売買の手付金として
   5,500 万 円を送金している。他方、c社は、同月同日付けで、e社から
   4,000 万円の送金を受けており、c社は同資金と乙氏から送金を受けた
   2,000 万円を原資に、【57】の仲介手数料を支払っていたものであった。
    なお、本件売買契約については、e社において同不動産を取得すること
   ができなくなったとのことで、SC 社は合意書を取り交わした上で、2019 年 4
   月 19 日付けで手付金全額の返還を受けている。

                    12
 d.物件 AC にかかる仲介手数料【58】
    【58】の仲介手数料は、c社が自己の資金と何者かから送金を受け
   た 6,000 万円を原資に、SC 社に支払われたものであった。当委員会
   は本件調査において、資金の負担者を特定することはできなかった。


(2)類型 2
  仲介業務の役務提供を行ったものの、一方の相手方から又は何れかからも仲
介手数料を収受することができないため、真正売買契約とは別に売買契約書を
偽造し、又は、無関係な売買契約を仮装して、仲介手数料を計上した類型であ
る。


ア 物件 I にかかる仲介手数料【16】【17】
(ア) 本件は、旧所有者とb社による本件物件の売買に関し仲介手数料を計上し
   た事案である。
    SC 社は、本件物件にかかる旧所有者とb社の売買に関し、仲介業務を行っ
   たところ、b社は、本件物件を高値で売却できるものと期待して、これを同社に
   おいて確実に取得したいと考え、本来 SC 社が収受できる仲介手数料を旧所
   有者側の仲介業者に支払うこととして、売買契約を締結した。
    甲氏は、本件売買契約に関し、売手・買手の双方から仲介手数料を計上さ
   せることとし、本件売買契約書及び同契約に関する解除特約を付した媒介契
   約書に、偽造した旧所有者の印鑑を押印しこれらを作成し、旧所有者からの
   仲介手数料(【16】)、b社からの仲介手数料(【17】)を売上として計上したもの
   であった。
(イ) 【16】【17】の仲介手数料は、何れもb社が、自己の資金をもって、振込名義
   を旧所有者の名義に替え、b社の名義において、各々SC 社に振込送金され
   ていたものであった。
(ウ) 【16】の仲介手数料については、偽造した印鑑を押印して、旧所有者の承知
   しないところで作成された契約に基づくものであり、また、旧所有者は手数料
   を負担しておらず、売上計上は認められない。
     【17】の本件仲介手数料については、b社は旧所有者側の仲介業者に支払
   っており、SC 社に手数料を収受する余地はなく、売上計上は認められない。


イ 物件 N にかかる仲介手数料【26】     【27】
(ア) 本件は旧所有者から本件物件を購入したb社と新所有者による売買に関し
   仲介手数料を計上した事案である。
    SC 社は、本件物件にかかるb社と新所有者の売買に関し、仲介業務を行
   い、2017 年 11 月、売買契約が締結された。新所有者側には仲介業者が専任
   されており、SC 社としては仲介手数料を収受する余地がなかったところ、甲氏

                   13
  は、本件売買に関し、売手・買手の双方から仲介手数料を計上させることとし、
   本件売買契約書及び解除特約を付した同契約に関する媒介契約書に、偽造
   した新所有者の印鑑を押印しこれらを作成し、b社からの仲介手数料(【26】)、
   新所有者からの仲介手数料(【27】)を 2017 年 12 月付けで売上として計上し
   たものであった。
(イ) 【26】【27】の仲介手数料は、何れもb社が、自己の資金をもって、振込名義
   を新所有者の名義に替え、b社の名義において、各々SC 社に振込送金され
   ていたものであった。
(ウ) 【26】の仲介手数料については、計上が認められる。
     【27】の仲介手数料については、偽造した印鑑を押印して、新所有者の承
   知しないところで作成された契約に基づくものであり、また、新所有者は手数
  料を負担しておらず、売上計上は認められない。
   なお、【26】の仲介手数料は真正売買契約が締結された 2017 年 11 月に計
  上されるべきである。


ウ 物件 O にかかる仲介手数料【28】  【29】
(ア) 本件は、b社と旧所有者による本件物件の売買に関し仲介手数料を計上し
   た事案である。
    SC 社は、本件物件にかかる旧所有者とb社の売買に関し、仲介業務を行
   い、売買契約が締結された。旧所有者は宅地建物取引業者であり仲介業者
   を選任する意思はなく、SC 社としては仲介手数料を収受する余地がなかった
   ところ、甲氏は、本件売買契約に関し、売手・買手の双方から仲介手数料を計
   上させることとし、本件売買契約書及び同契約に関する解除特約を付した媒
   介契約書に、偽造した旧所有者の印鑑を押印しこれらを作成し、旧所有者か
   らの仲介手数料(【28】)、b社からの仲介手数料(【29】)を売上として計上した
   ものであった。
    なお、甲氏は、本件仲介手数料の計上にあたり、売買金額を 1 億 2500 万
   円から 2 億 2000 万円に水増しさせており、仲介手数料も水増しされた売買代
   金に基づき計算されていたものであった。
(イ) 【28】【29】の仲介手数料は、何れもb社が、自己の資金をもって、振込名義
   を旧所有者の名義に替え、b社の名義において、SC 社に振込送金されてい
   たものであった。
(ウ) 【28】の仲介手数料については、偽造した印鑑を押印して、旧所有者の承知
   しないところで作成された契約に基づくものであり、また、旧所有者は手数料
   を負担しておらず、売上計上は認められない。
     【29】の仲介手数料については、水増しさせた売買契約書に基づき仲介手
   数料が計算されており、以下のとおり、宅地建物取引業法上認められる上限
   の範囲内で計上が認められる。

                    14
   真正売買契約における売買金額 1 億 2,500 万円から計算される 381 万円
 (「(売買金額 1 億 2,500 万円×3%)+60,000 円」の計算によるもの。税抜
 き。)。


エ 物件 S-①購入にかかる仲介手数料【40】 【41】
(ア) 本件は、旧所有者とb社による本件物件の売買に関し仲介手数料を計上し
   た事案である。
    SC 社は、本件物件にかかる旧所有者とb社の売買に関し、仲介業務を行っ
   たところ、b社は、本件物件を高値で売却できるものと期待して、これを同
   社において確実に確保したいと考え、本来 SC 社が収受できる仲介手数
   料を旧所有者側の仲介業者に支払うこととして、売買契約を締結した。
    甲氏は、本件売買に関し、売手・買手の双方から仲介手数料を計上させるこ
   ととし、本件売買契約書及び解除特約を付した同契約に関する媒介契約書
   に、偽造した旧所有者の印鑑を押印しこれらを作成し、旧所有者からの仲介
   手数料(【40】)、b社からの仲介手数料(【41】)を売上として計上したものであ
   った。
(イ) 【40】【41】の仲介手数料は、何れもb社が、自己の資金をもって、振込名義
   を旧所有者の名義に替え、b社の名義において、各々SC 社に振込送金され
   ていたものであった。
(ウ) 【40】の仲介手数料については、偽造した印鑑を押印して、旧所有者の承知
   しないところで作成された契約に基づくものであり、また、旧所有者は手数料
 を負担しておらず、売上計上は認められない。
  【41】の本件仲介手数料については、b社は旧所有者側の仲介業者に仲介
 手数料を支払っており、SC 社は、本来、手数料を収受する余地がなく、売上
 計上は認められない。


オ 物件 B-①仕入にかかる仲介手数料等【2】  【3】
(ア) 本件は、旧所有者と a 社による本件物件の売買に関し仲介手数料等を計上
   した事案である。
    旧所有者と a 社により本件物件にかかる売買契約が締結された。旧所有者
   及び a 社は各々仲介業者を選任しており、SC 社としては仲介手数料を収受
   する余地がなかったところ、甲氏は、本件売買に関し、架空の仲介手数料等
   を計上させることとし、真正売買契約とは無関係な本件売買契約書、同契約
   に関する業務委託契約書、解除特約を付した媒介契約書を作成し、b社から
   の業務委託手数料(【2】)、b社からの仲介手数料(【3】)を売上として計上した
   ものであった。
(イ) 【2】【3】の仲介手数料等は、何れもb社が、自己の資金をもって SC 社に振
   込送金されていたものであった。

                    15
 (ウ) 【2】【3】の仲介手数料等は、何れも真正売買契約とは無関係に作成された
   契約に基づくものであり、何れも、手数料を収受する余地がなく、売上計上は
   認められない。


 カ 物件 F-②販売にかかる仲介手数料【30】    【31】
 (ア) 本件は、旧所有者と新所有者による本件物件の売買に関し仲介手数料を
    計上した事案である。
     SC 社は、本件物件にかかる旧所有者と新所有者の売買契約に関し、仲介
    業務を行い、2018 年 3 月、売買契約が締結された。
     旧所有者側は仲介業者を選任する意思がなく、SC 社としては仲介手数料
    を収受する余地がなかったところ、甲氏は、本件売買に関し、架空の仲介手
   数料を計上させることとし、真正売買契約とは無関係な、b社と新所有者との
   売買契約書、同契約に関する業務委託契約書を作成し、偽造した新所有者
   の印鑑を押印しこれらを作成し、b社からの仲介手数料(【30】)、新所有者か
   らの仲介手数料(【31】)を売上として計上したものであった。
     なお、甲氏は、本件仲介手数料の計上にあたり、本件売買契約において、
   売買金額を 1 億 5,000 万円から 1 億 8,300 万円に水増しさせており、仲介手
   数料の額も水増しされた売買代金に基づき計算されていたものであった。また、
   真正売買契約は 3 月に締結されたものであるにもかかわらず、売買契約書は
   1 月に締結したとして、同月に仲介手数料を売上として計上していたものであ
   った。
 (イ) 【30】【31】の仲介手数料は、何れもb社が、自己の資金をもってb社の名義
    において、振込名義を新所有者の名義に替え、各々SC 社に振込送金されて
    いたものであった。
 (ウ) なお、【31】の仲介手数料については、前記(イ)に先立ち、新所有者が、b社
    に振込送金していたが、その金額は、真正売買契約に基づき計算された
    4,708,799 円(4,359,999 円及び消費税 348,800 円)であった。
 (エ) 【30】の仲介手数料は、真正売買契約とは無関係に作成された契約に基づ
    くものであり、本来、手数料を収受する余地がなく、売上の計上は認められな
    い。
      【31】の仲介手数料については、新所有者においては、実際に仲介手数料
   を負担しており、その限りにおいて、売上の計上が認められる。
    なお、同仲介手数料は真正売買契約が締結された 2018 年 3 月に計上さ
   れるべきである。


(3)類型 3
   a社が売買当事者となる取引で、SC 社は仲介業務を行ったものであったが、
  利益相反取引にかかる取締役会決議や適時開示の手続きが煩雑であったこと

                      16
などから、真正売買取引とは全く関係のない売買取引、同取引に関する仲介契
約を仮装していた類型である。


ア 物件 A にかかる業務委託費【1】
(ア) 本件は旧所有者から本件物件を購入したa社と新所有者による売買に関し
   業務委託費を計上した事案である。
    SC 社は、本件物売買当事者としてa社と新所有者の売買契約に関し、仲介
   業務を行い、売買契約が締結されることとなった。甲氏は、a社に関する取引
   は利益相反取引・関連当事者取引に該当する可能性を懸念し煩雑な手続き
   を避けるため、a社以外の者から業務委託費を収受したように仮装することとし、
   a社と新所有者との間にb社を介在させ、即ち、a社とb社の本件売買契約、b
   社と新所有者の売買契約とさせた上、本件売買契約に関しb社との業務委託
   契約を仮装し、b社からの業務委託費を売上として計上したものであった。
(イ) 【1】の業務委託費は、新所有者から売買代金の支払いを受けたa社がc社を
   介して、振込名義をb社の名義に替え SC 社に振込送金されていたものであっ
   た。
(ウ) 本件業務委託費は、売買契約関与当事者を偽った仮装の契約に基づくも
   のであるものの、真正売買取引に関し、SC 社はa社から業務委託費の支払い
   を受けているのであって、【1】の業務委託費の売上計上を取り消さなければ
   ならないとまでは言えない。
(エ) なお、本件業務委託費については、利益相反取引にかかる取締役会決議
 (追認)を行った上、有価証券報告書の注記事項における関連当事者取引と
 して記載すべきである。


イ 物件 C-①、C-②にかかる仲介手数料【4】 【5】【6】
(ア) 本件は旧所有者からa社による本件物件の売買及びa社と新所有者による
   本件物件の売買に関し仲介手数料を計上した事案である。
    SC 社は旧所有者とa社、a社と新所有者の売買契約に関し、仲介業務を行
   い、各々売買契約が締結された。甲氏は、a社に関する取引は利益相反取
   引・関連当事者取引に該当する可能性を懸念し、煩雑な手続きを避けるため、
   また、複数の仲介手数料を計上させるため、a社以外の者から仲介手数料を
 収受したように仮装することとし、真正売買契約とは無関係な、物件 C-①にか
 かる旧所有者とd社の売買契約書、同契約に関する解除特約を付した媒介契
 約書及び物件 C-②にかかるd社と新所有者の売買契約書、同契約に関する
 解除特約を付した媒介契約書に偽造した旧所有者、d社及び新所有者の印
 鑑を押印しこれらを作成し、物件 C-①に関してd社からの仲介手数料(【4】)、
 物件 C-②に関してd社及び新所有者からの仲介手数料(【5】【6】)を売上とし
 て計上したものであった。

                  17
(イ) 【4】【5】の仲介手数料は何れもa社が、c社を介して、自己の資金をもって、
   振込名義をd社の名義に替え、各々SC 社に振込送金されていたものであっ
   た。
     【6】の仲介手数料については、本件物件の決済にあたり、新所有者から、
   売買代金や諸費用と共に仲介手数料も合算された金額の支払を受けたa社
   が、c社を介して、振込名義を新所有者の名義に替え、SC 社に振込送金して
   いたものであった。なお、新所有者が負担した仲介手数料の額は最終的な真
   正売買契約に基づき計算された 1,050 万円(税抜き)であった。
(ウ) 【4】【5】の本件仲介手数料は、売買契約関与当事者を偽った仮装の契約に
   基づくものであって、 d社は契約当事者になり得ず、およそ売上計上が認め
   られる余地はない。
     【6】の仲介手数料については、新所有者においては、実際に仲介手数料
   を負担しており、その限りにおいて、売上計上を取り消さなければならないとま
   では言えない。しかしながら同仲介手数料の金額は、消費税込みの売買金額
   に基づき誤って計算されたものであり、以下のとおり、宅地建物取引業法上認
   められる上限以上は認められない。
     売買金額3億 4,800 万円に対する仲介手数料 10,020,124 円(「(土地
   348,000,000 円 +建物 199,948,286 円)×3%+60,000 円」の計算によるも
   の。税抜き。)。
(エ) なお、本件仲介手数料については、利益相反取引にかかる取締役会決議
   (追認)を行った上、有価証券報告書の注記事項における関連当事者取引と
   して記載すべきである。
ウ 物件 V にかかる仲介手数料【45】 【46】
    本件については、担当者が退職しており、残存資料により検討を行うことと
   する。
(ア) 本件は旧所有者から本件物件を購入したa社と新所有者による売買に関し
   仲介手数料を計上後、売買金額に変更が生じたと思われる事案である。
    SC 社においては、b社と新所有者の売買契約、同契約に関する解除特約
   を付した媒介契約書により、b社からの仲介手数料【45】、新所有者からの仲
   介手数料【46】が売上計上されていた。
    aと新所有者の真正売買契約書において売買代金は 1 億 2,650 万円とさ
   れ、覚書(日付、記名押印なし)によれば、その売買金額は 8,700 万円に変更
   されていた。そして本件売買にかかる決済明細によれば、仲介手数料の額は
   2,839,536 円(税込み)と表示されていた。
(イ) 【45】の仲介手数料は、c社が、自己の資金をもって、SC 社に振込送金され
   ていたものであった。
     【46】の仲介手数料については、本件物件の決済にあたり、新所有者から、
   売買代金や諸費用と共に仲介手数料 2,839,536 円(税込み)も合算された金

                         18
   額の支払を受けたa社が、c社を介して、振込名義を新所有者の名義に替え、
    SC 社に振込送金していたものであった。
 (ウ) 【45】の本件仲介手数料は、売買契約関与当事者を偽った仮装の契約に基
    づくものであって、 b社は契約当事者になり得ず、およそ売上計上が認めら
    れる余地はない。
      【 46 】 の 仲 介 手 数 料 に つ い て は 、 新 所 有 者 が 実 際 に 負 担 し た 限 り 、
    2,629,200 円(税抜き)において計上が認められる。
 (エ) なお、本件仲介手数料については、利益相反取引にかかる取締役会決議
    (追認)を行った上、有価証券報告書の注記事項における関連当事者取引と
    して記載すべきである。


(4)類型 4
   仲介手数料を売上計上するため、見込み案件にかかる仲介手数料を売上計
  上したものの、事後的に売買契約の解約、売買金額の変更等が生じ、売買の実
  態との乖離が生じた類型である。


 ア 物件 B-②販売にかかる仲介手数料【32】 【33】
 (ア) 本件は、旧所有者から本件物件を購入したb社と新所有者による売買に関
    し、見込み案件として仲介手数料を計上した後、売買金額に変更が生じた事
    案である。
     SC 社は、本件物件の売買にかかるb社と新所有者の売買に関し、仲介業
    務を行った。甲氏は、本件売買契約については、締結される見込みが高いも
    のと考え、本件仲介手数料を前倒しして計上させるため、本件売買契約書及
    び解除特約を付した媒介契約書に、偽造した新所有者の印鑑を押印しこれら
    を作成し、2018 年 1 月付けでb社からの仲介手数料(【32】)、新所有者からの
    仲介手数料(【33】)を売上として計上したものであった。
 (イ) 【32】【33】の仲介手数料は、何れもb社が、自己の資金をもって、b社の名義
    で、振込名義を新所有者の名義に替え各々SC 社に振込送金されていたもの
    であった。
 (ウ) 甲氏は、2018 年 1 月の見込み計上時点に作成した本件売買契約書におい
    て、 その売買代金を 8,520 万円として仲介手数料を計算して計上していたが、
    2018 年 2 月付け真正売買契約においては、売買金額は 8,800 万円で締結さ
    れていた。その後、不動産売買契約変更契約書が締結され、売買代金は
    6,200 万円に変更されていた。
 (エ) 【33】の仲介手数料については、前記(イ)の振込送金に先立ち行われた、
    本件物件の決済にあたり、新所有者より、売買代金や諸費用と共に仲介手数
    料も合算された金額の支払を受けたb社が、振込名義人を新所有者の名義に
    替え、SC 社に振込送金していたものであった。なお、新所有者が負担した仲

                              19
  介手数料の額は、真正売買契約に基づき計算された 2,073,600 円(税込み)
   であった。
(オ) 【32】の仲介手数料については、解除特約に基づき、減額前に一旦成立し
   た売買金額により計算された仲介手数料をこのまま計上することが認められ
   る。
     【33】の仲介手数料については、新所有者が実際に負担した限りにおいて
   計上が認められる。前記(エ)のとおり、新所有者が負担した仲介手数料は
   2,073,600 円(税込み)であったが、これは、税込みの減額後売買金額に基づ
   き誤って計算されたものであり、原契約における土地価格と建物価格の割合
   を適用し、以下のとおり、宅地建物取引業法上認められる上限以上は認めら
   ない。
    売 買 金 額 6,200 万 円 に 対 す る 仲 介 手 数 料 1,847,980 円 ( 「 ( 土 地
  29,590,909 円 +建物 30,008,418 円)×3%+60,000 円」の計算によるもの。
  税抜き。)。
    なお、仲介手数料は真正売買契約、不動産売買契約変更契約書が締結さ
  れた 2018 年 2 月に計上されるべきである。


イ 物件 Q にかかる仲介手数料【36】【37】
(ア) 本件は、旧所有者と新所有者による本件物件の売買に関し、見込み案件と
   して仲介手数料を計上した後、売買金額に変更が生じた事案である。
    SC 社は、本件物件の売買にかかる旧所有者と新所有者の売買に関し、仲
   介業務を行った。甲氏は、本件売買契約については、締結される見込みが高
   いものと考え、本件仲介手数料を前倒しして計上させるため、本件売買契約
   書及び解除特約を付した媒介契約書に、偽造した旧所有者及び新所有者の
   印鑑を押印しこれらを作成し、2018 年 2 月付けで旧所有者からの仲介手数
   料(【36】)、新所有者からの仲介手数料(【37】)を売上として計上したものであ
   った。
(イ) 【36】【37】の仲介手数料は、何れもb社が、自己の資金をもって、振込名義
   を旧所有者及び新所有者の名義に替え、各々SC 社に振込送金されていたも
   のであった。
(ウ) 甲氏は、2018 年 2 月の見込み計上時点に作成した本件売買契約書におい
   ては、その売買代金を 1 億円としていたが、2018 年 4 月付け真正売買契約
   においては、一旦 6,600 万円で締結された上、5 月付け覚書(押印なし)にお
   いて 4,200 万円に変更されていた。
(エ) 【36】の仲介手数料については、減額後の売買金額に基づき計算された手
   数料 1,425,600 円(税込み)について SC 社が旧所有者に発行した領収書の
   写しが確認され、現金で収受されたものと推認されることから 132 万円(税抜き)
   の限度で売上の計上が認められる。

                           20
   【37】の仲介手数料については、前同様に新所有者に発行した領収書の写
 しが確認されることから、132 万円(税抜き)の限度で売上の計上が認められる。
 また、SC 社は本件物件に建築する建物に関する業務委託料 174 万円につ
 いて SC 社が新所有者に発行した領収書の写しが確認され、現金で収受され
 たものと推認されることから 1,611,111 円(税抜き)の限度で売上の計上が認
 められる。
   なお、何れにおいても、仲介手数料は真正売買契約が締結された 2018 年
 4 月に相応額を計上した上、5 月において前記の金額に訂正すべきである。


ウ 物件 G にかかる仲介手数料【12】【13】
(ア) 本件は旧所有者とb社による本件物件の売買に関し、見込み案件として仲
   介手数料を計上した後、売買契約が解除された事案である。
    SC 社は、本件物件にかかる旧所有者とb社の売買に関し、仲介業務を行
   った。SC 社は、本件物件取得後に販売する買主を確保し、旧所有者とb社の
   間で売買契約が締結され、旧所有者への手付金の支払いを完了させたところ、
   甲氏は、本件売買契約は決済される見込みが高いものと考え本件仲介手数
   料を計上させるため、本件売買契約書、解除特約を付した媒介契約書に、偽
   造した旧所有者の印鑑を押印し、これらを作成し、旧所有者からの仲介手数
   料(【12】)、b社からの仲介手数料(【13】)を売上として計上したものであるが、
   本件売上計上は、成約見込みの物件を計上したものであった。
(イ) 【12】【13】の仲介手数料は、何れもb社が、自己の資金をもって、振込名義
   を旧所有者の名義に替え、b社の名義で、各々SC 社に振込送金されていた
   ものであった。
(ウ) その後、b社が確保した買主との契約は解除されることとなったため、b社は、
   旧所有者とb社の売買契約も解除し、手付金の返還を受けている。
(エ) 【12】の仲介手数料については、偽造した印鑑を押印して、旧所有者の承
   知しないところで作成された契約に基づくものであり、また、旧所有者は手数
   料を負担しておらず、売上計上は認められない。
    【13】の仲介手数料については、一旦、売買契約は締結されていることから
   解除特約に基づき、このまま計上することが認められる。


エ 物件 L にかかる仲介手数料【22】 【23】
(ア) 本件は、旧所有者から本件物件を購入したb社と買手による売買に関し、見
   込み案件として仲介手数料を計上した後、売買契約が解除された事案であ
   る。
    SC 社は、本件物件にかかるb社と買主との売買に関し、仲介業務を行い、
   売買契約が締結された。同買主においては、金融機関の融資にかかる審査
   を受けていたところ、甲氏は、本件売買契約は、決済される見込みが高いもの

                   21
 と考え、本件仲介手数料を計上させるため、本件売買契約書及び解除特約を
   付した媒介契約書に、偽造した当該買主の印鑑を押印しこれらを作成し、b社
   からの仲介手数料(【22】)、当該買主からの仲介手数料(【23】)を売上として
   計上したものであり、本件売上計上は、成約見込みの物件を計上したもので
   あった。
(イ) 【22】【23】の仲介手数料は、何れもb社が、自己の資金をもって、b社の名義
   で、振込名義を当該買主の名義に替え各々SC 社に振込送金されていたもの
   であった。
(ウ) その後、当該買主は、金融機関の融資が受けられず、本件売買契約は解除
   されるに至った。
(エ) 【22】の仲介手数料については、一旦、売買契約は締結されていることから
 解除特約に基づき、このまま計上することが認められる。
  【23】の仲介手数料については、偽造した印鑑を押印して、旧所有者の承
 知しないところで作成された契約に基づくものであり、また、当該買手は手数
 料を負担しておらず、売上計上は認められない。


オ 物件 R にかかる仲介手数料【38】 【39】
(ア) 本件は、旧所有者と買手による本件物件の売買に関し、見込み案件として
   仲介手数料を計上した後、売買契約が解除された事案である。
    SC 社は、本件物件にかかる旧所有者と買手の売買に関し、仲介業務を行
   い、売買契約が締結された。当該買手においては、金融機関の融資にかかる
   審査を受けていたところ、甲氏は、本件売買契約は、決済される見込みが高
   いものと考え、本件仲介手数料を計上させるため、本件売買契約書及び解除
   特約を付した媒介契約書に、偽造した当該買手の印鑑を押印しこれらを作成
   し、旧所有者からの仲介手数料(【38】)、買手からの仲介手数料(【39】)を売
   上として計上したものであり、本件売上計上は、成約見込みの物件を計上した
   ものであった。
(イ) 【38】【39】の仲介手数料は、何れもb社が、自己の資金をもって、振込名義
   を旧所有者及び当該買主の名義に替え、各々SC 社に振込送金されていたも
   のであった。
(ウ) その後、当該買主が金融機関からの融資が受けらず、旧所有者と当該買主
   との売買契約は、解除されることとなった。
(エ) 【38】【39】の仲介手数料については、偽造した印鑑を押印しで、両社の承
   知しないところで作成された契約に基づくものであり、また、両社は手数料を
   負担しておらず、売上の計上は認められない。


カ 物件 S-②(販売)【55】【56】にかかる仲介手数料
(ア) 本件は、旧所有者から購入した本件物件を分筆した b社と買手による売買

                   22
 に関し、見込み案件として仲介手数料を計上した後、売買契約が解除された
 事案である。
   SC 社は、本件物件にかかる旧所有者と買手の売買に関し、仲介業務を行
 い、売買契約が締結された。当該買手においては、金融機関の融資にかかる
 審査を受けていたところ、甲氏は、本件売買契約については、決済される見
 込みが高いものと考え、本件仲介手数料を計上させるため、本件売買契約書
 及び解除特約を付した媒介契約書に、偽造した当該買主の印鑑を押印しこ
 れらを作成し、2018 年 6 月付けで、b社からの仲介手数料(【55】)、当該買手
 からの仲介手数料(【56】)を売上として計上したものであった。
  甲氏は、2018 年 6 月付け本件売買契約書においては、その売買代金を
 7,000 万円としていたが、2018 年 5 月付け真正売買契約においては、4,600
   万円で締結されていた。
(イ) 【55】【56】の仲介手数料は、何れもb社が、自己の資金をもって、b社の名義
   で、振込名義を旧所有者の名義に替え、各々SC 社に振込送金されていたも
   のであった。
(ウ) その後、当該買手は、金融機関の融資が受けられず、本件売買契約は解除
   されるに至った。
(エ) 【55】の仲介手数料については、一旦、売買契約は締結されていることから
   解除特約に基づき、計上することが認められる。しかしながら、これは水増しさ
   れた売買契約に基づき計算されたものであり、真正契約に基づき、以下のと
   おり、宅地建物取引業法上認められる上限以上は認められない。
   真 正 契 約 に お け る 売 買 代 金 4,600 万 円 か ら 計 算 さ れ る 144 万 円
 (46,000,000 円×3%+60,000 円の計算によるもの。税抜き)。
   また、仲介手数料は真正売買契約が締結された 2018 年 5 月に計上される
 べきである。
   【56】の仲介手数料については、偽造した印鑑を押印して、当該買主の承
 知しないところで作成された契約に基づくものであり、また、当該買主は手数
 料の負担しておらず、売上の計上は認められない。


キ 物件 E にかかる仲介手数料【8】【9】
(ア) 本件は、旧所有者と新所有者による本件物件の売買に関し、仲介手数料を
 前倒しで計上した事案である。
   SC 社は、本件物件にかかる旧所有者と新所有者との売買に関し、仲介業
 務を行った。甲氏は、本件売買契約については、締結される見込みが高いも
 のと考え、本件仲介手数料を前倒しで計上させるため、本件売買契約書及び
 解除特約を付した媒介契約書に、偽造した旧所有者及び新所有者の印鑑を
 押印しこれらを作成し、2017 年 6 月付けで新所有者からの仲介手数料(【8】
 【9】)を売上として計上したものであった。

                         23
(イ) 【8】【9】の仲介手数料は、2017 年 7 月の真正売買契約締結時に【8】を、
   2017 年 8 月の所有権移転登記完了時に【9】を、何れも新所有者が SC 社に
   振込送金していたものであった。
(ウ) 【8】【9】の仲介手数料については、新所有者自らが手数料を SC 社に振り込
   んでおり、売上の計上が認められる。
     なお、これら仲介手数料は真正売買契約が締結された 2017 年 7 月に計上
   されるべきである。


ク   物件 M にかかる仲介手数料【24】【25】
     本件については、担当者が退職しており、残存資料により検討を行うことと
    する。
(ア) 本件は、旧所有者から本件物件を購入したb社と新所有者による本件物件
   の売買に関し仲介手数料を計上した後、売買金額に変更が生じたと思われる
   事案である。
     SC 社においては、本件物件の売買にかかるbと新所有者の本件売買契約、
   同契約に関する解除特約を付した媒介契約仲介業務により、b社からの仲介
   手数料(【24】)、新所有者からの仲介手数料(【25】)が売上として計上されて
   いた。
     本件売買契約書において売買代金は 1 億 2,100 万円であり、これから宅地
   建物取引業法上認められる範囲で計算されるその仲介手数料の額は
   3,843,775 円(税込み)であるところ、本件売買にかかる決済明細においては、
   新所有者が負担したと思われる仲介手数料の額は、372 万円(税込み)と表
   示されていた。
(イ) 【24】の仲介手数料は、b社が、自己の資金をもって、振込名義を新所有者
   の名義に替え、SC 社に振込送金されていたものであった。
     【25】の仲介手数料については、本件物件の決済にあたり、新所有者から、
   売買代金や諸費用と共に仲介手数料も合算された金額の支払を受けたb社
   が、振込名義を新所有者の名義に替え、SC 社に振込送金していたものであ
   った。
(ウ) 【24】の仲介手数料については、解除特約に基づき、減額前に成立した売買
   金額により計算された仲介手数料をこのまま計上することが認められる。
      【 25 】 の 仲 介 手 数 料 に つ い て は 、 新 所 有 者 が 実 際 に 負 担 し た 限 り 、
    3,444,444 円(税抜き)において計上が認められる。


ケ   物件 Y にかかる仲介手数料【50】【51】
     本件については、担当者が退職しており、残存資料により検討を行うことと
   する。
(ア) 本件は、旧所有者から本件物件を購入したb社と新所有者による本件物件

                              24
    の売買に関し仲介手数料を計上した後、売買金額に変更が生じたと思われる
    事案である。
      SC 社においては、本件物件の売買にかかるbと新所有者の売買契約、同
    契約に関する解除特約を付した媒介契約書により、b社からの仲介手数料
    (【50】)、新所有者からの仲介手数料(【51】)が売上として計上されていた。本
    件売買契約書においては、その売買代金は 9,400 万円とされているが、同売
    買契約と同年同月付け覚書において、7,230 万円に変更されていた。
      しかしながら、当時、担当者が新所有者に提示していた収益シミュレーショ
    ン 資 料 に よ れ ば 、 そ の 内 訳 と し て 売 買 代 金 が 7,000 万 円 、 手 数 料 が
    2,332,800 円(税込み)と表示されており、仲介手数料が含まれた金額を売買
    代金として覚書が締結されたものとも受け取れるものであった。
(イ) 【50】の仲介手数料は、何れもb社が、自己の資金をもって SC 社に振込送
   金されていたものであった。
     【51】の仲介手数料は、本件物件の決済にあたり、新所有者から、売買代金
   や諸費用と共に仲介手数料 2,332,800 円(税込み)も合算された金額の支払
   を受けたb社が、後になって、振込名義を新所有者の名義に替え、SC 社に振
   込送金していたものであった。
(ウ) 【50】の仲介手数料については、解除特約に基づき、減額前に成立した売買
   金額により計算された仲介手数料をこのまま計上することが認められる。
     【51】の仲介手数料については、覚書において、その売買代金は 7,230 万
   円とされたものの、実際の売買代金は収益シミュレーション資料に記載の
    7,000 万円となったものとも思われ、この場合、新所有者は同売買金額に基づ
    く仲介手数料 2,332,800 円(税込み)を負担していると考えられるのであって、
    その限りにおいて、売上計上を取り消さなければならないとまでは言えない。
    しかしながら同仲介手数料の金額は、消費税込みの減額後売買金額に基づ
    き誤って計算されたものであり、原契約における土地価格と建物価格の割合
    を適用し計算し、以下のとおり、宅地建物取引業法上認められる上限以上は
    認められない。
      売 買 金 額 7,000 万 円 に 対 す る 仲 介 手 数 料 2,131,978 円 ( 「 ( 土 地
    57,390,319 円 +建物 11,675,630 円)×3%+60,000 円」の計算によるもの。
    税抜き。)。


コ   物件 Z にかかる仲介手数料【52】【53】
    本件については、担当者が退職しており、残存資料により検討を行うことと
   する。
(ア) 本件は、旧所有者から本件物件を購入したb社と新所有者によると本件物
   件の売買に関し仲介手数料を計上した後、売買金額に変更が生じた事案で
   ある。

                             25
     SC 社においては、本件物件の売買にかかるb社と新所有者の売買契約、
     同契約に関する解除特約を付した媒介契約書により、b社からの仲介手数料
     (【52】)、新所有者からの仲介手数料(【53】)が売上として計上されていた。
       本件売買契約書においては、その売買代金は 1 億 800 万円とされ、覚書
     (日付、記名押印なし) によればその売買代金は 8,000 万円に変更されてい
     た。そして本件売買にかかる決済明細によれば、仲介手数料の額は
     2,906,800 円(税込み)と記載されている。
  (イ) 【52】の仲介手数料は、b社が、自己の資金をもって、SC 社に振込送金され
     ていたものであった。
       【53】の仲介手数料については、本件物件の決済にあたり、新所有者から、
     売買代金や諸費用と共に仲介手数料も合算された金額の支払を受けたb社
    が、振込名義を新所有者の名義に替え、SC 社に振込送金していたものであ
    った。
 (ウ) 【52】の仲介手数料については、解除特約に基づき、減額前に一旦成立した
    売買金額により計算された仲介手数料をこのまま計上することが認められる。
      【53】の仲介手数料については、本件売買契約において、その売買金額は
    1 億 800 万円とされていたものの、覚書によれば、最終的な売買金額は 8,000
    万円となったと推認され、新所有者は、同売買金額に基づく仲介手数料
    2,906,800 円(税込み)を負担しているものと考えられるのであって、売上計上
    を取り消さなければならないとまでは言えない。しかしながら同仲介手数料の
    金額は、誤って計算されたものと思われ、以下のとおり、宅地建物取引業法上
   認められる上限以上は認められない。
     売 買 金 額 8,000 万 円 に 対 す る 仲 介 手 数 料 2,434,248 円 ( 「 ( 土 地
   68,411,600 円 +建物 10,730,000 円)×3%+60,000 円」の計算によるもの。
   税抜き。)。


3.連結子会社該当性
  以上のとおり、a社、b社、c社の各法人については甲氏や乙氏が株主又
 は実質的な支配株主として認められるから、この事実に照らすと、これらの
 各法人は SC 社の連結子会社に該当していたのではないかと解する余地がな
 いではない。しかしながら、この該当性の判断は、いうまでもなく,企業会
 計基準第 22 号「連結財務諸表に関する会計基準」 以下
                         (   「会計基準」という。、
                                       )
 企業会計基準適用指針第 22 号「連結財務諸表における子会社及び関連会社
 の範囲の決定に関する適用指針」  (以下「適用指針」という。 )を踏まえて多
 角的観点からなされるべきであるから,当委員会のよくするところではない
 が、あえて問題となる諸点を挙示すれば以下のようなものとなろう。




                            26
(1)a社に関する問題
   SC 社はa社の株式を保有していないため、まず「緊密者及び同一者が所有し
 ている議決権とを合わせて、他の企業の議決権の過半数を占めている企業」(会
 計基準第 7 項(3))に該当するかどうかの点である。
   乙氏は SC 社の取締役であるから SC 社の緊密者に該当する(適用指針第 9
 項(2))。また、乙氏は、a社の全株式を保有しているとのことであるため、会計基
 準第 7 項(3)前段の要件を満たしている。
   会計基準第 7 項(3)においては、会計基準第 7 項(2)②から⑤までのいずれ
 かに該当することが要件とされている。基準 7(2)②については、乙氏は 2017 年
 8 月に代表取締役を退任しており該当せず、同③④についても該当は確認され
 なかった。
  同⑤「企業の意思決定機関を支配していることが推測される事実が存在」につ
 いては、乙氏は、a社の入出金管理、会社印鑑の管理を甲氏をして行わせてい
 た事情が存在するものの、同事情として例示されている適用指針第 14 項に該当
 するか検証し、会計基準第 7 項ただし書き及び会計基準第 14 項を考慮したうえ
 で、連結の範囲に含めるか否かを検討すべきであろう。


(2)b社に関する問題
   SC 社はb社の株式を保有していないため、まず「緊密者及び同一者が所有し
  ている議決権とを合わせて、他の企業の議決権の過半数を占めている企業」(会
  計基準第 7 項(3))に該当するかどうかの点である。
  甲氏は SC 社の代表取締役であるから SC 社の緊密者に該当する(適用指針
 第 9 項(2))。しかし、甲氏は、b社の株式を保有していない。しかしながら実質的
 には株式を間接的に保有しているとも認められ、会計基準第 7 項(3)前段の要
 件を満たす可能性がある。
  会計基準第 7 項(3)においては、会計基準第 7 項(2)②から⑤までのいずれ
 かに該当することが要件とされている。会計基準第 7 項(2)②③④について該当
 は確認されなかった。
  同⑤「企業の意思決定機関を支配していることが推測される事実が存在」につ
 いては、甲氏は、b社の入出金管理、会社印鑑の管理し自由にこれを使用してい
 た事情が存在するものの、同事情として例示されている適用指針第 14 項に該当
 するか検証し、会計基準第 7 項ただし書き及び会計基準第 14 項を考慮したうえ
 で、連結の範囲に含めるか否かを検討すべきであろう。



(3)c社に関する問題
   SC 社はc社の株式を保有していないため、まず「緊密者及び同一者が所有し
  ている議決権とを合わせて、他の企業の議決権の過半数を占めている企業」(会

                   27
  計基準第 7 項(3))に該当するかどうかの点である。
   乙氏は SC 社の取締役であるから SC 社の緊密者に該当する(適用指針第 9
  項(2))。また、乙氏は、c社の全株式を保有しているとのことであるため、会計基
  準第 7 項(3)前段の要件を満たしている。
   会計基準第 7 項(3)においては、会計基準第 7 項(2)②から⑤までのいずれ
  かに該当することが要件とされている。会計基準第 7 項(2)②③④について該当
  は確認されなかった。
   同⑤「企業の意思決定機関を支配していることが推測される事実が存在」につ
  いては、甲氏は、c社の入出金管理、会社印鑑の管理し自由にこれを使用してい
  た事情が存在するものの、同事情として例示されている適用指針第 14 項に該当
  するか検証し、会計基準第 7 項ただし書き及び会計基準第 14 項を考慮したうえ
  で、連結の範囲に含めるか否かを検討すべきであろう。


(参考)企業会計基準第 22 号「連結財務諸表に関する会計基準」(抜粋)
6. 「親会社」とは、他の企業の財務及び営業又は事業の方針を決定する機関
(株主総会その他これに準ずる機関をいう。以下「意思決定機関」という。 )
を支配している企業をいい、 「子会社」とは、当該他の企業をいう。親会社及
び子会社又は子会社が、他の企業の意思決定機関を支配している場合におけ
る当該他の企業も、その親会社の子会社とみなす。


7. 「他の企業の意思決定機関を支配している企業」とは、次の企業をいう。
  ただし、財務上又は営業上若しくは事業上の関係からみて他の企業の意思
  決定機関を支配していないことが明らかであると認められる企業は、この
  限りでない。
(1) 他の企業(更生会社、破産会社その他これらに準ずる企業であって、か
    つ、有効な支 配従属関係が存在しないと認められる企業を除く。下記(2)
    及び(3)においても同じ。 の議決権の過半数を自己の計算において所有
                 )
    している企業
(2) 他の企業の議決権の 100 分の 40 以上、100 分の 50 以下を自己の計
    算において所有している企業であって、かつ、次のいずれかの要件に該
    当する企業
 ① 自己の計算において所有している議決権と、自己と出資、人事、資金、
   技術、取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一
   の内容の議決権を行使すると認められる者及び自己の意思と同一の内
   容の議決権を行使することに同意している者が所有している議決権と
   を合わせて、他の企業の議決権の過半数を占めていること
 ② 役員若しくは使用人である者、又はこれらであった者で自己が他の企


                     28
   業の財務及び営業又は事業の方針の決定に関して影響を与えることが
    できる者が、当該他の企業の取締役会その他これに準ずる機関の構成
    員の過半数を占めていること
  ③ 他の企業の重要な財務及び営業又は事業の方針の決定を支配する契約
    等が存在すること
  ④ 他の企業の資金調達額(貸借対照表の負債の部に計上されているもの)
    の総額の 過半について融資(債務の保証及び担保の提供を含む。以下
    同じ。)を行っていること(自己と出資、人事、資金、技術、取引等に
    おいて緊密な関係のある者が行う融資 の額を合わせて資金調達額の
    総額の過半となる場合を含む。)
  ⑤ その他他の企業の意思決定機関を支配していることが推測される事実
     が存在すること
(3) 自己の計算において所有している議決権(当該議決権を所有していない
    場合を含む。)と、自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密
    な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると
    認められる者及び自己の意思と同一の内容の 議決権を行使することに
    同意している者が所有している議決権とを合わせて、他の企業 の議決権
    の過半数を占めている企業であって、かつ、上記(2)の②から⑤までのい
    ずれかの要件に該当する企業



14. 子会社のうち次に該当するものは、連結の範囲に含めない。 (1) 支配が
一時的であると認められる企業 (2) (1)以外の企業であって、連結することに
より利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれのある企業


  企業会計基準適用指針第 22 号「連結財務諸表における子会社及び関連会社
  の範囲の決定に関する適用指針」  (抜粋)
9. 緊密な者に該当するかどうかは、両者の関係に至った経緯、両者の関係状
   況の内容、過去の議決権の行使の状況、自己の商号との類似性等を踏まえ、
   実質的に判断する。例えば、次に掲げる者は一般的に緊密な者に該当する
   ものと考えられる。
(1) 自己(自己の子会社を含む。 以下(7)までについて同じ。 が議決権の 100
                                )
   分の 20 以上を所有している企業
(2) 自己の役員又は自己の役員が議決権の過半数を所有している企業
(3) 自己の役員若しくは使用人である者、又はこれらであった者で自己が他
   の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に関して影響を与えること
   ができる者が、  取締役会その他これに準ずる機関の構成員の過半数を占め


                    29
  ている当該他の企業
(4) 自己の役員若しくは使用人である者、又はこれらであった者で自己が他
   の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に関して影響を与えること
   ができる者が、代表権のある役員として派遣されており、かつ、取締役会
   その他これに準ずる機関の構成員の相当数(過半数に満たない場合を含
   む。)を占めている当該他の企業
(5) 自己が資金調達額(貸借対照表の負債の部に計上されているもの)の総
   額の概ね過半について融資(債務保証及び担保の提供を含む。以下同じ。)
   を行っている企業(金融機関が通常の取引として融資を行っている企業を
   除く。)
(6) 自己が技術援助契約等を締結しており、当該契約の終了により、事業の
   継続に重要な影響を及ぼすこととなる企業
(7) 自己との間の営業取引契約に関し、自己に対する事業依存度が著しく大
   きいこと又はフランチャイズ契約等により自己に対し著しく事業上の拘
   束を受けることとなる企業


 なお、上記以外の者であっても、出資、人事、資金、技術、取引等におけ
る両者の関係状況からみて、自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると
認められる者は、「緊密な者」に該当することに留意する必要がある。
 また、自己と緊密な関係にあった企業であっても、その後、出資、人事、
資金、技術、取引等の関係について見直しが行われ、自己の意思と同一の内
容の議決権を行使するとは認められない場合には、緊密な者に該当しない。


14. 連結会計基準第 7 項(2)⑤では、「その他他の企業の意思決定機関を支配
していることが推測される事実が存在すること」とされている。これには、例
えば、  次に掲げる事実が存在することにより、   他の企業の意思決定機関を支配
していることが推測される場合が含まれる。
 (1) 当該他の企業が重要な財務及び営業又は事業の方針を決定するにあた
    り、自己の承認を得ることとなっている場合
 (2) 当該他の企業に多額の損失が発生し、自己が当該他の企業に対し重要な
    経営支援を行っている場合又は重要な経営支援を行うこととしている場
   合
(3) 当該他の企業の資金調達額の総額の概ね過半について融資及び出資を行
   っている場合


第4 コンプライアンスに関する提言
  以上のとおり、本件は株式会社の業務に関する裁判上及び裁判外の行為を
 する権限を一手に有する代表取締役自身によってなされたものであるところ、

                    30
 問題事象の大半は、架空の売買契約書や仲介契約書を作成して仲介手数料を
 取得し、もって収益があったように装ったもので、このような行為は露骨な
 違法行為を前提としたというべきである上、単なる粉飾決算に止まるもので
 はなく、2 年余と長期に亘っていることをも併せ考慮すれば、これが公開会社
 としての親会社の一般株主に与える信頼を喪失させるばかりか自社の存立の
 基盤すら揺るがしかねない事態と考えられる。
  もっとも、本件問題行動が資金的裏付けを要することなどに徴して甲氏の
 発案のみによってなされたものか詳らかにしないものの、乙氏は、本件調査
 対象取引につき、未決済案件を早期に計上するよう要求したと述べるととも
 に、事後とはいえ不適切な事案が存在していたとは思ったものの、特段の手
 当てもせず結果的に虚偽を隠蔽することとなってしまったと陳述し、なお、
 d社に資金を流したことに伴って生じさせた事象に関し有価証券報告書に虚
 偽記載をしたことは証券市場に不適切な企業情報を流したものとして、経営
 者として申し訳ないことをしたと反省していると供述しているところ、甲氏
 に対し、それ以上に具体的かつ積極的に働きかけてはいないと供述しており、
 両者間にどのようなやり取りがなされたか証拠上明らかにはできない。
  いずれにしても同氏との間にあって SC 社における乙氏にかかる取締役の
 相互監視義務違反の存在は否定できない。
  このような本件事案の特色にかんがみて、以下本件問題事象発生原因を指
 摘しつつ当委員会として再発防止に関する提言をすることとした。


1.原因
 (1)役員の問題意識の欠如
  ア 取締役会議の不活性
    JH 社においてはその利益の大半は SC 社に依存しているところから、
   同社の取引の問題点を解明しようとの意識は極めて低かったと思われる。
    すなわち、例えば、役員の中には、稟議に挙げた事案はもとより取締役
   会に上程された取引について問題にすることがあったとしても、   売主と買
   主の表示が逆であるといった形式的誤りを指摘するといったものに過ぎ
   ず、一方、同一の仲介依頼会社が再三登場する、したがって何故こんなに
   数が多いのかなと思った時もあったが、その点につき SC 社の取締役かつ
     JH 社の代表取締役である乙氏に対し問い質すなどをしなかったと供述し、
     その理由につき明確な供述は得られないところ、 そこにどのような理由が
     あろうとも、そのような態度はいうまでもなく、会社に対する忠実義務違
     反ひいては取締役の相互監視義務違反の誹りを免れない。


 イ   稟議規程不遵守
     JH 社の稟議規程 18 条によれば、
                       「起案責任者は、稟議決裁事項の実施

                   31
  状況について、書面にて決裁者に対して報告することとする。」と規定さ
  れているところ、従前これに従った手続きは一度たりとも取られたことが
  なかったと関係者は供述している。その理由は明確にはされていないが、
  要するにこの実施による不都合を糊塗しようとの思いが関係者にあった
  かとも思われる。いずれにしてもこのような実施後の状況を明らかにする
  ことにより過誤を防止しようとの措置が葬り去られていたとの事実は軽
  視できないものと考えられる。
   問題事象に対する意識が不足していると解されても致し方ない。
   なお、稟議書に載せるべき各取締役の意見に付き管理本部長職にある者
  が代表取締役の意見を代筆していたと述べているところ、もとより状況に
  よっては代筆自体が許されないとはいい難いが、そこに真の稟議決裁意見
  が反映されているものかどうかが問題とされるべきであろう。


(2)親会社役員の子会社に対する管理意識の薄弱化
   JH 社には子会社管理規程が用意されておりそれがどの程度機能してい
  るか必ずしも明らかではないが、 この規程の定めを俟つまでもなく親会社
  の取締役には子会社の管理に関し監督責任があり、その一環として、子会
  社に対する調査義務が存すると解されるものの、 たとえこの見解に左袒し
  ないとしても、権限として調査機能を行使することは許容されるところ、
  関係供述によれば、他の取締役は、親会社の代表取締役が子会社たる SC
  社の取締役に選任されているから何らの問題もないと思っていたという
  のであって、 その営業実績の点を除いては同社の業務執行の実体に特段の
  関心を示した事跡はない。
    しかしながら、先にも触れたように、JH 社としてはその利益の大半は
  SC 社に依存しているのであるから、同社の役員に親会社の役員が選任さ
  れているからといって他の役員としても常時監視の目を光らせ、  もって業
  務執行の適正化に資するべきであることは多言を要しないところである。
    そして、そのことは、また、業務執行権者である甲氏にとっても相取締
  役以外にも自社の問題事象等につき容易く相談に応じてもらえる素地が
  できていると解されるのであって、そのような体制は、問題事象の事前除
  去に資するものと考えられる。
   本件においては親会社の役員の意識の薄弱に伴うこのような不十分な
  管理体制も本件発生原因の一因と考えられる。


(3)完成契約書等のチェック機能の不全
   本件問題事象にかかる稟議書の起案責任者は、稟議規程 8 条により、所
  属長、したがって子会社たる SC 社の代表取締役であるところ、本件各事
  案にかかる稟議手続に関しては、  稟議提出書類中契約書の当事者押印部分

                 32
   は、特段の事情がない限り稟議申請時未押印であるから、その時点におい
   ては印鑑の真偽などは決裁者にとってはおよそ不分明といわざるを得な
   い。本件においては、書類一式が完成された直後に関与担当者以外の者に
   よる再確認がなされるなどされれば過誤防止に役立った余地は大きいと
   思われる。


2.再発防止に関する提言
 (1)コンプライアンス意識の見直し
    JH 社においては、かねて子会社の役職員にも適用されるコンプライア
   ンス・マニュアルが制定されているところ、そこには「当社グループは、
   役職員全員が、各社事業における社会的責任と公共的使命を認識し、健全
   な業務運営を実践することを通じて、 全てのステークホルダーに満足を提
   供できる企業を目指している。その実現のために、当社グループの役職員
   が各社の業務を遂行する上で、基本的かつ重要な事項に関し、行動規範の
   原則を定めることを目的として、本書を作成するものである。 」と定めた
   上、その責任につき「本書が規定するコンプライアンス遵守体制に関して、
   その最終責任は当社代表取締役に帰属する。また、当社取締役会及び当社
   監査役会はその遵守状況について、牽制し、監督し、必要に応じて意見を
   申し立てるものとする。 」とその責任の所在を明確にしているのである。
    本件は、JH 社が目指すコンプライアンス志向に真っ向から対立する事
   象といわなければならない。
    本件各事案から窺われるところによれば、本件はいわば利益至上主義に
   支配された結果の産物とも目されるものであるところ、 そのこと自体は競
   争の厳しい不動産業界にあって咎められるものではないと思われるが、 し
   かし、 企業の担う社会的責任を云々するまでもなく追及すべき利益は正当
   なものでなければならない。
    そして、このような極めて当然の事理については、本件関係者は、つと
   に承知していたものと解される。
    JH 社には、このような取引通念に反する理念を是とする風潮があるの
   ではないかと評されても致し方ない。
    そこで、このような不名誉な烙印を押されるような事態を、今後、二度
   と起こさないようにするためにはどのようにしたらよいか。
    役員はじめ使用人等は改めてこのコンプライアンス・マニュアルを熟読
   玩味し自分自身のこととして考えなければならないと思われる。


 (2)コーポレートガバナンスの強化
    SC 社は、JH 社の 1 子会社とはいえ、親会社にとってその収益の大半
   を占める重要な役割を果たしているにもかかわらず、    その業務の実体につ

                   33
いて代表取締役以外親会社の役員の関心が極めて薄い感が拭えない。
 もとより、企業の不祥事を防ぎ確固たる経営監視に資するべきコーポレ
ートガバナンスとの観点に照らして、親会社の役員陣がこのような意識の
低さに終始するのであれば、当該企業群の健全な発展は覚束ないといって
も過言でない。
 これを機に、親会社自体はもとより、本件子会社を含む各子会社の業務
の実情を具に調査しいわばガラス張りにして、それぞれにおける問題点を
洗い出し、もって健全な企業運営に資すべきである。
 いうまでもなく、これを可能にするものは、各役員の積極的前向きな意
欲である。
                               以上




              34
                                                             別紙
        媒介契約等
物件                                              計上金額
              契約相手    計上年月              計上科目
    名   通番                                      (税別円)
                方
A       【1】           2017 年 5 月        業務委託費   11,111,111
        【2】           2017 年 6 月        業務委託費    2,360,130
B-①
        【3】           2017 年 6 月        仲介手数料    2,269,500
C-①     【4】           2017 年 6 月        仲介手数料    8,910,124
        【5】 (買主側)     2017 年 6 月        仲介手数料    9,700,000
C-②
        【6】 (売主側)     2017 年 6 月        仲介手数料    9,700,000
D       【7】           2017 年 6 月        業務委託費   41,666,667
        【8】 (買主側)     2017 年 6 月        仲介手数料    8,911,705
E
        【9】 (売主側)     2017 年 6 月        仲介手数料    8,911,705
        【10】 (買主側)    2017 年 7 月        仲介手数料    4,938,870
F-①
        【11】 (売主側)    2017 年 7 月        仲介手数料    4,938,870
        【12】 (買主側)    2017 年 8 月        仲介手数料    3,012,000
G
        【13】 (売主側)    2017 年 8 月        仲介手数料    3,012,000
        【14】 (買主側)    2017 年 9 月        仲介手数料    7,170,000
H
        【15】 (売主側)    2017 年 9 月        仲介手数料    7,170,000
        【16】 (買主側)    2017 年 9 月        仲介手数料    4,578,000
I
        【17】 (売主側)    2017 年 9 月        仲介手数料    4,578,000
        【18】 (買主側)    2017 年 9 月        仲介手数料    4,350,000
J
        【19】 (売主側)    2017 年 9 月        仲介手数料    4,350,000
        【20】 (買主側)    2017 年 9 月        仲介手数料    4,170,000
K
        【21】 (売主側)    2017 年 9 月        仲介手数料    4,170,000
        【22】 (買主側)   2017 年 11 月        仲介手数料    4,697,222
L
        【23】 (売主側)   2017 年 11 月        仲介手数料    4,697,222
        【24】 (買主側)   2017 年 11 月        仲介手数料    3,559,051
M
        【25】 (売主側)   2017 年 11 月        仲介手数料    3,559,051
        【26】 (買主側)   2017 年 12 月        仲介手数料    4,648,888
N
        【27】 (売主側)   2017 年 12 月        仲介手数料    4,648,888
        【28】 (買主側)   2017 年 12 月        仲介手数料    6,660,000
O
        【29】 (売主側)   2017 年 12 月        仲介手数料    6,660,000
        【30】 (買主側)    2018 年 1 月        仲介手数料    5,310,000
F-②
        【31】 (売主側)    2018 年 1 月        仲介手数料    5,310,000
        【32】 (買主側)    2018 年 1 月        仲介手数料    2,520,000
B-②
        【33】 (売主側)    2018 年 1 月        仲介手数料    2,520,000

                                   35
      【34】 (買主側)   2018 年 1 月        仲介手数料    3,060,000
P
      【35】 (売主側)   2018 年 1 月        仲介手数料    3,060,000
      【36】 (買主側)   2018 年 2 月        仲介手数料    2,940,000
Q
      【37】 (売主側)   2018 年 2 月        仲介手数料    2,940,000
      【38】 (買主側)   2018 年 3 月        仲介手数料    3,690,535
R
      【39】 (売主側)   2018 年 3 月        仲介手数料    3,703,704
      【40】 (買主側)   2018 年 3 月        仲介手数料    4,050,000
S-①
      【41】 (売主側)   2018 年 3 月        仲介手数料    4,050,000
      【42】 (買主側)   2018 年 3 月        仲介手数料    6,018,000
T
      【43】 (売主側)   2018 年 3 月        仲介手数料    6,018,000
U     【44】         2018 年 4 月        仲介手数料   20,700,000
      【45】 (買主側)   2018 年 4 月        仲介手数料    2,716,800
V
      【46】 (売主側)   2018 年 4 月        仲介手数料    2,716,800
      【47】 (買主側)   2018 年 5 月        仲介手数料   19,350,000
W
      【48】 (売主側)   2018 年 5 月        仲介手数料   19,350,000
X     【49】         2018 年 5 月        仲介手数料   32,070,000
      【50】 (買主側)   2018 年 5 月        仲介手数料    2,842,371
Y
      【51】 (売主側)   2018 年 5 月        仲介手数料    2,842,371
      【52】 (買主側)   2018 年 5 月        仲介手数料    3,274,248
Z
      【53】 (売主側)   2018 年 5 月        仲介手数料    3,274,248
AA    【54】         2018 年 6 月        仲介手数料   29,460,000
      【55】 (買主側)   2018 年 6 月        仲介手数料    2,160,000
S-②
      【56】 (売主側)   2018 年 6 月        仲介手数料    2,160,000
AB    【57】         2018 年 7 月        仲介手数料   49,320,000
AC    【58】         2018 年 9 月        仲介手数料   37,860,000
*同一物件で複数の取引を行っているものについては①②の枝番で表示してい
る。




                                36